ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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選定の果てに

────記憶を見た

 

 

 

 

何処か広大な空間で、大きな戦いがあった。ただの戦争というには、あまりにも異質過ぎる戦い。

 

 

 

 

 

 

その光景を、第三者の視点で見ていたラインハルトは不思議と疑問を抱くことがなかった。何故、自分はここにいるのか?シルマという男との戦いはどうなったのか?そんな風な思考は、自分の身に起きた不自然な出来事にかき消された。

 

 

 

 

突如横から複数の天使の女性が突貫していく。慌てて避けようとしたラインハルトは女性とぶつかりそうに────ならなかった。

 

 

 

触れた筈の自分の肩が、スルリとすり抜けたのだ。

 

 

 

─────え?

 

呆然と立ち止まるラインハルトの前で、更に戦況は変わっていく。そして直に、見知っている面々が見えてきた。

 

 

 

 

 

あそこにいるのは───────アザゼル様に、ミカエル様、そして誰か分からない人達に……………三体の龍?

 

 

 

赤い龍と白い龍、もう一体が黒い───他よりも体格がある。良く分からなかったが、それが神滅具に宿っている天龍達ではないかと、思えてしまう。

 

 

他にも、それらだけではない。隻眼の老人や骸骨と思われる存在。沢山の存在が、自らの配下と思われる者達を率いて戦っていた。

 

 

 

 

しかし、彼等は互いに殺し合っていたのではない。むしろその逆、手を取り合って戦っていたのだ。たった一体の、相手と。

 

 

 

 

 

それらよりも─────巨大で、強大な影があった。それをよく見ようとしたラインハルトは、ゴクリと息を呑んだ。

 

 

 

 

十対の天空に伸びた翼、放たれる魔力や光を握り潰す六本の腕、大量に迫ってくる雑兵を薙ぎ払う強靭な尻尾。

 

 

そして、特徴的なのが───十一の瞳を有したその顔。鋭い歯を剥き出しにし、喉の奥から青白い閃光を放つその異形を見て、ラインハルトは唯一当てはまる存在を思い出した。

 

 

 

(────龍?)

 

大きさは相対する者達と比較にならない。むしろその龍は世界そのものと思えてしまうほど巨大で、凶悪なオーラを有していた。

 

 

けれど、その龍は押し負けていた。相手にとって勝っている物量は、龍の体力を少しずつ削り────三体の龍と白く輝いている神の一撃に、胴体を穿たれた。

 

 

大量の血を口から吐いた龍は、地へと堕ちた。起き上がろうとしてる間、

 

 

 

『…………このままで、済むと思うなよ…………聖書の神!天使!悪魔!堕天使!神々!────そして、この我を裏切った子ら(ドライグ・アルビオン・ヴェルグ)よ!!』

 

 

死に瀕している重傷を負っている龍は、轟くような低音を響かせる。それだけで世界そのものが振動し、聞くものを威圧感により服従させる程だった。

 

 

 

天空に向けて、龍は憎しみに近い色の籠った言葉を紡いでいく。一声一声が重たく、恐ろしいほどの激情があった。

 

 

 

『我が滅ぼうと………我が意識は、存在は消えぬ。我を産み出したのは世界、この宇宙そのものだ!貴様らには我を殺せん!故に封じるしかあるまい、我が四肢を八つ裂きにして、魂も厳重に封じねばな────だが!』

 

 

 

いや、それはきっと呪詛なのかもしれない。終わりを悟った一体の龍による、最後に刻み込む呪い。相手である彼等か、今存在している世界へ向けたものかは定かではない。

 

 

 

『我は復活する!例え、百年でも、千年でも、何億年でも!!この世界から怨嗟と憎悪、死と呪いが消えぬ限り…………我は不滅!貴様らの生きる世界と星が、我を生かし続ける!貴様ら全ての生命を喰らい、駆逐するまで!!この星に生きる生命が、我という存在を知る以上、我は世界に在り続けるのだ!!覚えておくがいいぞ、低能ども!クク、クカカ!カーッはっはッハッハッハッハッ──────────』

 

 

 

最後に龍はそう言い遺した。

数秒後に、無数の光と魔力の暴力に晒されたからだ。それが決定的な引き金だったのかもしれない。徹底的な攻撃を受けた龍の、明らかな敗北がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

───視界が、反転する。

激しい閃光に包まれていた世界から一転、ラインハルトの見ていたものは光無き暗闇へと化した。

 

 

そして、そこで彼は見つけた。

 

 

 

無数の鎖と杭で完全に拘束された───先程見た龍。力なく動かないその存在を。

 

 

ただ見つめているだけのラインハルトの前で、ふと龍は此方を見据えた。一瞬驚いたが、彼は考え直す。この光景に自分は干渉できない、これは夢に近いものだから、触れることも話すことも出来な─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………自己紹介が必要か?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ゾクリ、とラインハルトの背が震えた。そこでようやく確信した。

 

 

この龍は、ラインハルトの存在に気付いている。その証拠にあんな風な言葉を語りかけている。けれど、あの言葉の意味が真実なら、あの龍はラインハルトの結末を知っているのではないか?

 

 

 

龍らしきモノは

 

 

『む?我を知らぬか、どうやら神々も我の存在の抹消に成功したらしい。しかし、全滅した筈の我が子の反応が複数残っているな。二つに分けられた我が魂の一つが浮世へと這い出ていることに関係しているのかもしれん』

 

 

 

 

───誰だ、貴方は

 

 

言葉に詰まりながら、それだけを問い掛けるラインハルト。自らの体の自由を縛られた龍はふん、と大きく鼻を鳴らす。

 

 

しかし不愉快などといった感情は見られず、むしろそれを待っていたと言わんばかりの様子だった。最強の種、龍としての威圧も損なわぬ形で、その龍は口を開いた。

 

 

 

『───アポカリプス・ゼロ、終末の龍。世界から抹消された我が名、二千年の歴史を生きる種の中でこれを知ることが出来るのは貴様だけだろうよ、ヒトよ』

 

 

そして、ラインハルトの意識は光に包まれた─────これが終わりだと、これからやるべきことがあるという意味を揶揄するように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原。

夕暮れ時とは言えない、日の光に照らされた草原。やはりいつの間にか、ラインハルトはそこに立たされていた。

 

 

しかし、困惑する事なく彼は周囲を見渡す。この光景は知っている、見間違いではなかった。この景色は、自分がエクスカリバーを授けられた、あの人同じだ。

 

 

 

そして、彼の目の前に、一本の剣があった。草原の中心にある岩に突き刺さった───いや、岩というより石座というものかもしれない。そこにある剣は──────

 

 

 

 

 

……………エクスカリバー?

 

一瞬だけ、そう思ったがラインハルトは即座に否定した。数年以上も共にあったのだから、少しの違いでも分かる。これは、自分が振るっていた物とは違う、特別なものであると。

 

 

無意識に、装飾に施された柄に手が伸びる。その指先が触れ、手の内に収めようとしたその時。

 

 

 

『それを手にしたら最後、君は人間ではなくなるよ』

 

突然、後ろから声を掛けられた。振り返って見ると、いつの間にか誰かが立っていたのだ。

 

白いローブに身を纏った男性。顔はフードと前髪、それと日の光によって遮られてしまっている。その男性を見てラインハルトは、半分が人間ではない事に気付く。

 

 

 

雰囲気からして………魔術師、なのだろうか? と首を傾げている青年の前で、男性は優しく語りかけていく。

 

 

 

『アルトリアのように不死身になるんじゃない、エクスカリバーを返せば終われるんじゃない。正真正銘、人間には戻れなくなるんだ。星の遺物、それをその身に内包するということは、君自身が星の光帯として戦わなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

それは、君を、君の有するもの全てを光へと変換させていく。残酷な事を言ってしまうと─────────いずれ、君は消えるよ。その使命を果たすと同時に、君という存在は消失する。きっとそれは死ぬよりも悲惨で、救いがない』

 

 

 

そんな声とは裏腹に、真実はあまりにも重くて残酷だった。分かりやすい話、この剣を取ればラインハルトは邪龍を名乗るあの男に勝てるだろう。

 

 

しかし、その代償はいずれ来る死で払わされる。それもただの死ではない、絶対に避けられない確実な死。人間として、希望も無い破滅を迎えるというのだ。

 

 

 

『手にする前に、考えた方が良いと思うよ?』

 

 

魔術師らしき人物の忠告に、ラインハルトは言われる通りに考えた。考えた上で、彼は笑みを溢した。ただ静かに笑顔を浮かべながら、彼は重苦しく言葉を紡いでいく。

 

 

 

 

『オレの知るこの世界は…………良いものではなかった』

 

 

 

産まれた頃から、彼の周囲は残酷だった。

 

 

父、ハイヒルドに虐待されて、何度も苦しみを味わった。身体が傷つけられる度に、心も同じようにボロボロへと磨耗していく感じがしていた。そんな時、母は優しく抱き締めてくれた。ごめんね、と謝る母の温もりが感じられて──────ラインハルトは、そんな母が大好きだった。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、大好きだった母親が目の前で死んだあの日、初めて世界を呪った。こんな世界、大嫌いだと思った。自分を苦しめて、自分を傷つけて、大切な人すら奪ったこの世界を、許せなかった。

 

 

 

他にも、少なくはない悲劇を目にしてきた。

 

 

 

 

けれど────

 

 

 

 

 

『けど、そんな残酷な世界で─────幸せは、希望はあるんだ。どれだけ微かなものだろうと、手を伸ばせば届く。それは確かなんだ』

『…………誰しも、そうだとは限らないよ?』

『なら、オレが手を伸ばす。彼等が掴める所まで、手を伸ばし続ける。きっと掴む、掴み取ってくれると信じてる───』

 

 

 

そんな風に、世界を嫌っていた少年はあるものを見た。どうしようもない程、ありきたりな小さな平和。そこに存在する────────ちっぽけな、それでも確かに心に残った笑顔の数々。

 

 

 

 

 

熱い心を有した悪魔の少年がいた、元シスターであった慈悲深い少女がいた、魔剣を使う少年がいた、力の強い少女がいた、雷を使う女性がいた、そんな彼等を家族として見る女性がいた。悪魔を嫌いながらも、実際に心優しい、素直ではない青年もいた。

 

 

 

 

 

そして─────二人の少女がいた。信仰深く、神を信じており………………ただ世界を恨み続けていた自分(ラインハルト)に、優しい光を見せてくれた大好きな少女達が。

 

 

そんな彼女達に、ラインハルトは救済さ(救わ)れたのだ。この世界を、頑張って生きてみようと思えたのだ。

 

 

 

 

他にも、この世界には沢山の人々がいる。自分が知らないような悲劇を味わい苦しむ人もいれば、自分と同じように、それ以上の憎しみを抱く人もいるだろう。

 

 

 

ならば、今度は自分の番だ。そんな人達を、絶望から助けて出して見せる。かつて自分がそのように救われたように─────

 

 

 

『だって、世界はこんなにも広いんだから────!』

 

 

そして──────石座から剣を引き抜いた。あまりにも軽々しく簡単に取れたと思えるが、その剣は確かな重さがあった。

 

 

もう、後戻りは出来ない。これから自分が惨劇に近い生き方をするだろう。掌に染み込む感覚にラインハルトはそう確信した。けれど、後悔するつもりは微塵もない。

 

 

 

 

 

『────やっぱり、君はアルトリアの末裔だ』

 

 

選定の剣、彼個人の生き方を選定するであろう剣を手にした青年に、魔術師は複雑な笑顔を浮かべた。

 

 

その選択に喜ぶ一方、彼の決意を前に酷く寂しそうに。

 

 

『ラインハルト・ヴィヴィアン。我らが王 アルトリア・ペンドラゴンの血筋を受け継ぎし者よ。一人の魔術師として………いや、一人の王を導いた花の魔術師として、君の選択を心から讃えよう』

 

 

けれど、魔術師が口にしたのは賞賛だった。一人の青年が、世界の滅びを止めるために立ち上がった。例えそれで、自分が死ぬと分かっていても─────。

 

 

 

 

魔術師の賞賛は、残酷だったのだろう。けれど、それを止めようとは思っていなかった。きっとそれが、彼の選択が──────

 

 

 

『そして願おう!どうか君という一人の人間が、世界を救える事を!「幸せな結末(ハッピーエンド)」を迎えられるように!!』

 

 

─────彼自身、後悔していないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

そして、世界の何処にも無い場所で、何者かは何処かを見つめた。

 

『…………どうやら使命を果たすのだな、ヒトの子よ。幾千年の時も叶わなかったであろう創意なる願いを。ならば精々足掻くといい、この世界を救済するために』

 

 

 

だが、と付け足した。やはり何処か、不満そうに。

 

 

 

『その代償が、絶対に避けられぬ因果の死か。世界の希望とは聞こえはいいが、正しくは生贄。面白くはないな』

 

 

その感傷は、自分を知る事の出来る人間の事だからか。少しだけ出会ったとは言え、自分の存在を覚えていられる人間だったからなのか、と。孤独な龍は、そう自嘲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で。

 

既にシルマは、ラインハルトに意識すら向けていなかった。殺した以上最早どうでも良いと考えているのか、あまりにもあっさりとしている。

 

 

しかし、彼が意識を向けないのも当然。目的であるものに集中していたのだから。人間と見下していたのも理由でもあるが。

 

 

 

「…………これがエクスカリバー、我等を滅ぼす可能性を持つ聖剣か」

 

 

決して手で取ろうとはせず、背中からの触手でエクスカリバーをつまみとる。決してその手では触ろうとはしない。触れただけでもダメージを受ける可能性があったからだ。

 

 

「エクスカリバー、忌まわしきこの剣もこれで終わりだ。教会の連中が有する偽物のようにはいかん、二度と人の手に渡らぬように粉々に粉砕してくれる」

 

それが当初の目的でもあった。シルマはエクスカリバーが自分達の前に現れないように、完全破壊及び使い手の殺害を狙いとして動いていた。

 

 

しかし使い手は既に殺した。近くに転がってる死体を見るまでも無い事実だ。だからこそ、あとはエクスカリバーを破壊するだけだった。

 

 

 

そうしようとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

ピシッ、とエクスカリバーにヒビが入った。思わず身構えるシルマは、聖剣が色褪せてくのが見える。その変化を前に思った直後、

 

 

 

 

─────エクスカリバーは灰となった。形無く崩れ、粉のように散ったかと思えば、純白の粒子を周囲に分散させた。

 

 

目の前で消えたエクスカリバーにシルマは、困惑していた。

 

 

(………壊れたのか?)

 

シルマはエクスカリバーを壊そうとしていた。その直前に、聖剣は自ら崩れ落ちた。その状況に戸惑いながらも、ある種の理論を案ずる。

 

 

 

────使い手がいなくなった事で、エクスカリバーも自壊したのだ

 

 

確かにそれは、今現在では一番まともな答えだった。しかし、シルマは思い知る。思い、知らされる。

 

 

 

 

自分がどれだけ、慢心していたのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

違和感に気付いたのは、すぐだった。

 

 

「…………?」

 

周囲に漂う光の粒子。エクスカリバーが砕けた時に生じたものがまだ残っていた。それどころか、確かに動き出しているではないか。

 

 

 

ならば─────一体何処に?

 

 

 

 

「──────ッ」

 

刹那、シルマの全身に怖気が走る。邪龍として改造されてから身に付いた本能が、『それ』に気付いた彼を恐れさせた。同時に、自分が抱いていた感情をシルマは信じられなかった。

 

 

 

(邪龍という、最強の存在へと化した私が─────恐怖、している?)

 

 

「馬鹿、な────」

 

 

歯を震わせながら、シルマは別の場所に視線を動かす。そこには、青年がいた。しかし先程とは姿勢が変わっている。地面に転がって倒れていた筈の青年は、跪くようにして起き上がっているではないか。

 

 

そして、光の粒子の全てがラインハルトへと収束していく。身体の奥へと溶け込んでいき、融合しているようだった。両目に収めていく度に、シルマの体の震えが少しずつ増えていくのを感じていた。

 

 

 

(傷が、再生している?胸を貫いた傷が…………馬鹿な、これは一体─────)

 

 

 

 

顔を振り上げたラインハルトと、視線が交差した。それを見た途端──────

 

 

 

 

思考が、疑問と困惑に駆られていた思考が消えた。たった一瞬で、彼が味わった本格的な恐怖によって断絶されたのだ。

 

 

 

 

背中の触手が、鉤爪が音もなく解き放たれる。

音速の一撃、油断無く相手を葬り去る事だけを専念した一撃。シルマは目の前の敵の安否など気にせず、絶対に殺せるであろう必殺だった。飛来する音速の爪をどうにか出来る筈がない、そもそも邪龍の攻撃が防げる訳がなかった。

 

 

 

それでも、確かに。

 

 

 

音速の爪は一瞬で切り伏せられた。光速と言わんばかりの一太刀で。目を奪われるような光の斬撃によって。

 

 

肉を削り取り、噛み千切ろうとしていた触手は、真っ二つへと斬り捨てられたのだ。そのまま落下した触手が灰のように黒ずんで消えたと思えば、シルマは激痛に絶叫をあげた。

 

 

 

「ぐ、ああああああああァァァァァアアアアアアアアアアアアアっ!?」

 

絶叫して呻くシルマだが、腕の斬られた痛みに悶えているのではない。彼は何度も再生する力を有する以上、斬られた程度で()をあげる筈がない。

 

 

その理由は傷口にあった。

斬られた触手の断面からは白い煙が噴き出しており、焼かれたようになっていた。光の斬撃は、あっさりとシルマの強固な肉体を切り払ったのだ。

 

 

激しい痛みを伴いながらも、シルマは身体に力を入れると同時に、背中から触手へと膨らんでいくが─────傷口は再生するどころか、逆に触手自体を崩壊させていた。

 

 

その事実にシルマは言葉を失い、大きく目を見張る。

 

(我が因子が無効化された………!斬られた部位が再生出来ん!?)

 

チッ! と舌打ちをしながら、自らの触手を肉体から分離する。地面へと落ちる前に、触手は消し炭と化した。もし分離してなかったら、あの光に分解されていた事だろう。

 

 

 

「……………馬鹿な」

 

シルマは目を疑う。呆然として、先程のような言葉を発することしか出来ずにいた。

 

 

ラインハルト。殺した筈の青年が立ち上がり、聖剣らしきものを振るっていたのだ。光に包まれた中で、彼は確かに立っていた。

 

 

その姿にシルマの感情が弾ける。───有り得ない現実に、余裕というものが消し飛ばされた。

 

 

 

「心臓は潰した!<聖剣《エクスカリバー》は今その手に無い!なのに、なんだ!貴様の、私達が怖れていた力は!エクスカリバーによるものの筈だ!!それを失った以上、況してや死んだ貴様には何も残されていない!!」

 

 

しかし、なんだ?

 

 

 

 

何もないなら、何故あの男は立っている?

 

 

 

 

何もないなら、何故心臓を潰されたのに生きている?

 

 

 

 

 

 

 

─────ならば一体───────

 

 

 

 

「……………そうか、聖剣と融合したのだなッ!」

 

シルマはそう決めつけた。強ち間違っていない、むしろそれこそが正解だった。分かった所で、どうにかなる話ではないのだが。

 

 

 

「自らを神造兵器へと化して、エクスカリバー以上の力を発揮しているのか。我が因子すらも打ち消す程の光を、放出している。貴様は、そこまでの力を有して────」

「……………何人だ」

 

 

興奮しきった声を遮り、ラインハルトはそう聞いた。自らに対しての行いにシルマは機嫌を悪くしたようにシルマを睨み付ける。しかし淀むような敵意を向けられてもなお、ラインハルトは動じることはない。

 

 

シルマという怪物を見据え、問い質す事しかしない。

 

 

「お前たちは、どれくらいの命を踏みにじった?人、悪魔や堕天使、天使、その他の命を────どれだけ殺してきた?」

「…………語る必要があるとでも?」

「少なくとも、その義務はある筈だ。理不尽に命を屠った者としてなら」

 

 

ただ輝き、その光を失わない剣を振るうラインハルト。彼はただシルマへとそう言葉を放つだけだった。殺そうという構えは全く見えない。

 

 

ただそれを知りたいと言うように、彼は語りかけていたのだ。

 

 

 

「…………不愉快だ」

 

相対していた男から、ドロドロとした感情が大きく沸き出す。生理的な嫌悪とは違う、本能的な憎悪。

 

 

シルマという男は、目の前にいる聖剣と融合した青年に激しい憎悪を抱いている。

 

 

正しくは、彼の中に埋め込まれた因子。邪龍と呼ばれるモノの一部が。

 

 

「あぁ、不愉快、実に不愉快だとも!聖剣の担い手!私は聖剣を破壊し、ついでに貴様を殺せば良いと思っていた。だが間違いだった!

 

 

 

 

貴様こそ、優先的に殺すべきだった!貴様は我等の祈りの為に、存在してはいけなかった!!」

 

 

同時にシルマは理解していた。

目の前の青年は、今のままでは勝てない。だからこそ、(シルマ)は覚悟を決めた。

 

 

自分がどうなろうと、この青年だけは確実に殺すと。自分達の祈りを叶えるために、怪物になることを選んだ。

 

 

 

そんな(シルマ)は知らない。先刻、ラインハルトという青年も似たような選択をした事に。自分の命を犠牲にしてでも、誰かを守るために。

 

 

しかし知ったところでどうにもならないだろう。シルマは邪龍、そのような存在が人の事を気にする筈が無いのだから。

 

 

「故に、確実に貴様を殺し尽くす!何度も生き返ろうが関係ない!貴様という人間が、絶対に死ぬまで殺してやろう!!そう、例えそれで────()()()()()()()()()()()()()

 

 

ボゴリ、と。

シルマの体に大きな変化が起きた。彼の両腕が大きく脈打ったと思えば、数メートルもある巨大な怪物のような腕へと変わる。

 

 

顔半分を覆っていた眼帯が悲鳴をあげるように弾ける。内側からの圧力に耐えきれなかったらしい。引き裂けた布切れの隙間から──────()()()()が覗く。

 

 

片方の瞳を複数有する、シルマの異形としての姿。続けて背中から伸びた筋肉質な腕の存在もあり、その姿は先程よりも確かに─────龍へと近づいていた。

 

 

 

『黒触』。

その二つ名の意味は、『黒く(むしば)む』。

細胞を制御するという権能は、使い方によれば他人を変質させる事が可能である。しかし同時に細胞変質はシルマ自身を精神を黒く蝕んでいくという弊害もある。

 

 

 

肉体と共に精神も、人間以外へと変わってしまった怪物が、執念だけの形となって青年に牙を剥く。

 

 

「貴様という忌々しい光を消す!それが───シルマの、使命だ!!我等が祈りを果たす為に、今ここで死ね!─────ラインハルトォ!!」

 

 

 

そして、呼ばれた青年は光輝の剣を構え直す。実体であれば人を殺せるような程、鋭い殺気を前に、一言。

 

 

 

 

「────来い」

 

 

 

青年(英雄)邪龍(悪竜)が、ぶつかり合う。




今回、ラインハルトの覚醒回になりました。


覚醒方法はエクスカリバーとの本格的な融合。自らを神造兵器の一つとしてする事で生き返っただけではなく、シルマを倒す為の力を得ました。

しかし、先程話した事の間違いを訂正します。生き返ったと言いましたが、正しくは「使命を果たすまでの一時的な不老不死」、その結果ラインハルトは使命を果たすまで死ぬことが許されません。FGOをプレイして尚、キャメロットクリアしたならある程度想像は出来ると思います。



そして、ラインハルトを救ったのが、何気無い平和とちっぽけな幸せだった。幸運か不運か、ラインハルトはそのお陰で決断できたのです。自分自身を、後の平和の生け贄に捧げることを。




……………流石に暗すぎるよなぁ。
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