妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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眠い…。


再会

「アミクさん!!起きて下さい!!」

 

「う、ううん…?」

 

アミクはウェンディの声と彼女の揺さぶりにより目を覚ました。

 

「良かった!気が付いた!!」

 

ウェンディはホッとして胸をなでおろした。アミクはパチパチ、と瞬くと身を起き上がらせる。

 

「…此処は…?私、なんで…」

 

「崖の下です。アミクさんの魔法で崖が崩れちゃって…」

 

そうだ、思い出した。自分が滅神魔法を使ってブレスを放ったのだった。そこで記憶が途切れているが、あのブレスの衝撃で崖が崩れたらしい。

 

「アミクさんが魔法を使った直後に気絶したんです。その後、崖が崩れてアミクさんも私達も…」

 

幸い、ハッピー達がアミク達を持ってくれたお陰で怪我はなかったのだと言う。

 

「マーチ達は?」

 

「辺りを警戒して見て回っています」

 

彼女達にも心配掛けた。でも、なぜ急に気絶したのだろうか。いや、単純に魔力切れだろう。魔力の消費が半端なかった。

 

「あの人はどうなったの?」

 

「分かりません…シャルル達は上には居ない、って言ってましたけど」

 

一旦撤退したのだろうか。

倒せはしないまでも、大ダメージを与えられたらいいのだが。

 

 

(…なんで、私が滅神魔法を…)

 

あの魔力の感じはザンクロウのソレと酷似していた。自分も口が勝手に動いて「音神の―――」とか言ってたし。

 

 

(――――今は、置いておこう)

 

それよりもナツ達を探すのが先だ。ウェンディも気にはなっているようだがアミクを問い詰めるようなことはしなかった。

 

「アミクー!」

 

「目が覚めたんだ!」

 

丁度マーチ達がやって来た。アミクを見てハッピー達が嬉しそうに歓声を上げる。

 

 

「うん。もう大丈夫」

 

アミクは立ち上がってパンパン、とスカートを払う。

 

「ナツを探しに行こう。さっきの攻撃で怪我もしてるはず」

 

匂いも微かにするので、それを辿って行けばナツと合流できるだろう。

 

 

 

「あっちから凄い音がする!!」

 

しばらく森の中を歩いていたアミク達だったが、アミクが何かの音を聞き取り、音がした方に向かう。

 

すると…。

 

 

「ナツ!!おじいちゃん!!?」

 

傷だらけで倒れているナツとマカロフ、そしてザンクロウ。

 

「ありえねぇ…俺っちが…竜狩り如きに…」

 

ザンクロウはまだ意識があったようで信じられないかのように呟いている。どうやらナツにやられたらしい。

 

「おじいちゃん!!おじいちゃん!!!」

 

「ナツー!!」

 

アミク達はマカロフとナツに駆け寄った。ナツもだいぶ傷ついているが、マカロフはそれ以上に酷い怪我だ。

 

「そんな!!?しっかりして!!」

 

アミクはマカロフに治癒魔法を掛ける。だが、なかなか癒えない。

 

それはナツに治癒魔法を掛けているウェンディの方も同様のようだった。

 

「何で…治癒の魔法が効かないの!?」

 

「おじいちゃんの傷が深すぎる…誰にこんなにやられたの…?」

 

 

アミクは『持続回復歌(ヒム)』をマカロフに掛けると、立ち上がってザンクロウの方を見た。忌々しそうにアミクを睨む。

 

「…テメェ…!!なんで竜狩りの癖に、滅神魔法が使えるんだってよ…!!」

 

「…私が知りたいよ、そんなの」

 

アミクは彼に近付いて冷たい瞳で見下ろした。

 

「おじいちゃんを――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターを傷付けた人は誰?」

 

ザンクロウはその質問に「ハッ!」と鼻で笑う。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター、ハデスだってよ。あのお方には誰も敵わねえってよ。オメーらだってマスターハデスにとっちゃ虫ケラみてえなもんだってよ」

 

ザンクロウはにぃ、と邪悪な笑みを浮かべた。

 

「だから結局、オメーら全員悪魔の心臓(グリモアハート)に潰される運命だってよ―――――」

 

「『音竜騙し』!!」

 

彼の言葉をぶった切って気絶させた。

 

 

「そんな運命、逆らってなんぼでしょ。そのマスターハデスだって、私達がぶっ飛ばしてあげるから!!」

 

すでに白目を剥いているザンクロウに高らかに宣言する。

 

 

「…お前達、か…」

 

「おじいちゃん!?」

 

その時、マカロフが気が付いたようで薄っすらと目を開けた。

 

「ワシらを…見つけて…くれたのか…」

 

「大丈夫!?」

 

「アミ、ク…ウェンディ…ワシは、いい…ナツを、頼む…」

 

「何言ってんの!!おじいちゃんもナツも助けるよ!!」

 

「絶対、私達が何とかします!!」

 

アミクとウェンディが意気込んで言うと、マカロフは掠れる声で聞いてくる。

 

「ナツの、マフラーを…元に…戻せる、かね…? そのマフラーに染み付いている邪気が…ナツの治癒の邪魔をしておる、のじゃ…」

 

「やってみる!!」

 

アミクはナツの首からマフラーを外し、魔法を掛ける。ウェンディはナツに治癒魔法を掛け続けた。

 

 

「…そういえば、なんで黒くなってたの?」

 

アミクの視線がハッピーに向くと、ハッピーは「それが…」とナツにあった出来事を話し始めた。

 

曰く、黒髪の青年と出くわし一悶着、その時に彼から急に邪悪な波動が放たれ、ナツが巻き込まれた。その後、ナツは無事だったがマフラーが黒くなっていたと言う。

 

ハッピーが思うに、イグニールのマフラーがナツを守ったのではないか、ということ。

 

「…その人なら、私達も会ったよ」

 

ハッピーの言う特徴からしてゼレフであることは間違いないだろう。

 

「えー!!?大丈夫だったの!!?」

 

「普通に良い人だったけど…危険な力を持ってるとは言ってたけど」

 

「…まぁ、あーし達に何かしてこなかったのは本当、なの」

 

マーチが忌々しそうに言うと、ハッピーが「そ、そっか…」と反応に困ったように言った。

 

 

「その人、ゼレフさんって言うんだけど…さっき、このサイヤ人モドキの人も『ゼレフ』を探せ、みたいな事言ってたし、何か関係あるのかなぁ…」

 

「ゼレフ…そういえば言っていたな」

 

リリーが思い出すようにして言う。

 

 

「ゼレフ…あの大昔の黒魔導士!?」

 

「同じ名前なだけでしょ」

 

「だとしても、その名前を付けた人は悪趣味ね…」

 

シャルルが険しい目つきで言い放つ。

 

「何の目的でその人を探してるのかは分かんないけど…」

 

何か、不吉な予感がする。

 

「…あ!色が元に戻った!」

 

無事にマフラーが白に戻った。

 

それをナツの首に巻き直してあげる。あの黒いマフラーがなかったおかげか、ナツの傷も大分癒えている。

 

「…うん!やっぱりナツは白いマフラーが似合ってるよ」

 

アミクは満足げにナツを見下ろす。その途端、ナツが目を覚ました。

 

「じっちゃんは!!?」

 

そう叫びながらガバッと身を起こす。

 

「此処に居る」

 

「まだ何とも言えない状況だけどね…」

 

リリーとアミクがそう言うと、ナツは自分のマフラーが元に戻っている事に気付く。

 

「あれ!?マフラー…?」

 

「アミクが元に戻してくれたんだよ」

 

ハッピーの言葉にナツは嬉しそうにアミクを見る。

 

「ありがとな、アミク」

 

「…まぁ、大したことじゃないよ」

 

ナツの感謝に照れるアミク。

 

 

「…でぇきてるぅぅ~」

 

「出た、なの」

 

「…たまに聞くが、それは結局どういう意味なのだ?」

 

「知らなくていいわよ…」

 

エクシード隊が喋っていると、ナツとアミクが何かに反応したようにピクッとなる。

 

「この匂い…憶えてる」

 

「ガルナ島で会ったアイツだ!!」

 

そして、2人揃って鼻をスンスンし始めた。

 

 

「此処にあの人が居るってこと?」

 

「近ぇぞ!!」

 

「あ、ナツ!!」

 

ナツは匂いがする方向に走って行ってしまった。

 

「もう!1人で突っ走っちゃうんだから!!」

 

「待ってよ、ナツー!!」

 

 

アミクとハッピーもそれを追いかけて行ってしまった。

 

「マーチはウェンディ達と居て!!」

 

「そんなぁ…なの」

 

留守番宣告されたマーチはしょんぼりとなった。

 

 

 

「こっちの方だ!!アイツの匂い!!」

 

 

「足下気を付けてよー、ナツー!!」

 

 

アミクとナツ、そしてハッピーは匂いのする方向に向かっていた。

 

「まぁ、十中八九悪魔の心臓(グリモアハート)と関係があるだろうね、その人」

 

このタイミングで現れたということは、そう言う事だろう。

 

駆けていくナツを追いかけていると、急にナツがズッコけた。

 

「んがっ」

 

「ナツ!?」

 

 

足元にある大きな葉っぱを踏んで足を滑らせてしまったのだ。更に運の悪い事に、目の前は急な傾斜になっている。

 

尻もちをついたナツは葉っぱの上に乗って傾斜を滑り始めた。

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

「ああっ、ナツ―――!!」

 

アミクとハッピーも慌てて追いかける。ハッピーは普通に飛んで行ったが…。

 

 

「ぎゃぷっ!!?」

 

アミクはそのまま傾斜を駆け下り、案の定すっ転んでしまった。

 

ギャグのようにゴロゴロ転がり落ちる。

 

 

「おぷ」

 

一方、ナツは葉っぱのソリを乗り物認定してしまったのか酔ってしまっている。

 

 

滑るナツを追うように転がるアミク。それを上空から見ていたハッピーは「なんかソリ乗ってる人をアロマジロが追いかけてるみたい…」と思った。

 

 

そして。

 

 

「あびっ!」

 

やっと平らな地面に着いて葉っぱソリが止まり、地面に倒れ込むナツ。

 

「きゃん!!」

 

「ぐえっ」

 

その後ろからボーリングの如く激突してくるアミク。2人はもつれ合って転がった。近くの木にぶつかり、2人して目を回す。

 

「うえ、災難だぜ…」

 

そう言ってナツが身を起こすと――――。

 

 

むにゅん。

 

 

「お?」

 

手に柔らかくて弾力のある感触がしたので見下ろしてみた。

 

 

そこには、アミクの豊満な胸を鷲掴みにしているナツの手が!!

 

 

それに気付いたアミクは真っ赤になる。

 

 

「…」

 

気まずげな表情になったナツが、それでも「むにゅん、むにゅん」と揉んでいると。

 

 

 

「いつまで触ってんの!!?」

 

 

と、ナツ顔面に頭突き!

 

 

「いだぁ!!」と倒れ込むナツ。

 

 

 

「うぅ…まさかこんな典型的ラブコメみたいなシチュを体験しちゃうなんて…」

 

 

未だに顔の赤いアミクが立ちあがると、上の方からクスクス、と笑い声がして上を見上げた。

 

「あらあら、青いわねお二人さん」

 

そこには木の枝に腰を掛けている黒髪の女性が居た。

 

(…どこかで、見た事あるような…?)

 

その人物の容姿がアミクの記憶に引っかかった。

 

「ナツ、アミク!!地面!!」

 

その時、ハッピーが叫んだ。その瞬間、地面から大樹が生えてきてアミクとナツの目の前を遮ったのだ。

 

「あぶな!!」

 

「そこには小さな苗木があったのよ。『時のアーク』が苗木を未来へ導いた」

 

女性な艶めかしい声で言葉を紡ぐ。

 

「あなた達の未来はどこへ行くのかしら? ナツ・ドラグニル、アミク・ミュージオン」

 

やっぱり、この女性からあの匂いが漂っている。

 

「お前があの時の…間違いねえ、このニオイだ」

 

「ガルナ島でリオンを利用してた奴?」

 

ハッピーもひと目だけ見ただけだが、変な仮面を被った老人が居たことは覚えている。

 

「女装が趣味だったのか!」

 

「レベル高っ!!本当に女の人っぽい!!」

 

「こっちが本当の姿だけどね…」

 

ナツとアミクの不本意な認識にウルティアは冷や汗を流した。

 

「…というか、この姿で貴方と会うのは2回目のはずだけど…」

 

「え…?」

 

ウルティアが意味ありげにアミクの方を見た。やっぱり、デジャヴを感じるのは気のせいではなかったのか。

 

 

「…あああ――――!!!」

 

しばらく考え込んでいたアミクが大声を出す。

 

「やっと思い出した!!評議会で会った女の人!!」

 

「なんだ?知り合いなのか?」

 

以前、エルザの逮捕騒ぎの後、アミクが当時評議員だったジェラールに呼ばれた時。

 

ジェラールの部屋から退室しようとした時にこの女の人と出くわしていたのだった。そういえば、あの時も水晶玉を持っていた。今、彼女が持っている物と同じものを。

 

「思い出したみたいね。私は悪魔の心臓(グリモアハート)七眷属の長、ウルティア・ミルコビッチ」

 

「ウルティアって…!!元評議員の…」

 

ジェラールと共に評議院を裏切ったという人物だったはずだ。

 

「そっか。評議員だったならあの場に居たことも納得できるね」

 

「ガルナ島で貴方と会った時はちょーっと焦ったわ。まさか、貴方が来るとは思ってもいなかったし変装していなかったら危なかったわね」

 

あの時、ウルティアの正体にもっと早く気付いていれば…。

 

「…あ!!ゼレフさん!!」

 

アミクは気に寄りかかって気絶しているゼレフに気付く。

 

「あいつ…」

 

ナツはそんなゼレフを険しい顔で見た。ウルティアはアミク達を見下ろして聞いてくる。

 

「まさかあなた達もゼレフを狙ってる訳?」

 

「そういうわけじゃないけど…逆に、なんで貴方達はゼレフさんを狙ってるの!?」

 

どうせロクな目的ではないだろうが。

 

「さあねぇ」

 

すっとぼけたウルティアはすっと木の上で立ち上がる。

 

 

「何にしろ、渡さないけどね。ゼレフは私のものよ」

 

 

「いらねえよ!!仲間をキズつけやがって!!オレはお前らを許さねえぞ!!!」

 

「あの時みたいにぶん殴ってあげる!!」

 

 

ナツとアミクがウルティアを睨んだ。

 

「そう?だったら私も、あの時のお返しをしないとね。今度は本気でね」

 

彼女は掌で水晶玉を浮かせた。

 

「邪魔さえ入んなきゃオレは…今頃S級魔導士になってたんだー!!」

 

「いや、そうとは限んないでしょ…」

 

大層な自信である。ナツは叫んでからウルティアに向かって走り出した。木を駆け上って彼女の元を目指す。

 

「けど、試験の邪魔をしてくれたのは本当だしね。S級魔導士になりたかったのは私も一緒」

 

アミクも木の下で身構えた。

 

「それがあなた達の未来?」

 

ウルティアはそう言って駆け上って来るナツに水晶玉を放った。

 

その途端、木から離れ水晶玉を躱すナツ。しかし、急に水晶玉が分裂してナツを囲んだ。

 

「ナツ!!」

 

「放たれた水晶の別の可能性の未来、平行世界。私は未来を無限に創造し、収縮させる。たった1つの未来へ向けて」

 

そして、分裂した水晶玉が一気にナツへ襲いかかった。

 

「フラッシュフォワード!!」

 

「うあああああ!!!」

 

「ナツ――――!!!」

 

ハッピーが叫ぶ中、アミクは地面を蹴り、木の枝を蹴っていってウルティアの所にまで飛び上がる。

そして、ウルティアの目の前で拳を振り上げた。

 

「『音竜の―――』ぐっ!!?」

 

しかし、アミクの後頭部に水晶玉が突き刺さった。

 

 

「あの時の私と同じだと思わない方がいいわよ」

 

 

2人して地面に落下するアミクとナツ。冷笑を浮かべたウルティアは更に言い放った。

 

 

「まだまだこれからよ、楽しくなるのは」

 

 

 




アミクはこれから大分忙しくなります。

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