一次試験でウェンディ達と戦った際、アミクのブレスの威力が急に上がった時があった。
あの時は原因が分からなかったが…思い当たるのはウェンディのブレスを誤って食べてしまったことくらいだ。
その直後に放ったブレスに変化があったので、もしかして、と思い賭けに出たのだが…。
アミクは賭けに勝った。それどころか、パワーアップした状態を維持できるという望外な結果まで得られた。
(なんだか不思議な気分)
『音』ではない属性を身に纏っているのは新鮮な気持ちになる。
魔力もさっきまでとは桁違いに上がっている。これなら、あの男とも渡り合えるかもしれない。
「天音竜、か。いいじゃんこれ」
ビュオオオオ、と掌から小さな竜巻を発生させてみた。そよ風が体に当たって気持ちいい。
「…皆、ちょっと此処から離れてて」
「え?」
「何言ってんだ!!オレも戦うぞ!!」
ナツ達は加勢する気満々だったが、アミクの言葉に唖然となる。
「この状態は初めてだし、ちょっと暴れるから、ね」
本音を言えば自分を置いて先に行け、と言いたいところだが、彼らはそれをよしとはしないだろう。
だから、さっさとけりを付ける。この状態も魔力消費が激しくて長くは続かない。
「おい!!お前だけ戦うなんてズリィぞ!!」
「…ナツ、ここはアミクの言う通りにしましょ」
「はーなーせー!!」
「―――後は頼んだよ!」
重力操作から解放されたナツがルーシィに引きずられてカナと共にその場から離れた。ウェンディ達も同様に少し離れる。
「アミク、頑張って、なの!!」
マーチの言葉に軽く親指を立てると、アミクはブルーノートに向き合った。
「―――興味深いな」
ブルーノートが顎に手を当てて口を開く。
「おめえ、あの『
思い出すように言ったブルーノートはどこか思案げだ。
「それがこんなこともできるとはな。少しは楽しめそうだ」
そして、おもむろに掌をこっちに向けてきた。
「―――!!」
そこから放たれる重力波。
しかし、アミクは俊敏にそれを避けた。
「速い!?」
見ていたウェンディが驚きの声を上げる。
(風と音の速さ!使える!)
アミクはそのスピードのままブルーノートに攻撃を加えた。
「てやあ!!」
「ぬっ!」
強烈なパンチを繰り出すと、ブルーノートは片腕でそれを受け止めた。しかし、威力が強かったのか後ろに仰け反ってしまう。
アミクはすかさず回し蹴り。それも、ブルーノートのもう片方の腕で止められた。
「…っあ!!」
ただ、アミクはその腕ごとブルーノートを蹴り抜いた。
「ぐおっ!?」
ぶっ飛んで倒れるブルーノート。
「す、すごい!!」
「私たちが手も足も出なかった相手を…」
「あんな軽々と、ね…」
ルーシィ達はその様子を見て歓喜の声をあげる。
(ここまで強くなるものなのか!?
ブルーノートも愕然としながら起き上がる。先程まで自分の魔法によって潰されていた少女と同一人物とは思えない。
「それっ!!」
立ち上がった瞬間に急接近して来たアミクが膝蹴りを顔面に打ち込んだ。
「くっ…!」
咄嗟にバク宙をしてできるだけ衝撃を受け流す。しかし、アミクはそこに追い討ちをかけていった。
「はぁっ!!」
まず、お腹にパンチを入れて、衝撃波でブルーノートをぶっ飛ばす。直後、竜巻が発生して彼を巻き込んで噴き上げた。
『音』による攻撃からの、『天空』の追撃。
「ぐああああ!!!?」
上空に打ち上げられるブルーノート。まだ終わりにするつもりはない。
「跳んだ!!?」
「高っ!!」
思いっきりジャンプしてブルーノートを追う。
「…おおおお!!!」
だが、ブルーノートもやられっ放しではない。空中で体勢を整えると、手の平をアミクに向けて、重力波で吹き飛ばそうとした。
しかし…。
ガシュッ!!
(打ち破った!!?)
重力波を打ち破って、ブルーノートの真上まで来たアミク。
そして、思いっきり大回転をし始めた。アミクを中心に竜巻が巻き起こる。その状態のまま、ブルーノートに落下する。
風を纏って回転しまくった勢いを殺さずに蹴りをブルーノートの腹に叩きつけた。
「『天音竜の
「ぐがあああああああ!!!」
ブルーノートは蹴り抜かれ、衝撃波が発生した。彼は隕石のように地面に叩きつけられる。
「ぐ、ほぉ!!?」
彼はお腹を押さえて悶絶する。大分ダメージになったらしい。
そろそろアミクも限界だ。次で決める。
アミクは地面に着地すると、息を大きく吸い込んだ。
口の中に音と風が溜まっていく。
そして―――――
「『天音竜の――――咆哮』!!!」
『音』を竜巻が包んでいるような形で、口から放出された。
そのブレスは地面を削りながら突き進み、ブルーノートを呑み込んだ。それだけでなく周囲の木々も薙ぎ倒し、地面に埋まっていた岩を引っくり返す。
「きゃあああ!!?」
「おわあああ!!?」
ナツやルーシィ達も余波で吹き飛んでしまう。
ブレスは向こう側へ突き抜けていった。
それが収まると、そこには大きな溝になっている地面と、環境破壊にあったような惨状が姿を現した。
そして、地面にはボロボロになって地面に倒れているブルーノートの姿があった。
「やったー!!倒したー!!」
「あんなに強かった奴を一方的に…!」
「クソー!!オレも戦いたかったー!!」
ハッピー達が喜んでいると、アミクがパタリ、と倒れた。
「アミク!!」
マーチ達が慌ててアミクの名前を呼ぶと、アミクが仰向けに倒れながらにへら、と笑っていた。
「魔力がもうすっからかんだよ…」
あっという間に魔力を消費してしまった。やっぱりハイリスクハイリターンである。
「…あの、体が動かないんだけど…誰か助けて?」
雨の音を食べて回復を図っているが、急激に魔力を消費してしまったので力が入らない。
「しょうがねーな」
ナツが助けに行こうとしたその時。
「…飛べた、な」
低い声が響いた。
皆してバッと倒れている男の方を向く。
ブルーノートが目をガン開いていた。
「本当に飛ばしてくれるとは、な。とんだ小娘だ」
彼はのっそりと立ち上がった。血だらけで、満身創痍だがまだ動けるようだ。
「う…そ…」
アミクは愕然とした。アレで倒しきれなかったのか。
「オレは
非常にまずい状況だ。アミクは動けないし、ナツ達もブルーノートに対して有効な手段がない。
「落ちろ」
「ぐうううっ!!!?」
ブルーノートが手をかざすと、アミクの骨が悲鳴を上げながら、身体が地面に沈む。
「アミ…がっ!!」
ナツが咄嗟に駆け出そうとするも、ナツやルーシィ達も重力に押し潰されてしまった。
「今日はよく飛べた。気分がいい。苦しませずに地獄に落としてやる」
(や、やばい…!!)
今日、何度目かのピンチ。そろそろ命の危機感に対する感覚が麻痺してきてもいい頃だが、このピリつくような感覚が冷めることはない。
ブルーノートの腕が振り上げられる。その腕に魔力が凝縮されていくのを感じる。アミクはそれを見ていることしかできなかった。
「やめてええええええ!!!」
カナの絶叫と共に腕が振り下ろされたーーーーー直後。
アミクとブルーノートの間に1人の男が割って入った。
そして、ブルーノートを吹き飛ばした。
アミク達は呆然と間に入った男を見つめ、ブルーノートは自分の邪魔をした奴を睨みつける。
だが、その男も憤怒の表情でブルーノートを睨みつけていた。
その男は。
「ギルダーツ!!?」
「ギルダーツだぁ!!!」
(お父…さん…)
カナは助けにきてくれたギルダーツを見て、そっと涙ぐんだ。
「ギ、ギルダーツ…遅いよ…」
「悪い」
アミクは安堵したのかへにゃっ、と体から力が抜ける。
「コイツがギルダーツ!!?」
ブルーノートが目を見開く。ギルダーツは闇ギルドの間でも有名なのだろう。
「此処を離れろ」
ギルダーツが静かに言った。味方であるこちらも背筋が震えそうな声だった。
ギルダーツとブルーノートは互いに睨み合いながら魔力を高める。
(あんなに怒ってるギルダーツは初めて見る…)
怒りに満ちているギルダールの瞳。これは、自分達のために怒っているのだと分かった。
「行け!!」
ギルダーツは鋭い声と共に飛び出した。ブルーノートは冷静にギルダーツに手をかざした。すると…。
「引っくり返った!!?」
ギルダーツの足元の地面が反転した重力によって捲れ上がったのだ。しかし、ギルダーツはそれを物ともせずに魔法『クラッシュ』を使って引っくり返った地面を粉々にする。
そして、どちらも拳を構え、互いに突撃していく。
ドゴォォオオオオオオ!!!
両者の拳が激突した。
その衝撃で木も岩も吹き飛ぶ。奇しくも、先ほどのアミクの攻撃の余波の再現のようだった。
「わー!!」
「なのー!!?」
吹き飛んだのはアミク達も同様だった。動けないアミクをギリギリでキャッチするナツ。
「す、凄い…」
「さっきのアミクみたいだね…」
「って言うか、まだあんな力残ってるの!?」
満身創痍にしてはとんでもないパワーな気がするが。
だが、吹っ飛ばされたのはブルーノートだった。
「うおおおお!!?押し負けた!!?このオレが!!?」
(あの小娘の与えたダメージが深いのか…!!)
もっと万全な状態だったなら、こんな簡単にやられなかっただろう。
しかし、アミクの攻撃を喰らってブルーノートは手負いの状態だった。
忌々しそうに睨んでくるブルーノートには気付かず、アミクはナツの背中に寄りかかった。
「ね、ねえ。ギルダーツのいう通り、ここから離れたほうがいいと思うんだけど…」
自分の時とは状況が違う。
ギルダーツならば、此処を任せても大丈夫だ、と思えるほどの実力があるのだ。
「で、でも…」
「…行こう。私達が居たら、ギルダーツの邪魔になる」
カナが想いを振り切るように言った。カナも自分の父が心配でないはずがないが、彼を信じているのだろう。
事情を知っているアミクとルーシィ、マーチは気遣わしげな表情になった。
「強ェーーー!! オレこのケンカ見てーーーー!!」
「ダメダメ!!ほら、早く行く!!ルーシィ、おじいちゃんをお願い」
「分かった!」
ナツがアミクを背負うので、マカロフをルーシィに任せる。
そして、その場に留まりたがっているナツの髪の毛を引っ張ってキャンプへと向かうのだった。
(…必ず、無事な姿をカナに見せてよ!!ギルダーツ!!)
アミクは心の中でギルダーツを激励したのだった。
●
異変が起こったのはキャンプに向かっている途中だった。
「いやー、この雨が良い音出してる。もぐもぐ」
ナツの背に乗りながら魔力と体力を回復していくアミク。
「おい、キャンプにはまだ着かねえのか!」
「あともうちょっとだと思うんだけど…」
この道を真っ直ぐ行けばもうすぐ着くはずだ。そう思っていると。
轟音が鳴り響いた。
「ラッキー!!パクッ…!!じゃなくて!!何今の!?」
アミクが振り向くと―――――
「――――え?」
天狼島を象徴するとも言える、島ほどの大きさのある樹。天狼樹が半ばほどから折れ、倒れ始めたのだ。
「何アレぇ!!?」
ビックリ仰天ものである。アミク達は慌ててその場から走る。
「シャルル、マーチ、急いでー!!」
「マーチならとっくに前よ」
「あれー!?」
巻き込まれないように離れようとした時―――。
「――ちょ、きゃっ!!?」
アミクは唐突に投げ出された。ぬかるんだ地面にべちゃっと落下し、せっかく着替えた服が汚れてしまう。
「ナ、ナツ!急に投げ飛ばさないで―――」
アミクは起き上がろうとするが、体に力が入らない。まだ回復していないのか。
いや、何かがおかしい。
此処までずっとナツに背負われて来たのだ。多少動けるくらいには回復しているはずだ。それどころか、だんだん気だるくなっている感じがする。
「う、ううぅ…!」
力を振り絞って周りを見て見ると、その現象は自分だけでなくウェンディやナツ達も皆まともに動けないようだった。
「これって、もしかして…魔力が、抜けてる…?」
魔力欠乏症にも似た感覚。体から魔力が勝手に抜けている。
「はぁっ…はぁっ…!!」
頭に靄がかかったようになり、意識が霞む。
「やべぇぞ、じっちゃんの息が浅くなってる…くそ、どうなっちまってんだ。他の皆は無事なのかよ…」
近くに倒れたマカロフを見ながら、ナツが呟く。
「こんな、所で、倒れている場合じゃ、ないのに…」
アミクは音を食べて魔力を回復しようとするが、回復した先から魔力が抜けていった。
(ダメ…)
「這ってでも、行かなきゃ…!」
アミクはマカロフの体を抱き寄せると、ズリズリ、と身体を引きずって前に進もうとする。しかし、亀の如きの進行だ。
「アミ、ク…」
ルーシィが掠れた声でアミクの名を呼んだ。
魔力が失われ、死屍累々と倒れている
●
一方、この現象を引き起こした張本人であるアズマと戦闘をしていたエルザ。
彼女はアズマの特大の魔法を喰らってしまった。意識が暗くなり、諦めかけたその時。
『諦めんのか?エルザ』
『らしくないね。エルザならやれるよ!』
急に、目の前にナツとアミクの姿が現れる。
ナツやアミクだけではない。
ルーシィ、グレイ、ハッピー、マーチ、ウェンディ、シャルル、マカロフ――――
(皆…)
それを見て、エルザは気付いた。
(そうか…そう言う事か…すまない…私としたことが、肝心な事を忘れていたようだな)
これは自分を助けるための彼らの思念か、あるいは自分が生み出した幻想なのか。
どうだっていい。
「うおおおおおおおおおお!!!」
エルザが体勢を整えてアズマに向かって飛び込んでいった。両手に一振りの刀を握りしめて。
「な…こ…これは…」
そしてアズマは驚愕した。エルザの後ろにはアミク達
(私が皆を守っていたのではない。いつだって守られていたのは私の方だ)
(オレの支配下にあるハズの天狼島の魔力が、エルザを加護した…だと?)
互いに別々なことを考えるエルザとアズマ。そして。
(信念…絆…こいつらの本当の強さは『個』ではなく『和』…なんてギルドだ)
「…見事」
満足そうに笑ったアズマがそう言った途端。
エルザの刀がアズマをぶった斬った。
●
倒れていた天狼樹が光り出す。そして。
「あ!戻って来た!!」
アミクはピョン、と立ち上がった。
「力が戻って来たぞ!!」
「アミクはもう動ける?」
「元気元気!なんか調子がいいくらい!」
アミクはその場で屈伸して見せた。
「でも、なんだった、の?あの樹が倒れた途端、魔力が無くなっていった、の」
「何か関係があるのかもね」
アミクは痛ましげに半ばから折れてしまった大樹を見た。
「今はキャンプに行くのが先決よ。急ぎましょう」
「そうだね。さっき休んでいたからおじいちゃんは私が背負うよ」
「無理すんなって!」
ナツがそう言ってマカロフを背負った。
「このままキャンプまで向かうぞ!!」
「皆!!もうすぐだよ!!」
アミク達はキャンプへと急いで駆けて行ったのだった。
勉強しないと…。