ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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限界を超えた一撃

「─────今のは、効いたな」

 

 

練に殴り飛ばされた神王が首を鳴らす。その顔にあるのは、憤怒ではない。むしろその正反対、相手の行動を喜び、称賛するような微笑み。それはすぐに、純粋な闘志を滾らせたものへと変わった。

 

 

「打ち倒すか、この俺を────悪くない」

 

 

金色の髪を軽く払いながらも、堂々した立ち振舞いで向き合う。その姿は正に、王というに相応しい。

 

 

「なら、倒してみせろ。他人の身体を使っているだけの俺に勝てないなら、本来の俺に挑む資格すらない。この俺も!今できる全力で!お前達を倒すとしよう!」

 

 

両腕を振り上げ、一気に広げる神王。その背後の世界を、無数の光が覆い隠していく。

 

 

全てが、神王の魔方陣。百を越える規模の魔方陣からあらゆる属性の魔法が放たれる。それも普通の魔法とは違い、一つ一つが強力な魔法使いがチャージして放つような一撃ばかりだった。

 

 

虹色に染まる光の雨に、練が巨大な龍の両腕を突き出す。受け止めるつもりか、そう思われたが違った。

 

 

練のうなじを部位の鎧から伸びる龍の頭部を模した接続ユニット。一つの生物のように蠢くそれは横一線に伸びる光のラインで空を見渡す。大空に展開され、今にも放たれる破壊の弾幕を。

 

 

『───現象、複製完了』

 

 

直後、背後の世界が歪む。暗く染まる夜空の景色に浮かんできたのは────無数の魔方陣だった。

 

 

神王すら、目の前の出来事に目を見開いた。偽物などではない、全て自分の魔力で形成されたものだ。何より、今現在自分が展開した無数の魔方陣と全く同じものばかりだった。

 

 

「複製投影!固定解除!」

 

 

放たれた魔法の弾幕が、神王の魔方陣と相殺されていく。現実を理解した神王はその光景を前に顔を俯かせ、大声で笑った。

 

 

「ふはははははは────ッ!!これは、これはいい!まさかここまで、俺に対抗してくるとは!流石はカタストロフの神滅具(ロンギヌス)の一角!その禁手(バランスブレイカー)だ!」

 

 

怒りや苛立ちなど何一つ無い、純粋な歓喜。目的を果たせたという事もあるが、それだけではない。自分の攻撃を容易く打ち消すことも出来た練の成長力に、感心しているのだ。

 

 

不適に笑う神王は、したり顔で呟く。

 

 

 

「────しかしまぁ、完全な禁手とは言えないらしいな」

 

 

ブチッ、と。

練の鎧の装甲の一部が弾けた。小さな傷、そこまで大したものには見えないが、確かな亀裂だ。

 

 

だが、練の方に明確な変化があった。ゴフッ、と大量の血を吐き出したのだ。口を押さえ、膝をついた練の口からとめどない量の血が溢れていた。

 

 

その原因を、神王は看破する。超越者でもあり膨大な知識をも有する全能の王は、答えを把握していた。

 

 

「カタストロフの禁手だ。並みの人間には扱えない代物を、こんな土壇場で覚醒させたんだ。肉体に馴染んでも無いのも当然…………と思ったが、それだけじゃなさそうだな」

 

 

淡々と解説する神王は、練の変化がまだ続いてることに気付いていた。肌の下の血管が浮かび上がるほどに膨張し、どす黒い色へと変わっているのだ。

 

 

「俺が消し去った心臓を、神器で補ったか。天龍の心臓、いや神器として名からして、心核という事かな。それが真天龍の神滅具本来の用途だったのかもしれない」

 

 

練の心臓は、神王の持つ槍によって貫通し、抉られた。それを、『真天龍の心核(エフェクション・ヴァンガード)』で補強することが出来た。それにより、練の心臓は龍種のものに近く、より強力なものへとなった。

 

 

しかし、さっきまで人間だった体に、龍に近い心臓が簡単に順応するかと言われれば、否。むしろ拒絶反応が大きく、練の肉体を内側から傷つけるはずだ。

 

 

強力な禁手の負荷と心臓による肉体の拒絶反応。練の禁手の副作用は複数の要因が重なり、体内がズタボロに傷付いているのだ。禁手を保っているのは、彼の気力。倒れんとする強い覚悟によるもの。

 

それは、あまりにも薄く、脆い。神王の攻撃によっては、それは容易く打ち砕かれ、練も死に瀕する可能性も高い。

 

 

「─────仕方ない。少々痛ましいが、荒治療だな」

 

「…………ッ」

 

「気張れよ、黒月練。殺さないようにしてやるから、死なないように努力するといい」

 

 

膝をついた練に、神王が魔法を放とうとする。しかし無防備に見えかねない神王が、巨大な影によって空へと吹き飛ばされた。

 

やはり神王自体にダメージはない。全身を覆うように展開された防壁が、あらゆる衝撃を拡散しているのだ。上空へと吹き飛ばされた神王は相手を確認し、笑いながら叫ぶ。

 

 

「ハハハッ!黒月練を庇うか!お前も無理をするなぁ!龍王 タンニーン!」

 

「────これ以上貴様の好きにはさせんぞ、神王!サーゼクスの客人に手出しはさせん!」

 

「そうか!覚悟があるのは結構だが、お前の相手は望んでない!しかし俺を止めたいなら、全力で来るといい!龍王が相手だ、それなりにやる気を出すとしよう!!」

 

 

凄まじい速度で飛び立ち、神王を迎え撃とうとするタンニーン。余裕かつ嬉しそうに笑い、両手を叩くように合わせる。

 

 

盛大に広げた両手に無数の魔方陣が圧縮された紋様が形成される。左手には白き光が、右手には黒い光が、巨大な形となって顕現する。

 

 

「────『神光聖領界(エルリヒト・ハイルヴァール)』!

 

 

 

─────『暗き闇開く魔域(ヴェル・レーテ・アンクセム)』!」

 

 

神王を中心として、光と闇の領域が空中に座した。その二つの世界を目の当たりにしたタンニーンは驚きの余りに叫ぶ。

 

 

「貴様!それは────ッ」

 

「はるか古代に消え去った魔法、神代魔法(ロストマジック)さ。エルリヒトが防御、神聖なる光による防御特化結界。アンクセムが攻撃、あらゆる防御を打ち砕く魔による攻撃特化結界。………見覚えがあるか?龍王」

 

 

二つの光を両手に纏わせる神王の真横で、無数の光の槍が展開される。弩のように構えられた砲台は全てタンニーンへと向けられ、一斉掃射の引き金を待つ。

 

 

そのスイッチを押すように、神王はかつての記録から閲覧した情報を言葉として口にした。

 

 

「確か古い記憶の通りなら────これはお前が殺した旧き友の使ってたものだよなぁ!?タンニーン!!」

 

「神王ォォォォオオオオオオオオッッ!!!」

 

 

激昂の怒号が、灼熱の息吹となって炸裂する。弓で射るように腕を突き出した神王の周囲から光の槍が放たれ、タンニーンへと掃射されていく。

 

更なる爆発が、辺り一帯に広がった。

 

 

◇◆◇

 

 

「…………ぐっ、クソ……」

 

 

激しい吐血に倒れかけた練が、悔しそうに呻く。ようやく形となった禁手だが、強力すぎる故に完全に使いこなせるどころか、逆に振り回されて、今にも倒れそうになっていた。

 

 

あれだけ強い覚悟で決め、啖呵を切ったというのに、この様かと、激しい自己嫌悪に陥る。こんな情けない姿を晒して、終わりでいいのか。

 

 

そんな訳がない。そんな真似、合ってはならない。

 

 

「クソッ………立て、立ち上がれよ………ッ!俺は、俺は、こんな所で…………終わる気は、ねぇんだ……よ………!」

 

「練!おい!無茶すんなよ!これ以上戦ったらお前は──」

 

「黙れよ、クソが………俺は、約束を、護れてねぇんだ。誰一人も守れずに、くたばれるか───ゴハッ!!」

 

 

必死に立ち上がろうとした練の体内で、拒絶反応が強まる。体を上げたその瞬間一部の血管が破けた事によるダメージが響き、今まで以上の血を吐き出してしまう。

 

 

そのまま崩れ落ちた練。意識を失いかける彼だったが、突如彼の背中に手が添えられる。瞬間、ぽわっと淡い光が生じ、練の体に透き通っていく。

 

 

「………黒、歌?」

 

「…………私に出来るのはこれくらいにゃ。全身の損傷を治すのには時間が掛かるから、安静にしてて」

 

「………どれくらい治せる?」

 

「十分もあれば全身は治せるにゃん。けど、完治じゃない。仙術で体内の傷は癒せても、拒絶反応は消せない。誤魔化せてはいるけど、動けるのは数分くらい」

 

「充分だ。どのみち、一か八かに掛けるしかない」

 

 

口に残った血を吐き捨て、口元の血の跡を拭う。上空で戦う神王の隙を突ける作戦を見出だそうとする。

 

 

「…………だが、十分は長いな。もう少し短く出来ないのか?」

 

「文句言わない。ただでさえ、内側がボロボロなんだから。私一人だと全部を治すのに時間が掛かるにゃん」

 

「チッ、無茶なのは分かってる。だが、時間が掛けられないのは事実だ。このままだと神王にやられるぞ───」

 

 

そう言ってるその時、練の体を癒す仙術が一気に増した。思わず練は黒歌を見る。が、彼女ではないらしい。

 

 

振り向くと、右肩に手を添えた小柄な少女がいた。小猫、いや白音が姉と同じように練を癒していた。

 

 

「………お前は」

 

「私の仙術は、姉様のように優れてません………でも、何もしないよりかはマシです」

 

「俺は、お前の主人や仲間に酷いことを言った男だぞ。それでもか」

 

「事情はアザゼル総督から聞いてます。貴方が悪魔を嫌う理由も、姉様と出会った経緯も」

 

「…………チッ、余計な真似をしてくれる」

 

 

悪態を吐き捨てて、すぐに首を横に振った。結局、悪魔だという理由で嫌悪や怒りを振り撒いていた自分。神王派のやり方を否定したくせに、身勝手な怒りで周りに辺り散らしていたのだ。つくづく未熟な自分が嫌になってくる。本当に迷惑をかけてばかりだ。

 

 

「………あの、姉様の件ですけど」

 

「悪いが、話は後で聞く。それと、お前がするべき事は分かってるはずだ」

 

「…………」

 

「複雑だろうが、まずは話し合え。自分の考えを伝え、相手の考えを聞け」

 

 

それだけだ、と練は口を閉ざす。

仙術で体調が落ち着いた練は一息つくと、近くで心配そうにしていた一誠を呼ぶ。

 

 

「おい、一誠。少し力を貸せ」

 

「力を貸せって………一体何を」

 

「分からない奴だな。神王に一発かますんだ」

 

 

断言する練の言葉に驚きを隠せない一誠。その間も、練は話を続けた。

 

 

「今この場で奴に対抗できるのは、俺の禁手だけだ。それでも、俺一人の力じゃ無理だ。だから、お前の力が必要だ」

 

「…………」

 

「頼む。俺だけじゃあ奴に勝てない、黒歌や白音も守れない。身勝手な事を言ってるのは分かる。だが、今回だけでいい。俺に力を貸してくれ────頼む」

 

 

そう言い、練は深く頭を下げた。誠意の籠った姿勢で頼み込む練に一誠は迷うことなく応えた。過去の態度も、今は忘れる。ここまで頼まれて不服を唱えるほど、兵藤一誠の器量は小さくない。

 

 

「ああ、分かった。それで、俺は何をすればいいんだ?」

 

「…………作戦は今伝える。これはさっきも言ったが、一発限りだ。場合にもよれば、神王を倒せるチャンスを無駄にしない為にもな」

 

 

◇◆◇

 

 

「────オオオオオオッ!!!」

 

「流石は天龍。軽めの本気じゃあ、簡単には倒れないか」

 

 

数百の光の槍の浴びても尚、灼熱の炎を吐き出すタンニーン。あまりの熱量に魔力で構成された結界が完全に消え去っていくのを認識しながら、複数の槍を一つにまとめた大槍を投擲する神王。

 

 

しかしタンニーンはそれを片腕で受け止め、掌の中で砕き潰す。その上で、吼えるように怒鳴った。

 

 

「どうした、神王。魔法の威力が落ちているぞ!疲弊でもしてきたか!」

 

「まさか、この程度はまだ児戯だろう?」

 

 

振り下ろされた豪腕。並大抵の人間を肉片に変えるであろう威力の一振を、何十にも重なった防壁が受け止める。それでも耐えきれず何枚かは破れるが、全て破壊されるまでにはいかない。

 

 

「確かに、もう時間切れのようだな」

 

 

そう笑う神王の腕が僅かに震えていた。いや、魔力が霧散し欠けているのだ。その僅かな変化を、見逃すタンニーンではない。

 

 

「どうやら、貴様………その器の身体が限界らしいな」

 

「厳密には時間制限って奴だ。他人の身体に自分の魂を乗せるなんて芸当、完璧にいく訳ないからな。こうやってしとかないと、俺の魂が夏鈴の身体に適応してしまう」

 

 

それが、神王が施した補助機能。自分の仲間を犠牲にしないための術式が、今になって作用し始めたのだ。

 

 

時間は恐らく十分未満。あと少しで夏鈴の肉体から神王の意識が弾き出され、彼等の辛勝となるだろう。

 

 

「だがまぁ、その前に。天龍以外は墜としておこうか」

 

「ッ!貴様!何を────」

 

「もう遅い。お前は今、俺を止めるチャンスを失った」

 

 

両手の指先から複数の帯が延びる。それが特殊な布であり、その面に無数の文字が並べられていることに気付いた。それを広げ、自身を囲む円とした神王は指で複数の印を作りながら、詠唱を口にしていく。

 

 

「────『アール・ヴェーレ・デェアス・クローイル・ツァーシー・リー・フュエル・バーティア・エイン・ハーツ』!」

 

 

それら一つ一つが魔法を発動できる詠唱と魔力を有しており、巨大な術式を体現している。

 

 

何十にも展開された術式の円陣。輪となって巡る術式の中央に座するのは、魔力の塊である球体であった。

 

 

「詠唱完了、術式構築。口頭詠唱と多重術式の構築、久しぶりにやったな。少しは疲れるが、マメにやっておかないと鈍るし、仕方ない」

 

 

たなびく金髪を指で弄りながら、神王はタンニーンを見下ろす。今も睨み付けながらも、攻撃を行おうとしないタンニーンに感心しながらも神王は口を開き、説明する。

 

 

「神代禁忌魔法が一つ、『天罰』。聖書の神に殉じた狂信者達が異教徒の殲滅の為に生み出した負の遺産だ。対象を設定し、それ以外の生命体を駆逐する、正に教会が古くから掲げるやり口だろう?」

 

「────ッ!」

 

「賢い選択だ、タンニーン。幾らお前が手を打とうとこの術式の破壊は出来ない。概念に当たる力を持つお前が全力を潰そうと、この術式の起動は止められない。下にいる彼等を助けることなど、不可能に近いな」

 

 

増幅していく光の玉が、太陽のように肥大化していく。裁きを体現した禁忌の魔法が構築され、その効力を完璧に発揮されようとしていた。

 

 

「さぁ、どうする?タンニーン。お前がどんな選択をしようと、俺を止められないのが現実だ。今後の計画の邪魔になるお前だけは確実に葬れる状況だとは思わないか?」

 

「笑わせるな、神王」

 

 

その状況下で笑い返す龍王に、神王は素直に感心した。同時にその笑みの理由があると把握し、それを理解する。

 

 

「貴様を止める者が、俺だけだと思ったか!」

 

 

直後、地上から音速で飛び出した影があった。不完全な龍の力を振るうその人間は、迷うことなく神王へと激突する。

 

 

左右から巨大な爪が振るわれるが、防御障壁がそれを防ぐ。二本の剛腕を受け止めた神王は目の前の青年に問い掛ける。

 

 

「黒月練!俺の相手をしに来た…………よりも先に、やることがあるのか!?」

 

「ッ!」

 

 

練は答える間も無く、防御障壁に脚を掛けた。力一杯に踏み抜き、真上へと飛び出す練。その狙いはただ一つ、神王の展開していた禁忌の魔法『天罰』であった。

 

 

空に昇る太陽のような球体に練は手を伸ばす。掴むように突き出された掌は、別のものを掴もうとしていた。

 

 

「現象補足!────範囲内固定!抹消ォ!!」

 

 

真天龍の如くの手が、空間を掴む。言葉の比喩ではなく、空間そのものの範囲を設定し、そこだけを完全に消し去る。真天龍の力、世界の改変すら可能にする異能をもってすれば、不可能ではない。

 

 

ブォン、と。

一瞬で、神王が作り上げた術式が影も形も、跡形もなく消え去った。

 

 

「おいおい、俺もやる気を出したんだぞ。そう簡単に消されるなんて─────嬉しくなるじゃないか!!」

 

 

向きを変え、此方へと突貫してきた練。厄介な魔法を消した後は、自分を倒しに来たのだろう。神王はそれき気に掛けながらも、真後ろに意識を向けていた。

 

 

龍王タンニーンが、焔火の息吹を放とうとしている。防御障壁を何枚も貫通する一撃こそが、神王にとって一番警戒すべきものだ。

 

 

「龍王タンニーンッ!!」

 

 

黒月練の叫びが伝わったのか、タンニーンが動きを変えた。しかしそれは神王の予想を上回るものだった。灼熱のブレスを止め、その場から後退するタンニーンに思わず困惑が生じる。

 

 

(どういうつもりだ?タンニーンを抜きして、一人で相手する気か?それは少々─────)

 

「驕りが過ぎると、言わざるを得ないぞ!黒月練!!」

 

 

飛来してきた練の腕が、防御障壁と衝突する。衝撃が何十もの壁に伝わり、浸透する。だが、それだけだ。防御障壁を完全に破れる一撃ではなかった。

 

 

(…………可笑しい。こんな弱い攻撃をするはずがない。いや、むしろこの攻撃には理由が────?)

 

「今だ!吹き飛ばせ!!」

 

 

練の叫びが誰に向けてか、答えはすぐに分かった。地上にいる一誠。凄まじい程に倍加した一誠が赤龍帝の籠手を空へと突き上げている。

 

 

「行くぜ!!これが俺の全力の、ドラゴンショットだぁッ!!!」

 

「それが狙いか!─────浅はかッ!!」

 

 

放たれた魔力の奔流。

山一つを吹き飛ばす威力。度重なる倍加により、それ以上と増した砲撃。

 

だが、神王にとって見れば大した切り札ではなかった。一笑に伏せる程のもの。たとえどれだけ強かろうと、来ると分かっている攻撃は防御障壁で打ち消せる。それくらいの威力ならば、多少の障壁を増やせばいい。

 

そう思っていた神王は放たれたドラゴンショットが打ち消される様を見ようとする。あと少し、障壁に触れる直前、

 

 

 

ドラゴンショットの魔力が、倍に膨れ上がったのだ。神王が予想していた威力を、上回るように。

 

 

「っ!?これは、時限式の倍加だと!?」

 

 

気付いた時にはもう遅い。続けての倍加が行われたのは、障壁に触れる直前。この至近距離で障壁を張り直すなど、神王であろうとも難しい。

 

そして、魔弾が障壁を全て貫通した。無敵と思われた障壁を破った不意の砲撃は、そのまま神王へと直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

「だが!まだまだァッ!!」

 

 

その魔力を、素手で受け止めた。赤龍帝の倍加によって、格段に強化されたドラゴンショットを、神王は手の中で握り潰し、魔力を散らした。

 

 

「これで終わり、な訳ないだろう?まさか君も禁手してくれるなんてサプライズじゃないだろうなぁ!?それだと喜ぶんだが、どうやらもう終わりらしいな!なら、君も黒月練のように無茶をするしか──────」

 

 

無い、と言おうとした所で、神王は全てを察知した。視界の片隅で動く影を、理解する。

 

 

黒月練。

禁手を纏う彼の力が、一気に膨れ上がっていた。さっきまでとは隔絶した、圧倒的なオーラを放ちながら。その理由が何なのか、察せられない程鈍くはない。

 

 

(────赤龍帝の魔力を、吸収した!?なるほど、そうか!さっきの攻撃はこれの為か!)

 

「だがッ!悲しいかな!!俺の方が一手早い!!」

 

 

片腕に収束させた魔力で光の槍を、全速力で射出する。魔力の増幅を極限まで溜め込もうとしていた練がそれに対応しようとするが、神王の言った通り。一手遅い。

 

 

 

 

 

光の槍が、練の心臓を再び貫く。心臓を抉られた練は顔色を変えない。そのまま力を込め、槍の力で完全に消し飛ばそうとした。

 

 

 

 

 

瞬間、世界が割れた。

その時、自分の視界が、さっきまでの光景と別物になっていた。

 

光の槍に貫かれた練はいない。自分の放った槍は、何もない空間に飛ばされていた。

 

 

その代わり、少し離れた場所で、練が両腕を重ねている。倍加の魔力を吸収し、倍増した力を両手の間に集中させ、一つの魔力砲として構えている。

 

 

(幻ッ覚!?いや、これは違う!奴を抉った感覚は間違いない、その感触も確かにあった─────まさか、そうか!)

 

「現象の、再現!俺の意識を錯覚させる現象を、作り出したか!」

 

「………一手の速さじゃアンタには勝てない。だから、間違った一手を打って貰った」

 

 

その一手の猶予を、見逃すはずがない。

 

 

 

「──────双対(そうつい)龍却咆(りゅうきゃくほう)

 

 

 

練の両手から放たれたエネルギーが、砲撃として炸裂する。防御障壁を張る暇も与えず、直撃した神王を呑み込み、大地の一つを大きく抉った。

 

 

◇◆◇

 

 

「────終わった、のか?」

 

「………終わったに、決まってるだろ。これ以上、あってたまるか…………っ!」

 

 

禁手が解除された練が、不安そうな一誠へ呻く。仙術で治癒されたとはいえ、意識で保っていた不安定な状態だ。

 

激しい息切れと汗を流す練に、黒歌が駆け寄る。一誠も安堵し、一息ついた途端の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────いやぁ、見事見事。さっきの一撃は効いた」

 

 

抉られた大穴から歩み出してきたのは、神王。ボロボロに負傷しているにも関わらず、余裕に満ちた振る舞い。その様子に、一誠は唖然どころか恐怖すら覚えた。

 

 

「嘘、だろ………!?不死身なのかよ、アイツ!?」

 

「いいや、もう終わりだ。これ以上無理に戦うつもりはない。俺はともかく、夏鈴の方が限界だ」

 

 

両手を挙げて降参を示す神王。だが、素直に警戒を解ける状況ではない。困ったように笑う神王は、指を振るい、転移魔方陣を展開した。

 

 

「安心しろ、俺の部下達も退かせる。こんな状態とはいえ、俺を倒したんだ。大人げない真似をするつもりはない」

 

「………神王」

 

「強くなれよ、二人とも。お前達が強くなれば、俺達の宿願は果たされる。彼等の祈りを、成就させるためにも」

 

 

そう言い、魔方陣に包まれた神王は完全に消え去る。その余波は結界の外にいる神王派メンバーにも響いていた。

 

 

 

「…………まさか、王が退けられるとは」

 

 

銃を下ろしたアンシア。その様子に木場とゼリッシュも動きを止める。二人を睨みながら、アンシアが叫ぶ。

 

 

 

「シフリン!シーマ!朧!撤退だ!これより、王の居城へと帰還する!」

 

「────やれやれ、いいところでしたのに………仕方ありませんね。美しく!華麗な舞台は次に取っておくとしまょう!」

 

「………に、兄さん。もう少し緊張感を、持って………」

 

『残念だ。あと少しで悪魔どもを根絶やしに出来たのに』

 

『まぁまぁ、次があるから。今度は必ず、完遂すれば良いだけだよ』

 

 

余裕と共に撤退してい神王派メンバー達。残された一同は全員が無事という訳ではなく、むしろ重傷のものが多かった。

 

 

「…………アイリスさん、ゼリッシュさん。治療の手伝いをお願いします」

 

「宗明さんは?」

 

「別行動中のアザゼル様に報告を行います。その後、練様も連れてきますので」

 

 

 

神王が消えて、ようやく落ち着いた練と一誠達。誰かが声を発したその時、別の声と重なった。

 

 

「驚いたな。神王相手に全員五体満足とは」

 

 

いつの間にか、近くに男が立っていた。フードで全身を隠していたが、発される異様な気配だけは隠しきれない。

 

 

練と一誠、その中にいる天龍がその危機を察知していた。

 

 

『練、気を付けろ。アレは───』

 

「あぁ………分かってる」

 

『相棒。ヤツは人間でも、妖の類いでもない────それ以上の化け物だ』

 

「ど、ドライグ?」

 

 

立ち上がろうとして膝をつく練に、一誠が前に出ようとする。赤龍帝の籠手を展開し構えるが、その様子に男は本当に鬱陶しそうに溜め息を漏らし、

 

 

「動くな」

 

 

一帯を、白い冷気が支配した。一瞬、風が吹いたかのような変化だった。たったそれだけの猶予で、この世界が氷に包まれていた。

 

当然ながら、全員。いち早く動こうとしたタンニーンはほぼ全身を氷漬けにされ、他の皆は脚や腕だけを凍らされていた。

 

 

「安心しろ、凍らせたのは表面だけだ。命に別状は無いが、下手な真似をすれば皮膚が肉ごと剥がれるぞ」

 

「く、クソぉ……」

 

 

抵抗も許されず、睨むことしか出来ない一誠は強く歯を噛み締める。男は一誠を、そしてを見返した。

 

 

「赤龍帝は必要だから置いておけとの事だったな─────なら、瀕死の『真天龍』くらいは、奪っておくか」

 

 

ギロリ、と鋭い眼で見下ろし、練へと手を伸ばす。ピキピキと冷気を帯びた腕の冷たさは強力で、近づけられただけで練の肌が凍っていく。

 

その手が完全に顔を掴もうとした瞬間、

 

 

 

 

「そこまでです」

 

 

空間に生じた剣の刃が、男の腕を切り払った。思わずもう片方の腕を持ち上げた男は、自身の腕を切断した剣に何かを感じ取り、一瞬で距離を取る。

 

 

練の前の空間を縦に裂き、姿を現したのは眼鏡をかけた男性だった。知的かつ紳士的な雰囲気でありながらも、片手に持った大剣を軽々しく奮うその様は矛盾するものがあった。

 

 

「その剣、貴様。騎士王の血を継ぐ者か」

 

「ええ、知っているなら何よりですが、自己紹介はしておきます。私の名はアーサーといいます。以後お見知りおきを」

 

「…………ふん、知っているぞ。アーサー・ペンドラゴン、アーサー王の影武者一族でありながら、王の血を継いだ異端児。いや、ペンドラゴン家の最高傑作だとな」

 

 

冷気が更に凍てつき、鋭くなっていく。男が放つ殺意のように、アーサーと名乗った男性へと向けられる。

 

 

「そこのガキを庇う気か?貴様にそこまでの理由があるとは思えないな」

 

「理由ならありますよ。そこの彼、黒月練はヴァーリの戦友です。弱った黒月練にトドメを差すなんて、止めないはずがないでしょう」

 

 

聖剣を構え、冷静に告げるアーサーに、男はふん、と鼻を鳴らす。何も言わず男は背を向ける────直前、小猫と黒歌に視線を向けた。

 

 

「…………」

 

 

フードから覗く鋭い瞳。それを見た小猫は困惑した、初めて見るような殺意を体現したような禍々しい目つき。それなのに、何故見知ったような感覚に陥るのか。何故あの瞳に、安心感を覚えてしまうのか。

 

 

黒歌だけは、信じられないと言わんばかりの顔で男を凝視していた。口を開こうとした瞬間、男の背中を引き裂くように竜の翼が開かれる。

 

 

「アーサー・ペンドラゴン。いずれ貴様も殺す。お前と同じ騎士王の血を継ぐ者も、『聖書新生式』が一人、『凍氷』のグレイが駆逐する」

 

 

そう言って、男───グレイはその場から飛び立った。禍々しい気配が消え去り、何度目かの落ち着きを取り戻した一誠が呟いた。

 

 

「本当に、これで終わったんだよな?」

 

「………………」

 

「?練、どうしたんだ?」

 

 

隣にいるはずの練から返答が来ないことに疑問を覚えた一誠が問う。振り返ると、練の顔色がすごいことになっていた。真っ青やら真っ白やら、ガクガクと全身を震わせている様子に流石に大丈夫とか聞いてる場合でもない。

 

 

「─────ゴフッ」

 

次の瞬間、おびただしい血と共に練が白目を剥いて崩れ落ちた。

 

 

黒歌が先程言っていた『戦えるのは十分』だけ、それが過ぎた結果、禁手の負荷と拒絶反応が一気に重なり、気力で保っていた練の意識を完全に消し去ることになったのだ。

 

 

血を吹いて倒れた練を抱え、一誠達は医務室へと急いで向かうことにした。




漆天龍装の永久炉心(ヴァンガード・エフェクティクス・コア)


真天龍の心核(エフェクション・ヴァンガード)』の禁手化。基本能力であった現象の再現・複製の大幅強化。龍の心臓もとい炉心の効果により、半永久的エネルギーを増幅させる機能を持ち、世界改変すら可能とも言えるロンギヌス。

しかし心臓を失った練の心臓を補強した影響で、龍の心臓と人体の拒絶反応と、強力な禁手化を使いこなせない結果、絶大な負荷を受けている。本編ではこれが理由で苦戦を強いられていた。


頭部ユニットでもある龍の頭を模した鎧は首筋から伸びたアームにより分離可能であり、独立して練の動きをサポート出来る。練の能力のサポートや死角からの敵への迎撃も可能。


そもそも、このロンギヌスは歴代と呼べる人間がいない。いわば練が初めて適応した人間なので、禁手自体も不完全であり、これからの成長によって進化していく未来も残されている。


とりま、練が吐血ばかりしてる今回の話でした。次回でこの章は終わりとなります。それでは!
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