妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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勉強したくないな―。


ゼレフ出るよー。あれ、出ちゃうね!?どう動かそう!?


二次試験と黒魔導士

「あ、お前ら!!」

 

その後すぐにやって来たのはグレイとロキチーム。

 

「グレイ、ロキ。おめでとう」

 

アミクは軽く手を挙げる。

 

「ああ。アミクやレビィも突破できたのか」

 

『お前なら大丈夫だろうとは思ってたけどね』

 

ウルも祝ってくれるらしい。

 

「うん。グレイ達は何のルート通ってきたの?」

 

「『静』のルートだよ。面白味はなかったけど、運が良かった」

 

アミクの問いにロキが答えてくれた。

 

「オレらも気長に他の奴らを待つとしますかね」

 

グレイ達も地面に座って待ち始めた。

 

「…そういえば此処って何度か試験に使った場所じゃん」

 

アミクがボソッと呟くとマーチが反応する。

 

「そう、なの?」

 

「こんな通路があったのは知らなかったけど…上手く隠されてきたんだろうね…」

 

エルザやミラジェーンなんか此処で激しいバトルを繰り広げていたものだ。こっそり見ていたから分かる。

 

「ま、だからって今回も此処で何かするとは限んないけどね」

 

アミクは頭に手を乗せて空を見上げた。

 

白い雲が浮かぶ快晴だった。

 

 

 

 

 

「ルーシィ!!カナ!!良かった!!」

 

アミクは2人が出て来ると思わず抱きついた。

 

「わっ、アミク!あんたも突破したのね!」

 

「うん!2人とも無事で良かった!!」

 

「無事って…死ぬわけじゃないんだから。まったく…」

 

ルーシィ達とキャッキャッしてると、しばらくしてナツとハッピーもやって来た。

 

「わー!ナツ達も来たー!!」

 

「良かった、の」

 

「マーチ!!」

 

アミク達が喜ぶと、ハッピーはふわふわと飛んで来るが、ナツはどこか浮かない表情だ。いつもなら騒がしいはずのナツがだんまりしている。

 

「ナツ…?どうしたの?」

 

アミクが心配そうな表情になって聞くと、「ん…ちょっと考え事」と言う。

 

怪我とかはしていないみたいなので、大丈夫だとは思うが…。

 

その時、マカロフがやって来た。相変わらずのアロハシャツと短パン。

 

「さて…これで全員そろったかな?」

 

「おじいちゃん」

 

マカロフがアミク達を見回して告げる。

 

「カナのチームはフリードのチームを『闘』で破り、突破」

 

「おおっ!!」

 

『へぇ、やるじゃないか』

 

「何―――!!?」

 

アミクは喜色を浮かべ、ウルが感心し、グレイが愕然となる。

 

 

「ナツのチームはギルダーツの難関をクリアし、突破」

 

 

グレイが頭を抱えて「嘘だ――――!!?」と叫ぶ。そんなに認められないのか。

 

「凄い!!」

 

アミクは素直に感嘆した。

 

『本当に勝ったわけではないだろう。ギルダーツに認められた形だと見る』

 

ウルはナツとギルダーツの実力差からそう推測していた。

 

 

「レビィのチームとグレイのチームは、運よく『静』のルートを通り、突破」

 

「運がいいだと!!?」

 

ガジルがくわっとなった。どんだけだよ。

 

 

「そして、アミクのチームはメストのチームを『闘』で破り、突破」

 

「イェイ!!」

 

アミクがVサインをすると、ルーシィ達が苦笑いした。

 

「後は…エルフマンのチームとジュビアのチームだね」

 

消去法的に残るのはどちらも『激闘』のルート。問題は誰が誰に当たったか、だが…。

 

突然、マカロフが震えだした。

 

「ジュビアのチームは…奴と当たってしまった…あの手の抜けない女騎士に」

 

「あちゃー…」

 

 

それは…なんというか、不運だ。

 

 

「ってことは、エルフマン達はミラさんの所か…」

 

あそこはあそこで大変そうだ。

 

 

「エルフマン達も可哀想に…」

 

「ま、まだ分からないよ?エルフマンやエバーグリーンだって簡単にやられるように人達じゃないし」

 

「って言われてもなぁ…エルフマンも自分の姉ちゃんが相手じゃやりづらいだろ」

 

皆、エルフマンのチームに同情的な言葉を口にしていると。

 

 

「ちょっと待てーい!!」

 

 

エルフマンの声が響いた。

 

 

「オレらも姉ちゃん倒してきたぞォ!!」

 

「一次試験突破よ!!」

 

ボロボロではあるが、やりきった表情のエルフマンとエバーグリーンがやって来たのだ。

 

 

「ミラさんを!?どうやって?」

 

 

アミクが問いかけると、2人は目を逸らして顔を赤くした。

 

「それは言えん!!漢として!!」

 

「一瞬のスキをついたとだけ言っておくわ」

 

(何したの一体!!?)

 

気にはなったが、それ以上の追及はしなかった。

 

 

「コホン…ともかく、一次試験突破チームはこの6組とする。そしてこれより、二次試験を開始する」

 

「おっ、早速だね」

 

ジュビアチームは落選してしまったか…ドンマイ。

 

突然、向こうの方で静かに考え込んでいたナツが大声をあげた。

 

 

「アミク!!グレイ!!カナ!!レビィ!!エルフマン!!誰がS級魔導士になるか勝負だ!!」

 

 

アミク達を指差して宣告するナツ。アミク達も思わず笑みを浮かべる。

 

 

「お前にだけは負けねーよ」

 

「ふふっ」

 

「私だって」

 

「その勝負、漢として受けて立―――つ!!」

 

「…望む、ところ」

 

それぞれが、ナツに応えた。

 

 

「燃えてきたぞーっ!!」

 

「もう元気になったみたいだね。ナツらしい」

 

アミクはナツを見て微笑んだ。

 

「あたしはぜぇ~ったい、カナをS級にするの!!」

 

「たとえルーシィでも、僕は手を抜かないよ」

 

「ギヒヒ、吠えてろクズが」

 

パートナー達も挑戦的に互いを見合った。受験者もそのパートナーも闘志を燃やしている。

 

「漢たるものォ…ぐほばっ」

 

「エルフマン、しっかりしなさ…ぐふんっ」

 

「大丈夫なの!?」

 

ちょっと不安になるアミクだった。

 

『さて、誰がなれるのかな…?』

 

楽しそうなウルの声が響いた。

 

 

 

「二次試験はこの島のどこかにある、初代マスターメイビス・ヴァーミリオンの墓を探す事じゃ」

 

マカロフの説明にカナとアミクは顔を見合わせた。

 

「墓の場所なんて聞いたことないよ」

 

「私だって天狼島の地理について詳しいわけでもないしな」

 

今まで試験で使ってきた時には島の一部でやってきたものばかりなので、カナも島全体が舞台となった試験は初めてなのだ。探検する暇もなかったし。

 

 

「制限時間は6時間。最初に墓を見つけ出した者が今回の試験の合格者じゃ。その者をS級魔導士として認める」

 

「おお!!」

 

つまり、これが最終試験なのか。

 

「皆、頑張るのじゃぞ。さて、ワシは待っている事にしよう」

 

マカロフはそう言ってどこかに去って行った。

 

「よーし!!オレが先に見つけるんだ!!」

 

「ナツー!!待ってー!!」

 

ナツが一足先に走って行ってしまう。それをハッピーが追いかけて行った。

 

「出遅れた!!行くぞ、ロキ!」

 

「了解!!」『頑張れー…』

 

「アタシ達も行くわよ!!」

 

次々と墓を求めて散って行くメンバー達。そうしてその場に残ったのはアミクとマーチだけだった。

 

「…行かない、の?」

 

「ふっふっふー」

 

なぜか、アミクは余裕たっぷりだ。

 

「皆ごめんねー。ソッコーで私がS級になっちゃうみたいだねー」

 

「…墓の場所が分かった、の!?」

 

マーチが驚いて聞くと、アミクは首を横に振る。

 

「いや?でも、すぐに分かるよ。なんせ、私には『反響マップ』があるんだから!!」

 

「そっか!なの。それで天狼島の地形を調べるってわけ、なの」

 

「それで墓の場所を探し当てる!!『反響マップ』!!」

 

早速アミクは『反響マップ』を使った。

 

 

「――――――――――っ!!」

 

天狼島全体に響き渡るように超音波を発する。意外と天狼島は広いので骨が折れそうだ。

 

 

数分後。

 

 

「―――っはぁ!!疲れた…」

 

「お疲れ、なの」

 

 

アミクはぐったりして座り込んだ。

 

 

「…で、結果は?」

 

「…それらしいものがありすぎて分かんなかった」

 

あちこちボコボコしているし、洞窟だって結構あったし、どれがなんなのか分からなくなってしまったのだ。それに、遠くだと精度も多少荒くなる。

 

浅慮だった。そりゃ、そう簡単に見つかったら試験にはならないだろう。

 

アミクはズーン、と体育座りして落ち込んだ。

 

マーチは大して気にしてなさそうにアミクの背中を撫でる。

 

「アミクが自身満々の時って、たいてい失敗するから気にするな、なの」

 

「君は私に止めを刺したいのかな!?」

 

アミクが涙目でマーチを睨んだ。

 

「…ズルして勝とうだなんてダメだってことだね」

 

「ズル…なの?」

 

アミクは頬をパァーン、と叩くと勢いよく立ち上がった。

 

「私も正々堂々とやろう!!」

 

「勝手に落ち込んで、勝手に元気になった、の…」

 

マーチは微笑みながらもやれやれ、と呆れる。上がり下がりの激しい少女だ。

 

「マーチ!!まずは空から探そう!この島の上にもう1つ島っぽいのがあったよね?そこに行ってみようよ!」

 

「はいはーい、なの」

 

マーチはアミクの襟を掴むと空に飛んで行った。

 

 

 

 

「着いたー!…けど、特に何かありそうには見えないね…」

 

アミクは天狼島の上にある巨大な木の上から見下ろした。

 

「島じゃなくて木だねこれは。でっかいなー」

 

さすがにこんなところに墓があるわけないか。

 

「そうだとしたら飛べる私達が圧倒的有利すぎるしねー」

 

「それもそう、なの」

 

「他の所探そうか。洞窟とか怪しいと思うんだ」

 

アミク達が再び飛び上がった、その時。

 

 

「…うっ!!?」

 

 

物凄く鼻につく匂いがした。異臭というよりは異質な匂い、とても不気味な臭い。

 

そして、それは『音』も一緒だった。酷く嫌な音。

 

 

「な、なに…!?」

 

「アミク!?どうした、の!?」

 

 

急に震え出したアミクを心配そうに覗きこむマーチ。

 

 

「分かんない…っ!!?何この匂い…!?」

 

アミクは匂いが方向を見る。向こうの方からだ。

 

 

「あっちから…!マーチ、あそこに向かって!!」

 

「な、なの!!」

 

 

マーチは猛スピードでアミクが指差した方に向かう。

 

 

その途中、再びあの匂いと音がした。邪悪な魔力と共に。

 

 

「なん、なの!?」

 

マーチも感じ取ったようだ。言うなれば、命を奪うかのような魔力。

 

「なんて匂い…音も嫌な感じ…!!」

 

 

異常事態だ。非常に嫌な予感がする。

 

「皆無事だと良いけど…」

 

あの不気味な魔力に巻き込まれた者が居ないか、心配だ。

 

「…あれ?」

 

丁度下を向いたアミクは、見覚えのない人物が木に寄りかかっているのが見えた。

 

「…マーチ、ゆっくり下りて」

 

「…なの?了解、なの」

 

アミク達はゆっくりとその人物に近づく。

 

「!誰か居る、の!」

 

「何でこんな所に…」

 

アミクは上からその人物を観察した。角のようにはねた黒髪の青年。端正な顔つきだが、その顔は世界を嘆くような表情だった。

 

(…誰?妖精の尻尾(フェアリーテイル)の人じゃなさそう…)

 

アミクはそっとその青年の前に降り立った。マーチが不安そうにアミクの髪を掴む。

 

「…っ!君は…」

 

青年はアミクに気付いて目を大きく見開いた。

 

「貴方は…誰?」

 

アミクが警戒と共に聞くと―――――彼はツーと涙を流した。

 

「うぇ!?」

 

思わず間抜けな声を上げるアミク。なんか顔見られたら泣かれたんだけど。

 

 

「アミク…君も居たのか…」

 

その青年が、自分の名を呼んだ。

 

 

「え?なんで、私の名前を…?」

 

アミクはこの青年とは面識がない…はずだ。

 

 

「そうか…君も、こんなに大きくなったんだね…」

 

「も、もしかして、昔会った事あるんですか?」

 

幼少期に会ったならば、自分が憶えてないのも納得がいくはずだが。

 

「そんなところかな…。また会えて嬉しいよ、アミク…」

 

「ど、どうも…」

 

記憶にはないが、自分はこの青年と会ったことがあるらしかった。だが、アミクにとっては赤の他人に懐かしがられても、正直反応に困る。

 

青年はアミクに触れるかのように手を伸ばしたが―――――すぐに辛そうな表情で引っ込めた。

 

そこで、マーチがアミクの前に出る。

 

「アミク!!気を付けて、なの!!この男、凄く怪しい、の!アミクを騙そうとしているかもしれない、の!!」

 

「う、うん…さっきの魔力とも無関係とは思えないし…」

 

マーチが警戒の眼差しで青年を睨みつける。アミクも先程の魔力と不審なこの青年を結びつけて考えていた。

 

だが、この青年からは敵意は感じられない。むしろ、何かに怯えているように見える。そんな人間に対して敵対した態度はとりたくない。

 

「すみません。この島は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地なので、勝手に入られるとちょっと困ります…」

 

誤ってこの島に迷い込んだのかもしれない、と思って丁寧な口調を心がけた。アミクが申し訳なさそうに言うと青年も申し訳なさそうになる。

 

「ごめん…なるべくすぐに出て行くよ」

 

(ナツも…君も…僕を壊すにはまだみたいだしね…)

 

彼は心の中でそう思った。

 

「…あの、さっき妙な魔力を感知したんですけど…。何か知りませんか?」

 

「…それは僕が原因だ。すまない…」

 

悲しそうに俯く青年。アミクはどうしても彼が悪者には見えなかった。

 

「あれはとても危険なものなんだ。あまり僕の近くに居ない方がいい…。僕は、もう誰も殺したくないんだ…」

 

悲痛そうに歪められる青年の顔を見て、アミクも胸が痛んだ。事情はよく分からないが、彼には大きな苦悩があるのだろう。

 

「えっと…敵対するつもりはないんですよね?それならいいんですけど…」

 

「よくない、の!!こんな怪しい男、放っておくと何仕出かすか分からない、の!!」

 

アミクの甘さを咎めるように叫ぶマーチ。しかし、アミクは困った顔をしながら自分のツインテールを撫でるばかりだ。

 

(本当に君は変わらないんだね。昔からずっと…優しいままだ…)

 

青年はほんの少し口の端を上げた。懐かしむような儚げな笑顔。

 

それを見たアミクは照れたように頭を掻いた。

 

「…これ以上、迷惑がかかる前に僕は去るとするよ…」

 

青年はゆっくりと立ち上がってアミク達に背を向けた。その背に向かってアミクは慌てて声を掛けた。

 

「そ、そういえば名前はなんですか?」

 

その問いに青年は振り返ると、少し逡巡して名乗る。

 

 

「…ゼレフ、だ」

 

「ゼレフ!?ゼレフさんですか…分かりました!」

 

あの『黒魔導士』と呼ばれるゼレフと同じ名前だったので驚いたが、すぐに笑みを返した。

 

「結局、ゼレフさんの事は思い出せませんでしたけど…私もまた会えて嬉しかったです!」

 

アミクの言葉にゼレフの目が丸くなる。そして、表情が柔らかいものに変わった。その顔が見れて満足。

 

彼があんまりにも辛そうな顔だったので、少しでも彼の苦しみを癒せれば、と思って発した言葉だったが上手くいったようだ。

 

もちろん、この言葉は本心でもあるが。

 

「またね、アミク…次会う時は…」

 

ゼレフはそこで言葉を切って、そのまま去ってしまった。

 

 

「…本当に、放置していい、の?」

 

マーチが不安げにアミクを見るが、アミクは肩をすくめた。

 

「一応、後でおじいちゃんには報告するけどね。あの人は悪い人じゃないから大丈夫だよ」

 

「出た、アミクの良いとも悪いとも言える性格…」

 

マーチは深くため息を吐いた。

 

「それにね、あの人とは初めて会った気がしなかったんだよ」

 

「ルーシィが喜びそうなロマンチスト理論、なの…」

 

「そう言われても仕方ないけど…」

 

 

アミクはたはは、と苦笑いした。

 

 

 

こうして、音の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と黒魔導士は邂逅する。

 

 

 

そして―――――悪魔が、襲来する。

 

 

 




アミクはナツみたいに喧嘩っ早くないからね。

普通にしてれば対話で済まそうとするアミク。


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