妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回は要望によりアニメオリジナルのヤツやります。

7年後のスタートとしては丁度いいかも。


魔法舞踏会

「仕事仕事~!」

 

アミクは鼻歌を歌いながらクエストボードに向かった。

 

 

「なんかいい仕事ないかなぁ~」

 

たとえ7年が経っていようとアミク達のすることは変わらない。

 

そう、依頼を受けてそれをこなす。

 

 

それがアミク達の仕事なのだ。

 

 

 

「ナツー!何か良い依頼あったら教えてよ!」

 

「いいぞ」

 

近くに居たナツも巻き込んでクエストボードを眺めていると。

 

 

「ん…?」

 

少し気になる依頼を発見した。早速、手に取って見てみる。

 

 

「どれどれ」

 

依頼の内容はお尋ね者の『ベルベノ』という者を捕まえてくれ、というものだった。

 

「ベルベノ…どっかで聞いたような…具体的に言うとテイルズシリーズで居たような…あれはベルベットか」

 

「何の話してんだ?つか、それ何だよ?」

 

「ベルベノって人を捕まえてくれ、だってさ」

 

気になる報酬は…と報酬を確認したアミクは目を剥いた。

 

「よ、400万J!!?」

 

「マジか!!?」

 

 

アミクの言葉にナツも驚いて依頼書を覗き込んできた。

 

「どうしたのー?」

 

「依頼なの?」

 

「400万Jって聞こえたけど!」

 

 

ついでにルーシィとマーチ、ハッピーもやって来る。

 

 

もう少し詳しく依頼内容を見てみると、依頼主であるバルサミコ伯爵が今度の土曜日に魔法舞踏会っていう魔導士だけの舞踏会を開催すると言う。

 

ただ、その時にベルベノが現れるらしい。

 

 

「なるほどね。そこで捕まえてくれってことか…」

 

「あれ?ベルベノって…脱獄犯のベルベノ?」

 

ハッピーが思い当たることがあるのか口を開いてそんな事を言う。

 

 

「知ってるの?」

 

「知ってるも何も…以前オイラ達がベルベノを捕まえる依頼を受けようとしたことがあったじゃん。アミクとルーシィ達がドタキャンして結局キャンセルしちゃったけど」

 

「…あー!あの時ね!」

 

そうだ。ルーシィの父親、ジュードと会った次の日にその仕事を受けよう、という話になっていたのだった。

 

だが、アカリファの件でアミク達が依頼を蹴ってジュード救出の方に向かってしまったヤツである。

 

「まだ捕まってなかったんだ。7年前より賞金が跳ね上がってるし」

 

「おもしれー魔法を使うって話だったよな!」

 

アミク達がベルベノ捕獲を断念したことで、ここまで賞金が上がったのだろうか。

 

「…おー?これってもしかして私達も魔法舞踏会に参加するヤツ?」

 

 

よくよく読んでみると、「招待客として魔法舞踏会に参加し、ベルベノが現れたら捕まえる」といった旨が書かれている。

 

つまり、魔法舞踏会に潜入し、会場を見張っていろということなのか。

 

 

「え、そうなの!?じゃあダンスとかもしなきゃいけないてこと?」

 

「そうだね…なんせ魔法『舞踏会』って言われてるほどだし。踊ってないと不自然だと思うよ」

 

舞踏会に来て何もしないって言うのも怪しまれる。潜入任務ならば成りきった方がいいだろう。

 

「ダンスかー…ナツ、できる?」

 

「できねー」

 

「だよねー」

 

そう言うアミクもダンスができるかといえば怪しいが。

 

「私もできるかなー?…歌ったり楽器を演奏したりは得意だけど、ダンスはあんまりしたことなかったからなー」

 

「へー。ちょっと意外ね」

 

アミクならダンスも上手いと思っていたのだが。

 

「それじゃ、練習するしかないわね。魔法舞踏会の日まではまだ時間があるし」

 

「あ、この依頼受けるのは確定なんだ」

 

結局、アミク達はダンスの練習をすることになった。

 

 

 

ギルドの外に出たアミク達は魔水晶(ラクリマ)を使って適当な音楽を流した。

 

「うん、良い感じ♪」

 

アミクは軽く音楽に合わせてステップを踏んでみた。

 

「わぁ、結構様になってるじゃん」

 

それを見ていたルーシィが感嘆の声を上げる。

 

アミクはレビィの部屋から借りてきたダンスの教本を見ながら足を動かした。

 

「ワン、ツーでターン…と」

 

簡単なステップだが、ダンスの基本のようなものはこんな感じだろうか。

 

 

「凄い…もうダンスを憶えてる…」

 

「やっぱりアミクは音楽系の才能が抜群みたいなの」

 

アミクは一通り基本を抑えると、ナツ達の方を向く。いつの間にか、ナツ達だけではなくグレイやエルザ達も見学していた。

 

「うわっ、居たの!?」

 

「なんか面白そーな遊びやってんなーって」

 

「遊びじゃないよー!」

 

グレイってダンスしたことないのかな?

 

『ダンスか?上手だったよ』

 

「さすがアミクだな」

 

ウルやエルザが称賛してくれるので、アミクは照れ笑いをした。

 

 

「えへへ…でも、魔法舞踏会って基本は社交ダンスだからね。私1人だけ踊れても意味ないよ」

 

社交ダンスはペアで踊るダンスなので2人組で踊れないといけないのだ。

 

 

「というわけで、誰か相手して!」

 

アミクが呼びかけると「あ、じゃアタシがやる」と名乗り出てくれた。

 

 

「お、ルーシィか。ルーシィはダンスできる?」

 

「元々お嬢様だったのよ?社交ダンスくらい仕込まれてるんだから!」

 

それは頼もしい。アミクは右手をルーシィに差し出し、小説で見たセリフを吐いてみた。

 

 

「Shell we dance?」

 

「わ、無駄に様になってるわね…ふふっ…」

 

ルーシィはアミクに応えるように自分の手をアミクの手に乗っけた。

 

 

「ごめん、リードお願い」

 

「任せて♪」

 

ここは経験の差的にルーシィに任せてみよう、と思ったアミクが頼むと、ルーシィは快諾。

 

アミクの手を取り、腕を引いたり体を引っ張ったりしてリードをしてくれるルーシィ。アミクはルーシィの動きと音楽に合わせて足と腕を適切に動かしていく。

 

 

「上手!ちょっとやっただけでもうこんなにできてる!」

 

 

「あは、ありがと。結構楽しいよこれ」

 

アミクはそのまま、ルーシィの背中に手を添えると、グイ、と彼女を押し倒して背中に添えた手でルーシィを支えた。

 

「見よう見真似でやってみたけど…こんな感じ?」

 

「ちょ!?それ、男性側がやるもんじゃない!?そして顔近い!」

 

「ご、ごめん…」

 

赤くなったルーシィがアミクの顔を抑えて押し出してしまった。アミクも自分の状態に気付いて羞恥で赤くなる。

 

 

 

 

その様子をだらしない表情でガン見するのはマカオとワカバのおっさん共。

 

 

「ああ…何か…尊いな…」

 

「分かりみ深い…」

 

 

美少女2人が絡み合うその光景はまるで聖域。禁断の園を間近で見ているようで、非常に背得感を滾らせるものだった。

 

 

 

「ナツー!今度はナツが相手してよ!」

 

 

「あ?オレ?」

 

アミクがナツに呼びかけると、ナツは渋々と言った感じで出て来る。

 

 

そして、おずおずとアミクの両手を掴んだ。

 

 

ナツのぎこちなく差し出された足を避け、後ろに下がり、今度は自分から前に出てナツを後ろに下がらせる。

 

「…難しーな」

 

「ナツってこういうの苦手そうだしね」

 

覚束ない足取りに合わせるようにアミクも動いていたが…。

 

 

グニャ

 

 

「痛っ。やっぱ無理?」

 

「何が楽しいんだよ、こんなの」

 

ナツがアミクの足を踏んでしまい、バツが悪そうな顔で頭を搔く。

 

「やってみると楽しいけどね…」

 

 

「どれ、私が相手してやろう」

 

 

そこにエルザがやって来てナツの前に立つ。

 

 

「エルザ!?いや、エルザはやめておいた方が…」

 

「かつて『ダンスの鬼』と言われた私に任せれば問題ない」

 

嫌な予感がしたアミクの制止も虚しく、エルザは嫌そうな表情のナツの手を取る。

 

 

「いくぞ」

 

「おい、エルザ────」

 

ナツが呼びかけるも、その直前にエルザは動き出した。

 

 

「おわーーーーー!!?」

 

「めっちゃ回っとる!?」

 

 

ナツがコマのように大回転している!

 

そして回している本人であるエルザはドヤ顔だ。

 

それで本当にいいと思っているのだろうか。

 

「アレが『ダンスの鬼』って呼ばれてる所以だけどね…」

 

 

以前の劇の時にも思ったことだが、エルザは下手の横好きのような感じがある。

 

「しょうがないなぁ、ナツには私が教えてあげる♪」

 

「い、いや…ちょっと休ませ…おわああああああ!!?」

 

「リサーナ…エルザと同じレベルってどんだけー…」

 

ニコニコ顔のリサーナがナツをおもちゃのように回し始めたのでアミクは薄ら寒いものを覚えた。

 

 

 

「あの…アミクさん。これは…」

 

そこにウェンディ達もやって来て、妙な状況に首を捻る。

 

 

「あー、これはね…」

 

かくかくじかじかと事情を説明すると、ウェンディは納得した表情になった。

 

「潜入、ですか…」

 

「うん。舞踏会に行くならせめて社交ダンスくらいはできないと、って練習してるんだけど…」

 

なぜか、エルザに回されているエルフマンを見ながらアミクは苦笑を浮かべた。

 

 

「ナツなんか潜入任務とか向いてなさそうなのにな。魔導士も集まるって言うし、喧嘩にならないといいけど…いや、ヤツはやらかすぞ…」

 

低い声で呟いたアミクはウェンディを見てあることを思い付く。

 

「せっかくだからウェンディも一緒に仕事来てみる?ウェンディならダンス得意そうだし」

 

 

アミクの思い付きに、ウェンディは少し考え込むと「私で良ければ」と承諾してくれた。

 

「あれ、カプリコーン?」

 

ルーシィはいつの間にかカプリコーンにダンスの指導を受けていた。

 

さすが執事姿なだけある。

 

それを見てアミクもやる気を燃やす。

 

「…よーし、私達も負けてらんない!ほら、ウェンディも踊ってみよ?」

 

「え?」

 

アミクはウェンディの小さい手を掴むと、彼女の軽い体を引っ張って一緒に踊り始めた。

 

「わ…」

 

「はい、ここをターン」

 

最初こそ恥ずかしいのか赤くなって覚束ない足取りだったが、だんだん慣れてきたのか、アミクに合わせられるようになってきていた。

 

 

「やっぱり上手い。化猫の宿(ケット・シェルター)でやってたの?」

 

化猫の宿(ケット・シェルター)では独自の踊りもあったので、ダンスはちょっとだけ覚えたんです」

 

「その独自の踊りって気になる…」

 

 

そうやって、アミク達が踊っていることが気になったのか、どんどん人が集まってきて、いつの間にか軽いダンスパーティとなってしまった。

 

レビィとガジル、アルザックとビスカ、エルフマンとエバーグリーンなんていい感じのペアでやってたりする。

 

 

こうして、魔法舞踏会の日になる頃にはナツ達もある程度ダンスを覚えたのだった。

 

 

 

 

魔法舞踏会当日。

 

 

「アミク、行くわよー?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

家を出たアミク達は集合場所に向かっていたが、急に立ち止まったアミクに疑問の声を上げた。

 

「あーごめん、ちょっと先に行ってて。用事思い出した」

 

「用事?」

 

「うん、すぐ追いつくから」

 

アミクはそれだけ言い残してどこかに行ってしまった。

 

「どうしたんだろう」「なの」

 

 

 

 

「居た居た!おーい!」

 

アミクはすぐに見えてきた後ろ姿に向かって声を掛けた。

 

 

「ラクサスー!」

 

 

稲妻のような金髪と大きなコートは間違いなくラクサスだ。ついさっき匂いを嗅ぎつけてすぐに追いかけて来たのだ。

 

 

「…なんだ、テメェかよ」

 

ラクサスは相変わらずの仏頂面で出迎えてくれた。

 

「あれからギルドに来てくれないから、おじいちゃん達も心配してるよ」

 

彼は天狼島から帰還した後、一旦ギルドに来てくれたが、いつの間にか居なくなっていたので少し気になっていたのだ。

 

ちょっと後にアミク達の家の近くの宿に泊まっていることが分かったのだが、中々会う機会がなく、こうして会うのも数日ぶりだ。

 

「オレは破門中だぞ。あのジジィがうるせえだろうが」

 

「あの人、ツンデレだからね。内心じゃ嬉しいはずだよ」

 

「オレはそうでもないね」

 

「もう!祖父が祖父なら孫も孫!」

 

血は争えない、というか。どっちも不器用でツンデレである。

 

 

「んなことより、何の用だよ」

 

「ラクサス見かけたから話しかけただけだけど」

 

 

アミクがそう答えると、ラクサスは呆れたようにため息を吐いた。どういう意味だそれは。

 

 

「今日はね、魔法舞踏会ってのに参加するんだ!仕事でだけど。楽しみ!」

 

一応、今日の予定を伝えておく。

 

「へー、踊れんのか?下手くそなダンス見せて笑い者にされんなよ」

 

「残念でしたー。私、得意なんだよ!」

 

 

皮肉げな笑みを浮かべるラクサスにアミクはあっかんべをする。

 

 

「じゃ、私はもう行かなきゃ!たまにはギルドに顔出してよ!風邪引かないようにね!」

 

 

「余計なお世話だ」

 

 

アミクが手を振りながら去って行く姿を見ながら、ラクサスは独り言ちた。

 

 

「舞踏会、か」

 

 

 

 

 

依頼主であるバルサミコ伯爵の屋敷前に到着したアミク達。その中には念話を使うウォーレンの姿もあった。

 

「立派な屋敷…」

 

「舞踏会を開くだけのお屋敷ではあるの」

 

アミク達が荘厳かつ大きな屋敷を見上げて感嘆の声を上げていると、屋敷の扉が開いて1人の女性が出て来た。

 

 

「どちら様ですか?」

 

 

その女性は明るい茶色の髪を揺らし、綺麗な声でアミク達に問いかける。

 

暗くなりかけた外では、そのピンクのドレスが明るく映えた。

 

 

『うおっ、美人だ!』

 

ウォーレンがわざわざ念話で伝えてくるが、確かに美人である。

 

「私達は妖精の尻尾(フェアリーテイル)です。依頼を受けてお伺いしました」

 

アミクが丁寧に言うと、女性は思い当たったのか「ああ、お仕事で…」と納得した表情になった。

 

 

「名乗るのが遅くなってしまい、申し訳ありません。私はこの宮殿の主であるバルサミコの娘で、アチェートと言います」

 

『舌噛みそうな名前…』

 

 

これまた念話で伝えてくるウォーレンに苦笑していると、アチェートは「どうぞ、こちらへ」と中に入れてくれた。

 

 

そして、案内された部屋にて依頼主と対面することになる。

 

 

依頼主は非常に背が低く、口が酸っぱそうに窄められているのが特徴的な男性だった。

 

アチェートの父親らしい。

 

 

彼はアミク達にソファに腰掛けるように言うと、自分はアチェートの膝に座った。

 

その様子は子供にしか見えなかったが…失礼なので何も言うまい。

 

 

「私が依頼主のバルサミコ伯爵だ」

 

「だーはっはっはっは!!!名前そのまんまじゃねえか!!」

 

途端にナツが伯爵を指差してバカ笑いをし始めた。

 

 

咄嗟にアミクがナツの頭を叩く。

 

「イテッ」

 

「失礼でしょ!すみません、仲間が…」

 

 

「まぁ、よい。それより、仕事の話だ」

 

 

頭を下げたアミクを手で制すると、伯爵は話し始めた。

 

 

曰く、今回の魔法舞踏会はアチェートの婿選びも兼ねている。その際、バルサミコ家に代々伝わる指輪を7年に1度だけ披露するらしい。

 

ベルベノはその指輪を狙ってくるのだそうだ。実際、ベルベノは7年前にもその指輪を盗もうとして婿選びもおじゃんになったようだ。

 

 

「しかし、ベルベノはこの風体。いくら変装して舞踏会に紛れても直ぐにバレるのでは?」

 

 

エルザの疑問も当然だ。ベルベノの似顔絵を見る限り、彼の風体はアフロヘアや渦巻き状の髭といった特徴的なもの。変装してもそう簡単に隠せないだろう。

 

だが、その疑問に伯爵が興奮したように答えた。

 

「奴は変身魔法とマジカルドレインを使うのだ!」

 

「変身魔法…はともかく、マジカルドレイン?」

 

前者は名前の通りだろうからいいとして、後者は知らない魔法だ。

 

名前からしてドレイン(吸収)系の魔法だろうか。

 

「ヤツはその魔法で、触れた魔導士の魔法を短時間だけ複数コピー出来るのだ!」

 

「相手の魔法をコピー!?」

 

「おもしれー魔法ってのはそれか!」

 

『確かに、珍しい魔法だ』

 

単純な話、アミクに触れればアミクと同じ音声の滅竜魔法が使えるのだろう。

 

「君達の力を結集し、ベルベノから指輪を守るのだ!そしてこやつを取っ捕まえて、再び牢獄に送り込んでほしい 」

 

「お任せ下さい。ご期待には必ず答えます」

 

エルザがそう答えると、伯爵は満足したように頷いた。

 

(うん…?)

 

そこで、アミクはアチェートの不安そうな顔が少し気になった。ベルベノが来る事が不安なのだろうか。

 

「さて、せっかく魔法舞踏会に参加するのだ。君達にも素敵な服を与えねばな」

 

伯爵はそう言ってアミク達を更衣室に案内してくれた。

 

 

「高そうなドレスー!」

 

アミクはドレスを着てみて、その高価そうな肌触りを感じていた。

 

 

「アミクさん、似合ってます!」

 

「ウェンディも可愛いじゃん。いいね、いいね」

 

 

アミク達が互いを褒め合っていると、ルーシィとエルザもやって来る。

 

 

「もう着替えたのか。2人共似合っているぞ」

 

「こういうドレス着るのも久しぶりねー」

 

 

エルザもルーシィもドレスがいい感じに2人の美しさを際立てていて、舞踏会の花になりそうだ。

 

いや、主役はアチェートなんだけども。

 

 

「私達は魔法で変身したベルトルトを見破って捕まえればいいんだよね?」

 

「誰よ、ベルトルトって」

 

「あ、そっちは進撃しちゃいそうな巨人の方だった」

 

アミク達は屋敷の中で舞踏会に参加しながらベルベノを探すチームと外で見張るチームで別れた。

 

外のチームはエクシード達とウォーレンである。ウォーレンは念話を使えるので連絡係としての役割も担っている。

 

こうしておけば不審な人物を見つけた時、すぐに中に居るアミク達に警告できる寸法だ。

 

 

 

「お、男衆も来たね」

 

しばらく談笑していると、ナツ達がタキシードを着てやってくる。

 

というかよくエルフマンに合うサイズがあったな。

 

 

「バッチリ決めて来たね!」

 

「なんか落ち着かねえぜ」

 

グレイはキッチリした格好が気になるのかモゾモゾしている。

 

『お前はよく脱ぐからな。いつもの開放感が味わえなくて窮屈なんだろう』

 

(開放感って…)

 

ウルがそんなこと言うが、そもそもグレイをそんな風にしたのはあなたが原因では?

 

「ウェンディ、私達に『トロイア』掛けてくれる?会場には動く台があるって言うし…」

 

「分かりました」

 

なんでも、この屋敷には浮いたり沈んだりする円形の台があり、その上に乗ってダンスをするらしい。ちょっとしたアトラクション気分を味わえそうだ。

 

 

 

一方、外チーム。

 

 

屋敷の屋根の上で陣取り、見下ろして監視しているマーチ達。

 

 

「なんか仮面つけてる人達もいっぱいなの」

 

「まるで仮面舞踏会みたいだね」

 

見る限り多くの人数が仮面をつけて参加しているようだ。

 

 

「仮面か…。顔を隠すのにはもってこいだぜ」

 

ウォーレンが難しそうな声を上げるとマーチが反論した。

 

「でも変身魔法だから、仮面なんて無くても問題ないと思うの」

 

「どうかしら。表情を読まれない為に隠す意味合いもあるかもしれないわ」

 

「なるほどね」

 

そう話し合いながら見張っていると。

 

 

「お、なんだ?」

 

「揉めてるみたいだね」

 

屋敷の入り口の方で何やら揉めてるような声が聞こえる。

 

「だから!身分を証明できるがなければこの屋敷には立ち入り禁止です!」

 

門番が必死に1人の大柄な人物を食い止めている。どうやらその人物が無理に屋敷の中に入ろうとしているらしい。

 

仮面を掛けていて顔が見えないが、タダならぬ気迫が漏れている気がする。

 

 

「怪しい男発見なの」

 

「まさかベルベノ!?」

 

「いや、いくらなんでもあんな騒ぎを起こしてまで入ろうとはしねえだろ。こっそり侵入して誰かに変身した方が確実だ」

 

とりあえず、自分達が出るまでもないと思ってしばらく様子を見ていると。

 

 

「身分証明?できるぜ…」

 

仮面の男がニヤッと笑った気がした。

 

 

そして。

 

 

 

ギロ!

 

 

 

首を曲げ、上から覗きこむウォーレン達をガン見した。

 

 

マーチ達の口から恐怖の悲鳴が迸る。

 

 

『ぎゃあああああああ!!!』

 

 

 

 

 

「およ?今悲鳴が聞こえたような?」

 

アミクがピコン、と耳を立てて周りを見回す。

 

「気のせいかな」

 

アミクは首を振ると、会場内を注意深く観察した。

 

全体的に仮面を付けている者が多い。それに、ウェンディと同じぐらいの年の少年少女達も参加している。

 

何人かは動く台に乗ってダンスをしている者も居た。

 

(こんなに人が居たらベルベノが変身しても分からないな…)

 

ベルベノの匂いも分からないので、嗅覚に頼ることもできない。地道に警戒するしかないだろう。

 

 

 

ところで、この魔法舞踏会、結構いろんな所から招待されているみたいだ。老若男女、金持ちそうな人達が集まっている。

 

 

(それくらいバルサミコ家っていうのは有力なのかな?)

 

 

バルサミコの名の影響に軽く舌を巻く。でも、これだけの人数からどうやって婿を選ぶのか。

 

(そういえば、指輪が関係あるみたいな事を言ってたような…)

 

そう思案しながら、アミクは他のメンバー達に視線を移す。

 

エルザはチャラチャラした感じの男に誘われ、丁度いいとばかりにその男の事も探りにいった。

 

ルーシィも別の男性に誘われ、軽く社交ダンス中。

 

ナツもグレイもエルフマンも見知らぬ女性に誘われてダンスに行ってしまった。

 

もし、その相手が変身したベルベノだったら、と危惧するが、まぁナツ達なら大丈夫だろう。

 

 

と思った直後。

 

 

「アイスメイク『マシンガン』!!」

 

「アイスメイク『砲撃(キャノン)』!!」

 

 

「早速おっぱじめとるー!!」

 

グレイと女性がダンスどころか魔法をぶつけ合ってしまっていた。

 

「なにやってんのー!?」

 

ナツじゃなくてグレイが先に暴れるとは。

 

『この女に「どんな魔法使える?」と聞かれてね。魔法を見せ合っていたらいつの間にか喧嘩よ、ケンカ』

 

ウルが呆れたように言っている。

 

 

「あーもうー!!やめなさーーーい!!」

 

「うおっ!?」「きゃっ」

 

アミクは2人に向かって突っ込んで行き、大声で叫んだ。すると、2人はビクッとなって動きを止める。

 

 

「早速騒ぎ起こしてどーすんの!?それに、こんな派手な魔法使って周りの人に迷惑がかかったらどうするんですか!?危ないでしょ!」

 

「「すみません…」」

 

腰に手を当ててプンプン説教するアミクの前でシュン、となる2人。

 

「なんだ、私は必要なかったようだな」

 

後ろから声がしたので振り返ると、なぜか男装したエルザが拳をグーにして構えていた。

 

 

グレイと見知らぬ女性よ、命拾いしたな。あの拳は殴るやつだったぞ。

 

「全く、先が思いやられるぞ」

 

「あはは、まぁ遅かれ早かれこうなってたかもね」

 

ナツ達のことだし、大人しく事が済むはずが無かったのだ。

 

「というかエルザ。その後ろの人は…」

 

「ああ、私と踊ってたら気分が悪くなったみたいでな」

 

エルザの後ろに目を向けると、さっきエルザを誘った男性が青白い顔をして俯いていた。

 

エルザの殺人回転ダンスをされたのだろう。南無。

 

 

そこに、ようやく主役であるアチェートとバルサミコ伯爵が現れた。

 

「うわ、アチェートさん綺麗だなー」

 

純白のドレスを着たアチェートはこの会場の中でも一際映える。実際、ほとんどの男がアチェートに見惚れていた。

 

そのせいで誰もアチェートに近寄ってダンスに誘うこともしなかった。そうしている間に、アチェートは男装したエルザをダンスに誘ってしまっていた。

 

「ありゃ、なんか妙な展開になったね…」

 

確かに、男装したエルザはイケメンだが…女にもモテモテだとは、恐るべし。

 

 

『…こちら、ウォーレン』

 

「あ、ども!」

 

その時、ウォーレンから定期連絡がきた。

 

 

「どう?異常はない?」

 

『…まー、異常はないな。うん』

 

歯切れの悪そうなウォーレンに疑問を感じていると、ウォーレンがばつが悪そうに言ってくる。

 

 

『ま、なんだ。頑張れよ』

 

「うん…?そちらこそ」

 

ちょっと気になったが、とりあえず引き続き警戒することに。

 

 

 

すると。

 

 

「可憐なお嬢さん。私と1曲、いかがですか?」

 

仮面を付けた男性がアミクに手を差し伸べてダンスに誘ってきたのだ。

 

(…此処に来て踊んないのもあれだし、せっかくだから)

 

 

そう思考して承諾の意で彼の手を取ろうとした時。

 

 

 

横から伸びてきた手がアミクの腕を掴んだ。ついさっき嗅いだ匂いが鼻に入ってくる。

 

 

「ひゃ!?」

 

驚いて掴んできた相手を見ると、大柄で仮面を付けた男が居た。

 

「悪いな、先約があるんだ」

 

そして、思いっきり聞き覚えのある声で最初に誘ってきた男性に言う。

 

「え、いや、でも」

 

「ここは引いてくれるな?」

 

少しは抵抗しようとした男性だったが、大柄な男の尋常ではない気迫に折れてすごすごと退散していった。

 

 

「こんな所で何やってんの…ラクサス」

 

 

アミクはジト目で大柄な男────ラクサスを見る。仮面から覗く金髪が目に付く。きっちりタキシードまで決めてその逞しい体格が浮き彫りになっていた。

 

 

「何してようがオレの勝手だろ」

 

「部外者は入れないんじゃ?」

 

「部外者じゃなくなっただけだ。外に居た奴らのお陰でな」

 

なるほど、ウォーレン達を脅して自分を妖精の尻尾(フェアリーテイル)の関係者だと証言させたのだろう。

 

「ホントになんで来たの…」

 

「テメェが舞踏会の話をしたからちょっと興味が湧いてな。どっかで舞踏会開いてないか探していたら偶然お前らと同じ会場に辿り着いたわけだ」

 

真っ赤な嘘である。

 

わざわざギルドまで出向いてミラにアミク達の受けた仕事の詳細を聞き出し、(その際マカロフに「破門中の者がなんで此処におるー!」と怒鳴られたが)此処まで追っかけて来たのだ。

 

ただ、そうとは気づかないのがアミククオリティ。

 

目を見開いて「へー、そうなんだー!」と瞳を輝かせるアミクを見て、ラクサスは口の端をヒクつかせた。

 

「じゃ、ちょうどいいね!一緒に踊ろっか!」

 

仕事もあるが、一旦彼とダンスしながら様子を見るのもいいだろう。そう思って提案すると、ラクサスは鼻で笑った。

 

「ふん、オメエの付け刃なダンスがどこまで通用するか見ものだな」

 

「そんなこと言ってー!逆にラクサスはダンスできるのー!?」

 

そう言い合いながらアミクとラクサスは台に乗った。台は音もなく浮き上がり、ゆっくり回転し始める。

 

 

「よろしく」

 

「…ああ。つーか仕事はそっちのけでいいのかよ」

 

「大丈夫大丈夫、仕事も一緒にやるから心配ないよ」

 

 

そうして彼とダンスをしてみると、意外な事に上手だった。アミクをリードする手つきは優しいし、アミクの動きやすいように合わせてくれるので助かる。

 

彼なら、身を委ねられるという安心感があった。

 

 

 

それを魔水晶(ラクリマ)の映像で見ながらウォーレン達はボヤいた。

 

「何でラクサスが居るんだよ…」

 

「絶対アミクのケツを追いかけて来たの!あのストーカーめ!」

 

マーチが憤慨した。

 

ついさっき、魔力を察知したのかウォーレン達を発見したラクサスは「なぁ、オレ達知り合いだよなぁ?オレはお前らの関係者だよなぁ?だったら舞踏会に参加してもおかしくないよなぁ?お前らの『連れ』だし」と脅してきた。

 

ウォーレン達は渋々ラクサスを知り合いだと証言してラクサスは悠々と会場の中に入ったのだ。

 

一体何をしに来たのか、という疑問の声も無視して。

 

「もー我慢できないの!こうなったらあーしが直接乗り込んでやるの!」

 

「乗り込むって…」

 

魔水晶(ラクリマ)にアミクとラクサスが優雅にダンスしている光景が映し出されている中、マーチが立ち上がって魔力を高めた。

 

「うおっ!?」

 

マーチの身体が一瞬光り、すぐに彼女に変化が起こる。

 

小さかった身長はすくすくと大きくなり、足も腕も長くなった。胸に大きな膨らみが形成され、腰にくびれができ、フサァと艶やかな金髪が生えてくる。

 

お尻の少し上からは尻尾が伸びて、頭には可愛いネコミミが出現した。

 

そして、ドレスを着て変身完了。

 

 

『うおおおおお!!出た――――!!マーチの変身魔法――――!!』

 

「念話の必要ある?」

 

 

ウォーレンが歓喜の叫びを念話で発していた。

 

ウォーレンはマーチ達が帰還した際に1度だけ変身魔法を見た事があったが、その時も大興奮だった。変身魔法がそんなに良かったのか。

 

そんな目を血走らせて。

 

「行って来るの!」

 

「あ、ちょっと!今はそれどころじゃ…ああもう!」

 

 

 

 

 

「旅の途中でダンスでも覚えたの?」

 

「そんな所だ」

 

そうして踊っていると、急にアミクが顔を寄せてきたので、ラクサスの肩がビクッとなった。ラクサスが息を飲む音がする。

 

アミクはラクサスの耳元でコソコソ話し始めた。

 

「ラクサスには伝えておくけど、今回の依頼の捕獲対象であるベルベノは変身魔法とマジカルドレイン────触れた相手の魔法をコピーするってチート魔法を使うから、気を付けて」

 

まぁ、ラクサスなら遅れをとる事はないだろうが、念の為に忠告しておいた。せっかく舞踏会を楽しみに来たのに、こんな話をしてしまうのは心苦しいが、何か怪しい人物が居たら知らせてくれるように言おうとしたら。

 

「はい、もう終わりなのー!!」

 

「マ、マーチ!?」

 

飛び込んできたマーチに強制終了させられた。

 

「んだよマーチ。人型になってまで邪魔しに来たのか?」

 

「当然なの!アミクをラクサスの毒牙に掛からせるわけにはいかないの」

 

マーチが両腕を広げてアミクの前に立ちはだかるが、背が低いのであまり迫力がなかった。

 

「アミク!こんな奴と踊ってる場合じゃないの!仕事しなきゃなの!!」

 

「いやいや、こうやって同時進行で仕事もしてるんだよ。それにラクサスだったら怪しい人にはすぐに気付いてくれると思うし」

 

呑気にダンスなんかしてたのも、ラクサスを信頼しての事だ。

 

アミクの言葉を聞いたラクサスはガシガシと頭を掻いた。

 

「ね!ラクサス!」

 

そして、アミクが同意を求めたその時。

 

会場にある大きな古時計から大きな音が鳴り響いた。

 

時計を見ると、ちょうど12時を指している所だった。

 

「わ、なんだろ!」

 

突然の音にアミク達が戸惑っていると。柱時計にある扉が開かれ、そこから指輪の乗った台座がゆっくりと出て来た。

 

「あの指輪!7年に1度だけ披露されるヤツなの!」

 

「なるほどね。あの柱時計の仕組みが7年に1度だけ開かれるようになってるのか。面白いね〜」

 

マーチとそう言って柱時計を見ると、バルサミコ伯爵が意気揚々と説明している所だった。

 

「指輪を手にした男が娘にプロポーズ出来るというのが、バルサミコ家の伝統なのだ!」

 

『指輪を手にした男が…!?』

 

それを聞いた男衆が目の色を変える。そして、指輪に向かって群がり始めた。

 

「わお。ロマンチック!」

 

「めんどくさい伝統なの」

 

「マーチ、野暮だよ…」

 

確かに面倒ではあるが、趣のある伝統だと思うのだが。マーチにそういうのを求めても仕方ないのかもしれない。

 

「ってか、さらっとエルフマンも混ざってるし」

 

「どーせ『漢はプロポーズだ!』とか言ったに違いないの」

 

 

 

ところで、さっきからラクサスが別の所を見てるのだが。

 

「ラクサス?」

 

「…お前の話を聞いて思い当たったが…。アイツ、さっきオレにぶつかってきたガキだな…ウェンディ…とダンスしてる奴。不自然なぶつかり方してきたから覚えてるぜ」

 

ラクサスの言葉を聞いてウェンディの方に視線を向けると、ウェンディのダンス相手が仮面をつけた少年であることに気付く。

 

「それに、さっきから他の奴らの事もやたら触ってたな。魔力も妙だったから気になってたんだ」

 

「それって…」

 

ラクサスは元々妖精の尻尾(フェアリーテイル)でも屈指の実力者。

 

そんな彼だからこそ多少の違和感にも気付けたのだろう。彼の勘を信じるなら、あの少年は…。

 

 

「ウェンディが危ない!」

 

アミクは台を蹴って一直線にウェンディ達の方に跳んで行った。

 

「ウェンディ!その子から離れて!!」

 

 

「ふぇ!?」

 

アミクは警告すると同時に、思いっきり拳を振り下ろした。

 

 

「『音竜の響拳』!!」

 

「くっ!」

 

少年は急いでウェンディから離れてアミクの攻撃を躱した。

 

 

アミクの拳が台にめり込む。

 

 

「アミクさん!?」

 

「ウェンディ、大丈夫!?アイツがベルベノだよ!」

 

「えぇ!?」

 

ウェンディが驚いた直後、ウォーレンから念話が来た。

 

 

『皆、聞いてくれ!ウェンディを誘ったガキがベルベノだ!!』

 

「やっぱり!?今、攻撃したところだよ!」

 

『早いな!?』

 

アミクは跳んで躱した少年を睨む。

 

「正体を現したら?ベルちゃん」

 

「…鋭い奴も居たもんだな」

 

少年は諦めたようにため息を吐くと、魔法を解く。

 

 

すると、アフロヘアに巻き髭という似顔絵と同じ姿が現れた。

 

 

 

「本当にアフロだ!」

 

ちょっと目のつけるところがおかしいアミク。

 

 

「よーし、堪忍してくれー!」

 

「アミクさん、それは襲われる方のセリフです!」

 

アミクは足に音を纏うと、ベルベノに向かって突っ込み、思いっきり蹴りを放った。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

だが。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

なんと、ベルベノも足に音を纏って蹴りで対抗してきたのだ。

 

「同じ魔法!?」

 

互いに相殺しあって弾き飛ばされる2人。

 

「いつの間にコピーされてたんだ…」

 

床に着地して上を見上げると、ベルベノは柱時計のすぐ近くに着地していた。

 

「しまった!」

 

そう叫んだものの時既に遅し。ベルベノは柱時計から指輪を掠め取ると、ニタリと笑ってバルサミコ伯爵を見下ろす。

 

「バルサミコ家の指輪は、このベルベノ様が確かに貰ったぜ!」

 

「ベルベノ…」

 

「おのれ!!指輪を返せェ!!」

 

 

得意げに指輪を指でクルクル回すベルベノ。

 

アミクは追撃しようとするが、それよりも早くウェンディが動いていた。

 

 

「『天竜の咆哮』!!」

 

ウェンディのブレスがベルベノに突き進む。だが、ベルベノも大きく息を吸う。

 

「『天竜の咆哮』!!」

 

竜巻と竜巻がぶつかり合って、相殺する。

 

 

「本当にいくつもコピーできるんだ…」

 

 

アミクとウェンディの滅竜魔法をまるで自分の魔法のように使い熟すとは。

 

マジカルドレインは想像以上に厄介なようだった。

 

 

そこに、ナツが参戦。

 

 

「やっと面白くなってきたぞ!『火竜の鉄拳』!!」

 

「『火竜の鉄拳』!!」

 

「なっ!?」

 

ナツが炎の拳を構えて飛びかかるも、ベルベノも同じ魔法で対抗。

 

「ダンスしている間にお前の魔法もドレインさせて貰ったのよ!」

 

「ならば私が相手になろう。グレイ、エルフマン、アチェート殿を頼む!」

 

今度はエルザが『煉獄の鎧』に換装して斬りかかって行った。

 

「換装!『煉獄の鎧』!!」

 

なんとベルベノはエルザの換装までコピーして剣をぶつけてきたのだ。

 

「ちょっと目に毒だなぁ…」

 

元々エルザが着る鎧なので、少し女性らしい感じなっているが、それがそのままベルベノが着てしまったので軽く地獄絵図になっている。

 

というか、エルザと鍔迫り合いするとか、エルザと互角のパワーまで持っているのか。あるいは筋力までもコピーできるのか。

 

「無駄だ。此処に居る妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバー全員の魔法を既にコピー済みよ!」

 

「上等だ!!物真似野郎が何処までやれるか、とことん勝負してやる!!」

 

ナツが攻撃を仕掛けようとしたその時。

 

バチバチバチバチ!!

 

 

「うお!!?」

 

 

ベルベノの頭上から雷が降って来たのだ。慌てて間一髪でそれを回避するベルベノ。

 

 

「い、今のは…!!」

 

ナツがハッとして周りを見回すが、魔法を放った本人は見当たらない。

 

「はい、隙あり!!『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

アミクはその隙を突いてベルベノに向かって突進していく。

 

「くっ…!『雷竜の咆哮』!!」

 

ベルベノは咄嗟に雷のブレスを放つが、所詮はコピー。

 

本物はこんなもんじゃない。

 

雷のブレスを突っ込み、突き抜けていく。そして。

 

「よいしょっ!!」

 

「ぐおあ!!」

 

ベルベノの腹に頭をめり込ませた。その勢いのまま、アミクはベルベノを床に組み伏せる。

 

 

「捕獲かんりょー!」

 

「クソッ!!」

 

アミクがブイ、とピースサインをすると、ベルベノは悔しげに呻いた。

 

 

「あー!取られたー!オレがぶっ飛ばしたかったのに!!」

 

「でかしたぞ、アミク!」

 

ナツが喚いているが、ルーシィ達は大喜び。

 

さらに、向こうから心配そうなアチェートと機嫌の良さそうな伯爵が駆け寄って来た。

 

「よくやった!さぁ、そのベルベノを警備員に引き渡すのだ!!」

 

伯爵がそう命令するが、アミクは首を振る。

 

 

「すみません。少しお待ち下さい。この人には聞きたいことがあるんです」

 

アミクの言葉に首を傾ける一同。そんな彼らにお構いなく、アミクは一言言い放った。

 

 

「本当の目的は何?」

 

すると、伯爵達はもちろん、ベルベノも驚いていた。

 

「…気づいてたのか」

 

「少しおかしいな、って思っただけだよ。貴方は今まで攻撃された時に自衛として魔法を使ってただけで、自発的に攻撃しようとはしてなかった。それに、他の人達も無闇に傷つけたりしていない。

普通の泥棒なら、そんなの気にせずに奪っていくと思うんだよね」

 

アミクはそこまで言うと、一旦言葉を区切り、アチェートの方を見た。

 

彼女は呆然としてこちらを見ている。

 

 

アミクは続けて自分の考えを話す。

 

 

「ここからは推測になるけど。貴方の目的は指輪というより、その指輪を手に入れるとできる行為だったんじゃないの?」

 

「…」

 

「バル(名前思い出せない)…伯爵さんはその指輪を手に入れた人は、娘さんにプロポーズできるって言ってた。つまり────」

 

「その通りだ」

 

ベルベノはすっきりしたように肯定した。

 

「前回は失敗したが、更に7年も辛抱強く待ったのは…アチェート、お前にプロポーズするためだ」

 

「え!?」

 

「プロポーズ!!?」

 

その言葉に、アミク以外の全員が驚愕で固まった。

 

「お前とはガキの頃からの付き合いだったが、オレはずっと…お前に惚れてたんだぜ?」

 

だが、ベルベノは真面目な表情でアチェートをじっと見つめている。

 

床に組み伏せられた状態なのがちょっと間抜けだが。

 

いち早く正気に戻ったのは伯爵だった。

 

「使用人の息子だった貴様を、特別に娘の遊び相手にしてやった恩を忘れたか!」

 

「へっ。あんたに屋敷を追い出されてから、何度もアチェートに会いに行ったが、あんたは身分違いを理由に毎回門前払いしてくれたな」

 

それはいくらなんでも酷いのではなかろうか。

 

「えっ…!?パパ、そんなの私聞いてない!」

 

「ええい、お前は黙っていなさい!」

 

その事はアチェートも知らなかったようだ。アミクは一喝する伯爵を睨んでベルベノに目を向けた。

 

「貴方は、伝統に則って彼女にプロポーズしようとしたんだね」

 

「それが彼女に対しての礼儀だと思ったんだよ」

 

ベルベノは自嘲するように俯く。

 

「俺もそのご尤もな理由で勝手にアチェートのことを諦めた…だがそのせいで心が荒んじまって、いつしか悪事に手を染め、気がつきゃ刑務所暮らしよ…」

 

悔恨するように、昔の自分を恥じるように。

 

ベルベノは語った。

 

「でもよ、刑務所の中でお前に気持ちを伝えなかったことをずっと後悔してたんだ!だから俺は、脱獄してこの7年に1度のチャンスに賭けたのよ!しかも2度もな!」

 

彼は7年前に脱獄し、7年もの間潜伏して、そして今日この場に現れたのだ。

 

 

これも全てアチェートに想い告げる為に。

 

 

「…はい、どうぞ」

 

 

アミクはさっとベルベノから離れた。

 

ベルベノは目を見開いてアミクを見ていたが、感謝するように頭を下げると起き上がる。

 

そして、アチェート向かってゆっくり近づいて行った。

 

伯爵が止めようとするも、アミクが「はいはい、娘さんの為を想うなら見守ってましょうね~」と引き止める。

 

 

そして。

 

 

ベルベノはアチェートの前まで行くと跪いて指輪を差し出した。

 

 

「アチェート…俺の嫁さんになってくれ」

 

 

 

「そんなもの、断るに決まっておる!」

 

伯爵が憤慨したように言うが、果たして。

 

 

「…はい!」

 

 

満面の笑みで。

 

アチェートは本当に幸せそうな笑みで返事をした。

 

 

(やっぱりね)

 

 

アミクは予想通りと言った風に頷き、そして周りは。

 

 

『ええええええ!!!?』

 

 

大層驚いておられた。

 

 

確かに、言っちゃ悪いがベルベノは美男子とは言えず、どっちかというとブサイクだ。

 

そんな人物がアチェートのような美人と釣り合うはずがない、と無意識にでも思ってしまうことだろう。

 

だが、結果はOK。

 

「アチェートォォ!!」

 

伯爵の悲鳴のような声が響く中、アチェートは嬉しそうにベルベノを見て言った。

 

「ベルベノ、私もずっと貴方を待っていたのよ!」

 

「本当か!じゃあ、本当に俺の嫁さんになってくれるのか!」

 

ベルベノが歓喜の色を隠しきれずに近寄ると、アチェートは首を振った。 

 

「ただし…自首して、罪を償ってからよ」

 

それはそうだ。

 

公にはベルベノは脱獄した犯罪者のままだ。

 

 

「…分かった」

 

ベルベノも理解していたのか頷く。

 

 

そして、アチェートが差し出した左手。ベルベノはその薬指に指輪をゆっくりと嵌めた。

 

それは男女の契り。

 

互いにどんな事があろうとも支え合うことを誓った、夫婦の証だ。

 

「おめでとう!!2人の門出に拍手!!」

 

アミク達はそんな2人の将来を祝福して、大きな拍手を響かせた。

 

アミク達だけでなく、その場に居た他の客達も一緒になってベルベノとアチェートを祝ってくれる。

 

拍手が鳴り響く中、2人は幸福そうな顔で見つめ合うのだった。

 

 

 

 

 

無事、ベルベノは評議員に引き渡され連れられて行った。

 

そんな彼が去り際にアチェートに掛けた言葉がこれだった。

 

 

「必ず迎えに行く」

 

 

アチェートは「待ってる」とだけ告げ、2人は別れた。

 

 

しかし、この別れは一時のもの。

 

 

次会う時は罪を償い、胸を張ったベルベノになっている事だろう。

 

そして、2人は正式に夫婦になるのだ。

 

 

(もし、ビスカとアルザックの結婚式に参加してたらこんな気持ちだったのかなぁ)

 

 

シチュエーションは色々違っているが、似たような感じかな、と思っていると。

 

 

アミクの横を通ったベルベノが声を掛けてきた。

 

 

「なぁ、よくオレがプロポーズ目的なのが分かったな」

 

アミクの推測が的を射ていたのが不思議だったのだろう。アミクはあっさり答えた。

 

「ま、決め手になったのはアチェートさんだね」

 

「アチェートが?」

 

疑問符を浮かべるベルベノに説明してあげる。

 

「貴方の話をしている時も、貴方が現れた時も、アチェートさんが貴方に向けている表情は嫌悪のそれじゃなかった。

むしろ、ベルちゃんを見た時は嬉しそうな顔になってたよ。だから、ピンと来て」

 

「いや、それオレと直接関係なくないか?」

 

「そうなんだけど…はっきり言うと女の勘!あの人が好意を持ってる人がそんなに悪い人ではないんじゃないかって!」

 

「便利な言葉だ…」

 

ベルベノは呆れたように肩をすくめた。心の中では「こいつ、ベルちゃんってスッゲー馴れ馴れしいな(汗)」と思っていたが、口には出さないでおいた。

 

「あばよ。お前も良い恋できればいいな」

 

「余計なお世話だよ!」

 

 

ベルベノは笑いながら、今度こそ去って行った。

 

 

 

「…ラクサスは…もう居ないか」

 

ベルベノの背中を見送ったアミクは大柄で金髪な男の背を探すが、どこにも居ない。

 

「気まぐれな人だなぁ。お礼したかったのに」

 

今回、ラクサスにも世話になってしまったのでお礼の言葉を告げたかったのだが。

 

 

居ないのはしょうがない。後でお礼の品でも送ろう。

 

 

 

 

ラクサスとしては、アミクがどこの馬とも知れぬ輩とダンスをすることが無性に嫌になったのでわざわざ舞踏会まで来たわけだが。

 

アミク達の仕事など二の次だったが、ついつい彼女の手助けをしてしまった。

 

 

そして、ある程度成り行きを見守った後、そろそろ照れくさくなってきたのでさっさと退散したのだ。

 

 

ナツ達に見つかると面倒な事になりそうでもあったので。

 

 

 

そんなことも露知らず、アミクは「もっと楽しんでいけばよかったのにー」と呑気に思っていた。

 

 

と、後ろからルーシィの悲鳴が聞こえた。

 

どうやらカンカンになったバルサミコ伯爵に報酬は払わない、と言われたようだ。

 

 

仕方ない。依頼主の意向に添えなかったこちらの落ち度でもある。

 

とはいえ、後悔はしてないが。

 

 

「まぁ、良いじゃんルーシィ。こうなったらとことん楽しもうよ!」

 

アミクはがっくりうなだれるルーシィに近付いて肩を叩いた。

 

 

「…はぁ、そうね。せっかくだし、もうパーっと楽しんじゃお!!」

 

ルーシィも颯爽と切り替えて楽しむ事にした。

 

 

周りを見ると、すでにエルザ達も踊ったり食事をしたりして楽しんでいるようだ。

 

 

「ね、ねぇ!僕と踊ってくれないかな?あと、その耳と尻尾コスプレ?」

 

「本物なの。コスプレなんて失礼しちゃうの」

 

マーチも人型の状態で少年に誘われていた。

 

おい、まだ垢抜けない少年よ。視線が胸に釘付けだぞ。

 

 

面白いものを見たアミクは更に周りを見まわした。

 

 

すると、ナツの後ろ姿を発見。

 

 

せっかくなので誘ってみよう。

 

 

「おーい、ナツ――――」

 

「ルーシィ」

 

 

しかし、ナツに話しかけたのはルーシィだった。

 

 

「あ…」

 

「な、なに…?」

 

なぜか緊張した面持ちのルーシィ。

 

ナツもしばらく黙った後。

 

 

 

膨れたお腹を叩きながら言った。

 

 

「食い過ぎて眠たくなっちまったー!オレもう帰るって皆に言っといてくれ!」

 

「そんなことかい!!」

 

ルーシィがガクッとなる。そして、ナツの手を掴んで強引に台に上がった。

 

「そんなこと言わずにナツも踊ってよ!」

 

「あ、おい!」

 

 

ルーシィとナツはそのまま台で浮き上がっていった。

 

 

直後に「『トロイア』切れたぁ…」「イヤ――――――!!」と言う会話が聞こえて来る。

 

仲良さ気に騒ぐルーシィとナツ。

 

 

「あー…『トロイア』切れちゃったのか…しばらくダンスはお預けかな」

 

その様子を見ながらポツリ、と呟く。

 

 

 

何の気負いもなく接し合う2人を見るのは何度もあったはずなのに。

 

先ほどの出来事があったせいか、そんな彼らの姿が別な意味に見えてくる。

 

少し、胸がチクリとした気がした。

 

 

 

「ちょっと、アミク助けてー!!」

 

「ア、アミク…『平衡感覚養成歌(バルカローラ)』掛けてくれぇ…」

 

ただ、それも一瞬。

 

いつも通り自分を呼ぶ声。

 

2人のSOSに苦笑すると、アミクは2人に向かって歩いて行くのだった。

 

 

 

 

こうして、魔法舞踏会は意外な終わりを迎えた。

 

 

 

 

後日談。

 

 

ラクサスの元に大量のブロッコリーが届いたそうな。

 

 

彼は「せめて卵にしとけよ…」と苦虫を噛み潰したような表情をしていたらしい。

 

 




フェアリーテイルのゲーム、来年の3月に発売らしいです!

いやーシェリアのプレイアブルはいいね。

その勢いでこの小説もゲーム化…すみません、調子乗りました。

とにかく、グラフィックも作り込みも凄くて期待大ですよ!

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