ハイスクールD×D'Catastrophe Longinus   作:虚無の魔術師

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新しい組織

「─────水竜・放流閃撃!」

 

 

背中から五首の竜を生やした青年 グランが叫ぶ。瞬間、竜の頭部の一つ、青い色の竜が首を膨らませ、口から高圧力の水が放たれる。

 

咄嗟に飛び退いた一誠。彼を追いかけるように、一本に纏められた水流が迫る。ギャリギャリ、と地面や木を一瞬で抉りながらも。

 

 

『────相棒!防ぐな!装甲に穴を空けられるぞ!』

 

「なら!コイツで!」

 

籠手に魔力を込め、一誠の得意とする魔力砲の技────ドラゴンショットを炸裂させた。強力な魔力と高出力の放水が、互いに相殺される。

 

それだけでは、攻撃の手は止まらなかった。

 

 

『っ!相棒!今度は左からだ!』

 

「───雷竜・迅雷電波!」

 

 

今度は金色の竜の口から、複数の雷撃が放たれる。雷撃自体は回避したが、周囲に飛び散った水に帯電し、威力を増した雷撃が一誠を巻き込み、暴発を引き起こした。

 

 

「クッソ………!やっぱ痛ぇ!」

 

 

電撃を受け止めた一誠の鼻を、焦げた臭いが刺激する。雷により軽く焼かれはしたが、悪魔としても強くなってきたからか、そこまでもダメージはない。再びグランへと向き直る一誠だが、ある異変に気付いた。

 

 

『……………』

 

「ドレイグ! どうしたんだ!? 何かあったのかよ!?」

 

『あの竜………まさか、いや、そんなはずは───』

 

「────独り言を、してる場合か」

 

 

何かを見極めようとしたドライグに反応する一誠。その隙を見抜いたグランが、再び動き出す。今度は二つの竜の首が、同時に口を開く。

 

 

 

「氷竜・白氷銀嶺!風竜・激震風嵐!」

 

「っ!?二つ同時に使えるのか!?」

 

 

白い竜の氷の息吹と、翡翠色の竜の風の息吹が、融合して一つの技となる。氷を帯びた大竜巻が一誠に炸裂した。冷気の風と、真空の刃が、嵐に巻き込まれて一誠をひたすらに傷付けようとする。

 

 

「────お、おおおおおおおおおッ!!!」

 

 

だが、一誠は前に進んだ。氷雪の嵐の受けながらも突き進んだ一誠は、倍加させた自身の力を籠手に蓄積させ、グランに近付く。

 

二つの属性を有した嵐を放つグランは驚きながらも、対処をしようとはしない。いや、そもそも対処すら出来なかったのだ。竜の力を操っている間、グランは自身の体を動かすことが出来ないのだ。

 

 

だからこそ、直後に背中の竜から意識を離した瞬間こそが、一誠の攻撃の好機であった。咄嗟に動こうとしたグランの顔に、倍加させた拳が直撃する。

 

 

────が、しかし。

 

 

(か、硬ぇ………ッ!?)

 

「────使えるのは、属性攻撃だけじゃない」

 

 

殴られた部位、グランの肌が変色していた。硬化の類い、或いは金属化か。一誠の拳は神器に保護されていたからか、砕けてはいなかったが、それでも痛みはまだ響いていた。

 

 

思わずよろけた一誠にグランは歩み寄る。しかし、彼が攻撃するよりも先に、ドライグの声が響いた。

 

 

『その力、間違いない─────貴様何者だ』

 

「………」

 

『貴様のその力、竜のものだ。神器などではない。かつてオレがいた時代の、旧き竜達そのものだ。おそらく、奴等の力の源を埋め込まれているな?』

 

 

グランが僅かに笑った。そして半裸の上半身に手を押し当てる。すると、胸元の部分に異様なものが浮かび上がってきた。グロテスクな光景、まるで複数の心臓を一つに繋げたような、魔力の塊。

 

 

『何だ、それは────』

 

「旧き竜達の心臓、らしい。俺はこれを埋め込まれ、赤龍帝─────貴方の回収を命じられている」

 

「命じられた?何で俺なんだ!?」

 

「さぁな。俺には微塵も興味はない。ただ、仲間のために戦うだけだ」

 

 

そう吐き捨て、グランが再び攻撃体勢に入る。咄嗟に身構えた一誠だったが、彼の目の前に落ちてきた爆炎がそれを遮ることになる。

 

 

大噴火でも起きたかのような熱を帯びた爆炎に、全身が火傷しそうになる。しかし、見覚えのある炎だと気付き、すぐさま空を見上げた。

 

 

「なんだ、手出しは無用だったか?一誠」

 

 

此方を見下ろし、相変わらず笑みを浮かべたレイド・フェニックスがいた。炎の翼を展開した次期魔王候補の悪魔は、陽の光を背に受けても尚、余裕を崩さずにいた。

 

悪魔が日中では力を出せないという特性すら無視しているのか、或いはこれが特性を受けている状態とでも言うのか。

 

空に浮かぶ相手の姿を目にした一誠は、驚いたように声をあげる。

 

 

「レイド先生!─────と、小猫ちゃん!?何で!?」

 

「ちょいと変な気配を感じたんだよ。………竜と、それ以外の嫌なもんをな。ついでに小猫は其処らから拾ってきた」

 

「…………先生、高いです」

 

「仙気の特訓だ。お前の感じた気配は何処から感じる?」

 

「─────見えました。心臓のすぐ近くです………そこから、嫌なものを感じます」

 

 

そっか、と言うとレイドは勢いよくその場に降り立った。地面に着地した際に片腕で抱えていた小猫を下ろし、レイドは軽く首を回す。

 

 

「一誠、小猫。手を出すなよ────先生としての実力を見せる良い機会だ」

 

「一人で俺の相手をする気か?舐められたものだな」

 

「そうか?これでも譲歩してるくらいだぞ?…………そうだな、もう少し手加減するべきか────先手は譲ってやる。好きに攻撃しろ」

 

「────後悔するなよ」

 

 

告げるや否や、グランが両手を合わせ、握り締める。背中から生えた五体の竜の首はビクン!と跳ねたかと思えば、竜の喉が一気に膨れ上がる。明らかに膨張した魔力が五つ、それは魔力感知が得意ではない一誠ですら感じ取れるほどの量であった。

 

 

「五頭竜・天滅咆撃ッ!!」

 

 

五体の竜の口から、五つの属性を伴う息吹が放たれる。ただのブレス等ではない。それらは空中で混ざり合い、倍以上の質量と破壊力を伴った魔力の雨と化したのだ。

 

ほぉ、と感嘆したように眼を剥いたレイドが、息吹に呑み込まれる。竜の放つ強力な魔力の息吹により、肉体が完全に破壊され、悪魔であろうとも消滅する─────

 

 

 

「────中々筋が良い。やはり、殺すには惜しいな」

 

 

はずだが、レイドは平然としていた。背中から生える炎の翼を軽く払い、堂々と振る舞っている。当然、彼の身体に怪我らしきものは存在していない。フェニックスの力で再生したのかもしれないが、一誠達にはその動きすら確認できなかった。

 

グランすらも、その光景に驚きを隠せずにいる。信じられない、と立ち尽くす青年が動き出すよりも前に、レイドがふと人差し指を向ける。

 

 

「────獄火・ブレアショット」

 

 

直後、彼の指先から放たれた熱が、全てを穿った。咄嗟に動こうとしたグランは胸元を撃ち抜かれ、意識を失って崩れ落ちた。レイドは指先に舞う煙を口で吹き、拳銃のように構えていた手を緩める。

 

 

「………な、なぁ、ドライグ。錯覚じゃないよな? 向こうの山の木まで穴が空いてるように見えるんだけど………」

 

『幻ではあるまい────流石は次期魔王。アレで本気の一端に過ぎんとは…………嗚呼、奴のような男と本気でやりあってみたいものだ』

 

 

遠くの山までも撃ち抜いた熱線の威力、それが手加減されただけで全力ですらないという事実に戦々恐々とする一誠、逆に興奮を隠しきれず戦意を昂らせるドライグ。

 

その横で小猫は純粋に凄いという風に感心している一方で、何かを思い出したようだった。

 

 

レイドは自身が倒したグランを片腕で拾い上げ、持ち上げる。一誠達に視線を向けながら、告げた。

 

 

「────よし、部室に行くぞ。少し、リアスと話をしておきたい」

 

「………先生、思い出しましたけど」

 

 

あ? と怪訝そうに首を傾けたレイドに、小猫はいつものように寡黙な雰囲気を崩さぬまま、指摘するように口を開いた。

 

 

 

「結界、張らなくて良かったんですか」

 

「──────あ」

 

 

◇◆◇

 

 

「────弁明はあるかしら、レイド先生」

 

「本当にすまん、リアス。悪かったとは思ってる」

 

 

ゴゴゴ、と擬音が浮かぶほどのオーラを滲ませるリアスの前で、レイドは堂々とした顔で正座していた。あまりにも悪いとは思っていない、それどころか怒られている側の人間の様子ではない。

 

 

「小猫を連れて飛び出すところを一般の生徒数名に見られた挙げ句、近隣の山が火事になりかけたわ。ソーナ達も手伝ってくれたから良かったけど…………先生は少し周りのことを考えて欲しいわね」

 

「────喉乾いたな、朱乃。お茶くれ」

 

「あらあら、お言葉ですが今はお説教中ですから」

 

「んー、それもそうか」

 

「─────話を!!聞いてるのかしら!!?」

 

 

本気で怒られているのに、レイドはこの調子だ。図太いというべきか、リアスは大いに振り回されている。あと本人の言い分曰く、『一誠が危なかったからいち早く行こうとした。生徒に見られたのは悪かったが、それ以外のことは後悔してない』とのことだ。

 

因みにリアスはこの言い分を聞いて、不承不承ながらも許していた。

 

 

「それより、先生。聞きたいことがあるのだけども」

 

「うん?なんだ」

 

「────どうして、彼を連れてきたのかしら」

 

 

リアスはそう言いながら、ソファの上に座らせたグランを見つめる。普通ではちぎることも出来ない特殊な紐で縛られた彼はまだ意識を失っているらしく、項垂れたままだ。

 

 

「決まってる。殺すには惜しいからだ」

 

「けど、彼は敵よ。一誠を殺さず連れていこうとした───他の組織の一員である可能性も高いわ。件の『禍の団(カオス・ブリゲード)』の関係者だとしたら、生かすわけにはいかない」

 

「─────いいや、コイツは敵じゃない。利用されただけに過ぎんさ」

 

 

不安を口にするリアスだが、レイドはそう断言した。端から聞いていた一誠や小猫達、リアスすらもレイドを見つめる。何故、そう言い切れるのかという視線を受け、レイドは机の上のお茶を飲みながら話し始めた。

 

 

「一誠、コイツの言葉を聞いてたよな?どこか違和感はなかったか?」

 

「は、はい………たしか、『仲間の為』って言ってました。恨みはないが、とか。そう言えば!竜の心臓を埋め込まれたとかも、言ってたっす!」

 

「だろ?────それに、奴の体内には小さな化物が仕込まれてた。奴の本人の心臓に寄生するようにな…………考えてみろ、敵が自分の仲間に何か仕組むと思うか?姑息な奴なら自爆させるとか考えるだろうが、コイツに仕込まれてたモノはそうじゃなかった」

 

 

淡々としながら話すレイドに一誠は改めて驚かされる。グランと対面したのも少しだけなのに、こうも全てを見抜いているのか。実力だけではなく、頭も回るらしい。伊達に次の魔王に選ばれるだけではない。

 

 

「話を聞いてみるのも悪くないと思うぞ。コイツがただの、脅されただけの被害者の可能性もある。少なくとも、俺様はその可能性が高いと思うがな」

 

 

それだけ言うとレイドは対面のソファーにドカッ! と腰掛けた。あとは好きにしろ、と言いたいのだろう。レイドの考察を聞き、リアスは迷っている様子だった。

 

普通なら、テロリストの可能性がある者に耳を傾けるべきではない。しかし、レイドの考察が正しければ、彼も救うべき被害者なのかもしれない。

 

 

「────部長。俺、話だけでも聞いてみるべきだと思います」

 

「イッセー………」

 

「アイツ、俺との戦いの時も必死な眼をしてました。仲間の為、って言うのも嘘じゃないかもしんないです。……もし、先生の言う通りなら、俺達が助けないと駄目かもしれないですから」

 

「…………そうね」

 

 

皆はそれで良いかしら、とリアスが己の眷属達に問う。彼女たちは、皆同じ答えであった。言葉もない眷属達の意思を確かめたリアスは短く口を閉ざすと、グランの額を軽く小突く。

 

 

「────む、ん」

 

 

小さな衝撃は彼を目覚めさせるには充分だったらしい。眠そうな眼を開いた彼はリアス達の姿を視認するや否や、一気に表情を引き締めた。

 

 

「お前達は───」

 

「はじめまして。貴方の名前は聞いているわ、グラン。早速だけど、貴方には聞きたいことが山ほどあるのだけれど」

 

「────話すことなどない。殺せ」

 

 

一瞬だけ絶望したグランはそんな己を隠すように俯き、小さな声で呟いた。やはり、可笑しい。敵に捕まったことに歯噛みするわけでもなく、覚悟を決めたように口を閉ざしていた。

 

何かを、ひた隠しにするように。それは不都合な事実を隠すというより、大切なものを護ろうとしている仕草だ。

 

 

「安心して。貴方の中にいたモノはレイド先生が取り除いた、らしいわ。貴方に何か事情があるなら、教えてくれるかしら?」

 

 

その様子から、リアスも敵ではないと確信したらしい。諭すような優しい声で語りかける。彼女の言葉を聞いたグランは本気で戸惑った様子で────リアスの言った通り、自分の身体から消えた反応に気付いたらしい。

 

困惑していたグランだったが、ふと小刻みに震わせる。縛り上げられたまま彼は────深く頭を下げた。

 

 

「────俺は、どうなってもいい」

 

「………ッ」

 

「殺されてもいい。それだけのことをした。────だから、お願いします。俺の仲間を、仲間だけは助けてください……………何でもします! だから、どうか!!」

 

 

鬼気迫る様子だった。なりふり構わず頼み込もうとする青年の勢いに、リアスは慌てながら落ち着くように諭す。何があったのか教えて欲しい、興奮したように頭を下げ続けるグランに聞くと、彼は静かに語り始めた。

 

 

「俺は、グラン・アスラ。日本の北東に住む、日本の神々を奉る守り人の一族の一人です」

 

「も、守り人?」

 

「北東の…………聞いたことがあるわ。日本神話の神々を信仰し続ける人々のことよ。確か、お兄様が彼等は何かを護っているとも言っていたわね」

 

 

護っているのは、何か。

それを聞いてみたが、グラン本人は分からなかったらしい。しかし彼の話から分かる通り、相当大事なものだと思われる。

 

 

「我々は、天照様からあるものの封印を任されていました。一族は数千年もの間、俗世から離れながら封印を維持して来ました。─────数週間前に、奴等が俺達の里に現れるまでは」

 

「…………」

 

「────おぞましい、化物でした。敵の一人が巨大な竜に変わったんです。奴等は、戦いに出た大人達をまるで虫を潰すように、簡単に殺したり食ったりしました。そして、奴等に捕まった俺達はこのまま殺されるところだったんです。……………俺に、竜の力の適正があると知った途端、奴等のリーダーと思われる男が俺に接触して来ました」

 

 

奴等に襲われた仲間を護る為に、グランも必死に戦った。しかし彼は結果的に負けた。圧倒的な力を持つ竜と化した敵を前に、打ちのめされて叩き潰されたのだ。

 

 

意識が朦朧とする中、檻に囚われたグランの前に現れたのは、化物達を統べる更なる化物であった。

 

 

『─────お前に力と機会を与えてやる。その力で赤龍帝を生きたまま連れてこい』

 

『……………』

 

『これは幸運なことだ。私はお前達全員を殺す予定だったが、奇跡的にお前には素質があった。故に、その幸運を活かしたい─────言っておくが、断ることは許されない。これは命令であり、お前には逆らうことすら有り得ない。お前はただ従うのだ、この()()にな』

 

 

グランに、拒否権はなかった。

逆らえば、仲間達は殺されると。全員生きたまま喰い殺されると言われ、グランは大人しく従うしかなかった。だが、彼は失敗した。

 

この事が知られれば、奴等は仲間達を殺してしまうだろう。そう悟ったグランには、最早選択肢等他になかった。

 

 

「────悪魔は、悪魔は契約すれば願いを叶えてくると聞いた!なら、俺の命を対価にして、皆を助けてくれ! いや、助けてください!!」

 

「……………」

 

「お願いします!お願いしますッ!どんなこともしてみせます!だから、どうかッ!!」

 

 

必死に叫ぶグラン。椅子から滑り落ちた彼は、地面に頭を擦り付けながら叫ぶ。自分の立場を理解していて尚の発言なのだろう。殺されても仕方ないと分かっていても、縋るしかない。

 

 

「────分かった。契約しましょう」

 

「………」

 

「貴方の仲間を助けるわ。その代価として────貴方には今後、私達に力を貸して欲しいの」

 

 

落ち着いた声で語りかけるリアスの言葉に、グランは思わず面食らう。自分の命を差し出す覚悟でいた彼は、彼女の言葉に─────仲間達を助けてくれるという事実に、驚きを隠せずにいた。

 

 

「いいん、ですか?」

 

「一誠を襲った件に関しては、気にする必要はないわ。当人の一誠が大丈夫って言ってたから…………それに、私が許せないのは、大切な家族を人質にとって貴方を襲わせた奴等よ」

 

 

家族や眷属を心から愛するグレモリーの一族。その娘であるリアスからすれば、黒幕のやり方は大いに許せない。自分の眷属を狙ったことも含め、見逃す道理は断じてない。

 

 

指を鳴らし、彼の身体を縛る紐を消したリアスは自らの手を差し出した。地面に倒れていたグランに向けて、彼を立ち上がらせるように。

 

 

「────私達は奴等を必ず倒してみせるわ。だから貴方にも、力を貸して欲しいの。お願いできるかしら」

 

「……………ありがとう、ございます。俺に出来ることなら、何でも致します。貴方様の心の深さと慈悲深さに、感謝します…………!」

 

 

本当に嬉しいのか、彼は涙を止めどなく溢れさせていた。穏やかな笑みを浮かべる反面、リアス達は胸の奥に強い決意を宿せる。

 

こんな優しい青年を利用した奴等を、絶対に止めなければならないと。彼の仲間を必ず助け出してみせる、と。

 

 

「あ、あの、部長………。そう言っても、俺達これからどうするんですか?グランを脅した奴等のことも、まだ分かりませんし…………」

 

「────安心して。手はあるわ」

 

 

怪訝そうな一誠達の視線を受け、リアスは堂々と腕を組みながら答えた。

 

 

「明日、駒王町で三大勢力の共同会議があるの。黒月練とラインハルト、彼等も訪れるらしいから、そこで彼等の話を聞いてみるのも悪くはないと思うわ」

 

 

そうした彼女の顔には、一抹の不安が過っているようだった。

 

 

◇◆◇

 

 

そして、真っ昼間。

一つの町は警察部隊によって閉鎖されていた。表向きには何らかの事故として対応されているが、実際は事の次第に気付いたアザゼルが日本政府に連絡し、一部の者しか立ち入りできないようにしているのだ。

 

 

その一部とは、堕天使勢力の者───今現在、崩壊した町を捜索する黒月練達であった。

 

 

魔法で浮遊していたアイリスは、辺り一帯を捜索する。だが、生存者は見られない。それどころか遺体すら見えない。人だけが忽然と消えた────神隠しならば、どれだけ良かっただろう。

 

そうでないことが、周囲に広がる血溜まりが物語っている。踏み潰されたか、叩きつけられたか、生きたまま食い漁られたのかもしれない。凄惨な光景を思い浮かべた彼女の顔が一気に蒼白になった。

 

 

「────アイリス」

 

 

同じように空を飛んでいたバラキエルと合流する。いつもより険しい顔の堕天使に、アイリスは悲痛そうな顔で報告する。

 

 

「駄目です、バラキエルさん…………生存者は誰もいません」

 

「…………そうか。分かってはいたが、あまりにも規模が大きすぎる。それに、この暴れ方はまるで─────龍、のようだ」

 

 

周囲の破壊は、普通の悪魔でも為せない規模のものだ。建物は倒壊し、地面は大きくひび割れ、周囲は血の海と化している。巨大な化物が暴れながら、人間を殺して回ったとしか思えない。

 

問題は、何故遺体が一つもなくなっているのか。その疑問にバラキエル達は答えることも出来なかった。

 

 

 

「─────ヒデーな、大将。こりゃ大惨事、どころじゃねぇぜ」

 

 

いつもは活力溢れているゼリッシュですら、この景色に気圧されていた。顔色を若干悪くしながらも、複雑そうな彼女は前を歩いていた練に声をかける。

 

返事が来ないことで、ゼリッシュは怪訝な顔を浮かべた。

 

 

「…………大将?」

 

血溜まりの前で立ち尽くしていた練に駆け寄ったゼリッシュだが、『それ』に気付いて足を止める。『それ』が見覚えのあるものだと理解した彼女の前で、練はゆっくりと膝をついた。

 

血の池に浮かぶ────ブレスレットを持ち上げる。真っ赤に濡れたそれを掌に乗せた練は震えた声で呟いた。

 

 

「────何でだ」

 

 

彼は、ふと思い出す。

これの持ち主であった少女との記憶を。いつも手放さず大事に持ち歩いていたそのブレスレットのことを。

 

 

『───これですか?妹の作ってくれたものです。自分の貯金で買ったもので一から作ったみたいで…………捨てるに捨てれないんで、使ってます。はい』

 

 

ぶっきらぼうに言いながらも、彼女はそれでも大切そうにしていた。はぐれ悪魔にされていた時も、彼女が心折れずにいたのはそのブレスレットの存在があったからか。

 

 

『貴方に恩はありますけど、私は役に立ちませんよ。どうせ戦いになっても逃げるでしょうし』

 

 

彼女は、そういう性格だった。

無駄を嫌い、余計な真似をしないタイプの無気力な少女だ。練の力になりたいというアイリス達とは違い、彼女だけは戦いに興味はないと言っていた。

 

練もそれを知っていたからこそ、彼女を家族の元へと送り届けたのだ。もう二度と、戦いとは無縁の生活を過ごせるようにと。

 

 

「─────何でっ」

 

 

いつも彼女は、自分を臆病と卑下していた。戦いになったらすぐに逃げると。自分の命の方が大切だと言っていた。練もそれを否定する気はなかった。むしろそうすればいいとも考えていた。

 

練は周りを見渡す。血溜まり以外に存在する、凍てついた氷の柱。彼女の神器────冷気の能力によるものだった。既に溶けかけている氷が示すのは、彼女の戦意である。

 

 

「何で逃げなかったんだ────吹雪」

 

 

黒月練は、それだけで理解していた。

あの少女は、逃げなかったのだ。この町が襲撃されている間、逃げ惑う人々を守るために全力で戦い────そして、敵に殺されたのだと。

 

 

『────もし、何か頼み事でもあったら言ってくださいね。ま、気分次第で受けますけど』

 

 

白雪吹雪(しらゆきふぶき)

思い出の中でそう言って笑う彼女の姿に、練は項垂れるしかなかった。大事に握り締めたブレスレットを見下ろし、言葉にならない慟哭を響かせることしか、彼には出来なかったのだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

数時間後、グリゴリの施設の廊下の椅子で練は項垂れていた。血に濡れたブレスレットを見下ろしながら、練は半時間を過ごそうとしていた。

 

 

「…………ついさっき、調査の結果が判明した」

 

 

隣に座った気配と声で、アザゼルだと理解する。何の用だと問う前に、アザゼルは気にすることなく話を続けた。

 

 

「現場の解析の結果、白雪吹雪は殺された、間違いない。血の飛び方からして、やられ方は普通じゃない。とてもじゃないが、残虐そのものだ」

 

「…………」

 

「生存者は数名だけいた。その生き残りはある少女に助けられたらしい。お陰で何とか生き延びれたと────彼女の戦いも、無駄じゃあなかったようだ」

 

 

アザゼルの報告に、練は素直に喜べなかった。胸に空いた感情がただ静かに木霊している。

 

 

「─────敵は龍のような化物に変身したらしい。影のような竜と、炎と雷の力を使う竜……………そして、人間の姿をしたヤツを含めた三人。白雪吹雪を殺したヤツは、影の竜って話だ」

 

 

歯を軋らせる音が響き渡る。練は怒りを堪えながら、仲間の少女を殺した敵のことを覚えているのだろう。理由は明白。敵討ちのために。

 

 

「アザゼル、敵の行方は分かるか」

 

「………知ってどうする、って聞くのは野暮か」

 

「奴等を見つけ出して殺す。絶対に」

 

「─────そりゃ無理だ」

 

 

アッサリと、淡白に言い切ったアザゼルを練が睨み付ける。凄まじい怒気を宿した青年の視線を受けても、アザゼルは平然と澄まし顔を浮かべていた。しかし、彼が告げる言葉だけは冷静沈着であった。

 

 

「冷静になれよ、練。お前らしくないもない。………相手は未知数だ。下手すれば神王派と同等の厄介さと強さを持ってるかもしれねぇ」

 

「───だからって納得するとでも?俺が」

 

「それこそ不可能だろ。お前はヴァーリよりも頑固だからな─────そんな訳で、面白い話を持ってきた」

 

 

そう言ってアザゼルは亜空間から取り出した書類を練に投げ渡す。咄嗟に受け取った練はその書類を読む前に、アザゼルの一言に意識を奪われる。

 

 

「三大勢力はこれから、新しい組織を結成する」

 

「…………何?」

 

「俺達と同等の権限を持ち、ある程度の自由を許されたテロ対策組織だ。リーダーはいない。三大勢力の和平の証明な訳だからな。当然、お前もアイリス達もそこに所属して貰うわけだが─────構わないだろ?」

 

「断る理由がない。受けさせて貰う」

 

 

早い話、一人だけで動くなと言う話なのだろう。アザゼルはこういうところに気を配ってくれる男だ。だからこそ、練も彼に対して強い信頼を預けている。

 

 

書類を軽く捲っていた練はあるページに目を止め、そのことについて聞いた。アザゼルは楽しそうに笑いながら、話し始める。

 

 

「組織の名前としては、其々の勢力で活躍できるエース三人から取りたいって話になった。そこで俺が良い名前を編み出した」

 

「それが、これか」

 

長い文字列の下に、一際大きく刻まれた単語を。新しい自分達の組織の名前を、練は口の中で吟味する。

 

 

 

 

「────『DxD』、か」

 

 

 

赤龍帝(Dragon)、『エクス(X)』カリバー、真天龍(Dragon)────頭を捩って、『DxD』。こじつけもいいところだと思ったが、案外悪くはなかった。

 

 

三大勢力共同テロ対策組織『DxD』。本当の意味でこの組織が結成するのは、明日の話し合いで確定することだろう。三大勢力のエース達の集まり、談義によって。

 




原作よりも一際早いDxDの結成前の話。まぁ相手が神王派と聖書新生式と、戦力過多ですし、一つの組織にならないとダメだと考えるのは普通ですし。

え?旧魔王派?…………いやぁ、それはちょっと。
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