ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus 作:虚無の魔術師
シルマ、天野夕麻の消滅を見届けたラインハルトはこの場から立ち去ろうと動いていた。まずやるべきことが残っている。
ゼノヴィアとイリナ、そして地下でシルマの産み出した怪物を倒したであろうデュリオとグリゼルダとの合流。伝えておくべきことが多い以上、早く話をしなければならないと考えていたが、
「やはり強いな、こうして近くで見れて良かったと思うよ」
「ッ!誰だ!!」
思わず光の剣を振り抜き、向けると───一人の男がそこに立っていた。
制服の上に漢服を着込んでいるが、完全に身に纏ってるとは言えず、腰まで制服を露出させている。そんな普通では見られない特徴以外にも、男が持っている槍にラインハルトは激しい警戒を抱いていた。
相当長い槍。しかし、その内側に内包されたオーラは凄まじかった。神そのものと評価してもおかしくない程の力、それが十三種の
「貴方は────」
「俺は曹操。英雄派という組織のリーダーをしているんだ」
曹操と名乗った男は、気さくそうにラインハルトにそう告げてきた。対称的に、ラインハルトは敵意と共に光の剣を握る力を強める。
今すぐにも対応できるように身構えるラインハルト。彼を前に、曹操は笑顔と共に続けた。
「ラインハルト、俺と一緒に人間の限界に挑戦にしないか?」
「………人間の、限界?」
「言葉通りの意味さ。俺達は祖先を越える偉大な英雄になる為に────人外に挑戦する。俺達『人間』が、どこまでいけるか証明してみせる」
───だからこそ、俺達と来ないか?
曹操はそのように勧誘をしてきた。ラインハルトの実力を心から評価してるのか、怪物達を倒して限界を示して見せようと。
人間の可能性を証明する。決して悪い言葉ではなかった。確かに、それを証明することが出来れば何かが変えられるかもしれない。この世界でも、人間の価値を示せる。
「悪いけど、その話は断るよ」
けれどラインハルトはキッパリと告げた。柔らかな物言いだが、込められた言葉は強く、明らかに芯がある。
「その理由は?」
「逆に聞くけど、貴方達は何故人外と戦う?何か守りたい者があるのか?」
「いや……………何故?」
「────それが理由だよ」
眼を細めて言うラインハルトの言葉に曹操は沈黙する。黙ってその内容を聞くことにしたのだろう。
「オレのこの力は、誰かを守るために与えられた力だ。人外を倒して、勝ち誇る為のものじゃない。人間も悪魔も堕天使も天使も、他の種族も────皆の幸せを守るものなんだ」
「人外も?」
そう聞き返す彼の声には、軽く弾み出した。子供の語る信じられない事を聞いた大人のように、小馬鹿にするように話し出していく。
「有り得ないだろう。化け物は化け物、互いが手を取り合えるなんて夢物語だ。そんな怪物を殺す者こそが英雄なんだ。そして、俺は先祖にも負けないような英雄になる」
「………そう思ってる時点で、貴方の目指す英雄は英雄じゃない。ただの殺戮者だ─────オレからしたら、よっぽど恐ろしいよ。話し合えるのに、自分と違うという理由で殺して、それを誇らしげに掲げるやり方を」
「────随分と言ってくれるな」
ふと常に浮かべていた笑みを消し、真顔になる曹操。彼にとって英雄はそこまで地雷とも言えるものだろう。簡単に侮辱してはいけない。
しかし、ラインハルトは一々遠慮などはしない。彼の考え方への不満を、ぶつけるに過ぎないのだから。
「残念だ。君なら俺の誘いに答えてくれると思ったんだが」
「…………貴方が人を救うためにと言うなら考えた。けれど、貴方は自分達の名声の為に戦うことを選んだ。オレを入れたかったなら、貴方は前者を選択すれば良かった」
「だが、君は断るだろ?考えはしたとしても」
「当然」
断言するラインハルトを前に、曹操は肩を竦めた。仕方ない、と言うように。
「残念だ。実を言うと、君は俺達の仲間の中でも人気があったんだ。ゲオルグやジャンヌからも、君を誘って欲しいと言われたが…………断られてしまえば仕方ない」
そして、彼は告げる。
「ならば、次出会う時─────お前は俺の敵だ。ラインハルト」
「──────あぁ」
互いに覇気を向け合っていたが、曹操はニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。直後、突然出現した霧が彼を包み込むと──晴れた時にはその姿が消失していた。何らかの神器の効果、そう判断したがラインハルトは深く気にしなかった。どうせ追跡など出来る筈がない、そう対策はされている事だ。
すぐさま屋上から降りて、少女達との合流をすることにした。戦いが終わっても、自分にはやることがまだある。
「─────以上が、奴が話した事の全てです。一切の嘘、偽りはありません」
合流したゼノヴィアやイリナ、グリゼルダ達にラインハルトは自分が知っている事を説明した。
『聖書新生式』、邪龍、神の復活などの多くの情報を。
「『聖書の神』の復活…………どうやら奴等のやることは規格外みたいですね、姐さん」
「えぇ、どうやら奴等、相当恐れ知らずのようで」
天界最高峰である二人を中心に、教会戦士やエクソシスト達も激しく困惑している。神を復活させ、傀儡にする事に激昂する者もいれば、邪龍という存在に青ざめる者も多い。
それはゼノヴィアやイリナも同じだったようだ。ただでさえ、敬虔な信徒であった彼女達にとっても神を復活させる方法があるとは信じられないのだろう。
何より、神を復活させて傀儡にして世界を動かそうとする─────『新条』という存在の考えが、理解できないのだろう。それに関してはラインハルトも同じだ。
しかし、ラインハルトは他の事について考えていた。それは今しがたの状況においてあまり関係ないこと。だが、彼は確かめなければならないとも考えていたのだ。
そして、この場にいる全員に聞いてみることにした。
「皆さん、アポカリプス・ゼロって知ってますか?」
アポカリプス・ゼロ。
謎の空間で封印されていた龍。三勢力や多くの神話、三体の龍との戦いで敗北した────天災のような禍々しい龍。アポカリプス、黙示録の名を冠する事から相当有名な龍だと、それを聞かされて当初は思っていた。
だが、その龍はおかしな事も口にしていた。『三千年の歴史の中で、我を知るヒトは初めて』だと。だからこそ、龍の告げた言葉が正しいか確かめようと考えていたのだ。
「あぽかりぷす、ぜろ?」
「………?」
ゼノヴィアは不思議そうにその単語を口にし、イリナは難しそうに首を傾げていた。その反応をするのは、彼女達だけではない。
「さぁ?何ですかそれは?」
「自分もそうだね。その………アポカリプス・ゼロ、だっけ?『聖書新生式』と関係があるの?」
シスター・グリゼルダ、デュリオ・ジェズアルド、同じようにこの場にいた者達が似たような反応をした。全員が全員、聞き覚えがあるといった様子ではない。明らかに、誰もが知らない様子だった。
ラインハルトは、「いえ………少し気になっただけです。重要な事じゃないので気にしないでください」と誤魔化して、すぐさま思考に浸る。
あの龍の存在を認知する人間は、ラインハルトしかいない。この状況が、それを真実だと示している。邪龍という存在を操る『聖書新生式』────あの龍との関係がないと言うには速決かもしれない。同じ龍であるならば、少しくらいは知ってても良い────────
「………待てよ」
そこで、ある事に気付いた。同じ龍に聞く、そのような考えが、ラインハルトにある事を気付かせた。
「いるじゃないか、あの戦いにいたかもしれない龍が」
二天龍、それを越える────真天龍。それら三体は、あの一体の龍を相手とした戦いに参加していたのかもしれない。もしそうだとすれば、彼等は何かを知ってるのではないか?
そう思ってる中、彼は会話を耳にした。どうやら上からの連絡がきたらしく、グリゼルダはその通信に応じる。
「はっ、ミカエル様。どうかなされましたか?────は?」
通信を聞いていたグリゼルダが、明らかに絶句する。ミカエル様からの連絡が来たのか? と思いながら、ラインハルト達は彼女の様子に怪訝そうにしていた。それはデュリオも同じなのか『………姐さん?』と顔をしかめている。
そして、彼等は知ることになった。御使い、シスター・グリゼルダすら言葉を失った事実。それを、他ならぬ彼女自身の口から。
「──────
一人の男が、廃屋の壁に佇んでいた。背中を預け、両眼を伏せて瞑想へと浸る男性。人間と言うには、ある特徴が大きく影響していた。
頭部に生えた耳、髪と同じく灰色。鋭く尖り、片方が欠けた猫耳をする男性。彼は廃屋内の空気が変わったのを確認すると、低い声を投げ掛けた。
「………戻ったか、『
入り口から入ってきたのは─────『聖書新生式』の二人、ジャックと少年だった。無愛想に入ってきたジャックとは相対的に、少年は不服そうに頬を膨らませる。
「その呼び名じゃ皆に分からなくないですかー?ボクは朱天です、
「だがこの名を広げりゃあ、『姫島』の名は堕ちるだろ。お前の言う姫島の宗主と老人達は慌てふためくだろうなぁ。国を護る一族から、『雷光』と『黒狗』に、そして邪龍が生まれ落ちた訳だからな」
「あ!その手があったか!ありがとうねー!お陰であのジジイ達への嫌がらせが思いついちゃったZE☆正義気取りの『姫島』を筆頭に五大宗家の名がドン底に堕ちるぞぉ♪」
少年────姫島朱天は恍惚した様子で歪んだ笑顔を浮かべる。カラカラと笑いながら、楽しそうに誰かを思い浮かべていた。当然、男性とジャックはどうでも良さそうに別の話題を話し合い始める。
「英雄派の邪魔が入ったと聞いたが、事実か?」
「あぁ。神の子を貫いた槍と結界系の霧、2種のロンギヌスは我等の手では厳しかった。…………その戦いに、天候を御するロンギヌスとラインハルトが介入していれば、考えるだけで恐ろしい話だ」
「───邪龍化を成してもか?」
「ラインハルトがいる以上、厳しいと思われる」
当初、ラインハルトを奇襲しようとしていた二人だったが、英雄派の襲来によってそれは妨害された。結果的に英雄派とは決着つかずで、しまいにはラインハルトによって
「それよりさぁー!グレイさんさー、冥界に行ってきたんでしょ?」
「そうだが?」
「
「………お前みたいにイカれた執着してねぇぞ、朱天」
「ヒヒヒッ!どうですかねー?」
ニタニタと笑う少年の詰問に、猫耳の男────グレイは腕を組み直す。精神を逆撫でするような言葉の雨に平然と対応してることから、相当の慣れがあるのだろう。大人である余裕の顕れかもしれない。
しかし、彼等は会話をピタリと止める。また、空気が変わった。今度は、先程までとは違う。重苦しいものが、禍々しく歪んで変質する。…………そのオーラそのものが、人を狂わせかねない程、混沌に相応しいものだった。
闇の向こう側を片目に、グレイは息を漏らした。その上で、言葉を紡ぎ出す。
「ここにいるとは予想外だな────『新条』様」
「【そうかね。私はただ媒体を介して話しているだけだ。拠点から動くのも面倒だからな】」
現れたのは────廃屋へと入ってきた女性悪魔だった。悪魔であるとこには、雰囲気やオーラで判断できた。見た目は十八歳ほどの少女だが、悪魔である為実際の年齢とは違うのだろう。
だが、その少女悪魔は普通ではない。『聖書新生式』の面々へと投げ掛けた声は、男性のものと女性ものが混じったような、複雑な声音の言葉だ。
何者かが、少女悪魔の身体を動かしているように、声を発していた。そんな風に見える光景だった。
「【気になるか、この小娘は悪魔だ】」
この場にいた全員の視線に、少女悪魔───『新条』と呼ばれた人物は答えた。それは全員が分かっているのだが、前置きとして言っておきたかったのかもしれない。
「【不遜にも私を眷族にしようと近づいたのでなぁ、あまり恨みはなかったが態度が不愉快だったので因子を与えてやった。所詮は悪魔、一瞬で意識が飛んだがね】」
「…………意外だ、貴方様が悪魔の肉体を使うなど」
「【使えるモノはキチンと使う。無駄遣いは好きではないのでな、せめて有効活用はするさ…………しかし、合わないな。最近まで男の身体を使っていたからか、この小娘の肉体に違和感を感じる】」
「あー、確かにスタイル良いですからねぇ!悪魔ってそういう風なのを好みません?ま、ボクはどっちでも良いですけど!」
「どうでも良いのに言うのか………」
「因みに俺はどちらでも良い。だが、子供の事を考えたらスタイルは良い方が悪くないとは思うがな」
「いや、何で急に言ってくるんですか………?どう答えろって言う?」
そんなものか、と突然のコントを前に『新条』は退屈そうに言う。案の定ふざける朱天と、何処か天然そうに言ってくるグレイに、ジャックはただ混乱するしかなかった。リーダー格である『新条』は、やはり興味がないのか助け船など出さない。
その代わりに、達観するような一言を述べる。この場の空気を一瞬で変える言葉を、残酷とも非情とも言える冷酷な言葉を。
「【シルマは失敗だった】」
あっさりと、死んだ仲間についてそう評価する。少女悪魔の瞳は無情で、喜怒哀楽といった単純な感情すら浮かんできてない。
本当に気にしてすらいないように。
「【保険の為に作った急増とは言え、聖剣の担い手には敵わなかったようだ。無理もないと言えばそれで終わるが、もう少し役立って欲しかった。やはり、無理矢理因子を増やし過ぎたのが原因か。一般人の感性など消えれば良かったものを】」
しかし、『新条』は先程の言葉を撤回するように、嬉しそうな言葉を口にしていく。
「【だが、感謝が必要だなシルマよ。お前が暴れてくれたお陰で天界の眼があの街へと固定された。それ故に、ヴァチカンへの侵入は容易かった】」
「というと…………」
「【あぁ。スカルとアーウィンは無事、ヴァチカンから例の遺物を回収した。天界の切り札《神の刃》と共にな】」
自分達だけにしか分からない単語を用いて、彼等は会話を続ける。きっとこの場に一般人がいたとして、状況が理解できずに困惑していることだろう。
最も、一般人がこの場にいたとして。一瞬で殺されることには変わりないのだが。
「しかし………これで我等の正体は知られた」
「【構わんさ、もう隠れる必要はない。我が計画は既にその段階まで進んでいるのだ】」
「────今回の目的物、遺物の確保ですか」
うむ、と少女悪魔は頷く。
「【あれの起動準備も必要だ。今は退くぞ、教会どもはともかく…………『神王派』に目を向けられるのも面倒だ】」
『新条』の言葉を聞いた彼等の行動は早かった。───ビュビュビュンッ!! と一瞬で姿を消し、何処かへと移動していく。
たった一人になった後、少女悪魔は廃屋の窓から外を見る。綺麗な瞳、その片方を大きく開いて、遥か遠くにいる青年の姿を捉えた。
「【ラインハルト、その名を覚えておこう】」
「【そして素直に認めよう、今回は貴様の勝ちだ。自らの手で勝ち得た勝利と束の間の平和、存分に噛み締めるといい】」
「【だが、いずれその平穏は一つ残らず奪うぞ?この我等、『聖書新生式』が。その時、私の計画が最終段階に至った。その時──────
聖書は、新生する。私はその時を待つとしよう。より多くの命を、喰らい尽くしてなぁ】」
哄笑が、悪意しかない笑い声が響き渡る。少女悪魔の喉から出てるとは思えない程に、その声は歪みきっていた。何処まで変質すればこうなるのだろうか、いやそもそも最初からこういう風な存在なのだろうか。
怪物達は、大人しくする事にした。けれども優しさがあってのことではない。次に起こす殺戮の宴、それを盛り上げる為に、彼等は手を退いたのだ。
果たして、それに気付く者はいるのだろうか
ひとまず、邪龍シルマによる騒動は終わった。それを討ち取ったラインハルト、彼は
そして、捕虜であるオズワルド・ヴィヴィアンの情報提供と助力によって孫娘 リリィ・ヴィヴィアンは酌量され、ラインハルトの元で過ごすことになった。
今回の件で、天界勢力は明らかな戦力強化を図れた。何より、ラインハルトの存在が強かったのは確かだ。
しかし、失ったものも大きかった。
天界最高峰を誇る聖騎士────セルク・レイカーの喪失。当初は死と言われていたが、すぐに否定される事になったのだ。
彼の死体。
凄惨なまでに串刺しにされたその死体は、天界勢力に所属する強者達に眉をひそませた。
あまりにも、
想像できるのは、彼に油断をさせる事。彼が戦闘を行うには致命的な程の隙を作り出す必要がある。そのような事が、普通可能だろうか?
───そして、もう一つ。
これは天界という勢力自体には、あまり影響する問題ではない────────今のところは。
ラインハルト、彼は全てを話した。しかし、彼は一つだけ話してないものがある。それは、彼が行ったことの代償についてだ。
自らの命を生け贄にし、死ねない身体になった。そして世界を救った途端、跡形もなく消滅してしまう事。
彼はこの事実を誰にも話さなかった。神滅具を扱う御使いや、従兄弟である妹にも、況してや最も信頼する二人にも。
─────彼は、誰にもその事を明かさなかった
今回で、この章は終わりとなります。次の章は、もう一人の主人公 練とイッセー達を主体とした冥界編となります。前編は練を中心とした堕天使勢力及び新チーム解説ですが、後半は後から解説します。
ラインハルトの章と、二人の章は同時期に並行してる出来事です。今回の話が終わった時には、練達の章も終わってる頃合いだと考えてくれればありがたいです。
練「ようやく俺達の章か、意外と長かったな」
次回もどうかよろしくお願いします。感想や評価、お気に入りにも何卒。