妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

113 / 202
ハデス戦スタートですね。

そろそろ天狼島編も終わりに近づいてまいりました。


雷鳴響く

「ウル。お前は…何だ?」

 

しばらく2人の自由にさせていたが、涙も収まってきたのでグレイはウルに話しかけた。

 

「お前は確かに目の前で死んだはずだ。生き返ったなんて都合のいいことが起こるわけがねえ」

 

『…』

 

ウルは少し考え込むと、説明し始めた。

 

『この私はいわば思念体だ。私の残滓が魔力を振り絞って作り出したものなのよ』

 

嘘は言ってない。自分がグレイのネックレスに付いている氷だとは言ってないだけで。

 

『この状態も長くは持たない。だが…』

 

ウルはグレイをウルティアごと抱き締めた。

 

「うおっ!?」

 

『こうしてお前達と触れ合える時間は持てる』

 

ウルティアは嬉しそうに笑い、グレイは照れたように顔を赤くする。

 

その時、ウルの体が更に透け始めた。

 

『そろそろ、か…』

 

「ウルっ…!」

 

「お母さん!」

 

2人は慌てるが、ウルは優しく微笑む。

 

『大丈夫。私が居なくとも、お前達はやっていける』

 

ウルティアが泣きそうな顔になってウルの手を掴もうとするが…すり抜けた。

 

「そんな…やっと、会えたのに…!!」

 

ウルは涙を流すウルティアの頭を撫でた。

 

『お前も、1人じゃないでしょ?それに…お前達の元から消えてなくなるわけじゃない』

 

ウルは天に向かって人差し指を立てた。

 

『ずっと、見守っているよ。どこからでも』

 

グレイは目を見開いた。そのポーズは妖精の尻尾(フェアリーテイル)特有のメッセージ。それをウルが知っているとは…。

 

『見えなくても、近くに居るから――――』

 

 

 

そう言い残して、ウルは消えていった。

 

 

「おかあ、さん…っ!!」

 

 

早いお別れにウルティアは嘆く。膝を付いて「お母さん」と呼び続けた。

 

対照的にグレイは素直にウルの言葉を受け止めていた。

 

すでにウルとの別れは済ませたつもりだ。だから、もうウジウジしないのだ。

 

「…私の戦いは終わった」

 

ウルティアもようやく受け入れたのか天を仰ぐ。

 

「オレの戦いはまだ終わってねえ」

 

グレイは腰に自分の服を巻き付けた。ウルティアはグレイの方を見ずに言い放つ。

 

「あなたじゃハデスには勝てない」

 

「だろうな」

 

グレイが肯定した事が意外だったのか、ウルティアがグレイの顔を見上げる。

 

「1人じゃ無理だ」

 

グレイの言葉には重みがあった。そう、それは何かを確信しているかのような口調。

 

彼には妖精の尻尾(フェアリーテイル)に居たからこそ得ることができた思いがあった。

 

『…そうだ、1人じゃない…』

 

ネックレスのウルもそう呟いて――――眠るように意識を失った。思念体を作ったせいで魔力が枯渇したためだ。

 

グレイはネックレスをギュッと握ってその場から立ち去った。

 

 

「空…荒れてきたわね」

 

「雷…やだね」

 

ルーシィ達がゴロゴロ、と音が鳴る雲を見上げて話していると、アミクとマーチが戻って来る。

 

「ただいまー」

 

「なの」

 

すると、ナツが話しかけてきた。

 

「長かったなー。うんこか?」

 

「乙女になんて事聞くのよ!!」

 

ルーシィがナツの頭を叩く。

 

「あれ、リリーどうしたの?」

 

そこでアミクはガタガタ震えているリリーに気が付いた。

 

雷の音が鳴る度に両耳を押さえ、ビクッと怯えたように縮こまる。

 

 

「な、なんでもない…」

 

リリーは否定するが、アミクは彼の様子からピンと来た。

 

「雷、怖いの?」

 

(ドキッ!!)

 

リリーが図星を指されたかのような表情になる。

 

「意外と可愛いところあるじゃん」

 

「む、むむむ…!」

 

アミクはリリーの頭を撫でながら言うと、情けなさそうな顔をして唸った。

 

「へぇ…リリーは雷が苦手、なの」

 

「う、うるさい!」

 

マーチもリリーをからかっていると、ナツが「さてと」と立ち上がった。

 

「ハデスを倒しに行くぞ。ルーシィ、アミク、ハッピー、マーチ!」

 

ナツの突然の言葉にルーシィが驚く。

 

「ええ!!?あ、あたし!?」

 

「まぁ、ナツならそう言うよね」

 

アミクはナツがそう言うのを予期していたのか苦笑している。

 

「なんであたしも…」

 

「同じチームでしょ!」

 

「宿命、なの」

 

「分かってるけど、フリードとかの方が…」

 

ルーシィの言葉にフリードは「いや」と首を振った。

 

「オレは此処で術式を書かねばならん」

 

「防衛に関してはフリードの方が安心でしょ」

 

術式による罠設置や妨害は効果絶大なので、彼にはキャンプに残ってもらう。

 

「守りはオレ達に任せとけ」

 

というわけで同じ雷神衆のビックスローも待機。

 

「私もアミクさん達と行きます」

 

「ちょっとウェンディ」

 

「アミクさん達のサポートくらいできると思うし」

 

「オ…オレも行く。ガジルの仇をとってやらねばな」

 

ウェンディとエクシード達は攻めのチームに。

 

「私はフリードの術式を手伝う為に残る」

 

「私もミラ姉とエルフ兄ちゃんの側に居るね」

 

レビィやリサーナ、ついでにカナも守りのチームに。

 

「これで決まったな」

 

「皆の事は必ず守る!」

 

「ルーちゃん、アミク。気を付けてね」

 

レビィ達の言葉にルーシィが拳を握る。

 

「だいぶ魔力が回復してきた」

 

「私も。残る敵はきっとハデスだけだよ」

 

アミクは船のある方向に目を向ける。

 

最終決戦も近そうだ。ウェンディはごくりと唾を飲んだ。

 

「最後の戦いになりそうですね」

 

「オイラ達だって頑張るぞ!」

 

「分かってるわよ」

 

「エクシード隊、出撃だ」

 

「あーし、副隊長でよろしく、なの」

 

エクシード達もやる気のようだ。皆の士気が上がっているのを感じる。

 

 

「行くぞ!!」

 

ナツが威勢のいい声と共に足を踏み出した。アミク達もそれに続く。

 

「アミク!ルーシィ!ちょっと待って!!」

 

その時、アミクとルーシィをリサーナが呼び止めた。

 

「これからもずっとナツの側に居てあげて」

 

「え?」

 

ルーシィは首を傾げたが、アミクは微笑んで頷く。

 

「もちろん。ナツは信頼している仲間が近くに居ると、もっと強くなるからね」

 

流石に長年の付き合いなので分かっているようだ。

 

「うん。アミク、ルーシィ…ナツをお願いね」

 

「任せて!」

 

「お安い御用だよ」

 

アミクとルーシィは元気よくそう返して、ナツ達を追いかけていったのだった。

 

 

 

 

船がある方向に向かって歩いていると、目の前に支え合っているグレイとエルザがいた。良かった、無事だった。

 

「俺は…いつも誰かに助けられてばかりだな」

 

「私も同じだ」

 

そんな会話をする2人。アミク達が近付くとグレイ達は気が付いたのか後ろを振り返る。

 

「皆…」

 

「グレイさん!エルザさん!」

 

2人共傷だらけではあるが、まだ動けるようだ。

 

「誰だってそうだよ。皆、誰かに助けられて生きてるんだ。『治癒歌(コラール)』」

 

アミクは2人に軽く治癒魔法を掛ける。魔力の温存の為にも少ししか回復できないのが心苦しい。

 

「ありがとう、アミク」

 

「…うん」

 

そういえば、ウルからは何の声も聞こえない。またシャットダウンしてるのだろうか。

 

「よし、行くぞ!!」

 

『おうっ!!』

 

ナツの掛け声に応えて皆で歩む。

 

 

決戦の地へと。

 

 

 

 

 

天狼島の東の海岸沿い。

 

そこに悪魔の心臓(グリモアハート)の拠点である船が1隻あった。

 

 

そして、その甲板には1つの人影。

 

 

(―――あれが―――)

 

 

アミクはその人影を見上げる。その人影もまた、アミク達を見下ろしてきた。

 

右目に眼帯。白く髪と、白くて長い髭。意外と長身。

 

 

「まさか七眷属にブルーノートまでやられるとは…ここは素直に、マカロフの兵を褒めておこうか。やれやれ、この私が兵隊の相手をすることになるとはな。悪魔と妖精の戯れもこれにて終劇。どれどれ、少し遊んでやろうか」

 

彼こそ、このバラム同盟の一角の闇ギルド悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター。

 

 

「三代目妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

ハデスであった。

 

「来るがよい。マカロフの子らよ」

 

離れていてもその存在感は凄まじい。傲然と待ち構えているだけなのに胃袋が潰れてしまいそうな圧迫感。

 

同じ闇ギルドのマスターでも、六魔将軍(オラシオンセイス)のマスターゼロよりも脅威が感じられた。

 

 

「だ――――っ!! テメェが下りて来い!!」

 

ナツがプンプン怒りながら言う。

 

「魔王みたいな立ち位置だなぁ…」

 

「それじゃ、あーし達は魔王を倒しに来た勇者パーティ的な?なの」

 

「それにしちゃ勇者って柄じゃないけどね、妖精の尻尾(うち)は」

 

マーチと軽口を言い合っていると、エルザ達も次々と言葉を放った。

 

「偉そうに…!!」

 

「奴がマスターを…」

 

「あの人を懲らしめてやれば、この島から皆出て行ってくれますよね!」 

 

「もちろん!全員追い出してやるんだから!!」

 

アミクはマーチ達エクシードを見て頼みごとをする。

 

「エクシード隊に頼みがあるんだけど、いいかな?」

 

「何?」

 

ハッピーが聞き返すと、簡単に説明して上げる。

 

「この船に潜入して動力源を探してくれないかな。できれば壊してほしいんだけど…」

 

「万が一飛んだら大変だもんね!ナツとアミクが」

 

ハッピーの言葉にナツが目を逸らし、アミクがてへへ、と苦笑いを浮かべた。

 

「任せて、なの」

 

「分かったわ」

 

「そういうことなら」

 

「…一応、『トロイア』を掛けておきますね」

 

ウェンディに『トロイア』を掛けられ、準備万端。

 

 

「そろそろ始めようか…行くぞ!!」

 

グレイが船の縁へと氷の階段を架けてくれた。

 

「いよいよだね…!」

 

「うぅ…緊張する…!」

 

「ルーシィ、私達ならやれるよ!」

 

アミクがルーシィに親指を立ててみせると、ルーシィも拳を握って応えてくれた。

 

そしてアミクは軽く屈伸すると、ナツ達に続いて氷の階段を駆け上る。

 

「オイラ達も出発!!」

 

「あーし達の潜入任務が始まる、の…!」

 

「任務か…懐かしい響きだな」

 

エクシード隊も別ルートから船の中に侵入する。

 

「相手はマスターをも凌駕するほどの魔導士。開戦と同時に全力を出すんだ!」

 

エルザが言うと、ウェンディ達もそれに続くように意気込んだ。

 

「はい!!」

 

「持てる力の全てをぶつけてやる!!」

 

「後先のことなんて考えてられない!!」

 

「やっとアイツを殴れんだ、燃えて来たぞ!!」

 

アミクも今まで戦って傷ついてきた仲間やマカロフ、キャンプで待っているメンバーの事を想い、覚悟を固めた。

 

「今まで仲間が受けてきた分も、きっちり返してあげる!!ハデスッ!!!」

 

そして、アミク達は階段を登りきった。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力を喰らいやがれ!!」

 

最初に登りきったナツが先手を担う。

 

ナツの拳から放たれた真っ赤な炎が、ハデスを包み込み燃え盛る。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の…力?」

 

ハデスはその炎を難なく振り払ってみせる。しかし、その隙にグレイとエルザが接近していた。

 

「『黒羽・月閃』!!」

 

「『氷聖剣(コールドエクスカリバー)』!!」

 

2人の斬撃がハデスの身体に直撃する。そして。

 

「開け、金牛宮の扉!タウロス!!」

 

「MOーーーーーレツッ!!!」

 

ルーシィがタウロスを召喚し、タウロスの斧がハデスをぶっ飛ばした。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

体勢を崩したところを見逃さずに、アミクがブレスを放つ。見事、ハデスはそれに巻き込まれて床に打ち付けられた。

 

「全員の魔法に攻撃力、防御力、スピードを付加(エンチャント)!!『アームズ』、『アーマー』、『バーニア』!!」

 

ウェンディによる付加術(エンチャント)でアミク達全員が強化。

 

「更に大盤振舞い!!〜♪『攻撃力強歌(アリア)』、『防御力強歌(アンサンブル)』、『速度上昇歌(スケルツォ)』!!」

 

アミクも同じ付加術(エンチャント)をその場の全員に掛けた。

 

 

エルザが目にも留まらぬ速さで斬りかかり、ハデスはモロに喰らった。続けて、グレイが氷の槍でハデスを突き刺す。

 

「ぬおっ」

 

床で跳ねたハデスは俊敏に立ち上がると「ちょこまかと…」と面倒そうに口にして、手から魔力の鎖を放った。

 

「うっ!」

 

鎖はエルザの首に巻きついた。ハデスはエルザごと鎖を振り回してグレイに当てた。

 

「ガッ!!」「ぐっ!!」

 

2人はもつれ合って床に転がる、が。

 

「『火竜の翼撃』!!」

 

その隙を突いて攻撃を仕掛けるナツ。

 

「ぬっ…!」

 

両腕でナツの攻撃を防ぎ、両腕を薙ぎ払ってナツを吹き飛ばすハデス。

 

「んがッ!」

 

追い打ちとばかりにナツの襟首に鎖を引っ掛けて振り回そうとした。

 

「『音竜の斬響(スタッカート)』!!」

 

そこに、アミクが音の斬撃で鎖を断ち切った。空中に投げ出されたナツはグレイが作り出した氷のハンマーに乗る。

 

「行っ…けぇ!!」

 

思いっきりハデスに向かって打ち飛ばされた。

 

「『天竜の咆哮』!!」

 

「スコーピオン!!」

 

更に、ウェンディとルーシィがナツの後方から魔法を放つ。二人の魔法は途中で融合した。

 

合体魔法(ユニゾンレイド)!!?」

 

驚愕するハデスをよそに、炎を纏ったナツはルーシィ達の合体した魔法に押されながら突っ込んでいく。ナツはそのまま大旋回。

 

 

「『火竜の劍角』!!」

 

「ぐおおおおお!!?」

 

回転力を加えたナツの体当たりがハデスの胸にのめり込んだ。後方に吹っ飛ばされるハデス。

 

 

「『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

「がはああっ!!!」

 

そんなハデスにアミクが追いついて大技をぶちかます。強烈な衝撃波がハデスを勢いよくぶっ飛ばして、船の壁に激突させた。

 

 

(手応えあり!!)

 

強化された皆の全力をぶつけたのだ。ハデスに大打撃を与えた自信があった。流石にハデスも大ダメージを受けただろう。

 

だが…。

 

 

「人は己の過ちを『経験』などと語る」

 

煙の向こうから厳かな声が聞こえてくる。

 

「しかし本当の過ちには経験など残らぬ。私と相対するという過ちを犯したうぬらに、未来などないのだからのう」

 

煙が晴れると、そこには羽織っていたマントがなくなっているだけでほとんど無傷のハデスが居た。

 

「そんな!?」

 

「全く効いてないの!?」

 

「こっちは全力出してんだぞ!」

 

ルーシィ達が戦慄する。だが、ハデスは生徒を褒めるような口調になる。

 

「全く効いていなかったわけではないぞ。流石に老体には響くわい」

 

確かに、体のあちこちには微かな傷も見受けられるが、ご本人はケロリとして立っているので説得力がない。

 

 

(強すぎる…!!)

 

アミクも背中に冷や汗を流す。ブルーノートよりも遥かに強い。

 

自分達が束になっても勝てるのだろうか…。

 

「魔力の質が…変わった!?」

 

そう言えばさっきとは違い、魔力がより禍々しくなっている気がする。

 

(本気じゃ、なかった!?)

 

自分達の全力に耐え切るほどのタフさを持っていたのに、それすら本気を出していなかったとは。

 

「さて…準備運動はこのくらいでいいかな?」

 

その考えはハデスの言葉によって肯定される。

 

そして、魔力が一気に解放された。

 

(う…!なんて魔力…!)

 

アミクは過呼吸になりそうな呼吸を落ち着かせながらハデスを見ることしかできなかった。

 

「来るぞ!!」

 

何かを感じ取ったエルザの警告と同時に。

 

 

 

 

 

アミクは

 

 

  

    ハデスと

 

 

 

        目が合った。 

 

 

 

ゾクッと背筋が冷たくなる。

 

 

「喝っ!!!」

 

 

 

 

 

 

ナツ達がハッと身構えた時には、もう終わっていた。

 

 

ナツが嫌な予感がして隣を見ると。

 

 

アミクの姿が消えていた。

 

 

 

いや、消えたのは体だけ。

 

 

 

アミクの着ていた衣服は残ってハラリと床に落ちる。

 

 

 

「ア…アミク―――――――――ッ!!!」

 

 

 

ハデスとの決戦はまだ始まったばかりだった。

 

 




中途半端ですがここで終わりです。

なぜか休みの日に限って集中できないってやつね…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。