妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

10 / 202
学校嫌だああああああ。今回の戦闘ですけど結構グダグダだと思います。


『死神』エリゴール

アミク達は先ほど倒れていた軍の方まで戻ってきた。

 

「この先何があるかわからないからあまり魔力は使えないけど・・・『持続治癒歌(ヒム)』」

 

アミクが歌で治癒を施す。

 

「これは即効性は無いけど徐々に回復していくよ。魔力消費も少ないからちょうどいいけど・・・」

 

「十分だ。後は外の人達に避難警告をしよう」

 

アミク達は急いで外に出た。

 

そこには何が起きてるのか気になるのか、野次馬がたくさんいる。

 

「あ、おい!誰か出てきたぞ!」

 

「中で何が起きてるんだ!?」

 

次々と喚き出す人々。そして、エルザ達に気付いた駅員が近づく。

 

「き、君達!一体どんな状況なんだ!?」

 

「おい!ここにいる全員を避難させろ!!」

 

エルザはそんな駅員の言葉を無視して怒鳴る。

 

「はぁ!?いきなり何を・・・」

 

「ちょっと待ってエルザ。私に任せて」

 

アミクはエルザを押し退けると民衆の前に立つ。無視された駅員は涙目だ。

 

すうっと息を吸うとーーーー

 

ーーーー声送(レチタティーヴォ)ーーーーーー

 

『皆さーん!』

 

急に全員の耳元にアミクの声が響いてビクッとなった。あまり大きな声でもないのに鮮明に聞こえる。

 

声送(レチタティーヴォ)』は念話みたいなもので、自分の声を飛ばすことができるのだ。それで相手に直接声を送ることができる。

 

『今、この駅は闇ギルドに占拠されています。それに彼らは沢山の人を殺すことができる魔法を持っています。危ないので直ちに避難してください!繰り返します・・・』

 

三度くらい繰り返してからアミクは魔法を使うのを辞めた。すでにほとんどの人が逃げていて、横にいた駅員もいつの間にかいなくなっていた。

 

「ふぅ」

 

「さすがだな。やはりアミクを連れてきて正解だった。人の心に訴えることができるアミクがいるのは心強いな」

 

「大げさだよ・・・」

 

(でも、本当にここで呪歌(ララバイ)を吹くのかな?仲間もいるのに・・・でも仲間なんて捨て駒に思ってそうだしなぁ・・・)

 

そんな思考をしながら駅の中に戻る・・・・直後。

 

「・・・!今何か聞こえ」

 

ゴォォオオオオオ!!!と音を立てながら駅全体が巨大な竜巻に包まれていた。

 

「・・・遅かった・・・!」

 

これは駅に近づかせないため・・・ではなくおそらく駅から外に出させない為なのだろう。

 

「エルザ!エリゴールの目的はここじゃない!」

 

「何・・・!?」

 

『その小娘の言う通りだ』

 

その時、エリゴール・・・いや、少し透けてるから思念体なのだろう。

 

『俺の本当の狙いはこんなちっぽけなとこじゃねぇ。クローバーの街・・・って言ったら分かるか?』

 

「・・・!マスター達の定例会場!」

 

『そう言うことだ。止められるのなら止めてみな。・・・まぁ無理だろうがな!!この魔風壁を解かなきゃ外には出られないぞ!フハハハハ!!』

 

エリゴールの思念体は高笑いすると消えていった。

 

「くそっ!」

 

エルザは魔風壁に向かって突進する。腕を突っ込んで打ち破ろうとするが、エルザの腕を削り、吹き飛ばしただけで終わった。

 

「ぐっ!!」

 

「エルザ!!」

 

アミクがすぐさま治癒する。

 

「いや・・・いい・・・。こんなことで魔力を使うな・・・」

 

「こんなことってなに!それに魔力の心配はないよ?さっきからこの竜巻の『音』凄いから!いい魔力供給源になってるよ」

 

アミクがパクパクと空中にあるものを掴んで口に持ってくる動作をする。側から見たら薬キメた危ない人にしか見えない。

 

「これ恒常的に食べられそう・・・」

 

「おーい!エルザー、アミクー!!」

 

アミクが陶然としているとグレイが叫びながら走ってくる。

 

「グレイ、無事だったのか」

 

「ああ、でもこれは一体・・・」

 

グレイが魔風壁を見て言った。

 

「えーと、エリゴールの本当の狙いがクローバーの街にいるマスター達かもしれないんだよ」

 

「なんだと!!?」

 

「だから、これを早く解かなくちゃいけないけど・・・クンクン」

 

アミクは耳を澄ましながら匂いを嗅ぐ。

 

「・・・多分あのカゲちゃんは解除魔導士(ディスペラー)だよ。

 

あの人だったらこの魔風壁も解けると思う・・・」

 

「お前の魔法じゃ無理か?」

 

「ゴメン。私の『音』がこの風の轟音と風そのもので散らされちゃう」

 

風が強い時には音が聞こえづらいのと同じである。

 

試しに『音竜の咆哮』を放っても霧散して通用しなかった。

 

「それに私は解除系の『歌』は知らなくて・・・まだまだだね・・・」

 

「気落ちするな。とりあえず、カゲというやつを捕まえればいいのだな」

 

「まずはナツ達と合流しよう。さっき臭い嗅いだし、ナツの声も『聴』こえたから場所はわかってる」

 

アミクの案内に従い、ナツの所に向かうエルザとグレイ。

 

 

そして、着いた時にはナツがカゲヤマを倒していたところだった。

 

「ナツー!」

 

「ん・・・?お、アミク!エルザも!あと・・・誰だっけお前?」

 

「まだ記憶喪失続いてんのかテメェ!」

 

いきなりケンカを始める二人。

 

「ナイスだよナツ!」

 

なんのことかと首をかしげるナツを通り過ぎ、カゲヤマにに近づいた。

 

「おーいカゲちゃーん!聞こえてるー?」

 

アミクがペチペチと頰を叩く。

 

「ん・・・?うわ、なんだお前!」

 

アミクの顔が至近距離にあったことにびっくりしたのかカゲヤマが細い目を見開く。

 

「カゲちゃん!あの魔風壁解いて欲しいんだけど」

 

「ああ、あれか・・・誰がお前の言うことなんか聞くかよバーカ」

 

「お願い!後でアイス奢るから!」

 

『なんでそれで懐柔できると思った!?』

 

アミク以外の全員がツッコむ。

 

「ふざけんなよ!子供じゃねーんだ!とっとと失せろハエども!」

 

「・・・子供と変わらないでしょ?あなた達がやってることは間違ったことを指摘されて逆ギレする子供そのものだよ」

 

「・・・黙れよ・・なんなんだよ、説教のつもりかよ・・・」

 

「そうかもしれない。でも教えてあげなくちゃずっと変わらない。君達は正当なことをしているって思ってるかもしれないけど、あなた達のすることでどれだけの人が悲しんで苦しんだかわかってる・・・?」

 

「し、知ったことかよ!俺らは・・・」

 

アミクはバチーん!といい音を立ててカゲヤマのほっぺをビンタした。っていうかちょっと衝撃波出てカゲヤマが吹っ飛んだ。

 

「ホゲェ!?」

 

「されて嫌なことはしちゃダメだって教わんなかった?あなた達が認められないのは、そういうことばっかりしてるからだよ・・・」

 

アミクは悲しげにカゲヤマを見る。

 

「ずっと嫌われているのは辛いよ・・・。ずっと日陰を歩くのは怖いよ・・・。それはあなたもよく分かるんじゃない・・・?」

 

「・・・」

 

カゲヤマは何も言わなかった。泣きそうな顔をしているところから見るに思い当たる節があるのだろう。

 

「何が間違いで、何が正しいのか、まだ私にもわからないのが多いけど・・・生きてればいろんな体験をする。そこから学んでいけば良いんだよ。ずっと日陰(そこ)にいれば知りたいものも知れないし、

学べるものも学べない、欲しいものも手に入らない・・・だから、これからやり直してあなたが本当にやりたかったこと(・・・・・・・・・・・)をやってみようよ」

 

あまりにもお節介で独善的な言葉。人によっては傲慢だとも感じるだろう。だが、それでも心にストンと落ちるのは彼女が本当にこちらのことを想って言っているからだろう。

 

 

 

「だから、あのオルゴールが罪を重ねる前に魔風壁を解除してくれないかな?」

 

「せめてちゃんと呼んであげろよ!」

 

台無しだった。

 

 

「はぁ・・・なんなんだよホントに・・・」

 

カゲヤマの心は揺れていた。自分がずっと信じてきた正しさが、心の叫びを無視しようとして作った壁が崩れそうになっている。

だが、それは不思議と怖くなーーーー

 

「ーーーー!」

 

突如、アミクがカゲヤマを突き飛ばした。

 

「ーーーんな!?」

 

そして頭を壁にぶつける。そのまま意識が暗くなる。最後に見たのはアミクのわき腹から溢れ出る血と手を突き出した仲間ーーーーカラッカだった。

 

(あいつ、俺を殺そうとーーー!?じゃ、俺は助けられてーーーー)

 

その思考を最後にカゲヤマは意識を失った。

 

 

 

 

「う、あぁ・・・!」

 

アミクは激痛で呻き声をあげた。抉られた脇腹からは血がドクドクと流れている。

 

「アミク!」

 

「貴様!」

 

「テメェ、よくもアミクを!!」

 

みんな怒りの声をあげながらアミクを負傷させたカラッカへと詰め寄る。震えていたカラッカは慌てて壁に潜り込んだ。そういう魔法らしい。

 

どガァンとカラッカがいた壁を殴りつけるが、すでにもぬけの殻だ。

 

「クソ!逃げられた!」

 

「任せて」

 

アミクが脇腹を抑えながら壁に耳を当てる。そしてーーーー

 

「・・・そこ!」

 

一瞬で遠くの壁まで移動するとそこを衝撃波で抉る。そこからカラッカが白目を向きながら倒れてきた。

 

「いたっ・・・」

 

「おい!無茶するな!」

 

アミクが倒れそうになったところをエルザが慌てて支える。

 

「アイツ、自分の仲間をやろうとしてた・・・」

 

ナツが怒りの表情を浮かべながら言う。

 

「これが、こいつらのやり方かよ・・・!」

 

ナツは血が出ているアミクの脇腹を見て震えた。

 

 

「みんな〜!」

 

「あいー!」

 

「なのー!」

 

そこに、ルーシィ達が現れる。

 

「よかったここにいたのね・・・ってアミクどうしたのよその怪我!!」

 

「アミク!?」

 

ルーシィとマーチがアミクに駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっとしくじっちゃって・・・」

 

「ひどい・・・誰がこんな・・・」

 

「許せない、の・・・!」

 

ルーシィが悲痛な顔をし、マーチが怒る。

 

「だ、大丈夫だって、今、回復するか、ら」

 

アミクは痛みに耐えながらも『治癒歌(コラール)』を唱える。

 

「これで、傷は塞がる・・・。それより、カゲちゃんは?魔風壁解かないと・・・」

 

「はっ、そうだ!おい、カゲ起きろ!」

 

エルザがカゲヤマの胸元を掴むとグワングワン揺らした。

 

「クソ、起きない!」

 

「そんなに揺らすなよ・・・うぷ」

 

「想像しただけで酔うの!?」

 

ルーシィはアミクを心配そうに見ながらも律儀にツッコミを入れた。

 

「あ、そうだルーシィ!前みたいに星霊界?を通って外に出るとかできねぇのか?」

 

エバルーの屋敷でバルゴに捕まったままだったアミクとナツがバルゴと一緒に召喚された、と言うやつである。

 

「あのね、星霊界は普通人間が入ると息が出来なくて死んじゃうの。それに門は星霊魔導士がいる場所でしか開けられないの。だから出るとしても外に星霊魔導士が一人いなきゃだめなの! だからその提案は無理なの。わかった?」

 

「なんだよ、使えねぇ」

 

「使えないって・・・あと、これは前にも言ったけど人間が星霊界に入ること自体が重大な契約違反だって!あの時はエバルーの鍵だからよかったものを」

 

「うん・・・バルゴ?・・・そうだ、それだよルーシィ!」

 

アミクが急に喜色の声をあげた。

 

「え?なに?」

 

「バルゴだよ!さっき鍵貰ったでしょ?バルゴなら穴掘ってここから脱出できる!」

 

「あ、そっか!」

 

「なるほど、なの」

 

早速ルーシィはバルゴを呼び出す。

 

「我……星霊界との道を繋ぐ者。汝……その呼びかけに応え門をくぐれ! 開け! 処女宮の扉、『バルゴ』!」

 

そして、出てきたのはピンク色の髪をした美少女だった。

 

『は?』

 

バルゴを見たことのある面子はポカンとした。明らかに姿が違う。

 

「お呼びでしょうか、ご主人様」

 

「あ、あれぇ!?」

 

「えーと、ダイエットに成功した?」

 

「すげぇ痩せたなぁ」

 

などと話すアミク達。

 

「あの時はご迷惑おかけしました。・・・皆様の疑問に答えますと、私はご主人様の忠実なる星霊。ご主人様の望む姿にて仕事をさせてもらいます」

 

「な、なるほど・・・・」

 

なんだそれは。とりあえず、無理矢理納得してバルゴに話しかける。

 

「ごめんバルゴ! 契約は後! あんたの力で穴を掘ってこの風の向こう側に行ける!?」

 

「はい、可能です」

 

「じゃあ今すぐお願い!・・・あとご主人様は恥ずかしいから別なのにして」

 

「かしこまりました・・・では、姫」

 

「姫・・・悪くないわね・・・」

 

「悪くないんだ・・・?」

 

アミクは呆れた。ともかくバルゴが地面に穴を開けて外と繋いでくれたので、アミク達は脱出することに成功した。

 

「外にでれたー!」

 

「アミク、もう怪我は大丈夫か?」

 

「うん!『音』も食べまくったし」

 

それにしてもすごい風だ。ツインテールがはためく。

 

「ってアミク!スカート抑えなさいよ!グレイが見てるわよ!」

 

「え?きゃあ!?」

 

「みみみみ、見てねーし!」

 

顔を赤くして言われても説得力がない。

 

「って言うか、なんでそいつ連れてきたのよ!」

 

「え?なんかほっといてもまた殺されるかもしれないし・・・」

 

アミクのそばではカゲヤマが寝かされていた。そのカゲヤマが目を覚ます。

 

「う・・・ここは・・?」

 

「目ぇ覚ましたか?」

 

「ここは・・・魔風壁の外か・・・だけど、今から出発してもエリゴールさんには追いつけないさ・・・僕たちの勝ちだ・・・そうだ、アイツは・・・?」

 

「アミクなら無事だ・・・ってあれ?どこ行きやがった?」

 

「ナツもいない!」

 

いつの間にかアミクとナツ、それに伴ってマーチとハッピーもいない。

 

「多分先に行ったのだろう・・・アミクはさっきまで怪我をしていたのに無茶を・・・!」

 

「とにかく追いかけるぞ!」

 

カゲヤマも連れて魔導四輪車に乗り込む一行。

 

(どうせ・・・追いつけないさ・・・)

 

カゲヤマはどこか寂しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。クローバーの街に向かっていたエリゴール。

 

「もう少しでクローバーに着くな・・・待ってろよジジィども・・・!」

 

エリゴールは飛びながら呪歌(ララバイ)を取り出した。

 

「これがあれば・・・」

 

にやりと怪しい笑みを浮かべていると。

 

 

 

「MAXスピ―――――――――――ド――――――――!!!!」

 

ハッピーとナツが物凄い勢いでやって来た。

 

「な・・・!」

 

「おおぉらああああ!!」

 

ナツがそのままの勢いでエリゴールを殴りとばす。

 

「ぐ、はぁ!!?」

 

「お、オイラ、もう限界・・・」

 

「サンキューなハッピー。もう休んでろ」

 

「あい・・・」

 

ハッピーはフラフラになりながら降りた。

 

ナツは橋の上からエリゴールを睨む。

 

「ちっ、クソガキが・・・どうやってここに来た!カゲ達はどうしたァ!!」

 

「んな事気にする必要なんかねぇよ・・・おまえは俺に倒されるんだからよ!」

 

「・・・調子に乗るなよ・・・ハエが・・・」

 

 

そして一触即発の状況になったそのとき、

 

 

 

 

 

 

「ア――――ミ――――ク――――キ―――――ック!!!」

 

「ぐおおおおおおっ!!!?」

 

ハッピーと同じようにMAXスピードで飛んできたマーチとアミクが跳び蹴りを喰らわせた。

 

「アミク!?オメェ何で来たんだよ!!」

 

「なんでって、ゴールさん止めるため以外何かある?」「おい小娘、なぜ略す。前半憶えてないのだろう、そうなんだろ!?」

 

「俺一人で十分だ!お前さっきまであんなに血流してただろ!」

 

「ア、アミク・・・もう無理、なの・・・」

 

マーチもフラフラと降りてきてアミクを下した。そしてそのままハッピーの隣に倒れ込む。

 

「心配しないで!こう見えても結構タフなんだから!もう魔力も回復したし!」

 

それに、と続ける。

 

「私達二人で『双竜』でしょ?」

 

「・・・ああ、そうだな!」

 

ナツはやっと二カッと笑うとアミクの隣に立った。

 

「俺とアミクで『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の『双竜』だ!」

 

「うん!」

 

「む、無理はしないでアミク・・・なの」

 

「ナツゥ~、アミクぅ~、早くそいつ倒しちゃって~」

 

 

「ハエ共がぁ・・・!!」

 

エリゴールは怒りで震えていた。ことごとく自分のことを邪魔するこいつらが憎くてたまらなかった。

 

「後悔させてやるぅっ!」

 

「それはこっちのセリフ!」

 

まずはアミクが跳び上がり、エリゴールに接近。拳に音を纏わせて振りかぶる。

 

「『音竜の響拳』!!」

 

そして、殴りつけようとしたが・・・エリゴールが放った突風によって態勢を崩され、音も霧散してしまう。

 

「うわっ・・・」

 

「もらった!」

 

鎌でアミクを斬りつけようとするが、それをナツが邪魔する。

 

「『火竜の咆哮』!」

 

エリゴールは深追いせずに炎を風で弾きとばした。

 

「ありがとうナツ。でも二人揃って相性が悪いのが相手だなんて・・・」

 

「でも、こっちは二人だ!俺たちなら倒せる!」

 

「そうだね。それは疑ってないよ。骨が折れるなぁとは思うけど。・・・でもこういう時なんて言うんだっけ・・・えーと」

 

「燃えてきたぞ!」

 

「そう、それ」

 

呑気に会話する余裕まである二人。それを見てエリゴールの頬が引きつる。

 

「舐めてんのか・・・!もういい、『暴風波(ストームブリンガー)』!!」

 

エリゴールが指で印のようなものを切り、手から風を発生させる。

 

それはナツの方に向かっていった。

 

「おわあぁ!?」

 

ナツが危なっかしく避ける。だが避けきれず吹き飛ばされた。橋から落ちそうになっていたので手を伸ばしてナツの腕を掴んで引き寄せた。

 

「悪ぃ、助かった!」

 

「これで、おあいこ!」

 

エリゴールは忌々しそうに二人を見た。

 

「ちっ・・・ハエでも二匹もいりゃ鬱陶しい限りだ・・・そろそろ本気でケリをつけてやる!」

 

エリゴールは全身に風を纏い始めた。

 

「『暴風衣(ストームメイル)』!」

 

纏った風は鎧となりエリゴールを守る。

 

「あれちょっと厄介だね・・・」

 

「関係ねェ!突っ込むぞ!」

 

「待ってナツ!その前に・・・」

 

アミクはナツを止めると綺麗な声で歌いだした。

 

「・・・!貴様、『歌姫』か・・・!」

 

「『攻撃力強歌(アリア)』!『防御力強歌(アンサンブル)』!『速度上昇歌(スケルツォ)』!」

 

自分とナツに付加術(エンチャント)を掛ける。

 

「体が軽ぃ!ありがとよ!」

 

付加術士(エンチャンター)か!珍しい者もいたものだ・・・」

 

「いくぞおぉぉぉお!!」

 

ナツがすごい勢いでエリゴールに向かって飛びこんでいく。

 

「『火竜の鉄拳』!!」

 

「無駄だ・・・なにぃ!?」

 

防御力が上がっているので『暴風衣(ストームメイル)』による風のダメージに耐え、上がった攻撃力で『暴風衣(ストームメイル)』を突き抜け、エリゴール本人に攻撃を届かせる。

 

「うぐぅっ!!」

 

「おっしゃあああああ!!燃えてきたあああああ!!『火竜の劍角』!!」

 

全身に炎を纏ったナツがエリゴールに体当たりを仕掛けた。流石にまずいと思ったのか飛んで避ける。

 

「『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

「なぁっ!?」

 

だが、その避けた先にアミクが全身に音を纏った状態で突っ込んでくる。これは避けられずまともに喰らうエリゴール。体当たりが当たった瞬間、衝撃波で吹き飛ばされた。二人で良い連携をしている。

しかし、アミクの柔肌にも『暴風衣(ストームメイル)』による傷が多少できていた。

ナツも同様だ。

 

「やっぱり魔法がある程度散らされちゃうなぁ・・・そのせいで思ったよりダメージを与えられてない」

 

相性が悪いのは変わらないのだ。

 

「でも、勝てるぞ!」

 

アミクとナツは力強くエリゴールを見る。その眼力に口から血を流してうろたえるエリゴール。

 

 

 

「おのれ、おのれぇ!!こんなところでやられるものか!!」

 

エリゴールは高く飛びあがると魔力を集めた。

 

「これで貴様らをバラバラにしてやる!!『翠緑迅(エメラ・バラム)』!!」

 

はっきり感じるほどの高い魔力がこもった風の刃が向かってくる。

 

「ナツ――――!!」

 

「アミク――――!!」

 

ハッピーとマーチが叫ぶ。

 

しかし、それを前にしてもアミクにもナツにも恐怖はなかった。隣に心強い相棒がいるだけでどんな困難にも打ち勝てる気がしていた。

 

二人は互いを信じて息を大きく吸い込む。

 

 

「『火竜の――――」

 

 

「『音竜の――――」

 

 

「「咆哮』!!」」

 

 

威力の上がったブレスが混じり合い、『翠緑迅(エメラ・バラム)』とぶつかり合った。互いにせめぎ合ってどちらが押し勝つか分からない。そして次の瞬間。

 

 

ボォウ!!

 

 

ブレスが風の刃を打ち消し、そのままエリゴールの方に向かってゆく。

 

 

「馬鹿なアアアアアアア!!!」

 

エリゴールに直撃した。『暴風衣(ストームメイル)』が剥がれ落ち、ブレス共々霧散した。エリゴールは大分ダメージを負った様で飛ぶ元気もなくなったのか地面で片膝をついている。

 

「こんな、こんな馬鹿なことがあるか・・・この俺が、『死神』エリゴールがこんなガキ共に・・・」

 

「年貢の納め時ってやつだよ、エリゴール(・・・・・)

 

アミクが自分の手首にあるギルドマークを見せつけるように言った。

 

「『妖精の尻尾(私達)』に目を付けられた時点で『鉄の森(アイゼンヴァルト)』は終わってたんだ」

 

「ふざけたことを抜かすなあああああああ!!!」

 

まだ魔力は残ってたのか、エリゴールは手のひらに小さな竜巻を発生させた。

 

「ナツ、決めよう」

 

「おう!久しぶりにやってみっか!」

 

そう言ってナツは右手に、アミクは左手にそれぞれ炎と音を纏った。そして、二人同時に駆けだす。

 

「うおおおおお!!!」

 

「ああああああ!!!」

 

エリゴールが竜巻を投げつけてくるが、ただの苦し紛れだ。あっさり霧散させられる。

 

「や、やめろおおおおお!!!?」

 

エリゴールが叫ぶのもお構いなしに二人は同時に拳を突き出した。

 

火と音が融合する。

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)

 

別々の魔法を一つにして威力を高める魔法。本当に息が合った者同士でなければ発動は難しく、生涯を費やしても習得には至らないこともあるという。

 

しかし、ナツとアミクは息の合ったコンビであり、心が通じ合ってるとも言える。『双竜』の名は伊達じゃないのだ。

 

 

 

「「『火炎音響滅竜拳(かえんおんきょうめつりゅうけん)』!!!」」

 

二人の拳がエリゴールの顔面にめり込み、そのまま振りぬいてぶっとばした。エリゴールは白目を剥いて気絶する。鼻が曲がり、歯も何本か折れていた。

 

 

「私達二人で!」

 

「最強コンビだ!」

 

 

二人でハイタッチする。これは前々から使っている勝利した後の決め台詞である。

 

 

「ナツ―――!!」

 

「アミク――――!!」

 

 

ハッピーとマーチがそれぞれに飛び込んできた。

 

「すごいよー!かっこよかったよ!やっぱり二人が戦うとどんな相手も敵じゃないね!」

 

「『双竜』の力は無限大、なの!」

 

マーチも珍しく興奮して言った。

 

「でもあのぐらいだったらナツ一人でも勝てたと思うよ?」

 

「もちろんだ!」

 

なっはっはっは!!とナツは高笑いした。

 

「ていうか格好つけすぎてオーバーキルだった気もしなくもない・・・」

 

「倒せたからなんでもいい、の」

 

和気あいあいと話していると

 

 

「ナツー!アミクー!ハッピー!マーチー!」

 

ルーシィが呼ぶ声が聞こえたのでそちらを向くとエルザ達が魔導四輪車に乗って来ているところだった。

 

 

 

 




アミク参戦で原作よりも簡単に倒せたエリゴール。やっぱり連携って大事だなァ・・・。
ところで、アミクの説教シーン。アミクが何言いたいのかわかった?僕はよく分からん。
次回で鉄の森と呪歌編は終わりです。

感想待ってます!

アリア・・・詠唱、詠嘆曲。オペラ歌手による独唱の曲。
スケルツォ・・・諧謔曲。3拍子の、速く軽快なメヌエット。
バラード・・・譚詩曲。自由な形式の物語詩的歌曲。
レチタティーヴォ・・・叙唱、朗唱。劇の状況や物語の展開を説明するときに用いられる、話し言葉のような歌。

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