ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus 作:虚無の魔術師
一方で。
今現在夏鈴と一誠が戦闘している最中。会場内でも激しい戦闘が引き起こされていた。
貴族悪魔やその眷属達は逃げ惑う者もいれば、容赦なく戦う者もいた。魔力や神器を用いた戦いをしているが、あまり善戦とは言い難い。
相手は、純光を宿す白き騎士達。どんな攻撃を受けても仰け反る所か後に退くこともしない。
そんな十の騎士達にすら圧倒されているのだ。それを指示する立場にいる者が動けば、現状はどうしようもない。
「ま、待て────」
その一人を前にした悪魔が、必死に命乞いをする。だが相手は聞く耳も持たずに────拳銃から弾丸を撃ち放った。
「貴様らに、我々から求めることはただ一つ」
「死ね、我々の要求はそれだけだ。それ以外の事は認めん、貴様らは惨めに臓腑を散らし、より苦しんでから死ななければならない」
「鏖殺、鏖殺だ。せめて苦しんで、絶望して死ねゴミクズ。それが我々の望みなのだからな」
そう言って、アンシアは獲物の一人に銃口を向ける。貴族悪魔の一人だ。小鹿のように弱々しく震えて、先程アンシアが撃ち放った眷属の傍にいる。
しかし、だ。
最後まで醜く縋っているのではなく、倒れた眷属を必死に護るように、涙を堪えながら前に立っていた。
震えながらの片腕を向け、貴族悪魔は言う。聞き飽きたような命乞い、ではなく。
「お願い…………この子だけは、殺さないで………私の、家族になってくれた、人なの………」
「────フッ」
泣きながら自分ではない誰かを庇う姿に、アンシアは思わず笑いが溢れた。可笑しな事だ。本当に可笑しな事だった。
彼女はきっと、良い悪魔なのだろう。悪魔なのに良いも悪いもあるかと思うだろうから、良心的な方にしよう。誰かを思いやることが出来る優しいヒト、だからこそこうやってアンシアの前にも立つことが出来る。
今引き金を引けば彼女を殺してしまう。優しさを奪うようなやり方、まるで自分達を追い詰めたクズ共と変わらない行いだ。
だが、
「────ゴミのように殺してきた我等の同胞の言葉を、貴様らは少しでも、耳を傾けてきたか?」
アンシアは侮蔑を笑みに刻み込みながら、自問するように聞いた。
彼女が優しくても、良心的だとしても、引き返せる訳がない。アンシアは既に引き金を引いたのだ、抹殺の銃弾で、多くの命を奪った。それも、復讐という、憎悪に身を委ねて。
ならば、だ。
妥協してはいけない。
復讐は、自分に甘くなった途端に復讐では無くなってしまう。アンシア個人は、悪魔には恨みはない。あるのは自分を切り捨て、大切な居場所を奪い取った忌まわしき教会だけだ。率先して殺す意味はあれど、強制される筋合いはない。
けれど、誰かを殺すことを躊躇した手で────復讐など果たせるものか。アンシアは止まれない。己の復讐を果たすためにも。
「怨みたければ、怨め」
「……………やめ、て………っ」
「我々も、貴様らを怨み続ける。世界はそうやって廻るのだ、これからも」
引き金を引こうとした途端──────アンシアはすぐさま動いた。真横、自身の右に目掛けて銃を握る腕もろとも振り払う。
ガキィィン!!
鳴り響くのは、金属と金属がぶつかり合う音。より正確には、銃と剣が火花を散らしながら交差していたのだ。
「そこまでだ、『神王派』」
「…………」
現れた青年はアンシアの黒金の銃を受け止めていた。同じように黒い魔剣を携え────青年、木場祐斗は自身と同じ『騎士』へと相対する。
「これ以上、君達の好きにはさせない。ここで僕が倒す」
「ほざけ。悪魔であることを良しとする転生悪魔。邪魔するならば、貴様から先に殺す」
対して、アンシアの顔に浮かぶのは不快そのものだった。邪魔されたことが、ではない。木場祐斗という青年の顔を見た途端、嫌悪感が沸き上がってきたのだ。
そして、すぐに銃を向けて何発か撃ち込んだ。木場は咄嗟に直線に迫る弾丸を持っていた剣で弾き、更に撃ち込まれた弾は、足元に創造した魔剣で切り弾いた。
不愉快そうに顔を歪めたアンシアは虚空へと手を伸ばす。細かな形で造り出されたのは、先程のような拳銃とは違う────アサルトライフルであった。
それを強引に、木場に目掛けて乱射する。拳銃のような単一の弾ではなく、雨のような鉛玉が飛来してくる。
木場は足元から無数の魔剣を生やし、盾のようにして防ぐ。とにかく乱射していたアンシアも効果が無いと理解するとすぐさま撃つ手を止めた。
「『魔剣創造』か。俺と同系統の神器を有する奴と出会うとは…………使い方もなってないガキだがな」
「…………銃を造り出す神器。 始めて見るね、そういうものは」
「侮るなよ。銃という武器は、多くの人間を殺してきたものだ。より最適化され、より精錬されてきた。勿論、殺戮の為にだ」
アサルトライフルを片手で軽く回すアンシア。しかし彼の手にしたアサルトライフルは、少しずつ変化していった。大きさも質量も、見る間に小さくなっていき───拳銃となって手の内に収まっていた。
「我が神器、『
正直な話、創造どころの話ではない。造り出した銃の形や種類まで簡単に変えられるのであれば、それは最早禁手化に至っている所業だろう。
そんな事すら気にせずに、アンシアは嘆息する。銃を弄りながら、見下すように。
「お前のソレは、既存の魔剣をコピーするに過ぎない。そんな贋作程度で、創造系の神器を名乗るか。本物の創造とは─────こういう物を言う」
アンシアが銃口を向けた瞬間、銃声と共に銃弾が飛び出す。頭部を狙ったであろう軌道の弾丸に木場は、強度の高い魔剣を足元から造り出す。すぐさま手に取ったそれを振るい、銃弾を弾こうとした。
瞬間、ドォンッ! と木場が振り下ろした剣戟を前に、銃弾が勝手に弾けた。そう見えたが、実際には違う。魔剣が当たる前に、銃弾から風圧が発生して軌道をずらしたのだ。
そして、ズレた弾丸が木場の脇腹を掠る。脳髄に、稲妻のように響く痛みに木場は僅かに唇を噛み締める。
膝をつきそうになる木場に、アンシアは銃を
「跳弾だ。空気の変動によって軌道を変えるようになっている。本当は脳天にぶちまけてやりたかったが、ここで殺してやるのも味気がない。………跳弾如きで驚くなよ、この程度は神器無しでも軽く出来る」
────別の弾を装填した動きは見えなかった。アンシアは先程から普通の弾しか撃ってない。今受けた弾は木場が魔剣で弾いたものよりも軽く、先端が鋭利な弾丸だ。
「弾丸を創造するなど容易い。内部構造のある銃に比べれば頭を回す必要もない程に簡単だ。一秒もあれば、マガジンを一々変えなくてもいい」
カシャン! と、アンシアの持つ銃に重みが増す。どうやら言葉の通り、弾切れの分を補充したらしい。神器で造り出す事によって。
「………どうやら、今の僕じゃあ君に勝てないみたいだ」
「今更か。当然の話だ、レベルというものが違う」
「なら───僕に取れる手段は一つ」
そう言って、木場は新たな剣を造り出す。しかし単なる魔剣ではない。禍々しさと同時に、光のような神々しさすら内包させた一振の剣。
それを見て、アンシアは両眼を細めた。その剣がなんなのか、彼は情報として認知している。
「────聖魔剣か、禁手に頼るとは愚かだな。貴様の造ったその剣で、俺の神器を越えられるとでも?」
「越えられるんじゃない、越えるんだ」
「…………馬鹿は何故馬鹿と言われるか、分かるか?理解が出来ん、言われても考えつかんから馬鹿という。まぁいい、そんなにやりたければ試せばいい。その“なまくら”が、何時まで持つか」
呆れたように、本気で理解できない者でも見るかのような眼のアンシア。ただでさえ、禁手が相手なのに余裕すら崩さないのは、それなりの実力があるからか。
「勿論、此方は勝手に消し飛ばさせて貰うがな」
右腕を横に払った直後、彼の隣に巨大な物体が浮かび上がる。銃というには巨大過ぎる筒の塊、戦車の砲身だけが、独立顕現していた。
「────なっ!?」
流石の木場も、言葉を失う。アンシアが造れるのは銃だけだと思っていたが、彼は少しだけ間違えていた。
アンシアは創造系の神器を完全にマスターした。それはつまり、創造系の全域を理解し、裏技までもを編み出そうとしていた事にもなる。
「概念に捕らわれすぎだ。創造系が、固定概念に捕らわれてどうする。剣なら普通の剣しか造れない、言われた通りの武器しか造れない…………鍛冶でもしてるのか貴様は?」
面白そうに笑うアンシア。彼は片腕をゆっくりと振り上げ、
「─────
完全に気圧されていた木場に目掛けて、アンシアは片腕を振り下ろした。直後、砲身から爆発的な火が吹き荒れる。そうやって放たれたのは、膨大な熱量を秘めた鉄の塊。
熱波だけもその恐ろしさを感じた木場は逃げようと──せずに、聖魔剣を大きく振りかぶった。避けようにも、あれを避ければ逃げ遅れた貴族悪魔や今も戦っている仲間にも当たってしまう。だからこそ、敢えて迎撃しようと試みる。
その結果、至近距離で砲弾が炸裂した。と言っても、直撃ではない。幸い、聖魔剣で弾こうとした事で砲弾が爆発しただけだ。もし普通の魔剣だとすれば、木場の身体が粉々になっていたかもしれない。
しかし、大きく吹き飛ばれた木場は口から血の塊が溢れる。砲撃を受けて傷一つない聖魔剣に手を伸ばそうとするが、すぐにその手が蹴り飛ばされ、倒れ込むと共に頭を強い力で踏まれる。
「────よく受け止めた。それだけは素直に賞賛してやる」
響くのはアンシアの褒め言葉。しかしその顔には誉めてるようには思えないような嘲笑が刻み込まれている。
「それにしても、アレは俺にとっても自信の代物だったんだがな。傷一つもないとは、流石は聖魔剣。俺も甘く見ていたものだ。さっきの調子だと数発ではいかないな」
嘘じゃないぞ、と嘯きながら聖魔剣を見下ろすアンシア。しかし感心するような物言いとは裏腹に木場を圧迫する力は弱まらない。むしろこのまま木場を殺してしまいそうな程にまで、強くなっている。
抵抗しようと聖魔剣を強く握り締める木場の様子に、感嘆したようなアンシア。しかし賞賛の笑みを溢すこと無く、木場の腕を容赦なく踏み潰す。
「だが、貴様の相手はそろそろ終わりだ。俺もやるべき事がある」
「やるべき、事……?」
「生憎だが想像してるものとは違う。この場にいる悪魔の皆殺しであれば、朧だけで十分。我々がいるのはあくまでもその保険だとも」
それに、だ。と夏鈴は付け足す。彼の意識は木場祐斗にも、或いはこの場にいる悪魔達にすら向けられていない。
すぐ近くの結界の中で今も戦ってる同胞、彼にとって優先順位はそれだけであった。どれだけ悪魔が憎くても、殺したくても、仲間の危険に変えられる理由はない。
「今も別行動している夏鈴に切り札を使わせたいとは思わない。理由は多々あるが…………アレをしてしまえば夏鈴にも絶大な負荷が掛かる。黒月練は最低でも俺やシフリンが一緒でどうにかなる相手だ」
過大評価、などではない。
彼等が知る中でも、黒月練の周りの環境は優れすぎている。
半悪魔であり同じ天龍を宿すヴァーリ・ルシファー、堕天の狗神と呼ばれたスラッシュ・ドッグ、そして彼の仲間である四凶。それらの神器使いの中でも、禁手化に至っている。
禁手は精神的と肉体的な成長と合わさり、特異的な進化になる。つまり使い手自身の成長が禁手化の手段となるのだが、例外もある。
禁手化へと至った神器使いの周りにいたり、それと戦うことで────希に神器使いが強制的に禁手に目覚めるらしい。
「禁手化を使わせるようにする、それが計画の主柱の及第点だ。黒月練が今回の件で禁手化に至れないのであれば、神器を奪い取るまでの話─────まずは俺がいなければ話にはならんか」
ガシャッ! と銃に弾が詰め込まれた。装填されたのは、銀色の弾丸。悪魔を殺すために教会が多くの神父やエクソシスト達に配布させている洗礼された聖弾。
押さえ込んでいる木場の頭に銃口を向け、アンシアは冷徹に告げる。大して気にしてすらいない素振りで。
「そういう訳だ。お前の相手に時間をかける暇もない、なのでここで潔く死ね」
◇◆◇
凄まじい爆音に鼓膜が破けそうになる。神王派一人が砲撃を行ったという事実を目にしたソーナ・シトリーとその眷属は大いに困惑していた。
「会長!今のは…………」
「………木場君と戦ったいた相手のものですね。銃を使う神器というのも初めてですが、あんな事が出来るとは」
冷静に観察しているソーナだが、彼女も何もしてなかった訳ではない。この間に、光に包まれた甲冑の騎士を何とか倒していたのだ。その際に、アンシアによる砲撃に気付いたという事になる。
「………確かに、あれだけの実力なら襲撃を任されるのも理解できます」
「それでも、無茶じゃないですか!?こんな数人で襲ってくるなんて!」
「───我々全員を殺せる手段があるかもしれませんね。少ない人数で襲ったのは被害を防ぐため、この場に閉じ込めることで我々を殺す方法とは……………」
冷静に見極めるソーナ。大勢ではなく敢えて少ない人数でしたのは、そういう意図があっても可笑しくないという考えだ。
「兎も角、今私達がやるべき事は変わりません。一刻も早くこの場にいる上級悪魔を避難させます。その為にも、まずは匙との合流を─────」
「そういう訳には────いきませんッ!!」
聞き慣れない少女の叫ぶ声と同時に、ソーナ達の球状のドームが生じる。覆い隠すように全員が包み込まれた事を理解したソーナが目に見えて驚愕する。
「これは────神器!?」
変化はそれだけではなく、自分達の身体が動かなくなっていくのが実感できた。まるでブリキ人形のように、ギチギチと。少しだけは動かせるが、徐々に全身に重みが増していっているのだ。
「動かないでください………!貴方達を倒すのは、この後ですから!」
そう言うのは、青が混じった黒髪を長く伸ばした少しだけ自信がなさそうに見える少女 シーマ・バックマンであった。
彼女の神器は範囲内の生物に重力を与えるものだ。正式な名称は『
だからこそ、隙を狙うことは可能なのだ。
「────え?」
両手を向けながら神器を発動していたシーマは突然の変化に戸惑っていた。力が全身から抜けてきたのだ。無気力状態みたいになり掛けたが、自身の気を保ち持ちこたえる。
すぐに気付いた。
自分の腕に何らかの舌みたいなものが巻き付いているのを。そしてそれは、少し離れた場所にいる青年から延びているのを。
その青年を見て────シーマは呆然としていた。
「………嘘、なんで?」
「会長!皆!無事ですか!?」
舌を伸ばして力を奪おうとしていた、匙の姿をソーナ達も目にする。しかし、それでも声に出すことは出来ない。まだシーマが神器の効力が残っている。
力を吸われてもまだ、神器を解こうとしない。膝をつきそうになりながらも、彼女は必死に神器を解除させまいと堪えていた。
「この子は俺が押さえてきます!だから会長!少しだけ耐えて───────」
瞬間、ソーナ達へと声を挙げていた匙の言葉が、途切れる。突然、真後ろから頭部を殴られたのだ。しかし、臨戦態勢という訳でもなく、あくまで後ろにゆっくりと歩んできた形で。
それだけで、匙は地面にのめり込んだ。床が砕け、僅かな血が飛び散る。相手は頬に付いた血の痕跡を指で拭い取り、冷徹な声音で吐き捨てる。
「───麗しき妹に、気安く触れないでくれるか?」
藍色のような長髪を長々と伸ばしたナルシスト風の青年 シフリン・バックマン。匙が力を奪っていたシーマの血の通った家族、兄であった。
彼は芝居がかった様子で手振り身振りしながら、嘆くように叫ぶ。
「妹はまだ純潔なんだ。至高かつ天玉の如くの子だ、嫁入り前に舌で辱しめられるなんて────そんなの兄が!許せると思うかな!?」
…………実際違うと思うのだが、誰も否定しない。悪魔に接触されただけでも毛嫌いする者もいると聞くが、彼のそれは少し違う。誰にもでも有り得ること、家族の身を案じているだけなのだ。
力を吸いとられていたシーマはシフリンが手助けした事に驚いた声を出す。
「シフリン、お兄様!」
「気にすることはない、我が妹よ。この者は私が相手しよう。シーマは、彼女達の………いや、標的の貴族達の足止めに徹するのだ。アンシアと朧が仕留めてくれるから、な!」
「でも……お兄様、あの神器は───」
「違うさ、あれは似てるだけだ。なんせ同じ龍王の魂を宿してるから、な!だからこそ、彼の相手は私が努めるべき!そうだと思わないか?我が麗しき妹よ」
困惑したように匙の事を言うシーマだが、シフリンはやはり舞台に登場する王子のような立ち振舞いをしながら優しく提案する。
二人とも、匙の神器を事をある程度知ってるようだった。だからこそ、露骨に反応したのだろう。同時に、相手は自分がするべきだとシフリンが判断したのだ。
自らの兄の判断に、シーマは納得していた。むしろ否定する理由もない。
「分かった………お兄様」
「何か?」
「……………負けないでね」
「─────当然だとも。シーマの頼れる兄だからね」
そう言うと、シーマは困ったように「………うん」と答えながらソーナ達に向き合う。彼女に戦闘能力はない。あくまで動ける者の拘束。その間に何も出来なくなった連中をシフリンやアンシア達が倒す、それが何時もの流れだ。
「テメェ……!そんな事させる訳───」
「させて貰おう!華麗にねッ!」
そうはさせまいと勢いよく匙が立ち上がると同時に、顎に目掛けて容赦ない蹴りが叩き込まれる。軽く振るわれただけなのに、肉体の内側に衝撃が走ってくる。
それだけでは留まらず、シフリンは更に追撃を続ける。匙の腕を掴み取り、匙をそのまま叩きつけたりして、軽々と放り投げる。
床を跳ね、大きな机に叩きつけられた匙が呻く。だが、そんな暇はなかった。跳躍してきたシフリンが垂直に、匙へと狙いを定めて飛び降りたのだ。回避しようと動かすが、痛みによってそれが間に合わず─────、
グシャッ!!! と。
骨が砕けてしまうような鈍い音が身体から響く。ただの人間が降りたとは思えない────巨大な岩よりも大きな鉄塊が押し潰してきたようだった。
「ぐッ、ガァああアアッ!!?」
「やれやれ、そんなに苦しまないでくれよ。ただ踏みつけただけじゃないか」
文字通り、血を吐く程の絶叫をあげる匙に、シフリンはあくまで平然としている。踏みつけた際に床に小さくない程のクレーターを作ったのにも関わらず、その足取りは揺るかなものだ。
「ふむ、君の神器は知ってるよ。『黒い龍脈』、封印されたヴリドラの一欠片。因果だね、まさか私達の前に現れるとは」
近くのテーブルに並べられた料理の一つ、果実を手に取るシフリン。同じように並んであった金属製のナイフを使い、果実の皮を切り取っていく。
戦場であるというのに、表面上のシフリンに警戒心は見えない。いや、見えないだけで緩めてすらいないのか。それすら今は分からない。
「神器から伸ばした舌で相手の力を奪う。シンプルだが、ある意味では厄介だ。私以外の相手だと幾分かの力は奪えるかもしれない」
「…………っ」
ゆっくりと起き上がる匙。痛みは引いていないが、それでも動かねばいけない。正直な話、今の匙ではシフリンに叶わない。それは未熟な彼自身にも分かることだ。
それでも、今は出来る事をするだけだ。そう決意して、匙は腕に嵌め込まれた神器、『黒い龍脈』をシフリンへと向けようとする。
果実を齧ったシフリンはゴクリと呑み込みながら、余裕の笑みを崩さない。
「しかしそれは────私以外が相手ならばのこと」
パチン! とシフリンが指を鳴らした直後だった。シフリンに向けられていた匙の腕が、一瞬で地へと叩きつけられた。何かされたのは分かる。しかしシフリンは動いてすらいない。あの異様な程の威力の攻撃は拳や脚でしか行えない筈………。
相手を止めねばならない、と匙は焦りを加速させる。必死に神器で力を奪おうとするが、
「なんだっ!?腕が、上がらねぇ………っ!?」
「おや、まだ分からないのか?このやり方は、少しばかりクールではないのは分かるけどなぁ?」
どうやっても持ち上がらない自身の腕に困惑する。そんな匙の様子に前髪を軽く払いながらシフリンは歩み寄った。
そして─────いつの間にか匙の腕に嵌め込まれていた謎の腕輪を指差し、簡潔に言う。
「
「おもし………だって!?」
「私の神器『
我が妹はこれを強いと言うが………私からすれば、妹はまだまだ精神的に未熟でな。禁手にでも至れれば君なんて造作にも無いんだが─────まぁ、大した問題ではないか」
最後に適当な世間話をしながら、シフリンは更に手に取った果実を軽く放り投げる。彼の手を離れた果実は少しの間、宙を舞っていたが──────すぐに地面へと叩きつけられた。引き寄せられるように、重力が突然与えられたように。
ゾワリ、と匙の背筋にうすら寒い感覚がよぎる。シフリンという男が本気で匙を殺す気ならばそれなりの重量で押し潰せば良い。それだけで匙は死ぬ。いくら人間よりも頑丈な悪魔だと言えど限度がある。
その懸念を知ってか、シフリンは小さく笑う。安心して欲しいと言い、果実を食した口元を布巾で拭いながら。
「勘違いしないでくれ、誰がそんな気品に欠けた事をするか。私達はテロリストであるが、殺しを楽しむ者の集まりではないのだ。まぁ、戦いの果てに殺すことはあれど…………同胞の仇を愉悦として殺すつもりはないさ」
タン! と踊るようにシフリンは床を踏む。歌うような口調で、シフリンは匙へと優しく声をかける。しかしそれは一方的なものだ。
これから死ぬ者を、心の底から憐れむような。そして、相手を見逃すことも出来ないので、諦めて貰おうという。余りにも一方的かつ、容赦のない慈悲。
「私の素敵な仲間達の弔い戦だ。優美かつ華麗に行こうと思う。精々、足を引っ張らないでくれよ?」
────何発持つかな? そんな嘲笑と共にシフリンは匙へと迫り行く。両腕に両足、四方向からの得意不得意など関係ない神器により変化させられる超重量の攻撃。
どうやった所で対処しようのない、完全な詰みであった。
◇◆◇
一方で。
眷属悪魔達が黒衣を身に纏った男への攻撃をしていた。集中砲火。剣や斧、何なら盾で相手を殴打していく。リンチのように見えるが、攻撃している彼等の顔が曇っていく。
「な、なんだコイツ!?」
「攻撃が………武器が効かないぞ!?」
長身の存在────朧は、彼等の様子を無慈悲に見下ろしていた。真っ白な仮面にある黒い眼の紋様、それだけしかないのが余計に不気味に見えてくる。
その黒い模様が、ユラリと動く。仮面に浮かび上がっていた刻印のようなものと思われていたが、どうやらそれは眼の代わりになっているらしい。
「我こそは地獄の門番。断罪の実行者、貴様ら罪人共を…………さ、さ、裁く為に、我は、造られたのだ」
吐かれる言葉は、まるで呪詛のような禍々しさがある。現にその立ち振舞いからして異様な感じしかしないのだから、そう思ってしまうのは当然だろう。
「我々を裁く、だと!?下賎な人間風情が図に乗るなよ!」
「いや………アレ、本当に人間なの?」
仲間の一人、同じ貴族の女性悪魔の一言に、朧に憤っていた悪魔も気付く。朧の全長は2メートル、木の枝のように細い腕と、そんな身体を支えるやはり細い脚。
挙げ句の果てに、異様な体躯にどれだけ攻撃しても傷が付かない身体だ。
正直な話、どう考えても人間に見えてこない。むしろ見える方がおかしい。
突如───朧が全身から、黒い瘴気を噴き出した。見ればそれが濃密な魔力だというのはすぐに気付ける。まるで霧のように生じる瘴気が、周囲を飲み込んでいく。
朧はそれほどの瘴気の中で両腕を広げていた。それどころか包み込まれていた筈の瘴気が一気に噴き出し、悪魔達へと狙いを定める。
「──主様!」
「──ッ!」
二人の眷属悪魔が各々の主の前へと飛び出して庇った。黒い瘴気が二人に狙いを定めたように彼等を飲み込む。最初は腕や武器を振るい、払い除けようとしていたが、朧が静かに手を伸ばす。
「─────汝ら、死に還れ」
すると、だ。
眷族の二人に大きな変化が起きた。
「お、おぉ──────ォ?」
「ぃぎ、えべっ!?あばっ、あぐぉ!!?」
全身から魔力を吸い上げられ力が抜けたように倒れ込む。そのまま血を吐き出して気絶したり、全身から血を噴き出して苦しみながら動かなくなった。
魔力を吸い上げられたのだろう。彼等を覆っていた魔瘴はすぐに動き出し、朧の元へと戻る。まるでガスのように蒸れる黒き霧を操り、朧は生存者である悪魔達を刈り取らんと不気味に身体を揺らしながら歩み出す。
その一瞬、朧が身体から瘴気を噴き出した。先程よりも多い量だ。しかしそれは前にいた悪魔達を殺すためではなく、朧を球体状に覆い包んだのだ。
遅れるように、ドガァァンッ!! と爆音が響く。黒き魔瘴に閃光が迸り、爆炎が周囲へと吹き荒れた。
雷撃を当てられた。戦いの経験のある人間ならば、それくらいは分かる。そして、誰がやったのかも。
当人は、その近くに立っていた。朧に雷撃を当てたように、掌を向けながら。
「…………リアスやイッセー君が居ませんが、それでも黙って見ている訳にはいきませんわ」
黒髪ポニーテールの女性 姫島朱乃はそう言いながら、掌から雷をバチバチと鳴り響かせていた。
魔瘴によって身を護っていたであろう朧には、傷一つない。白い仮面に浮かび上がる紋様が蠢き、朱乃の姿を捉えていた。
「堕天使の…………む、むむ、娘。わ、ワレ、我の邪魔立てを、する………か?」
「違う!」
問い掛けた瞬間、大声で否定され、朧は怯んだようであった。
「────私は!堕天使の娘じゃない!私はリアス・グレモリーの眷属!姫島朱乃だ!!」
怒号と共に、先程よりも絶大な威力の雷が放たれる。当たれば魔瘴も吹き飛ばされ、朧も焼き尽くされるかもしれない。
だが、朧は全身から溢れる魔瘴の量を増幅させた。ズズズ、と渦を起こすように捻れる魔瘴の渦が放たれた雷撃を受け止め──────喰らうように、取り込んだ。
呆然とする悪魔一同、怒り任せの一撃を防がれた事に良い顔をしない朱乃を他所に、朧は静かに笑っていた。
「姫島………?ククク、何たる幸運…………よもや、我にとって忌まわしき、五大宗家の血筋が…………現れるとは」
「………?」
「
静かに囁きながら、朧はゆっくりと歩み出す。両手を広げ、抱き締めるような動きで。
「わ、我こそは………朧。神王派『
漆黒の外套を静かに揺らし、白面に刻まれた紋様を蠢かせる。
「神王の敵よ、お前達は………害虫だ。神王の理想、理念に仇なす…………不遜なる、が、が、がが、害虫」
ブワリ、と威圧感と共に魔瘴の量が瞬く間に増幅した。魔力を吸い上げる暗黒の霧の中心で、黒き異形がブツブツと告げる。
「死を、与えよう。世界に、人に、寄生する、害虫ども。その無価値な生命、この我が、一つ残らず吸い尽くして、やろう────」
◇◆◇
引き金に力が入る。倒れたまま固定した木場目掛けて銀弾を撃ち込まんとするアンシア。
そんな彼はすぐに誰かが接近してるのに気付いた。呆れ果てたように、アンシアは拳銃を横へと向け、何発か撃つ。
一発は先程言った通りの銀弾だ。しかしそれ以降は自身の力で創造した弾丸。肉を削り、貫通する為に造り出した螺旋状の鋼弾だ。悪魔であろうと、即死は免れない。
直撃しただろう、と。アッサリと結末を予測するアンシア。誰が何をしに来たのかは知らないが、無駄死には変わらない。そう判断したアンシアの耳に、妙な音が響いてきた。
ガギュッ!! と。
金属と金属が擦れ合うような音。貫通弾が相手を貫く時に聞こえる筈のない、防御したとも思えない金属音が。
「───何?」
流石に、アンシアも耳を疑った。目を向けると、そこには赤髪の少女が迫ってきている姿があった。身の丈を上回るであろう巨大な鋼鉄が造られたような大剣を片手に。
「ッ!!」
行動を切り替えるのは速かった。アンシアは拳銃に新たな弾を装填して、振りかぶりながら的確に撃ち込んでいく。
しかし、少女は大剣を勢いよく振り払う。それだけでアンシアの放った魔弾が消え去った。いや、喰われた。感覚だが、アレはそうで間違いないだろう。
「………神器使い、いや──────人間か!?」
銃を装填するよりも先に、少女が斬りかかってきた。アンシアは拳銃で殴りかかるように、大剣へと叩きつける。
激しい火花が、閃光と共に散る。
アンシアの魔銃と少女の大剣が競り合う。両腕で押してくる少女に対し、アンシアは片手で何とか応戦していた。
その際、人間で間違いないであろう少女を睨み付ける。
「同じ人間に用は無い、邪魔するな」
「残念だが、アタシもそういう訳にはいかねぇんだよ」
「ふん、
「守るだぁ?笑わせんな!誰があんなクソッタレな連中守ってやるか!アタシの仲間や皆を弄んだ奴等をよ!!」
「? なら何故俺の相手をする?そうする理由など無いだろう?」
「────あるさ。一つだけな」
ニカッと笑うと同時に、少女は瞳に激しい光を灯していた。闘争心というよりも、敵対心に近いものを。
「───黒月練、テメェその名前を口にしたよな?」
「…………」
「それとこう言ったのも聞いたぜ。大将の相手する、神器を奪い取るってよぉ」
「……………それがどうした?」
決まってらァ! と少女───ゼリッシュは好戦的な笑みを浮かべる。大剣により力を込め、アンシアを吹き飛ばす。仰け反った青年に剣先を向け、彼女は堂々と立ち塞がる。
「大将に手ェ出す気なんだ!!仲間のアタシが喧嘩売った所で文句なんかァねぇよなぁ!!」
◇◆◇
「────ッ!」
「おっと、危ない危ない」
匙を叩き潰さんとしていたシフリンだが、深紅の軌跡が迫るのを見て、慌てて距離を取る。重量を操る男にしては、綺麗に滑るような軽やかな動きで。
突然の回避行動に驚く暇もない匙だったが、隣に立った人物が匙へと手を差し伸べる。
「無事でしょうか、匙君?」
「───あ、アンタは…………諸葛亮さん?」
「えぇ、はい。手助けに馳せ参じた次第ですね」
深紅の槍を片手に落ち着いた様子の宗明。妨害されても尚、優雅さを損なおうとしないシフリンを相手に、魔槍を静かに構える。
「さぁ、ここは私に任せてください。同じ人間の相手は慣れておりますので」
◇◆◇
黒き魔障に包み込まれた朧。だが彼の意識はすぐに別の誰かへと向けられた。その瞬間に。
あらゆる魔法が、同時に複数展開される。宙に浮かび上がる数十もの魔方陣の真下に、一人の女性が立っていた。
朧は、その女性を目にして───少し驚いた様子だった。だからこそ、疑問が生じる。
「───貴様は、転生悪魔………であった、ものか。何故、邪魔をする?何故、何故、何故?」
「貴方達の気持ちは、理解できます………私も」
本心からの言葉であった。
彼女も転生悪魔の頃から、悪魔の酷い扱いに堪えかねていた。でも、それでもだ。
救われた今でもその傷が癒えなくても。彼女、アイリスには退いてはいけない戦いがある。それが今だ。この戦いなのだ。
「でも、こんな事はさせまん。貴方達と同じように悪魔が憎くても、あの人を巻き込む事だけは認めません。私達に手を差し伸べてくれた恩人に手を出すなら、私が相手をします」
「────クッ」
小さな笑いが、漆黒の異形から溢れる。失笑というよりかは、ある程度の評価があるような感じだが。
それでも、アイリスを見下すように、朧は首を傾げる。
「我を、倒す?………貴様のような、人間が………我を、地獄の具現者を────倒す、と?」
「倒すんじゃなくて、止めて見せます!!」
そう言い切ると、アイリスはあらゆる属性の魔法を放っていく。正直、何故ここまでやる気が出ているのか彼女自身には説明できない。だが、確かな理由がある。
自分達の大切な人に手を出そうとする者、それに対する確固たる怒りを胸に。天龍を宿す青年に付き従う三人が、テロリストへと牙を剥いた。
オリキャラ紹介
アンシア
神王派『騎士』。仲間や親しい者には敬語で話すが、敵対する相手には容赦のない口調になる。
『
アンシアの有する神器。システムのバグで生じたらしく、近代や火縄銃まであらゆる銃を作り出すことが出来る。既に禁手に至ってるらしく、銃の構造も仕組みも書き換えながら造ることが可能。
シーマ・バックマン
神王派『戦車』、兄であるシフリンと共に成り立っている。臆病というか、気弱な性格。シフリンの性格に困ってはいるが、尊敬している。シフリンや他の皆からもその精神性を指摘されており、神器の強さもあって将来を期待されている。
ヴリドラ系の神器を見て狼狽する事もあり、過去に何かがあったらしい。
『
重力系の神器。球状のドーム内にいる生物に重力を与える事が出来る。相手を選ぶことが出来たり、遠距離の個人だけを狙う事が出来るなど、精密性に優れている。
シフリン・バックマン
神王派『戦車』、妹であるシーマと共に成り立っている。自信過剰でナルシストに近い。シーマの事を大事そうに可愛がっている。
ヴリドラ系の神器に何か思うところがあるらしく、達観した様子であった。
『
重量系の神器。自分や相手に特大の重さを付与する。重さを固定化させた重石なども相手に取り付けたり出来る。
朧
神王派『兵士』。全身を黒い外套で覆った2メートルの怪人。悪魔からも異形と称される程の体格をしており、神王派でも異質な存在(しかしアンシアやシフリンからはちゃんとした仲間である事は間違いない)
魔瘴と呼ばれる、魔力を吸い上げる危険な瘴気を操ることが出来、それを利用して相手を追い詰める。朧は黒い外套の内側に魔瘴を溜め込んでおり、それを放出して戦う。