妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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しんどかった。




暁の天狼島

ラクサスの雷を食べて『雷炎竜』となったナツ。

 

 

「100倍返しだ」

 

真っ赤に燃える戦意をハデスにぶつけるナツ。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

「がああああ!!!」

 

そして、ナツはもの凄い勢いでハデスに向かって突っ込み、炎と雷が混じった拳をハデスの顔面にぶちかました。

 

「がああああ!!!」

 

ハデスは思いっきり壁に叩きつけられた。

 

ナツの猛攻は終わらない。

 

「だあああああ!!!」

 

ナツの灼熱のファイアキック!!からの頭上から雷の追撃!!

 

「す、すっごーい!!」

 

多分、天音竜状態の自分を別視点から見ればこんな感じだったのかもしれない。

 

「オレ達のギルドをキズつけやがって!!」

 

今までやられた分も、怒りを込めてぶっ飛ばす!

 

「お前は、消えろォ!!」

 

炎と雷を合体させて叩きつけるナツ。衝撃が船を揺らし、瓦礫が宙を舞う。

 

この短時間で、あのハデスを圧倒している。とんでもない強さだ。

 

その時、煙から鎖が飛び出して来てナツの両手に絡みついた。

 

「はっはー!!両腕をふさいだぞ!!」

 

得意げに言い放つハデスだったのだが…。

 

 

ナツはあっさり鎖を引きちぎった。

 

「なっ!!?」

 

想定外だったのか口を開けて驚くハデス。そんな彼を見据えて、ナツは大きく息を吸い込んだ。ナツの口に炎と雷が凝縮されていく。

 

 

そして。

 

 

 

「『雷炎竜の―――――咆哮』ォォ!!!」

 

 

燃え盛る炎と眩く輝く雷が混じり合いながら放出された。

 

 

炎と雷はハデスを飲み込み、船の壁を突き破る。

 

 

そのまま炎と雷の奔流は空の彼方へと消えていった。

 

 

ハァ、ハァ、と荒い息を吐くナツ。

 

 

前方には大の字に倒れているハデス。

 

 

これは…勝負が、着いたか?

 

勝利を確信したエルザ達が歓喜の表情になる。

 

「やった…ぞ」

 

ナツはそう口にして――――ふらり、と倒れた。

 

「!」

 

 

彼の倒れる先に大きな穴がある。あのまま倒れてしまっては落ちてしまうだろう。

 

「っ!」「ナツ!」

 

アミクとルーシィが同時に飛び出した。

 

 

必死にナツに駆け寄ると、落ちかけたナツの腕を片方ずつ掴んで落下を防ぎ、ルーシィと2人でナツを引き上げる。

 

「あっぶな…」

 

「た、助かった…もう完全に、魔力がねぇや…」

 

「私と同じ症状…やっぱり、魔力の消費がバカにならないんだね」

 

 

ぐったりとしながらも満足げなナツ。そんなナツを見てアミク達は優しい笑みを浮かべた。

 

 

「これで終わったな」

 

「はい!」

 

グレイ達も勝利の余韻に浸って張り詰めていた緊張を解いた。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)の大ボスであるハデスを倒したのだ。これでようやく悪魔の心臓(グリモアハート)との戦いも終わりを迎えた――――

 

 

 

「たいした若造共だ」

 

 

 

 

その声を聞いてアミクは背筋が凍りついた。

 

 

 

 

 

マーチ達は狭い通気口の中を這いながら進んでいた。

 

 

「一体どこに動力源があるんだよぅ」

 

「あーしの読みだと船の中心辺りにあると思うんだけど、なの」

 

「てか何でこんな通路通ってんだ」

 

「知らないわよ。マーチに聞いて」

 

ハッピーを先頭にマーチ、シャルル、リリーと続く。一番後ろのリリーはチラチラとシャルルのお尻を気にしながらも、周囲の警戒を怠らなかった。

 

「潜入で通気口を通るのはお約束、なの!」

 

「そうなんだ…」

 

「なにそれ!?」

 

軽口を叩きながらも進んでいくと…

 

 

「あ!」「ひゃん」「きゃっ」「ふごっ」

 

急にハッピーが止まったせいで後続の皆が前にぶつかってしまった。

 

「ちょっと!急に止まるんじゃないわよ!!」

 

「どーした、の?」

 

マーチ達が文句と疑問を言うと、ハッピーが声を震わせた。

 

「な…何だこれ…」

 

ハッピーが見つめる先――――通路の出口らしき金網からは、ドクドクと脈打つ『何か』が、見えた。

 

 

 

 

 

唖然とするアミク達の目の前で、倒したと思っていたハデスがゆっくりと立ち上がる。

 

「マカロフめ…まったく恐ろしいガキ共を育てたものだ。私がここまでやられたのは何十年振りかのう」

 

あれほどまでに苛烈な攻撃を喰らったのに、無傷とも思えるほどピンピンしていた。

 

「このまま片付けてやるのはたやすい事だが、楽しませてもらった礼をせねばな」

 

そう言って、いつの間にか手に持っていたマントを羽織った。悪魔の心臓(グリモアハート)の紋章が施されたマントが不気味にはためく。

 

「そんな…」

 

「ウソだろ」

 

「あの攻撃が効かなかっただと!!?」

 

エルザ達は驚愕以外の感情が浮かばなかった。あれでも倒しきれないとは。もう、打つ手がない…。

 

グレイ達の心に諦めの感情が僅かに生じる。

 

 

しかし、絶望するにはまだ早かった。

 

 

 

「『悪魔の眼』──開眼!」

 

ハデスは最初から右目を眼帯で覆われていた。今、その眼帯を外し──目を、開く。

 

 

「うぬらには特別に見せてしんぜよう」

 

 

その瞳は禍々しい赤に染まっていた。

 

 

その瞬間。

 

 

 

空気が変わった。

 

 

「魔道の深淵。ここからはうぬらの想像を遥かに超える領域」

 

白髪がユラユラと逆立ち、全身から黒い魔力が放出される。

 

 

(な…に…この魔力…!?)

 

気持ち悪い。

 

下手すると胃の中のものが逆流しそうだ。

 

 

まるで、心の隙間に侵入しようとするかのような、おぞましい魔力。

 

 

見つめられただけで失神しそうな眼力が、アミク達に向けられる。

 

 

「バカな!!」

 

「こんなの…あり得ない…!!」

 

「こんな魔力は感じたことがない!!」

 

もはや、こうなってしまえばどうすることもできない。

 

「まだ増殖していく…!!」

 

「こんなの…アリかよ…!!」

 

じわり、と恐怖が心の中に染み込んでいく。

 

 

「終わりだ──妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

アミクの思考は辛うじて「此処から動かなきゃ」と働かせていた。

 

 

だが、そんな思いとは裏腹に体に力が入らない。

 

「ぐっ…!!」

 

「ナツ!!」

 

「くそっ…動く力さえ、残って、ねぇ…!!」

 

アミクだけではない。ナツもルーシィもグレイもエルザもウェンディも。

 

 

魔力を使い果たして恐怖に心を囚われていた。

 

 

「魔導の深淵…」

 

「何という魔力だ…!!」

 

「あ、ああ…!!」

 

(皆…!!)

 

皆、心が折れてしまいそうになっている。

 

かくいう自分も同様。このままでは誰もなんの抵抗もできずに、ただ無惨に──

 

 

──殺される。

 

 

「ナツ…!しっかり…!!」

 

「くっ…かはっ!!か、体が…!!」

 

ナツに至っては、身体中から痛みが走り出し始める始末。

 

誰も、動けない。

 

 

にじり寄る死の気配が、すぐそこまで来ていた。

 

 

「魔の道を進むとは、深き闇の底へと沈む事。その先に見付けたるや、深淵に輝く一なる魔法。あと少し…あと少しで一なる魔法に辿り着く。だが、その『あと少し』が深い。その深さを埋めるものこそ大魔法世界。ゼレフの居る世界。今宵ゼレフの覚醒と共に世界は変わる。そして私はいよいよ手に入れるのだ。『一なる魔法』を」

 

(一なる…魔法?)

 

ハデスの最終目標はそれか。それを手に入れるために『大魔法世界』とやらが必要なのか。

 

 

いや、それはともかく…。

 

 

(やっぱり聞いたことが、ある?)

 

 

既視感。

 

 

昔、誰かに『一なる魔法』について聞いた気が…オーディオン?

 

「うぬらは行けぬ、大魔法世界には。うぬらは足りぬ、深淵へと進む覚悟が」

 

 

ハデスは憐れむように語りかけた。

 

ハデスには長年培った知識、技術、経験がある。それらを酷使してやっと『一なる魔法』への手掛かりを掴めた。

 

 

 

そこに至る、長い長い過程でも様々な選択、苦悩、覚悟が必要だった。魔導の深淵に近づくには相応の犠牲がいる。

 

 

その犠牲を受け入れる覚悟が、必要だったのだ。

 

 

魔道に自分の人生を捧げる覚悟が、必要だったのだ。

 

 

大切なものを捨てる覚悟が、必要だったのだ。

 

 

 

努力や苦悩、犠牲、覚悟──様々なもので埋め尽くされた自分の長い人生があってこそ、ここまで辿り着けた。

 

 

そんな自分が生まれて20年くらい──あるいはそれ以下の若造共に負けるはずがない。

 

 

自分よりも何もかもが足りないこの小娘や小僧なんかでは相手にならないのだ。

 

 

 

 

 

今こそ、自分の人生の一端を見せる時。

 

 

 

「何だ、あの構えは…」

 

 

 

誰からポツリと呟いた。

 

 

ハデスの両腕が、円を描くように回る。

 

辺りに漂っている魔力がドス黒くなる。

 

 

それは、絶望の色。

 

 

 

 

「ゼレフ書、第四章十二節より。裏魔法──『天罰(ネメシス)』」

 

 

 

それは終焉の合図か。あるいは狂宴の幕開けか。

 

 

近くの瓦礫が黒い魔力で包まれる。それはウネウネと形を変え────異形の怪物と化した。それも、何体も。

 

「瓦礫から化け物を作ってるのか!?」

 

「う、ううっ…!」

 

ウェンディが悲鳴にもならない声を上げた。

 

 

その怪物は赤黒い色合いをしていて、まるで血管のような赤い線が不気味に揺れる。

 

 

 

その風貌は、名付けるなら────

 

 

「悪魔…?」

 

「そうだ。深淵の魔力をもってすれば、土塊から悪魔をも生成できる。悪魔の踊り子にして天の裁判官。これぞ裏魔法」

 

 

1体1体が、凝縮された魔力の塊。自分達の魔力が雀のフンにも思えるほどの絶望的な魔力。

 

聞くに耐えない雄叫びを上げ、アミク達を食い殺そうと昂っていた…。

 

 

圧倒的で絶望的で悲劇的な、この差。

 

 

1センチも埋めることが叶わない。

 

 

アミク達の間に、絶望が蔓延した。

 

 

(怖い…!!怖い怖い!!)(私が…恐怖で震えている)(何ビビってんだオレは…チクショオ…)(怖くて…もうダメ…)

 

 

彼らは、恐怖に屈してしまった。

 

 

 

心が、本能が、ハデス達の前で屈服してしまっているのだ。

 

 

 

折れた心が囁くのだ。

 

 

 

 

「もう無理だ」「諦めろ」と。

 

 

 

(ここで、私達は終わってしまうの…?)

 

 

アミクは恐怖と絶望に支配された思考で、そう考えた。震える腕でナツを抱き締め、ルーシィと手を重ねる。

 

 

為す術もなく、アミク達の冒険はここで幕を閉じてしまうのだろうか。

 

 

ハデスから溢れる魔力は、恐怖そのもの。

 

 

 

自分達がいくら頑張ったところで、あんなのに太刀打ちできるわけがない。

 

 

 

────もう、やれるだけやったではないか。十分に頑張ったではないか。だが、それでも足りなかった。それだけのこと────

 

 

(頑張った…?)

 

 

────相手は強大だったんだ。叶わなくても無理はない────

 

 

(仕方ない…?)

 

 

────そうだ。もういいだろう?全力を尽くしたんだから。皆も許してくれる────

 

 

(皆…)

 

 

────全て受け入れて楽になってしまえ。それが、苦しまなくて済む最良の方法────

 

 

 

ギュッと、ナツに腕を握り締められた。

 

 

 

目が覚める。

 

 

 

(そんなわけ、あるかああああああああ!!!)

 

 

 

虚ろだったアミクの瞳が光を放った。

 

 

 

恐怖と絶望に塗れた心を奮い立たせる。何故か、不思議と満たされる何かがあった。

 

 

何を勝手に諦めているのか。まだ、私には大切なものが残っている!

 

 

ナツを見ると、彼はニカッとアミクに笑いかけてきた。アミクも不敵に笑い返す。

 

 

そして────

 

 

「───なんだ…こんな近くに仲間が居るじゃねーか」

 

ナツはアミクを掴んでいる手とは逆の手でルーシィの腕を掴む。

 

 

「ナツ…」

 

 

「『恐怖は『悪』ではない、それは己の弱さを知るという事だ。弱さを知れば、人は強くも優しくもなれる』」

 

誰かの受け売りだろうか。

 

 

思い出すようにナツの口から出て来た言葉。

 

 

それは、悪魔の奇声と魔力が疼く音の中で妙に大きく響いて聞こえた。

 

 

「オレ達は自分の弱さを知ったんだ。だったら次はどうする?」

 

 

ナツがゆっくりと立ち上がり、しっかりと自分の足で立つ。

 

「強くなれ!!立ち向かうんだ!!1人じゃ怖くてどうしようもないかもしれねーけど…俺達はこんなに近くに居る。すぐ近くに仲間が居るんだ!!」

 

そうだ。

 

ずっと近くに居たのに、それを忘れていた。

 

 

アミクは1人じゃない。

 

ナツが、ルーシィが、グレイが、エルザが、ウェンディが。

 

近くには居ないけど、マーチやハッピー、シャルル、リリー。

 

 

キャンプでアミク達の帰りを待ってくれているリサーナ達。

 

 

最初から1人などではなかったのに、何を恐れる必要があるのか。

 

 

 

「そうだよ…今は、何も怖がらなくていいんだ…私達は1人じゃない…こんなに頼もしい仲間が、傍に居るんだから!!!」

 

 

 

アミクは声を張り上げた。自分の声の大きさはこの時のためにあると言わんばかりに。

 

 

ルーシィ達の瞳に輝きが灯った。

 

 

体の震えも止まっている。彼らの心から恐怖や絶望は吹き飛ばされていた。

 

 

だんだんと冷えていた体が熱くなって来る。

 

 

まるで、心が燃えているようだ。

 

 

 

一方、ハデスはアミク達の様子を無感動に見つめていた。

 

 

「見上げた虚栄心だ。だが、それもここまで――――」

 

 

いよいよ悪魔達を仕掛けようとしていたハデスだったが―――――

 

 

 

「むっ!!?」

 

 

突然感じた魔力に声を漏らす。

 

 

身に覚えのある魔力。

 

 

 

その魔力の発生源を見ると―――――

 

 

「あの小娘が…?」

 

 

ナツの前に立つ少女――――アミク。

 

 

彼女の体から『黒い音』が漂っていた。

 

 

 

それを見たハデスは「なっ!!?」と目を見開く。

 

 

 

「その魔力…まさか、滅神魔法―――――」

 

 

ザンクロウに滅神魔法を教えたのはハデスである。だから、すぐにアミクが身に纏う魔力が滅神魔法のものだと気付いたのだ。

 

 

「うおっ!!?なんだ!?」

 

「な、なんだあの魔力は…?」

 

「アミク…?」

 

アミクが滅神魔法を使う場面を見ていなかったナツ達も驚いてアミクを見る。特にナツはザンクロウと似たような魔力を纏っている事に心底驚いていた。

 

 

ただ1人、ウェンディだけが歓喜の表情を浮かべた。

 

 

「また、あの魔法…!」

 

 

再び滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)状態になったアミクは冷静に自分の中で渦巻いている魔力を操る。なぜか、使い方が身に染みついているかのように分かっていた。

 

あの『魔力分離』の時のように。

 

 

(火事場の馬鹿力ってヤツ?なんにしろ――――)

 

 

アミクは両手を伸ばして中心に魔力を集めた。黒い音が凝縮されていく。

 

 

(利用しない手はない!!)

 

 

「『音神の響歓(ビバーチェ)』!!」

 

 

収束された魔力が解き放たれた。それはレーザーのように一直線にハデスの元に向かう。

 

 

「チッ!!」

 

 

ハデスが腕を振るうと数体の悪魔がハデスを守るように立ち塞がる。

 

 

だが―――――。

 

 

『ガアアアアアア!!!』

 

 

黒い音のレーザーは全ての悪魔を薙ぎ倒した。

 

 

「んなっ!!?」

 

 

そのまま、驚愕したハデスの土手っ腹に音のレーザーが直撃した。

 

「ガハッ!!」

 

お腹に大ダメージを受け、蹲るハデス。

 

 

同時に、アミクから漂っていた黒い音が消えた。

 

 

「――――皆!!!今っ!!!」

 

「――――行くぞおおおおお!!!」

 

『うおおおおおおっ!!!』

 

 

アミクが走り出したのを皮切りに――――ナツ達もハデスに向かって駆け出した。

 

 

彼らに、恐れるものはない。

 

 

「くっ…!残らぬ魔力で何が出来るものか!!踊れ──土塊の悪魔」

 

腹を押えていたハデスが命令すると、先程薙ぎ倒された悪魔も一緒にアミク達に襲いかかった。

 

 

(魔力を…全部、絞り出す!!)

 

 

先頭を走っていたアミクはおぞましい声を上げながら向かって来る悪魔を見て──歌を歌い出した。

 

「──♪」

 

味方を鼓舞するような、優しく、力強い歌。そして────

 

 

「──私が、道を切り開く!!『鎮魂歌(レクイエム)』!!」

 

アミクが祈るように手を合わせると──

 

 

悪魔達を包むように光が放たれた。

 

 

『グオオアアアアア!!!』『ギャアアアアアア!!!』

 

 

光を浴びた悪魔達が苦しみ出す。床をのたうち回り、断末魔のような悲鳴を上げた。

 

「バカなっ!!!?悪魔を…浄化している!!?」

 

今日何度目かも分からない驚愕。何度も自分の想定を上回り、予想を裏切り、考えを覆される。

 

「私の裏魔法を、打ち破っていると言うのか!!?」

 

この短時間で凝縮された体験をして、さしものハデスも混乱していた。

 

 

「うっ…!!」

 

流石に魔力が残りカスも残ってない。力が抜け、前に倒れ込みそうになる。

 

 

が、足を踏み出して踏ん張った。

 

 

 

ここで倒れるわけにはいかない。

 

 

 

 

悪魔が苦しんでいる横を駆け抜け、ハデスに向かう。

 

 

 

「───っ!!」

 

その時、ナツの足がかくんと折れた。

 

魔力切れのせいで力が抜けたか。

このままだと倒れてしまう…

 

 

 

 

その直前。

 

 

 

ルーシィとウェンディがナツの手を掴む。2人はナツに笑いかけると、思いっきり前方に放り投げた。

 

自分達の想いを込めて。

 

 

飛んで来るナツを見たエルザとグレイは互いに目配せし合った。

 

 

 

そして、ナツがやって来ると、ナツの足裏に自分達の足裏を合わせて勢いよく蹴った。

 

更に推進力を得てハデスへと突き進むナツ。

 

そして、ナツの視線の先には、アミクの背中があった。

 

 

ナツとアミクが並ぶ。

 

 

彼らは互いに顔を見合わせ───ニヤリ、と笑い合った。

 

 

そして同時に、ハデスに向かって大きく拳を振り上げた。

 

 

「あああああああ!!!」「うおおおおおおお!!!」

 

 

ハデスは先程のダメージのせいで動きが鈍くなっている。だが、奴らを迎え撃つぐらいならなんてことない。

 

なので、彼もアミク達に真っ向から叩き潰すことにした。

 

 

「全てを闇の底へ。日が沈む時だ──妖精の尻尾(フェアリーテイル)!」

 

 

ハデスと『双竜』の衝突。ハデスの魔法とアミク達の拳がぶつかり合った。

 

 

爆発が起こり、世界が真っ赤に染まった。

 

 

 

 

 

 

戦艦内で気味の悪いものを見つけたマーチ達。

 

 

「物凄く重要そうなフラグがビンビンする、の」

 

「でも、動力源って感じじゃなさそうね」

 

ドクンドクン、と脈打つその形はまるで心臓。それを見て、リリーはあることを連想する。

 

「『悪魔の心臓(グリモアハート)』…いや…まさか、な」

 

このギルドに心臓のようなものがあるなど、まさにこのギルドの名前のものそのものではないのか、と思ってしまう。

 

そうやって会話していると。

 

 

「中で声がしたぞ!!」

 

「バカな!!どうやってこの部屋に!!」

 

 

「み、見つかった、の!!」

 

 

外にいた雑兵にバレてしまった。扉

 

「敵は俺が食い止める!!」

 

「あーしもやるの!!」

 

マーチの言葉に他のエクシード達が不安げにマーチを見た。

 

「ちょ、ちょっとマーチ!!」

 

「お前じゃ荷が重いぞ」

 

「そうだよ!此処はリリーに任せて──」

 

「見くびらないでなの」

 

マーチはニヤリ、と笑うと──全身から光を放った。

 

「わあああああ!!?」「きゃっ」「な、なんだ!!?」

 

 

あまりの眩しさにハッピー達が目を瞑った。光が収まった後、目を開くと────

 

 

そこには金髪の美少女が居た。

 

 

「なあああああ!!!?」「何よそれえ!!!」「はあああぁっ!!!?」

 

ハッピー達は白目を剥いて驚いた。リリーみたいなのはともかく、ほぼ人間に変身したのだ。そりゃあ驚くだろう。

 

「あーしの新魔法なの!!」

 

マーチが得意げに胸を張った。

 

「い、いつの間にそんなことできるようになったのよ!」

 

「ついこの前なの」

 

「驚いたな…オレの戦闘フォームと同じようなものだと考えればいいのか?」

 

シャルルとリリーが感心したりしていると、しょんぼりしたハッピーが呟く。

 

「…オイラ、ネコの姿の方がいいなぁ…」

 

「そんなこと言われても…なの。この姿の方が強いの。多分、リリーと互角に戦えるの!」

 

「ふむ、それはいいことを聞いた。後で手合わせ願おう」

 

「余計なこと言った気がするの…」

 

好戦的な笑みを浮かべるリリーの姿が、ガジルと重なった。少なからず、あの相方から影響されてる気がする。

 

「とにかく、あーし達が相手してる間に、ハッピーとシャルルはあの心臓っぽいの止めて欲しいの!!」

 

「あれを止めるの!?」

 

「やりましょ、ハッピー!!」

 

この心臓みたいなのが、何かしら重要な役割を担っているに違いない、とマーチ達は踏んでいた。

 

「言い換えれば息の根を止めて欲しいの!!」

 

「言い換える必要性皆無だな!?」

 

心臓っぽいからそのように表現したジョークを言っただけなのだが…イマイチウケなかったようだ。

 

とりあえず、ハッピーとシャルルはその辺りの機械を滅茶苦茶にいじり始めた。

 

その直後。

 

 

扉が開いて雑兵達がゾロゾロと雪崩れ込んでくる。

 

リリーは戦闘フォームになり、マーチも爪を伸ばす。そして、2人で雑兵の群れに飛び込んだ。

 

 

「『マーチスラッシュ』!!」

 

 

 

マーチはまず、近くの兵士を切り裂き、反転して後ろの兵士も斬った。

 

更に回し蹴りで右側に居た兵士を吹き飛ばす。

 

「うおおおおあああ!!?」

 

「なんだこの女の子!!?」

 

リリーもその屈強な肉体を活かして敵を殴りつけていった。

 

「美少女と野獣かよ!!?」

 

「それを言うなら美女と野獣だろ!!」

 

「どうでもいいわ!!」

 

ちょっと聞いてて楽しい兵士達の会話を聞きながら、マーチは兵士が密集する中に突っ込み、大回転しながら爪を振るった。

 

「『イエローサイクロン』!!」

 

『ぎゃああああああ!!!』

 

竜巻のように斬撃が放たれ、何人もの雑兵が吹っ飛んだ。

 

 

ちょっと一休みにリリーを見てみると、彼は一振りの剣を持って満足げに笑っていた。

 

「大きさが変化する剣か。我が剣(バスターマアム)のようだな」

 

彼の持っていた剣が突然大きくなる。それを見て思い出したが、エドラスで彼が使っていた剣も似たようなものだった気がする。

 

リリーは歯を剥き出しにして、獰猛に笑った。

 

「気に入った、こいつをオレの『武器』にする。ギヒッ」

 

「あぁ…リリーがガジルに似ていくの…」

 

マーチは嘆くようにため息をついた。リリーまでガジルみたいになったら、ギルドは更に混沌としてしまう。

 

マーチの視線に気づいたのか、リリーは心外そうな表情で見返してきた。

 

「あ〜!ムジカの剣、高かったんだぞアレ…」

 

1人の兵士が情けなさそうな声で言ってくる。元々あの兵士のものだったらしい。ドンマイ。

 

 

 

 

マーチとリリーはゾロゾロとやって来る兵士達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していた。

 

「もう!キリがないの!!」

 

「まだか2人共!!」

 

リリーとマーチが怒鳴るように言うと、ハッピーが焦ったように言い返してきた。

 

「これ何が何だか分かんないよー!!」

 

「仕組みが複雑すぎるわ…!っていうか敵が減らないのはあんた達のせいよ!!もうちょっと大人しく戦って!!」

 

「なんて無茶振りなの!!?」

 

マーチがシャルルの理不尽な要求に悲鳴をあげた。

 

 

「あーもう!!まどろっこしいの!!」

 

とうとうマーチが痺れを切らし、心臓らしき物体に飛びかかった。

 

 

「こんなの、直接やっちゃえばいいの!!」

 

「え、ちょ───」

 

ハッピーの制止も虚しく、マーチの爪が振るわれた。

 

 

「『イエローカイロス』!!」

 

 

 

見事、心臓らしき物体Xは斬り裂かれた。バラバラになった物体Xが床にボトボトと落ちる。

 

 

「あああああ!!!」

 

「や、やられたー!!!」

 

「アレをやられたら…!!」

 

雑兵達は大慌て。やっぱり、これは大事なものだったようだ。

 

 

「任務完了!!なの!!」

 

マーチは嬉しそうにイエイ、とピースをする。

 

だが、ハッピー達は「最初からこうしておけばよかったのでは?」と納得いかなそうな表情をしていた。

 

 

 

 

爆風に煽られ、ナツのマフラーが宙を舞う。

 

爆発が収まると、そこに現れたのは───

 

 

ハデスの顔面に拳をぶち込んだアミクとナツであった。

 

 

「ナツ、アミク!!」

 

ルーシィは歓声を上げるが、飛んで来るマフラーを慌ててキャッチする。

 

「って、落ちる~!!」

 

「ルーシィさん危ない!」

 

その拍子に船から落ちそうになっていたが、ウェンディが咄嗟に掴んで救出していた。

 

「バ…バカな…裏魔法が効かぬのか!!?」

 

もうハデスの右目は赤くない。

 

またこの小娘か、と思ってアミクを見るも、今度こそ彼女に魔力が一滴たりとも残っているようには見えなかった。

 

「あ、あり得ん!私の魔法は…!!ま、まさか…!!」

 

(私の、心臓を…!!)

 

ハデスの無限とも思える魔力の源は、マーチ達が破壊した心臓らしき物体Xだったのだ。アレを壊されてしまえば、自分の強さの象徴であった膨大な魔力が───

 

 

「うおおおおおお!!!」「いやああああああ!!!」

 

 

魔力が無くなっていくハデスにアミク達は攻撃を加え続けた。

 

 

ハデスは心底恐れた。魔力もないのに、どこからこんな力が出ているのか。

 

 

「たあ──────!!!」

 

アミクがハデスの顎を蹴り上げたと同時に、周囲の土塊の悪魔達がボロボロの崩れていった。

 

「悪魔達が!」

 

「消えていく…!!」

 

ハデスの魔力が無くなり、魔法を維持できなくなったためなのか。

 

 

「あれ?」

 

そして、ウェンディは地響きがしていることに気付く。思わず天狼島を振り返って、声を失った。

 

「どうした、ウェンディ」

 

ウェンディの様子を見て疑問に思ったグレイ達も何事かと思って振り返ると───

 

「なっ!!?」

 

「天狼樹が、元通りになってる!!?」

 

 

アズマによって半ばから折られたはずの天狼樹──────それが、倒れる前と変わらぬ姿で、天に向かってそびえていた。

 

 

そして、アミク達の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が輝き出す。

 

 

アミク達はどんどん力が湧き上がってくるのを感じた。

 

 

この感覚は…。

 

 

「魔力が元に…」

 

「戻っていく!!」

 

 

そう、天狼樹が元通りになったことで、その加護が再発動したのだ。

 

 

(私が…この私がマカロフに負けると言うのか…!!)

 

つい数十秒前とは打って変わって一気に不利な状況になってしまったハデス。

 

ハデスは愕然となった。自分はこんな若造共に追い詰められているのか。なぜ、こうなった、と。

 

「貴方の、負け!!」

 

「勝つのはオレ達だ─────!!!」

 

アミクとナツがそう叫んで飛びかかって来る。

 

 

だが。

 

 

「否─────!!」

 

「うあっ!!?」「ぐあっ!!」

 

ハデスが力を振り絞ってアミク達を殴り飛ばす。

 

アミクは素直に驚く。まだ、こんな力が残っていたのか。しぶとさもマスター級以上だ。

 

「魔導の深淵にたどり着くまでは、悪魔は眠らない!!」

 

こんな所で長年の苦労を無駄にしてたまるか、とばかりに吠える。

 

 

しかし、そんなハデスに拳が叩き込まれた。

 

 

「いがっ!!」

 

「行けぇ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

「ラクサスっ!!」

 

ラクサスだ。彼がアミクの音のレーザーでダメージを受けた箇所を殴り、ハデスを怯ませる。

 

 

 

ラクサスが作ってくれた、最大の好機(チャンス)!!

 

 

 

彼の雄叫びを背に、アミク達は一斉に駆け出した!!

 

 

 

「恐らくこれが最後の攻撃!!」

 

「戻った魔力全部ぶち込むぞ!!」

 

「返り討ちにしてくれるわ!!」

 

ただではやられないハデス。彼も魔力を振り絞って魔法を行使しようとする。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)悪魔の心臓(グリモアハート)の決着の時は間近だ。

 

 

 

トップバッターは眩く金髪のルーシィ。

 

 

「契約まだだけど…開け!!磨羯宮の扉!!カプリコーン!!」

 

「仰せのままに、ルーシィ様」

 

ルーシィが召喚したのは、見たことのない星霊。執事服を着て、ヤギのような頭をしている。そして、なぜかサングラスを掛けていた。

 

「お願い!!」

 

「汝は!?」

 

しかも、ハデスは彼を知っている模様。動揺して魔法の行使の手を緩めてしまった。

 

「ゾルディオではございませんぞ!!(メェ)はルーシィ様の星霊、カプリコーン!!」

 

そう言ってハデスに強烈な蹴りを加えるカプリコーン。ハデスは苦痛に顔を歪める。

 

「ぐぬぅ!!」

 

「『天竜の翼撃』!!」

 

「おあああああああ!!!」

 

 

彼らの大反撃はまだ終わりではない。今度は幼き滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ウェンディが両手を振り下ろしてハデスを吹き飛ばした。飛ばされた先には半裸の男、グレイ。

 

 

「『氷魔剣(アイスブリンガー)』!!」

 

「ぐはぁっ!!!」

 

氷の剣で切り裂かれるハデス。

 

そのまま落下する彼に急接近するのは緋色の女性、エルザ。

 

 

「換装!!────『天輪・五芒星の剣(ペンタグラムソード)』!!」

 

両手に持った剣でハデスを五芒星を描くように切り裂いた。

 

「ぐふぅっ!!」

 

血を吐きながら床に落ちるハデス。そこに詰め寄っていくのはナツ。

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

雄叫びを上げながら駆けて来るナツを見たハデスはフラフラと立ち上がりながら両手を構えた。

 

 

「させるか!!────私は、終われんのだ!!『悪魔の法律(グリモアロウ)』!!」

 

ハデスの両手の間に、禍々しくて危険な魔力が集まってきた。アレを喰らえばナツ達の命など消し飛ぶだろう。

 

 

この魔法が、ハデスの全身全霊の最後の魔法だ。

 

 

「くっ────!!」

 

ナツもヤバイと思ったのか、足を速めるが間に合いそうにない。

 

ハデスは狂気的な笑みを浮かべて高らかに叫んだ。

 

 

「発ど────」

 

「モード天音竜!!」

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

ナツよりも先に追いついた人物が居た。

 

 

緑髪の長いツインテールをはためかせる、音楽とブロッコリーが好きな滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の少女。

 

 

アミク・ミュージオン。彼女は身体中から音を奏でながら、暴風を身に纏わせていた。

 

 

「『滅竜奥義・改』!!!」

 

「おのれ、またしてもうぬが────!!」

 

何度も驚かされてきた少女に憎しみのこもった視線を向けるが────アミクはどこ吹く風。

 

ハデスをしっかりと見据えて、振りかぶっていた拳をぶっ放した。

 

 

「『天災神楽組曲(てんさいかぐらスイート)』!!!」

 

ハデスの邪悪な魔力が解放される直前に、アミクの目にも留まらぬラッシュがハデスを襲う。

 

顔を殴られたかと思えば、腹を蹴られ、背中に衝撃を受けたと思ったら下から突き上げられていた。

 

予測不可能。縦横無尽。滅茶苦茶。

 

あらゆる方向から嵐の如く舞いながら攻撃を加えてくる。

 

 

「ぐがああああああああああああ!!!」

 

 

「はああああああ────!!!」

 

 

そして、トドメの正面突き。とてつもない衝撃波がハデスの体をくの字に折り、風がハデスを吹き飛ばす。

 

 

「か、はぁ…!!!」

 

 

後ろにぶっ飛ばされるハデスはもう虫の息。

 

 

そんな彼に近寄るは、熱く滾る(ハート)を持つ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ナツ・ドラグニル!

 

「『滅竜奥義・改』!!」

 

彼の体からも炎と雷が吹き出した。

 

 

「『紅蓮爆雷刃』!!!」

 

 

彼の、全身全霊の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の全ての想いも込めた魔法が、ハデスに叩き込まれた。

 

 

 

 

そして────────

 

 

 

 

断末魔すら上げることを叶わず、ハデスは床に倒れこんだ。

 

 

白目を剥いたその姿からは、もう威圧も覇気も感じられない。

 

 

 

今度こそ悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター、ハデスを倒したのだ。

 

「じっちゃん…奴らに見せてやったぞ。全身全霊をかけたギルドの力を…!」

 

アミクはフラフラになりながらナツに歩み寄った。少しでも、この高揚を分かち合おうとするかのように。

 

そしてアミクがナツの隣に立つと、彼は大きな声を轟かせた。

 

「これがオレ達のギルドだぁっ!!!」

 

 

 

こうして妖精の尻尾(フェアリーテイル)悪魔の心臓(グリモアハート)の長い戦いは終結を迎えたのだった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の勝利として。

 

 

思わず、泣いてしまった。

 




最近集中できない…。

とりあえず、飯食おう。

もうすぐで天狼島編も終わりです。

終わったらちょっと長めの閑話をやろうかな、って思ってます。

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