ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus 作:虚無の魔術師
練の魔王への直談判から一日が経ち、練と彼の仲間達はとあるパーティーに参加していた。
冥界で行われているのだ、悪魔達のパーティーに間違いはないだろう。そもそも、このパーティーは若手悪魔へのお祝いを兼ねたものらしい。…………実際には、単に貴族悪魔の連中が適当な理由で酒を呑み交わすつもりだと。
勿論、練達もそのパーティーに参加が許されている。理由としては魔王達との面談もしていたアザゼルの護衛として。よりまとめると食客みたいな感じだろう。
「…………アイリス、ゼリッシュ。問題はないか?」
「?どういう意味でしょうか?」
「私が説明しましょう。アイリスとゼリッシュ、貴方達は悪魔に酷いことをされてきた経歴もあるでしょう。練様はその悪魔達がいる今回のパーティーに参加して、辛いと感じたりはしてませんか?…………という意味ですね」
毎度練の言いたいことをキチンと補足してくれる宗明には感謝しかない。一応このチームで最古参である宗明はある程度練の気持ちや考えを読み解いて、周りに配慮してくれている節はある。
…………迷惑かけてばかりだな、と嘆息するしかない。後で宗明には礼を言おうと誓う練であった。
「はい、私は大丈夫です。同じ悪魔の人達と言え、苦手と思っているのは私の元主だけです」
「ま、その主サマも大将が消しちまったけどな!」
カラカラと笑うゼリッシュだったが、すぐにアイリスに怒られていた。まぁ練からしても間接的に悪魔を殺したという事は、この場でベラベラと話して欲しくない。幸い周りには聞かれてないようだが。
そう思ってる最中、練はピクリと何かに気付いた。沢山の貴族達の集まりに眼を向け、隣にいた宗明に囁く。
「……………宗明、少しこの場を外す。アイリスとゼリッシュに何かあったら守るようにしろ」
「お、おい?大将……?」
「────ハッ、かしこまりました」
困惑するアイリスとゼリッシュの事を宗明に任せ、練もスッと歩き出す。違和感を持たれないようにしながらも、撒かれないように、人混み(悪魔だが)の中を通り──────白が特徴的な小柄な少女の後を追う。
(白音────いや、今は塔城小猫だったか)
アイリス達から練が離れた理由はただ一つ、自分の恩人でもあり、仲間以外に心を開いてる唯一の存在である黒歌の妹である白い少女を見掛けたからだ。
ただ見掛けただけならここまで堂々と動いたりはしない。もし他の誰かと話していたら邪魔になるので無視していたかもしれない。
────そんな彼女が血相を変えてこの会場の外へと向かっているのを見れば怪訝そうにもなる。しかし、練が小猫を追跡するのには理由があった。小猫以外に、彼の意識を引くものが目に止まってしまったからだ。
────彼女が抱き抱えていた黒い猫。それは一度、練も目にしたことがあった。
◇◆◇
塔城小猫は黒猫を抱き抱えて、会場の外、森の方へと走っていく。彼女には使い魔である猫がいるが、それは白猫であり、こんなに真っ黒な猫ではない。つまり、彼女が抱き抱えている猫は、彼女の使い魔ではない、全く別のものになる。
それも当然だが、これは小猫にしか分からないものだ。周りの悪魔ならば単なる黒猫として見向きもしなかったが(そもそも会場に猫がいる事自体異様と思うのが普通かもしれない)昔からその猫を知っていた彼女は、すぐさま森の外へと向かっていったのだ。
そして────
「────久しぶりにゃん、白音」
小猫の懐から飛び出した黒猫が、現れた女性の元へと戻っていく。
全てが黒一色の女性。はだけそうになっている着物と後ろから伸びた二本の尻尾。そして、普通にある耳とは明らかに違う猫耳も─────全てが黒色に染まっている。
塔城小猫を白音という、本来の名前で呼べるのは限られた者しかいない。猫又だった父と母、そして自分と同じく悪魔へと成ったが、はぐれ悪魔となり姿を消した大好きだった姉─────黒歌。それが目の前にいる女性の名だった。
「私がここにいる理由、分かる?」
「…………」
「────白音、私と一緒に来て。この冥界から離れるの。貴方だけでも見逃してもらえるようにお願いしたから」
言われた瞬間、小猫は思わず憤慨して怒鳴り返した。今更何をしに来たんだ、貴方のせいでどんな目にあったのか、と。
自らの妹からの言葉を聞き、黒歌は申し訳なさそうに唇を噛んだ。しかし、
「………ごめんなさい。今まで助けることが出来なくて、運良くここに来れたの。もう二度と貴方に会えないかもしれないから」
「…………」
「『神王派』は単なるテロリストじゃない。アイツら復讐者、悪魔や堕天使や天使に大切な人を奪われた人間の集まり。ちゃんとしているのもいるけど、自暴自棄になってるのもいる。前に三大勢力の会合を妨害した風刃亮斗のように」
「…………」
「今は落ち着いてるけど、『神王』が本気で動けば三大勢力にはどうしようもないの。彼等が手を組もうと、今の『神王』だけは─────」
静かに言い聞かせるような黒歌だが、彼女の声音は震えていた。何かを思い出して、怯えているのだ。そんな姉の様子に気付いた小猫は言葉を失い、黙り込むしかなかった。
姉は自分と過ごしていた時も、こんな風に怯えていることはなかった。故に、小猫にも言葉に出来ない怖気が迫ってくる。
─────自分よりも優れている姉が恐れるほど、『神王』は危険なのかと。
そんな黒歌だったが、彼女がそれ以上話そうとした途端、言葉が遮られた。横から伸ばされた棒が、彼女の目の前にあったからだ。
隣に立つのは、額に金色の輪をつけた逆立った短髪の男─────美猴。黒歌に向けていた棒を振るい、肩に乗せると彼はカラカラと軽く笑いながら、黒歌を宥めた。
「まぁ、落ち着けよ黒歌。感動の再会の途中で悪ぃんだが……………まずは隠れ見てる連中に出てきて貰う必要があるよなぁ?」
投げ掛けられた言葉に、この場に隠れていた面々はそれぞれの反応を示した。一人は息を呑み、一人は気を引き締め、一人は当然かと納得している。彼等はほぼ同時に隠れていた場所から出ていく。
「────部長、イッセー先輩……………」
現れた自分の主と仲間に、小猫は驚愕を示しながらも言葉に詰まるようだった。彼等に気付かれないようにこの場に来ていた、独断行動を取ってしまった事に申し訳なさそうだ。
しかし─────木陰が現れたもう一人の人物に、小猫は二人の登場以上に驚きを見せた。
「──黒月、練さん……」
彼、黒月練とは小猫も交流がある訳ではない。むしろ限りなく無い方に近い。本来であれば赤の他人として気にすることはないはずだ。
しかし、数日も前、この冥界に向かう列車の中で、練から小猫は自分の本来の名前を告げられた。同時に、彼が姉の存在を口にしていた事もあり、小猫は練の事が気になっていた。彼の話を聞けば、行方不明の姉に近付けるかもしれないと。
────まぁ、話を聞く前に、こうして出会えたのだが。
リアスとイッセーが小猫の近付いていく中、木陰から歩み出た練は黒歌と向き合う。
少しの間の沈黙。それを打ち破るように、少しだけ暗い顔をしていた練が疑問とすら言えない言葉を投げ掛けた。
「黒歌、【禍の団】に入ったのか」
「そうね……………悪かった?」
「いや、元より俺が時間を掛けすぎたのが問題だ。もう少し早ければ良かったんだがな」
「─────なるほどね、大体分かったわ。まさかあの時の約束の事をちゃんと考えてくれたなんてね。私なんて諦めてたのに」
あまりにも親しそうな二人の様子に、イッセーと小猫は思わず面食らう。黒歌については小猫くらいしか知らないが、練についてはイッセーも小猫も対面した事が多いからよく分かっている。
悪魔に対して敵対的で、一誠に対して嫌悪感と怒りを剥き出しにして嫌いとまで言及していた。一誠も小猫も、彼に関しては良い感情を抱けていなかったのだ。
なのに、行方不明であると同時にはぐれ悪魔である黒歌と─────気のせいかもしれないが、楽しそうに話してまでいる。まるで彼女が友人かのような感覚で。
しかし、すぐにリアスが会話の最中何かに気付いた。静かに微笑みを浮かべている練に向けて、声をあげる。
「ちょっと待ちなさい。貴方、黒歌と知り合いなの?」
「…………昔のな。追われてたアイツを一度匿ったことがある」
「ッ!黒歌を匿っていたの!?彼女はSS級のはぐれ悪魔なのよ!?既に何人の命も─────」
「────奪ったのは悪魔の命だけ、だろ?どうせ知らないだろうが、アイツは一度も人間を殺したことはない。 そもそもの話、彼女がそうしたのは全てお前ら悪魔の責任だ。被害者に罪を擦り付けておいて、自分達は正義の味方気取りか?笑わせるなよ、悪魔風情が」
「…………被害者?」
「─────フン、お前らは知らない側だったな」
舌打ちを吐き捨て、不愉快そうな顔つきになる練だったが、すぐに眉をあげた。黒歌でも美猴でもない、彼等の近くに隠れているであろう気配に気付いていた。
相手もそれを理解したのか、隠れることを止めて姿を露にしてきた。
「お話は─────終わりで良いですか?」
森が捻れ、木々が動き出す。緑のカーテンからスルリと抜け出すように現れたのは、不思議な青年だった。
身体も腕も細く、スラリとした体格の人物。顔立ちは何処か幼さがあり、結ばれた金髪の髪には艶がある。男だというのはすぐに分かったが、女性かもしれないと言われればそうとも思えてしまう程の容姿の青年だった。
彼は黒歌と美猴の近くへと立ち、ペコリと会釈する。並々ならぬ存在感を発しながら、彼は自ら名乗りあげた。
「初めまして、私は夏鈴。神王派、《スペクタートゥエルブ》の一人、
リアスも一誠も、練も驚愕を隠せなかった。『神王派』、それは【禍の団】というテロリスト組織の中で最も警戒されている派閥の名である。現にたった一人で和平の際に襲撃を為している、他の『旧魔王派』よりも格段と戦力的に上をいっている、それが『神王派』だった。
「『僧侶』………『悪魔の駒』同じチェスの名を使ってるのは私達への当て付けかしら?」
「宣誓と戒めですよ。チェスを生み出したのは人類であり、貴方達ではないという事。そして、我々が正義の為に動いているのではないという事です」
「……?それはどういう─────」
「失礼、無駄なお喋りでしたね。────黒歌さん」
パン! と軽く手を叩き、夏鈴は黒歌へと呼び掛ける。
「結界を張っていただければ、貴方は手出ししなくてめ構いません。グレモリーも赤龍帝も、私一人で相手できますので」
「………分かってるでしょうけど、小猫と───」
「あの白い子ですね?分かっていますよ、約束は守ります─────見逃せるのは、一人が限界ですけど」
苦々しそうな顔と共に、黒歌が両の掌を合わせる。瞬時に、空間が変質した。先程までその場にいた筈なのに、違和感が止まらない。まるでいつの間にか、自分達のいる場所が全く別の場所へと移動したかのような。
「結界を張ったにゃん。これで会場にいる奴等は気付かないわ。…………気付いた所でどうせ、手助けする暇もないでしょうけど」
「助かります。お陰で早く済みますよ」
しかし、と夏鈴は嘆息する。
「────厄介なモノまで入り込んだみたいですね」
夏鈴が指を振るうと、木々の合間から何かが放たれた。暗闇に隠れて見えなかったが、弾丸のように見えた何かだ。しかし、それらは全て上空から飛来した巨体の影によって難なく撃ち落とされる。
その存在は堂々とこの場へと降り立った。
「結界か。まさか空間を遮断させるとは……………だが、それよりも厄介な者がいるようだな」
「た、タンニーンのおっさん!?」
「…………元龍王 タンニーン、か」
紫色のドラゴン タンニーンの存在に一誠と練も驚きを示す。しかし彼はリアス達に怪我の有無を聞くと、敵である三人の方を睨み付ける。より正確には、夏鈴という青年の方を。
「おおおっ!?ありゃあタンニーンじゃねぇか!龍王が出てくるとは嬉しいもんだねぇい!!」
「……………」
興奮を隠せない美猴を他所に、夏鈴はタンニーンへと僅かな殺気を放つ。それは自分の行った?攻撃を防がれた、というでは無さそうだ。
どちらかと言うと、タンニーンに視線を向けられている事に警戒してる感じがある。タンニーンの様子からして、夏鈴に何か違和感を抱いた感じはあったが、彼はそれを警戒してるのか?
静かに胸元に手を伸ばす夏鈴だったが、彼の前へと美猴が飛び出してくる。美猴は興奮を抑えきれないように、口角を緩ませながら、夏鈴に聞いてきた。
「なぁ、黒月練は諦めるとして、タンニーンとやらせてもらってもいいよなぁ?アンタらの目的はそこらの二人だって聞いたしよぉ」
「……………まぁ、良いですよ、別に。元々我々の目的に龍王は無関係ですので。何なら相手してくれた方が助かります。………邪魔されても面倒なので離れた所に移動してくださいね?」
言われるや否や、楽しそうに美猴が棍を取り出し、タンニーンと向き合う。
「勿論!そういう訳だ!派手にやらせてもらうぜいッ!元龍王様よぉ!!」
「フンッ!ほざくがいいッ!!」
彼等はそう言うと、この場から離れていく。美猴は夏鈴に言われたように、タンニーンも本気を出す為にこの場から退避したのだろう。一誠達がいれば全力を出そうにも出しきれないから。
「さて、これでようやく話が出来ますね。リアス・グレモリーさん」
夏鈴はそう言うと、リアスの名を呼びながら、小猫を指差す。
「さて、要求通り大人しく黒歌さんの妹さんを引き渡してください。彼女は黒歌さんの姉妹であり、貴方達悪魔の所有物ではないのですよ」
「ッ!ふざけないで!小猫は私の眷属、家族なのよ!貴方の方こそ、勝手にこの子を物扱いしないで!!」
「…………ふむ、それは可笑しいですね。悪魔にとって人は下等生物。道具のような扱いなのでしょう?だからこそ、我々人間が虐げられてるのでは?」
言われた言葉に、リアスは否定の言葉を出すことが出来なかった。悪魔が人間を道具のように扱っている、その事自体に心当たりがない訳ではない。だからこそ、気安く反論することができない。
「さて、私達の目的は二人との戦闘ですが、陽動として悪魔の抹殺も許可されてます──────分かります?別に貴方を殺しても問題はないんですよ?グレモリーさん」
向けられた濃厚な殺意。それもはぐれ悪魔やエクソシストから向けられてきたものとは違う。異様な程の鋭さと圧力に、リアスは唇を噛み締めた。
前に踏み込もうとした直後、自分の主を守るように一誠が飛び出す。興味深そうに眼の色を変える夏鈴を、一誠は睨み付けている。
「小猫ちゃんと部長には手を出さねぇぞ」
「…………好都合ですね。貴方が自ら挑みに来るとは。丁度良いです、殺すなとは言われてますが、親友の敵は私が討つとしましょう」
「…………親友?」
「おやおや、忘れたんですか?貴方が倒したんですよ、三勢力の協定の時に」
言われた途端、一誠はハッと気が付いた。三勢力の和平の際、夏鈴と同じく神王派を名乗っている青年がいた。そして、彼は一誠が苦戦を強いられながらも、何とか撤退へと追い込んだ。
あの青年の台詞が、脳内に再び響いてきた。
『そして俺は!《神王派》のトップ《トライデントフォース》の一人、『
「まさか────!?」
「えぇ、僕と亮斗と…………セリカは仲良し三人組でしてね。全力でやらなかったとはいえ、親友を倒された貴方を倒したいと考えていました。というわけで、是非相手してくれますよね。拒否はさせませんよ」
「どうやら最初のお目当てはお前らしいな」
練はそれだけ言うと、近くの木に背を預けた。テロリストが目の前にいるというのに、全くといっていい程戦う様子がない。そんな練に、一誠も声を荒らげた。
「はぁ!?練!お前何してんだよ!?」
「大方奴一人がお前達、悪魔に喧嘩を売ったんだろ。ならそれはお前達悪魔が相手するのが道理だ──────俺は黒歌と白音………いや、小猫に手を出されれば動くだけだ」
歯噛みする一誠、それは好都合と笑みを深める夏鈴。二人の視線を浮けながらも、練は近くの大木に背を預けながら、心の中で呟いた。
(───目的、ね)
(奴の目的は俺と兵藤一誠と言っていた。前に襲撃してきた風刃亮斗の話しによれば、兵藤一誠を特別な存在としていた。つまり、俺もアイツも、奴等にとって見逃せないものということになる)
練からすれば、兵藤一誠と同列視されるのは心底気に食わない。だが、今は感情論で語ってられる問題ではないのだ。黒月練と兵藤一誠、二人の共通する点は────
(─────
一誠が赤い天龍ドライグ、そして練が黒い天龍 ヴェルグ。その二人を何故狙うのか、練にはある程度検討がついていた。練に足りない唯一の欠点、そして大方兵藤一誠にも類似してる事。
────禁手化が使えないという点。ならばあの夏鈴が戦いを挑もうとしてる理由は────強制的にでも、禁手化を引き出そうという事かもしれない。
どちらにしても、練が進んで戦う理由にはならない。
(
今現在、神王派の目的がよく読めない。敵を倒すには、対処するには、まず奴等の目的と計画を知る必要がある。その為には相手の話、言葉、感情などから知ることが出来る。
連中が死なせるつもりのないのならば、奴等の目的を少しでも探るための当て馬になって貰おう。
「さぁ────始めましょうか、赤龍帝」
「ッ!望むところだ!」
向けられた殺気。咄嗟に一誠は『赤龍帝の籠手』を腕に展開する。最初の倍加を行い、美青年へと突っ込んでいく。
対して夏鈴は指先に翡翠色の宝玉のついた指輪を嵌め込んでいる。両手の中指に一つずつ、アレが彼の神器なのだろう。
「─────『
突如、言葉を口走ると同時にしゃがみこんだ夏鈴が両手を地面に押し付ける。直後、翡翠の光が夏鈴を中心とした周囲へと波紋のように広がっていく。違和感と共にドライグの警告が脳裏に響いた直後だった。
───地面を隆起させる程の何十もの巨大な荊が眼前へと飛び出してくる。上空へと伸びたそれは、毒々しい刺を伸ばしながら、一誠のいる地面を豪快に叩き潰した。
◇◆◇
────時は、数分前に遡る
「なぁ、宗明パイセイ。アタシらも大将の元に向かわなくてもいいのかよ?」
「構いませんよ。むしろ我々が邪魔になりかねませんし…………今はここで大人しくした方が良いでしょう」
パーティー会場の隅の方で、宗明達は密かに食事をしていた。元よりこの場は悪魔の集まりなので、人間である自分達が中心に行くわけにはいかないので当然といえば当然なのだが。
「なぁ、あんた達少しいいか?」
すると突然。
自分と同じ、少し年下の若者から声が掛けられた。宗明は瞬時にその青年が悪魔────に近い、転生悪魔だと気付き、警戒をしながらも丁寧に応じた。
「はい、何用でしょうか? 我々に何か問題でもあられましたか?」
「いや…………アンタ達どう見ても人間だろ?俺も元人間だしとやかくは言えないけど……………一応他の貴族さん達に小言言われたりしてないかって」
どうやら、彼は自分達の事が気になっていたらしい。この場に人間がいれば他の悪魔からどんな風に言われるかは分からなくもない。
警戒しすぎましたね、と宗明は反省しながらもにこやかな笑みを浮かべ直した。
「ご安心を。我々は魔王様からの許可を頂いた者ですので。本来はアザゼル総督の護衛として来ておられてたのですが…………今は私達のリーダーが用で席を外されておりましたので、こうして片隅で食事をさせていただきました」
丁寧に会釈しながら話す宗明に、匙は納得したようだったが、すぐに自分の言葉遣いを改めた。仮にも他の勢力のトップの護衛、下手な口を効いて怒りを買うわけにはいかないという感じか。
「そっか………ちょっと迷惑でしたか?それなら謝りますけど」
「いえいえ、不要な気遣いですよ。人間は悪魔達の中にいると浮いてしまいますのでね、何より私の仲間達も悪魔が少々苦手ですから」
少し前でも、他の悪魔に言い寄られてたアイリスとゼリッシュだったが、彼女達もかつてのトラウマがあるのか恐怖していた。まぁその悪魔は宗明が懇切丁寧な言葉(要約、早く消えろ)で追い払ったのだが。
「あ、俺匙元士郎って言います。今は普通に悪魔をやってるんですけど」
「なるほど、私は諸葛亮宗明と申します。以後、よろしく戴ければ」
「へぇ、諸葛亮さんですか…………………え?諸葛亮っ!!?」
互いに名乗る二人。匙という少年は宗明の名字に思わず眼をひんむいていたが、宗明は慣れたことなので気にしない。
色々と質問されたが、それに真面目に返していく宗明。しかし彼の話だけに意識を向けずに、隣にいるアイリスやゼリッシュにも気を向けておく。目を離しておくと、ロクな奴等が寄ってこない。
彼女達も普通に比べてみれば美人や美少女に部類されるだろう。況してや他勢力の存在だと思うなら、勧誘もうざったらしくなる。
…………多少問題を起こすことを承知でも良いから、フリードでも連れてくるべきだったか、と。宗明も少しばかり考えたが、やっぱり面倒が目に見えてるので思考を放棄することにした。
話の最中、匙が興味深い事を口走った。
「ふぅん、じゃあさっき話に聞いた人もアンタ達の仲間なのか。そう言ってくれれば良かったんだけどなぁ」
「…………?なんの事です?」
「え?いや、さっき警備されてる悪魔の人達が騒いでたらしいんだ。なんか人間と貴族の方が騒いでるって」
「…………我々は他に仲間はいませんよ?リーダーも別の方に向かっていましたし。きっと他の方では?」
「そ、そうなのか?けど─────」
匙の懸念は宗明もある程度は推測していた。この場に訪れる事の出来る人間など数少ない。その一例である宗明達がこの場にいる以上、他の勢力からの使いである可能性も考えていい。
だが、わざわざ自分達も同じようにこの場に来る他勢力の人間がいるだろうか?よりによって、同じ日に。何より、悪魔達の宴会の場に。
(……………嫌な予感がしますね)
「アイリス、ゼリッシュ、警戒を。何か殺気を感じます、大方この場を狙っているのでしょう─────」
直後、和気あいあいと話し声に満ちていた会場に一発の銃声が響いた。
一斉に静寂が広がる。しんと静かになった空気の中で、閉ざされていた扉が盛大に開かれ、何かが転がってきた。
中年の悪魔。彼は口から血を流し、その身体を灰へと消滅させた。残りカスを踏み潰し、謎の青年が踏み込んでくる。
金髪の髪を整えた、規則正しそうな青年。彼は無手でありながら堂々とした様子で会場の奥にある台へと移動する。
立てられていたマイクを強引に手に取り、青年はマイクに向かって声を整え、落ち着いた様子で告げた。
「我々の名は『神王派』、《スペクタートゥエルブ》。神王の配下にして忠実なる駒。神王に近いとされた三人のトップとは違い、主の敵を殺すために結成された十二の剣刃」
その青年の言葉が響くと同時に、ざわめきが生じる。しかしそれはすぐさま収まることになった。更なる変化、青年────アンシアの隣に、複数の人影が存在していたのだ。
───一人は、鮮やかな色合いの法衣を纏う少しの黒髪と藍色の長髪を伸ばした青年。名を、シフリン・バックマン。
───一人は、全身をローブで包み隠し、シフリンの隣に寄り添う少しの藍髪と黒色の髪を伸ばした少女。名を、シーマ・バックマン
───一人は、2メートルにも匹敵する長身の大男。全身を黒装束で包み、白い仮面を纏う異様な存在。名を、朧。
たった四、されど四人。
自分達よりも数の多い悪魔達のいる会場へと踏み入ってきた彼等には、自分達の勝利を自負する自信があるのだろう。
「自己紹介は終えた。これより我々は目的を遂行する」
アンシアが手を振るうと、出口の扉が強引に吹き飛ばされる。這い出てきたのは、純白の鎧を着込んだ重装備の兵士。巨大な槍、剣、斧等の様々な武器と全身を覆い隠すような程の盾。それらを両手に飾り、兵士達が近くにいる悪魔達を牽制する。
「これより、一人残らず─────」
困惑に包まれる悪魔達を余所に、人間達が動き出す。アンシアという青年が虚空へと手を伸ばすと、一瞬にて彼の両手に二つの銃が備わっていた。
それだけではない。
青年の背後から、更なる銃が出てきた。猟銃と言うよりも、アサルトライフルに近い感じだ。銃はまるで意思を持つかのように、自動で弾を装填する。そのままアンシアの隣に移動し、銃口を貴族達へと突きつける。
後退りする彼等の様子を気にすることなく、アンシアは宣誓する。それはまるで、死刑宣告をする裁判官のような冷徹な顔向きで。
「───────鏖殺、皆殺しだ」
直後、放たれた弾丸の雨が炸裂する。飛び散る鮮血と肉片、近くで同族が殺された事を知り、悪魔の一人が悲鳴をあげる。
顔をしかめるような火薬の臭い。しかしアンシアが放った凶弾が、全ての引き金だった。彼の周囲にいた仲間達が飛び出し、悪魔達へと遅いかかる。単なる突撃ではなく、この場全ての悪魔達を、言葉通り皆殺しにする為に。
────復讐者達の報復が、血と血で洗う殺戮を引き起こした。
ようやっと『神王派』襲撃編に入れた、強引過ぎたかもしれないけどそうしないと話が進まない(悲哀)