ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus 作:虚無の魔術師
『ミカエル様、ヴィヴィアン家というものを知っていますか?』
騒動の数日前、会談が終わった後の事。騎士王セルク・レイカーが切り出してきた言葉に天使長ミカエルは考え込みながらも、すぐに答えた。
『えぇ、知っています。アーサー王の末裔であり、英国の名家 ペンドラゴン家の影武者である一族でしたね。何やらヴィヴィアン家は戦闘が得意な血統とも聞いていますが………』
『その事実は間違いありません』
しかし、それだけの事では終わらない。切り出したからには、語ろうとする事実があるのだ。
『しかしおかしいと思いませんか?何故ヴィヴィアン家というものがペンドラゴン家の影武者という噂を流れているでしょう?影武者という噂よりもヴィヴィアン家が本物のアーサー王の末裔と言われた方が、影武者としては好都合な筈なのに』
おかしいという点は彼が提示している。
ペンドラゴン家が本物のアーサー王の血統ならば、そうだという噂を広げるだろうか? そもそも、ペンドラゴンとそのまま名乗って良いのか?そうすることで悪魔や教会に命を狙われる可能性があるというのに。
ならば、考えられる選択肢は一つ。真実は、その逆ということ。
『ヴィヴィアン家こそが本物のアーサー王の末裔。ペンドラゴン家は影武者のアーサー王の血筋で、本物のアーサー王の血筋を絶たないように護るのが目的でした』
『………でした、とは。含みのある言い方ですね』
『有り得ない事が起こったのですよ。いえ、有り得ないのはヴィヴィアン家からしたらの話ですが』
『ヴィヴィアン家の先代当主の姉がペンドラゴン家の人間と結ばれたんです。そこから、ヴィヴィアン家のアーサー王の血筋が途絶え────影武者であるペンドラゴン家が本物の血統となってしまった』
血が、本当のアーサー王のものであった血筋は、ペンドラゴン家のものとなってしまった。後にヴィヴィアン家が
あまりにもアッサリとした何百年もの血族の終わり。どんなものも始まりと続くのは長いが、終末は簡単に訪れる。
『それからヴィヴィアン家は没落、アーサー王の血統を有していない現当主のハイヒルドはある事を企んでると聞きました。まあ、噂の範疇にしかありませんが』
『ある事、とは?』
『─────本物のアーサー王の復活を』
そして、現在に至る。
大通りでただ立ち尽くすしかないラインハルト。彼は目の前の男に、顔を歪めながら睨みを効かせた。
「父、さん………!」
「愚息よ、今ばかりは会いたかったぞ」
相対するのはラインハルトの実の父親、ハイヒルド・ヴィヴィアン。本来二度と会わないと決めていた筈の人物が、今この場にいる。
それには間違いなく理由がある。気付けないほど、ラインハルトは鈍くはない。
「ラインハルト、ヴィヴィアン家に戻れ」
「………っ」
「私にはアーサー王の血は流れていない、それはお前も同じだと判断していた。だが堕天使コカビエルの件を聞き、お前には血が続いているとも理解した」
予想通りの答えに歯噛みするラインハルトを前に、父親は言葉を続ける。彼が、ハイヒルドが語る言葉はラインハルトからしても想像の範疇を越えていた。
「そして、お前を心から誉めたいと思うよ」
送られたのは、比喩抜きの賞賛の言葉。流石のラインハルトも絶句して、目の前の肉親の正気を疑っていた。彼にとって父親は冷徹であり冷酷である人物、今までラインハルトを気にかけたことすらなかったのに。
「お前が持っているものこそが、アーサー王の本物の聖剣!ペンドラゴン家の末裔、真なる王の血を宿す者すら持たん、正真正銘王の物だ!!」
本物の聖剣────エクスカリバー。
教会が湖の乙女達から(強引に)受け取り、七本へと分かれた偽物とは違い、星が造り出した神力の如く兵器。
それを振るい、大戦を生き延びた堕天使を瀕死にまで追い詰めたのはあろうことか自分の息子。それを知った時は言葉を失うと同時に喜びで震え上がったとハイヒルドは嬉しそうに語っていた。
しかし、彼の喜びはラインハルト個人に向けられたものではない。自分達の家がエクスカリバーを手にする好機を得た、それだけだ。
やはりその男は、ラインハルトを何とも思っていなかった。その事実はどうやっても変わらないだろう。
「私が、私達がエクスカリバーを使えば!国をもう一度作り直す事が出来る!王の再臨を行えるのだ!!」
「王の、再臨?」
「そう!その為には─────器を生み出さねばならぬ。母体は既にある以上、ラインハルト、後はお前だけが必要なのだ」
───お前だけが必要。
その言葉に、ラインハルトの頭が白熱した。冷静に話を聞いていた意識を消し飛ばす程の怒りが沸き上がってくる。同時に彼の肉体に響いてくるものがあった。
痛み。全身を苛む痛みが、過去から与えられてきた痛みが、守れなかった直後に味わった痛みが────ラインハルトを襲ってきた。
「そんなの────認められるか!貴方は俺を、母さんを捨てたんだ!それなのに、必要になったから戻ってこいなんて道理など通じはしない!!」
「…………なるほどな」
ククク、とハイヒルドは肩を揺らす。その顔を見たラインハルトは思わず、ゾッと全身を震わせた。狂気染みた深い笑み、間違いなく何かを企んでいる証拠だった。
「ならば、お前が受け入れられる事をしてやろう」
外套をゆっくりと払い、腰元に手を伸ばす。確かに、何かを掴んだように見えた。
「見よ、愚息。これが何なのか分かるか?」
「────?」
引き抜かれ、その手に握られているのは、一本の剣だった。色の特徴を示すとすれば、赤。しかし普通の武器とは言えず、装飾剣に似た宝物。戦いに用いるものにはどうしても見えない。
だが、しかし。
エクスカリバーを所有するラインハルトはそれに対して尋常ではない違和感を抱いていた。何故だか分からない、だがそれは、聖剣を託された彼だからこその警戒だと言うのは言うまでもない。
その剣の正体は、ハイヒルドの口から明かされた。
「魔剣クラレント、反逆の騎士モードレッドの得物である剣だ。元々は聖剣であったが、既に魔剣である以上聖剣の意味はなさんがな」
「クラレント………?それは、教会が保持している筈だ!使用できない代物として封印してると!」
「忘れたか?エクスカリバーを奪われた時の話を。私の協力者である彼等から譲り受けたものだ…………よりによって王の反逆をした輩の剣を渡してくるとは」
忌々しい、と怒りを隠そうとしないでハイヒルドは顔を歪ませていた。ならば何故持っているのかという疑問が浮かんだが、すぐに解消された。
「そして、私はクラレントを思い通りに操れる。その力を周囲に解き放つ事も可能だ─────これだけ言えば理解できるか?」
視線が周りへと向けれる。ラインハルトも釣られるように見て、その意図に気づいた。
周囲にいる人々は少なくは無い、寧ろ沢山の人間が集まっている。大通りだからなのかもしれないが、子供連れの親や家族達が数を占めている。
だからこそ、ラインハルトは彼の言葉を思い出した。─────『周囲に』、それが何を意味しているのかを。
「街を、ここの人達を巻き込むつもりなのか!?」
「それもお前の選択次第だ。私としても不本意だ、あまり手を汚させてくれるな」
自分はそうしたくない、そう言うハイヒルドの顔は不適な笑みで染まっており、実行すら厭わないのを証明している。
奥歯が砕ける程に噛む力を強める。自分に対してではなく、周りの者達すら巻き込む姿勢に、ラインハルトは激しい怒りを込み上げさせる。
「この場の者達だけではない、街中全てが人質だ。下手な真似をすれば今すぐ薙ぎ払おうじゃないか」
「貴方は………貴方と言う人はッ!!」
「一時間あげよう、それまでにこの街の東にある廃墟のビルに来い。ここから逃げようとする、もしくは避難させようとした場合、多くの罪のない市民が死に絶えるだろうなぁ?」
「ッ!!!」
「期待通りの答えを楽しみにしているぞ、我が息子よ」
それだけ言うと、ハイヒルドはゆっくりと後退する。フードを再度被り、人の波の中へと溶け込んでいく。誰もが気付かない中、ラインハルトはただ立ち尽くしていた。
「……………クソ」
彼らしくは無い、苛立ち。短く吐き捨てるが、それでも気が済まないのか、苦悩が表情に浮き出ていた。達観と不安に駆られたラインハルトは、街の中をうろつき始めた。
力なく、人混みの中を彷徨う。
何処に行こう、という目的も無かった。どうせこの街からは抜け出せないのだ、そうしたら大勢の人が死ぬ事になってしまう。
(────家に戻らなきゃ、いけないのか)
次第に、楽しそうな喧騒から外れ、路地裏に辿り着いていた。そこでようやく、ラインハルトは壁に寄り掛かるように座り込む。
(当然だろ。この街の人々を救うためにはそれしかない…………オレに迷う理由なんてあるのか?誰かの為になるなら、そうするのが一番なのに────)
考え込んでる中、人混みから外れて此方に来る二人を見かけた。一般人ならば無視していたが、そうではなかったからこそ彼は大きく反応した。
「ゼノヴィア、イリナ。もう終わったのか?」
「あぁ!色々と買ってきたぞ!何なら見るか?」
「ちょっと待ってゼノヴィア!ラインはあまり興味ないかもしれないわ!というか私達の──なんて見せられても困る筈よ!」
………途中、何故かよく聞こえなかったが、ラインハルトからしたらどちらでも良かった。ただ彼女達が楽しそうな姿を見て、嬉しいと感じたのだ。だからこそ、ラインハルトは静かに笑った。
しかし、その顔は異質だった。喜怒哀楽では表現出来ないような、複雑な笑みを張り付けていたから。
「……………ライン、どうした?」
故に、ゼノヴィアはそれに気付いた。ラインハルトの顔を覗き込み、様子を窺っていた。
勿論、彼は今度こそ表面的な笑みを浮かべながら首を振る。ゼノヴィアの懸念を否定しようとした。
「いや、何でもないよ」
「嘘だな」
断言されて言葉に詰まる。顔を反らそうとすれば、両頬を押さえられて正面から見合う。何も話せない彼の前で、ゼノヴィアはすらすらと喋っていく。
「私はお前とコンビを組み、生活していた時期は長いだろ。お前の顔を見れば嘘をついてるなんて良く分かる」
「…………、」
「ほら黙ったろ、それが証拠だ…………因みに先生から教えてもらったやり方だ。こういう風に言って何も言わないければ図星だって。先生はやはり天才だと思うな」
それを言わなければ良かっただろうに、ゼノヴィアという少女は色んな意味で正直過ぎる。予想からして、教えて貰った事をそのまま口に出したのだろう、少しも変えることなく。
「ライン、私達に聞かせて────何かあったの?」
「…………それは」
「お願い。私達、仲間でしょ?貴方がそんな顔しているのは、とても悲しいから」
心配そうに見つめてくるイリナに、ラインハルトは顔を曇らせる。少しの間悩んでいた彼は重苦しい口を開き、先程の事を話し始めた。
「えぇ!?ラインのお父様がこの街に来てたの!?」
「そして……………ラインを取り戻そうとしてるのか、家とやらの為に」
驚いて硬直するイリナの横でゼノヴィアは難しいと考え込んでいた。それは無理もない、彼女達は詳しい事情を少しも知り得ないのだから。
「ライン。父親とは何があったんだ?話を聞いてても何らかの因縁があるようにしか思えない。そもそも、お前は本物のエクスカリバーをどうして手に出来たんだ?」
「………エクスカリバーについては明かせない。でも、それ以外の事なら話せるよ。あの人との関係も」
別にそれを知りたいと思うのは、悪いことではない。むしろそれは、欠点も無い善人ならば当然だろう。自分達から見ても優しく、素晴らしい人間が────一体何故そこまで他者を嫌うのかと。その理由を知りたいと思うのは誰でも同じなのだ。
そして、ラインハルトはポツリと漏らした。たった一言で、過去を体現できる言葉を。
「あの人はオレを、虐待してたんだ」
「………虐待?」
「………、」
顔色を変える二人の前で、ラインハルトは上着を脱ぐ。普通ならばいけない事だと咎められそうだが、この場合だけは許された。そんな事を気に出来るような状況ではなかったからだ。
「ヴィヴィアン家は、過去の栄光は失われた。奪われた、あの影武者の一族に、って。そんな風に八つ当たりされてきた。母さんも止めてくれたけど、逆に暴行されてた」
青いアザや多くの傷痕、筋肉のついた青年の身体の至る所に負傷の痕が残されていた。話の流れ的に戦い故についたものではないのは確かだ。
ゼノヴィアも言葉を失い、イリナは両手で口を抑えて悲痛の声を押し殺す。ただの虐待とは違う、これでは映画で語られる奴隷の扱いに変わりない。
「そして母さんとオレは逃げ出したんだ。もうこれ以上、あの人の元で生きられる自信が無かったから。でも父さんはそれに怒って、母さんと俺を後ろから銃で撃ち抜いた」
今でもあれを忘れられないと語る。真後ろから放たれた何発もの銃声。自らの身体を吹き飛ばす灼熱の痛みを。
「オレは、助かった」
青年の顔は全く優れなかった。その事実自体を心から悔いるように、彼は悲しそうな目で自分の傷痕に触れる。
「何発も身体に受けた母さんが………オレを運んでくれた。そのせいでオレを助けた後に、力尽きてしまった。その後、オレはエクスカリバーを手にして教会に渡ってきた。この過去を知るのは先生ぐらい………追加で二人もだけどさ」
自嘲気味に告げるラインハルトは、それだけ言って口を閉ざした。普段から優しい彼に似合わないくらいの暗さだった。それも、彼の心の闇の一つなのだろう。
「それで?ラインはどうしたいんだ?」
「…………、」
「まさか本当にその人の元に戻るつもりじゃないでしょ?それじゃあラインのお母様の努力も無駄になっちゃうわ!折角逃げさせてくれたのに!」
二人のそれはきっと激励だろう。優しく語りかけるようで、自身の覚悟を決めさせるもの。ゼノヴィアとイリナの言わんとしてる事を、ラインハルトは既に理解していた。
「オレは─────」
原作とこの作品の違い。
・ヴィヴィアン家とペンドラゴン家
作中でも語られた通り、最初はヴィヴィアン家がアーサー王の真の末裔で、ペンドラゴン家は影武者の一族でしたが、ペンドラゴン家の方にアーサー王の血が継がれてしまい、現当主ハイヒルドには継がれない事でヴィヴィアン家は没落してしまいました。
そのハイヒルドの目的は、奇跡的にアーサー王の血を継いでいたラインハルトを連れ帰る事です。
皆さんにも分かる通り、ハイヒルドはクソ野郎筆頭です。自分のせいなのに妻と子供に虐待して、逃げた二人を殺そうとまでしたので。その癖にラインハルトが生きていたのを知ったら、笑顔で戻ってこい(来なかったら一般人を巻き込む)って言うんですから。