妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

124 / 202
今回の話終わったら、また間話に入ります。

2、3話くらい?

それやったら大魔闘演武編です。


7年の傷跡

「た、食べ過ぎた…」

 

「もう!食意地張って卵とブロッコリー食べ過ぎよ!」

 

「なの」「プーン」

 

 

ギルドでどんちゃん騒ぎすること約3日間。

 

苦しそうなアミクにルーシィが肩を貸して一緒に帰路に着いていた。

 

「でも、3日間もギルドでお祭り騒ぎだったもんね。アタシもクタクタ〜」

 

「プーン」

 

「そうだね〜。そういえば、家に帰るのも7年ぶりってことになるよね」

 

「まさか取り壊されていたりしなければいいの…」

 

「それ、マジでシャレにならない!?」

 

まぁ、もしそうなっていたら誰かが教えてくれていると思うので、大丈夫だとは思うが…。

 

「あれ、ルーシィちゃんとアミクちゃん!?」

 

「マジか!?」

 

7年前では顔見知りだった川で船漕いでる人も健在のようだ。

 

そして。

 

 

「おひさのお家~!!」

 

「変わってないわねー!」

 

アミク達の家が7年前と変わらない姿のまま残ってくれていた。

 

 

ところが、その家の前に仁王立ちしている人物がいた。

 

 

 

「え…お、大家さん!?」

 

 

アミク達の家を管理する小太りの中年女性である大家さん。

 

以前、ちょっとした事件に巻き込まれていた所をアミクが助け、そのお礼に家賃を大幅に安くしてくれた人だ。

 

 

「ひ、久しぶりです!その、心配かけました…」

 

アミクが挨拶すると、大家さんは軽く頷いてアミク達を鋭い目つきで見詰めた。

 

体型も相まって相変わらずの威圧感である。

 

「帰って来たって話は聞いてるよ、無事で何よりだ」

 

「はい、ただいまです!」

 

アミクがにこやかに答えた。だが、直後の大家さんの言葉に彼女の笑顔が引き攣る事になる。

 

「だけど家賃の話は別!アンタには助けてもらった恩もあるけどその話とも別!!7年分!!アンタ達合わせて840万J!!きっちり払わないと全員この家には入れないよ!!」

 

「え―――――――!!!?」「ひゃあああああああああ!!!?」「なの――――!!?」

 

 

なんと家賃が7年分滞納してしまっていたのだ。そのせいで家からの追い出し勧告をされてしまった3人。

アミク達の家として残してくれただけありがたいかもしれないが、帰って来てこの仕打ちはあんまりである。

 

 

 

 

 

追い出された3人は川沿いで座り込んでいた。

 

 

「…アミク、いくら持ってる?」

 

「…貯蓄も合わせて600万くらい?」

 

「…足りないの」

 

ボケーッと水面を見つめながら言葉を放つ3人。

 

その無気力な様子は会社をクビになったホームレスの如き哀愁を漂わせていた。

 

 

「ルーシィは?…言うまでもないか」

 

「…返す言葉もないわ」

 

「あんな大金、どうやって払えばいいの…」

 

「「「はぁ…」」」

 

 

5万の家賃さえもギリギリで払っているようなルーシィが100万も持ってるわけがなかった。

 

 

「ギルドも財政難。女子寮(フェアリーヒルズ)組も7年分払わされたって言うし…他の皆もそうだよね」

 

彼女達も莫大なお金を支払わされたらしい。足りない分はおまけしてくれたらしいが、それでもお金がすっからかんになって帰還組は真っ白に燃え尽きていた。

 

(エルザなんか大変だったろうな…5部屋繋げてたから…5×10×12×7…4200万J…)

 

高額すぎて笑えない。いくらエルザと言えどもお金が底を突いたのではなかろうか…。

 

 

「7年かぁ…想像以上に長いんだなぁ」

 

「そりゃあね。ロメオもあんなに大きくなってて…ドロイも太ってたし。アルザックとビスカなんて結婚して子供居るんだよ。この7年で色々変わっちゃった」

 

「あーし達は時の流れに置いてかれた者、ってところなの?」

 

マーチが中々詩的な事を言う。

 

「そういえば、皆カナとギルダーツの話には驚いてたね」

 

「そりゃ驚くでしょ。特に古参組はビックリ仰天してたよね」

 

「っていうか、最初冗談だと思ってたの」

 

カナとギルダーツが父娘であると判明し、当然驚くギルドメンバーだったがすぐに受け入れられた。

 

今でも相変わらずギルダーツはカナにデレデレしているし、カナはそんな父をあしらっている。

 

そんな父と娘の光景を思い起こしたルーシィは1人の人物を脳裏に浮かべた。

 

 

「お父さんか…あたし…7年も連絡してないって事になるんだよね。心配してるだろーなぁ」

 

「プンプン」

 

「あ、プルー居たんだ」

 

最後に会ったのがアカリファでの件だった。それからの安否は聞いていなかったが、ルーシィが居なくなった事を心配してくれてるのではないか。

 

もう、彼は以前の冷たい父親ではない、と信じている。だから…。

 

「会いに行ってみる?」

 

アミクがルーシィが思っていた事を口にしてくれた。

 

 

「そう、だね。会いに行こうかな」

 

ふ、と飛来してきた寂寥感。

 

 

前だったら2度と会いたくなかったであろう父親に、無性に会いたくなった。

 

 

「あたし…お父さんに会いたいって思ったの…初めてかも」

 

「プンプン♪」

 

 

プルーが心なしか嬉しそうな表情をする。アミクもマーチも笑みを浮かべた。

 

 

「ルーシィもお父さんを愛してる証拠だね」

 

 

「愛してるって…そんな大げさなものじゃないわよ…」

 

ちょっと照れたように頬を掻くルーシィ。

 

 

「よし!色々問題は残ってるけどひとまずルーシィのお父さんに会いに行こう!君の元気な姿もお父さんに見せてあげなきゃだしね!」

 

アミクは彼と約束したのだ。

 

 

次会う時は、ずっと明るいルーシィを見せる、と。

 

 

 

 

 

「おひさのアカリファ!!」

 

「あい」

 

「おーし、燃えてきたー!」

 

「燃える要素ないでしょ」

 

 

商業都市アカリファ。アミクとルーシィが闇ギルドをボッコボコにした所であり、ルーシィの父親であるジュードが働いている所でもある。

 

 

「ってか、なんでナツとハッピーも付いて来てんのよ?」

 

 

ちゃっかりアミク達に同行してきたナツとハッピー。

 

 

「だってお金ねーんだもーん」

 

「ルーシィパパは美味しい魚の話、いっぱい知ってるんでしょ?」

 

「それを言うならおいしい儲け話なの」

 

「そもそもナツ達は借家じゃないでしょ?」

 

アミク達の指摘に、ナツとハッピーは見るからに落ち込んだ。

 

 

「金庫が無くなってたんだぁ…盗まれたぁ…」

 

「オイラ達の食費が…どーするのコレ…」

 

 

「あらら…それはお気の毒に…」

 

7年もあったなら空き巣にも入られるだろう。ナツの家は鍵も掛けてないようだったし。

 

 

 

「あー、ルーシィ。もしかしてお父さんからお金貰うつもり?」

 

 

このタイミングだとそんな気もしてきた。

 

 

「べ、別にそれが目的で来たわけじゃないわよ。ただ、ちょっとお金に困ってるからお小遣いくれないかな~みたいな…」

 

でた、都合のいい時だけ父親扱いする娘。現代っ子か。

 

 

「でも実際目先の問題だしねぇ…それもアリな気がしてきた…」

 

ちょっと情けないが、こっちも切羽詰まっているのだ。もし、少しでも恵んでもらえるならありがたいが…。

 

 

後で利子付けて返すつもりだし。

 

 

「ま、それはいいとして…とりあえず、ルーシィのお父さんが働いている商業ギルドに行こっか。えーと、ラブ…なんとかだったよね」

 

「せめて覚えときなさいよ…」

 

「ラブ&ラッキーなの」

 

 

 

商業ギルド『LOVE&LUCKY』。

 

 

ジュードが勤める商業ギルドである。

 

 

早速ルーシィは受付で父親の事を尋ねた。アミク達はすぐ後ろで待機だ。

 

 

「あの…スミマセン」

 

「はい?」 

 

「ジュード・ハートフィリアと言う人を探してるんですが、此処に在籍ですよね」

 

 

ルーシィの言葉に、受付の女性はどこか慌てたような表情になって質問してくる。

 

「あ…もしかしてジュードさんの娘さん?」

 

「はい!」

 

 

ルーシィの返事を聞いた女性は…途端に沈痛な表情を浮かべて俯いてしまった。

 

 

(…)

 

アミクはこの時点でなんとなく嫌な予感がした。

 

 

彼女の表情が、悪い未来を予知させる。

 

 

「どうしたんですか?」

 

「もう辞めちゃった?」

 

「クビなの?」

 

 

ハッピー達も首を傾げる。

 

 

そして、女性は何度か口を開いては閉じてを繰り返し――――絞り出した。

 

 

「え…と…大変…お伝え辛いのですが…」

 

 

ルーシィにとって、残酷な真実を。

 

 

「ジュードさんは3月前に亡くなられました。本当に、お気の毒です」

 

 

 

アミク達は思い知った。

 

 

 

 

この7年と言う歳月がもたらした傷を。

 

 

 

 

時に置いてけぼりにされた者達に与えられた現実を。

 

 

 

 

 

彼らはようやく、ここが7年後の世界だと心から実感したのだった。

 

 

 

 

 

 

ジュード・ハートフィリアの墓はルーシィの母親、レイラ・ハートフィリアの隣に寄り添うように建てられていた。

 

 

妻に先立たれ、娘に辛く当たり、なんとか再起していた彼の最期はあっけないものだった。

 

 

 

 

マグノリアへの帰り道。

 

 

ルーシィはもちろん、ナツもアミクも、ハッピーもマーチも誰も喋らなかった。

 

 

暗い顔で前を歩くルーシィに何か声を掛けようとしてハッピーが口を開く。

 

 

「ルーシィ」

 

「ハッピー」

 

 

だが、それをナツが首を振って止めた。

 

 

今は彼女をそっとしてあげた方がいい。そう判断してのことだった。

 

 

 

 

その時、前方から2人組の少女が歩いて来た。お世辞にも綺麗とは言えない顔立ち(はっきり言うとブス)の少女達だったが、その2人の会話はあまりにも酷いものだった。

 

 

「ウチの父親マジうざいしー」

 

「ですけどですけどー」

 

「マジ死んで欲しいしー」

 

「ですけどですけどー」

 

 

よりにもよってタイムリーな話題。

 

 

聞くに堪えない会話にナツ達が顔に苛立ちを浮かべ、流石に温厚なアミクも眦を釣り上げる。

 

 

そして、大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

「――――――!?」

 

 

「!?!?―――――!」

 

 

すると、少女達の口がパクパク動くだけで声が聞こえなくなった。アミクが彼女達の声を『食べた』のだ。

 

彼女達は突然聴こえなくなった自分達の声に戸惑って慌てている。

 

 

(ちょっと黙ってて!)

 

そう思いを込めて彼女達を睨むアミクだったが―――――。

 

 

ルーシィがポン、とアミクの肩に触れて首を振った。

 

 

「…」

 

仕方なく声を食べるのをやめるアミク。

 

 

「――――はっ!?今のなんだしー!?」

 

「ですけどですけどー!?」

 

 

声が出るようになった少女達は不思議そうにキョロキョロしながら去って行った。

 

 

「ルーシィ…」

 

 

「いいの、アミク」

 

 

ルーシィはアミクの頭をそっと撫でた。そして、ポツリと言う。

 

 

「ゴメン」

 

「…え?」

 

「気…使わせちゃってゴメン」

 

 

自分のせいで彼らが気を使う事になってしまった、とルーシィは謝罪する。

 

 

「そ、そんなの!辛いのはルーシィなんだから…」

 

「ううん…大丈夫。ちょっとお父さんの事…驚いちゃっただけだから…」

 

彼女はそう言うが、その顔に浮かぶ笑みはどこか無理のあるものだった。

 

 

「数ヶ月前…いや…違うか…もう7年経ってるんだったね。あの時、アカリファでお父さんに会ったのが最後。アミクも会ったでしょ?」

 

「…うん」

 

ジュードと会う前までは彼の人柄は話に聞いていたものだけだったが、実際に目のあたりにして衝撃を受けたものだ。

 

そして、そんな彼が変わろうとする瞬間も目撃していた。

 

 

「あたし…小さい頃からずっとお父さんの事好きじゃなかったんだ。その上幽鬼(ファントム)の件もあったしね」

 

あの件に関して言えば簡単に許せるものではない。が…それでも彼はルーシィと向き合ってくれた。

 

「でも…アカリファの事件があって、これからあたしとお父さんの関係が変わりそうな気がしてた。過労で体を壊しちゃうなんて、あの人らしいな…」

 

彼の死因は過労による心不全だったという。仕事にのめり込むところは相変わらずだった。

 

ルーシィは空を見上げ、儚げな笑みを浮かべる。

 

「何でだろ? 悲しいのに…寂しいのに…涙が出ないんだぁ」

 

自分のたった1人の肉親だった。その肉親が帰らぬ人となったのに、なぜか涙が出てこない。

 

胸は張り裂けそうな程に悲しいのに、それが雫となって出てこないのがもどかしい。

 

「やっぱりあたし、お父さんの事…」

 

「それは違うよ」

 

アミクはルーシィの言葉を遮り、そっとルーシィの手を掴んだ。

 

 

「きっと、涙が出るとか出ないとか、そういう話じゃないと思う」

 

「オレもそう思うぜ」

 

ナツも同意するように頷いた。

 

 

「だって、君が本当にお父さんを愛していなかったなら、7年前のあの時だって、助けに行こうなんて思わなかったはずでしょ?」

 

あんなに嫌っていた父親なのに、それでも助けに行ったのは、あんな人でも自分の父親だったから。僅かなりとも彼への愛情があったからなのだ。

 

アミクはそう思っている。

 

「うん、ありがと。ホント…あたしは大丈夫だから」

 

それっきり、マグノリアに帰るまでアミク達の間では会話はなかった。

 

 

気の抜けたように歩くナツとハッピーを見ながら、アミクは瞳を悲しげに揺らす。

 

 

ルーシィもそうだが、落ち込んでいるのはアミクも同じだったのだ。

 

 

(約束…守れなかったな…)

 

 

元気な娘の姿を見せてあげたかったのに。

 

 

その後悔がアミクの胸に残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、噴水広場で膝を抱えて座り込むルーシィ。

 

 

アミクとマーチはそんな彼女を見てひそひそと囁き合った。

 

 

「どうしよ…とりあえずギルドで寝泊まりするしかないのかなぁ…」

 

「ルーシィはあんな状態だし、仕事ができる感じじゃなさそうなの」

 

「しょうがないよ…しばらくルーシィには気持ちの整理をしてもらおっか…」

 

 

そんな風に相談していると。

 

 

遠くの方に大家さんが現れた。

 

 

「あれ?大家さん?」

 

 

アミク達が首を傾げていると…瞬間移動みたいにズンズン近付いて来る。

 

 

「わあ!?」

 

「ひっ」

 

アミク達がびっくりしていると、そんなの知ったこっちゃないとばかりに大家さんはアミクとルーシィの足を掴んで軽々と持ち上げた。

 

 

「ちょ、ちょっと何してるんですかー!?」

 

「誰か~!!助けて~!!」

 

 

そのまま大家さんはアミク達を連れ去ってしまった。

 

 

「ま、待ってなの~!!」

 

そして置いてけぼりにされたマーチも急いで追いかけて行った。

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「わっ!?」

 

「追いついたの!」

 

 

なんと、アミク達が放り込まれた場所はアミク達の家、そのリビングだったのだ。

 

 

「え!?私達の家!?アレ? 7年間も使ってなかったのにキレイ…」

 

「ホントだ」

 

さぞかし埃だらけなのだろう、と思っていたのに拍子抜けだ。

 

 

「掃除は毎週してたんだよ、さすがに服は何着かダメになっちまったけどね」

 

「あ、ありがとうございます…!」

 

大家さんがそう説明してくれた。

 

というか、よく見たら大家さんが着てる服、ルーシィのヤツやんけ。

 

ニーハイなんかアミクのだし。

 

 

「テーブルの上を見てごらん」

 

 

そう言われてテーブルの上を見たルーシィは、そこで綺麗に包装された箱を6つも見つけた。

 

「これは…」

 

「毎年同じ日に送られて来るんだよ」

 

 

同じ日…ということはまさか…。

 

アミクがルーシィの後ろから箱を覗き見すると、箱にはメッセージカードが付いていた。

 

そこに書かれていたのは。

 

『親愛なる娘へ

 

 誕生日おめでとう

 

     パパより』

 

 

(誕生日プレゼント…)

 

ジュードはルーシィの誕生日を憶えて、毎年プレゼントを贈ってくれていたのだ。

 

「覚えてて…くれてた…」

 

それに気付いたルーシィも震えた声で言う。

 

いつも仕事優先でロクに自分の誕生日も祝ってくれなかったジュード。

 

そんな父親が、毎年欠かさずにプレゼントを…。

 

 

「今朝…もう1つ届いてね」

 

 

ソファを見ると、また1つプレゼントが置いてあった。

 

 

更に1通の手紙も添えられている。

 

 

ルーシィはその手紙を手に取り、目を通し始めた。

 

 

 

『親愛なる娘へ

 

 

誕生日おめでとう!

 

…と言っても、君はこの手紙をいつ読むのだろうね?

 

君が友達と一緒に姿を消したと聞いてだいぶ経つ。とても心配だが、私は信じているよ。

 

君はレイラによく似ている。たくさんの『運』に恵まれた子だ。

 

君と一緒に住んでいる友達―――――アミクさん達と出会ったことがいい例だ。

 

きっと無事だと思う。また会えると信じている。

 

私の方は近々、西方との大きな商談が纏まりそうでね。忙しいけど、充実した日々を送っているよ。 

 

毎日君やレイラの事を思い出す。

 

君は私とレイラの誇りだ。自分の信じる道を強く生きて欲しい。

 

友達も大切にしてくれ。あそこまで君を想ってくれる友達にも恵まれて、君は本当に幸せ者だな。 

 

早く君に会いたいよ』

 

 

「お父…さん」

 

 

もう居ないはずの父親が、近くに居る気がする。

 

 

――――ルーシィ…私は君をずっと愛している――――

 

 

手紙はそう締めくくられていた。

 

 

ルーシィははっきりと感じている。

 

この手紙の1文字1文字に、深い想いが込められていること。

 

ジュードの手紙の言葉に嘘などないこと。

 

 

 

そう、ジュードが本当にルーシィの事を愛していること。

 

 

心から感じた。

 

 

 

胸の中に暖かいものが流れ込んでくる。同時に切なさと悲しみが溢れ出してきた。

 

 

 

 

手紙にポツ、ポツ、と水滴が落ちる。

 

 

「あたしも…大好き…だよ…」

 

 

いつかは伝えたかった言葉。

 

 

 

結局伝えられずに別ってしまった。

 

 

やっとジュードからその言葉を聞けたのに。彼の気持ちを知れたのに。

 

 

 

自分の想いは届かないのか。

 

 

悔しくて悲しくて、次から次へと涙がこみ上げてきた。

 

 

 

 

「うん…大丈夫」

 

 

そんなルーシィを後ろから包み込むように抱き締めてくる人物が居た。

 

 

当然、アミクだ。

 

 

「きっと届いてるよ。ルーシィの気持ちも」

 

 

暖かい感触で張り裂けそうな気持が溶けていくようだった。

 

 

「だって、親子でしょ?」

 

 

アミクの優しい言葉が、すんなりと心に染み込んできた。

 

 

「家族ってね…何も言わなくても、気持ちが伝わっちゃうもんなんだよ」

 

 

心に染み込んだ言葉が心の防波堤を打ち砕き。

 

 

溜めこんでいた悲しみと寂しさを爆発させるように、大声で泣いた。

 

 

子供のようにアミクに抱きつき、彼女の胸を涙で濡らす。

 

 

アミクは母親のようにルーシィの背中を叩いて宥めてくれる。

 

 

 

ちなみにマーチは細かい気を利かせてティッシュを用意してくれた。

 

 

有能かよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いつの間に家の外に出ていた大家さん。

 

 

 

彼女は優しい笑みを浮かべて独り言を呟いた。

 

「今朝来た手紙に7年分の家賃がついてくるなんてね。しかも友達の分も合わせて。まったく…こういうのを親バカって言うのかねぇ」

 

 

 

 

 

しばらく、ルーシィの好きなようにさせていたアミクだったが、外から聞こえてきた声にピク、と耳を揺らした。

 

 

(ナツとハッピーだ)

 

 

何やら大家さんと話しているようだったが、しばらくすると離れていくのを感じる。

 

 

そして。

 

 

「ルーシィ――――!!アミク――――!!マーチ―――!!オレ達仕事行ってくるぜー!!」

 

「シロツメ団子、お土産に買ってくるからね――――!!」

 

 

外から大きな声で叫んできたのだ。

 

 

「ありゃ、仕事行っちゃうんだ」

 

「そういや食費がどうのって言ってたの」

 

 

アミク達がそう言っていると、ルーシィが目を拭って立ち上がる。

 

 

「…もう大丈夫?」

 

「うん!ありがと、アミク!」

 

ルーシィは満面の笑みを浮かべて言い放つ。

 

 

「やっぱりアンタは最高の親友よ!」

 

 

アミクも笑みを返した。

 

 

「それはお互い様!」

 

 

2人は頷くと急いで家の外に出ていく。

 

その後をマーチが「やれやれ」と言いたげな表情で追いかけていった。

 

 

「ちょっとお待ちーな!!」

 

「アタシ達も行く!!」

 

 

いつもより明るいルーシィの笑顔。

 

 

 

アミクはその顔を見ながら空を見上げた。

 

 

 

――――天国から見てるかな、ジュードさん―――――

 

 

―――――この、娘さんの最高の笑顔を―――――

 

 

 

 

 

きっとそうである事を願って。

 

 

 

 

 

アミク達はナツ達と共に7年ぶりの仕事に行くのだった。

 

 

 

 

 

 

この7年で付けられた傷は深い。

 

 

 

だが、彼女達はその傷を乗り越え、また1つ成長する。

 

 

 

 

そして、動き出した時の世界で再び生きていくのだ。

 

 

 

 




ジュードが死ぬ時期が原作よりも若干早くなってます。

これはアミクの分の家賃まで稼ごうとして無理した結果です。

オリキャラの存在が原作キャラの死期を早めてしまった…。

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