長めの閑話書くって言ったけど…。
もう七年後始めていい?
「変な依頼書があるの」
ある日。
クエストボードを見ていたマーチが1つの依頼書を持ってアミクの元へやって来る。
「変な依頼書?まさか…『報酬は出さないよ』とか書いていある?」
「いや、そんなことはないけどなの」
「これなの」とマーチが差し出した依頼書を読んでみる。
「『この文字の意味を解いて下さい。解けたら50万J差し上げます』…読み解いただけで50万!?胡散臭いなぁ…」
なんだか怪しさ満点の依頼書に、流石のアミクも警戒する。
「なんだ?どうしたんだよ」
「何その依頼書?」
そこにナツやルーシィ達がやって来る。そして、マーチが持っていた依頼書を覗き込んできた。
「こりゃ…古代文字じゃねーか」
『珍しいものもあるもんだな』
「お!読んだだけで50万貰えるのか!太っ腹だな!」
「ギヒッ、そんな美味い話があるかよ」
いつ間に近くに居たのか、ガジルがそう言い放った。
「でも、依頼主にとっては切実な事なのかもしれません」
「そうかしら。わざわざ
『普通は専門家にお願いした方がいいだろうしね』
ウェンディとシャルルもそれぞれの意見を言い、ウルはシャルルの意見に同意する。
グレイはどう読むのかさえ分からない文字を見て唸った。
「こんなもん読める奴居んのか?」
「珍しい依頼ではあるが、不可能な事ではないだろう。
エルザも興味津々に依頼書を覗き込みながら語った。
「あ、隣に現代語訳があるよ」
ハッピーが古代文字の横にある現代語に気付いて言った。
「おお、こっちは読めるぞ!」
「ちょっと読んでみてよ」
アミクが催促すると、ナツが声を上げて読み上げ始めた。
「何々…#$%#"$%$#$…だー!!全然分かんねー!!」
ナツが頭を抱えた直後。
アミク達を眩い光が包み込んだ。
「な、なんだ!?」
「どうしたどうした!?」
他のギルドのメンバー達も何事かとアミク達の方を見る。
だが、光のせいで様子が窺えない。
そして、光が収まる。
「…?」
特に変わった様子はない。
彼らも何が起こったのか分からないのか、呆然と突っ立っていたが…。
「な、なんか変な感じが…わわわわ!!?」
唐突にナツの口から火が噴出した。
「火が!?私の口から!?でも熱くない!何これぇ!?」
「何驚いてんだよナツ。火なんかいつも出してるだろ」
様子のおかしいナツにエルフマンが怪訝な声で言う。
だが、異変はナツだけではなかった。
ブオオオオオオ!!!
「な、なんだこれ!?オレの全身から音が鳴ってる!?そして胸が重てぇ!?」
「うるせえぞアミク!!」
アミクが全身から音を放出しながら胸を押えたのだ。
そして次々と分けぬ分からぬことを言う人達が現れる。
「寒い!寒いわ!?」
『何で氷の魔導士が寒がっている?』
グレイが体を抱き締めてガタガタ震えているのを見て、ウルが疑問の声を上げる。
「オレ、小っちぇ!?というかなんだこのゴワゴワ感は!?」
シャルルが全身を弄る。
「ぐおお!?胸と腰に違和感が!あとなんだこのほっそい腕は!?」
ルーシィが自分の腕を見て叫び。
「鉄くさっ!?きゃああああ!?口から変なのが!?」
ガジルが鼻を摘んで口から鉄の破片をポロポロ落とし。
「あれ?いつもより視点が低いような…」
ハッピーがキョロキョロと周りを見回し。
「ナツー!オイラデッカくなったよー!」
ウェンディがピョンピョン飛び跳ねる。
「ちょっと、これどうなってるの…私!?」
ナツがアミクの方に目を向け、目を見開いた。
「オ、オレぇ!!!?なんでオレがもう1人居るんだ!!!?」
アミクの方もナツを見て驚愕していた。その時、アミクの声が増幅して大音量となり、ギルド内に居た全員が耳を塞ぐ。
「う、うるさ!?声でか!?」
ナツが耳を押えながら言って何かに気づいたように「あれ?」と首を傾けた。
「なんでうるさいって感じたんだろ?私ってどんなに大きな音でも平気なはずなのに」
音の
何かがおかしい。
アミク達が騒いでいると、その場に鋭い声が響いた。
「貴様ら!一体何を騒いでいる!!」
腰に手を当て、仁王立ちする1つの影。
そう、それは────。
マーチだった。
そして。
「アミクー!見て見てなのー!なんか立派なお胸が付いてきたのー!」
興奮した様子のエルザが自分の胸を揉みながらアミクを呼んでいた。
「いや、エルザはいつも通り立派でしょ」
「なんか髪が変な感じがする」
ナツが呆れたように言って、アミクが自分のツインテールをクルクルと弄った。
「わお、中々の弾力なの」
面白そうに胸を揉むエルザ。それを鼻の下を伸ばしながら見るギルドの男衆。
「やめんかーっ!!」
カッとなったハッピーがエルザに向かって飛び蹴りをかます、が…。
「なのー?」
「ぎゃん!?」
エルザが一瞬で換装してマーチの蹴りが鎧に直撃し、逆にマーチの方がダメージを負った。
「何なんだこのネコ型体型は……というかコレはネコそのものだ!!私は換装した覚えなどないぞ……」
ガックリと膝を付いて落ち込むマーチ。
「ど、どうなってんの!?なんでこんなゴツいの!?」
「クソ!鉄が食えねえ!つーか足がスースーする!!」
「すっげー白いし、毛深ぇなコレ!」
「わ、私もネコさんに!?」
「なんなのこの体!口から氷が出て来るんだけど!!寒い!」
「わー!風が出てきたー!」
『な、何が起こってる…?』
喚きながら好き勝手騒ぎまくるアミク達。そんな彼らを呆然と見ている他のメンバー。
そこで、アミクがハッと気付いて、その事実を言い放った。
「もしかして私達…入れ替わってる!!?」
どこかの映画で使われてそうな発言。
『ええ―――――!!!?』
ギルド中が衝撃で叫んでしまったのも無理はない。
「どう言うことだマーチ!!」
アミクがマーチに詰め寄ると、マーチが咄嗟に否定する。
「私はエルザだ!」
「マーチはあーしなの!アミク、相棒の顔忘れちゃったの!?」
「アミクは私だよ!」
ややこしい状況になってきた。
アミクは一旦整理しようとする。
「き、君の名前は!?」
「この状況でその発言は危険なの!」
ナツがアミクにそう言うと、エルザがどこから持ってきたのかハリセンで叩いた。
「オレがナツだ!」
「私はアミク…ってことは、私とナツが入れ替わってる…」
「そうみたいだな。他には、グレイとシャルル。ルーシィとガジル。ウェンディとハッピー…そしてあろうことか、私とマーチが入れ替わったのだ!!」
エルザの説明に、再度ギルド中に衝撃が走った。
「あろうことかって…ちょっと傷付くの…」
エルザ(マーチ)がしょんぼりする。
その時。
「古代ウンペラー語の言語魔法…『チェンジリング』が発動したんじゃ」
マカロフがやって来て言い放った。
「おじいちゃん!」「じっちゃん!」
「あの依頼書が原因じゃ。ある呪文を読み上げると、その周囲に居た人々の人格が入れ替わってしまう。これぞ…『チェンジリング』じゃ」
「なんでそんな危険なものを何の注意書きも無しで依頼書に書いちゃったのかな!?」
ナツ(アミク)の言葉も最もである。
『…私は何ともないけど、魔法の適用外だったのかしら?』
まぁ、ウルは例外、ということだろう。彼女自体、例外みたいな存在だし。
それよりも。
「さっきから誰が喋ってるんだ?」
現在アミクとナツは入れ替わっているのだ。ナツになったアミクにはウルの声は聞こえず、アミクになったナツには聞こえている。
それに気付いたウルは慌てて口を噤んだ。こんなことで自分の存在がバレるのは癪だ。
シャルル(グレイ)がアミク(ナツ)のニーソックスを掴んだ。
「お前がナツなんだよな───おわあ!!?」
そして、アミク(ナツ)を見上げたシャルル(グレイ)が慌てて顔を逸らし、真っ赤になる。
「んだよ、シャルル」
「シャルルじゃなくてグレイだよ、多分」
ナツ(アミク)が訂正する。シャルル(グレイ)は上を向かないままアミク(ナツ)に文句を言った。
「て、テメェ、なんてことしやがった!テメェのせいでこんな姿になっちまっただろ!!」
「知るかっ!ちょっと依頼書読んで見ただけだろーが!!」
「てか、何で下向いてんの?」
「察してあげなさい…」
ガジル(ルーシィ)が呆れたように言う。
単純な話、小さいシャルル(グレイ)がアミク(ナツ)の足元から見上げたらモロ見えなのだ。パンツが。
「この様子だと、入れ替わってるのは人格だけじゃなくて魔法もみたいだね。いや、入れ替わってるというより入れ替わった先の身体の魔法が使えるってことかな?」
「その通りじゃ。そして最後に…チェンジリングが発動してから30分以内に呪文を解除しないと……未来永劫元に戻る事はない……という言い伝えもある」
「そ、そんな…!!」
とんでもないことを聞いたハッピー(ウェンディ)が涙目になった。
「おい、じゃあ解けなかったならずっとこのバニーの姿で居ろってことなのかよ!!」
「誰がバニーよ!?」
ルーシィ(ガジル)が悲鳴のように叫ぶ。
「ミラさん!いま何分経った!?」
「16分。あと14分よ」
もう半分も残っていない。
「じっちゃん! 元に戻す魔法は!!?」
「うーむ…なんせ古代魔法じゃからのう。そんな昔の事は、ワシはよう知らんっ!!」
「えー!?」
投げやり気味に言われたマカロフの言葉に愕然とするアミク達。
「なんてこった!!ええいこうなったら!!」
シャルル(グレイ)が唐突に服を脱いだ。真っ白で綺麗な毛並みが露わになる。
「きゃあああ!!?何すんのよこの変態!!」
「わぁ!!シャルルの裸!!」
「わお、大胆なの」
ただ、大きく反応しているのはエクシードのみで、ギルドの男衆は死んだ表情でシャルルの裸を見た。
彼らの心境は一致していた。
(これがアミク達の内の誰かだったならなぁ…)
グレイが入れ替わった先がシャルルだったことに心の中で血の涙を流す彼らであった。
「ナツー!風が凄いよー!」
ウェンディ(ハッピー)が手や口から風を放出しながらアミク達に近付く。
「オイラもこれでナツと同じ
「良かったなー、ウェンディ」
「オイラ、ハッピーだよぉ!」
「チッ、イカれてるぜ」
「…てか!2人共スカート抑えてよ!!」
「捲れてるからー!!?」
「ハッピーも離れてー!」
ウェンディ(ハッピー)の風でアミク(ナツ)とルーシィ(ガジル)のスカートが捲れ上がってしまったのだ。
無頓着な彼らはそれを放置。それを待ってましたとばかりに凝視する男衆。
慌てて彼女達のスカートを抑えるナツ(アミク)とガジル(ルーシィ)。
客観的に見れば、美少女2人に痴漢している男2人だ。
「では、今のグレイ様の中の人はシャルルってこと?」
「中の人って…まぁ、そういう事になるわね」
ジュビアがやって来てグレイ(シャルル)をあっちこっちから見渡す。
「クンクン」
匂いを嗅いだり。
「スリスリ」
イヤらしく触ったり。
「ぎゅー」
抱き締めてみたり。
「…ねぇ、いつまでやってるのかしら」
「ん~、グレイ様の匂い…」
「おい、オレの体から離れろ!」
シャルル(グレイ)がジュビアに詰め寄ると、ジュビアがハッと目を見開いた。
「中身がグレイ様!!ああん、こっちもステキ~♡」
「こいつ、やべーな」
何かを感じ取ったのかジュビアがシャルル(グレイ)を見てメロメロに。
「グレイ様〜!どんな形でもグレイ様はグレイ様です〜!」
「ぎゃあああ!!やめろジュビア!!」
「私を潰す気!?」
ジュビアがシャルル(グレイ)に力一杯に抱き付き、シャルル(グレイ)潰れそうになっていた。それをグレイ(シャルル)が止めようとすると。
「グレイ様に挟まれてる!!幸せ~!♡」
「きゃ―――――!!?」
ジュビアが蕩けた顔でグレイ)シャルルも一緒に抱き締めてきた。
とんでもないメンヘラ女だ。周囲の人達も引いている。
エルザ(マーチ)は自分の身体を見て考え込んでいた。
「エルザの魔法を使える…なら…」
エルザ(マーチ)は何を思ったか、全身を光らせた。魔法を使ったのだ。
「お、おい…!よせ!!」
マーチ(エルザ)が慌てて制止するが。
「換装!なの!」
そして、光が収まるとそこには。
フリフリのスカートを着て、ウサギの耳を付けたエルザの姿が。
『おおおおっ!!!』
男衆は沸き立った。
「やめろ―――――!!」
マーチ(エルザ)がエルザ(マーチ)に突っ込んで行くが…。
ゴン!!
「ぐはぁっ」
「あ、ごめんなの」
エルザ(マーチ)の無意識のチョップがマーチ(エルザ)を叩き落とした。
「な…なんという事だ……S級魔導士としてのプライドが…」
「んー、上手くいかないものなの。ゴッツイ鎧にしようと思ったのに」
マーチ(エルザ)が落ち込む傍でエルザ(マーチ)が可愛らしく首を傾げた。
「ウェンディは随分ちっちゃくなったわね」
「はう〜、シャルルとお揃いだよ…」
「お揃いって何よ…」
ハッピー(ウェンディ)とグレイ(シャルル)がそう言っていると、ナツ(アミク)が火を噴きながら聞いてくる。
「じゃあ、その状態だとウェンディは飛ぶ魔法しか使えないって事?」
「え、私シャルルが居なくても飛べる!?」
「戦闘力はガタ落ちだけどね」
マーチはともかく、ハッピーは戦闘力ほぼ皆無なので。
そうしていると、ハッピー(ウェンディ)の背中から翼が生えてきた。
「あ!翼が生えました!」
「どんな感じ?」
「何か、不思議な感じです…こうやって動かして…きゃ―――――!!?」
少しふわっと浮かび上がったかと思うと、明後日の方向に飛んでしまったハッピー(ウェンディ)。彼女はそのままギルドの壁にビターンと直撃してしまった。
「ウェンディー!?」
「やっぱり、人の魔法を扱うのは難しいみたいね」
入れ替わった事による副作用もあるのかもしれない。
実際、同じ
音と火、という違いのせいもあるだろうが、何かしらデメリットがあると見てもいいだろう。
「おー!ホントに耳がよく聞こえるなー!すげー!ルーシィのオナラの音まで聞こえそうだぜ!」
「聞かなくてよろしい!!」
アミク(ナツ)は鮮明に聞こえる聴力に興奮したのかあちこち動き回っては耳を澄ましている。
「ほえー…ってかすげえ胸だな」
そうしてはしゃいでいたアミク(ナツ)は、ふと好奇心が湧いたのか自分の胸をツンツンと突付く。
そして。
「え、ちょ…!」
もみゅ
ナツ(アミク)が制止するも、アミク(ナツ)は自分の胸を揉んだ。クッションのような柔らかい感触が、アミク(ナツ)の手に貼りつく。
アミク(ナツ)の頰が興奮の為赤く染まった。
「うおおおおっ、柔けぇっ!」
「イヤーーーーー!!」
一方それを見せつけられたナツ(アミク)。
ボオオオン!!
顔全体が真っ赤になり、文字通り顔から火を噴いた。
ナツ(アミク)の頭部から火柱が上る。
「あっちち!!」
「ギルドが火事になるー!!」
「収まれアミク!!」
「ぎゃあああ!!食器が放電した!!?なんでだー!!」
ギルド内は阿鼻叫喚。
「ダメでしょ、人の体で遊んじゃ!!」
「イテェッ!?」
ガジル(ルーシィ)がアミク(ナツ)の頭にゲンコツを落としてやると、アミク(ナツ)は大きなたんこぶを作って床に倒れ伏してしまった。
彼女(?)の体は鉄なので、ダメージが大きくなってしまったようだ。
「わー!?ごめん、アミクー!!」
「わ、私の体が…」
もう、皆大惨事である。
「あーもー!どうしたらいいのよー!?」
ガジル(ルーシィ)が頭を抱えると。
「ルーちゃん!私に任せて!」
勇ましい声がギルドの入り口からした。
何とそこには。
「レビィ!!そしてその他!」
「「おい!!?」」
レビィ、ジェット、ドロイの3人組。チームシャドウ・ギアが居た。
「オレ達チームシャドウ・ギアが出て来たからには、必ず元に戻してやるぜ!!」
「ああ、安心しな!!というわけで――――」
「「頼むレビィ!!」」
「人任せですかー!?」
ナツ(アミク)がズルッとずっこけた。
「ルーちゃんやアミク達の為だもん!!頑張る!!」
「ありがとレビィちゃ~ん!!」
ガジル(ルーシィ)が感激極まってレビィを抱き締めると、レビィが「痛――――っ!?」と叫んでいた。鉄で抱き締められたらそりゃあ痛い。
「ル、ルーちゃん。顔が近いよ…」
「あ、ごめんね」
ガジルの顔が間近にあって赤面でドキドキするレビィ。
「私、古代文字ちょっと詳しいんだ。だから、まずはこの依頼書の文字を調べてみる」
レビィが依頼書を持ってそう言ったその時。
「待て!!」
「オレ達も居るぜー!!」
「居るぜー!」「居るぜー!」
「そんな冴えない小娘ちゃん達より、私達を頼った方が確実よ~?」
今度はギルドのテーブルの下から3人の人影が現れる!
その正体は。
な、なんと!!
「雷神衆!?」
「どこに居たの!?」
フリード、ビックスロー、エバーグリーンの3人チーム。雷神衆が参上したのだ。
「話は聞かせてもらった」
「オレ達の手にかかりゃ、こんなのちょちょいのちょいだぜ!」
「ちょいちょいだぜー」「ちょちょいだぜー」
「アンタ達じゃ役不足なのよ」
3人は妙にかっこつけて近付いてきた。
「な、なんだてめーら!急にしゃしゃり出て来やがって!!」
「オレ達が先に出てきたんだ!横どりすんな!!」
ジェットとドロイが噛みつくも、3人は涼しい顔をして受け流す。レビィはキョトンとして成り行きを見守っていた。
「ふふ、アンタ達。忘れてるわけじゃないでしょうね?」
「フリードは文字魔法のエキスパート!!こんな文字魔法、フリードに任せればあっという間に解読しちまうぜ!!」
「そうよ!というわけで、フリード…頑張って!!」
「結局人任せなんかーい!!」
ツッコミの為に生まれたと言っても過言ではないナツ(アミク)。
晴れやかな笑顔を浮かべるビックスローとエバーグリーンに対して、のけ反りながらもノリのいいツッコミをする少女(?)であった…。
「ちなみに、残り時間は後7分よ」
「グダグダしている間に半分も経っちゃったよ!!どっちでもいいから、いやむしろ協力してやらんかい!!」
「「あ、はい」」
ナツ(アミク)の静かな怒気に当てられたのか、レビィとフリードは素直に依頼書に向き直った。
レビィとフリードが文献などを用いて調べている間、アミク達はハラハラしながら待っていた。
「もう時間がねえ…もうずっとこのままだったらヤベェぞ」
「う~、もし戻らなかったらどうしよう…」
「そうなると私はこれから先、妙な羽の生えたネコとして生きていくのか…」
「失礼なの」
刻々と時間が迫るにつれ、不安が膨らんでいくアミク達。
下手をすれば、アミク達は一生入れ替わったまま生活する羽目になるかもしれないのだ。
「大丈夫ですよ、グレイ様。そうなったらジュビアがシャルルも一緒に一生養ってあげます~♡」
「ひぃ、勘弁してくれ!!」
「これは何としても元も戻らなくちゃいけないわね…身の危険を感じるわ」
シャルル(グレイ)とグレイ(シャルル)が震えあがった。
「た、例えばの話よ?もし、元に戻らなかったらこの体のままで過ごさなきゃいけなくなるわよね?」
「そうですね…ずっとネコさんとして生きていくのですね…」
ハッピー(ウェンディ)がシクシクと泣き始めた。
「仕事もこのままでするしかないんでしょ?」
「そうするしかないだろ。ったく、イカれてるぜ」
ルーシィ(ガジル)が腕を組みながら舌打ちする。
「困るわね…」
「そりゃ困るだろうよ。こんな姿で仕事に行くなんて冗談じゃねーぜ」
「そんな姿で悪かったわね」
シャルル(グレイ)の言葉にグレイ(シャルル)が不機嫌そうにそっぽを向いた。
「オイラは別にいいと思うよ。黙ってればバレないだろうし」
「そういう問題じゃないの」
能天気なウェンディ(ハッピー)の言葉にエルザ(マーチ)が呆れた。
「それもそうだけど、何より…魔法が上手く使えなくなってる私達が仕事なんて上手くいくと思う?」
「無理だね!」
もはや潔いほどのナツ(アミク)の即答ぶり。
それはそうだ。
アミクやナツ、ハッピーは炎や音、風が垂れ流し。ルーシィもインファイトは素人。ウェンディは空飛ぶネコで戦闘力皆無だし、ガジルも星霊魔法を上手く扱えるとは思えない。
シャルルも自動氷製造機になりかけてるし、マーチも役立たず。唯一エルザなら微々たる程の戦力にはなりそうだ。
総評価。
(最弱チーム爆誕!!)
メンバーじゃないのも居るが、最強チームが一気に最弱に成り下がる瞬間だった。
アミク達は頭を抱えて自分たちの未来に絶望した。
「ダメだー!!悪いビジョンしか見えねー!!」
「最悪よ…!なんで私がこんな目に…!」
「私これからネコさんとしての生き方学んでいきます~!」
「後ろの方向に前向きだ―――!?」
「一生アミクの体なのか―――!?」
「イカれてるぜ」
「皆落ち着いてぇ!!あ、火出たぁ!!」
カオスだった。
大慌てな彼らはレビィとフリードに詰め寄る。
「2人共、まだ!?」
「残り1分」
マカオご丁寧に看板まで持ってきて残り時間を知らせてくれた。
ふざけてんのか。
「まぁ、待て。慌てるな」
「もう少しで、何か分かりそうなんだけど…」
フリードとレビィは紙にカリカリと文字を書き込みながら調べてくれている。
だが、間に合うだろうか。
ナツ(アミク)が不安になっていると。
「おや? まだやっとるのか?」
能天気な表情をしたマカロフがやって来る。
「他人事だと思って…!おじいちゃん、せめて何か覚えてないの?どんな小さなことでもいいから…!」
アミクが熱心に頼み込むと、マカロフはしばらく考え込む。
「うーむ……おおっ、1つ思い出したぞ!!」
「流石っ!!」
アミクが喜色を浮かべたが、すぐにその顔は曇ることになってしまった。
「この魔法を解く時は、確か1組ずつしか解けないんじゃ。いっぺんに全員を戻すのは無理だったハズじゃ」
「そんなぁ…!」
他の面々も焦りの表情を浮かべる。
「じゃあ、他の奴らはずっとこのままなのかよ!?」
「あと30秒」
マカオが空気を読まずに看板を差し出してきた。
「どのペアが最初だ?」
「オレ達が先だ!!」
「いや、オレとシャルルだ!!猫の体でなんか居られるかっ!!」
「そうよ、寒すぎて堪らないわ!!」
「胸が重くてやってらんねぇ!!」
「こんなゴツゴツした体はイヤー!!」
「待てっ、私がずっとこのままだと
「は、はう~皆さん、落ち着いて下さ~い…」
「オイラはどっちでもいいよー」
「なの」
読者よ、これが追い詰められた人間の醜い姿だ。
「もう!皆自分の事しか考えてない!皆で戻る方法を考えなきゃ!」
ナツ(アミク)が腰に手を当てて怒ると、皆バツが悪そうな顔になった。
「あと15秒」
「黙っとれい!!」
「ぐへあぁ」
いそいそと看板を取り出そうとしたマカオを張り倒す。
丁度その時!
「…分かったぞ!」
「これならいけるかも!」
レビィとフリードが同時に声を上げた。
「本当か!?」
「ああ、つまりこれは…」
フリードが説明しようとするが、ナツ(アミク)は慌てて遮った。
「ごめん!説明する暇はなさそう!!」
「早く!」
「わ、分かった!」
「よし、レビィ。お前が読め」
アミク達が急かすと、レビィが慌てて口を開く。
「##%&$$$&!!」
アミク達には意味不明な言語の羅列。
だが、彼女がそう唱えた直後。
ギルド中が眩い光に包まれた。
そして。
「あ!元に戻りました!」
「あー、本当だー」
ウェンディとハッピーが自分の体を確認しながら声を上げる。
「良かった、無事に成功して」
「ああ、オレ達の考えは当たっていたようだな」
レビィとフリードも安心したように言う。
「レビィさん!フリードさん!ありがとうございます!」
「でも、どうやったの?」
「言葉そのものに意味なんか無かったの。逆さ読みをやってみたんだ。古代は文字が少なかったから、色んな意味を伝えたい時に、反対から読むと別の効力を発揮するようにしてたの。だから、呪文を逆さから読んでみたら魔法が解けたの!」
「なるほど…そうなんですね」
「オイラはもうちょっとあのままでも良かったけどねー」
フリードの説明にウェンディ達は納得した。
が。
「待って待って!!まだ私達解けてないよ!」
「そーよ!なんでウェンディ達だけ!?」
「私、まだ半裸男のままよ!」
ウェンディとハッピー以外のアミク達が必死にそう言ってきたのだ。
「えーーーー!!?」
「な、なんで…!?間に合わなかったの!?」
フリードは慌てて依頼書を確認し…気付いた。
「あれ…何か、微妙に間違えちゃった…かも…」
「そんなことってー!?」
こんな時にスペルミスとか勘弁してくれ。
「ってことはずっとこのままなのー!?」
「ウソだろー!?」
「ふざけんな!こんなんじゃ鉄も食えねえだろうが!!」
「そう言いながら釘を咥えないで!!?」
「クッソー!!こうなったらー!!」
「だから脱ぐなー!!」
「悪夢だ!悪夢以外の何物でもなーい!」
「あーしはこれからエルザとしての人生を歩むの!」
「アンタ、妙に生き生きしてるわね」
彼らが絶望的な声を上げるも状況は変わらない。いや、むしろ状況は悪くなっていた。
「…待て。さっきからおかしかったが…なんでオレがもう1人居る?」
レビィがフリードを指差しながらそんなことを言い放ったのだ。
「わ、私!?あれ、もしかして…」
フリードもレビィを見て目を見開き、そしてすぐに気付いた。
「私達も入れ替わってる!?」
「そういうことになるな」
「だから先ほどの会話に違和感があったんですね…」
なんと、レビィとフリードが入れ替わってしまったのだ!
「うむ、前より体が軽いな。なるほど、これが他人の体か」
「冷静に言ってる場合!?」
「呪文を間違えたから魔法が滅茶苦茶に発動しちゃったのかも…」
ナツ(アミク)がそう推測する。だがなんの意味もない。
悪いことに、事態はこれで止まらなかった。
「まあまあ、他にも何か方法があるじゃろ」
呑気に机の腕に座っている…ジュビア。
「あ、あれ?ジュビア、なんだか背が低く…それに声もガラガラに…」
キョトンとするマカロフ。
「えー!?ジュビアとおじいちゃんも入れ替わっちゃったの!?」
なんという事だ。魔法が他の人達にも発動してしまっている。
「何というこのナイスバディ!!うはははー!!」
「マ、マスター!やめてぇ!ジュビアの体を好き勝手していいのはグレイ様って決めてるんですぅ!!」
謎のセクシーポーズを取り始めたジュビア(マカロフ)とそれを止めるマカロフ(ジュビア)。
「ベイベー、なんてこった!マスター達まで!」
「これは…お手上げね」
「あ?」「あら?」
顔を見合わせるビックスロー(エバーグリーン)とエバーグリーン(ビックスロー)。
「漢は諦めが肝心だぞナツ…うおっ!?」
「あらあら、私がエルフマンみたいね〜」
漢らしくない体になったミラジェーン(エルフマン)と困ったように微笑むエルフマン(ミラ)。
「なぁ、ジェット…」
「なんだ、ドロイ…」
こっちも顔を見合わせるジェット(ドロイ)とドロイ(ジェット)。
そう、ギルド全体が入れ替わってしまったのだ。
「オーマイガー!!」
ナツ(アミク)はこのカオスな惨状にキャパオーバーして白目を剥いた。
『…もう、ツッコミきれない…』
ウルも乾いた声で呟くも、それは喧騒の中に溶け込んでいった。
「はわわわわ、どうしましょう…」
「うわーい!皆入れ替わったよー!おもしろーい!」
唯一入れ替わってない人間であるウェンディが涙目でオロオロしている側で、ハッピーが楽しそうな声を出した。
「喜んでいる場合かーーー!!」
アミク(ナツ)の悲鳴がギルドを超えてマグノリア中に響き渡ったのだった。
●
この世界には千差万別な魔法が存在している。
このようにとんでもない魔法まで。
なので。
皆も、怪しい呪文には気をつけようね⭐︎
「元に戻せーーー!!」
「うわーーーん!!」
ちなみに、次の日にはみんな元に戻りました。
元々1日しか効果のない魔法だったそうです。