妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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オリジナルです。

今回はアンケートで三位だったエルザとのお仕事。

時系列的には天狼島よりも前です。


妖精女王(ティターニア)とお仕事

いつも通り騒がしいギルド。

 

そこのテーブルにうつ伏せになっているアミク。

 

「ブロッコリーが、ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…」

 

なぜか想像上のブロッコリーを数えていた。

 

「アミク。今、暇か?」

 

そこにエルザがやって来た。

 

「よーっつ…この通り、暇でーす」

 

アミクが無気力に言うと、エルザは「それは良かった」とアミクに依頼書を差し出した。

 

「だったら、これから一緒に仕事に行かないか?久しぶりにお前と私の2人で」

 

「おー!いいにゃー!」

 

アミクはブロッコリー数えを10で止めるとノロノロと起き上がった。

 

「で、どんな依頼?」

 

アミクはエルザが差し出した依頼書を読み上げる。

 

「何々、『息子に届け物があるのでシロツメまでの護衛になって下さい』護衛依頼、ね」

 

シロツメ。確か、以前ナツやルーシィ達とチーム結成して、初めて仕事に行った所だ。メロンみたいな名前の人と「ボヨヨ~ン」と鳴く悪い人が居たはず。

 

あと、マリオブラザーズだとか言う傭兵ギルドの兄弟も。なんだか懐かしい。

 

 

「お手頃だと思うが、どうだ?」

 

「問題ないよー。じゃ、今から行く?」

 

「ああ、後でカルディア大聖堂の前に集合だ」

 

「はいよー」

 

 

 

「案の定、荷物が多い…」

 

明らかに不必要なほどの荷物を持って来たエルザ。今日は日帰りだということを理解しているのだろうか。

 

「待たせたな」

 

「依頼主は此処に来るの?」

 

「いや、私達が直接伺う。なんでも、マグノリアでもそこそこ有力な富豪らしい」

 

「ふーん…」

 

エルザが持っている依頼書を覗き見ると、依頼主の名前は『シマダ・スーマ』と書かれていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を頼ってくれるのは嬉しいね」

 

「ああ、期待には応えねばなるまい」

 

 

とにかく、依頼主の方に向かうことにした。

 

 

 

 

「この依頼を引き受けて下さりありがとうございます。私が、依頼主のシマダ・スーマです」

 

 

目の前でペコリと頭を下げるのは依頼主。

 

 

小太りで髪の毛が少し薄めな、温厚そうな中年男性だった。

 

シマダはエルザをじっと見つめると、感激したように言う。

 

 

「貴方はあの名高き女魔導士、『妖精女王(ティターニア)』では?それに、そちらのお嬢さんも『音竜(うたひめ)』ですね」

 

「うむ、その通りだ」

 

エルザは特に傲る事もせず、素直に頷く。

 

「貴方達のような人に引き受けてもらえるとは、光栄です。そんな貴方方を見込んで、お願いがあるのです」

 

シマダは優しげに目を細めた。

 

 

「私には一人息子が居ます。昔から素直で優しい子でしたが、20歳になって自立しましてね」

 

「そうなんですか…」

 

適当なタイミングでアミクが相槌を打った。

 

 

「ところが、その息子から最近商売を始めようと思ってる、と話があったのですよ」

 

お金なら父親である自分が十分に持ってるのに、なぜ?と思ったそうだ。

 

聞くところ、息子はいつまで親におんぶに抱っこしてるわけにはいかないから、経済的にも自立して、立派に生活して見せようとしているらしいのだ。

 

「ですが、商売をするには資金が足りない。けど、親から貰うのでは何も変わらない、と思っているらしく私を頼ろうとはしません」

 

「自分に厳しい人なんですね」

 

親に甘えず自分でなんとかしようとしているところは立派だ。

 

 

「私もそう思っていましたが…あまり状況は芳しくない、と聞きまして…せめて、1回だけ手助けしようと思ったんです。

 丁度、もうすぐ息子の誕生日。それを名目に、商品となる物を息子に贈ることを思いつきました」

 

誕生日のプレゼントなら、息子も拒否することもないだろうという推測もあっての思い付きだったと言う。

 

「誕生日くらい、親としての役目を果たしたい。だから是非とも息子に贈り届けたいのです」

 

真摯な表情で言うシマダにエルザとアミクは笑みを浮かべた。

 

「任せて下さい!」

 

「お役目は必ず果たします」

 

「…ありがとう」

 

もう一度、シマダは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「自分で言うのもなんですが、私は敵も結構居ましてね。どこかで話を聞きつけた者共が贈り物を奪いに来るかもしれないのです。それに山道も通りますから、盗賊なども心配で…」

 

「なるほど、だからこその護衛ってわけですね」

 

アミク達はいくつかの荷馬車の前に居た。これら全部息子に贈るプレゼントらしい。

 

「うおっ!?」

 

「『音竜(うたひめ)』と『妖精女王(ティターニア)』だ!!」

 

「本物かよ…!」

 

アミク達の他にもシダマお抱えの護衛も居た。彼らはアミク達を見るなり目を丸くして騒ぎ出す。

 

「皆さん、今回は私も同行いたします。息子の喜ぶ顔が見たいので」

 

シマダは荷馬車の1つに乗って告げる。

 

「では、出発しましょう。皆さん、よろしくお願いします」

 

シマダはお辞儀して荷馬車の中に入って行った。アミク達も適当な荷馬車に乗って座る。

 

「酔い止めは掛けたか?」

 

「もちろん。シロツメに着くまでには持たないと思うけど…」

 

乗り物での移動なので、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるアミクには辛い。なるべく襲撃に会わずに最速で着いて欲しいものだ。

 

「あ…あの…!!」

 

その時、荷馬車に乗っていた1人の男性が話しかけてきた。彼もシマダの護衛の1人で、少年と言ってもいいくらいの年に見えた。

 

「ぼ、僕!昨日ここに勤め始めたばかりなんです!キクと言います!よろしくお願いします!」

 

「あ、はい。こちらこそ」

 

「あの有名なお二人さんと仕事できて嬉しいです!!」

 

 

少年────キクは目をキラキラとさせながらアミクとエルザを見た。

 

アミクは照れ臭い気持ちになってエルザに視線を移す。

 

エルザは満更でもなさそうに肩を竦めていた。

 

「まぁ、お互い頑張ろう」

 

「はい!自分もようやく一端の魔導士になれたんです!頑張って働いて活躍します!そして、いっぱい稼ぎます!」

 

興奮気味なキクはそう言って意気込んでいた。なんだか微笑ましくなる。

 

 

「気を引き締めて行けよ。いつ敵が現れるか分からないからな」

 

「そうだね。でも、あんな優しそうな人に敵が多いなんて…」

 

「きっと財力を狙っているのだろうな。そういう輩からも依頼主と贈り物を守るのも私達の仕事だ」

 

「僕の魔法の見せ処です!…でも、初実戦ですから緊張します…」

 

しばらくアミク達は談笑しながら過ごしていた。

 

 

 

 

そして。

 

 

 

「あ、来た」

 

「はい?」

 

唐突にアミクがポツリと呟き、キクがポカンとすると、エルザは「そうか」とだけ言って剣を抜く。

 

「そろそろ敵が来ますよ」

 

「え?ほ、本当ですか!?」

 

キクは慌てて身構える。忙しなくキョロキョロして落ち着かない。

 

まぁ、これが初めての戦闘ならば仕方ないだろう。

 

 

「行くぞ!」

 

「お仕事開始ー!」

 

アミクとエルザは同時に荷馬車から飛び出して行った。

 

 

「あ、い、行くぞー!」

 

キクもおどおどしながら、自分もとばかりに荷馬車から外に出て行く。

 

 

 

そこには。

 

 

 

「オラオラオラー!!ブツを寄越せやー!!」

 

「ヘッヘッヘッヘ!!なんだ、小娘と弱そうな護衛しか居ねえのか!!」

 

 

屈強な体の男達が舌舐めずりしながらこちらを見定めていた。

 

 

「あの紋章…闇ギルド、かな?」

 

「みたいだな。名前は覚えてないが…六魔将軍(オラシオンセイス)の元配下だったはずだ」

 

そんな中でアミク達は冷静に相手を分析していた。キクや他の護衛達よりも余裕を持っており、確かにこの女性達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なのだと思い知らされる。

 

女の子なのに、大の大人よりも頼りになりそうなのは素直に感服する。

 

 

(情けないなぁ…)

 

キクは思わずガックリしてしまった。男である自分がこんなにもオドオドしているなんて…。

 

 

アミクはざっと見回して闇ギルドのメンバーの人数を数える。

 

大体30人。

 

「アミク、何人までいける?」

 

エルザの質問にアミクはなんでもないように答えた。

 

「全員いけると思うけど、それじゃエルザは手持ち無沙汰だよね」

 

「そうだな。ここは公平に半分ずつにしようか」

 

「了解ー」

 

そんな会話をするアミク達を闇ギルド員は嘲笑った。

 

 

「おいおいお〜い、剣士気取りの女と箱入り娘のお嬢ちゃんで俺らを相手できると思ってんのかよ?」

 

「寝言はベッドで言いな!!」

 

闇ギルド員は、武器を持っている者はそれを構え、魔法を使える者は魔力を高める。

 

「はいはい、毎度お馴染み舐めプ発言お疲れ様でーす」

 

「私達を敵に回したのが、運の尽きだったな」

 

アミクも両手に音を纏って、エルザは剣を構えて闇ギルド員達に向けた。

 

「換装!!」

 

エルザは換装して『飛翔の鎧』を身に纏った。

 

飛翔の鎧とは速度を上げる豹柄の鎧で、チャームポイントが獣耳を着けている所なのだ。

 

 

「待てよ…あの『換装』…まさか!!」

 

それを見た1人の闇ギルド員が焦った声を上げた。

 

 

「おい!!そいつはやべえ!!そいつは――――」

 

だが、そんな彼の声が聞こえなかったのか、何人かの闇ギルド員達がアミク達に飛びかかる。

 

「――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士、妖精女王(ティターニア)、エルザ・スカーレットだぁ!!」

 

「――――『飛翔・音速の爪(ソニッククロウ)』!!」

 

エルザの目にも止まらぬスピードの攻撃が闇ギルド員を襲った。

 

「ぎゃああああ!!!」「ぐああああああ!!!」

 

「い、一瞬で…!?」

 

その光景を見たキクは唖然とする。

 

「人の幸を食い物にする貴様らに容赦はしない」

 

エルザが鋭く冷たい視線を、闇ギルド員達に向けた。

 

「ひぃいいいいい!!!」

 

「相手が悪ぃぞ!!撤退だー!!」

 

無事だった闇ギルド員達は急いで逃げようとするが…。

 

 

「逃がさないよ~」

 

アミクがあっという間に接近していた。

 

そして。

 

「『音竜の響威(フォルツァンド)』!!」

 

 

「こ、こいつ…もしや『音竜(うたひめ)』――――ぎゃあああああ!!!」

 

「嘘だろオオオ!!!」

 

 

一気に敵を一掃。

 

シマダの護衛の出る幕などなかった。

 

(凄い…!)

 

 

強いと噂には聞いていたが、実際に目にしても現実味がないほどの強さだ。

 

 

 

それに比べて、自分は女の子達の後ろに隠れて、怯えて縮こまっていただけだ。

 

 

「はぁ…」

 

 

ますます自分が情けなく思えてしまうキクであった。

 

 

 

 

闇ギルド員達を倒した後、彼らは評議院に突き出すために全員捕え、空いている荷馬車に詰め込んだ。

 

「はぁ、こんなところでロスタイム…間に合うかなぁ」

 

酔い止めの時間がきになるアミクは不安げに外を見た。

 

 

「心配するな。お前がダウンしても、私が1人でやってやるさ」

 

「そう言う問題じゃないんだけどねぇ…」

 

アミクが苦笑していると、キクがズーンと落ち込んでいることに気付く。

 

「どうしたんですか?」

 

「い、いやあ…2人共凄いなぁって、僕なんか全然で…」

 

すっかり自信をなくしてしまったらしい。

 

 

まぁ、こんなのは経験だと思うのだが。

 

「初めてだししょうがないですよ。こういうのは慣れ、ですから」

 

アミクが励ますもキクが顔を上げることはなかった。

 

 

 

 

 

次の襲撃。

 

 

「ヒャッハー!!有り金全部出せやぁ!!」

 

「今度は盗賊かぁ…」

 

山道を通っていると、盗賊達が現れて通せんぼしたのだ。

 

「さっきより多いな…」

 

「護衛さん達にも手伝って貰おう!ほら、キックさん!行くよ!!」

 

「あ、あの…」

 

 

意気揚々と外に出るアミクを複雑そうに見るキク。エルザはそんな彼を見ると、肩を竦めた。

 

「先手必勝!『音竜の旋律』!!」

 

「なんだこの────ぎゃああああああ!!!」

 

早速アミクが敵をなぎ倒している音が聞こえる。あちこちからも戦闘音が聞こえるので、他の護衛達も戦っているのだろう。

 

「さて、行くか」

 

エルザも剣を抜いて敵に斬りかかっていった。

 

「えっと、えっと、僕も…えい!!」

 

キクは杖から炎を生成すると、敵の1人に向けて放った。

 

 

しかし。

 

 

「おらあ!!」

 

あっさり、腕で薙ぎ払われてしまった。その敵はギロリとキクを睨む。

 

 

「おおん!?テメェか!!弱っちそうな奴のくせに生意気な!!」

 

 

「ひ、ひいいいい!!?」

 

 

あまりの迫力と形相にキクは尻餅をついてしまった。腰が抜けて動けない。

 

そうしている間にも、敵はズンズンとキクに近づいて来る。

 

そして、キクの目の前まで来ると武器を振り上げた。体が恐怖で固まって動けず、見ていることしかできない。

 

「死んで詫びろやああああ!!!」

 

 

「うわあああああああ!!?」

 

 

終わった。

 

 

 

 

 

そう思った直後。

 

 

 

「ぐえ!?」

 

 

敵が真横に吹っ飛んだ。

 

 

 

「大丈夫ですかー!?」

 

横を見ると、アミクが手を振りながら駆け寄って来るところだった。

 

 

 

「もう粗方終わってあとはその人だけなんですけど…怪我はありませんか?」

 

アミクがしゃがみ込んで自分の身体を見てくれる。大きな外傷はなく、ちょっと尻を打っただけだった。

 

「大丈夫、です…」

 

そう答えるキクの声は少し震えていた。

 

 

 

 

「これで治りましたよ」

 

「すまねえな、嬢ちゃん…」

 

「治癒魔法なんて初めてだぜ」

 

アミクは先ほどの戦闘で怪我をした護衛達の怪我を治していた。

 

アミクの治癒魔法を見た護衛達は感動したり驚いたりと何かしら反応をする。

 

「やっぱり、希少な治癒魔法を使える者が味方に居ると凄く助かりますね…」

 

シマダも感心したように頷く。

 

 

「ええ、私達妖精の尻尾(フェアリーテイル)も彼女には様々な場面で助けられてきました。彼女は妖精の尻尾(フェアリーテイル)になくてはならない存在です」

 

「い、いやだな〜エルザ。大袈裟だよ」

 

それを言うなら、エルザだって妖精の尻尾(フェアリーテイル)には欠かせない存在だ。そう伝えると、エルザは「そう言われると嬉しいな」と微笑んでいた。

 

 

 

 

「でも、こうしてエルザと2人きりで仕事行くのもいつぶりだろうね…」

 

「最近はチームで行くことが多かったからな。たまにはこういうのも悪くない」

 

エルザとアミクが荷馬車に座って話している間、キクはずっと俯いていた。

 

「最初、お前と一緒に仕事に行った時には大人しい奴だと思っていたのだがな。ブロッコリーを見て目の色を変えた時には別人になったかと思ったぞ」

 

「アレは恥ずかしいから思い出させないで…だ、だったら私もエルザの事すごくクールな人だって思ってたけど、宿屋の部屋でフリフリな洋服を着ているのを見た瞬間、飲んでた水を吹き出しちゃうところだったよ」

 

「べ、別にいいだろう!ちょっと着てみたかっただけなんだ!」

 

「うんうん、似合ってたよー。あの慌て様は可愛かったなぁ」

 

「も、もう忘れろ!そのことは!」

 

仲良さげに話し合う美女と美少女。それはとても絵になる光景だったが、キクは心ここに在らずといった感じでボーッとしていた。

 

 

 

「えー?また来たー!?」

 

「今日は来客が多い」

 

あともう少しでシロツメに着く、というところで今度は大人数が襲って来た。

 

「でも、なんでこんなに多いの…あれ?」

 

よく見てみると最初に襲撃してきた闇ギルドの紋章をしている者達が混じっている。

 

 

それに、してない者の方は2番目に襲って来た盗賊達と同じような服装だ。

 

 

「あ、もしかして闇ギルドと盗賊が一緒に襲って来たの?」

 

「同じ穴のムジナ同士で手を組んだのか」

 

しかし、盗賊はともかく、闇ギルドがこの贈り物に固執する理由は何だろうか。金に困っているのかな?

 

アミクはちょっと疑問に思った。

 

「さて、いい加減うんざりしていたところだ。早めに終わらせてやる」

 

エルザは『天輪の鎧』に換装すると、フワリと浮く。すると、敵の間でどよめきが走った。

 

「なっ!?…アレは『妖精女王(ティターニア)』か!?」

 

アミクが告げると、エルザは凛として言い放つ。

 

 

「情報収集を怠って襲撃するとは、命知らずにも程がある」

 

エルザの周りを囲むように、いくつもの剣が現れ、切っ先を敵の方に向けた。

 

 

「覚悟しろ」

 

 

「あー、ソッコーで決めちゃう感じ?」

 

 

アミクが頭を掻きながら言っていると、敵の方からも声が上がった。

 

 

「か、覚悟するのはテメェ等の方だ!!『妖精女王(ティターニア)』!!」

 

1人の男の声と共に、何かがアミク達の前に現れた。

 

一言で言うなら、それはロボット。大人の男性よりも大きな体躯、機械のような腕と足が重苦しく動き、頭部にあたる部分にある赤いレンズが怪しい光を放つ。

 

 

「魔導兵器『エウロパ』!!コイツがあれば『妖精女王(ティターニア)』だろうが敵う訳がねえ!!」

 

そう、闇ギルドが使ってきたのは有人魔導兵器。ジュピターを元に研究・開発をしてきた、ジュピターの派生とも言える兵器である。

 

実は以前、アミクが目にした『イオ』も同じ過程で出来た同系列のものである。

 

 

 

「魔導兵器!?」

 

「あいつ等がそんなものを!?」

 

当然護衛達は慌てた。キクなんか顔を真っ青にして「なんでこんな事に…」と震えている。

 

 

「…『攻撃力強歌(アリア)』『防御力強歌(アンサンブル)』」

 

アミクは自分とエルザに付加術(エンチャント)を掛ける。

 

「ありがとう」

 

「あの人達、あんなの使って奪う物まで壊しちゃったらどうするんだろ」

 

「さぁな。そこまで頭が回っていないのかもしれん」

 

エルザは「舐められたものだな」と不敵に笑った。宙に浮いていた剣が一斉にエウロパの方に向く。

 

『ヒィ…!』

 

エウロパに乗って操縦していた男が悲鳴を漏らす。

 

『く、くそ!!やってやるよ!!いけええええ!!!』

 

エウロパがガシャンガシャンと足を動かしながら接近してきた。そして、その大きな腕を振りかぶってエルザに向かって拳を降り下ろした。

 

「『音竜の響拳』!!」

 

その拳とアミクの拳がかち合う。

 

『う、おお!?』

 

「そい!」

 

アミクが更に力を込めると、エウロパの拳が押し返され、エウロパは軽くのけ反った。

 

『こ、この小娘…!エウロパを押し返すなんて、なんて馬鹿力してやがる!!』

 

操縦者は戦慄してアミクから離れ、後ろに下がった。

 

「エルザ、このガンダムもどきは任せてよ。エルザは有象無象をお願い」

 

「…私がやろうと思ったのだが、まぁいいだろう。任せるぞ」

 

「はーい。よし…」

 

 

エルザがアミク達から離れ、その場には唾を飲んで見守るキクや護衛達と、エウロパが残っていた。

 

 

『…テメェ…大人の男を舐めたらどうなるか、分かんねえみたいだなぁ』

 

小娘も油断ならないが、さっきの赤毛の女よりは弱いだろう。

 

すぐにぶちのめす。

 

そう思った操縦者はエウロパの両手をこちらに向けてきた。このすると、手が腕の中に引っ込み、代わりに砲身のようなものが出て来る。

 

『痛い目見せてやるぜ!!発射!!』

 

その砲身から小規模のジュピターのような魔導収束砲が発射された。

 

威力は『イオ』と同じくらいだろうか。

 

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

アミクは全力でブレスをぶっ放した。音のブレスと魔導収束砲が衝突し、せめぎ合う。

 

(『イオ』の時はウェンディと2人で押し返せたけど…)

 

今なら。

 

『うおおおおああああ!!?』

 

 

更に力を込め、ブレスで魔導収束砲を拡散した。

 

ブレスも霧散してしまったが、相手が怯んでいる今が好機。

 

 

 

「『音竜の奇想曲(カプリース)』!」

 

 

思い切ってアミクがエウロパに急接近。

 

そして、音の振動を纏った拳で、エウロパの胴体を殴りつけた。

 

 

『なっ…!?』

 

「グダグダ時間を掛けるつもりはないから、ごめんね?」

 

 

直後、エウロパの殴られた部分に罅が入る。

 

 

そこを中心にあっという間に全体に罅が走っていき――――。

 

 

 

『ぎゃああああああ!!!』

 

 

木端微塵になった。

 

ダメージが中に居た操縦者まで届き、ボロボロになって白目になりながら放り出される。

 

 

「エウロパを一撃で…!!」

 

「そんなバカな…!!」

 

予想外の事態に固まる敵。

 

「すげえ!!?」

 

「これが、音竜(うたひめ)の力…」

 

士気が上がる味方。

 

「次は貴様等だ」

 

そして、鋭利な視線を向けるエルザ。

 

 

今度はエルザのターンだった。

 

 

「『天輪・繚乱の剣(ブルーメンブラット)』!!」

 

無数の剣が怖気つぐ敵に飛んでいき、エルザ自身も突っ込んで行く。

 

そして、彼ら全員をすれ違いざまに斬りつけた。

 

『…!!』

 

悲鳴を上げることすらできずに、血飛沫を上げて地面に倒れ伏す敵。

 

『うおおおおおお!!!?』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女魔導士強ぇええ!!』

 

味方はエルザの華麗な殲滅と、アミクの派手な撃破に大盛り上がりだ。

 

「さっすが。お疲れ」

 

「ああ、アミクこそ余裕だったな」

 

アミクは多少疲れているようだったが、2人共余力が残っているように談笑する。

 

「これで終わるといいんだけどね…」

 

「そうだな。何度も来られると流石に疲れる」

 

そんな2人を羨むようにキクは見ていた。

 

 

 

「おっぷ…」

 

結局酔った。

 

具合悪そうに口を押さえるアミクを、キクが心配そうに見ている。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「た、体質みたいなものだから…」

 

「そ、そうなんですか…」

 

アミクはぐったりしながらも、浮かない顔をしているキクをじっと見た。

 

「そっちこそ、大丈夫?」

 

「え…」

 

アミクのこちらを見透かすような瞳に、キクはつい「うっ」となった。

 

そして、じっと見つめられていることに耐えられなくなったのか、キクはポツリポツリと吐露する。

 

「僕は昔からダメダメで…いつも家族に迷惑ばかり掛けていました。だから、今回やっと仕事始めて、稼いで家族の役に立とうと思ってたのに…こんなザマです…」

 

いつまでも経っても腰抜けで、守られてばかりいる自分に嫌気が差す。

 

そう言って俯くキクを見つめるエルザとアミク。

 

そして、アミクが頬を掻きながら言い放つ。

 

「若いねー」

 

「は?」

 

急に自分よりも年下だと思われる少女からそんなこと言われのでポカンとした。

 

「あ、すみません。でも、そんな風に悩んでいるのがいかにも若者、って感じでつい」

 

「は、はぁ…」

 

何が言いたいのだろうか。

 

「まぁ…焦ることはないと思いますよ?」

 

続いて言われた言葉にキクはピクリと眉をあげた。

 

エルザも「うむ」と頷いて話し出す。

 

「誰しも最初から強かったわけではないさ。今だって、力不足を実感する時もある」

 

エルザはそう言って哀しげに自分の手を見た。シモンの事を思い出しているのかもしれない。

 

「だが、私は私なりの強さで生き残ってきた。アミクもそうだ。人間は自分だけの強さを持っている。それは、きっとお前も一緒だろう。その強さに、今は気付けなくても、いつか気づければいい」

 

「それに、今すぐ強くなくても、ゆっくり強さを得ていけばいいんですよ。貴方を支えてくれる人達だって、力になりますから」

 

魔導士の先輩とも言える2人からそんな言葉を貰ったキク。

 

曇っていた心に光が差し込むようだった。感じていた無力感と焦燥感が薄らいでいくのを感じる。

 

 

(そういえば…)

 

支えてくれる人達で思い返せば、自分の家族はこんな情けない自分でも嫌わずに愛してくれていた。力がなくとも、自分を認めてくれる存在が居た。

 

(ちょっと思いつめていたのかもしれないな)

 

キクは軽くなった心でアミク達にお礼を言う。

 

「ありがとうございます。僕も自分なりに頑張ってみます」

 

「まぁ、私も偉そうに助言できる立場じゃないんですけどね」

 

アミクは照れ臭そうに苦笑した。

 

「だって乗り物乗っただけで…うえっ」

 

「もう少しの辛抱だ、アミク!」

 

さっきまでの女神の如き慈悲深い笑みは影もなく、ぐったりと崩れ落ちるアミク。

 

「あ、ははは…」

 

さっきの雰囲気が台無しになって可笑しいやら何やらだった。

 

 

 

 

「いやぁ、本当にありがとうございます。お陰様で無事に息子にプレゼントを送れました」

 

シマダは上機嫌に笑いながら言った。

 

「いえ、お役に立てたなら何より…うぷ」

 

アミクが控えめな態度で告げる。気分悪そうな顔しながら。

 

あれからは襲撃もなく、無事にシロツメに到着したアミク達一行。そして、人通りの少ない道に入って人気のない場所まで来て、そのまま息子の店だとか言う建物までやって来て、護衛達と一緒に荷物を中に運んだのだ。

 

そこで、ゴツい体をした息子に会って、彼から「マジか、親父!!ありがとう!!」と大層喜ばれた。息子と父親で全く似てないのだが、そういうものなのだろうか。

 

「息子の喜ぶ顔が見られて良かったです。貴方方には報酬だけでは返しきれない恩ができました…」

 

「私達は私達の仕事をしたまでです」

 

エルザもにこやかに微笑んで言う。

 

キクは彼女達から少し離れた場所でその様子を見ていた。

 

すると、シマダは荷物を広げて2本の瓶を持ってきた。

 

「これは報酬とは関係のない、私からのお礼です。飲むと元気が出る魔法薬です」

 

「え!?いや、いいですよそんな…」

 

「ええ、我々は報酬だけ貰えれば」

 

「いえいえ、私からのほんのお気持ちですよ…まぁ、試飲も兼ねてますがね。息子に同じ物を渡しましたので、気に入ってくれたらぜひご贔屓に」

 

そう言って抜け目なさそうに笑うシマダ。妙に商売人のようなところも見せるものだ。

 

「へー、エナジードリンクみたいなものかな?頂きま────」

 

「待て、アミク。後にしておけ」

 

「あ、すみません」

 

早速飲もうとしたアミクは、エルザに注意され、慌てて瓶をポケットにしまった。

 

「それでは、報酬の話を────」

 

「その前に1つ、言いたいことがあります」

 

エルザの静かな声が、妙に響いた。

 

アミク達が怪訝そうにエルザを見ると、彼女は手に持っていた瓶を大きく振りかぶり────

 

パリン!!

 

 

床に叩きつけて割った。

 

「なっ!?」

 

「エ、エルザ!?何を!?」

 

その場の全員が驚いて固まっていると、エルザがそこ冷えするような声で言い放った。

 

 

 

 

 

「この違法魔法薬について説明をしてもらおうか」

 

 

 

そう、衝撃的なことを口にしたのだ。

 

 

「ええ!?違法魔法薬!!?」

 

キクはびっくりして床で割れた瓶と液体を見る。

 

 

「ど、どういうこと…?」

 

 

アミクは恐る恐るポケットから瓶を取り出してじっと見つめた。

 

 

シマダは引き攣った笑みを浮かべて動揺しながらも、シラを切った。

 

「は、は…な、なんの話ですかな?」

 

「生憎、私には幻惑魔法(・・・・)は効かんのでな」

 

エルザが片目を瞑りながらした発言に、アミクはキョトン、となった。

 

「げ、幻惑魔法…?」

 

「ああ、この目(義眼)にははっきりと、深刻な中毒性がある為、発売も生成も禁止となった魔法薬が映っている」

 

そう言われ、アミクはこの目の前にある瓶は幻惑魔法によって見せられている光景だと理解する(・・・・)

 

 

すると────

 

 

「それだけではない」

 

 

手に持っている瓶だけでなく────視界に映っている店内全体がブレ始めた。

 

そして。

 

 

 

「この店自体が違法店だったのだ」

 

 

さっきまで見ていた光景が剥がされるように消え、本当の光景が見えてきた。

 

 

禍々しい薬物。危険な香りがする武器。

 

店内も全体的に薄暗く、陰鬱な雰囲気を醸し出している。

 

 

アミクの手に持っているのも、不気味な色合いをした液体の入った瓶だった。

 

「うわっ!?それに禁止魔法まであるじゃん!!イケナイお店じゃん!!」

 

「ななな、なんですか此処はぁ!!?」

 

キクも幻惑魔法が解けたのか、困惑した声を出す。

 

 

 

そして、シマダは。

 

 

「…はぁ、勘弁して下さいよぉ。予想外ですよこんなの…幻惑魔法が破れるなんて」

 

 

困ったようにため息をついた。

 

 

「範囲も広く、多少実力のある魔導士でも気付けない程、幻惑魔法のレベルが高い事は認めるが、相手が悪かったな。私を店に入れた事が間違いだった」

 

「普通の店だという事を印象付けて油断させようとしたのですが、裏目に出ましたね」

 

冷静さは保っているものの冷や汗を垂らすシマダ。そこで、キクが声を上げる。

 

 

「さ、さっきからどういう事ですか!?説明して下さい!!」

 

何が何だかだ。なんで自分の仕事先が違法な行為に手を染めているのか。

 

アミクが簡潔に結論を言う。

 

「…えっと…つまり、シマダさん達は違法魔法薬とか禁止魔法とかを売って儲けてたの?」

 

「そういうことになりますね」

 

キクは空いた口が塞がらなかった。

 

「え…」

 

「なるほどな。マグノリアで売り捌けば、足が付きやすい。だからこんな所まで来て『お店』に持ってきていた訳だな」

 

「息子さんもグルってことだね」

 

エルザとアミクの推測にシマダは首を振る。

 

「ああ、息子ってのは嘘ですよ。此処の店長なだけです。息子って事にしておいた方が言い訳も利くって思ってたんですけど…」

 

息子が云々も全て作り話だったのだ。感動した自分がバカみたいだ。

 

エルザはシマダの言う事を遮って推測を続ける。

 

「盗賊はともかく、闇ギルドが執拗に欲しがるわけだ」

 

「ええ、裏ではかなり取引されている物ばかりですからね。どこから漏れたのか、私が所有しているのを聞きつけて、自分達で手に入れて金にしようとでも思ったんでしょう」

 

闇ギルドが一資産家を狙ってたのはそういう背景があったのだ。

 

「そして、我々に違法な魔法薬を飲ませることによって共犯にして且つ依存させて魔法薬なしじゃ生きられないようにしようとしたのか」

 

「エグイことするなぁ…」

 

なんて残酷で狡猾な事をするのだろう。

 

「すっかり騙されたよ。エルザが居なかったら危なかったかも…」

 

あんなに愛おしそうに息子の事を語る人がそんな悪党だなんて予想だにしていなかった。

 

「じゃ、じゃあ僕は…犯罪の片棒を担いでいたということですか!?」

 

「平たく言えばそうなるけど…そもそも貴方は昨日始めたばっかりで知らなかったみたいだし…」

 

「彼の事も徐々に引き込むつもりでしたけどね。貴方達共々薬漬けにしたりしてね」

 

「そ、そんな…」

 

真相を知ったキクに追い打ちを掛けるようにシマダから放たれた言葉に、キクは凍りついた。

 

では、自分より先輩のあの護衛達は既に…。そして、自分もそうなる危険があった事…。

 

 

「あの『妖精女王(ティターニア)』と『音竜(うたひめ)』を薬漬けにすれば、とんだ拾い物だと思ったんですけどね…」

 

「下劣な。だが、残念だったな。貴様らの目論見が暴かれた以上、悪行もここまでだ」

 

エルザが剣を抜いて切っ先をシマダに向けた。

 

シマダは汗を一筋流すが―――――その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「これは敵わないですねぇ。『妖精女王(ティターニア)』と『音竜(うたひめ)』なんて強大な魔導士、普通なら勝てっこないですよ…」

 

 

シマダがそう言った直後。

 

 

アミク達を囲むように何十人もの人が現れた。武器を持っていたり、魔力を高めていたり、完全に臨戦態勢だ。

 

 

 

「ひぃっ!!?せ、先輩…」

 

「悪ぃな、キク。それに、譲ちゃん。恩を仇で返すようで心苦しいが、こうするしかないんだよ」

 

そしてその中にはあの護衛達も居た。

 

「そんな…」

 

アミクは涙を浮かべる。せっかく仲良くなったと思ったのに…きっと中には望んでこんな事をしているわけではない人も居るはずだ。

 

 

なのに、シマダの卑劣な罠でそうせざるを得ない体になってしまった。

 

結局、彼らも被害者なのだ。アミクはそう思う。

 

「そう、『普通では』ね。此処には禁止されてる魔法も、魔法薬も武器もあるんですよ。あの魔導兵器を簡単に破壊する所を見ると、楽観視はできませんが、これだけの数、そして連戦で魔力も減っている貴方方に対してだと、勝機は十分にあります」

 

薄笑いを浮かべて得意げに説明するシマダ。

 

 

なるほど、確かに嫌な感じのする魔力も感じる。

 

「こいつらは化け物みてぇに強ぇけど、皆で一斉に掛かればやれるはずだぜ!!」

 

「ぶち倒したやらァ!!」

 

 

彼らは舌なめずりしたり、下劣な笑みを浮かべてたりしていた。

 

 

ありゃあ、舐めてる顔だ。

 

 

 

「―――貴様等。我々が妖精の尻尾(フェアリーテイル)である事を知っての上での狼藉だろうな?」

 

 

エルザから放たれた、炎さえも凍て付くような低い声。

 

 

「―――『換装』」

 

 

エルザの身体が光り輝き、眩しさで敵は目を瞑る。

 

 

そして――――。

 

 

「『黒羽の鎧』」

 

蝙蝠のような黒い翼と十字架の模様がある鎧に換装した。髪型もポニーテールだ。

 

 

「~♪『速度上昇歌(スケルツォ)』!」

 

 

アミクも付加術(エンチャント)をエルザと自分に掛けて強化。

 

 

「エルザ。思いっきり暴れちゃってよ。建物なんて気にしない!」

 

 

「…ふっ、任せろ」

 

アミクが冗談っぽく言うと、エルザは軽く笑みを浮かべて剣を構えた。

 

その余りの迫力に敵全員の足が竦み、身体が固まる。

 

 

 

 

――――彼らは、エルザ・スカーレットという女性を甘く見過ぎていた。

 

 

「『黒羽・月閃』!!」

 

 

一瞬で目の前からエルザの姿が消えたかと思うと、彼らはいつの間にか床に倒れていた。

 

または壁に叩きつけられ、天井にめり込み、血を噴いて白目を剥く。

 

 

冗談のように次々と敵が倒れていく。

 

 

「な、なぜだぁ!?なぜあんなにも余力がある!!?」

 

その光景を見たシマダは目を血走らせながら叫んだ。疲れる素振りどころが、むしろさっきよりも元気いっぱいに力を振るっているように見えて絶叫したい気持ちでいっぱいだった。

 

 

「うちのエルザはS級魔導士だよ?あんな少しの連戦くらいでへこたれるわけないじゃん」

 

アミクがやれやれ、と肩をすくめていると、アミクやキクに向かって襲いかかって来る敵の姿が。

 

「ひやああああ!!?」

 

「『音竜弾』!!」

 

キクに襲い掛かった敵を音の弾でぶっ飛ばし、自分に向かって来た者を衝撃波でぶっ飛ばす。

 

 

「『音竜波』!!」

 

「ぎゃあ!!」

 

 

エルザが無双している傍で、アミクはエルザが討ち漏らした敵を狩っていく。

 

 

だが。

 

 

 

「うおおあああああ!!!」

 

 

アミクの攻撃を掻い潜って突っ込んで来た1人の男。シマダの息子だと詐称していた男だ。

 

彼は火事場の馬鹿力なのか、アミクの急接近すると武器を振りかぶった。

 

(やっちゃった!!)

 

一瞬の油断を突かれて、接近を許してしまった。

 

「きゃあ!!」

 

思わず目を瞑る。

 

 

その瞬間。

 

 

「アミクさん!!危ない!!」

 

ドン、と突き飛ばされ、アミクは床に倒れた。

 

「え…」

 

目を開けると、キクがアミクに覆い被さっていた。そして、彼の背中には痛々しい傷ができていた。

 

「キクさん!?まさか、私を…」

 

アミクが慌ててキクを起こすと、キクは辛そうだが、満足げな笑みを浮かべた。

 

「はは…体が、勝手に、動いて…でも、役に立てたなら…嬉しいです」

 

誰かを守れた。

 

それだけで、自分は胸を張れる。

 

 

キクは満足だった。

 

 

「いや、死にそうな雰囲気だけど死なないでよ!?ていうか死ぬほどの怪我じゃないよ!」

 

アミクは急いでキクの背中に手を当てる────

 

 

「やったぜー!!今だ、襲え襲え!!」

 

「女は殺すな!!捕縛しろ!!」

 

「舐めた口利いた事、後悔させてやる!!」

 

無粋な男達がアミク達が倒れたのを見て、チャンスだと思ったのか襲い掛かって来る。

 

流石に怒ったアミクがキッと男達を睨むと

 

「加減はあんまりできないかもしれないけどごめんね!『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

ドゴォン!!と一際大きな衝撃波が男達を軒並み吹っ飛ばした。

 

「『音竜の鉤爪』!!」

 

「ぐえええ!!?」

 

更に、偽息子の首元に蹴りを叩き込んで、壁に叩きつけてやった。

 

「『治癒歌(コラール)』」

 

敵が減ったので急いでキクの治療。

 

「うわ…凄い…痛みが和らぐ…これが、治癒魔法…」

 

初めて治癒魔法を経験したのか、感動したように呟くキク。

 

 

 

そうしていると。

 

 

 

(くそ!!これは逃げるが吉か…)

 

敗戦濃厚を感じ取ったシマダがすぐさま判断し、出口に向かって駆け出した。

 

1人だけで逃走する気だ。

 

「あ!」

 

アミクが気付くも、余っていた敵が殺到してきて追いかけられない。このままだと逃げられてしまう。

 

そう思い少し焦るアミクだったが。

 

 

 

「『ファイアバレットォ』!!」

 

キクの掌から大きな炎の塊が射出され、逃げようとするシマダに直撃した。

 

 

「あぢィィィぃ!!!」

 

火に包まれ、転げ回るシマダ。

 

「ナイス!!やったねキクさん!!」

 

「ぼ、僕が…やった?」

 

 

キクは自分がやった自覚がないのか、呆然としていた。

 

 

「グソおおおお、捕まってたまるかぁぁ…」

 

黒焦げになりながらも、往生際悪く這ってでも逃げようとするシマダ。

 

 

そのシマダの目の前の床に、剣が突き刺さった。

 

 

「のおお!!?」

 

目を見開いて驚くシマダ。

 

 

「言ったはずだ。人の幸を食い物にするような奴らに容赦はしないと」

 

彼らが売ってきた魔法薬や武器、魔法でどれだけの人が不幸になった事か。

 

剣を突き刺したエルザが冷徹な瞳でシマダを見下ろしていた。

 

 

そのエルザの背後には、死屍累々と横たわる部下達の姿が。

 

 

「うげっ」

 

「というわけで、おじさんももう眠ってね〜」

 

「おふぅ」

 

そこに、アミクがパァンと手を鳴らし、『音竜騙し』で気絶させた。

 

 

 

 

 

「終わった~、危なかった…」

 

「怪我はないか?」

 

「うん、キクさんが守ってくれたから…エルザは無双してたね」

 

 

全員倒してから、評議院を呼んだアミク達。襲撃してきた闇ギルドや盗賊達諸共引き渡した。

 

 

…ちなみに、敵側で怪我が酷い者を癒していたら、キクに「貴方はなんて心が綺麗なんだ!!」と感動された。

 

敵も泣いて「悔い改めます!!」とか言ってくるし。私は神か。

 

ボーっと評議院に事情を説明しているエルザを見ていた。

 

 

その時、アミクの目に疲れた様子のキクが映る。

 

「キクさん!」

 

「わっ、は、はいっ!!?」

 

さっきの勇敢な姿はなく、いつも通りおどおどしているキク。

 

 

だが、アミクは知っている。彼は本当に大事な時には、体を張ってでも人を守り、行動を起こせる『強い』少年だという事を。

 

「さっき、凄くかっこよかったよ!!ありがとう!!」

 

 

簡潔だが、想いが込められた言葉。

 

 

それを聞いたキクは心が震えた。今までそんな言葉言われたことなんてないのに…。

 

「エルフマン風に言うなら…『漢』だね!」

 

クスリ、と笑うとアミクは続ける。

 

「それが、貴方の強さ。うん、もう大丈夫!だって、キクさんは弱くなんてない。立派な『強い』男だから」

 

 

満面の笑みで言い放つアミクを見て、キクの心臓が「ドキーン!!」となった。

 

 

「家族を大切にね?じゃ!またいつか!」

 

 

手を振って去って行くアミクの後ろ姿を見ながら、キクは決心する。

 

 

「ふさわしい男になれるように、もっと強くなる!!」

 

ここでもまた、1人の少年の物語が動き出した。

 

 

 

 

マグノリアに帰るための馬車に向かっている2人。

 

「最近こんなのばっか…普通の依頼が厄介事に変わるんだよね…」

 

 

「いいじゃないか。こうしてマグノリアやシロツメに巣くっている悪党を成敗できたのだからな」

 

「まぁ…ね」

 

「アミクもよく頑張ったな」

 

エルザがアミクの頭を撫でる。アミクはそれを嬉しそうに受け入れていたが、ハッとして「もう!子供じゃないんだから!」と赤くなって離れた。

 

 

「でも、こういうの昔を思い出すなー。私とエルザで暴れたよねー」

 

「ふふ、そうだな。あの頃は私もやんちゃだった」

 

「今もそういう節あるけど」

 

「む、心外な」

 

以前、何度かエルザと仕事を行った時のように、2人は並んで歩く。

 

こうして見ると、結構あった身長差が、大分縮んでいる。それだけ、時が経った証拠なのだ。

 

「たまには、私達2人で仕事に行くのもいいかもな」

 

「もう面倒事は勘弁だけどね…うん、久しぶりに楽しかったよ。エルザといると、ヒヤヒヤさせられる時もあるけど」

 

チーム皆で居るのもいいが、特定の誰かと過ごすのも、親交が深まるようで悪くない。

 

「マグノリアに帰ったらケーキ屋さんに寄ろう。最近新作のケーキが出たんだ」

 

「いいね、いいね!―――――あ」

 

アミクは思い出した。

 

 

唐突に。

 

 

「私達、報酬貰ってないじゃーん!!」

 

報酬を貰う前にエルザの暴露大会が始まったので、報酬は貰えずじまいだった。

 

 

「む、言われてみればそうだな。だが、あんな汚れた金はいらん」

 

 

「それはそうだけど、結局ただ働き―――!!」

 

 

 

眩く照らす太陽の下で、アミクの絶叫が響いたのだった。

 

 

 

 




今回出てきたオリキャラ キク

少し頼りない少年だが、いざって時は度胸のある奴。

炎系の魔法を使う。

最近気になっている人物がいるらしい。



とってつけたようなラブコメですみません…しかも、多分あんまり出ないです、今後。
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