ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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波乱日常のアッセンブル
動き出す闇


現世でのハイヒルド・ヴィヴィアンや謎の組織によるテロ、冥界で起きた『神王派襲撃事件』から三日が過ぎたその日。

 

 

 

日本支部の自室にて、ラインハルトは目を醒ました。より正確はベッドの上で。部屋着に着替えず、教会戦士として愛用してきた戦闘服のままだった。

 

 

ふと、天井に手を伸ばす。力もなく突き出した掌に、自分の求めたものを想像する。

 

 

 

「────エクスカリバー」

 

 

瞬間、星の聖剣がその手にあった。教会が所有していた複数の偽物とは違い、間違いなく本物である。だが、根本的に全くの別物に思えた。

 

 

 

「────エクスカリバー・イフリート」

 

 

そう唱えてみる。瞬間、星の聖剣の形が変容する。炎を模したような柄を持ち、刀身からチリチリと熱を放っていた。その剣は本来のようなエクスカリバーとは違い、炎を操る聖剣と化している。

 

 

変化しても問題はない。念じればすぐに聖剣は形を変え、元のエクスカリバーへと戻っている。

 

 

「…………」

 

 

片手にある聖剣を、自分の左腕に押し当てる。刃が皮膚に当たっても止めぬまま、迷うことなく片腕を横に切り裂いた。

 

 

しかし、傷口から漏れ出したのは赤い血ではなく、光の粒子だった。空中に消えていく粒子はすぐに傷口から発生しなくなる。切り裂かれた断面に肉や血管、神経は存在せず、真っ白な光に包まれていた。

 

 

その異質な光景に疑問を持たず、納得したように呟く。

 

 

 

「………やっぱりオレ、人間辞めたんだな」

 

 

邪龍の力を有した人間、シルマとの戦いで一度死んだラインハルトはエクスカリバーと融合した。その契約で、ラインハルトは不老半不死状態となった。

 

 

その副作用で、自由にエクスカリバーを生み出せる事になった。その生み出したエクスカリバーは一度で壊れる代わりに威力も絶大であり、別の能力を持つエクスカリバーすらも作り出せるようになっていた。

 

 

人間を辞めたというショックは大きかった。しかし、後悔しているかと言われれば首を横に振るうしかない。あの時、ああしていたなければシルマはゼノヴィアやイリナを殺しに向かっていたかもしれない。だとすれば、自分の選択を誤ったものと決めるわけにはいかない。

 

 

 

それでも、迷いはあった。

あの選択にすら後悔してないが、たった一つの思いが。

 

 

 

────二人にこの事を話すべきか。

 

 

 

悩み続けた結果─────誰にも、話さない事にした。消える時は、誰も知られない場所で消える。存在に気付かないように、ヒッソリと。

 

 

そうすれば、誰も悲しまずに済む。あの、二人も────。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

数時間後、教会の日本支部にて。

ある者達に呼び出されたラインハルト達は、とある一室へと入った。

 

 

「────失礼します!ラインハルト・ヴィヴィアンです!」

 

「────同じく、ゼノヴィア・クァルタです」

 

「し、紫藤イリナです!御時間を裂いていただき、感謝の極みですっ!」

 

 

正々堂々と一礼するラインハルトとゼノヴィア、緊張しているのか張り切り過ぎているイリナ。彼等の声を聞いた、室内にいる二人組────ソファーの上で、自堕落に寝そべった青年がヒラヒラと手を振る。

 

 

「あー、気を抜いていいよー。どうせ軽い話だしさ」

 

「貴方達が、オレ達の保護管理者ですか………?」

 

「そーだぜ、エクスカリバー使いクン。自分達はミカエル様から派遣された、君達の監督官だ。ま、色々と頼り甲斐はあるから………安心して頼ってくれたまえよ?」

 

 

そう言いながら、姿勢を変えた青年はソファーに全身を掛け────本を読み始めた。その本に視線を向けたラインハルトとイリナが、一瞬で顔を真っ赤にしてしまう。

 

 

理由は単純─────その本が子供に見せられるようなものではない。俗に言うエロ本の類いだからだ。

 

 

「ぎ、ギルテア先輩!こ、こんな所でそんな………不純なものを見ないでください!何度目ですか!?」

 

「フッ、知らないのか?イリナ────最近の日本の育成機関では、エロ本なぞ堂々と見る。日本以外の国の常識が遅れているだけだ」

 

「……………そ、そうなんですかっ!?」

 

「違う違う!イリナ!騙されてるって!」

 

 

必死にそう諭すラインハルト。ちぇっ、とつまらなさそうに呟いた青年 ギルテアと呼ばれた彼は、エロ本を懐へと仕舞い、もう一人の男と共に名乗りを始めた。

 

 

「知っているかもしれないが、自己紹介はしとくか。『聖堂騎士団』高位(ハイランク)二位(セカンド)、ギルテア・クラートス。ま、先輩として尊敬しながらも、気軽にしてくれ」

 

「………………同じく、『聖堂騎士団』高位(ハイランク)三位(サード)……………シーア」

 

 

寡黙な男 シーアがそれだけ言って沈黙する。元より口数が少なく、静かなことは教会でも有名な話である。物静かである一方で、彼の戦い方はゼノヴィアのように圧倒的なパワーを振るうものだ。

 

 

「…………お二人が、最高位の聖騎士が来るとは。余程の事態ですか?」

 

「余程の事態、というのも当然さ。何せ騎士王が死んだんだしね」

 

 

騎士王(ナイト・ロード) セルク・レイカー。

教会の総本山に襲撃してきた何者かに殺されたと思われる彼の死体は、天界勢力に大きな混乱をもたらした。その死を悲しみ、多くのシスターや教会戦士が葬儀に参加していた。

 

ラインハルトやゼノヴィア、イリナも同じであった。彼から大事にされていたアーシアはその事を知らないのは、幸いというべきか。

 

 

「……………ま、ただごとじゃないってのがミカエル様の考えだけどね」

 

「…………それは」

 

「あの人は、後ろから殺された。心臓を一突きでグサリ、と。……………可笑しいだろ、普通に考えて。あの騎士王(ナイト・ロード)がだぞ?人類最強と呼ばれた人間が、侵入者如きに背中を取られるものかよ」

 

「────ギルテア」

 

「あん?別に事実だろーが。重要なのは、ラインハルト達を襲撃した奴等は騎士王と同等の、或いは不意打ちで殺せる戦力があるか。それを懸念したからこそ、俺達が派遣されたんだぜ」

 

 

ふん、と先程までのお調子者な雰囲気を消したギルテアがソファーにもたれかかる。彼がここまで機嫌が悪い理由、それはたった一つの─────三大勢力の話し合いによる方針であった。

 

 

 

「ミカエル様の不安は分かるが、自分としては納得できねぇな。

 

 

 

 

 

悪魔や堕天使の連中と共同するなんて、気が乗らねぇな」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

『───八月二十日午前十時三十四分。現時点で保護下にあった白雪と咲葉、二名を各々の家族の元へと送り届けた。確認も十分であり、入れ違いなどの事故要素も低い。現段階でも監視を続行し、二名の生活が安定し、外的要因での被害が無いことを確認してから一週間後、自動的に解除する。

 

 

 

 

《注意》この情報はクリアランスレベル2であり、職員以外の情報漏洩が確認された場合、レベルに相当する罰が課せられる。尚、保護下にあった二名の個人情報はクリアランスレベル4に該当しており、この情報の漏洩が確認された場合、保護管理対策官 バラギエルと副補佐官 黒月練による厳重な調査及び処罰が下される』

 

 

カタカタカタ、とパソコンのキーボードを叩く音が響く。報告書を書き終えた黒月練はフォルダにしまい、そこでゆっくりと肩の力を抜いた。

 

 

神の子を見張る者(グリゴリ)』の一人として、練が担当するのは、多種族に関連する神器使いや人間の保護であった。

 

 

神器や異能の力により居場所を奪われた者には新しい居場所を提供し、家族の元に帰ろうとする者には家族の元へと送る。それは、悪魔という種族への復讐────自分達の罪を認めさせるという偉業を成した練が、欠かすことも許されぬ使命だ。自分と同じように、全てを奪われた被害者を、後先考えぬ復讐者へと─────かつての己のように変えないように。

 

 

つい先日、二人の少女、白雪と咲葉はここを離れた。咲葉は故郷にいた家族のもとへ、白雪は自分が住んでいた町へと。彼女達を見送った練は、二人から感謝の言葉を貰った。

 

 

自分が貰うには、おおよそ相応しくないものを。

 

 

 

「……………白雪ちゃんと咲葉ちゃんも、家族のところへ帰れたんですね。ちょっと、寂しいかもです」

 

 

練達のいる施設のホールでアイリスは紅茶を飲みながら、複雑な感情を携えながら呟いた。帰ることが出来たことを妬んでいるのではない。彼女達とは、同じく酷い扱いを受ける転生悪魔として長い間共に過ごしてきた。寂しい、という気持ちに嘘はないし、誤魔化せないとも分かっていた。

 

 

「ま、あの二人がいなくなっても、ここは静かになる様子は無さそうだけどな」

 

 

アイリスの対面のソファーにいたゼリッシュが、ジュースをちびちびと飲みながら軽い調子で語る。かつての仲間に思い入れはあるとしても、あまり気にしないのは彼女の考え方があるからか。

 

 

「───うーん、ボクちん蚊帳の外だなー。退屈そうでホントツマンナイ!けどめんどくさそうだし、関わんなくてセーフかもね!」

 

 

そんな風にケラケラと笑うのは、白髪の青年────名をフリード・セルゼン。練により引き抜かれた元神父であり、コカビエルの一件を報告していたスパイである。

 

尚、練の部下になった経緯はお世辞にも良いものとはいえない。八つ当たりで通りすがりの練に襲いかかり、半殺しにされて命乞いをした結果、舎弟として扱われているという惨状だ。

 

それでも、それなりの忠誠心はある。フリードとしては彼の背中を撃つつもりはない。それは恩義もあるのだが、生きていたら絶対百倍の報復をしてくるだろうから。

 

 

「………貴方は本当に他人事ですね。フリード」

 

 

生真面目な青年、宗明が苦笑いしながら机の上に紅茶を淹れたカップを乗せる。彼等が軽く談笑していると、練がそのホールに入ってきた。

 

 

「練様、お仕事終わったようで何よりです」

 

「…………まぁ、な。宗明、コーヒー一杯」

 

「お身体に障りますよ、練様」

 

 

そう言いながら、宗明は紅茶の入ったカップを差し出した。嫌な顔をすることなく呑んだ練は、肩を竦めてソファーに体を預けた。

 

 

「気にしすぎだ。たかが一徹程度、大したことない」

 

「私からすれば、徹夜されてる時点で気を遣いますよ。ま、三徹された時よりマシですが」

 

「…………仕事が捗るから、仕方ないだろ」

 

 

誤魔化すように言う練。やれやれ、と皆が呆れていると、駆け足でホールに入ってくる者がいた。

 

 

「────練!」

 

「………バラキエルさん、どうした?」

 

「緊急事態だ!現世のある町が襲撃を受けている!」

 

「────その町は?」

 

 

立ち上がり、即座に装備をまとめる練。仲間達が動き出したのを見届けていた練だったが、彼の耳に冷静を奪うほどの言葉が届いた。

 

 

「────白雪吹雪が、彼女が帰った町だ」

 

 

◇◆◇

 

 

「…………はぁ、はぁッ!」

 

 

駒王町の山。

人のいないその場所に移動していたイッセーは神器である赤龍帝の籠手を展開し、近くにあった自分よりも何倍もデカイ大岩を殴っていた。

 

普通ならば粉砕できぬ程の岩が、一気に砕け散る。それ程の破壊を振るっても尚、イッセーの顔はあまり喜んではいない。

 

それどころか、掌を見下ろした一誠は悔しそうに拳を握った。自らの実力不足を、強く実感するように。

 

 

『…………自主的に修行とは、感心するぞ相棒』

 

「ドライグ………いつの間に起きてたんだよ」

 

『オレとて龍だ。宿主が動いていれば自然と意識も覚める。しかし、本当に意外だ。お前がここまで自分を鍛えるとはな』

 

 

神器に宿るドライグの言葉に一誠は黙っていた。そして、重い口を開く。

 

 

「なぁ、ドライグ」

 

『何だ、相棒』

 

「弱いよなぁ、俺って」

 

 

悲痛そうな声に、ドライグは答えられなかった。かつての自分の歩みを思い出し、一誠は噛み締める。

 

 

「ずっと、俺は見てる側だった。弱かったから、アーシアを助けられなかった。弱かったから、部長を泣かせちまった。弱かったから─────練が殺された時も、止められなかった」

 

『…………相棒』

 

「もう、何も出来なかった、って泣きたくない。今度こそ、俺だって何かを守れるようになるんだ。その為に、俺は強くなりたい。誰かをブッ飛ばす為じゃなくて、誰かを守り通す為に」

 

 

その言葉を聞き終えたドライグは軽く笑った。小馬鹿にするものではなく、面白いという笑みだ。

 

 

『お前は違うな、相棒。歴代の赤龍帝とは大違いだが、逆に気に入った。お前の進む覇道を見てみたいと、興味が湧いたぞ』

 

「ありがとな、ドライグ。俺も、お前の期待を裏切らないように頑張るぜ」

 

 

気を取り直し、いつもの調子に戻る一誠。パン! と自身の拳と掌を打ち付け、やる気を昂らせる。この調子で修行に戻ろうとした、次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

「─────お初にお目に掛かる。兵藤一誠」

 

 

ザッ、と木々の合間から人影が声を放ってきた。フードで姿を隠した人物。彼はフードを上げ、自身の顔を見せる。

 

 

一誠と同じくらいの青年だった。

違いがあるとすれば、白く抜け落ちた長髪。そして顔の半分に浮かび上がった黒い血液のような筋。左右とも色が違う瞳を開いた青年が、一誠を見据える。

 

 

「早速だが、貴様には大人しく付いて来て貰う」

 

「────断る!」

 

「そうか─────ならば、手足を削ぎ落としてでも連れていく」

 

 

腕を振るう青年。布に隠れた腕が鋭利な刃物の形状へと変化する。両腕を刃物に変えた青年は即座に身構え、悲しそうに呟く。

 

 

「恨みはないが、仲間の為だ。俺も容赦は出来ない」

 

 

直後、青年は両腕の刃を周囲に向けて振るった。縦横無尽の斬撃が炸裂し、周囲の木々を薙ぎ払う。斬撃による風圧に吹き飛ばされそうになった一誠に、青年が飛びかかってくる。

 

 

「────アスカロン!」

 

 

しかし一誠も負けじと対抗する。籠手から龍殺しの聖剣を展開し、青年の刃を弾こうとした。しかし青年はアスカロンの存在を認識した途端、慌てて飛び退く。

 

 

「逃がすか!」

 

 

違和感はあるが、あまり気にしている暇はない。アスカロンを仕舞い込み、一誠は追撃を始める。籠手を握り締めて殴りかかるが、青年は刃でそれを受け止めた。

 

 

「ッ!馬鹿な………これが、赤龍帝だと……!?話に聞いてたよりもッ!」

 

「俺だって!ずっと鍛えてきたんだ!前と一緒だなんて思うじゃねぇ!!」

 

 

そう言い切り、全力で拳に力を込める。吹き飛ばされた青年が木に激突し、転がった。ゴホ、と呼吸を整えた青年が刃を振るおうとするのを避け、一誠は無力化するために意識を落とすことにした。

 

拳を構え、殴り付けようとする一誠。起き上がり反撃しようとする青年だが、間に合わない。続け様に放たれた斬撃を避け、倍加した一撃を叩き込もうとした。

 

 

 

 

「────火竜(かりゅう)爆炎咆(ばくえんほう)!!」

 

 

青年の背中が、膨れ上がる。風船のように膨張したフードの内側から高熱が蓄積され、爆炎がフードを突き破り迫ってきた。

 

 

 

突如の攻撃に、一誠は避けきれなかった。爆炎を直に受けるが、籠手で止めたこともあり何とか怪我にはならなかった。そこで安堵することは、出来なかった。

 

 

青年の背中にあるものの姿を見た一誠は、絶句する。あらゆる思考が、目の前のことの理解を拒んでいた。

 

 

「────それは」

 

「見覚えがあるか、赤龍帝」

 

 

彼の背中から伸びるのは、竜の首。背中と同化したように生えてきた赤竜の頭部であった。鱗で覆われたその姿はまごうことなき竜のものだ。

 

 

『竜だと………!?馬鹿な、人間が竜の力を扱うなど………! いや!そんなはずは、ない!これは─────貴様!その力は、まさか!』

 

「─────正解だ。赤龍帝」

 

 

青年が破けたフードを放り捨てる。半裸になった青年、彼の背中が膨張していくと同時に、何かが飛び出してきた。さっきと同じ、竜の頭部。それも四体。赤い竜の頭部を含めた五つの頭部が、触手のように伸びていた。

 

 

 

五つの竜の頭部を背中から生やした青年は、淡々と語っていく。

 

 

 

「俺はグラン。竜の力を与えられ、人なざらるものへと変えられた─────邪龍の、なり損ないだ」

 

 

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