妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

122 / 202
今回から7年後です!


7年後の凱旋曲
X791年・妖精の尻尾(フェアリーテイル)


「こんにちは!」

 

「ん…アンタは?」

 

「私はメイビス。メイビス・ヴァーミリオン」

 

「メイビス…!初代の妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターね」

 

「そうなのです。こう見えても、マスターだったのですよ。貴方は?」

 

「…私はウル」

 

「ウルですか…ずっと氷に取り憑いていましたよね?」

 

「…お前は、何だ?」

 

「貴方と同じような存在だと考えていただければいいです」

 

「なるほど、互いに(死んでいる)ようなもの…ってことか」

 

「だから、貴方にも私の姿が見える。逆に、私にも貴方の姿が見える。そして、こうして対面できている」

 

「まさか、こんな形で妖精の尻尾(フェアリーテイル)の初代に会えるとは思ってなかったな」

 

「メイビスでいいですよ」

 

「…じゃあ、グレイ達を守ってくれたのも、メイビス?」

 

「いいえ。私は魔力を魔法に変換するので精一杯でした。実際に彼らを守ったのは、彼らの信じ合う心と、強い絆です」

 

「…それは、同感だ」

 

「さて、まだこれからやらなくてはならないことがあります。この魔法を解除しなくては」

 

「どれくらい掛かるの?」

 

「…10年はかかると思います」

 

「そんなに!?そこまで強力な魔法だってことか…」

 

「はい。待たせている皆さんには申し訳ありませんが、今の私では…」

 

「…私にできることはないか?」

 

「え?」

 

「今ではこんなだが、かつては凄腕の魔導士だったんだよ。自分で言うのも何だが」

 

「…」

 

「だから、何か手伝えることがあるかもしれない。まぁ…そうでなくても、アンタの話し相手ぐらいにはなってあげるよ。1人でずっといるのも退屈だし、気が滅入るものだ」

 

「…ふふっ」

 

「だから、1人より2人で居る方がまだマシっていうか…どうせ私も暇だしな」

 

「ありがとうございます、ウル。正直に言えば、少し寂しかったかもしれません。それに、貴方の魔法の知識も気になります。きっとその知識も役に立つでしょう」

 

「そうでしょ?うん、利害の一致!はい、よろしく、メイビス」

 

「あ…はい!よろしくお願いします!ウル!!」

 

 

1人の少女と女性の邂逅。

 

 

本来ならなかったはずの出会い。

 

 

 

これが未来に何をもたらすのか、あるいは何も変わらないのか。

 

 

それは誰も知らない。

 

 

 

 

7年。

 

 

アミク達が消えてからそれだけの年月が経ってしまった。

 

 

その刻まれた時は時代を変えることもあり、人や物を変えることもある。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)もその1つだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリアの郊外にある古い酒場。

 

 

そこが、現在の妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。

 

 

あの立派なギルドの面影はどこにも無い。

 

 

全体的に狭く、床も天井も穴だらけ、壁も剥がれ、椅子やテーブルといった家具もカビが生えている。

 

 

まさに落ちぶれたギルドがそこには存在していた。

 

 

 

エルザやギルダーツといったS級魔導士。ギルドの中でも実力者であるアミク達。そして、マスターであるマカロフを一気に失った事で妖精の尻尾(フェアリーテイル)の権威は失墜。

 

ギルドのメンバーは次々と脱退し、回される依頼の数も減る一方。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が没落するのも道理だった。

 

存続のために元々のギルドの建物も売り払い、このような酒場で細々とやっていくしかなかった。

 

結局、現在残ったメンバーは、評議院の推挙を受ける形で4代目マスターに就任したマカオ。マスター補佐のワカバ。マックス、ジェット、ドロイ、ビジター、ナブ、ラキ、ウォーレン、ビスカ、アルザック、キナナ…そしてロメオ。

 

彼らは妖精の尻尾(フェアリーテイル)を愛してきたメンバー達だ。彼らが居てくれるからこそ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は残っていると言える。

 

だからと言って離れていった者達が薄情なわけでも悪いわけでもない。

 

彼らにも生活があり、夢がある。それが違えたのなら、別れるのは普通な事。それに妖精の尻尾(フェアリーテイル)は束縛をするようなギルドではない。

 

 

マカオ達はただ、愛するギルドを守るために、いつか彼ら(・・)が帰って来る望みを捨てきれないために、此処に留まっているのだ。

 

 

 

ともかく、普通ならば、そんなボロボロのギルドにやって来るもの好きはほとんど居ない。

 

居るとすれば、よっぽど仲が良かったか、あるいは────ロクでもない目的のためか。

 

 

「おやおや、相変わらず昼間っからしんみりしてるねー」

 

「ぎゃはははは!」

 

「これだから弱小ギルドはやだよなー」

 

「覇気がねえよ覇気が!!」

 

 

建て付けが悪くても入り口としての役割を辛うじてこなしている戸を蹴破り、いかにもゴロツキといった5人の男が入って来る。

 

ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべて、ドカドカと足を踏み入れてきた。

 

礼儀など最初から頭に入ってなさそうである。

 

マカオはその5人の内の1人の名を呼んだ。

 

「ティーボ」

 

「もう此処には来んなって言ったろーが!」

 

その言葉にティーボと呼ばれた1人の男がにやけながら返す。

 

「オイオイ、オレ達にそんな口聞いていいのか?マグノリアを代表する魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオーガ)』によ」

 

黄昏の鬼(トワイライトオーガ)』。

 

この7年の間に新しく建ち上がった魔導士ギルドだ。

 

「かつてはフィオーレ最強だったかどうかは知らねーけど、もうお前らの時代は終わってんだよ。建ってるのがやっとのこのボロ酒場と、新しい時代の魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオーガ)』じゃ、どちらがよりマグノリアの発展と向上に役立ってるか一目瞭然だろ?」

 

反論しないメンバー達に調子に乗って嘲るティーボ。

 

「でけえだけのギルドが偉そうに」

 

「そうだ!オレ達には魂があるんだよ」

 

やっとそう言い返したが、ティーボは鼻で笑うだけだった。

 

「魂じゃメシは食えねえんだヨ」

 

「…何しに来たんだ、ティーボ」

 

「今月分の金だよ」

 

ティーボの言葉に、マカオが動揺する。

 

「まだ払ってなかったのかマカオ!!」

 

「マスターって呼べっつてんだろ!!」

 

言い争うマカオ達をよそに、ティーボはずい、と顔を近付けてきた。

 

「借金の返済が遅れてるぜ、アンタら」

 

「今月はいい仕事回ってこなかったんだよ!来月まとめて払うから待ってやがれってんだ!!」

 

「おやおや、潰れる寸前だったこのボロ酒場を救ってやったのは誰だっけかな?」

 

「オレ達がテメェらの借金、肩代わりしてやったんだろーが!!」

 

高圧的に畳み掛ける黄昏の鬼(トワイライトオーガ)の面々。

 

ジェットも負けじと言い返した。

 

「あんなバカげた利子だって知ってたら、お前らなんかに頼らなかったのに…」

 

衰退したギルドの財政が回らなくなり、いよいよ限界か、と思っていた時に救いの手を差し伸べてくれたのが黄昏の鬼(トワイライトオーガ)だった。

 

だが、実態は悪徳な高利貸しだ。上辺だけの善意に騙され、契約書を書かされた時点で既に手遅れ。

 

闇金もびっくりの利子を付けられてしまったのだ。

 

「何か言ったかコノヤロウ!!」

 

「よせ、ジェット」

 

「けどよ…」

 

 

ジェットを制止したマカオはティーボ達に向き直り、頼み込んだ。

 

「来月まで待ってくれや。ちゃんと払うからよォ」

 

だが…。

 

「ぐほっ!!」

 

「マカオ!!」

 

そんなのお構いなしにディーボはマカオを蹴飛ばした。

 

テーブルや椅子を巻き込んで倒れるマカオを見て、他のメンバー達が怒りの形相になる。

 

 

 

「テメェらぁ!!」

 

「よくも…」

 

仲間をやられたら黙ってられん、と反撃に出ようとしたマックス達だった。が。

 

「手ェ出すなァ!!」

 

マカオの一喝で踏み止まった。

 

借金を借りたのはこっち。貸したのはあっち。立場的に不利なのはこっち側なのは明らかだ。

 

なのに、そんな相手に暴力を振るってしまったらますます立場が悪くなってしまう。そうなったら何をされるか分からない。

 

最悪、ギルドが取り潰されてしまう可能性も…。

 

「ははっ、情けねえっ!!」

 

「これがあの妖精の尻尾(フェアリーテイル)かよ!」

 

「ダサすぎんぜ!!」

 

「ヒャハハハ!!!」

 

下品な笑い声を上げながら、ティーボ達が更なる暴虐を尽くそうとしたその時。

 

 

 

「グッドアフタヌーン」

 

「おいおい、様子を見に来てみりゃ、なんだこのチンピラ共は。ママも驚くぜ」

 

そう言いながらギルドに入って来たのは、2人の人物。

 

1人は大柄な男で、もう1人は中華風の男。

 

マカオは彼らの名を呼ぶ。

 

 

「バ、バニッシュブラザーズ…」

 

 

そう、7年前にエバルー屋敷でアミクとナツのコンビに敗れ、アミクの慈悲の心に感銘を受けた、傭兵ギルド『南の狼』所属の兄弟である。

 

7年前よりも髪が伸びて、溢れ出る気迫も7年前とは比べるまでもない。

 

 

「チッ、またテメェらか…」

 

ティーボが忌々しそうにバニッシュブラザーズを睨む。

 

「いくら借金の取り立てとはいえ、ユー達の行動は目に余るぞ」

 

「ママが見たらきっとカンカンだぜ」

 

「う…うるせえ!!そもそもテメェらには関係ねえだろうが!!部外者は引っ込んでろよ!!」

 

ティーボがそう言い放つも、バニッシュブラザーズは剣呑な目つきでティーボ達を見つめた。

 

「兄ちゃん!こいつら、舐めてるよ!」

 

「ふむ…確かに我らは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士ではない。だが、我らは『妖精(フェアリー)』に助けてもらった大恩がある。それだけでも、関係者に値すると思うが?」

 

「おうよ。『妖精』の所属しているギルドをいじめる輩はこの『バニッシュブラザーズ』が成敗するって決めてんだ。だからこれ以上やろうってなら…」

 

「我らとファイトだ。容赦はせん」

 

「くっ…」

 

ティーボ達は冷や汗を流して口を噤む。

 

 

バニッシュブラザーズは魔導士ではないのに、数々の魔導士を打ち破って来たことでそこそこ有名であるのだ。

 

彼らの体術と対魔法の戦術が中々に強力なため、魔導士の中では彼らを相手するのは危険だ、という話も挙がっている。

 

 

だから、ティーボ達如きで敵う相手ではないのだ。

 

 

「クソッ!おい、忘れんなよ!来月だ」

 

 

黄昏の鬼(トワイライトオーガ)は捨て台詞を吐いてギルドから出ていく。置き土産に戸を思いっきり蹴飛ばして壊して行きやがった。

 

 

「大事ないか」

 

「ああ、アンタらが来てくれたお陰で助かったよ…毎回すまねえ」

 

 

アミク達が消えて数年した頃、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にバニッシュブラザーズがやって来たのだ。

 

 

なんでも、アミクに恩があるとかで、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力になりたいのだと言う。

 

いくらこっちに恩があるとはいえ、他人に頼ってしまうのは少し気が引けたが、ありがたくその提案を受け入れた。それからというのも、黄昏の鬼(トワイライトオーガ)がちょっかいをかけて来たら追い払ってくれたり、壊れてしまった家具の代わりに、新しい家具を持って来てくれたりしてくれるのだ。食料や飲み物を持って来てくれることもある。

 

彼らには感謝してもし足りない。

 

「気にすんなよ。俺らは『妖精』のためにやっているだけだからな。ママも言ってたぞ。恩は必ず返せってな」

 

「ザッツライト。彼女が帰って来るまで、我らは彼女の居場所を守り続ける」

 

「そうか…」

 

彼らはアミクが帰って来ると信じているのか。なんだか彼らが眩しく見える。

 

「また何か困ったことがあったら言ってくれよ!」

 

「シーユー」

 

彼らはお酒は食料などの荷をギルドに置くと、帰って行った。

 

 

しぃん、と静まり返るギルド内。バニッシュブラザーズのお陰で大きな被害は被っていないが、マカオがぶっ飛ばされたことで少し散らかっている。

 

そんな中、ポツリ、とマックスが呟いた。

 

「…あいつらが居なくなっても、俺らは今でも助けられてばっかだな…」

 

バニッシュブラザーズの件もアミクの行動の結果。そのアミクは消えてしまったのに、自分達は彼女の恩恵を受けている。

 

それが、悔しくもあり、情けなくもあった。

 

マックスの言葉に俯く面々。そんな中、マカオが床に落ちているある物に目を付けた。

 

 

「あれからもう7年か…」

 

 

マカオは老けた顔を懐かしそうに歪める。

 

彼の目に映っているのは、リーダスが描いていたスケッチブック。

 

そこには、かつて天狼島に行ってから行方不明となってしまった仲間達の姿が描かれていた。

 

 

幸せそうな表情でブロッコリーを頬張るアミク。それを微笑ましげに見るルーシィとミラジェーン。

 

 

マーチ達エクシードが揃って何かを話し合っているのを優しい瞳で見つめるウェンディ。

 

 

服を脱いでいるグレイを真っ赤になりながら凝視するジュビア。

 

 

酒を飲んでいるマカロフと、その隣に居るエルザ。

 

 

 

最強チームで仲良さげに肩を組んでいる絵。

 

 

 

そして、ギルドメンバーの全員が描かれている大きな絵。

 

 

 

「懐かしいな」

 

 

「グスッ…あれ以来何もかも変わっちまった」

 

 

他のメンバーも目に涙を浮かべ、嘆くように語り出す。

 

 

 

「天狼島が消滅したって話を聞いて、必死に皆を探したよな」

 

「だけど誰1人見つからねえなんて……」

 

「評議院の話が本当なら、アクノロギアってのに島ごと消されたんだ」

 

 

評議院はドランバルトからの情報によって、アクノロギアが天狼島を襲撃したことを知っていた。

 

マグノリアに残っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)にそのことを伝えたのも評議院。そのことを聞いたギルドには衝撃と悲嘆が迸った。

 

 

「そりゃそうだよ…あの日…天狼島近海のエーテルナノ濃度は異常値を記録してる。あれは生物が原型を留めておけないレベルの……」

 

「何て威力なんだ!! アクノロギアの咆哮ってのは…!!」

 

「だって…大昔にたった1頭で国を滅ぼしたっていう竜なんだろ!!? 人間が…そんなの相手に…生きていられる訳が……」

 

アミク達の生存は絶望的。彼らも心の隅では信じたくなくとも認めてしまっていた。

 

 

もう、アミク達は死んでいる、と。

 

 

「なんでオレ達の仲間を……」

 

「あいつらが居なくなってから、オレ達のギルドは弱体化する一方。マグノリアには新しいギルドが建っちまうし」

 

その新しいギルドのせいで自分達は苦しんでいるわけだが。

 

 

「たたむ時が来たのかもな」

 

「ちょっと、そんな話───」

 

ワカバが呟いた言葉にラキが怒鳴る。

 

そんな時、ずっと俯いているマカオに、ワカバが気付いた。

 

 

「どうした、マカオ」

 

「…オレはもう、心が折れそうだ」

 

いつ帰って来るのかも────生存すら怪しい者達を待ち続けて、ギルドは衰退して、新しいギルドには貶められて…このマスターという立場になって、マカロフの苦労がわかった気がする。

 

きっと、マカロフだったら、こんな苦境でも笑い飛ばすだろうが…マカオは心身共に疲れてしまった。

 

 

「お前はよくやっているよ、マスター」

 

そんなマカオの心情を察してか、ワカバが慰めの言葉を掛ける。だが、マカオの目には悲しみの涙が浮かんだ。

 

「あれ以来……ロメオは一度も笑わねえんだ…」

 

あんなに妖精の尻尾(フェアリーテイル)に憧れ、瞳をキラキラさせていたロメオ。

 

「ナツ兄やアミク姉みたいになる!」と意気込んでいた幼い少年は、成長して妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士となっていた。

 

 

 

 

だが、7年前。

 

 

彼らが消えたことを聞いたロメオの表情。

 

 

何かも抜け落ちてしまったような表情。

 

 

それから、誰もロメオの笑顔を見た者は居なかった。

 

 

憧れの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士になったにも関わらず、彼は全く笑みを浮かべなかった。

 

 

彼らの喪失と共に、マカオの愛する息子の笑顔も失われてしまったのだ。

 

 

 

「…」

 

 

マカオの嗚咽だけが響き、皆が黙り込む中。

 

 

 

地響きの音がした。

 

 

 

 

それは、何かの予兆のように鈍く、力強く響いてきていた。

 

 

 

 

 

 

やって来たのはなんと青い天馬(ブルーペガサス)

 

 

魔導爆撃艇『クリスティーナ改』に乗ってきた一夜とトライメンズ。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は彼らからとんでもないことを聞かされる。

 

 

「天狼島は残っている」

 

 

その言葉に希望を持ち、後日、天狼島に向かった何人かのメンバー。

 

 

 

一方、ギルドには居残り組のメンバーが居た。

 

 

 

ロメオもその1人だ。

 

 

 

「ロメオ…ついて行かなくて良かったのか?」

 

マカオが聞くも、ロメオは冷たい声で答えた。

 

「皆が生きてる保証なんてないだろ」

 

「そんなことはねーって!!信じなきゃよそこは!!」

 

「7年も連絡ねーんだぞ」

 

あくまで淡々としているロメオに、マカオ達は深いため息を吐いた。

 

 

ナツ達が生きているかもしれない、と聞いてロメオは大喜びするかと思われたが、彼は冷めた表情をするだけ。

 

彼らが生きている可能性を捨ててしまっているようだ。

 

ぬか喜びしないように、これ以上傷つかないように、心に鎧を被せてしまっている。

 

 

どうしたものか、とマカオが再びため息をついた時…。

 

 

「おいおーい、今日はまた一段と人が少ねえなァ。ギルドってよりコレ何よ? 同好会?」

 

 

またもや黄昏の鬼(トワイライトオーガ)がやって来たのだ。しかも今度は1人増えている。

 

 

「ティーボ!!支払いは来月のはずだろ!!」

 

「ウチのマスターがさ、そうはいかねぇって。期日通り払ってもらわねぇと困るって…マスターに言われちゃ、しょうがねぇんだわ」

 

嫌な笑みを浮かべながら告げるティーボ。

 

 

 

そこに、冷えた声が響いた。

 

 

「お前らに払う金なんかねえよ」

 

 

ロメオが立ち上がって黄昏の鬼(トワイライトオーガ)を睨みつけたのだ。

 

 

「何だクソガキ、その態度」

 

「こんな奴らにいいようにされて、父ちゃんも皆も腰抜けだ!俺は戦うぞ!このままじゃ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名折れだ!!」

 

 

ロメオの拳に火が灯る。

 

 

彼が憧れた火竜(ナツ)のように、勇ましく彼らの前に立ちはだかった。

 

 

だが。

 

 

「…!」

 

 

どこか恐れがあったのか、魔力が足りなかったのか。

 

 

ロメオの火は消えてしまった。

 

 

「名前なんかとっくに折れてんだろ」

 

 

それを見たティーボが嘲るように言って、背中の金棒をゆっくり振り上げた。

 

 

「いつもバニッシュブラザーズの背中に隠れて縮こまっているような奴が偉そうな口利きやがって」

 

 

今はバニッシュブラザーズは居ない。つまり、彼を止める者は誰も居ないのだ。

 

 

「やめろおおおおおお!!!」

 

「テメェらは一生オレ達の上にいけねえんだ!!」

 

マカオの絶叫が轟く中、ティーボの金棒がロメオに向かって振り下ろされた。

 

 

「くっ…」

 

ロメオは思わず目を瞑ってしまう。

 

 

ロメオは自分が情けなかった。

 

 

憧れていた人達のようになろうと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を守ろうと強くなってきたのに。

 

 

今こそその力を振るうべきなのに。結局自分も役立たずで腰抜だった。

 

 

(ごめん、ナツ兄、アミク姉…)

 

 

痛みを覚悟して、歯を食いしばる。

 

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

 

 

 

 

何かがぶっ飛ぶ音が聞こえた。

 

 

 

ロメオが恐る恐る目を開けると。

 

 

 

 

日差しのせいでよく見えないシルエット。

 

 

その影がティーボを蹴り飛ばしていたのだ。

 

 

そのティーボは壁に激突して伸びている。

 

 

「あ?」

 

 

更に、ティーボの隣に居た男も、もう1つの影から放たれた衝撃波によってぶっとばされた。

 

彼はそのまま壁に叩きつけられたティーボに衝突して、仲良く床に寝転がった。

 

 

 

『んだァコラァ!!!』

 

 

やっと我に返った他の黄昏の鬼(トワイライトオーガ)の面子。

 

 

しかし、時すでに遅し。

 

 

ある男は氷漬け。ある男は鉄柱をぶち込まれ、ある男は剣を持った拳にKO。最後の1人も、巨大な拳に叩き潰されてしまった。

 

 

 

ロメオの頭は目の前の現実を受け止めきれずにいた。

 

 

だって。

 

 

そんなはずがないのだ。

 

 

 

彼らとまたこうして顔を合わせることができるなど。

 

 

彼らが此処にこうしているわけがないのだ。

 

 

 

 

目の前の2人の人物が笑みを浮かべる。

 

 

それは男女。

 

 

桜色の髪と自信ありげな笑顔が特徴の少年。

 

 

緑色のツインテールを揺らし、マリンブルーの瞳を光らせる少女。

 

 

また会いたいと願った。また一緒に過ごしたいと思っていた。

 

 

彼らはロメオの記憶と寸分違わぬ姿のままで立っていた。

 

 

 

桜髪の少年────ナツが口を開く。

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 

緑髪のツインテールの少女────アミクも続けた。

 

 

 

「遅くなってごめんね」

 

 

 

そして彼らの後ろからはルーシィやグレイ、エルザやマカロフ────消えていったはずの仲間達の姿が現れた。

 

「皆様お待たせしました!」

 

「やっぱりギルドが一番なの」

 

 

彼らも7年前と姿が全く変わっていない。

 

 

 

 

「お…お…お前ら…!!」

 

「皆…!!」

 

「7年前と変わってねーじゃねーか!!」

 

 

「どうなってんだー!!?」

 

 

マカオ達は彼らが本物であるかどうかを疑い、しかし紛れもなく本物だということに瞬間的に気付く。

 

そして、彼らを認識した途端、胸から感情が湧き溢れそうになって涙をこぼした。

 

 

そして驚いたのは、7年という歳月が経ったはずなのに、本当に彼らに変化がないことだ。

 

 

 

「ちょっと複雑な話になるんだけど…」

 

 

そこで、アミクが説明してあげることにした。

 

 

 

 

時は遡り、天狼島にて。

 

「────きてっ。────起きてアミク!!」

 

「にゃ、カリフラワーに潰されるぅ〜…ん?」

 

呼びかけられた声にアミクは唸りながら起き上がった。

 

 

 

「アミクー!!良かったぁ!!本当に良かったぁ〜!!」

 

「アミクも無事だー!!」

 

「うわっ!!あれ〜?ビスカ?それにドロイ達まで…って!!ドロイ、メタボリック症候群にでも罹ったの〜!?」

 

そして視界に入ったのは若干老けたマックス達の姿。特に、ドロイは何があった。

 

ビスカ達がアミクに詰め寄り、ビスカに至っては力一杯抱き締めてきた。

 

「なんか、皆老けた?」

 

なんで此処に居るのか、とか。なんでそんなに姿が変わってるの、とか。

 

聞きたいことは色々あったが、ひとまず落ち着くことにする。

 

 

「アミクも起きたか!」

 

「あ、ナツ」

 

隣を見ると、ナツが胡座をかいていた。彼もドロイ達を見て驚いている様子だ。

 

「…どういう状況?私達、さっきアクノロギアの攻撃を食らったはずじゃ…」

 

「だよな?それに、皆は!?」

 

ナツとともに周りを見回すと。

 

 

「こちらです」

 

 

儚く、透き通るような声がした。

 

 

思わず声がした方を振り返る。

 

 

 

そこには少女が居た。

 

 

天使の羽のような飾りが頭にある金髪の幼い少女。

 

 

まるで存在感がないような儚さが感じられる、不思議な少女だった。

 

 

「だ、誰!?迷子!?お父さんお母さんはどこですかー!?」

 

「ふふふ、迷子ではありませんよ」

 

テンパったアミクを面白がるように見る少女。

 

彼女は目を伏せると、静かに名乗った。

 

 

「私の名はメイビス。妖精の尻尾(フェアリーテイル)フェアリーテイル初代マスター、メイビス・ヴァーミリオン」

 

「初代…マスター…?」

 

 

『ええええええーーー!!!?』

 

 

アミク達は心底驚いてその少女────メイビスをマジマジと見た。

 

 

「こ、こんな小さい子が!?金髪ロリが!?初代!?」

 

「見た目で侮ってはいけませんよ?こう見えても正真正銘の初代マスターです」

 

ちょっと拗ねたように言う少女だが、控えめに言っても可愛い。

 

 

そんなメイビスは後ろを向くと、アミク達を導くようにスーッと進んでいった。

 

 

 

彼女の後を追いかけ、他のメンバー達も見つけていく。

 

 

ルーシィやマーチ、ウェンディ、マカロフ、ラクサス。皆無事だった。

 

 

 

そして、皆が見つかって集まった場所で。

 

 

「あの時……私は皆の絆と信じ合う心、その全てを魔力へと変換させました。

 皆の想いが妖精三大魔法の1つ『妖精の球(フェアリースフィア)』を発動させたのです。

 この魔法はあらゆる悪からギルドを守る絶対防御魔法。しかし皆を凍結封印させたまま…ある人の助けもあったのですが、解除するのに7年の歳月が掛かってしまいました」

 

 

それが、アミク達が無事であり、また7年も姿を消していた件の全容であった。

 

「なんと……初代が我々を守ってくれたのか……」

 

「凄い!凄いよメイちゃん!!」

 

マカロフがまさかの出来事に涙ぐみ、アミクが歓声をあげると、メイビスが首を振る。

 

 

「いいえ…私は幽体。皆の力を魔法に変換させるので精一杯でした。揺るぎない信念と強い絆は奇跡さえも味方につける」

 

フワリ、と宙に浮かび、優しい笑みを浮かべるメイビス。

 

 

彼女もマスターだったからこそ、彼らの素晴らしさが分かる。そんな彼らの思いが、気持ちが、彼ら自身を救ったのだ。

 

こんなに魅力のある人達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーであることが誇らしい。

 

 

だから、その気持ちを伝えるため、精一杯の賛辞を送った。

 

 

「よいギルドになりましたね──3代目」

 

 

そう言って消える直前。

 

 

メイビスはグレイの胸元にあるネックレスに視線を移す。

 

再び、にっこりと笑ってメイビスは消えていった。

 

 

(…またね、メイビス)

 

 

ウルも心の中でメイビスに別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

「こういうこと!でもびっくりしたよー。皆もは変わっちゃってるし、7年も経ってるし…」

 

アミクが感慨深げに言ってると、ロメオがなんとも言えない表情でナツとアミクを見ていた。

 

 

 

それに気付いたアミクとナツ。

 

 

彼らはロメオに近付くと改めてロメオを見る。

 

 

 

(大きくなったなぁ…あのロメオが)

 

あんなに小さかったロメオが、もうたくましい少年に成長している。年はウェンディと同じくらいか。

 

 

 

 

アミクはそっとロメオの頭に手を乗せて優しく撫でた。

 

 

「立派になったね、ロメオ。今までギルドを守ってくれてありがとう」

 

アミクがそう言うと、ナツもニカっと笑ってロメオを見つめた。

 

 

 

 

やっと心に染み込んできた。

 

 

 

目の前に居るのは間違いなくアミクとナツ。

 

 

昔からずっと憧れて、彼らのような魔導士でありたい、と目標を持っていた。

 

 

 

彼らが居ないと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は成り立たないとも思っていた。

 

 

そんな彼らが、自分の前に存在している。

 

 

────また、一緒に居れるんだ。

 

 

自然と目から涙が溢れてきた。

 

 

 

話したいことがいっぱいあった。

 

 

辛かったこと、楽しかったこと、悲しかったこと、腹が立ったこと。

 

 

全部話したい。

 

 

でも、今は、これだけは言わなければならない。

 

 

 

 

 

「おかえり!!ナツ兄、アミク姉!!皆!!」

 

 

 

 

ロメオの心からの笑顔は何よりも輝いていた。

 

 

 

 

 

 

こうして、止まっていた時間は動き出す。

 

 

 

 

 




もうちょっと続くよ。

しばらく7年後のアレコレやってから大魔闘演武だよー。

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