妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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グレイとウルティアの戦闘は原作と同じなんで簡潔にしたいと思います。

ちょっと原作改変ポイントもあるからね。




ウルの涙

キャンプで休んでいたアミクはよっこらせと立ち上がった。

 

 

「ちょっとお花摘みに行ってくる」

 

「花摘みぃ?何でそんなもんやるんだよ」

 

ナツが首を傾げて聞くが、それをルーシィが窘めた。

 

 

「もう!察しなさい!デリカシーがないわね!」

 

「え?えぇ…?」

 

「じゃ、行ってくるねー」

 

「あ、あーしも行く、の」

 

ナツが困惑している間にアミクとマーチはさっさと去ってしまった。

 

 

 

キャンプから離れ、川に沿って森の中に入ってからしばらく。

 

「…それで、アミク。誰か見つけたんでしょ?なの」

 

マーチが聞くと、アミクは罰が悪そうな表情になった。

 

「あちゃ、やっぱバレてたか」

 

「ツインテールをピンッて立たせてたからすぐに分かった、の」

 

「ツインテールで!?」

 

センサーかよ。

 

そう、アミクは何者かが近付いて来る音を感知して様子を見に来たのだ。微かにする匂いからして仲間でないことは確認済みだ。

 

「あと、顔も」

 

「顔…ね」

 

まぁ、長年の付き合いで見抜けたということなのだろう。

 

そうして、息をひそめながら歩いていると。

 

「ほら、居た居た――――あの紋章、やっぱり悪魔の心臓(グリモアハート)。マーチいける?」

 

「魔力は十分、なの」

 

アミク達は草むらの陰からお目当ての人物達を見つけた。悪魔の心臓(グリモアハート)の紋章があるので敵で間違いなし。彼らは丁度キャンプの方向に向かっていたようだ。

 

「こんにちは。どこに向かってるのかな?」

 

アミクはあえてにっこりと笑いながら彼らの前に出る。

 

「ぬっ!?」

 

「ペぺ!?」

 

 

突然現れたアミクに驚く二人組。

 

1人は犬を人型にしたような人物で、鎧や兜といった戦国武将のような身なりをしている。

 

もう1人は鶏を人型にしたような風貌だった。

 

「貴様、妖精の1人か!こいつは丁度いい」

 

「ノコノコとオレ達の前に現れやがってペロン!!」

 

彼らは既にボロボロではあったが、元気そうだ。彼らはアミクを睨みつけて身構える。

 

「お前達の拠点を探していたところだが…貴様を痛めつけて吐かせばいいものよ」

 

「あ、そう。私達の拠点はあっちにあるよ」

 

アミクはツインテールであらぬ方向を指し示した。

 

「おおっ、かたじけない…ってなるか!!」

 

犬のような顔の男、ヨマズは振り返りかけた体を戻した。

 

「ダメだったかー…」

 

「ペペロン!バカにするのも大概にしろペロ!」

 

鶏の風貌の男、カワズが口を開いて何かを射出する。

 

「わー!!卵だー♡!!」

 

アミクが嬉しい悲鳴を上げた。

 

彼が射出したのは無数の卵。それはアミクに向かってくる途中、割れて中身が飛び出た。そして、その白身と黄身が拳の形となる。

 

 

「『エッグバスター』!」

 

「わわっ!?」

 

アミクは慌ててそれを避ける。卵は好きだが痛いのは嫌だ。

 

「なんて危ない卵なの…卵を粗末にする人は許さない!」

 

「ぺぺぺ!小娘1人がオレ達に勝てるかペロン!」

 

アミクとカワズが互いに睨み合っていると、マーチがカワズの後頭部に飛び蹴りを入れた。

 

「ぺぺ!?なんだ、もう1人…いや、もう1匹居たのかペロ!」

 

「猫1匹増えたところで、同じ事!」

 

マーチは彼女を舐めた発言をする彼らを一瞥すると、身体を光らせた。

 

「え!?まさか!」

 

「何だ!?」「ぺぺ!!」

 

アミク達が目を見張る中で、マーチは人型に変身した。

 

「あ、良かった。今度はちゃんと服着てる」

 

「グレイじゃあるまいし、そんな何度も失敗しない、の!」

 

猫耳猫尻尾の付いた美少女に変身したマーチに、ヨマズ達はあんぐりと口を開けて驚いていた。

 

「あーしはネコでも、ただのネコじゃない、の」

 

マーチの両手から爪が伸びる。

 

「人間に変身できて飛べもする、優秀なネコ、なの」

 

「自分で言っちゃうんだ…まぁ、確かに優秀だけどさ」

 

アミクはニヤリと笑って2人を見る。

 

「これで2対2だね」

 

「ふん…たかが小娘2人で何ができる!」

 

そう言ってヨマズは空中に文字を書く。

 

『轟』という文字だ。

 

その瞬間。

 

 

その文字から轟音が周囲に鳴り響く。

 

「う、うるさっ!なの!」

 

「『固体文字(ソリッドスクリプト)』!?レビィと同じ…けど、あれは東洋の文字だね」

 

マーチは耳を押えるが、アミクは平然としている。

 

こんなに轟音を鳴らすのは、音で周囲の状況を分かりにくくする為だろう。だが。

 

 

「私には逆効果!いただきます!」

 

アミクは轟音を食べ始めた。文字から鳴り響く轟音がアミクの口に吸い込まれていく。

 

「おい!魔法、ちゃんと発動してるのかペロン!!」

 

「ど、どいうことだ…!?」

 

2人も困惑している。文字があるのに轟音が途切れ途切れになっているので疑問に思ったのだろう。

 

「それも頂戴!」

 

「うおっ!?」

 

さらに、アミクは『轟』の文字に飛び付き、喰らい付いた。その文字をムシャムシャと貪る。

 

「食べてるペロン!?」

 

「此奴…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)か!」

 

彼らは妖精の尻尾(フェアリーテイル)音竜(うたひめ)なる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が居たことを思い出した。

 

「…んー!三ツ星ものだね!和風な感じがまた堪らない…」

 

「食レポみたいなことするな、なの」

 

アミクは文字を食べ尽くすと、口を拭って「ごちそうさま」と呟いた。

 

「さて、と…貴方達、あのサイヤ人みたいな人知ってるでしょ?」

 

「サ、サイヤ人…?」

 

※ザンクロウのことです。

 

「あの人が炎を食べてパワーアップするのも知ってるよね?私も同じ…」

 

アミクは両手に音を纏わせた。

 

「食べたら力が湧いてきた!!」

 

彼女はヨマズの方に突っ込んで行った。さらに。

 

「『攻撃力強歌(アリア)』!!」

 

付与術(エンチャント)で強化。

 

「くっ…拙者は悪魔の心臓(グリモアハート)なり!!二度も無様に負けるわけにはいかん!?『貫』っ!!」

 

ヨマズは『貫』という文字を書いて、アミクに射出するが…。

 

アミクは軽く体を捻って躱す。

 

「『音竜の』…」

 

硬直するヨマズに両腕を振るった。

 

「ぼ、『防』!!」

 

「『輪舞曲(ロンド)』!!」

 

「ぐほおおっ!!!?」

 

威力の上がったアミクの一撃は、ヨマズが張った『防』の文字を破壊し、彼はぶっ飛ばされあっさり昏倒する。

 

「マ、マジペロ!!?」

 

「あーしも負けてらんない、の!!」

 

マーチは爪を振るってカワズを攻撃する。

 

「ペロン!?」

 

カワズは慌てて避けると、上空に向かって大量の卵を打ち上げた。

 

 

「『ヘビーエッグレイン』!!」

 

そして、卵が上空から勢いよく降って来る。

 

「ぺぺぺ、卵の餌食になっちゃいなペロン!!」

 

カワズが高笑いをあげる。が…。

 

「にゃにゃにゃにゃにゃ!!」

 

マーチは自分に当たりそうな卵を全て斬り裂いた。

 

 

「…ペロン?」

 

目を見開いて鼻水を垂らしたカワズに。

 

「『イエローカイロス』!!」

 

「ぺぺェー!!!」

 

マーチはクロス斬りをしてカワズをぶっ倒した。

 

「余裕、余裕!」

 

アミクは軽くストッレチをすると、ネコ型に戻ったマーチを抱き上げた。

 

「マーチもお疲れ。快勝だったじゃん」

 

「見せ場ができてあーしは満足、なの」

 

「見せ場って…」

 

アミクは苦笑いをした。

 

「いい準備運動にもなったし、そろそろ帰ろっか。思わぬご馳走もいただけたしね」

 

「それはアミクだけ、なの」

 

こうしてアミクとマーチは人知れずキャンプを害しそうな敵を排除したのだった。

 

 

 

 

所変わって、グレイとウルティアは互いに身構えていた。

 

「それとね…あなたは1つ大きな誤解をしている。私は煉獄の七眷属が長。あなたごときが抗える……相手じゃ」

 

ウルティアが言い終える前に、グレイが氷を纏って殴り飛ばした。

 

「ガッ!!?」

 

『ウルティア…!』

 

ウルが思わず声を上げる。

 

「ウルティア!!」

 

メルディもウルティアの名を呼ぶと、それには反応する。

 

「私の事はいい!!早くゼレフを連れて『脱出地点』へ!!」

 

「う…うん」

 

 

ウルティアの指示を聞いたメルディはゼレフを連れてその場から走り去ろうとする。

 

「ジュビア!! 目を覚ませ!!」

 

「グレイ様の声♡」

 

『凄い耳してるな』

 

グレイの声に跳ね起きるジュビア。

 

 

「ジュビア…グレイ様の声で目が覚めるなんて…此処…どこの朝焼けのシーツの中?」

 

『都合のいい妄想だな』

 

「いいからあいつを追え!! ゼレフを渡すな!!」

 

「はい♡」

 

ジュビアは元気よく返事をして走ろうとするが…。

 

「っ!!?」

 

足に激痛が走って膝を付いてしまった。彼女の足は先ほどの戦闘でボロボロだ。これでは歩けない。

 

「ジュビア!!」

 

グレイが心配して呼びかけると。

 

「ええ!! 分かってます!! グレイ様の命令とあらば、痛みなんてどこの空~♡」

 

ジュビアはグリン!!と顔をメルディに向けると、カサカサカサカサと手と腕を全力で使って地面を這いながら彼女を追いかけた。

 

「ひいいいいいいい!!!?」

 

もはやホラーなジュビアにビビって逃げ足になるメルディ。2人はそのままその場から消えていった。

 

『…ゴキブリ?』

 

ウルはジュビアの姿から連想してそんなことを呟いてしまった。

 

「頼んだぞジュビア」

 

そんなジュビアを見送りながら呟いたグレイは。

 

「ぐおっ!」

 

隙をついて放ってきたウルティアの蹴りを喰らってしまったのだった。

 

 

 

 

それからの2人の戦いは壮絶の一言だった。

 

ウルティアは水晶玉を使いこなしてグレイに攻撃するが、グレイの方は氷の造形魔法を使おうとするとウルティアの『時のアーク』で時間を進まされたり、戻されたりして、氷が無くなってしまう。

 

「氷の魔法が効かねえ…のか?」

 

「当たり前でしょ? 時のアークは…造形魔導士を、母を殺す為に修得した魔法ですもの」

 

『なっ…!?』

 

ウルティアの言葉を聞いてウルは頭が真っ白になった。

 

「ウルを…殺すだと!!?」

 

グレイも目を見開いて驚いている。

 

「ずっと憎んできたの」

 

会話をしながらも、2人の戦いは続く。

 

(私を…憎んでいた…?)

 

ウルは娘の気持ちを知って愕然となった。

 

 

しかし、自分が憎まれても仕方ない、と認めている部分があった。

 

 

ウルはウルティアが施設に預けられた後、何があったのかは知らない。だが、人を騙して娘を奪う連中なのだ。

 

きっとウルティアもまともな待遇をされたわけではなかったのだと思う。

 

彼女があんな性格になったのも、辛い目にも沢山遭ってきたからなのではないか。

 

なのに。

 

自分は娘が生きていることも娘が受けている仕打ちも知らずにのうのうと生きてきたのだ。

 

幼い娘には母親が必要だったのに、自分は親としての義務すら果たせなかった。

 

「ウルは…お前を想っていた!!」

 

「だから?」

 

グレイの言葉に無感動に返すウルティア。

 

しかし、ウルはグレイの言葉を聞いて沈んでいた気持ちを少し上昇させた。

 

そう、その想いは変わらない。死んだと思っていた当時でも、生きていると知った今でも、ウルティアを愛している気持ちは変わらない。グレイやリオンが居た時にも、かつてウルティアが着ていた服を抱き締めては涙していたものだ。

 

「悲しいんだよ、もう伝えられない事が」

 

そうだ。アミクのように言葉が聞こえているのなら、何度でも伝えたい。

 

否、たとえ聞こえなくとも伝えたい。

 

グレイは造形魔法を使わずに肉弾戦でウルティアに挑み始めた。

 

しかし、それも難なくウルティアに対処される。

 

「氷が防がれたら肉弾戦?」

 

ウルティアが薄く笑うと、岩壁に叩きつけられたグレイがのっそりと立ち上がる。

 

「氷で倒してやるよ。ウルの魔法でお前を倒す」

 

「私の魔法『時のアーク』は物質の時間を操れる。氷は未来へ行けば蒸発、過去に行けば水となる」

 

相性は最悪と言ってもいいだろう。しかし、グレイは毅然と言い放った。

 

「オレはウルの造形魔法を信じる」

 

それに対しウルティアは憎しみを込めて言葉を放つ。

 

「氷では私に勝てない。造形魔法なんて何の役にも立ちはしない!!」

 

娘と弟子がぶつかり合っているのを見て、ウルは寂寥感を感じた。

 

どちらも大切な者だ。そんな彼らが敵対し、傷つけ合う姿は歯痒く感じる。

 

その時、グレイは何を思ったか氷の刃を造り出すと…。

 

自分の脇腹を斬り裂いた。

 

「え?」

 

『グ、グレイ!?』

 

零れ落ちる血も気にせずに、グレイはウルティアを見据えて告げた。

 

「お前の…闇は…オレが…封じよう」

 

『…!』

 

デリオラに『絶対氷結(アイスドシェル)』を使う時に、ウルが言った言葉だ。

 

(そうか…お前は…)

 

 

ーーーウルティアを救おうとしているのだなーーーー

 

 

グレイが赤く染まった氷の刃を振るい、ウルティアを斬り裂いた。

 

ウルティアは時を動かせて氷を消そうとするが、それが不可能になっている。

 

「どうなってるの!!?」

 

「確か、生きているものは時を動かせねえハズ!!」

 

『そうか!だから自分の血を凍らせて、生きている自分の一部としたのか!』

 

グレイがウルティアに向かって氷の刃を何度も振った。

 

「『氷刃・七連舞』!!」

 

ウルティアは地面に叩きつけられ、大ダメージを負った様だが…。

 

(負けられない!!大魔法世界に行くまでは!!)

 

ウルティアにも諦められない理由がある。彼女は地面を踏みしめると、ある構えをした。

 

『!!あれは!!』

 

「その構え…!」

 

グレイとウルはその構えに見覚えがあった。

 

掌に拳を置いたウルティアから、冷気が漂う。そして

 

「アイスメイク!!『薔薇の王冠(ローゼンクローネ)』!!」

 

「うああああああああ!!!」

 

『私の…魔法!!?』

 

そう、それはかつてウルが使用していた氷の造形魔法。

 

『氷の造形魔法も使えたのか…!!』

 

こんな時にだが、彼女は確かに自分の血を引いているのだ、と嬉しくなる。

 

グレイは吹き飛ばされ地面に倒れたが、懐かしげに言う。

 

「もう…一度、見れるとは思ってなかった…ウルの魔法を…」

 

何度も見せてあげた、ウルの魔法。これを見る度にグレイ達の目は輝いていたものだ。

 

「そりゃそうだよな、同じ血が流れてんだもんな」

 

「黙れぇ!!」

 

ウルティアはグレイを睨み付けると再び氷を生み出し、グレイを吹き飛ばす。

 

「この…!」

 

だがグレイは体勢を立て直し、その氷を踏んでウルティアへと向かった。

 

「何!?」

 

そして、ウルティアに飛びかかり2人して地面を転がって行く。

 

「何でこんな事になっちまったんだよ!!お前は!!!」

 

「うるさい!!お前になど分かるものかーーー!!!」

 

気持ちをぶつけ合うように叫ぶ2人。

 

(ウルティア…)

 

ウルは必死な形相のウルティアに秘められた想いがあることに気付く。

 

転がっていく2人の行く先には崖。そしてその下には海。

 

『グレイ!!ウルティア!!落ちるよ!!』

 

ウルが警告するも聞こえずに2人は海へと落ちて行った。

 

 

 

海の中でも睨み合う2人。

 

 

だが、ウルは妙な開放感を味わっていた。

 

 

(なんだ…この気持ちは…)

 

 

まるで自分が海と一つになったような、そんな感じ。

 

『いや…そうか』

 

ガルナ島で氷となっていた自分の大部分が溶けて海と混じった。

 

だから、その自分とネックレスの自分が反応しているのかもしれない。

 

ウルはウルティアの方に意識を向ける。そして、存在しないはずの両腕を彼女に伸ばし、抱き締めるようなイメージをした。

 

なぜか、本当に海となった自分がウルティアを抱き締めているような気がした。

 

(何…これ…暖かい…!?)

 

その感触はウルティアも感じていた。

 

切なく、懐かしいような気持ちが、ウルティアの中に湧き上がっていく。

 

 

そして。

 

 

ウルはウルティアの記憶を見た。

 

 

 

『!!』

 

 

それは海の自分が読み取ったのか、あるいはウルティアが自分の娘だからなのか。

 

 

彼女の記憶が自分に流れ込んで来たのだ。

 

 

 

 

彼女がウルに捨てられたと思っていること。

 

施設ーーー魔法開発局で魔力の増幅の実験体にさせられて身も心もボロボロになっていたこと。

 

そして、ある日。なんとか逃げだせたウルティアが自分に会いに来ていたこと。

 

そこで、リオンやグレイ達と楽しそうに過ごす自分を見て憎しみを抱いたこと。

 

自分から魔法開発局に戻り、進んで実験体となっていたこと。

 

魔力を手に入れ、自分に復讐しようとしていたこと。

 

そして、ゼレフの存在とそれを追う闇ギルドを知り、悪魔の心臓(グリモアハート)に加入したこと。

 

全ての魔法が自由になり、失った幸せを取り戻せる大魔法世界を目指したこと。

 

その世界で『時のアーク』を完全なものとすること。

 

 

ウルはウルティアの過去、想い、願いを全て知った。

 

 

そして彼女の隠された真意も。

 

 

ウルティアもまた、海の中でウルの記憶を見ていた。

 

(海…此処は母の中…!?)

 

ウルティアは先ほど感じた暖かい感触を思い出す。あれはもしや、母が抱き締めていたのだろうか。

 

ウルティアは自分が思い込んでいた事実とは違う記憶の光景に戸惑う。

 

(ワタシノキオクト、チガウ…)

 

ウルティアが呆然としていると。

 

(アイスメイク!!『戦神槍(グングニル)』!!)

 

いつの間にか、グレイが構えていた。そして、その両手から巨大な氷の槍が回転しながら突っ込んで来た。

 

「がふ…ぁぁああああああああああ!!!」

 

槍はウルティアの身体に突き刺さり、海面から打ち上げた。そのまま、槍に貫かれたような格好になる。

 

(私は…負けられない…)

 

こんなところで終われるものか。自分は絶対に叶えたい願いがあるのだ。

 

(私は…私は…)

 

だが、足掻こうとする力はどんどん弱くなっていく。グレイの魔法のダメージのせいか、または先ほど見せられた光景のせいだろうか。

 

 

その時。

 

 

自分を優しく包む感触があった。

 

 

 

 

 

「ぷはぁっ!!」

 

グレイは海面から浮かび上がった。

 

そして、ウルティアの方を見て驚愕する。

 

「なっ…!!?」

 

グレイの目にはウルティアの他にもう1人の人物が映っていた。その人物は愛おしげにウルティアを抱き締めている。

 

 

「なんで…アンタが…此処に居るんだよ…っ!!

 

 

 

 

 ウルっ!!!」

 

 

そう、その姿はどこからどう見てもウルだった。

 

 

ただ、ウルを通して向こうの景色が薄っすらと見えるので、彼女の体は透けているのだろう。では、あのウルは幽霊なのか。

 

グレイが混乱している間にも、ウルの両腕がウルティアを優しく抱き締めていた。

 

「ウ…ル…?」

 

ウルティアは呆然と母の名を呟いた。

 

 

『ごめんなさい…』

 

ウルがポツリと謝る。その声は確かにウルのもの。ウルティアの記憶にも残っているそれと一致する。

 

 

『貴方のこと、ずっと気づかなくて…』

 

 

ウルの目から涙が流れて、海に落ちる。

 

 

『貴方を守れなくて…』

 

ウルティアの目からも勝手に涙が溢れた。

 

 

『貴方と過ごせなくて、ごめんなさい…ウルティア。こんなお母さんでごめんね』

 

なぜ、今になって現れて、自分を娘のように扱うのだろう。

 

なぜ、憎い親に抱き締められているのに、こんなに嬉しいのだろう。

 

 

なぜ、名前を呼ばれただけでこんなに懐かしくなるのだろう。

 

 

『でも、信じて…私は、貴方を捨てたわけじゃない』

 

なぜ、私も母のことを愛しく感じるのだろう。

 

『貴方が生まれた時…私は自分の心に差し込む光を感じたの。そして貴方の希望に満ちた未来を夢見た。とても幸せだったわ。小さな体から発する、未来への無限の可能性。

 

『生』なる力。私は溢れる涙が止まらなかった……

 

 

 あの子は私の命の証。

 

 

 

 (ウル)(ティア)

 

 

 

 それが、貴方の名前』

 

 

ウルはウルティアに突き刺さっている氷の槍を砕くと、ウルティアを抱えて岩場まで跳ぶ。

 

 

『ずっと愛しているわ、ウルティア』

 

そして、もう一度抱擁した。

 

 

「う…うぅ…うああああああああああああああああああ!!!」

 

ウルティアも堰を切ったように涙を流し始めた。次から次へと。

 

無我夢中でウルティアに抱きかえし、子供のように泣き喚いた。

 

 

「ごめんなさいごめんなさい!!私は、私は…!!」

 

ウルがポンポンと背中を叩く。

 

 

『うん、うん』

 

 

「ただ、もう一度お母さんに会いたかっただけなの…!!!」

 

 

ウルティアの真意。

 

 

 

彼女の本音。

 

 

彼女の根本。

 

 

 

彼女の願い。

 

 

それは、かつて失った幸せ、『母親に会いたい』という子供染みた願望だった。

 

 

『時のアーク』を使って母親を憎む前の自分に戻り、ウルと再会することこそが、彼女の夢だったのだ。

 

 

「うあああああああああああああん!!!!」

 

その夢は、此処で叶った。憎しみはなくなり、母親とこうして抱き合っている。

 

 

ウルとウルティアはこれまでの母娘の時間を埋めるかのように抱き合い続けていた。

 

 

 

 

グレイもまた、その様子を涙を流しながら眺めていた。

 

 

 




あー!感動系むずいよ!


最近空気だったウルさんをガンガン出しました!!

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