ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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後日談

「─────よくもまぁ、目を離した間にズタボロになったなぁ。お前も」

 

 

呆れたように笑い、読んでいた本を閉じたアザゼル。彼は真横のベットに寝かされた黒月練に軽口を叩く。ようやくおきたばかりの練は溜め息を限界まで吐き出し、天井を見上げる。

 

 

「……………トラウマが過る」

 

「…………悪いな、嫌な事を思い出させた」

 

「ヴァーリにボコられて医務室送りにされた忌まわしき思い出が…………!何度こんな真っ白な天井を見てきた事だか………!」

 

「そんな事かよ!少し気に掛けた俺の気遣いの心を返せ!」

 

 

いや、普通にトラウマの一つだろ。もっと気を遣え、と不服を唱える練はふと自分の状況を振り返ることにした。

 

 

神王派による悪魔達のパーティーの襲撃。その一人、夏鈴と名乗った青年は練と一誠を狙って襲ってきた。その果てに、奴は神王を自身の肉体に憑依させてきた。

 

 

結論として言えば、何とか神王を退けることも出来たが、練の怪我や負傷も大きく、その場で気を失ったのだ。そこまでは覚えている。だが、それ以降は記憶になかった。

 

 

アザゼルから教えて貰った話だと、その後一誠達が自分を連れてきたらしい。すぐさま医務室へと叩き込まれ、治療を受けて今安静しているという訳だ。

 

 

全身の骨の殆んどが砕け欠けてたらしい。何とか補強できたが、右腕の骨だけは色々と負担が強かったらしく治るのに数日は掛かるとのこと。少し早いと思うだろうがあまりに気にしてはいけない。

 

 

「それはそうと、目が覚めたお前に会いたいって奴等がいてな」

 

「…………兵藤一誠達か?」

 

「察しがいいじゃねぇか。話がしたいって言ってるんだが、お前さんはどうする?」

 

「………話すに決まってるだろ。どうせ今日一日はここで寝てるしか出来ないんだからな」

 

「へぇ………なるほど、お前さんがかぁ」

 

 

ニヤリと面白そうに笑うアザゼル。からかうような態度に、練は少し不機嫌そうに聞いた。

 

 

「何か不満でも?」

 

「いいや、不満つーより驚いてんのさ。前までは悪魔悪魔って毛嫌いしたのに、随分と変わってきたなって」

 

「…………考え方が少し変わった。それだけだ」

 

「ふーん。じゃ、外にいるから呼んできてやるよ。その間、俺も少し離れてやるから」

 

 

軽く言いながら手を振って部屋から出ていくアザゼル。どうせ近くのカジノで遊んでくるだけだろ、と呆れながら、ボーッとしているとノック音が響いてきた。

 

 

入れ、と言うと、一誠とリアスの二人が入ってきた。二人は此方を見ると、不安そうに、心配そうに、自分を気に掛けていた。

 

 

少し前まで、態度も悪く、悪魔という理由で嫌悪感を見せていた相手なのに。

 

 

「練、怪我とかは、大丈夫なのか………?」

 

「まぁな。当分は動けないだろうが、そこは堕天使と人間の技術力の結晶だ。明日もあれば動けるようにはなる」

 

「じゃあ、腕の方はどうなんだ?その、折れてるって話だけど」

 

「それも明日には治る。俺達の技術力の結果ってヤツだ」

 

「…………一日って、人間離れしてんなぁ」

 

「お前らが言える立場か」

 

 

人間よりも頑丈で、数秒で完治する薬品もある悪魔側が言う台詞でも無いだろ、と呆れながら突っ込む練。いつの間にか憎んでいた悪魔に軽口を叩いている自分に、疑問すら思わない。

 

 

種族全てを嫌悪するつもりは、今の自分にはなかった。それに気付くこと無く練は話を聞いていた。

 

 

「そういえば、お前に教えておきたい話もあったんだ」

 

「教えておきたい話?」

 

「サーゼクス様達が各神話や勢力の方々に今までの行いを正式に謝罪したらしいんだ。昨日、お前が寝てる間に」

 

 

渡された冥界の新聞を読むと、確かにそのような話が大きく載せられている。悪魔という種族の負を表に晒し、それを償わせるということ。練の悪魔への復讐が果たされた、と言っても過言ではない。

 

 

「そして、悪魔の駒に関する法律を作って、転生悪魔の立場を良い方に変えるってさ。一部の貴族からは不満が出てるらしいけど、魔王様の決定だから皆そこまで否定的じゃないらしいんだ」

 

「………まぁな、それは当然だ」

 

 

それでも、反対的な意見があるのも事実。他種族や転生悪魔を奴隷のように思っている貴族からすれば、反意を唱えるのは当然だろう。まぁ、クーデターでもしてくれれば、探して潰す手間も省けるというのもある。無情であるが、今までの事を考えれば、これくらいして欲しいとは思う。

 

 

それから話している間、練は一息つく。深呼吸で整えながら、話の合間を突いた。

 

 

「………少しいいか?二人とも」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

 

疑問を覚える一誠とリアスの二人、彼等を前に練は姿勢を正す。そして、困惑する彼女達の前で────深く、頭を下げた。

 

 

 

「リアス・グレモリー、兵藤一誠。今までの非礼、ここで謝罪する」

 

 

嘘ではない、本気の謝罪。

悪魔を毛嫌いし、かつて自分達にも憎悪を剥き出しにしてきた人物とは思えない行動に、苦手意識を覚えていた二人は本気で慌てた。

 

 

「…………少しの前の俺はまだ未熟だった。リアス・グレモリー、貴女の事を世間を知らず甘さと優しさを履き違えた貴族悪魔と見下していた。そして、兵藤一誠。俺はお前に嫉妬していた。馬鹿みたいな理想だけを抱いて、生半可な覚悟で戦ってるドスケベ馬鹿野郎だと見下していた」

 

 

「お、俺そんな風に思われてたのか………」

 

「すまん。ドスケベ馬鹿野郎は事実だったな」

 

「馬鹿野郎ぐらいは取り消せよ!?」

 

「ドスケベは否定しないのね………」

 

 

半ば呆れるリアス。否定しない辺り、事実なのだろう。

 

 

骨折した方とは別の掌を見下ろし、練は続ける。呟くような言葉を。

 

 

「あの戦いで、俺はお前達に助けられた。お前達がいなければ、俺は黒歌も白音………いや、小猫って呼ぶべきか。あの二人を、俺一人では助けられなかった。その力になったのは、俺が憎み、嫌悪してたお前達だった」

 

「…………」

 

「正直な話、俺の目は節穴だった。悪魔というだけで侮蔑し、人間性というものを見ようとしていなかった。結局、俺も自分が嫌っていた奴等と同じだったって訳だ。

 

 

 

 

 

重ねて、非礼を謝罪する。迷惑を掛け続けた」

 

 

再び頭を下げ、謝罪を示す練。少し困った様子の一誠だったが、意を決したように話し始めた。

 

 

「………その、謝りたいならさ。もうそれで良いと思うぜ」

 

「…………お前は、それでいいのか?」

 

「実際、お前の言う通り、馬鹿だしな。お前の事ヤな奴だとは思ってたのは、俺の同じだから、あんまり気にすんなよ」

 

 

申し訳なさからか、遠慮気味な練に、一誠は迷うことなく話し掛ける。かつてのような敵意を見せず、同じ立場にいる者と語り合うように。

 

 

「それにさ、お前にそんな態度で接されるの少し違和感あるから、これからは普通に仲良くしようぜ」

 

「────フン、そういうことなら話は早い。好きにすればいい」

 

「お、お前………変わり身早いな」

 

「何だ?敬語で接して欲しかったか?その方が気持ち悪いだろ」

 

 

軽口を交わし、語る二人。思わず笑いが漏れた。一誠と練、二人は互いの顔を見合い、各々の手を差し出した。

 

 

「んじゃ、これからはよろしくな。練」

 

「不本意だが、これも縁というやつだ。色々と付き合わせて貰うぞ─────イッセー」

 

 

いがみ合っていた二人が、今その壁を取り払った。

 

 

◇◆◇

 

 

その翌日。

腕の骨折も完治した練はアザゼルの同伴で、冥界のとある施設へと向かっていた。厳密にはその施設の奥、普通の貴族の悪魔ですら入れない特別な部屋だ。

 

 

因みに、練の仲間────アイリス達は今冥界のホテルで待機している。彼女達も同行したいと言っていたが、相手が相手なので厳しいという話だ。

 

 

「………アザゼル。オーディンという神についてだが」

 

「あん?オーディンのジジイがどうしたってんだ?」

 

「相手は北欧神話を代表する主神。つまり北欧の神々を束ねるトップだ。粗相を働く訳にはいかない、主神オーディンがどんな方か知っておく必要が────」

 

「ただのスケベジジイだ。気に掛けるだけ無駄だっての」

 

 

ケッ! と吐き捨てるアザゼルに、流石に言い過ぎではと思いながら、半分納得している自分がいた。アザゼルがこういう時は大体嘘ではなく、本当なのだ。

 

魔王の一人が魔法少女とか聞いた時だってそうだった。この総督、とうとうデマカセまで吐くようになったかと呆れた後に、コスプレ魔王(女性)と出会った時は気絶するかと思った程だ。

 

 

そうこうしていると、VIPルームという部屋の前に着いた。緊張している練だったが、アザゼルはそんな様子を無視して扉を開け放つ。

 

 

「オーディンのジイさん、入るぜ」

 

「おう、ようやく来よったか。アザゼル」

 

 

部屋に入った途端、真ん中の机には一人の老人が腰掛けていた。

 

真っ白な髪と髭を伸ばした、隻眼の老人。歩くためについてたであろう杖を椅子に傍らに置き、ゆったりと寛いでいるが、その姿を無防備と嘲笑える訳ではない。

 

 

普通とは違うオーラ。

神王に近い雰囲気、威圧感。正しく、神に相応しい覇気を宿すその老人は、まごうことなく北欧の主神 オーディンであった。

 

その後ろでは、スーツを着込んだ銀髪の女性が侍るように立っている。恐らくは、主神の護衛か付き添いだろうか。

 

 

主神の前に歩み寄った練は一息つき───膝を地面につけて、頭を下げる。平伏すような態度で、主神に一礼を示す。

 

 

「───お初にお目にかかります、主神オーディン様。黒月練です、何卒よろしくお願いします」

 

「全く、固いのぉ。別に公的な場ではないし、気軽でいいんじゃぞ?ただの老いぼれ相手に、そこまで気を遣うもんでもないじゃろう」

 

「…………では、そうさせていただきます」

 

「軽いなお前」

 

 

ジト目で見てくるアザゼルを軽く無視し、練はオーディンに促されるままに対面する形で席に腰掛ける。因みにアザゼルも練の隣で椅子に座っていた。

 

 

「…………フム、どうやら一皮剥けたようじゃな」

 

「───一皮剥けた、とは」

 

「心身共に成長した、というヤツじゃよ。少し前のお主を見たときは、肝心な所が分かってない様子でな。今回の呼ぶついでに軽く助言してやろうかと思ったが…………いらん心配じゃったな」

 

 

髭を擦るオーディンの言葉に、覚えがない訳ではない。主神に忠告されるまでに、答えを出せずに燻っていた自分。何と呆れたものだと自虐する練だったが、その雰囲気を打ち消すようにオーディンが続ける。

 

 

「さて、早速じゃが本題に入るとするかの」

 

「本題。つまり、俺を呼んだのはその為でしょうか」

 

「ウム、幾つか。確認したいことがあってのぉ」

 

 

それが、オーディンが自分を呼び立てた理由なのか。そういう疑問を飲み込み、答えられる姿勢を整えた。

 

 

すぐに、オーディンはとある疑問を口にした。

 

 

「お主の故郷、『蓬莱』で『新条』と名の付く者はおるか?」

 

「新条………?何故、その名を────」

 

 

思わず、困惑する。

無論、その名前を知らない訳ではない。知ってるからこそ、逆に驚いてしまったのだ。しかし、神を相手に醜態を見せられないと自分自身で迷いを振り払い、その質問に答えた。

 

 

「新条は、父の旧姓です」

 

「…………新条直継という名は?」

 

「─────俺の父です。顔は知りませんが、名前は聞いたことがあります。直線の直に、継続の継という漢字なら合ってますが」

 

「なんと…………これも因果、か。お主もどうやら、運命に選ばれた子らしいのぅ」

 

 

益々興味が湧いてきた、とオーディンは片眼を光らせる。半ば意味を理解しかねる練に、じれったいと感じたアザゼルが話に入ってきた。

 

 

「おい、爺さん。今になって何で練の親父が関係してくる?ソイツは確か、『蓬莱』から離れて《あるもの》を───」

 

「────アザゼル。サーゼクスとミカエルに伝えとくんじゃな、『終末の龍』の肉片が奪われた。人の形を成した邪龍が現れたとな」

 

「………は?『終末の龍』だと!?何であんなもんがいきなり───」

 

「話はこの後の会談にするかの。何、ここで話しても分からん者もおるじゃろうしな」

 

 

コホン、と軽く咳き込むオーディン。その片眼が怪しく光り、口元が軽く緩んだことに練は気付かなかった。

 

 

「にしても、千年前から誰一人として目覚めなかった真天龍を宿す若者か。神王の器を打ち倒した事もあり、中々骨のある人間じゃ。時にお主、ヴァルハラに興味はないのか?」

 

「おいジジイ。さらっとうちのガキを勧誘してんじゃねぇよ」

 

「ケチ臭い事言うのぅ。ワシはただ部下の将来を案じてやってるだけじゃぞ?のぉ、ロスヴァイセ」

 

「え、はッ!?と、突然何言ってるんですか!?オーディン様!」

 

 

驚愕を隠せずにいた銀髪の女性、ロスヴァイセと呼ばれた彼女は、狼狽えながらもキリッとした風に振る舞っていた。流石は主神の側近、軽くいじられてもそこまで狼狽えないのかと感心していた練だが、

 

 

「固いのぉ~、そんなんだから勇者の一人も出来んのじゃぞ?」

 

「う、ぅぅ………私だって、男の人と付き合うことくらい────」

 

「ないじゃろ。自分でそう言ってたろうに」

 

「──────ぅぅ………」

 

(あれ………?泣いてる?)

 

 

涙目になって立ち尽くすロスヴァイセに、流石に戸惑う。可哀想に思ったので、練も言葉を掛けてやることにした。しかし、その前にロスヴァイセが地面に膝をついた。

 

 

 

 

「────う、うぇぇぇぇぇーーーん!!そぉーーですよぉ!私は彼氏いない暦=年齢のモテないヴァルキリーですよぉぉぉぉ!!びぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!」

 

(な、泣いたぁぁッ!?)

 

 

ドン引きというか戸惑いが隠せない。初対面の時と姿が全然違う。この人本当に同一人物なのだろうか、と本気で疑ってしまうのも無理はない、はずだ。

 

 

硬直するしかない練に、(間接的にというか間違いなく)泣かせたオーディンが大袈裟に咳き込む。どっちを見るべきか露骨に迷っている青年へ、こう言ってきた。

 

 

「そういう訳で、ロスヴァイセを貰ってくれんかの?」

 

「今それ聞きます!?」

 

 

その後、面倒事から避けようと誤魔化しながら断った練に、フラれた勘違いしたロスヴァイセが泣きながら飛び付いてくるといえ二次災害が起きたが、何とか解決したという事だけは報告しておく。

 

 

オマケ程度にだが、今回の件で練の胃にストレスによるダメージが入った。しかし、これから自分が胃がどれだけ傷付くのか、彼はまだ知らない。

 

 

 

◇◆◇

 

 

異界に存在する巨大な城。白一色で統一された城は円形の形に展開されており、中央に連なるにつれ、城自体も上へと伸びていく。

 

 

その最上部。頂きとなるその部屋は、神王の間と呼ばれている。その名の通り、この城で活動する『神王派』の絶対的な存在、神王が居座る場所だ。

 

 

当然今も、神王は巨大な玉座に座していた。

 

 

「──────」

 

 

白きフードを深く被り、コートの下に重苦しい鎧を着込んだ姿。顔も伺えず、息すら感じられない。それでも尚、膨大な魔力と覇気だけを滲ませ、周囲の空間が震動していく。

 

 

これこそが、『神王』。他者の器によって再現された一時的な強さとは違う、本物の力の差。この姿で出向けば、前回の敗北も有り得ないものとなっていた。そうしなかったのは、王の慢心か、単に自身の目的通りなだけか。

 

 

 

「失礼します、神王様」

 

 

不侵の領域に、一人の女性が脚を踏み入れる。『女王(クイーン)』セレナ・リンフォース。神王派のトップ、『トライデントフォース』が一人。神王に組織の管理を託された実力者である。

 

 

彼女は王の前へと歩き、ピタリと脚を止める。そして、深く身体を折り、膝をつく。頭を垂れる彼女は頭を上げずに、神王に聞いた。

 

 

「神王様、赤龍帝と真天龍はどうでしたか?」

 

「─────夏鈴の調子は?」

 

 

冷徹な声音だった。鼓膜に響いてくるが、人が発したような感じはしない。まるで通信のように直接伝わってくる。それと同じように、声自体も判別できない。

 

 

それでもセレナは穏やかに、話を遮られた事に不満を覚えることもなく、答えた。

 

 

「彼は治療ルームで休ませてます。全身の治癒も数時間で終わります」

 

「そうか、なら良かった。夏鈴は数ヵ月の休暇で休ませてやってくれ」

 

 

神王の器として一時期猛威を振るった夏鈴。しかしその代償は重く、神王の魂と肉体を同化させる術式は焼け切れ、今は使い物にならない。

 

本人の肉体も破壊尽くされ、神器の力を抽出した装置によって治療を施されている最中なのだ。

 

 

「さっきの話だが、最大の問題であった真天龍は禁手を成した。不完全なものだが、使いこなせれば問題ない。それさえ果たされた以上、真天龍は合格。我等の計画に使えるだろう」

 

「ですが、赤龍帝はどうします?彼には禁手だけではなく、『覇』になる必要があるのでは?」

 

「心配は不要だ。今代の赤龍帝、兵藤一誠はポテンシャルもある。根性や努力も並みの天才を越えている。既に禁手の段階へと来ている。後は、本人にとっての大きな選択があれば別の話だが」

 

「…………『誰』を当てます?『スペクタートゥエルブ』ではなく、『親衛隊』をぶつけてみるべきでしょうか?」

 

 

セレナの疑問に、神王は首を横に振るう。

 

 

「いいや、問題ない。俺達が手を出さなくても、赤龍帝は禁手に至る」

 

「………神王様、よく分かっていますね。もしかして、心眼で視えましたか?」

 

「────あぁ。俺達とは別の敵、人類に仇なす害意、災厄との相手でな」

 

淡々と話す神王、全てを理解したような口振りにセレナは戸惑いながらも、落ち着きながら聞き返す。

 

 

「人類に仇なす害意?三大勢力、ではないのなら………他神話や吸血鬼?いえ、ですけどそれは────」

 

「『聖書新生式』、『禍の団』にある一派だ。奴等は厄介なモノに力を染めている。人でも魔でもない、太古の歴史に消え去った呪いの力だ。警戒の必要がある、神王派の全員に通達しておいてくれ」

 

「はい、分かりました…………それでは、我々はこの先は『赤龍帝』達の様子を観察という事になりますね。なら、『聖書新生式』の調査は大丈夫でしょうか?」

 

「当然。俺がいない間、基本的な司令塔はお前達だ。一応俺も『神王』もいるが、お前達の判断に任せるとしよう」

 

 

意味不明な言葉が、混じっていた。

矛盾に近い、言動であったが、セレナは疑問にすら感じない。真意を理解しているからこそ、だろうか。

 

 

「少し眠る。その間は任せた、セレナ」

 

「はい、どうか緩やかにお休み下さい。我等が神王、偉大なる御方」

 

 

セレナが深く頭を下げ、忠誠を示すように振る舞う。スッと、部屋の外へと出ていく彼女の姿を見ずに、神王はただ空を見上げていた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

それから永い間、神王は玉座に居た。一歩も、1ミリも動かずに、ただ椅子に座り続ける。

 

 

変化があるとすれば、フードの下にある黄金の双眼。それを閉ざすように、目蓋が下りようとしているのだ。

 

 

「────久しいな、眠るのは」

 

 

振り返るように、慈しむように、神王は呟く。何時からか、眠ることがなくなった。いや、眠りたくなかったというべきか。

 

 

子供の頃から、産まれた時から、声が聞こえていた。眠った時、無数の人だったもの達が並び、声を発する。怨嗟と憎悪、一人の人間に向けられるには重すぎる言葉の数々。

 

 

 

────『世界を、私達を救え』、老若男女からの罵詈雑言の果てに、その言葉だけが神王に届いていた。救済を願う意思も、ここまでくれば呪いだろう。

 

 

『神の子』として産まれた神王に、この声が途絶えることはなかった。気を緩めれば、気を休めれば、無数の怨念が人間を救えと望んでくる。

 

 

────あの時も、同胞達が死したあの日も、彼等は怨嗟と憎悪の救済を求めてきた。

 

 

「─────良いだろう。全てを救ってやる」

 

 

自分が壊れていることくらい気付いている。とっくの昔に、自分は正気ですらないのだ。

 

 

「だから今は待て。一人残らず救ってやろう。その間、大人しく黙っていろ」

 

 

その言葉を最後に、神王は両眼を閉ざす。玉座に全身を預け、静かに眠りに入った。力が消え去り、そこにいるのはたった一人の人間だ。短い間静寂が続いた頃。

 

 

 

突如、神王の真上の空間が捻れる。

中央に発生した光が円を描き、更に捻れていく。形となって顕現したそれは、光輪であった。

 

 

天使のものとは違う。歯車のような輪が複数重なり、一つの光輪として保たれていた。

 

 

カチリ、と光輪が回る。歯車が噛み合うように、重なった三重の天輪が一つとなった。

 

 

瞬間、神王の双眼がゆっくりと開かれた。さっきまでとは全く違う、別の色の瞳が。無機質な、機械的な色を有して。

 

 

 

◇◆◇

 

 

その時、全く別の場所で、一人の青年が目を醒ました。

 

 

 

「………………う、ぅん」

 

目元を擦り、青年は身体を上げる。自分は草原の真っ只中で眠っていたらしい。こんな屋外でグッスリ寝てた青年はどんな夢を見ていたのかと考えて─────すぐに気付いた。

 

 

「………アレ?俺、どんな夢見てたんだっけ」

 

 

思い出そうとして、すぐに止める。最近からずっとそうだ眠った時に見るはずの夢が、自分に全く見られないことを。何故だか分からない。青年にとって当たり前の事象であると、受け入れるしかない。

 

 

「天照様に聞いても、異常はないって言われてるし、ホントに呪われてたりして………」

 

 

軽く呟いた青年は、慌てたように取り消す。

 

 

「………イヤ、止めよう。こういう事言うの、絶対バチ当たるし」

 

 

野原に座り、頭を掻いていた青年は欠伸をしながら腕時計を見る。眠気が残っていたのか、今にも再び眠りに入りそうであった青年だが、その顔色がすぐに変わる。

 

 

「あっ!やべ!早く高天ヶ原に戻らないと!」

 

 

何かを思い出して焦った青年が野原から駆け出し、何処かへと向かう。足元にあった銀色のネックレス────神王の紋様を模したそれを、手に持ちながら。

 




次回から新章です。
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