ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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明けましておめでとうございます(遅いわ)何ヵ月も送れてしまい申し訳ありません!!


神王

「────『神王』、だって?」

 

 

呆然と呟きが漏れる。

唖然とする一同を微笑みながら見据えるのは、金髪の青年 夏鈴。しかし今は、別の人間の意識が入った状態になっている。

 

 

その名こそが、神王。

前々から聞いていた倒すべき敵であり、そして誰にも止められないとされている最強の存在の名でもあった。

 

 

 

(この凄まじい重圧───馬鹿な俺でも分かる!コイツは、俺達とは別次元の存在じゃねぇかッ!?)

 

 

籠手に力を込め、恐怖に震える一誠。目の前の相手の圧倒的な実力差に気付いており、脳裏には既に敗北という事実が浮かび上がっている。

 

 

(クソ………ッ!最悪だ!よりによって頭目が姿を現して来るのか!)

 

 

黒月練も、同じであった。

まさか夏鈴の隠している切り札が、自身の肉体に神王を憑依させることだとは思わなかった。そんな事が最初から分かっていたら即座に撤退を選んでいただろう。

 

 

それ程までに、神王という存在は驚異なのだ。無限の龍神(オーフィス)、それを超えるとされる『夢幻』、それらに位置する程のものだからこそだろう。

 

 

 

 

 

「─────まぁ、待て」

 

 

緊張する彼等に対し、神王は親しげに接する。軽く伸ばした手を制するように前に出し、軽い声で言う。

 

 

「あまり気張るなよ。いくら王だと言っても、今の俺は夏鈴の身体でいるだけ…………まぁ、本来の力よりも格段に衰えている。絶望する事はない」

 

 

配慮したような優しさと、自信満々な余裕が滲む発言。彼はニヤリと笑い、自身の首元に指先を向け、ピッ! と横に切る。

 

 

「ほら、俺が無防備でいる今なら殺せるかもしれないぞ?ほら?やってみたらどうだ?」

 

(何を言っている……!?この場で最も強いと自覚してるしてるだろうにッ!)

 

 

質の悪い言い方だ。

誰よりも対応できる癖に、試してくるように言ってくる。無論、この場にそんな妄言を信じて動く愚者はいない。感心したように笑みを深くする『神王』は「冗談だ、気にするなよ」と嘯く。

 

 

マントを払い、神王は一誠達に呼び掛ける。

 

 

「それか、聞きたいことがあるのならば答えてやろうじゃないか。────少しだけだが、誰か聞きたい者はいるかな?」

 

「…………なら、俺が」

 

 

冷や汗を隠し、唾を飲み込んだ練が応える。

率先して動いた彼に、全員が驚愕したような視線を向ける。神王も、へぇ?と期待したように見てきた。

 

 

しかし練は、神王だけを見据え───口を開く。

 

 

 

「─────アザゼルはお前を、今の神王を歴代最強と言っていた。それもオーフィスに並ぶ、或いは越えるかもしれない存在だと。それだけは分かる。だが、お前を最強足らしめる要因は何だ?」

 

 

その疑問に対する神王の答えは、単純なものだった。

 

 

 

「『神の子』、と言えば分かるか?」

 

 

その一言に、練は顔をしかめる。

口の中の舌打ちも隠そうとせず、全てを悟ったように噛み締めた。

 

 

「………『神の子』、概念的な偶像か」

 

「……………?『神の子』って何だよ」

 

「お前にも分からないのは当然だろうな。『神の子』は、人々の願いの具現化した存在だ。究極の聖人、超人と呼ぶべき者。かつてのキリストが良い例だ。神の代行者として産まれたキリストこそが唯一にして原点の『神の子』。人々の『救い』を求める願いの結晶だ」

 

 

言うなれば、神器という技術の亜種だ。

人の願い、個人の強い想いを以て発現及び進化する神器。それに対して『神の子』は、全ての人の願いが蓄積されることでその強さを増す。願いの数が多ければ多い程、『神の子』は強力な力を伴って誕生する。

 

 

「その通り、流石は叡知や技術を好む堕天使総督の秘蔵っ子だ。だが、俺はそんな簡単かつ単純なものではない」

 

 

首を横に振った神王。彼は掌をゆっくりと開き、手の内を見つめながら呟き始めた。

 

 

「キリストが世界から去り、数百年、いや数千年かな?世界では多くの人の命が失われた。人類同士の戦争、そしてお前達三大勢力の行い。積み上げれば山となり海となり、世界を飲み込む程の屍が増やされた。苦痛の果てに、絶望の果てに、人々は死ぬ最後まで誰かに願ったのさ。

 

 

 

 

誰か、私達を助けてください、って」

 

 

命は消える。肉体も消える。

しかし思いは、願いだけは消えずに残り続けた。数百年の間、犠牲となった人々の助けを求める声が、思いが、集まり続けたのだ。

 

 

「何百、何千、何億、何兆。無限にも至る苦痛と助けを求める声、それが俺の血肉であり、俺の繭でもあった。既に死に絶えた母の骸から産まれ落ちた俺は、いつの間にか『神の子』だった。

 

 

 

 

ただ一つ。最後の最後、死ぬ間際まで助けや怨み、祈りや呪いを叫び続けた彼等の願いに応える事、それが俺の使命であり、俺の務めなのだ」

 

 

ならば、だ。今代の神王は、人々の祝福と怨念によって誕生した『神の子』となる。数百年の間、キリストのいた時代とは違い、異形が人間を襲うことが増えたこの時代ならば、彼はキリストを越える程の『神の子』である事に違いはない。

 

 

 

今、目の前に相対している者こそ、代弁者なのだ。今の今まで、理不尽に殺されてきた者達の叫び、想いを実現するためのイキモノ。それこそが、『神の子』として生まれた神王の使命であった。

 

 

「だが、彼等が何を望むのか、俺は分からない。あるのは人類を護る為のシステムのみ。具体的にどうすれば良いか、俺はこの世界でそれを学ぶことにした。数々の仲間と、数多の悲劇と別れを繰り返して─────俺はこの世界が、歪んでいることに気付いた」

 

 

そこまで語る神王に、話を聞いていた練は目を細める。同情はする、憐れだろう。何億を越える人の祈りと呪い、それによって神王は縛られている。

 

 

だが、それでは確実に理由にはならない事実がある。

 

 

 

「それが、奴等に、【禍の団】に与する理由か?」

 

「安心しろ、一応オーフィスへの義理を立てる為でもある。他の有象無象、旧魔王派は眼中ですらない。何より、理由は他にあるからな」

 

 

フフッと笑い、神王は話を続ける。

 

 

「世界が歪んでる以上、俺達にはどうしようもない。何かを変えたところで変わらない。なんせそもそも土台が壊れているんだ。まずは壊れた土台をどうにかする必要がある」

 

 

暗闇に包まれた薄暗い空。彼は手を伸ばし、何かを掴むように拳を握り締める。瞬間、神王は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ──────世界を一度滅ぼす」

 

 

ゾワッ、と。

おぞましい冷気が背筋を通り過ぎた。誰もがそうだろう。

 

 

神王が告げた言葉は、あまりにもあっさりとしていた。だが何より恐ろしいのは────その言葉が単なる虚言ではないということ。

 

 

確かな実力と確かな意思を以て、彼はその理想を言葉にしたのだ。不可能と、嘘だと言って切り捨てる事は出来ない。

 

 

 

「世界がここまで歪んでいるのならば、直さねばならない。多くの悲劇と絶望と憎悪、尽きぬ事のない負の連鎖は断ち切らねばならない。

 

 

 

 

ならば、リセットするしか無いだろう?こんな狂った世界なんか」

 

 

どろりとした瞳が、キラキラと輝く。

明らかだと断言する神王は、この世界が歪んで見えるのだろう。だからこそ、崩壊と破滅を望んだ。

 

 

しかし、彼は言った。

あくまでもリセットする、と。つまり、完全に滅ぼすという事ではないのだ。それでも、恐ろしいことに変わりはないが。

 

 

「世界を壊す前に、まずは全ての生き物の魂を操作する。全生命体の魂を抽出し、一つ一つ保管してから────世界を再構築する。その際に、聖書の神の作ったシステムを膨大化させたものを組み込む。人類を確実な意味で守護するシステムを、世界に張り巡らせるのさ」

 

 

「聖書の神のシステムを…………?そんな事、出来るわけ───」

 

「いや、神王ならば可能だろうな」

 

 

否定の言葉を言おうとするリアスに、練がぶっきらぼうに言い切る。見返してくる彼女を見ることなく、彼は話し始めた。

 

 

「神王は、最強の神滅具。天災の中でも人枠越える代物だ、何せ『神王』、神の王なんて呼ばれるくらいだ。真天龍すら凌駕した存在の中でも最強と謳われる奴ならば、世界を作り替えることも不可能じゃない」

 

 

神器を研究しているアザゼルに育てられたからか、或いは同じ天災の神滅具を宿すからか、練は確信的な様子だった。

 

 

神王はしたり顔で笑い、両腕を大きく広げる。

 

 

「俺の創る新世界に、悪魔や堕天使、神を含めた人外は存在しない。全ての命は、人類へと統一する。無論、神器なんてものも魔法も、神秘は何一つ世界から消え去る。あるのは、超常の存在しない世界と何者にも奪われることの無い人々の安寧だ」

 

 

全ての生物を、一つの種族へと統合する。その種族こそが人間。あらゆる種族よりも劣化した個体であり、聖書の神を含む多くの神々に『可能性』を期待された種族。万能ではない、非凡。人類を統一する種族として決めたのは、神王なりの独自の考えがあるのだろう。

 

 

「それこそが、俺による新世界。無限の願いの果てに見出だした唯一の答え。その為にも、俺はこの世界は一度滅ぼそう。全ての生命を殺し、全ての生命を作り替えよう。一つの種族、新人類として。

 

 

 

これこそが、俺の『人類救済計画』。全ての生命を新たな人類として作り替え、あらゆる奇跡や神秘の廃した世界を創る。膨大な世界を覆う防衛システムで、あらゆる驚異から彼等を護り続ける─────それが、俺の世界に対する答えだ」

 

 

 

 

 

「─────狂ってる」

 

「その考え方は知性体の悪い点だ。自分には理解できない事を狂ってる、異常だと排斥することが知性を持つ者の愚かな事、欠点の一つだとは思わないか?その傲慢さが、人や人外にて不幸をもたらす。永き歴史がよく物語っている事だ」

 

 

口元に指を向け、シーッと言う神王。自身の計画、その心理を悪く言われたにも関わらず、彼に怒りの感情すらない。

 

 

通常ならば理解されないと悟っているのか。激昂の感情すら湧かない程に、世界に失望しているのか。

 

 

「確かに、この計画には不備な部分が多々ある。だが、その点は問題ない、対処はするつもりだ。色々と困難はあるが、世界を一度滅ぼせば問題ない。奴等、この世界に仇なす存在も滅ぼせるからな」

 

 

そこまで言うと、神王は二人の名前を呼んだ。兵藤一誠と黒月練、共通する力を宿す二人の名を。

 

 

 

「天龍に選ばれし君達二人に聞こう。俺の計画に賛同する気はないかな?」

 

 

首を傾け、微笑む神王。

 

 

「俺の『人類救済計画』には君達が必要だ。より正確には、覚醒した天龍の力がね。だが、君達が俺の計画の鍵になるのは間違いない事実だ。だからこそ、敵として傷つけ合うよりも、味方として引き入れたい限りだ。

 

 

 

望むならば、俺の手を取って欲しいものだが………どうかな?」

 

 

所謂、勧誘だろう。神王派としては、一誠や練が重要な存在だからだろう。あの風刃亮斗も一誠との戦闘の際、見込みがなければ神器を奪い取ると口にしていた。敵として余計な所で死なれるよりも、自分の元という安全な場所に置いておきたい、そういう考えなのかもしれない。

 

 

 

黙り込んでいた二人だったが、一誠が険しい顔で神王へと問い掛けてきた。

 

 

「…………王様、アンタの言う救済に思うんだが────全ての生命を一つにするって事は、皆を一度殺すって事か?部長や魔王様達も、松田や元浜、桐生達、無関係な人達も?」

 

「────強ち間違いではない。全てを一から作り直すんだ。今いる人間も、全ての魂を取り出して初期化(リセット)する。魂としては生まれ変わるが、彼等という人間を殺すことにはなるな」

 

 

 

「───なら、俺はそれを認めねぇ」

 

 

強く、拳を握り締める一誠。彼は強い敵意と共に神王へと指を突きつけた。

 

 

「ハーレム王になるっていう夢とかよりも!俺の両親やあいつらにまで手を出すなんて真似をさせる訳ねぇだろ!!何より!俺が部長を、皆を裏切ったりするもんかよッ!!」

 

 

「………気に食わないが、コイツに賛成だ」

 

不服そうに一誠を見ながら、練も同調する。

 

 

「俺はようやっと、悪魔の奴等と和解の道を繋いだんだ。連中の全てを許さないにしろ、償わせる事は出来る。それを、だ。お前の言う新世界、全員が救われる完璧な世界の為に諦めろ………だって?」

 

「…………」

 

「ふざけるなよ、神王。俺やあいつらは、自分達の意思で未来を歩み出したんだ。お前の言う、救済なんぞに救われてやる程弱くはない。救いたいなら勝手に救え、だが俺は俺の意思で拒絶させて貰うぞ」

 

 

ハッキリと、敵意を以て宣誓する。

二人に拒絶された神王は、少しばかり顔を俯いていた。

 

しかし、掠れたような声が漏れる。抑え込むような、声。それが神王の期待に震えたような笑みだという事に、すぐに気付いた。

 

 

「なるほど、君達は強いな」

 

 

心から感心した物言いであった。拒絶されること自体気にしないのは、度量の大きさからか、或いは格下の考えだからと見くびっているのか。

 

 

両目を伏せた神王は、表情から笑みを消し────

 

 

 

「────だからこそ、哀れに思う」

 

 

二人に向けて、憐憫の視線を投げ掛ける。突然の事に戸惑う

 

 

「その強さが、君達の心をへし折る事になる。これから先に進もうとする覚悟が、君達に絶望を与える。黒月練、君は過去の呪縛に囚われる。兵藤一誠、君は獲得した絆を踏みにじられる。

 

 

たとえどれだけ強くても、悲劇だけは変えようはない。いずれ君達を襲う悲劇は、君達を苦しませるだろう」

 

「何を………言っている」

 

「生憎、少しだけ『眼』が良くてね」

 

 

妖しく光る瞳を指で添えながら告げる神王。ふむ、と考え込むように顎を擦る神王は話を続けた。

 

 

「君達の意見は理解した。あくまでも、私の計画を否定すると。その意は汲もう。だが、私が単なる言葉で止まるとは思わないだろう?私は無数の願いの上に立っている、今更数人の言葉で立ち止まる程安い理想ではないのさ」

 

 

マントを大きく翻し、神王は言う。

 

 

「分かりやすい話、あれだ─────言葉ではなく、力で示せ、だったか?」

 

 

不敵な笑みと共に神王は両腕を振り払う。瞬間、膨大なまでの魔力が神王から放たれる。実際には漏れ出しただけの魔力だが、その濃度は神代のものに近いだろう。

 

 

それと同時に彼の上空に無数の光が生じた。単なる発光ではなく、虹色のような輝きと化したオーロラのような光帯。

 

 

それら全てが、一人で発動した魔法であるなど、どうやって納得出来ようか。あらゆる属性の魔法が一気に展開され、彼等に狙いを定める。

 

 

 

「まずは、百だ。この程度で倒れてくれるなよ?」

 

 

瞬間、激しい絨毯爆撃が炸裂した。炎が、水が、風が、雷が、氷が、音が、力が、一つ一つが膨大な爆弾であるかのように、周囲を吹き飛ばしていく。

 

 

正に破壊の嵐であった。

 

 

「黒歌!リアス・グレモリー!バリアを解くなよ!これだけの弾幕はタンニーンならともかく、俺達だと一、ニ発で即死になる!!どれだけ威力が強かろうと耐えきれ!!」

 

「分かったにゃっ!」

 

「っ!言われなくても………っ!!」

 

 

二人は同時に魔力と仙術を用いた防壁を張る。魔法の雨が直撃した防壁は僅かに持ちこたえた。しかし、雪崩、あるいは暴風のように迫る魔法に、数秒も持たない。

 

 

防壁が砕け散る。無数の魔法が、破壊の力を伴い彼等へと降り注ぐ。

 

 

「くそォッ!」

 

『────現象固定、装填開始────「永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)」』

 

 

練の胸元のコアが回転する。別の色の宝玉へと装填された瞬間、彼の全身から凍てつく冷気が吹き荒れた。

 

 

凄まじい冷気を纏った練はリアスと黒歌の前へと飛び出し、地面に両腕を叩きつける。圧によって冷気の風が放たれ、地面から巨大な氷の塊が隆起し出した。一つではなく、複数が。

 

 

魔法の破壊の嵐に耐えきる氷塊は次第に積み重なっていく。それによって、巨大な氷の壁が形成される。魔法の嵐によって表面は削られているが、それでも少しは持ちそうではある。

 

 

「ほら、ほらほら。守ってばかりでは歯応えがない。反撃のチャンスくらいくれてやる。少しは攻めてみろよ」

 

 

神王は笑いながら、そう急かす。両手の全ての指先に魔力を集中させ、同時に十の魔法を発動させる。その際、彼は魔法の弾幕を放っている最中だ。

 

 

今にも破られそうな氷壁の中で、膝をついた錬は口を押さえる。込み上げる吐き気に耐えきれず、口から血が滲み出そうとしていた。

 

 

錬はそれを無視して、思案に明け暮れる。

 

 

(神王の奴!魔法を高速で発動している!!ラヴィニアさんやオズの老害(アウグスタ)よりも高火力だッ!!)

 

 

自身の知り合いに魔法使い────曰く魔女との関係を持つ錬は神王の異常性を理解していた。彼女や、かつて敵対していたオズの魔法使いでもここまで魔法の火力が凄まじい者はいなかった。

 

 

神王は神滅具だけではない、魔法にすら特筆している。

 

 

 

(───オールハイスペック!全能!あらゆる技術を完璧にマスターしている!!神王の神滅具なんて使わなくても最強を名乗れるレベル!!これが神王の実力か!?)

 

 

 

 

「………この氷が壊れた瞬間、全員で奴に攻撃するぞ」

 

「貴方、分かってるの!?相手は神王よ!?ここまでの実力差があるのに………!!」

 

「やらきゃ殺されるだけだ」

 

 

瞬間、氷の壁がアッサリと破壊される。全力で防ごうとはしていたが、ここまで簡単に壊されると実力の差が尽く理解させられる。

 

 

「隠れてばかりでは意味がない────早く俺に挑んで欲しいものだ────!!」

 

「なら!お望みの通りにしてやる!!」

 

 

余裕に満ちた神王が指先から閃光を放つ。氷壁の内側へと叩き込もうとした瞬間に、全員が四方へと飛び出した。氷を完全に消し飛ばす光の爆炎から、練が改造神器である銃を狙撃銃へと変換する。

 

 

着地と同時に、重撃をビームとして放つ。

ようやく戦い出した事に嬉しいのか神王は笑いながら、ビームを魔法で撃ち落とす。

 

 

 

「ッ!消し飛びなさい!!」

 

 

その隙を逃すこと無く、リアスが深紅の魔力を収束させる。消滅の魔力、文字通りありとあらゆる物を消し飛ばす最強の矛。一つの球体として放たれたそれは、顔をすら向けない神王を抉らんと迫る。

 

 

しかし、手が伸びる。

手の内から更なる魔力が膨れ上がり、消滅の魔力と衝突した。消滅の魔力の効果は問題なく発揮されている。だが、神王の肌に届くこと無く、無制限に供給される魔力を消し続けていた。

 

 

「─────消滅の魔力か。バアルの血統に宿る滅びの力、触れればあらゆる物質も生物も消し飛ばす力。悪魔の中でも秀でた魔力だよなぁ」

 

 

絶句するリアスを余所に、神王は感心したように賞賛を送る。「が、しかし」と付け足し、掌で潰すように拳を握る。

 

 

 

「消し飛ばせるのにも、限界がある。何十倍もの魔力とか、な」

 

 

瞬間、先程の魔力とは桁違いな量の魔力が塊となって放たれる。それは消滅の魔力を押し返し、逆に消し去る。離れていたリアスも、その余波で近くの大木へと叩きつけられる。

 

 

「クソォォオオオオオオオッ!!!」

 

リアスがやられた瞬間を見た一誠は叫びながら倍加をしていく。己の力を更に高めながら、神王へと殴りかかる。

 

 

しかし、籠手が直撃したのは、神王ではなかった。半透明な薄い壁。神王を中心として張り巡らされた何十枚ものバリアであった。

 

 

(何だ………!?拳が、届かねぇ!?)

 

「悪いが、その程度の倍加は通用しないぞ」

 

 

冷徹な眼で見据える神王。拳を前にしても身動ぎすらしないのはバリアを突破されないという自信か、或いは殴られる事すら恐れてないのか。

 

 

「赤龍帝の倍加の真髄は無限に強くなれる事だ。だが、その無限は時間に伴ったものだ。…………俺を倒せる程の倍加になるまで、何時間掛かるか。それまで耐えられるかな?」

 

「ッ!」

 

 

一誠の首が、後ろから掴まれた。そのまま後ろへと投げられそうになる。言葉も出ない瞬間、声が響いてきた。

 

 

()()()!兵藤一誠!!」

 

 

『Effect!type─────snatch!!』

 

 

黒月練の声と共に、一誠から力が抜けていく。いや、一誠が『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』による倍加の力を奪い取られたのだ。一誠の首を掴み放り投げようとする練に。

 

 

 

「吹き飛ばせッ!爆散裂弾丸(バニッシュガン)!」

 

片腕で散弾銃を固定し、爆発する弾丸を解き放つ。バリアに向けて至近距離からの射撃。威力を逃すこと無く押し殺す事無く、全力を叩き込む。

 

普通ならば威力はまあまあだ。悪魔程度をミンチにする位だが、今は違う。一誠の分の倍加も上乗せし、強力な砲撃と化す。

 

 

反動すら届かない防壁の中にいた神王は少しだけ眼を見開いた。彼を覆う防壁にヒビが入り、ガラス細工のように砕け散る。三枚、防壁が虚空へと消えるが、まだ彼を包むバリアは健在であった。

 

 

「やるなぁ!我が防壁を三枚も砕くとは!だが、距離が離れてしまったぞ?また退くのか?」

 

「────それが目的だからな」

 

「?あぁ、そういう───」

 

 

何か気付いた練が上空を見上げた直後、凄まじい力を込められた剛腕が叩きつけられる。巨大な腕でバリアを掴み、粉砕するように地面へと押し込む。

 

 

 

「───ムゥンッ!!!」

 

 

龍王タンニーン。現在は悪魔となった龍種の上位的存在は神王相手に力を緩めることはない。むしろ本気の一撃を打ち込んだのだ。

 

 

「タンニーン、か。悪魔に成り果ててもその実力は未だ健在か。俺の防壁を十五枚も割るとは感心したぞ」

 

 

しかし、タンニーンの手の中から声がまだ響いていた。驚愕する龍王の手が、凄まじい衝撃によって弾かれる。

 

 

バラバラに砕け散ったバリア、しかしまだ存在してる防壁を所有する神王。彼は屈託した笑みを浮かべながら、タンニーンへと人差し指と中指を向ける。

 

 

「しかし、お前は駄目だ。俺が相手するのはお前ではない、彼等なのだ。悪いが、望まれてない者には退場して貰おう」

 

 

『アルテスター・カノン』

 

 

膨大な術式と魔力。それに反して放たれる猶予はたった一秒未満。四つの魔方陣を交差させ、その中心か純白の極光が解き放たれる。

 

回避をしようとするが、近すぎたのだろう。龍王タンニーンは極光を胴体に直に受け、そのまま吹き飛ばされる。周囲の森を削り取り、遠くへと押し出されていく。

 

 

「オッサン!」

 

「龍王タンニーンッ!!クソ!!」

 

歯噛みしながらも、神王へと突撃する練。彼は胸元のコアを高速で回転させ、一つ、そしてもう一つのコアを装填する。

 

 

背中から、白い鞭らしきものが伸びる。練の右腕にぐるぐると巻きつき、形を円錐のランスへと変換させる。それと同じ間に、練の背中から突き破り飛び出す影があった。

 

 

鷹と思われる鳥。赤い瞳を輝かせる鷹は跳び立つと、練の隣へと飛空している。

 

 

その姿を見た神王は気に入ったように大笑いする。拍手しながら彼に声をかける。

 

 

「ハハハッ!知っているぞ!『窮奇』と『檮杌』!!確か黒狗の青年と同じ仲間の皆川夏梅(みながわなつめ)鮫島綱生(さめじまこうき)の神器だ!まさか同時に再現できるとはな!」

 

「ッ!先輩達の事も知ってるのか!!」

 

 

警戒を深める練に神王は高らかと笑い声をあげていた。返答はなく、落ち着き始めた神王が顔を手で覆いながら言う。

 

 

「中々に素晴らしいものだ。そんなものを見せて貰って黙ってはいられないなぁ、この俺も。

 

 

 

 

 

少しばかり、面白いものを見せてあげたいなぁ?」

 

 

………何?と顔をしかめる練達に。神王は顔を覆う手とは反対の手を空へと掲げる。より正確には、手の中に収まっていた深紅の結晶を。

 

 

「我が神王の十二の宝具、その一振を君達に披露しよう」

 

 

そのまま手の中に収めていた結晶を手で握り締める。パキン!と粉砕される、その瞬間。

 

 

 

禍々しい程の赤い光が無数に生じる。彼の掌から発生した光は天へと伸びる柱へと変じた。暗闇を切り裂き、次元すら突き破る深紅の光。

 

 

その光の内側で何かが地上に降り立とうとしていた。棒状の何か、それは凄まじい速度で落ちて────神王の手へと収まる。

 

 

 

 

────何だ、アレ?

 

 

それは、一振の槍であった。深紅の結晶を中心に嵌め込まれた、四つの刃を四方から伸ばし、深紅の結晶を据え銀色の鋭い矛先を備えた2メートル近くの大槍。

 

 

問題は、内部構造であった。練はそれを咄嗟に解析しようとする、真天龍の力を解放した。

 

が、理解しようとするより前に、練は激しい頭痛に膝をついた。流れ込んできたのは、膨大な情報量。無数のコンピューターのデータを送り込まれたように、処理が出来ない。

 

 

「…………ぐ、ぅっ!?」

 

「練!?おい!?」

 

「何だっ……!それは……ッ!神器でも神の武具でも…………違うッ!神滅具(ロンギヌス)かッ!?だが、それは──────ッ!!」

 

 

 

「あぁ、この槍は神器だ。だが、普通の代物とは違う。これは人類史には残されていない記録だ。何故なら、これはあらゆる神の武具を基として造られたものだからなぁ」

 

 

『神王』は、聖書の神が造った人類を守る希望だ。

あらゆる害悪や厄災から人類を守る、その為に聖書の神は神王を全能へとする事にした。

 

 

神王は、全ての歴史や記録の塊。あらゆる神話の遺物や武具のデータを一つとしたもの、それこそが十二宝具。それこそが神王なのだ。

 

 

「─────だから、こんな事も出来る」

 

 

『神王』は槍を片手で掴み、軽々と振り回そうとする。それは不動、余裕の構えを取っていた時とは違い、自分から動いていた。

 

 

その槍が、振るわれる瞬間。異様な恐怖が練を襲った。

 

 

────駄目だ。あの槍に触れてはいけない、いや斬撃にすら触れてはいけない。

 

 

 

「ッ!気を付けろ!!あの槍は危険─────」

 

「この槍こそ、十二宝具が一つ。あらゆる記録や遺物を基に造られた原典を越えるオリジナル」

 

 

だが、声に出した間に振るわれていた。単なる準備運動に過ぎない行動。それだけでも警戒信号が脳内に鳴り響く。

 

 

カァン!! と地面に槍を打ち付けた『神王』は、ニヤリと不敵な笑みと共に告げる。

 

 

「『虚数裂きし神逆の槍』、空間ごと全てを捻り、切り裂くこの槍に相応しい銘だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、世界が裂けた。

 

 

周囲へと解き放たれた斬撃は四方へと飛び、木や周囲を覆う結界、冥界の空間すら斬った。

 

 

防御など出来ない。

黒月練は不可視の斬撃に気付く事なく、直撃してしまう。軽々と吹き飛ばされた練はその最中に見た。

 

 

 

 

紙を切るようにあっさりと裂けた腹と、斬り飛ばされた脚。彼は世界と共に、世界を捻り裂く槍によって切り刻まれた。




『神の子』

数百年に一度、人々の願いによって降臨する聖人。生まれながらにして超越者であり、あらゆる奇跡を可能とする天才。人々の願いによってその強さを増し、強大へとなる。

今代の神王は例外的存在で、数百年の間に人外に殺され続けた人々の救いを求める願いと環境や世界への恨みによって今代の神王は『無限の龍神』や『夢幻』に並ぶ程の強さへとなっている。


神王の救済計画。『新人類統合及び人類守護計画』、あらゆる生命体(神を含めた)を人類へと退化させ、魔法や奇跡、神器や神秘の全てを消滅させる、世界を滅ぼすことで。それによってシステムを改竄し、大規模防衛システムとして世界を、人類を守るものとして変換する。


神秘の消え去った箱庭であらゆる脅威に怯えることのない、人類だけの世界。それこそが神王の目標。


イカれてると言われればイカれてるけど、割りと正しくはある。神王は人類を救済するだけじゃなくて、世界を飲み込む厄災(型月でいう人類悪)を滅ぼさなきゃいけないから。

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