妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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多分、次で終わり。

出るぞあいつが…


戦後の一時

「ぐがあああああ、がるるるる…」

 

「すぴー、すやすや…」

 

テントの下ではナツとアミクが気持ちよさそうに寝ていた。

 

ナツは騒音のようにいびきをかいているが、対照的にアミクは可愛らしいものだ。

 

「黙って寝れねーのかよ、ナツ!!アミクを見習ってほしいもんだ!!」

 

エルフマンが憤慨するが、当の2人は夢の世界。

 

 

「いいじゃない、休ませてあげれば」

 

ミラが微笑ましげに言うと、リサーナが「いい事思いついた!」とおもむろにナツの髪を弄り始めた。

 

 

「ツインテのナツ!アミクとお揃いだね!」

 

「気持ち悪…」

 

エルフマンがうえっという顔をした。

 

「オイラ達が壊したのがハデスの心臓だったのかー」

 

「偶然とはいえ、いい仕事したわね」

 

「あーし、ハデスの息の根止めちゃったの…」

 

「いや、死んではないぞ…ともかく、エクシード隊としての初任務は成功という訳だ」

 

「そうなの」

 

「あいさー」

 

何気に重要な役割を果たしたという事だ。

 

「おい!!怪我はねえかリリー…ゲフッゴホッ!!」

 

「ウム…お前よりはマシだ」

 

「自分よりも相棒を心配するなんて…ガジルも成長したの」

 

「おい黄猫!!なに上から目線で言ってんだ!!」

 

目を覆って泣くふりをするマーチにガジルが噛みついた。

 

 

「あ!もうイタくない!」

 

「怪我した人は私が手当します」

 

「ウェンディも休んだら?さっきから治癒魔法使いっぱなしだよ?」

 

ウェンディは治療係として頑張っていた。治療役であるアミクが寝ているので、ウェンディ1人で負担になっているのではないか、とレビィは心配する。

 

「いいえ…天狼樹が元通りになってから調子がいいんです」

 

確かに、ウェンディからは疲れどころかいつも以上の気力を感じる。

 

あの天狼樹の効果は絶大といったところだろう。

 

「しかし倒れた天狼樹がどうやって元通りに…」

 

エルザの疑問にグレイは心当たりがあるのか考え込んでいた。

 

『…間違いなく、ウルティアだな』

 

そして、ついさっき覚醒したウル。目が覚めたら戦いが終わっていたので、しばらく状況把握に努めていたが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が勝利したようだった。

 

『ハデスとの戦いは見たかったなぁ…』

 

せっかくの最終決戦だったというのに、見逃してしまった。さぞかし激しい戦いだったのだろうと想像する。後でアミクに聞こう。

 

 

後、気になるのは。

 

『ウルティア…』

 

天狼樹を直したのは彼女だとして、その後どうなったのだろうか。生きていればいいのだが。

 

(いや、きっと生きてるさ)

 

なんせ自分の娘だ。なんとかして生き残っているだろう。

 

 

ウルティアがそんなことを思っていると、グレイの後ろの茂みがガサガサと揺れる。

 

 

「な、なんだ!!?」

 

グレイが慌てて身構えると…。

 

 

「みな…さん…」

 

「ジュビア!!無事だったか!!」

 

そこから這って出てきたのは行方不明だったジュビアだ。

 

「スミマセン…ジュビアは…ゼレフを逃してじまいまじだぁ~…グレイ様、お仕置きして下さい!!さあ!!好きなだけぶって下さい…!!」

 

「オ…オレにそんな趣味はねえ!!」

 

「こっちにはあるんです~」

 

『…心配するだけ無駄だったか?』

 

なんかすっごく元気そうだ。

 

 

その後、ギルダーツも無事だったようでいつの間にか皆の中に溶け込んでラクサスをからかっていたり、目を覚ましたナツがギルダーツに殴りかかって撃沈したりしたが、皆戦いがあったなんて考えられないくらいに明るい表情をしていた。

 

 

 

「な、なんか行列になっちゃったね…」

 

レビィはウェンディの目の前に並ぶ負傷者の行列に苦笑した。

 

「アミクが起きてたら良かったんだけど…なの」

 

「アミクさんにばかり無理はさせられません!それにこういう時こそお役に立てるし!」

 

ウェンディは頼られているのが嬉しいのか活き活きとした様子で治療していた。いつもアミクにばかり負担をかけている申し訳なさもあるが、それ以上に自分が役に立っているというのが嬉しかった。

 

「ウェンディ、代わろうか」

 

そう言って現れたのはエルザ。

 

 

 

ナース服姿の。ウェンディは目が点になった。

 

「エ…エルザさんその格好…」

 

「アンタに治癒の力ないでしょ!!」

 

シャルルの言葉にエルザは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「勝負に能力の差は関係ないぞ?試されるのは『心』だ!!」

 

「ふぇ!?勝負ですか!?」

 

「人を治療するのに勝負も何もないと思うけど」

 

涙目になるウェンディの横でマーチが痛い所を突くが、エルザは気にしない。

 

レビィはそんなエルザに「始まった…」と呆れた。

 

「さあ素直に言ってみろ。痛いところはどこだ? まずは熱を測ってやろうか? それとも注射がいいか?」

 

するとエルザは木箱に足を組んで座り、扇情的なポーズで負傷者達(男)に問いかけた。

 

 

「ったく、何が始まったかと思えば…」

  

「イカれてるぜ」

 

「うんうん」

 

突然のエルザの奇行にナツ達も呆れているかのように見えたが…。

 

 

 

「割り込むなっての!!」

 

「ちゃんと並べテメェらぁ!!」

 

「オレは元から此処に並んでたっつーの!!」

 

「オス共!!」

 

ちゃっかりエルザの方に並ぶ男衆。シャルルが呆れた声を出してしまうのも仕方ない。

 

 

「ほ、ほら!少し休めるから良かったじゃない!!」

 

ズーンと項垂れるウェンディを必死に励ますレビィ。

 

だが。

 

 

「…やっぱり、お胸の差でしょうか?」

 

「うぐっ!」

 

ポツリと胸に手を当てながら呟かれたウェンディの言葉にダメージを受けてしまった。

 

「包帯を巻くというのは中々難しいものだな」

 

「だぁー!!?殺す気かー!!?」

 

「いでででで!!?」

 

このナース。ナースの癖に包帯の巻き方が下手くそすぎてグレイとガジルを纏めて雁字搦めにしている。

 

余計に怪我しそうだ…。

 

 

「グレイ様…お仕置きするより、お仕置きされる方が好きだなんて…ジュビア、ショック!!」

 

「ガァ~ジィ~ルゥ~!!」

 

それを見たジュビアとレビィが凄い形相になっていたが…マーチは見なかったことにした。

 

 

 

そんな収集つかない状況に救世主が現る!!

 

 

 

「ふわぁ〜、おはよ…うわっ!何この状況!?」

 

 

たった今起きたアミク・ミュージオンだ。

 

 

「アミク!」

 

「アミクさん!!もう大丈夫ですか!」

 

「うん!ちょっと休んだら元気モリモリ!!…で、今何やってんの?」

 

ちょっと危ない体勢で縛られているグレイ達を見ながらアミクは問う。

 

 

「えっと、負傷者の手当てをしていて…」

 

「え!?だったら起こしてくれたら良かったのに」

 

「お前はずっと働きっぱなしだっただろう。だから少しでも長く休ませてあげようと思ってな」

 

エルザが包帯で縛り上げたナツに腰を掛けて言った。ナツ、苦しそう。

 

 

「そっか、ありがとね。でも、もう復活したから私もじゃんじゃん働くよー!」

 

アミクは空いていた木箱に腰を掛けて呼びかけた。

 

「さぁ、らっしゃいらっしゃい!!どんな怪我でも治しまっせ!!今ならサービスも付けちゃうよー!!」

 

「商売人!?」

 

ノリが魚とかを売りさばく人のそれだった。

 

 

 

さて、男衆はアミクに注目した。

 

 

エルザのように巨乳で、ウェンディのように安全な治療ができる。

 

 

なおかつ、サービスも付けると言う。

 

 

巨乳で安全でサービス…!?

 

 

最高じゃないか。

 

 

 

一瞬でエルザの前から行列が消えて、全員がアミクの前に並んだ。しかもちゃっかりラクサスも交じっている。

 

「おい!押すな!!」

 

「テメェ!!オレが先だったろ!!」

 

「はいはい、喧嘩しないでちゃんと並んでねー」

 

揉める男衆を上手くまとめながら治療していくアミク。

 

 

「敗けた…!」

 

エルザががっくりと膝をついて落ち込み、悔しがった。

 

 

「…間違いなく、お胸ですね…」

 

 

ウェンディ暗く澱んだ虚ろな瞳で行列を見やる。シャルルが「このオス共!!」と青筋を立てた。

 

 

「なんて欲望に忠実な男なの…」

 

 

マーチもやれやれ、と言いたげに頭を振った。

 

 

 

ちなみに、アミクの言うサービスとは。

 

 

「はい、サービスのブロッコリー!栄養満点だよ!」

 

「予想はしてたけどなぁ!!」

 

アミクが持ち込んでいたブロッコリーをプレゼントしていた。

 

ニコニコとブロッコリーを差し出す彼女も大概だった。

 

「まぁ、アミクだからな…」

 

男達はがっかりしながらもブロッコリーを口に放り込んでいく。ちょっとしょっぱかった。

 

 

「気のせいか…悪魔の心臓(グリモアハート)との戦いが遠い過去のような…」

 

 

そんな間抜けな光景を見ながら、リリーが口にすると、シャルルも同意する。

 

「ま…いつもの事だけどね」

 

「そうなの。こういうバカなことやってる方が妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしいの」

 

「あい!」

 

マーチとハッピーも頷く。

 

「それもそうだな」

 

リリーもこんな雰囲気の方が居心地がいいと感じていたので、マーチ達の言葉に自然と笑みを浮かべた。

 

 

マカロフも楽しげに笑いながらその光景を見ていたが、アミクからの質問に表情を引き締める。

 

「おじいちゃん、試験の方はどうするの?」

 

「そうじゃのう…仕切り直すにしても、1度ギルドに戻った方がいいか」

 

そう言ってマカロフは今後の行動を考えるのだった。

 

 

 

 

 

「皆の者…心して聞けい。重大発表をする」

 

 

そろそろ皆、落ち着いた頃。マカロフはメンバー達を集めて言い放った。

 

 

その真剣な表情にメンバー達はざわめく。一体何事なのか。

 

 

「天狼島からギルドに戻ったその日より────女子のみ制服を設定する!! ナース服限定じゃ!!」

 

「なんでやねん!!」

 

突拍子も無い発表にアミクが脱力して尻餅を付きそうになった。

 

「なるほど、それは楽しみだな」

 

「乗らんでいいよ!?私は嫌だからね!!」

 

 

意外とナース服が気に入ってたのだろうか。エルザがノリノリだった。

 

 

「マスター…ここはマジメにっ!!」

 

 

「すみません…ちょっとノリで…」

 

 

ミラの怒りに触れ、マカロフは縮こまりながらも本物の発表をする。

 

 

「今回のS級魔導士昇格試験は中止とする」

 

『なんだとぉーーーー!!!?』

 

 

当然、その発表に納得のいかない者達が続出。

 

「納得いかねーぞじーさん!!」

 

「何で中止なんだよーーー!!」

 

「オレをS級にしやがれー!!」

 

「ガジル、君は候補者ですら無いでしょ…」

 

 

ナツを始めとしてグレイやなぜかガジルまでも文句を言う始末。

 

「仕方なかろう、色々あったんだから」

 

「候補者の中に評議員が紛れ込んでたり、悪魔の心臓(グリモアハート)に邪魔されたり」

 

そんなことがあったのに試験続行というわけにはいかないのだ。

 

 

「今回は仕方ないかな~」

 

「オメェはそれでいいのかよ、チクショー!!」

 

「お前がそんなにアツくなる事もなかろう」

 

そもそも候補者であるレビィが受け入れているのでガジルとしてはどうしようもない。

 

 

「だ〜〜〜!!S級になりたかったー!!」

 

「というか、ロキが居ないんじゃ仕方ないでしょ」

 

グレイもパートナー不在の為、試験を続けるのは難しそうだ。

 

「グレイ様なら次こそきっと!!」

 

「漢は引き際も肝心か」

 

ジュビアはどうでも良さそうだったし、エルフマンも渋々諦めたが…。

 

 

ナツだけが根気よく粘り続けた。

 

 

「オレは諦めねーぞ!!絶対S級になるんだ!!グレイもエルフマンもレビィも諦めるんだな!!?アミクはどーだ!!?」

 

「今回は仕方ないよ。潔く諦める」

 

もちろんアミクは納得派。ついでに言うとカナの件もあるので今回の試験中止は渡りに船だった。

 

「だったらオレがS級になる!!S級になるんだー!!」

 

諦めの悪さが定評のナツ。

 

「また次頑張ろうよ。納得いかないのは分かるけど、皆も疲れてるしこんな状況で試験に受かっても面白くないでしょ?

 次の試験までにまた強くなって、そこで皆と全力で競えた方がいいんじゃない?」

 

「…ムゥ…」

 

 

アミクが優しく諭すと、ナツは渋々ながらも納得したようだった。

 

 

 

「やれやれ、アミクが居て良かったわい。そうじゃなかったらワシが拳で納得させるところじゃった」

 

「実力行使!!?」

 

ウチのマスターは野蛮だった。

 

まぁ、今に始まった事ではないが…。

 

 

 

 

「あに、すんの」

 

「いや…本物なのかなって思って」

 

ラクサスがリサーナの頬っぺたを摘んだり引っ張ったりしてその感触を確かめていた。

 

彼はリサーナが生きていたことを知らなかったのでこうなるのも仕方ない。彼も動揺しているのだ。

 

 

そしてそんなラクサス達を木の陰から覗くウェンディとシャルル。

 

 

「ちょっと挨拶するのが怖くなってきちゃった」

 

「え!?何に怯えてんのアンタ!?」

 

ウェンディは初めてラクサスに会うので挨拶でもしようかと思ったのだが…彼の仕出かしたことやギルドに居た頃の彼の言動を聞いていた上に、ラクサスの体格が大柄だったので怖気付いてしまったのだ。

 

 

「ま、色々聞いてるかもしれないけど、いい人だよ、ラクサスは」

 

「アミクさん」

 

そんなウェンディの肩に手を掛けてアミクが微笑む。隣ではマーチが微妙そうな表情で浮いている。彼女にとっては未だにラクサスはあまり好ましい人物ではないようだ。

 

「ちょっと口下手で不器用なだけなんだよね。ラクサスが荒れてた頃だって、おばあちゃんの荷物持ってあげたりしてたし」

 

「そうなの!?ちょっと見たかったの」

 

「そ、そうなんですね…」

 

ちなみに、それを目撃したことがラクサスにバレて壁ドンで脅されたことは秘密である。

 

素直じゃないなぁ…。

 

 

過去を思い出して苦笑していると、ウェンディの表情から怯えと緊張が抜けていた。

 

 

「私、挨拶に行ってきます」

 

「私もウェンディのこと紹介したいから一緒に行くよ」

 

アミクの言葉にウェンディはさらにホッとした表情になった。やっぱり1人はちょっと緊張するらしい。

 

アミク達がラクサスに近づくと、ラクサスや雷神衆達がアミク達に気付く。

 

「あら、アンタ達」

 

「アミク…と、誰だ?」

 

ラクサスの鋭い目付きがウェンディに向けられる。ウェンディはビクッと肩を揺らしたが、勇気を振り絞って名乗った。

 

「あ、新しく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入したウェンディ・マーベルです!よ、よろしくお願いします!!」

 

ペコリと頭を下げるウェンディを黙って見下ろすラクサス。

 

 

これはあれだ。

 

ラクサスは立場的には妖精の尻尾(フェアリーテイル)を破門中なのでなんて返せばいいか分かんなくて固まってるのだ。

 

重苦しい空気が満ちる中、アミクが助け舟を出す。

 

「ウェンディはね、私達と同じ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なんだよ!しかも、治癒魔法も付加術(エンチャント)も使える超有望株!!

 私の可愛い妹分なんだ!!」

 

「なんでウェンディがアンタの妹分なのよ」

 

シャルルがつい口を挟むが、ラクサスは「ほう…」と興味を示した。

 

アミクの『ウェンディの良い所推せ推せ戦法』が効いたようだ。

 

そのウェンディは照れて頬を赤く染めているが。可愛い。

 

「…ギルド、楽しいか?」

 

「え…!?は、はい!!」

 

ラクサスの唐突な質問にウェンディは慌てるが、元気よく返事をするとラクサスは優しく笑った。

 

「だったら、特に言うことはねえ」

 

言葉は少なかったが、彼の歓迎の意思は伝わったみたいでウェンディは嬉しげに笑みを浮かべた。

 

「おい、アミク。しっかり面倒見てやれよ」

 

「言われなくても。っていうか私が面倒見なくてもウェンディはしっかりしてるから!むしろ私が面倒見られちゃう時もあるくらいだし」

 

「だめじゃねえか」

 

「ラクサスこそ私みたいにウェンディのこといじめないでよね!」

 

「するかバーカ。オメェぐらいだよ、そんなことすんのは」

 

「やっぱり意地悪!!」

 

軽口を叩き合うアミクとラクサスを見て、雷神衆やリサーナは苦笑し、ウェンディは「仲がいいですね…」と漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

「さて…カナはどこかな」

 

「さっきルーシィとどっか行くのを見たの」

 

元々はカナのことを探していたのだ。彼女のことが気掛かりだったのでマーチを伴って探していたが、中々見つからない。

 

「うーん、そういえばあっちの方に薬草の泉があるって言ってたよね?そこに居るのかも」

 

「なるほどなの」

 

 

あの泉は傷には染みるが、かなりの効能だとマカロフが言っていたのだ。

 

カナもそこで傷を癒してるかもしれない、と思って泉に向かっていると…。

 

 

「あ、カナ!ルーシィも居たんだ!」

 

「ちょうどいいの」

 

ばったり彼女達と出くわした。

 

 

「アミク、アンタも泉に入りにきたの?」

 

「ううん、カナを探してたんだ」

 

そう言ってカナを見ると、彼女はアミクに何か言いたげだった。

 

「…やっぱり、ギルダーツの事?」

 

カナが恐る恐る聞いてきたので、頷く。

 

「…アミクとマーチにも謝らないといけないね。私があんな話したせいで気を遣わせちゃって…」

 

「いやいや、それはもういいよ!」

 

余計な重荷を背負わせた、と気にしていたのだろう。暗い表情をするカナに、アミクは笑顔を向けた。

 

「迷惑なんて思ってなかったから!むしろ、カナの想いを知れて良かったかなーとも思うし…」

 

「なのなの。あーし達、仲間でしょ?悩みを聞くくらいなんてことないの」

 

アミクとマーチの言葉で、カナの表情が少し明るくなった。

 

「ありがとう、2人共…」

 

そして、決意に満ちた表情になる。

 

「実は私、ギルダーツに打ち明けようと思うんだ」

 

アミクとマーチは目を見開いた。隣のルーシィは知っていたのか動じていない。

 

「…そっか。S級はいいの?」

 

そもそも、カナがS級試験に拘っていたのは、S級魔導士になったらギルダーツに自分が娘だと打ち明けるためだったのだ。

 

なのに、そのポリシーを曲げてまでギルダーツに打ち明けるのは…。

 

「そんな言い訳でいつまでも話せないでいたら、絶対に後悔する。いつまでも、娘だって分かってもらえない。だから…」

 

カナの覚悟は固いようだ。

 

もちろん、アミク達には反対する理由がない。むしろ応援する。

 

 

 

「うん。ギルダーツならカナがS級とか関係なくカナの事を認めてくれるよ」

 

「頑張れなの」

 

「…うん」

 

 

アミク達の激励にカナは強く頷いたのだった。

 

 

 

 

ギルダーツはナツとハッピーと釣りをしていた。

 

なんかロマンがどうのとか話しているようだ。

 

「ギルダーツ!」

 

アミクが声をかけると、ギルダーツは振り向きもせずに答える。

 

 

「ちょっと待て!!今ナツが男のロマンに目覚める瞬間なんだ!!」

 

「そのマロンをゲットする瞬間を邪魔して悪いけど、カナが大事な話があるんだって!」

 

「ん?」

 

 

やっとギルダーツが振り向く。

 

 

「ほら、ナツもハッピーもお邪魔虫ですよー」

 

「連行なの〜」

 

「あたし達は退散よ!」

 

マロンを掴みかけたらしいナツと「皆のエサが〜」と泣いて悲しむハッピーを連れて草むらに隠れるアミク達。

 

その場にはカナとギルダーツの2人だけが残された。

 

今こそ、真実を伝える時だ。

 

「…………」

 

「どうした?」

 

黙っているカナに優しく問いかけるギルダーツ。

 

いつ聞いても変わらない。自分の父親の声。

 

その声は、自分の娘に対してだとどうなるのだろうか。

 

 

カナは意を決して語り出す。

 

 

「私…ギルドに来た理由って…父親を探して…なんだよね」

 

ギルダーツは少し驚いて目を見開いた。

 

「そりゃ初耳だな。つー事はアレか? お前の親父さんは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に居たのか?」

 

「う、うん…」

 

何も知らないギルダーツ。カナは言葉に詰まり、再び黙り込んでしまった。

 

「カナ!頑張れ!!」

 

「もう一息なの!」

 

「あんた達は帰ってなさい」

 

「「???」」

 

応援するアミク達の傍で状況を飲み込めないナツとハッピー。

 

 

そして、カナはとうとう決定的な言葉を言い放った。

 

 

「ギルダーツなんだ」

 

「え?」

 

 

その言葉を認識するのに2秒。

 

 

アミク達は「うんうん」と頷いている。

 

 

その言葉を理解するのに1秒。

 

 

ナツ達は口をあんぐり開けている。

 

 

その言葉に反応するのに0.5秒。

 

 

次の瞬間。

 

 

「ええええええええーーーー!!!?」

 

 

 

口を大きく開けたギルダーツの叫びが轟いた。

 

 

 

「色々あって…ずっと言えなかったんだけど…」

 

「ちょ…ちょっと待て…お前…!!」

 

 

「うん…受け入れ難いよね」

 

 

混乱しているのか、口をパクパクしながらカナのことを指差すギルダーツ。

 

 

 

それは、まぁ、長年一緒に居た少女が自分の娘だったら驚く。

 

 

だが、問題はそこではなかった。

 

 

「誰の子なんだ!!?サラ…ナオミ…クレア…フィーナ…マリー…イライザ…いやいや!! 髪の色が違う!! エマ…ライラ…ジーン…シドニー…ミシェル…ステファニー…」

 

「オッサン!!」

 

 

この男、とんだクズ野郎だった。アミク、もう見てられないよ…。アミクは仰向けに倒れて脱力した。

 

 

「どんだけ女つくってんだよ!!」

 

「わ…分かった!!シルビアだな!! そっくりだぜ!! 性別とか!!」

 

訂正しよう。

 

この男はアホだ。

 

「あーもう!!ハラ立つ~~~!! こんなしょうもない女たらしがオヤジだなんてぇ~~~っ!!」

 

カナはなんかおかしくなりそうだった。今まで自分が悩んできたのはなんだったのだろう、と。

 

 

「とにかくそう言う事だから!!それだけ!!」

 

 

「ま…待てって!!」

 

 

「私が言いたかったのはそれだけ!! 別に家族になろうとかそういうのじゃないからっ!! 今まで通りでかまわ…」

 

カナの言葉は途中で止まった。

 

 

ギルダーツが優しく抱き締めてきたからだ。

 

「コーネリアの子だ。間違いねえ」

 

その、はっきりとした言葉と共に。

 

 

「放せよ」

 

思わず、突き放すように言ってしまうが、彼は放さない。

 

 

「何で今まで黙ってたんだ」

 

「言い出しづらかったんだ。そんなこんなで今頃になっちまったのさ」

 

勇気が出なかった。自分じゃギルダーツに釣り合わないと思っていた。

 

 

理由ならいくつも挙げられるが…。

 

単純に、怖かったのだ。

 

ギルダーツに───父に拒絶されるのが。

 

 

 

「コーネリアはオレが唯一愛した女だ。結婚したのもコーネリアだけさ。仕事ばかりのオレに愛想を尽かして出て行ったのが18年前。風の便りで逝っちまった事は知ってたが…子供が居たなんて…スマネェ…お前に気づいてやれなかった…」

 

こんな近くに娘が居たのに。

 

 

自分が愛した女性との愛の結晶があったのに。

 

自分は、何も分かっていなかった。父親として失格だ。

 

 

「いいよ…わざとバレないようにしてたの私だし…勝手で悪いんだけどさ、私はこれで胸のつっかえが取れた」

 

 

やっと言えた。もう、これで思い悩むことはない。何より、父親は自分のことをこんなにも慈しんでくれている。

 

 

「こんなに近くに…娘が居たのに…」

 

「よせって…責任とれとかそういうつもりで話したんじゃないんだ…いつも通りでいいよ。ただ…1回だけ言わせて…」

 

 

幼い頃から何度も夢見ていた言葉。

 

何度もギルダーツに言いかけた言葉。

 

 

「会えて良かったよ──お父さん」

 

 

勝手にギルダーツの両目から涙が溢れる。今まで彼女が自分を見て寂しそうにしていた理由が分かった。

 

ギルドの皆と楽しそうに過ごしながらも、時々辛そうな表情になるカナ。自分はずっと、寂しい思いをさせてきたのだ。

 

 

彼はカナを強く抱き締めた。

 

 

「カナ!!もう寂しい思いはさせねぇ!!二度とさせねぇ!! これからは仕事に行くのも酒を飲むのも…ずっと一緒に居てやる…!!」

 

 

誓うように。天国のコーネリアにも誓うように言い放つ。

 

 

それに対し、カナは。

 

 

「それはちょっとウザいかな?」

 

 

それを受け入れるように。

 

 

そっと抱き返した。

 

 

 

「だから…オレにお前を愛する資格をくれ」

 

 

ギルダーツのその言葉を聞いて。

 

 

 

カナの瞳からはギルダーツに初めて会ってからずっと溜め込んでいた涙が、静かに流れたのだった。

 

 

それは再会の涙。

 

 

 

まさしく、親娘の感動の再会。

 

 

 

 

 

 

一部始終を見ていたアミク達。そして、ナツ達も涙を流す。

 

 

「よがっだの”!!」

 

「うん…ルーシィ」

 

「ん…?」

 

ルーシィはアミクの呼びかけに涙を拭いて応える。

 

 

「ルーシィも、お父さんに会いに行ってあげなよ。きっと待ってるよ」

 

「…お父さん、か。うん、そうしてみようかな」

 

カナとギルダーツの様子を見ていたら、父親が恋しくなってきた。

 

久しぶりに会いに行ってみるのもいいだろう。

 

 

そう思えた。

 

 

 

でも、この瞬間は誰も思ってなかったんだ。

 

 

私達の終わりの可能性を。

 

 

私、アミクを含めて誰も。

 

 

 

 

 

私はこれからも皆と冒険できるって信じて疑ってなかった。

 

 

こんな天気の良い日に悪いことなんて起こらないって思ってた。

 

 

私の幸せな気持ちなんて嘲笑うかのように、『それ』は着実に近づいていた。

 

 

 

 

黒い破滅が。

 

 

そして、『因果』が。

 

 

 

 

 

やって来る。

 

 

 

 

 




マーチの口調ですが、「、」は付けずに自然な感じにしました。読みづらいので。
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