ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

38 / 42
数ヵ月ぶりの更新ですけど、許してください()書きたい奴が多かったんです(言い訳)


天龍、禁手

「────練………そんな」

 

 

白音を抱き抱えた黒歌、彼女は悲痛さを隠せない顔で硬直している。震える唇を噛み締め、彼女は立ち尽くした練を見つめる。その瞳が激しく揺れる。

 

 

倒れることのない練。彼の胸には大きな穴が開けられ、心臓も削られたことを意味する。そして、彼は人間だ。心臓を破壊されて、生きている人間なんている筈がない。

 

 

「嘘、でしょ───」

 

 

目の前で死んだ青年に、リアスは呆然とするしかなかった。彼女からしてみれば、練のことは好きでもなければ苦手であった。自分達を明らかに敵視してくる彼の事を、心では毛嫌いしていたのかもしれない。

 

 

だが、目の前で倒れた彼の姿に、何も思わなかった訳ではない。様々な感情が彼女の中で巡り回り、思考が上手く働かなかった。

 

 

そして、一誠は。

 

 

「─────また、だ」

 

 

地面に倒れ伏していた一誠は、拳を叩き付ける。自分は強くなった、そう信じていた。前のように、アーシアを目の前で死なせた時のような事は二度と起きない、起こさせないと決意した筈なのに。

 

 

仲の悪かったが、嫌いにまではなれなかった人間の青年。彼をみすみす死なせてしまった。

 

 

「また、何も出来なかった………ッ!!」

 

 

情けなくて、悔しかった。

何も出来ず、何も変えられなかった自分が。歴代の赤龍帝とは違い、弱いまま自分が───どうしようもなく、許せないのだ。

 

 

 

そんな光景の中。

黒月練を殺した本人である神王、彼はただ一言呟く。

 

 

「─────どうして、こうなる」

 

 

しかし、一瞬の感傷を押し殺し、神王は冷徹な表面を取り繕う。冷徹すぎる程に、冷えきった体面を。

 

 

 

「……………想定外、だな。どうしてこうも上手くいかないのか。いや、それが運命というものか。口惜しいが、仕方あるまい」

 

「何を、する気だ……?」

 

 

 

 

 

「何って、神器を取り出すのさ」

 

 

……………………は? と一誠は言葉を失う。そこでようやく、神王の目的を思い出した。奴は一誠と練の神器を禁手へと導こうとしていた。なら、二人が禁手になる事が出来なければ、どうするか。

 

 

 

神器を奪い、他の人間に与えればいい。人間から神器を奪う、その光景を一度見た事のある一誠はそれを連想させ、思考が熱を帯び始める。

 

 

 

「幸い、死んですぐだ。まだ真天龍は完全消滅していない。黒月練を一時的に蘇生させ、その瞬間に神器を抜き取る。造作にも無い事だ」

 

「ふざけんじゃ、ねぇよ!!アイツを殺したくせに、神器を奪うためだけに生き返らせるってのか!?どこまで人の生命を踏みにじれば気が済むんだよ!?」

 

 

「────好きに言え」

 

 

神王の顔から落ち着きが消える。あらゆる感情が喪失した彼の顔とは裏腹に、張り上げられる声には強い意志が込められていた。

 

 

全身から並々ならぬ敵意を放ちながら、神王は踏み込む。その一歩一歩が、世界を押し潰す程の重圧を引き起こす。

 

 

「あらゆる異形を駆逐し、世界を救うと決めたのだ。その決意は、大勢の人々の、仲間の屍の上にある─────今更、止まれぬものか。たとえ畜生と罵られようと!私は、我等は今更止まるつもりはないッ!!」

 

 

 

「俺だって…………同じだッ!」

 

 

震える脚を全力で殴り、恐怖を抑え込んだ一誠が身構える。相手がどれだけ崇高な理由を持っていようが、関係ない。これ以上、誰かを守れずにいるなんて死んでも御免だ。

 

 

覚悟を秘めた一誠の籠手は、光を強める。それでも、彼が更なる領域に至るまでには、足りないものがあった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

───貴方は、奇跡的に助かりました。

 

 

穏やかな医者らしき男性が、目覚めた自分にそう言ってきた。

 

 

消毒液の匂いが充満した部屋。両腕に取り付けられた点滴と首に巻かれた包帯。意識がまだ完全に戻っていない『彼』はその言葉を聞いて、静かに納得した。

 

 

 

────同時に、記憶が流れ込む。

 

 

 

 

 

 

銀髪の悪魔に、焼き尽くされた光景。そして、二人の悪魔が逃げ惑う故郷の人達を虐殺していく背景。

 

 

 

意識が途絶える最後まで映っていた、二人の親友。喉に走る熱と痛みすら上書きする程の絶望。彼等が死んだその瞬間を、『彼』は最後まで見届けて─────死んだ、筈だった。

 

 

 

しかし、『彼』は()()にも生き残れた。その身に宿った天龍の神器が、真価を現したことで。

 

 

 

 

─────自分だけが、生き残ってしまった。

 

 

 

 

 

 

その事実を理解した瞬間、少年は発狂した。現実を理解してしまったことに、自暴自棄となった『彼』は暴れ、医者達の制止すら聞かなかった。

 

 

暴れる自分の身を案じながらも、応援を呼ぶべく去っていく医者達。彼等の姿がなくなったあとも、『彼』は膝をついて倒れ伏した。

 

 

喉の傷が開き、血が溢れる。痛み以上の苦しみが胸を引き裂き、少年は呻く。呻くことしか、出来なかった。

 

 

 

『─────何で、だよ』

 

 

辺りを壊し尽くした少年は、ただ一人泣いていた。血塗れになった手を見ないように、目の前の現実から逃げるように彼は視界を隠し、病室の隅で蹲る。

 

 

ボロボロ、と止まらない涙と鼻水で彼が濡れる。溢れ出る涙は、全てを失った絶望によるものだった。

 

 

 

『───何で、俺だけなんだよ……っ』

 

 

 

 

そして、絶望の涙は枯れ果て、彼の心を支配したのは────

 

 

 

『悪、魔………』

 

 

 

 

 

 

 

『─────悪魔……ッ!』

 

 

 

 

 

心と思い出を焼き尽くす、憎悪の炎へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『───お前ら、悪魔だろ?』

 

 

 

それから、多くの悪魔を殺すために探した。最初に見つけたのは、やはり貴族の悪魔であった。複数の子供を庇い、衣服も破け、布だけ纏った女性を自分の眷属と共に襲っていたらしい。

 

 

貴族悪魔は言った。

この女を助ける気か、と。

 

 

 

それを聞いた瞬間、少年は吐き捨てた。心底どうでもいいというように。

 

 

 

 

『───()()()()()、興味すらねぇ。用があるのはお前らだ』

 

 

傷つく人を見捨て、殺す敵だけを見据える。その眼には優しさなど消え去り、復讐に執着した濁りきった炎が燃え盛る。

 

 

造られた神器を片手に、少年は狂ったように嗤う。この時を、待っていたと言わんばかりに。

 

 

 

『テメェら全員────皆殺しだァ……!』

 

 

 

 

気付けば、堕ちる所まで堕ちていた。

憎悪による動く彼は、所構わず悪魔を見つけ出しては殺していた。当初は自分を見下し、殺そうとした顔が、怯えと恐怖に包まれていくのが滑稽でたまらない。

 

 

追われてる悪魔も殺そうとした時はあった。しかし、何時もその時だけは上手くいかなかった。何故か、どうにも手を出す事は出来ず、逃がすしかないのだ。下衆な悪魔は殺せるのに、何故出来なかったのか、分からない。

 

 

 

 

 

 

『───練ッ!何をしている!』

 

 

壮年の堕天使が声を荒らげながら降り立つ。その視線の先にいるのは────十を越える肉塊の近くに立ち尽くす青年であった。

 

 

青年は全身を血に塗らしながら、肉塊に人工神器の剣を突き立てていた。

 

 

 

『決まってる、クソ悪魔を殺してるんだよ』

 

『…………悪魔勢力とは敵対関係だ。だが、このような真似は表向きには許されてはいない』

 

『表向きには、だろ。コイツらみたいに、人間に手を出すような奴まで無視するってのか。殺した方が良いに決まってる』

 

『………戦争が起きても良いのか』

 

『知るかよッ!奴等が何をしようが関係ない!こんなクソども、俺の手で滅ぼしてやる!!』

 

『それで罪のない者が巻き込まれても、か?』

 

 

ギョロ、と青年が殺気を籠めた瞳を向ける。その発言が青年にとってどれだけ地雷であるのかを理解しながら、男はそう口にしたのだ。

 

 

イライラしたように頭をかきむしる青年。堕天使の男は諭すように言う。

 

 

『………私は、悪魔を滅した事を咎めてはいない。奴等が害を為してる事実は把握済みだ。だが、お前はどちらでも良いのだろう。この悪魔が善人だろうと関係なく殺す。単に殺す理由が欲しいだけだ』

 

『ウゼェなぁ……ッ!正論、正論!正ッ論ばっかだ!!アンタは俺をどうにかしたいんだろうが!俺からしたら迷惑極まりねぇんだよ!!疎遠になった自分の娘と!俺を重ねるんじゃねぇッ!!』

 

『……………練』

 

 

怒りのまま怒鳴り散らす青年に、堕天使の男は冷静に、静かに諭していた。フーッ、と沈静していく怒りにより、冷静になっていく青年は、すぐさま自分の言ったことを理解し、顔を俯かせる。

 

 

 

『────生存者は保護された。帰るぞ、練』

 

『…………クソッ』

 

 

 

 

 

 

────あぁ、これが昔の俺か

 

 

 

 

────見てられない程、愚かだ

 

 

 

かつての自分。その記憶を振り返っていた練は、困ったように笑うしか出来なかった。

 

 

 

昔の自分は、悪魔を許せない復讐者であった。いや、復讐者ですらない。アレは、獣であったのだ。復讐という名の殺戮に酔いながら、自分の過去からひたすらに逃げ続けてきたのだ。

 

 

 

一人だけ生き残った。

皆と一緒に死ねなかった。

何も出来ずに死人のように生きるのも、過去を忘れて明日を笑って生きるのも、嫌だった。

 

 

だからこそ、跡形も無くなった故郷に残した墓標に誓ったのだ。復讐をすると。必ず、悪魔を殺し尽くす。奴等の家族も、子供も、末裔も、一人残らずくびり殺す。

 

 

自分達の怨嗟を、憎悪を、怨念を。奴等に思い知らせてやる。そう決意したあの日から、自分は理由もなく悪魔を殺し続けていた。

 

 

 

────いや、違う。自分の求めていたのは、復讐ではなかった。それだけではなかった。

 

 

 

 

ただ、死にたかった。あいつらがいない世界なんて生きたくなかった。何もかも忘れて、他の奴等と笑って幸せな生き方をするなんて考えたくもない。

 

 

 

 

 

 

その度に傷つき、死にかけることが多かった。自分を保護してくれた堕天使の皆は、自分を気遣ってくれた。心配して声をかけてくれる者が大半であった。

 

 

拒絶すれば距離を取り、近付こうとしない者もいたが、それでも実を案じてくれるヒトもいた。

 

 

 

『全く、お前さんも無茶をするもんだ。………程々にしとけよな』

 

 

自分の父親とも言えるアザゼルも、同じであった。

しかし他の堕天使達とは違い、止めることはしなかった。止めても無駄と悟っていたのか、いずれ自覚すると考えていたのか。

 

 

 

『───フッ、お前が今代の真天龍か。今すぐにでも死に行きそうな眼と顔をしているな』

 

 

ヴァーリとの出会い、アレは正直に言って最悪だった。

悪魔のトップである魔王の血筋を名乗る彼を殺そうとして血狂いの決闘になりかけた。

 

 

その後は常に険悪な仲であった。いや、敵視してたのは自分だけだったかもしれない。そんな自分を面白そうにヴァーリは見ており、何度も喧嘩をした記憶は古くはない。

 

 

………結局の話、アイツの方が大人だったのだ。外界から隔絶された箱庭で、生易しく過ごしてきた自分とは違って。

 

 

 

『黒月君、明日幾瀬君達とお出かけに行くんだけど………一緒に行かない?』

 

 

彼女、アザゼルが保護してきた人間の一人である女性は、自分にも普通に接していた。いや、他の面々も同じだったが、彼女の方は自分を心配していたのだろう。

 

 

 

 

『おう、練。少し付き合えや』

 

 

その人間の一人、不良っぽい奴とは何度か衝突していた。言葉を交わすよりも殴り合った方が早いとか言う男に、練は鬱陶しいと思いながらも叩き潰してやろうと思った。

 

 

そして負けた。

いや、何度か勝てるところまで追い詰めたのだが、男は何度も立ち上がってきた。諦めない男の一方で、練は立ち上がることすら出来なかった。

 

 

何故負けたのか、当時はそれが理解できずにいた。

 

 

 

『レン君は優しいですよ?ずっと怒ってるけど、きっと分かってるはずです』

 

 

アザゼルやヴァーリを除けば、保護されてきた人間達よりも付き合いが長かった女性。おっとりしてるというべきか天然過ぎる面がある。正直苦手だった、どれだけ敵意を向けても恐れる様子も見せず、人の心を見抜いたように優しく言ってくる。

 

 

 

 

『……………俺は、君の気持ちが分かるかもしれない』

 

 

そして、保護されてきた人間の一人、黒狗の神滅具を宿していた青年は、自分に対してそう溢した。大方、アザゼルから過去を聞かされたのだろう。当初は余計なことを、と怒りを煮え滾らせながらも、黙って話を聞いていた。

 

 

練も知っているが、彼に起こった出来事は凄惨たるものばかりであった。同級生達を事故で失い、数人の内一人だけ生き残った。そして、死んだ筈の同級生達が化け物を引き連れて襲いかかってきた。その一人には、幼馴染みもいたという。

 

 

その事実を知った練は閉口し、言葉を失った。普通に生きていた人間が、どうしてこうも簡単に自分の居場所を奪われるのか。どうしてそんな理不尽が、この世界ではまかり通るのか。

 

 

────アンタは、許せなくないのか?自分達の居場所を奪い、友人達を利用した奴等が。そいつらの種族全てを、殺してやりたいとは思わないのか?

 

 

『当然、許せない………今もきっと、許すことは出来ないよ』

 

 

────じゃあ、何でだ?何で今を受け入れてられる?

 

 

 

『それでも、俺は誰かを守る為に戦う。誰かを憎んで、殺す為に刃を振るうよりも、誰かを助けるために刃を振るう』

 

 

 

彼等と出会って、話し、生活してきた結果、練は気付かされた。

 

 

 

 

自分の謳っていた復讐は、単なる自己満足であったことを。

 

 

 

 

 

 

どれだけ大切なものを失っても、立ち上がって未来を見据える彼等とは違い、自分は辛い過去だけを見続け、悲惨な過去に縛られ続けてきたのだ。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

意識が転化する。

切り替わった視界が写し出したのは、今までのような記憶とは違う一つの光景だった。

 

 

 

 

 

海。

透明な水が日光によって光輝き、綺麗な水のつぶてが辺りへと飛び散る。幻想的な世界の一つ、それは龍夜がかつて見た外の光景の一つだった。

 

 

閉鎖された箱庭で、親友たちと共に見ようと約束した世界の一つ。その夢はようやく叶ったのだ。

 

 

 

 

 

親友たちは死に、生きて見たのは自分だけだが。

 

 

 

 

「……………俺は」

 

 

念願の光景を前にしたのに、これっぽっちも満たされない。心に開いた穴が、どうして塞がらない。当然だ、外を見たがっていたのは親友たちであり、自分は外の世界に興味などない、むしろ嫌ってまでいた。

 

 

それなのに、外の世界へと出たがっていたユウキ、どっちでも良かったヴァルとは違い、自分ただ一人が、この光景を目にしている。

 

 

「…………見たくなかったよ、俺一人でだなんて」

 

 

涙が、溢れる。

当然ながら、それは悔恨の涙だ。

 

 

 

「約束したのに…………三人で、外の世界で楽しく旅をしようって…………」

 

 

黒月練は、過去から逃れられない。

自分が大切なものは過去にしかないから、未来に執着することもできず、ただ失われたものしか見ていられない。

 

 

 

現に、海の向こうに二つの影が浮かび上がる。親友二人の姿だ。顔までは見えないが、その姿は永遠に別れることになった時と何一つ変わらない。

 

 

止まらぬ涙を流し、練は言葉を失う。二人の姿を見た練は、海の向こうへと進む。自分の身体が、濡れようと関係ない。その先には進んではいけない、そう思う考えをかなぐり捨てる。

 

 

───最初から分かっていた。この世界は、精神の空間だ。黒月練は死に、彼の魂が死の狭間を彷徨っているという事実は。そんな事、もうどうでも良かった。

 

 

 

ずっと、苦しかった。

生きる理由の無い世界で、生きる理由を持たない自分が生き続ける事が。どれだけ死のうと思い、死を願ったことか。アザゼル達を悲しませる真似は出来なかったが、もう死んでしまったなら仕方ない。考えるのも無駄だ。

 

 

 

これでようやく、解放される。亡き親友たちのように、自分も死ぬことが出来る。そう思い、海の奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 

しかし、その瞬間。

 

 

 

 

 

『───練様』

 

 

 

 

『───大将』

 

 

 

 

『───練様

 

 

 

 

 

 

「─────────は」

 

 

三人の姿が、脳裏に過る。アイリス、ゼリッシュ、宗明。自分が助け、自分に着いてきてくれた優しくて強い、大切な仲間だ。

 

 

自分が死ねば、彼等はどうなる? 自分を信じて着いてきてくれた彼等は、この先どうすればいいというのか。

 

 

 

───死ねない、死ぬ訳にはいかない。

矛盾する感情が心の奥底から沸き上がってくる。あの三人、それ以外の人達との思い出が、脳内に広がってくる。

 

 

噛み締める記憶の数々は────どうしようもなく、楽しくて、嬉しいものばかりだった。

 

 

 

「…………最悪だ」

 

 

震える声で、呟く。海面に雫が落ちる。広がる波紋に、掠れた声が浸透していく。

 

 

「ずっと前まで死にたいって願ってたクセに…………今は死にたくないだなんて………あいつらを残して死ぬなんて嫌だって、思うなんて」

 

 

目の前を見ない、海の向こう側にいる二人の幻影を見ずに、練はゆっくりと立ち上がる。眼元を拭いながら、背を向ける。

 

 

「─────ごめん、二人とも」

 

 

両手を、握り締める。

水に濡れた肌だが、内側から熱が感じられる。その熱が全身へと行き渡っていくのを理解しながら、重かった口を開く。

 

 

「俺は、二人の、皆の所に行けない。まだ俺には未練が、やり残してる事があった。

 

 

 

 

 

だから、待ってくれ。少し、いや長くなるけど…………皆に話したい思い出を、沢山作ってくるからさ」

 

 

振り替えることもなく、前へと進む。海のある方とは離れるように、二つの幻影から距離を取る────否、自分が入るべき場所へと進むように。

 

 

 

二人の幻影は、何も言わない。

その代わり、少しだけ動きを見せる。

 

 

 

 

笑顔で、練を見送った。

今まで縛られ続けてきた過去ではなく、明日を見て進むことを決意した親友を励ますように。

 

 

 

精神世界と共に消える、その瞬間まで。

 

 

◇◆◇

 

 

 

─────ヴェルグ、聞こえるか

 

 

 

─────…………ほぉ、盟友。少しだけ、振り切れたようだな

 

 

 

─────早速だが、望みがある

 

 

 

 

─────何だ?盟友

 

 

 

 

─────お前の心臓、俺に寄越せ

 

 

 

 

─────…………………

 

 

 

 

─────『真天龍の心核(エフェクション・ヴァンガード)』。その真価はただ一つ、心臓だ。無尽蔵に力を生み出す無敵の天龍の心核。俺は今まで、その心臓の力だけを使っていたに過ぎなかった。神滅具の本来の使い方を出来ていなかった

 

 

 

─────…………その通りだ、盟友。だがその前に、聞かせてくれ

 

 

 

 

─────お前は、何のために戦う?何のために、何を覇道とする?

 

 

 

 

─────愚問だな

 

 

 

 

 

 

 

─────俺は全てを救う。俺の前で起こる悲劇から、より多くの人を救う。敵、いや、悪を容赦なく討ち滅ぼし、多くの生命が幸せを謳歌できるようにする────それが俺の、覇道だ

 

 

 

─────…………甘いな、無理難題だぞ?

 

 

 

─────そうだな。だが、俺はやってみせる。覇道ってのは、どんな困難も成し遂げる事だろ?

 

 

 

─────……………クハハハハッ!!良いぞ!流石は我が盟友!そうでなくては面白くない!!

 

 

 

 

 

─────ならばくれてやろう。だが盟友、お前に使いこなせるかな?

 

 

 

 

─────出来るさ、俺なら

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「ぐ、は───ッ!?」

 

 

吹き飛ばされた一誠が、血の塊を吐く。大木に叩きつけられた痛みよりも、神王の放った拳の方が遥かに重く、身体に負荷を与えていた。

 

 

自分の名を叫び駆け寄るリアスよりも、一誠は自分を殴り飛ばした神王を睨む。興味もない、感情の抜けた瞳は一誠を見定めるような冷徹なものだ。怒りもしてなければ、躊躇もない。淡々と、目的だけを果たそうとしている。

 

 

 

 

だがその瞬間、彼等は明らかな変化を感じ取った。

 

 

 

 

 

「─────」

 

 

一人は神王。

立ち上がり、挑もうとする一誠を返り討ちにしようと歩み寄ったが、ピタリと脚を止める。一点を、立ち尽くす練を静かに見つめる。

 

 

その瞳に宿るのは、驚愕と歓喜。無機質だった顔も、唖然としていた様子から一転、感嘆の笑みを刻み込む。

 

 

そして、もう一人───いや、一体と呼ぶべきか。

 

 

 

『…………この感じ、成る程な』

 

 

一誠の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、その宝玉から厳かな声が響く。天龍 ドライグ、彼も神王同様、異変に反応を示していた。

 

突然声をあげたドライグに疑問を浮かべた一誠。彼がその意味を聞こうとする前に、赤い龍は喜びを抑え込む事なく、告げた。

 

 

『相棒、あの男は至ったぞ』

 

「ドライグ………?」

 

『今まで歴史上では見られなかったヴェルグの真髄。奴の心臓を受け継いだあの男は、ようやくあの領域に立つことが出来る』

 

 

言葉の意味を理解しかねた一誠だが、心配は杞憂に終わる。目の前で、明確な変化が発生したのだ。

 

 

 

 

練の胸元、ポッカリと開いた穴に、渦が出来る。認視できるほど力の流れ、それは少しずつ強くなり、空間自体を歪ませたと思えば─────宝玉が、胸の穴に収まっていた。

 

 

 

 

透き通るような宝玉。それがキラリと瞬いたと思えば、練の全身に膨大な魔力が流れていく。四肢から指先、足の先まで、魔法使いでも耐えきれない程の魔力が増幅して、練の肉体を満たしていく。

 

 

傷が癒える。

裂けた肌は時間をかけることなく塞がっていき、折れた骨は綺麗に繋がっていく。全身の血は再び流れ始め、止まった筈の生命がすぐに動き出した。

 

 

重く閉ざされていた目蓋が、勢い良く開かれる。瞳は強い意思と覚悟により輝き、拳を前に構え────強く握り締める。

 

 

 

「──────禁手化(バランス・ブレイカー)

 

 

呟くようであり、告げる一声。

それが引き金のように、彼を包む莫大な量の魔力が一気に解き放たれた。

 

 

 

 

天が、空間が、世界が、悲鳴をあげる。絶大な魔力の放出に軋む音は、天龍の覚醒を祝福するものにも取れる。

 

 

両腕を左右に振るう練。彼の手から腕を、魔力が包んでいく。一瞬で、漆黒の装甲を形成し、練の腕に装着される。一際大きなその腕の装甲は、巨大な龍の剛腕のようであった。

 

 

背中から伸びた魔力の柱が、翼を形成する。金属的な刃が束なっていき、爪のような刃の塊が背中に格納されるように収まる。

 

脚や下半身を少ない装甲が張り付いて、軽装を纏わせる。

 

 

後ろの首筋を囲むように生じた魔力の塊。渦巻き、うねる魔力は蛇のようにのたうつが────光が晴れた瞬間に、金属の鎧で包まれた鎧の竜が現れる。その頭部は練の顔を覆うフルプレートらしいものであった。

 

 

魔力が周囲に充満する最中、練は腹の奥から力を込める。咆哮を轟かせるように、広げた口の喉の奥から張り上げるように叫んだ。

 

 

自らの、禁じられた力の名を──────。

 

 

 

 

 

「─────『漆天龍装の永久炉心(ヴァンガード・エフェクティクス・コア)』ッ!!」

 

 

真なる天龍の本領。世界で一度も見られることはなかった真天龍の禁手、それが初めて成された。

 

 

 

 

 

 

 

「─────ッ」

 

 

それを前に神王が、誰よりも早く動いた。

無言の詠唱。しかしそれは、どの魔法使いよりも速く、術式を編み込んだ魔法の起動パターン。

 

 

普通の魔法使いなら一時間、熟練でも数分は掛かる程の魔力を、一瞬で組み上げる。膨大な程の魔方陣のヴェール、そこから爆撃とも呼べる魔法の弾幕を解放する。

 

 

縦横無尽に駆け巡る魔法の雨。一撃でも浴びれば即死である魔法の数々を前に、練は巨大な剛腕を軽く振り上げる。掌をそちらへと向け、拳で空を掴む。

 

 

 

────すると、魔法の弾幕はふと消え去った。いや、消えたのではない。押し潰されたのだ、練が()()()()()によって。

 

 

 

「現象を操る力…………俺の魔法を世界そのもので打ち消すとは。最早世界を操る力だな─────面白い」

 

 

感心する神王が手を軽く払う。神王の槍、『虚数裂きし神逆の槍(ゼフィロス・アールティガ・レガリア)』が彼の意思に従うように自ら動き出し、練を射貫くように放たれる。

 

 

「────その力、どこまでのものか見せて貰おうか」

 

 

かつて自分を殺した一撃、それに臆することなく、練は片方の巨腕を前へと突き出す。全てを穿つ為に直進する槍を受け止めるように、掌を向けた。

 

 

 

轟音が、吹き荒れる。

空間を捻り万物を貫通する槍が、練の掌の間で止まっていた。いや、止まってない。神王の槍は未だ、動き続け、目の前の空間を破壊しており、その衝撃が周囲に響いている。

 

 

なのに、練には届かない。

彼の掌の前にある空間は、破壊されると同時に作り出されていたのだ。だから槍がどれだけ進んでも、練を貫くことは出来ない。そして、受け止める腕とは別の巨腕を真横へ、人のいない方へ差し向ける。

 

 

 

その瞬間、槍はその方向へと飛ばされていた。森や木々を破壊しながら直進していく。弾かれたのではなく、転送されたのに近いかもしれない。

 

 

「………流石」

 

「神王ォ─────ッ!!」

 

 

不適に笑う神王に、練が飛び出す。膨大な魔力を翼から放出し、ロケットのように加速していく。咄嗟に神王は防壁を十枚に束ねて壁のように展開する。

 

 

龍の巨腕と、防壁が激突する。衝突し合った双方を中心に火花と電撃が走る。怒号を響かせ、拳に全力を込める練の腕が、防壁にヒビを入れていく。

 

 

 

そして────完全に、神王を守る防壁が打ち砕かれた。

 

 

 

 

「何ッ!?」

 

 

驚愕を隠せない神王に、練は容赦なく拳を叩きつけた。殴られた神王はそのまま後方に吹き飛ばされるが、すぐさま身体を捻り、地面に足を着ける。

 

 

口元に垂れる血を軽く拭う神王。手に付いた血を見た神王は口を引き裂き、興奮したようであった。自分に傷をつけられた、その事が滅多になかったのか、戦意を強く滾らせている。

 

 

振り放った拳を戻し、練はフーッと息を整える。神王同様、途絶えることのない戦意に満ちた瞳を、彼へと向ける。

 

 

「……………神王、俺は───俺達は今からお前を倒す」

 

 

拳を、握る。全身に流れる無尽蔵の力を感じながら、それ以上に白熱する思考と心を受け止め、彼はそのまま龍の拳を翳す。

 

 

無敵かつ絶対である神王に挑み、あろうことか勝とうとするように。

 

 

 

「未来を、明日を掴み取る為に!お前をこの手で、打ち倒してみせるッ!!!」

 




黒月練の再起、及び覚醒のお話。実質的には練・オリジン。


練の行動、悪魔の駒の被害者の保護や魔王達への直談判は未来を見ているかのようなものでしたが、本人は責任感でやっていたに過ぎません。全てが終われば、自分が満足して死ねるかもしれないと。要するに死ぬために生きてた訳です、彼は。


でも、今回の事で少し吹っ切れたんですね。彼は。



過去とか考えて書こうとするだけでも泣けてきた………生き地獄なんだよなぁ、一人だけ生き残って三人で交わした約束を自分だけが叶えるって。




禁手についての解説は次回とかで良いですかね?(疲れた)良いですよね?(不安)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。