ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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真天龍/降臨

夏鈴と練。

彼等は一定の距離を崩すことなく、睨み合っていた。何秒もの間、呼吸の音だけがあるだけであった。

 

 

しかし、その均衡も何時までも続かない。何故なら両者には戦いの覚悟が出来ていたからだ。

 

 

 

 

「─────ッ!!」

 

先手を打ったのは夏鈴であった。地面に手を押し当てると、地盤が大きく隆起した。地下から伸ばした巨大な木の根を操り、土を圧縮する。泥団子のようにまで丸く固められたそれを見せびからすこともせず、樹根は勢いよく投擲する。

 

 

 

動じること無く、練も散弾銃を土塊へと向ける。同時に、彼の胸元にある神器が、回転をし始めた。

 

 

『Effect Bullet!type──BREAKERZ!』

 

 

新たな球体が装填されると共に、光のラインが練の全身から銃へと伝わる。引き金を引いた時に飛び出したのは、普通の弾丸であった。しかし土塊に被弾した直後、弾が複雑な光のラインを灯すと共に、

 

 

 

 

土塊を、木っ端微塵に粉砕した。

散弾銃を肩に乗せ、嘆息する練。破壊した土塊の破片を踏みながら、彼は夏鈴へと目線を向ける。

 

 

 

「クッ!あらゆる現象を実現させる真天龍の力!ここまでとは!」

 

「こんなもんじゃないさ、ヴェルグの力は。ただあんな塊をぶっ壊すことなんて誰にでも出来る────こっち側の奴なら、だろ?」

 

「まぁ………そうでしょうね!」

 

 

指輪の光を強めると共に、夏鈴の周囲にある植物が急成長をしながら練へと飛び掛かってきた。鞭のように、槍のように、刃のように、それら全てが様々な、変則的な攻撃を振るう。

 

 

練はそれら全てを回避していく。しかし全てを避けきれなかったのか、腕に傷が出来ていた。掠り傷よりは深いが、大きな傷とは言えない位だ。

 

練は眼を細めると、散弾銃を片手にもう片方の手を胸元へと掲げ、告げる。

 

 

「────ヴェルグ」

 

『Effect Status!type──ATTACK・ONELANC UP!SPEED・ONELANC UP!』

 

 

単語に合わせる形で練の全身に光のラインが伝っていく。それを見逃さないという風に、植手の刃の猛攻が迫る。その瞬間、

 

 

 

 

練は先程よりも数段上と言えるような凄まじい速度で、植手の嵐を掻い潜っていく。避けているというよりも、高速で突き抜けている感じであった。

 

 

 

夏鈴へと迫っていく練は散弾銃を持たない右腕を振るう。全ての指を握り締め、彼へ狙いを定めた拳を振り下ろした。咄嗟の判断で夏鈴は植物によって自身を引き寄せた。それによって、当たることは免れた。

 

 

 

ズドォォンッ!!! と。

地面をぶち抜いた破壊音が響き渡る。人間の力とは思えない、圧倒的な筋力による攻撃だ。パイルバンカーでも打ち込まれたかのようなクレーターが地面に残される。

 

 

 

これも、練の神器『真天龍の心核(エフェクション・ヴァンガード)』の能力の一つだ。己の能力指数をステータスとして設定し、能力によって段階的に上昇できるようにする。練が赤龍帝や白龍皇を参照にして編み出していたものでもある。

 

欠点もあるが、それは一度設定したステータスは一度解除しないと別の効果を発動できないことだ。当然ながら上書きも出来ない。必要な時間はおよそ一秒だが、戦闘においては充分すぎる弱点となる。

 

 

 

「っ!!」

 

攻撃を回避した夏鈴もすぐさま次の動きへと映る。自身の腕に発生させた樹木を纏わせると、巨大な槍へと変換する。それを練へと迷うこと無く突き立てようとする。

 

 

しかし俊敏さは失われていない練は槍の射程距離からすぐさま離れる。近くの木へを足場として着地し、しかし蹴り飛ばして夏鈴の真上へと跳ぶ。

 

 

そして、夏鈴目掛けて銃を向ける。

火花と共に無数の弾丸の雨が降り注ぐ。慌ててもう片方の腕に纏わせた樹木の盾で銃弾を防いでいく。

 

 

しかし、そこで夏鈴は疑問に思う。何故、無数の銃弾なのかと。練の持っていたのは散弾銃だ。単発ゆえに強力な威力を誇る近距離タイプの銃。こんな真上から沢山の弾を撃ち込めるタイプではない筈だ。

 

 

何より、練の持っている銃。前見たよりも明らかに小さい形、それは──────二つの単機関銃(サブマシンガン)だ。どう見ても先程の彼の武器と形状が違う。

 

 

 

「ッ!───散弾銃じゃない!?」

 

「ただ弾を撃つだけの神器じゃないって事だ。勿論、こんな芸当も出来る──────!」

 

 

空中で練は単機関銃を組み替えながら回転する。彼が一回転する頃には変形した二つの銃が彼の手に収まっていた。しかし、サブマシンガンでも、ショットガンでもない。

 

 

狙撃銃。明らかに質量すら変形しているそれを、練は担ぎだすと共に狙いを夏鈴へと定める。

 

 

 

直後に、狙撃を行った。

放たれたのは魔力による暴力。魔弾という、ある種の道具の一つであるが、彼はその魔弾に爆発すると同時に周囲に衝撃波を送る魔力を蓄積させていた。故に、単なる狙撃と一緒にしてはいけない。

 

 

榴弾のような一撃。慌てて花吹雪と変化する夏鈴の目の前で、地面へと食い込んだそれは爆弾のような火花を辺りへと散らす。

 

 

 

花弁から元へと戻った夏鈴は、着地した練に向けて声を荒らげる。

 

 

「─────解せない!そんなに強いのに!何故、僕達の思想を否定する!?何故、悪魔の為に戦う!!」

 

「否定したつもりは無いんだがな。ま、テロリストの考えを理解するのも無理な話だろ。

 

 

 

 

 

 

 

俺は俺の復讐の為に動くだけ、だ!!」

 

 

銃の形を変換させた練の射撃が、夏鈴の真横へと炸裂する。最早弾丸というよりも魔力の奔流でしかない。SF世界のビーム砲みたいだと思いながらも、夏鈴は反撃を続ける。

 

 

「復讐なら!僕達と共にすればいいッ!!悪魔を守る理由にはならない!むしろ君には!悪魔を憎む理由しかない筈だッ!!」

 

 

彼は事前に、黒月練の情報を教えられている。だからこそ、よく知っている。彼が自分達と同じように、理不尽に奪われた被害者の立場の人間であることは。

 

 

 

「愛する故郷を!共に過ごしてきた仲間や家族、そして親友を失った貴方は、彼等を糾弾する資格がある!同時に、奪われた者として──────復讐する権利がある!!それは誰にも止められない!例え、大切な人からの言葉だとしても!!」

 

 

 

ふん、と夏鈴の叫びを聞いていた練が鼻で笑った。まるでそんな事か、とでも言わんばかりに。

 

 

「─────同列にした気か?俺とお前達を」

 

「……………………何?」

 

「笑わせるなよ、テロリスト。俺の復讐とお前達の復讐、同じものに並べられるようなものじゃない」

 

 

戦う手を止め、練は元に戻った散弾銃を夏鈴へと向ける。その上で、冷徹に告げる。

 

 

 

「俺の復讐は──────既に半分叶おうとしてるんだ」

 

 

会話の最中でありながらも、躊躇うことなく、引き金は引かれた。銃口から放たれる魔力の砲撃を、夏鈴は避けていく。

 

 

 

「悪魔勢力に、奴等がもたらした負の遺産である『悪魔の駒』の罪を改善させる。そして奴等を公然の元にさらけ出し贖罪させる、それが俺の復讐だ」

 

 

それでも練は、魔力砲を止めることはない。連射していきながら、的確に夏鈴を追い詰める。

 

 

「魔王様方には土下座でもして貰って、今まで迷惑かけてきた連中に誠心誠意謝罪するんだ。勿論、それだけじゃ済まさない。例えどんだけ恨まれようと、その恨みを受け入れ、償ってこそ、悪魔の連中への俺の復讐は充分だ。後は俺の故郷を滅ぼした悪魔だけだ」

 

 

話を聞いていた夏鈴ですら、唖然としていた。しかしすぐさま我を取り戻したのか、歯をギリギリと噛み締めて、彼を睨む。

 

 

「なんだ、それ…………?貴方は、連中を許す気か!?アイツらを生かし続けるのか!?」

 

「許す?馬鹿が、俺はアイツらを許さないさ。ただ、それは上の連中だけだ。今の時代に生まれてきて、何も知らない奴等までは憎んでない。俺以外の一族を滅ぼされたからって、奴等全員を憎んで殺すつもりはないさ」

 

「そんなの──────復讐じゃないッッ!!」

 

 

周囲の植物を肥大化させ、練へと襲われる。しかし彼は神器で強化された銃撃で植物を消し飛ばす。迅速に、的確に。

 

 

一発も外すことなく、確実なやり方で撃ち込んでいく。そうしながら、練は口先を歪める。

 

 

「復讐じゃない?正しい復讐を、お前は知ってるのか!?一族全部を悪として、なにもしてない奴等まで殺し尽くすのがお前達の復讐か!?面白いやり方だな!まるで国敵としてユダヤ人を差別してきたナチスのような発想だ!!」

 

 

最後に飛び出してきた巨大な樹木の塊。散弾銃で撃ち込もうとして、魔弾を装填する必要があることをすぐに気付いた。散弾銃を持ちながら、練は右腕を構え─────樹木を貫通するが如くの力で粉砕した。

 

 

「お前達の復讐なぞ知らん!それが正しいかも間違ってるかも、俺にはどうでもいい!人の数だけ真実があるなら、復讐も数だけ真実がある!全てのやり方が間違ってもいるし、正解でもある!!

 

 

 

 

 

なら、俺の復讐は正しくもあり間違っているんだろうな!だが関係ない!復讐をするのは、どのような復讐かは個人の問題だ!他人にとやかく言われる謂われなんてものは存在しない!!俺もお前達の復讐を否定しない!だからこそ、俺の復讐にも、とやかく言わないで貰うぞ!!」

 

 

 

その言葉に、反論は聞こえなかった。否定する事も出来ない夏鈴は両手を大きく広げる。そこから、自信にとって特別な詠唱式を口にした。

 

 

 

「咲き誇れ!戦場の乙女達よ──────『薔薇の乙女騎士団(ローゼンクロイツ)』ッ!!」

 

 

パァン! と夏鈴が両手を重ね合わせる。彼の背後から巨大な荊が地面から飛び出し、グルグルと複数の荊の球体を作り出す。

 

 

ドクゥン……!と胎動したかと思うと、荊は引き裂け、中から人の姿をした者が姿を表した。

 

 

 

全員が、女性。しかし人ではない、精巧に形作られた人形だ。荊によって作られた鎧を身に纏う、戦士のような風貌の人形。

 

 

それはさながら────戦乙女(ワルキューレ)だ。北欧の主神 オーディンの娘達であり、英雄達を導く者の呼称。数はざっと見ても数人。戦争的に見れば不足しているが、それでも個人の相手であれば充分だろう。

 

 

 

更に、変化は続く。

 

 

地面が盛り上がると共に、巨大な大木が生えてきた。文字通りの意味で、土を食い破りながら。練はそれを足場とするが、成長していく樹木によってすぐさま上空へと駆り立てられてしまう。

 

 

「…………舞台を変えさせて貰いました。ここでなら、僕も存分に暴れられる」

 

 

練の周りには、複数の『薔薇の乙女騎士団(ローゼンクロイツ)』が並んでいた。練のように大樹を足場にしている者もいれば、空を舞う者もいる。

 

 

 

「数の差で圧倒させていただきます───悪しからず」

 

「……………生憎だが、そんな真似をさせるつもりはない」

 

 

 

吐き捨て、練は胸元に手をやる。より正確には、心臓部に重なるように浮かび上がる彼自身の神器へと。

 

 

 

「真天龍、現象再現────幻実武装(イマジネイト・アウト)

 

『────現象固定、装填開始』

 

 

練の口にした難しい単語と共に、胸元のコアが新たに宝玉を装填する。しかし、何時ものようなものとは違い、明らかに別の────六つの宝玉。

 

 

 

リボルバーを回すように高速回転を始めたが、すぐにカチリと特定の部分に宝玉が停止する。

 

 

 

漆黒の珠であったそれは組み込まれると共に、すぐに新たな文字が浮かび上がった。しかし、今までのような英語ではなく、単語のような羅列であった。

 

 

 

 

 

────『黒刃の狗神』、と。

 

 

 

その宝玉が装填された瞬間、練の全身に凄まじいエネルギーが伝わっていく。指先へと、足へと、脳髄へと。そして、足元から黒いオーラが膨れ上がる。巨大な蔓や大木の上に立ち、練に狙いを定める戦乙女達にも、変化が生じた。

 

 

 

ズザシュッ!! と乙女達の身体が、貫かれる。彼女達も、何に攻撃されたのか分からない様子であった。

 

当然だ、何なら練は微塵も動いてはいない。彼女等を突き穿ったのは、足元や大木の影から伸びた刃だったからだ。

 

 

串刺しにされた乙女達から意識を外し、練は空を舞う乙女達へと意識を向ける。掌を彼女達へ向けながら、ぐっ! と精一杯握り締めた。その上で、告げる。

 

 

 

 

「闇よ、陰よ────切り裂け」

 

 

瞬間、黒月練の足元の影から闇が放出された。違う、それらは刃だ。剣の形をした無数の影、まるで一つの津波のように、物量を纏いながら、空中にいる乙女達に牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────何だよ、あれ」

 

 

遥か上空の出来事、それも地上にいる一誠達には見えていた。普通の人間ならば、ようやっと見えるくらいの距離だが、悪魔となった事で視力は人間時の何倍も上がっている。

 

 

故に、真上で起きてる現象を確認できた。練が神器を使った途端、影から出てきた刃が夏鈴の産み出した人形の女性達を貫いていたのだ。

 

 

彼の神器は聞いていたが、そんな能力はなかった筈────

 

 

 

『────アレは…………まさか、あの力をあそこまで使いこなすとはな』

 

「ドライグ、あれが何なのか知ってんのか?」

 

『あぁ、勿論だ────相棒、よく聞け。あの影の刃はヴェルグの能力で作り出されたものが、あれが奴の能力ではない』

 

 

はぁ!? と面食らう一誠。説明を聞いてるとますます混乱してくるが、ドライグは気にせずに話す。

 

 

『俺の覚えている限りでは、あれは別の神滅具によるものだ。「黒刃の狗神」だったか………、他の神滅具とは違い、本物の神殺しと言われる力の片鱗が、あの刃だ』

 

「…………じゃあ、練の奴は」

 

『ヴェルグの能力は現象や効果を起こすこと。つまりあの黒月練という小僧は、あの影の刃という現象を起こしてるだけに過ぎん。だがそれでも、神滅具による力を再現するなど並みの神器や神滅具では出来ん─────たった一つの力しか使えんのは、奴がまだ未熟という証拠か』

 

 

他の神滅具の力を使える。

端から見れば凄まじく強大で、単なる神滅具ではないのは明白だ。だが、ドライグから見ればそこまで恐れるべきものではない。

 

 

能力を使っているのではない。彼が一度眼にした、体験した神滅具の能力を再現しているに過ぎない。模倣やコピー、それよりも優れてる程度だ。何より、制約もあるのだからまだ完全に使えるわけではないのだ。

 

 

 

『怯えるなよ、相棒。あれなぞまだまだ序の口、真天龍の力の片鱗に過ぎん。そもそも、俺達が踏み進む領域にすら過ぎないのだ』

 

「………どんだけヤベェんだよ、お前ら」

 

 

戦慄する一誠。あんな相手を越えようというドライグの考えに少しだけ萎縮している。そんな無茶を、と。

 

 

 

そして、一瞬の内に大木にヒビが入る。いや、正確には砕けている。内側からの崩壊によって、全体が朽ちていき、ついにはバラバラに破壊された。

 

 

大木から落ちる影が二つ。一つは地面へと叩きつけられ、もう一つはゆらりとした動きで地面に着地する。その二人の姿が煙から晴れて、鮮明になる。

 

 

 

 

「………………っ!!」

 

「これで後は、お前だけだ」

 

その一人、黒月練は超然とした様子を保っていた。対して夏鈴は弱々しく、地面に突っ伏していた。

 

 

口から血を流しているが、目に見えた傷はない。どうやらあの乙女人形を破壊された事で彼にもダメージがいっていたらしい。あの大木が壊れたのも、それが理由だと思われる。

 

 

 

「…………流石、黒月練……っ!僕の全力でも、ここまでとは……っ!!」

 

 

勝負の結果は歴然であった。

黒月練は難なく、一誠の苦戦した夏鈴を下した。この現状こそが、何よりの現実であった。

 

 

 

 

 

 

「………すげぇ」

 

「……………」

 

 

勿論、一誠とリアスもその事実に言葉を失っていた。練との実力差があることは分かっていたが、一誠を苦戦させるまでに追い込んだ夏鈴をあそこまで圧倒するとは思ってもいなかった。

 

 

「─────決着はついたようだな」

 

「っ!?タンニーン!!いつの間に!?」

 

「すまんな、リアス嬢。予想よりも早く戻ろうと思っていたが、思いの外あの猿が手強かった」

 

「────よく、言うぜぃ………っ。ずっと俺っちを圧倒してやがったってのによぉ……………」

 

 

真後ろから掛けられた声に振り返ると、唐突にタンニーンがこの場にいた。驚愕するリアスだが、彼の横に息切れをした美猴がいたのにもっと驚いた。

 

 

「タンニーン、彼の相手は良いのかしら?」

 

「要らぬ心配だ。奴もある程度満足したようだ────それよりも、嫌な予感がしてな」

 

「…………予感?」

 

「胸騒ぎのする感じだ。丁度、リアス嬢達の方角からして、区切りの良いところで勝負を終わらせてきたのだ。奴も気になっていたみたいだしな」

 

 

タンニーンの発言にリアスが美猴に眼を向けるが、彼はニタニタと笑いながら夏鈴を見つめているだけであった。

 

 

 

 

 

 

「…………こうなったら、やるしかないか」

 

 

噛み締めるように呟く夏鈴。何処か躊躇しているようではあるが、思い悩んでいた美青年は決意したようだ。

 

 

「出来ることなら─────使いたくはなかった」

 

 

様子が変わったことに気付き眼を細める練の前で、夏鈴が指輪の神器を解除する。その行為に誰もが、練すらも眼を疑った。

 

 

この場で神器を解除するということは、夏鈴は無防備になることだ。わざわざそんな事をする意味があるのだろうか。

 

 

 

その理由は、すぐに明白になる。

 

 

「────魔力回路、擬似的封印解放。神経模倣術式、起動。筋繊維魔力強化、開始」

 

 

両手に組み込まれた術式が起動し始め、全身の術式を輝かせていく。稼働した術式が夏鈴の体内の魔力を練り、増幅を繰り返す。

 

 

「準備は整いました────これより見せましょう。僕の、僕の本来の真髄を」

 

 

自信に満ちた表情で、夏鈴は余裕のある表情を見せつけていた。自身の周りにいるあらゆる強敵を前にしても怯えることもない、確信という名の余裕が。

 

 

 

 

 

 

 

「何なの……?あれは、どういうことなの!?」

 

 

端から見ていたリアスは、その変化に明らかに困惑する。夏鈴の変化はあまりにも異質すぎる。神器による強化でもなく、夏鈴自身の真の力とも言えないようなもの。

 

 

だが、それでも。見ていただけで、その恐ろしさは理解できる。

 

 

「見て分からねぇかい?────降臨だぜぃ」

 

 

「………降臨、ですって?」

 

 

誰の?と聞いたリアスに、見ても分かんねぇのかい?と彼は言う。その顔には苦笑いに似た笑みが浮かんでいた。勘弁して欲しい、といった、一度体験したことのあるかのような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全回路解放、術式接続完了。あらゆる基盤は、磐石の元に整った──────後は、呼び至らせるのみ」

 

 

 

突如、夏鈴を中心に広大な術式が解放された。複数の魔方陣とそれを繋ぐ魔力の流れ。それら全てが膨大でありながら、精密で絶大すぎる。この場に魔法に詳しい人間がいない。もし魔法使いであるアイリスがこの魔法陣の塊を見れば、絶句してしまうだろう。

 

 

かつて存在した魔術師の中でも有名な存在。彼等ですらこれを使えるのか分からない、それ程までに強力かつ壮大な術式の塊なのだ。最早熟練魔術師が生涯を掛けて造り出した大結界のような。

 

 

 

 

「─────神滅具、望み通りの強さでした。これが神器との格差、虚しいですよね。でもそれ以上に、種族しての差もありすぎる。僕達人間には」

 

 

構築術式の塊に包み込まれる中、夏鈴は一人でに呟いた。練や一誠にすら意識を向けていない。完全に独り言なのだろう。

 

 

「僕の故郷は人里離れた集落でして。生贄を神様に捧げることで生き永らえる事しか出来ない人達の集まりでした。当然僕も、その生贄になる予定でした」

 

「…………」

 

「神に愛される体質、『神の器』。それが僕という人間の唯一誇れる特徴でした。僕の肉体は、神様やそれ以上の存在が入ることが出来る最上の肉体です。かつて僕達の村の守り神も、僕の身体を欲しがりました──────今の僕の肉体は、そこそこ有名な神程度ならば、充分受け入れられる程のものらしいです」

 

 

 

『神の器』。

偶然、アザゼルの纏めていた研究書に載っていたのも覚えている。神に好かれ、強引に拐われてしまう少年。愛おしさのあまり襲われ、身に覚えの無い子を身籠った女性。他にも複数あるこれらの事例は、神に好まれる性質を持つからだと言われていた。日本古来にあった神の酒、それが遺伝子に染み込んだという仮説も存在していた、

 

 

 

だが、その稀少な確率よりも下回る形で存在する、体質こそが『神の器』だ。神という存在、日本に多く存在する神々が自然に求めるという天性の肉体。神という上位種が入り込んでも容易く馴染めるという。

 

 

滅多に存在しない者で、実際に研究は出来なかったらしいが、アザゼルは『神の器』に対してこう述べていた。

 

 

 

 

──“『神の器』とは、神だけに許された肉体ではなく、神でも完全に収まりきる肉体ということになる。これは容量の話になる。人間の肉体には力を溜め込む容量が存在する、神滅具使いはこの容量の限界を少しずつ広げていくことで神滅具を扱えるようになる。一方で、『神の器』はその必要はない。何故なら神が入れるほどの容量が既に整っているのだから。神の依代というよりは、膨大な力を受け入れる受け皿のようなものだ。だが、限界というものも存在する。だからこそ器に入り込んだものに適応して、より最適な器になるからこそ、『神の器』と呼ぶべきなのだろう。実際にこういう体質の人間が何人もいて、昔に存在したってのは神秘という時代が鮮明に浮き出てたからだろう”

 

 

 

難しい話だったが、分かりやすく言えば簡単だ。今、夏鈴がしようとする事は、何らかの膨大な力を肉体に受け入れることだ。

 

 

全身に術式を組み込んだり、膨大な魔力を内包させていたのも、その為だろう。

 

 

「かつて、僕の親だった人は言いました───『人は悪魔や神には勝てない、何故なら彼らの方が優れているからだ』と。僕は強ち、この考えは間違ってないと思います」

 

 

身の内話を始める夏鈴だが、何処か適当だ。自分にとってあまり興味ないものなのだろう。

 

 

「だからこそ─────貴方達がどう足掻こうと勝てない存在も、この世にいるのは必然でしょうね。まぁ最も、僕達からすれば当然なんですが」

 

 

光と術式と魔力の渦の中心で、夏鈴は歪んだ笑顔を浮かべる。善意と悪意、それら二つが入り交じったような複雑な笑みを。

 

 

「存分に味わってくださいね?圧倒的な強者に、絶望する味を。かつて貴方達が、僕達に与えたように──────」

 

 

 

その瞬間、何の躊躇いもなく夏鈴は術式を完全に起動させる。無数の接続されたラインからラインへと魔力が流れ、膨大な力が、夏鈴へと流れ込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────────ッッ!!!!!!」

 

 

無言の絶叫が、森へと響き渡る。

膨大な力を取り込んだ夏鈴が全身を震わせ、軋ませていたのだ。あまりの衝撃と負荷に、彼の身体は今にも倒れそうな程だった。

 

 

同時に、練と一誠の神器が激しく震動を始めた。中にいる天龍達も予想は出来ていたらしいが、僅かな驚愕はあるようだ。

 

 

 

それは、共鳴であった。

同じ神器使いでも滅多にない現象の一つ。或いは、恐怖だろうか。彼等は、天龍達は理解した。夏鈴という青年が、一体何を自らに内包したのか。

 

 

 

絶叫が突然、停止する。後ろから倒れ込みそうになった夏鈴が、すぐさま態勢を立て直した。しかしそれは、一見あまりにも異様であった。全身が上手く動かないのか、彼はパキパキと骨を鳴らしていた。挙動も、おかしい。間接が錆びたロボットのように、動き方が歪だ。

 

 

髪を振り回すようにして、顔を上げる夏鈴。その瞬間、奇妙な感覚に襲われるリアス達を他所に、二つの影が同時に動き出した。

 

 

 

黒月練と、タンニーンである。

 

 

 

「リアス嬢!!下がれッ!!」

 

「─────ッ!!」

 

 

タンニーンが喉の奥から灼熱を蓄積させ、練が散弾銃の神器に力を変換させる。

 

 

両者が放つは破壊の一撃。龍の放つ業火の息吹と、攻撃力を優先的に上昇させた事による魔弾。二つの攻撃がほぼ同時に、夏鈴の方へと迫っていく。

 

 

 

しかし、その瞬間。

青白き光に包まれていた夏鈴が静かに手を伸ばす。腕から手へと、光のラインが伝わっていき───、

 

 

 

 

 

────龍王と青年がそれぞれ放った一撃は、一瞬で受け止められた。ただ止めたならば、半ば納得できたかもしれない。しかし、触れる事すら敵わないであろう攻撃を素手で止められたのだ。

 

 

 

夏鈴は灼熱を浴びても平気そうな顔だった。それどころか、腕を軽く振るい、業火を消し飛ばす。魔弾すらも直に受け止めた訳でもない。

 

 

空間ごと掴んだ。そう思ってしまうような、異様な出来事。

 

 

 

「…………」

 

「クソッ………俺達の最大火力だぞ。あんな簡単に弾き落とすかよ」

 

ヒタリと、冷や汗を濡らしながら、青年を睨み付けるタンニーン。その横で練は、目の前の出来事に失笑しているようであった。悪態を吐くその姿は、先程までの彼には見られない弱気な感じがあった。

 

 

 

 

 

「………う、嘘」

 

 

そんな最中、ポツリと漏れるような声が聞こえた。一誠とリアスは振り返ると、小猫が茫然とした様子で呟いていたのだ。

 

 

しかしその様子は普通ではない。全身から汗という汗が噴き出し、顔は真っ青になっている。目の前に映るものがそれだけ恐ろしいか、彼女は怯えながら言う。

 

 

「あ、あれだけの気………人間のものじゃ……ありません。魔王様よりも、神様よりも膨大な気の量───まるで、星──────っ」

 

 

「小猫ッ!?しっかりして!?」

 

 

「………無理もないにゃん。あまり慣れてない白音が意識を失うのは」

 

 

「………黒歌、どういう意味?」

 

 

「私や白音は仙術に秀でてるのは分かるでしょ。だから魂とか気の強さを見て分かることが出来る。理解できるでしょ、あんまり仙術を使わない白音ですらそうなるのは。私だって初対面の時は失神するかと思ったから、仕方ないけどね」

 

 

はぐれ悪魔として最上位に位置する黒歌ですら、当初は意識を落としたレベル。リアス・グレモリーはそれに戦慄する。だが、彼女は考えが甘かった。

 

 

 

 

 

黒歌は更に、信じられない事実を口にしたのだ。現状、このオーラと気を肌に感じた者にとっては、到底耳を疑うような事を。

 

 

 

「まぁ、あれでもまだマシな方ね。本来より格段と力を落としてるわ。旧魔王クラス以上、神クラス程度かにゃ」

 

 

「……………あれで?弱体化してるって?」

 

 

喉が干上がっていくような寒気が、話を聞いていた一誠を襲った。練とタンニーンの攻撃を軽く弾いた夏鈴の力は恐らく先程の何倍もある。それなのに、これがまだ弱い状態だって?

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────ふむ」

 

 

夏鈴は、いや『彼』は冷徹な目で自身の腕を見つめていた。己の手を開いたり閉じたりを繰り返し、調子を確かめるように振る舞う。

 

 

 

まるで、別の人格が出てきたように。いや、そもそも肉体そのものが変化したと言っても過言ではなかった。

 

 

金色に光り輝く瞳を細めながら、彼は呟く。

 

 

「────問題なく術式は起動したようだな。全く、危なくなったらすぐにでも使えと言っておいたのに。夏鈴と来たら、ここまで無茶しなくても良いだろう」

 

 

胸元に手を当て、回復魔法を使用する夏鈴。魔力を一度も使った事の無い肉体をしていた筈なのに、思いの外魔法は使い慣れてる様子だった。

 

 

そして、己の肉体の傷もすぐさま癒す。アーシア・アルジェントの神器に匹敵するかそれ以上の治癒の魔法。振り返り、自身の結われた髪を見つめ…………パチンと指を鳴らし、髪止めを弾き、切断した。

 

薄い金色の長髪を撫で下ろし、『彼』は静かに告げる。自分ではない、誰か────おおよそ、別人であろう夏鈴に向けて。

 

 

「悪いな、折角の髪止めを切ってしまって。しかし今の俺としては、この方が馴染みがある。勿論、この服もな」

 

 

今度はいつの間にか、マントを目の前に出した。手に取ると共にそれを羽織るようにして、青年は身に纏う。そして、一誠や練達に向けて、ニヤリと微笑みかけた。

 

 

 

 

 

その笑みを見た瞬間─────その場の全員の背筋が冷えきった。蛇に睨まれた蛙、どころの話ではない。こんな重圧、龍に睨まれていると言っても言葉不足だ。

 

この場にいる二人と一体が天龍を宿し、龍の王たる存在であるが、それでも蛙である事は変えられない。

 

 

 

 

 

 

 

「──────誰だ、お前は」

 

意を決するように、練が問いかける。青年の視線がすぐさま彼の元へと集中する。それだけで、練は更なる重圧を受けたようであった。冷や汗がぶわっと溢れ出し、喉の奥が詰まりそうになる。

 

 

しかし、狼狽えることもなく、逆に前へと踏み出し、恐怖を何とか抑え込む。そうして、言葉を続けた。

 

 

「夏鈴じゃない、お前は………その身体を使い、今動かしてるお前は、誰なんだ!?」

 

 

それを聞いた青年は短い嘆息を漏らすと────興味が湧いた、とでも言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅん、そうだなぁ。自己紹介が必要か。良いだろう、それくらい名乗ってやるさ。王の務めだからな」

 

 

光の色を取り戻したような金色の髪が風に揺れる。忠節を尽くしていたような青年の風貌は、何処か別のものとなっていた。

 

 

彼はマントを大きく払いながら、堂々とした立ち振舞いを見せる。当然だ。それが彼にとって相応しい行動なのだから。

 

 

 

誰しもが、その名を聞けば理解するであろう、名を。彼は告げる。

 

 

 

 

 

「────オレこそは、“神王”」

 

 

その瞬間、世界が揺らいだ感覚に襲われた。

神王という存在の名乗りを、冥界そのものが聞き入れ、原始的な恐怖に震えたかのように。

 

 

「人類を救う者達の集まり、『神王派』を束ねる人王。天災の神滅具であり究極の神滅具、『神王の十二宝具(ゴッデス・アルティマ・ヘイルズ)』を宿す者。人理救済を掲げる、人類の救世主だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、今は夏鈴の身体を借りてるわけだが…………お前達の相手には、十分だろう?」

 

 

 

悪魔達の宴会に襲撃を掛けた敵勢力、『神王派』。その創設者と思われると同時に、組織の名前である人物。夏鈴の肉体を借り受けた存在は、余裕に満ちた声音で優しく言いかける。

 

 

 

自身の実力を信じる、絶対的な強者の風格と共に。

 




練の神器の能力について補足。


練は自身の先輩でもあり数少ない尊敬できる人 幾瀬鳶雄の神滅具の技を再現しただけです。練の神器は自身が見たり経験した相手の能力や技を現象として引き起こす能力です。

しかしこれの制限は、使える能力は一度に一回だけであり、他の能力を使うには現在使っていた能力を解除して、数秒のタイムラグを経て能力を装填する必要があります。


強くなくね?と思われる方もいるかもしれませんが、この神器は神滅具の禁手すらも再現できます。これでも禁手無しなんで強い方だと思いますけども。



そして、神王の降臨回。この作品ではオーフィスやグレートレッドに並ぶとか言われてるラスボス候補の存在です。前々から登場してましたし、今回の章で出そうと考えてました。



因みに神王はラスボスに相応しいチート具合です(悪魔や神よりも化け物染みてると言ってもいい)
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