ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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魔障の魔人

「─────っッ!!!??」

 

 

言葉にならない、苦痛の絶叫が迸る。運良く攻撃に当たらなかった一誠はその声を響かせた練に振り向き────絶句していた。

 

 

しかし、すぐさま弾かれるように練へと飛びかかる。膝をついて蹲る練の様子を伺う。

 

 

「おいッ!大丈夫か!?」

 

「…………ぐッ、おまえ…………ッ」

 

「悪かったかよ!?でも黙ってるつもりはねぇよ!!」

 

 

練の現状は酷いものだった。引き裂かれた脇腹からは止めどなく血が溢れている。片足も綺麗に切断され、これも出血が止まらない。ハッキリ言って重傷以外説明しようがない。

 

 

(でも!何だよ今のは!?アイツがあのおかしい槍を振るった瞬間に、周りも吹き飛ぶし!練も追い詰められるって!)

 

 

激しい困惑に包まれる一誠、確かに自分は馬鹿だ。でもそれでも、アレだけは簡単に理解できる訳ない。

 

 

アレを見た瞬間、一誠の脳裏に過ったのは『死』であった。だが、武器で殺されるとか単調なものではない。分かりやすい話、消滅だ。跡形もなく、痕跡すら残せず消えるような『死』を感じ取ったのだ。

 

 

 

 

「────おや、もう一人ダウンか」

 

 

背後からの一言に、一誠は凄まじい恐怖に襲われる。振り返った所には、地面に足をつけずに空を浮遊する神王が見下ろしていた。確かに心配したようであったが、練が生きてることを確認すると心から安堵しているようであった。

 

 

「少し本気を出しすぎたかな?殺してはいけない二人の片方が死にかけるとはね、手加減しておいて良かった良かった」

 

「ッ!?」

 

(本気を、出してねぇのかよ!?アレでか!?)

 

 

言葉も出ない一誠を前にして、神王は薄笑いと共に指先に魔力を集中させる。小ささに反して濃密な程の力の質量が、解き放たれそうになる。

 

 

 

「───テリャァッ!!」

 

 

凄まじい速度で放たれた光が、弾かれる。少し予想外であったのか、神王が驚いたような顔を浮かべていた。楽しみを隠せずにいた美候が如意棒を振り回し、神王へと突き放った。

 

 

 

バシィンッ!! と。

空間に波紋が伝わる。如意棒は神王に届くことはなく、何十枚も重なるバリアにより防がれていた。

 

 

「ふぅん、危ない危ない。今のは少しだけ焦ったなぁ、孫悟空の末裔」

 

「チッ、やっぱ今のも防がれるかい!だが、今は俺っちの相手を受け入れて貰うぜい!アイツを死なせちまうとヴァーリがマジに怒るからなァ!!」

 

「それは安心した。助けてくれるようで何よりだ。こんな所で死なれては困るのでな」

 

 

余裕に満ちた神王は両手を広げ、亜空間から一本の槍を取り出した。先程解き放たれた宝具とは違い、ただの槍であったが、神王からすればその方が戦いやすいのかもしれない。

 

 

美候も冷や汗をかきながらも、嬉しそうに笑い如意棒を振り回しながら神王へと突撃していく。

 

 

 

その隙にと。一誠は練の腕を掴み、肩を担ぐ。そのまま引き摺るように力の出ない練を連れて何とか離れようとしていた。その様子に、意識の朦朧としていた練が気付き、明らかに戸惑う。

 

 

「おまえ………俺を、助ける気か……っ?」

 

「………あぁ!そう見えねぇか!?」

 

「…………クソッ、屈辱だ……!よりによって……お前に、借りを作るとは………!!」

 

「うるせぇよ!確かに俺もお前が気に入らねぇけど!見殺しにするほど落ちぶれてもねぇ!!文句は後で聞いてやるよ!」

 

 

力不足に呻く練の皮肉に、一誠は怒鳴り返す。そうかよ、と練は血を吐きながら笑い───苦しそうに咳き込み、血の塊を吐く。

 

 

「───そこに寝かせて、赤龍帝」

 

 

少し離れた所で、突如近付いた黒歌がそう言う。当初は敵と警戒していた彼女だが、一誠も何も言うことなく近くの木に練を寝転がせる。

 

 

黒歌は練の傷口に手を当てると、何らかの力を送り始めた。口から血を吐き苦しそうにしていた練だが、少しだけ様子が戻っていく。

 

 

汗を拭う黒歌は、ホッとしたように安堵する。恩人であり親しく思う青年を助けられたのだから、気が落ち着くのも当然だろう。

 

 

「傷口も何とか防いだわ。けど、あくまでも完全に治せた訳じゃない、出来るなら外に逃がしたいけど─────」

 

 

 

 

 

「─────逃げられると思うのかな?」

 

 

微かな希望を嘲笑う声が響いた。

同時に、相手をしていた美候が地面に叩きつけられる。戦いを楽しむ彼も、力の差を理解したのか諦めたような笑いが滲んでいる。

 

 

無傷の神王が、絶望をもたらす。

人類にとって救世主とも言える存在。今まで人類を追い詰めてきた研鑽が、これ程までの王を作り出した。

 

本気を出さずともこの強さ。恐ろしいなんて言葉では語れないだろう。

 

 

「おいおいおい、たった数人程度で俺をどうにか出来る訳ないだろ?理解できていると見込んだのは少し厳しかったか?」

 

 

マントを大きく翻す神王。

己の強さに並々ならぬ自信を滾らせる人類最強の男は、全てを見下ろすかのように微笑みを浮かべた。

 

 

 

「さぁ、次は全員で来るか?むしろそうするべきだぞ?それ以外勝ち目が無い訳だしな」

 

 

あらゆる攻撃すら防ごうとしない無防備さを見せつけながらも、傷つけることもできない確かな絶対性を示していた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「───しィッ!!」

 

「ふんッ」

 

 

ゼリッシュの放つ大剣の大振りに、アンシアは防ぐことすらせず弾けるように避ける。後方へと跳びながら、弾丸を換装した片手銃で彼女目掛けて撃ち放つ。

 

 

しかし、大振りの大剣を力ずくで振り払い、彼女はすぐさま撃ち込まれた銃弾を受け止める。ガシュンッ!と砕くような金属音と共に、巨大な大剣の刃と刃に弾が取り込まれる。

 

 

チッ! とアンシアは隠すことなく舌打ちを吐き捨て、銃弾を装填し直す。

 

 

(奴の神器────金属を喰らう剣か。俺の銃すら物ともしないとは……………が、しかし)

 

 

(ただ喰らうだけならば恐れる事はない。破壊力も大して強い訳ではない─────破壊に特化したデュランダルにも届かない。ならば、やりようはある!)

 

 

ザッ! と円を描くように床を脚でなぞる。その影から仕切りから解放されたように、複数の黒い何かが姿を現す。アンシアの『砲銃創造(ガンズ・メイカー)』により創造された銃や機関銃、銃砲がゼリッシュへと狙いを定める。

 

 

無数の銃口が火を噴く直前────アンシアの銃の全てが影から伸びた魔剣に貫かれる。驚愕を両目に宿すアンシア。無論、銃身を切り裂かれた銃は射撃など出来ない。

 

 

すぐさま瞳に憤怒を灯らせたアンシアが、自身から少し離れた場所にいる相手を睨む。

 

 

「貴様ッ!」

 

「悪いけど、僕の存在も忘れられては困るね」

 

「ほざけ転生悪魔!このような小細工でこの俺を────ッ!?」

 

 

此方を見据えほくそ笑む木場にアンシアはそう言いながら拳銃を突きつける。

 

 

 

しかし────彼はすぐさま気付いた。

 

 

左右から挟むように迫る二つの刃を。周囲の魔剣や銃の残骸すら切り伏せながら、アンシアを両断しようと進んでくる。

 

 

「『騎士』を───侮るなッ!!」

 

しかし、二つの刃が交差する瞬間、アンシアが地面を蹴り跳躍する。飛びながらも両手の銃を機関銃へと変換させ、周囲に弾を撒き散らす。

 

 

しかしゼリッシュがまた大振りの刃を振り回す。それだけで、全ての跳弾は跡形もなく消し去られる。『鋼鉄喰らい(メタルイーター)』を下ろし、木場に声をかける。

 

 

「よぉ!モヤシ野郎!助かったぜ!ありがとよ!」

 

「…………モヤシ………僕は木場祐斗って名前なんだけど……」

 

「あん?モヤシ嫌か?………じゃ、イケメン野郎で良いよな!」

 

「………………うん、それで良いよ」

 

 

半ば諦めたように呟く木場にゼリッシュはカラカラと笑いながら背中を叩いた。その様子に続きの攻撃をしようとしたアンシアだったが────ふと、とある事実に気付いた。

 

 

 

 

(………あの大剣、前よりも大きくなっている───?)

 

 

ゼリッシュの振るう大剣。2メートルであった筈だが、今は3メートル以上にまでなっている。刃自体の光沢も強くなり、小さな刃までも歯のように展開している。

 

 

何より、何度も見てきたあの不可思議な現象。斬るのではなく、喰らうような斬撃。

 

 

「…………そうか、貴様の神器は金属を喰らうだけではない。喰らった金属を取り込み、力にするのだな」

 

 

予想よりも、相性が悪すぎる。アンシアや木場の造る銃は全て金属でしか造れない。アンシアの銃弾も、刃により簡単に無力化される。そして木場の魔剣も同じく喰らうことで強さを増していく。厄介な事この上ない。

 

 

 

だが、アンシアは理解している。自分達の目的が彼女達との戦闘だけではないことを。最初は我を忘れそうになっていたが、先程から常々と感じる『神王』のオーラにより、冷静になれた。

 

 

「────我等が王が動かれたようだ。そろそろ目的を果たすためにも──────貴様らには少しの間、動かないで貰う」

 

 

アンシアはそう告げると共に、拳銃を上空へと向ける。一発の銃声が鳴り響いた瞬間、アンシアの影や空間から無数の銃が姿を現す。

 

 

即座に警戒する二人だが、銃はまるで磁力で引き寄せられるように一点へと集まり、互いに接合していく。単なる合体などではなく、銃の至る部位まで部品として融合しているのだ。

 

 

少しずつ、表情を険しくさせる二人の前で、アンシアは拳銃を下ろす。無数の銃が融合した一つの物体は、空へと舞う。

 

 

殲滅の鉄鋼機体(ガンキラー・ユニット)

 

 

四方に巨大な砲門、更に左右に二本の戦車砲を取り付けた機銃の飛空物体。一見見れば戦闘用のドローンであるそれは、あらゆる敵を殺すことに特化したフォルムであった。

 

 

「お前達の相手にはならないが、足止めに十分だろう」

 

「ッ!てめぇ!待ちやがれ!」

 

 

無視したように、アンシアは立ち去る。咄嗟にアンシアを追いかけようとするが、ガンキラー・ユニットが凄まじい速度で二人の前へと躍り出る。

 

 

 

アンシアが飛び立ったのは────朧の元であった。叩き込まれる雷と魔法の弾幕を魔障を解放して防ぐ朧だが、明らかに押されている。

 

 

その間、魔法の一部を銃撃で消し飛ばした。

 

 

 

「貴方は!?」

 

「………新手ですか」

 

「ふん、貴様らに用はない」

 

乱入してきたアンシアに身構える二人だが、アンシアは銃口を向けながら朧の元へと近寄る。真横に並ぶまで近付いたアンシアは、囁くように呟いた。

 

 

「────朧」

 

「………」

 

「次のフェーズだ。魔障を解き放て」

 

 

アンシアの言葉を受けた朧は仮面の奥から唸り声をあげると、仮面を手を伸ばす。そのまま掴むと、そのまま顔から引き離そうとする。

 

 

「………ォ、ォオオオオオオオオオオ────」

 

 

相対していたアイリスが戸惑うのも無視して、朧は仮面を引き剥がそうとする。ブチブチ、と黒い繊維が千切れる中、苦痛に呻くような雄叫びが大きさを増していく。

 

 

同時に黒装束が内側から膨れ上がる。まるで別の生き物が存在してるかのように、不気味に変動する。あまりの異様さに、言葉も出ない。

 

 

 

────そして、朧の顔から仮面が引き剥がされた。弾けるように、朧が後ろへと上半身だけを仰け反らせる。力を失ったように、倒れ込む朧であったが────

 

 

 

 

「────封印、解除」

 

 

不気味な一言と共に、ビクンッ! と跳ねた。そして上半身が凄まじい反応速度で跳ね上げる。仮面の無い顔を、アイリス達へと向けた。

 

 

 

 

「───禁手(バランス・ブレイク)

 

 

顔は、無かった。

黒い繊維に包まれた体格、その首にあるのは空洞。その空洞の中心、目映い光の球体が浮遊していた。

 

 

 

瞬間であった。朧の身体が、崩れ落ちる。黒い繊維が役目を終えたようにほどけていき、地面へと堕ちていくのだ。しかし黒い繊維が外れた瞬間、濃い紫色のガスが周囲へと撒き散らされた。

 

 

 

「ッ!?何だよ!これ!?」

 

「…………毒ガス?いえ、これは」

 

 

「────ククク、始まったようだな!」

 

匙は戸惑いながら口を塞ぎ、同じように腕で口を押さえていた宗明が単なる毒ではないと気付く。そんな二人を前にシフリンは満面の笑みを浮かべながら、朧の方を見据える。

 

 

薄い笑みを浮かべたアンシアはすぐさま先程までいた場所へと戻る。瞬間、叩き斬られたガンキラー・ユニットが目の前に落果して爆散した。

 

 

 

「────ふん、ユニットを倒したか。称賛はしてやろう、だが手遅れだ」

 

「…………あん?何を言ってやがる?」

 

 

大剣を突きつけ怒鳴るゼリッシュ。しかしアンシアは答えることなく、沈黙を貫き通していた。不安に思ってい彼女だが、ふと耳にボタボタと溢れる音が聞こえた。

 

 

振り返ると、木場は膝をついて口を押さえていた。手からは鮮血が止めどなく流れ出していた。

 

 

「───おい!イケメン野郎!?大丈夫かよ!?」

 

ゼリッシュが駆け寄り、背中を擦るがそれでも快調の様子は見られない。ふと、周囲から悲鳴が響いた。

 

 

振り返った時、辺り一帯は地獄となっていた貴族悪魔や転生悪魔が木場のように血を吹き出しているのだ。軽症である者も多いが、中には戦いの傷も相まって瀕死に近いものまでいる。

 

 

「無駄だ。たとえフェニックスの涙を使おうと回復は出来ん。この『魔障』の中ではな」

 

 

阿鼻叫喚の状況を見据え、嘲笑を向けるアンシア。彼の言葉にゼリッシュは鋭い目付きで睨み、大剣を構えた。

 

 

「………てめぇ、何をしやがったッ!!」

 

「『魔障』とは、冥界に確認されている濃密な魔力の霧だ」

 

 

本来ならば、返答にすらなっていない。現にゼリッシュも、アンシアに怪訝とした視線を向けている。

 

 

「冥界などで見られる危険な現象だ。膨大な程の魔力を受け、体内の魔力が過剰増幅する事により肉体に負荷が発生し、最悪の場合死に至る恐ろしい話だ。生命体である以上、『魔障』の力からは逃げられない」

 

 

「我々の仲間は魔障を生み出す『魔障結晶』を見つけ出してな。緻密に加工や実験を繰り返した結果、お前達だけを殺す兵器に作り替えれたという訳だ。今解き放たれたのは悪魔に特化した魔障というヤツだ」

 

 

「なら!テメェの仲間は何だってんだ!仲間も犠牲にしてまでコイツらを殺そうとしたのかよ!?」

 

「───違う、断じて違う。朧には『魔障』は通じない。

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、朧は生物という枠組みにはいないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………一体、何が………」

 

周囲の惨状に戸惑うアイリス。先程、目の前で朧が爆散した時のガスを撒き散らされた途端、悪魔達が苦しみ始めたのだ。

 

しかし自分には何もない。悪魔だけに効果があるのか。とにかく何もしない訳にはいかない、と近くで吐血した朱乃に駆け寄ろうとするが─────、

 

 

 

その瞬間、有り得ない現象が起きた。

朧が纏っていたであろう黒い布が突然飛び跳ねたのだ。まるで自我を持つように動き出すと、アイリス目掛けて襲いかかった。

 

 

「っ!」

 

不意の攻撃を視界に捉えたアイリスは振り返り様に魔法を打ち込んだ。目の前で破裂する鮮やかな光の弾幕が一帯を飲み込む。

 

 

が、それでも黒い布には大したダメージにはなっていないらしい。蛇のように唸る布は此方に警戒をしているようであったが、

 

 

『────流石、只者ではないな』

 

『まぁ、情報にないイレギュラーだからね。警戒はしておくことが何よりだよ』

 

 

二つの声が、響いてきた。

その声は先程までの朧と似ているものであり、奴とは違いどちらも口調は流暢であった。しかし、二つの声を合わせればソックリと言えなくもない。

 

 

 

砂煙が晴れた瞬間────目の前の光景にアイリスは更に戸惑った。

 

 

無数の黒い繊維の布の中心に浮かぶ黒い球体と、周囲に漂う魔障を濃くさせていく白い球体が、互いに寄り添うように漂っていた。

 

 

アイリスは、確信した。

目の前にいるのは朧と呼ばれていた黒衣の男の正体だ。あの二つの玉が朧という外皮を操っていたのだ、と。

 

 

「───貴方達は、一体…………」

 

 

喉を干上がらせながら問いかける彼女に、二つの球体はクルクルと周囲を回り出す。強く発光させながら、白黒の球体は声を発した。

 

 

 

 

 

『────我は、我等は朧』

 

『「神王派」「兵士(ポーン)」として、神王に忠誠を誓う─────双対の神器(セイクリッド・ギア)さ』

 

 

まるで一人の人間であるかのように。

二つの神器はそう振る舞いながら自分達の名を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────神器、だと!?何を言ってやがるんだテメェらは!!」

 

 

事実を聞いたゼリッシュは困惑を隠せなかった。当然だ、意味が分からない。人形のような存在から出てきたのは二つの玉だっただけでも分からないというのに。

 

 

アンシアは嘆息するが、説明をし始めた。

 

 

「厳密に言えば、ただの神器ではない。朧は、自我を持った神器だ」

 

「自我を持った………神器!?」

 

 

ゼリッシュは思わず、呆然となってしまう。神器が人のフリをしているだけでも不可思議だというのに、神器が自我を持っているとはどういう事なのか、と。

 

 

「『遮断領域の黒布(カウントシャット・クロス)』、『万物操作(テクスト・モノリス)』、かつて五大宗家の異端者どもが起こした虚蝉機関の被験者であった二人の男女が発現させた神器だ」

 

 

「彼等は神器を発現させた事で一時期は助かることが出来た。しかし、神器の研究をしたがっていた奴等の協力者によって実験を繰り返され─────二人は殺された。まるでモルモットのように」

 

 

「その際、彼等の亡骸の中で取り残された神器は彼等の最後に願いにより意識を獲得した。─────死にたくない、助けて────────それ以上に強く願った祈り、

 

 

 

 

 

 

人として生きたかった、その願いが朧を、二人の精神を生み出した」

 

 

互いに寄り添い合い、互いの存在だけを救いとしていた二人。彼等は過酷な実験を何度も耐えてきた、人間扱いされぬまま─────互いの命が尽きるまでに。

 

 

そんな彼等の最後の願いは、彼等に宿る神器に籠められた。生きたいという祈りから生まれた二つの神器は、主であった二人の屍を目にして、世界の脆さを知った。

 

 

彼等に残されたのは、主の仇討ちと与えられた自我であった。

 

 

 

 

そこまで話し終えたアンシアは憐れむように木場達を見下ろす。侮蔑の視線を誤魔化すことなく向け、吐き捨てるように告げた。

 

 

「残念だが、魔障の噴出は止められない。あの二人だけが魔障を制御し、手の内に収めているんだからな。朧を倒さぬ以上、ここにいる悪魔どもは救えない」

 

 

 

 

 

「──────いいや、止めてみせます」

 

 

濃い魔障の渦の中、アイリスが魔法を構築していく。黒い布に包まれる二つの神器(生命)に向けて、一つの決意を抱いていた。

 

 

黒月練の目的。悪魔達の罪を償わせること。彼は死を以ての贖罪を望んだ訳ではない。何より、こんなテロのようなやり方は、明らかに間違っている。

 

 

「貴方達を、私が止めます!こんな真似を、命を命と思わない行いはしてはいけない!!私達の手で、あの人の復讐を────悪魔達の贖罪を果たして見せる!!」

 

 

 

 

 

『─────嘗めるなよ、小娘』

 

『僕達を止める?無理だよ、君には出来ない。────僕達に殺されるんだからね、邪魔者として』

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「─────ま、この程度か」

 

 

 

ただ一人、荒れ果てた森林の跡地で、神王は達観したように呟いた。

 

 

辺りにいるのは、神王によって悉く倒れされていった一誠達だ。全員が全員、圧倒的な力に打ちのめされて地に沈められている。

 

 

「少し本気を出したらここまで追い詰めてしまうとは………我ながら、最強というのは退屈だな。だが、俺にも出来ないことがあるのは悩みだがな」

 

 

彼等の惨状に、神王は寂しがるように漏らした。

しかし瞬時に王としての余裕を取り戻し、絶望を前にする一誠達を励ますように言う。

 

 

「悲観するなよ、俺に勝つことなど不可能に近い。この姿では可能ではあるが、今回は厳しかったようだな」

 

 

ふと、神王が無造作に腕を振るう。あまりにもあっさりとした動きで、単なる動作の一つにしか見えない。

 

 

 

しかし、その手が誰かを捕らえた。

 

 

「────あっ、ぅッ!」

 

「不意を突けば俺を何とかできると思ったか?可愛い考えだが、現実的じゃないな」

 

 

潜むように迫っていた白い少女の首が、神王の手に収まっていた。少女の姿を見たリアス達が声を荒らげる。

 

 

「っ!小猫!!」

 

「てめぇ………ッ!小猫ちゃんを、離せ………!!」

 

 

「兵藤一誠、君にも禁手をして貰いたいんだ。強引だが、少しやり方を変えよう」

 

 

真剣な表情で、神王は冷徹な一言を告げる。

 

 

 

 

 

「今からこの少女を殺す」

 

ゾッとするほど残酷な声音であった。冗談ではない、神王は本気で小猫を手にかけようとしていた。

 

 

理由は単純だ。一誠の禁手の為に、彼を追い詰める為に、そんな事をしようとしていた。

 

 

「禁手には本人の精神的な覚醒により至る事例もある。君にとって親しい者を殺せば禁手になる事も有り得る。無理矢理な形だが─────」

 

 

小猫の首を掴む力が強まる。今にも首を締め付けんとする腕に、更に力が込められる。が、そんな彼の手首を掴む者がいた。

 

 

 

ボロボロの黒歌。

重傷である彼女は自分の身を顧みることなく、神王を止めようとしていた。残された家族、最愛の妹に手を掛けようとする敵を。

 

 

 

「………まだ動けたのか、感心したよ」

 

「白音を───離せッ!!」

 

怒りのままに、黒歌は魔力弾を神王へと叩き込んだ。余裕のまま弾こうとした神王だが─────自身の身体の魔力が上手く練れない事に気付くが、もう遅い。

 

 

顔面に、至近距離の爆発が生じる。

回避する事も出来ずに、顔を吹き飛ばされた神王は遠くへと叩きつけられた。

 

 

自然と力が緩んだ手から小猫が離れる。地面に転がった彼女は荒い息を何とか整えた。

 

 

「白音!大丈夫!?苦しくない!?」

 

「………こほッ、大丈夫、です……」

 

 

駆け寄ってきた黒歌が心配そうに小猫の調子を伺う。小猫が無事である事に安堵した黒歌は────涙を眼に含ませながら小猫を抱き締める。

 

 

「ごめんなさい!白音!貴方の事をあの時連れていけなくて!全部私のせいなのは分かってる!奴等が父さんや母さんを殺したと知って…………貴方の事も利用する気だと知ったから!」

 

「…………姉様」

 

 

錯乱したように溢れ出す激情を止められない黒歌に、小猫は全てを悟った。

 

 

黒歌が引き起こした自身の主の殺害事件の真相。

それは彼女達を引き取った貴族悪魔が、自分達の親を殺していたことを。その貴族悪魔が小猫の力を無理矢理にも使わせようとして─────止めるようとした黒歌に激情し襲いかかり、返り討ちにされたことを。

 

 

ポツリ、と涙が流れ落ちる。

懺悔するかのように、小猫は自身の想いを吐露する。

 

 

「…………私こそ、ごめんなさい………何も知らないで、姉様の事を恨んでた…………姉様が、私の事を想ってたのは分かってた筈のなのに………」

 

「………白音ッ」

 

 

互いに泣き出しそうになりながら抱き締め合う。何年もの間、離れ離れになっていた姉妹の再会、本当の想いを言葉に出した二人は互いの想いを理解し合い、優しく互いの温もりを感じていた。

 

 

 

 

 

 

「────感動の再会、家族の仲直りか。素晴らしいものだな」

 

 

しかし、絶望が再臨する。

有り得ない、という顔で言葉を失う黒歌。先程の一撃は間違いなく直撃していた。顔も吹き飛ばしたというのに、

 

 

そんな思いを踏みにじるように────神王が静かに笑う。

 

 

「仙術で魔力の流れを狂わせるとは、厄介な真似をする。お陰で防ぐのが遅れたぞ。

 

 

 

 

 

 

だが、残念だったな。俺も仙術を使えるんだ、想定外だったか?」

 

 

顔に出来た傷を指でなぞり、瞬時に治療する。その様子に青ざめた黒歌が小猫を護るように強く抱き締める。

 

 

二人の姿に憐憫を抱きながらも、神王は片腕を天へと掲げる。

 

 

 

「そこの少女を殺すのは決定事項。どうしてもと言うのなら、せめてもの慈悲だ────一緒に逝くといい。我が槍の力で」

 

 

 

ヒュンッ!と。

 

神王の指先に、あの槍が止まるように停止する。十二宝具の一つ、あらゆる物質、理、概念すら消し去る虚数の槍。神王が指先を動かすと、槍の矛先が移動する。

 

 

 

小猫と、彼女を抱き締める黒歌に向けて。

 

 

「そして期待していてくれ。次に目覚めた時、君達は人として平和な世を歩めるのだから─────」

 

 

止めろ、と一誠が張り裂けん程に叫ぶ。

しかし、神王は止めることなく、手を振り下ろす。瞬間、槍は何者の支配から解放され、全てを無に返そうと迫り来る。

 

 

 

黒歌は避けることは出来なかった。

あの槍は防ぐことも不可能な無敵の槍。避けたとしても致命傷は免れないだろう。何より、避ければ妹が犠牲になる。

 

 

(…………もう離さない、最後まで一緒に────)

 

 

 

 

 

 

だが、黒歌は信じられないものを見た。

自分達の前に飛び出し、槍を前にした青年の姿を。

 

 

 

「───────なッ!?」

 

 

常に余裕に満ちた神王の顔から焦りが滲む。相手は負傷している、治癒されていたとしても全快とまでは言えない。明らかに無茶であった。ただ死にに行くようなものだ。

 

 

しかし、彼は───黒月練は違った。ここまで来たのは、助けるためだ。自分が助けると誓った相手を。

 

 

 

 

 

「───があああああああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

血を滲ませるような絶叫と同時に、両手を前へと突き出す。掌の先へと力を集中させ、凄まじい厚さの防御壁を展開する。そして、神王の放った『虚数の槍』を確かに受け止めた。

 

 

 

「…………黒月練、流石に驚いた。まさか捨て身で彼女達を助けようとするとは」

 

 

神王は本気で驚きながらも、彼の勇気ある行動を賞賛する。ここまで出来る人間はそういない。精神的にも、肉体的にも、彼は強いと言うべきだろう。

 

 

 

 

「だが、理解しているのか?その槍は誰にも防げない事を」

 

 

一転して、憐れむような一言。続けるように、神王はその理由を口にした。

 

 

「今の君には避けることも出来ない。このままでは死ぬことを」

 

 

槍を受け止めていた練だが、すぐに気付いた。『虚数の槍』は確かに防御壁に防がれている。しかし槍の矛先が、少しずつ防御壁を突き進んでいるのだ。

 

 

万物を無に帰す槍。その実力は神器などでは到底ないような凄まじさであった。

 

 

『盟友!駄目だ!あの槍はあらゆるものを削る!貴様のバリアも持たないぞ!!』

 

「ッ!持たせてみせる!!」

 

 

神器の内側からのヴェルグの声に、練は奥歯を噛み砕く程の力で答える。神王の槍を防ぐのには限界がある。このままではどうしようもないだろう。

 

 

 

だが、練には解決する方法があった。自身の後ろにいる二人を助ける方法。かつての自分───復讐だけを優先していた自分には、絶対にしないであろう手段を。

 

 

 

 

「────黒歌ッ………今度こそ、妹を離すなよ」

 

 

黒歌は、その言葉に疑問を抱いた。この期に及んで練が何故その様な事を口にするのか、と。そして練は小猫に眼を配り、諭すように告げる。

 

 

「塔城小猫、自分の姉を………家族を、大切にな」

 

 

 

 

瞬間、練は勢いよく片腕を離した。防御壁の力が弱まり、槍の貫通が深く進んでいく。それを無視して、練は黒歌と白音に向けて掌を突きつける。

 

 

言葉に出す直前に、衝撃が放たれる。妹を庇っていた黒歌には避けることも出来ず、そのまま弾かれるように吹き飛ばされる。

 

 

 

「練ッ!?駄目ぇッ!!」

 

 

妹を抱き締めたまま、黒歌は平静を忘れたように叫ぶ。引き離されていく青年の姿に手を伸ばすが、届くどころか大きく距離が開いてしまう。

 

 

 

ふと、練は振り返る。

射程外から離れた二人の姿を見た練は────嬉しそうに笑みを浮かべる。良かった、と口に出す瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

槍が、全てを貫く。

音速の光として放たれた虚元の槍は、練の防御壁を容易く砕き、練の胸を突き破った。遥か遠くの結界を虚無へと返し─────彼方へと消える。

 

 

 

 

 

 

「………………黒月練、それが君の結末か。何故避けなかった、というのは傲慢か」

 

 

神王の呟きが漏れる。慈悲深い、その結末を憐れむような一声が。彼の視線の先には、たった一人の青年が立っていた。

 

 

 

 

 

立ち尽くしていた青年は、動かない。呼吸すらない。何故なら、動く心臓すら無いからだ。

 

 

 

胴体には、心臓以上の大きさの風穴を開けられていた。片腕は抉られており、綺麗に削り取られた断面の腕が地面に転がっていた。

 

 

 

黒月練。心臓を削り取られた彼の脈動と命が────その身体から尽きた。




滅茶苦茶詰め込んでしまったなぁ………まぁ箇条書きにしてみます。

・練、負傷一時離脱

・神王派、『魔障』による悪魔大量殺戮作戦

・その一員である朧は人間ではなく、自我を有した二つの神器であった(衝撃の事実)

・練、黒歌と小猫を庇い致命傷。死ぬのは今のところ確実。


解説するところから解説します。


神王派の朧について、朧は二つの神器が自我を獲得した存在でしたが…………自分もそんな存在がいてもおかしくないよな、と思ってました。システムもバグだらけですし、産まれた時から禁手に至る人もいるくらいですから。


因みに『遮断領域の黒布(カウントシャット・クロス)』は魔障すら遮断する布を操る神器で、『万物操作(テクスト・モノリス)』は取り込んだ物質を操る神器です。体内に溜め込んだ無数の魔障をモノリスによって制御し、シャット・クロスによって身体に溜め込んでました。(種明かし)




練は胸を抉られて瀕死ですので、神王の目的もこのままでは頓挫してしまいます。なら何で攻撃したんや、自分で放った槍くらい止めろよとか言わないでください。一度放ったから止められないんです(必死の言い訳)


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