妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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オリジナルでーす。

今回は前のアンケートで4位だったグレイがメインです。


半裸の氷の魔導士とお仕事

読み終えた本をテーブルに置いてうーん、と伸びをした。

 

「楽しかったー!キリトはこっからどうなるんだろ。アスナと無事に会えるのかなー…」

 

最近話題の『ソード・アート・ミュージカル』という小説の最新刊を読んで、その余韻に浸る。

 

この7年の間に何巻も新刊が発売されたお陰で、一気読みを楽しむことができた。

 

そして、この巻でようやく追いついたのだ。

 

「次は『やはり俺の魔法は間違っている』でも読もうかなー…仕事行くか」

 

時間も丁度いいのでそろそろ仕事に行こうか、と思い席を立つ。

 

リクエストボードに向かって良さ気な依頼を物色した。

 

 

「どれどれ〜。私に退治されたい依頼はあるかな〜?怖がらなくてもいいから出ておいで〜」

 

今のアミクは頭ゆるゆる状態だったので大層変なことを口走ってらっしゃる。

 

近くでリクエストボードを見ていたナブが宇宙人を見るような目で見てきているのにも気付かず、依頼を漁ること数分。

 

「およよ?『夫が行方不明です!至急探してください!』…?大変じゃん!」

 

ピョン!とツインテールを跳ねさせて依頼書をもぎ取るアミク。ナブが「うおっ」と驚いていたが気にせずにキョロキョロとギルド中を見回した。

 

 

(誰か、一緒に来てくれる人!)

 

ナツ…いない。

 

ルーシィ…家で小説の執筆中。

 

エルザ…S級クエストに行ってる。

 

マーチ…エクシード達でどっか行った。

 

グレイ…居ました!半裸のグレイが!!

 

 

「グレイグレイー!!グレグレグレイーーー!!」

 

「なんだよ…」

 

煩そうに顔を顰めるグレイだったが、御構いなしに捲し立てた。

 

「大至急、私と仕事に行って!」

 

「はぁ?いきなりかよ」

 

「お願い!1人だと大変そうだし、グレイが居れば心強いよ!」

 

アミクが手を合わせて頼み込むと、グレイは―――いつものように半裸である―――――仕方なさそうに頭を掻いた。

 

「ったく、しょうがねぇな。同じチームのよしみで行ってやるよ」

 

「ありがとー!」

 

アミクが早速依頼をカウンターに持っていこうとすると、ウルが聞いてきた。

 

『どんな依頼なの?』

 

『行方不明の父親を探してほしいって。一刻も早く見つけてあげないと』

 

『なるほどね…ところで、場所は?』

 

アミクは依頼書に書かれてある依頼場所を確認した。

 

『ハコベ山の近くの村、だね…寒そうだな…』

 

その時、アミクはハッと気付いてキョロキョロする。

 

「居ない…かな」

 

「どうした?」

 

「い、いや…なんでもないよ」

 

ジュビアが居ないか確認しただけだ。もし、ジュビアがグレイと一緒に居るところを目撃していたら「グレイ様と2人きりでお仕事!?羨ましい…!!恋敵ィ…!!」と睨まれることは間違いないので、できれば避けたかったのだ。

 

「さ、早速行こうか!急いだ方がいいかも…あとグレイ、服」

 

「なぬ!?いつの間に!」

 

アミク達は急いで依頼場所に向かったのだった。

 

 

 

 

「案の定寒かった!!」

 

 

ハコベ山付近のある村。そこで服を着込んだアミクはそれでもガタガタと震えていた。

 

暖かそうなコートに、マフラーと手袋、耳当てまで付けてきたのにこんなにも寒いとは。

 

 

「グググ、グレイは寒くないの~!?」

 

「氷の魔導士が寒さにやられているようじゃ話になんないぜ」

 

「それもそうか」

 

アミクとは正反対に、グレイは薄着。それでも余裕そうに佇んでいる。

 

流石は氷の魔導士。

 

「雪が冷たーい!!」

 

ハコベ山付近なだけあって、大量の雪が積もっており気温もすこぶる低い。

 

アミク達は寒さに耐えながら依頼主の家まで向かった。村はそこまで大きくなかったのですぐにその家を見つけることができた。

 

「あ”~!!寒い寒い!!」

 

『これくらいどうってことないだろう?』

 

『それは貴方達だから言えることだよっ』

 

コソコソウルと会話しながら家に入ると、そこには不安そうな表情をした女性と、ロメオぐらいの年の男の子。そして、その妹らしき少女が固まっていた。

 

「い、依頼を受けて来ましたー!妖精の尻尾(フェアリーテイル)です!く、くしゅん!!」

 

「お、お待ちしておりました…とりあえず、ティッシュをどうぞ…」

 

 

ありがたくティッシュを頂戴し、チーン、と鼻をかんだ。

 

 

「それで、いつから居ねえんだ?」

 

時は一刻も争うので、グレイが早速本題に入る。

 

「昨日からです。釣りに行ってくる、と出かけてからそれっきり…」

 

「なるほど…ご主人がよく釣りに行く場所に心当たりはありますか?」

 

「はい。一度主人に連れて行ってもらったことがあるので、憶えています。

ですが…私もそこに居ると思って真っ先に探しましたが、どこにもおりませんでした…」

 

 

すでに探索済みだったか。

 

だが、手掛かりがそこにある以上、一旦その場所に行ってみるべきだろう。

 

「早速探しに行ってきます!必ず見つけますから!」

 

「よろしくお願いします…」

 

 

 

「なぁ、昨日から居ねえって事は、最悪の場合…」

 

「うん。その可能性もあるよ…」

 

 

最悪の可能性。

 

もう、探し人がこの世に居ない可能性も…。

 

 

この寒さだ。長時間留まっていたら、凍え死んでしまっているかもしれない。

 

 

「とにかく、1分も無駄にできない!まだ生きてる事を願おう!」

 

 

 

 

そうして奥さんに教えられた池に着いたアミク達。

 

アミクはスンスンと匂いを嗅いだ。

 

 

「…だめ。やっぱり匂いは残ってない…」

 

 

時間も経ったし、雪も降ったようで匂いがもう消えている。

 

 

これでは匂いを辿って探しに行くこともできない。

 

「困ったな…まさか、池に落ちちゃったとか!?」

 

アミクは凍った池に顔を押しあてて中を覗き込んだ。

 

「冷たい!!これ、1回中に潜ってみるべきかな?」

 

「アホか。水の中で氷漬けになって死ぬぞ」

 

『大体、池に落ちたような痕跡もないし、大丈夫だと思うぞ?』

 

グレイとウルに窘められ、アミクは唸った。

 

「うー…念の為!」

 

アミクは氷を拳で殴りつけて割った。そして、そこにできた水に顔を突っ込む。

 

「お、おい!?正気かよ!?」

 

グレイが慌ててアミクの肩を掴むも、彼女はしばらくそのままでいた。

 

そして、ガバッと顔を上げる。

 

 

「い――――や―――――!!!冷た過ぎて死ぬ!!」

 

「何やってんだ、バカが!!」

 

真っ赤になったアミクの顔をグレイが自分の服で包んでくれた。

 

「水中でエコーロケーション使って確かめたの!水の中には居なかった!寒っ!!」

 

やっぱりというか、池の水は非常に冷たく、痛みさえ伴う程だった。

 

「うう、他を探そう!そんな遠くには行ってないはず…!」

 

 

アミクは「二手に分かれよう!」と提案する。ここは分担して探した方が効率がいい。

 

 

「大丈夫か?お前を1人にするのはちょっと心配なんだが…」

 

「固まってたら見つけられるものも見落としちゃうよ。グレイは心配性だなぁ」

 

まぁ、確かに気にしすぎかもしれない。今までだって何度も単独行動したことあるので、大丈夫だろう。

 

ただ、アミクはちょっとドジな所もあるのが気掛かりなのだが…。

 

 

「じゃ、見つけたらすぐに家に連れて帰って!後で合流ね!」

 

「あ、おい…」

 

『行っちゃったな』

 

 

 

 

 

 

それからしばらく探しまわり、グレイは少し離れた場所で洞窟を見つけた。

 

「こりゃ…当たりかもな」

 

グレイはニヤッと笑みを浮かべた。いかにも、身を潜めるにはうってつけの洞窟。

 

それに、微かに人の入った痕跡がある。

 

 

「今回の仕事は楽に終わりそうだな」

 

『…アミクが言うに、そういうのはフラグだって』

 

当然のようにウルの言葉は届かず、グレイは洞窟の中に入って行く。

 

 

「おい!誰か居ねえのか!!」

 

グレイが奥に呼びかけながら進んでいると、微かな音が響いてくる。同時に少し広い場所に出た。

 

そこには、焚き火の跡や魚の骨、そして。

 

「た…たす…けて…」

 

ガチガチと震え、息も絶え絶えな男性がいた。

 

グレイは慌てて近寄るとその男性を抱え起こした。

 

『生きてたんだ!良かった』

 

「もう大丈夫だ!アンタの奥さんが依頼を出してくれたんだ!もう帰るぞ」

 

「あ、あ、ありが、とう…本当に、ありがとう…」

 

しかし、随分と酷い有様だ。

 

着ていた上着はびしょ濡れ、太ももには何かに切り裂かれたかのような怪我があるし、顔色は蒼白。

 

非常にギリギリな状態だ。

 

 

(アミクがいればすぐに治療してくれたかもしれねえが…)

 

別行動したのが裏目に出てしまった。急いで合流した方がいいだろう。

 

 

「もうちょっとだけ耐えろよ!」

 

グレイは男性を背負うと洞窟を脱出し、村を目指した。

 

 

 

 

「あなた!!」

 

村に辿り着くと早々に依頼主の女性に出会う。

 

「アンタ!早く家に帰って家の中を温めてくれ!!」

 

「は…はい!…しかし…」

 

グレイの指示に依頼主は迷うような素振りを見せる。なんでこんな時に迷う必要があるのか。

 

グレイは苛立ちながら催促した。

 

「早くしろ!!」

 

「で、ですが…実は大変なことが…」

 

依頼主はさっきよりも憔悴した表情で訴えてくる。

 

グレイは何か問題が起こった、と直感した。

 

「娘が、娘が居なくなったのです!!」

 

「…!!」

 

「な、な、ぜ…」

 

男性が震えながら女性を見る。

 

「主人が探しに行く、と言って聞かず、とうとう飛び出して行ってしまいました…息子も一緒に探してくれているのですが、村には居ないようです…」

 

女性は泣きそうになりながら言い募った。娘は父親を心配するあまり、自分も父親を探しに行ってしまったのだ。

 

「クソ…!俺のせいだ…!い、今の村の外は危険なのに…!」

 

「悔やむのは後でもできる!今はアンタは休んどけ!探しに行ってくる!」

 

グレイは男性を依頼主に預けると、再び村の外に向かおうとした。その時、男性が震える口を開いてグレイを呼び止める。

 

「ま、待ってくれ…さっきも言ったが、今、村の外は非常に危険なんだ…!」

 

「どういうことだ?」

 

グレイが聞くと、男性は説明する。

 

「本来この時期には現れないはずの冬将軍クマが出没している…ヤツはとても強力で人間なんて一振りでバラバラにしてしまう…俺もそいつに襲われてこんな怪我をして帰れないでいたんだ」

 

男性は涙を浮かべて頭を抱えた。

 

 

「もし、もし…娘が奴に出会ったら…アンタも十分に注意してくれ。アイツの本当に恐ろしい所は…」

 

(あの怪我はそういうことか)

 

ウルは男の生々しい怪我をお思い出して納得した。

 

「任せろよ。必ず連れ戻してくるぜ」

 

グレイはその場から駆け出してさっきの池の方に向かった。

 

その表情は険しい。胸騒ぎが止まらない。

 

脳裏には1人の少女の姿が浮かんでいた。

 

(無事でいろよ…アミク!)

 

 

 

 

「ふぇーっくしょん!!」

 

 

大きなくしゃみをして、アミクは自分の体を抱きしめた。

 

 

「なんでハコベ山ってこんなにも寒いの!?標高高いから!?」

 

文句を言いながら雪に足跡を作っていく。雪も降り始めてきたし、急がないと自分も危ないかもしれない。

 

 

「こんな時ナツが居てくれたらなぁ…生きてるストーブみたいなものだし」

 

軽く失礼なことを宣いながら歩くこと数分。

 

 

アミクの耳が子供の泣き声を聞きつけた。

 

 

「子供…?なんでこんな所に?」

 

不審に思いながらも、声がする方向に向かっていく。

 

木々の間を抜け、少し開いた所に出た。

 

そこで、ある者を発見する。

 

 

「う、うええええん!!パパーーーー!!」

 

「あ、さっきの女の子!!」

 

 

あの家にいた娘だ。こんなところで何をしているのだろうか。

 

 

「もう大丈夫!怖くないよー」

 

アミクは少女に駆け寄ってそっと抱きしめてあげた。すると、少女は驚いたようにアミクを見たが、アミクに見覚えがあるのか安心した表情になる。

 

「さ、さっきのお姉ちゃん…?良かったぁ、寒いし怖かったよぉ…うぇえええん」

 

「こんな所でどうしたの?」

 

アミクは優しく少女に問いかけて事情を聞く。少女は泣きじゃくりながらも簡単に説明してくれた。

 

「わ、私も、パパを探したくて、お姉ちゃん達を、追いかけたんだけど、迷っちゃって…」

 

「…そっか、君もお父さんのことが心配だったんだね」

 

居なくなった親を探して奔走する姿が、自分のそれに重なった。

 

アミクは優しい声で少女を慰めた。

 

「大丈夫。絶対見つけてみせるから。君とお父さんを会わせてあげるから。私達を信じて待ってて?」

 

「…うん」

 

少女はやっと笑みを浮かべた。アミク達のことを信じる気になってくれたのだろう。

 

「…お、おね、お姉ちゃん…!!」

 

だが直後に少女の顔が恐怖で歪んだ。

 

「う、後ろ…!!」

 

その言葉が何を意味しているのか確認するよりも早く、アミクは少女を抱えて跳んだ。

 

間一髪、アミクの居た場所に鋭い爪が振るわれ、雪を大きく抉った。

 

「うっわ、モンハンみたいなの出て来たなー」

 

アミクは呑気に襲撃者を見て感想を言う。

 

 

それは、鋭い爪を持ち、ゴワゴワした白い毛皮で身を守り、凶悪そうな牙でこちらを威嚇してくる。その真っ赤な目でアミク達を爛々と睨みつけていた。

 

 

「ひ…!ふゆしょうぐんクマだ…!」

 

「冬将軍クマ?そりゃあまた独特な…」

 

アミクが呆れていると、冬将軍クマはヨダレを撒き散らしながら飛び掛かってきた。

 

「おっと」

 

しかし、アミクは再び軽く避けると、反撃する。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

アミクの渾身の蹴りがクマの鼻面に叩き込まれた。

 

「凄い!!」

 

少女は諸手を挙げて喜んだ。

 

冬将軍クマは「グウ!?」と悲鳴をあげると後ろに反転しながら吹っ飛ばされる。しかし、うまく着地して警戒の眼差しを向けてきた。

 

「さすがにタフ…」

 

「パパが言ってた!あのクマさんの毛皮はすごく分厚くて中々矢が通らないって!あのクマさんのせいで天国に行った人がいっぱい居るって!!」

 

なるほど。バルカンかそれ以上に厄介で危険な生物のようだ。

 

「お腹空いてるかもしれないけど…君に食べられるわけにはいかないんだよね」

 

アミクは両手に音を纏うと、身構えた。

 

 

だが、クマの方はアミクを『餌』ではなく『敵』と認めたのか、警戒しながらジリジリ後退りする。

 

もしや、このまま逃げてくれるのだろうか。

 

アミクの目的はクマを倒すことではないので、そっちから去ってくれるのであれば手間が減る。

 

そう淡い期待を抱いていると、クマは後ろ向きのまま斜面を登り始めた。

 

(お、やっぱり逃げてくれるかな?)

 

と、思った直後。

 

 

「グオオオオアアアアアア!!!」

 

ズシーン、とクマが思いっきり地面に両腕を叩きつけた。

 

軽く地面が揺れる。

 

「わわっ!?」「きゃー!?」

 

アミクは少女を支えて揺れる地面に耐えた。

 

「な、何を…?」

 

アミクは首を傾げて斜面の登った先の上に居るクマを見上げた。

 

そのクマが邪悪にニヤッと笑った気がした。

 

 

 

彼が冬将軍クマと呼ばれる所以。

 

 

それが、アミク達に牙を剥こうとしていた。

 

 

「え!?」

 

突然、斜面にある雪が津波のように捲れ上がり、斜面を凄まじい勢いで滑り降りてきたのだ。

 

そう、つまり。

 

「雪なだれ!!?」

 

冬将軍クマがよく使う、恐ろしい大技。クマは斜面などで振動を起こすことで意図的に雪なだれを起こすことができるのだ。

 

これは強敵に対しての逃走手段にもなるし、獲物を追い詰めるための攻撃にもなる使い勝手のいい技なのだ。

 

人々が冬将軍クマを恐れる大半の理由がこれである。

 

 

「わあああああああ!!!」

 

少女は迫り来る雪のなだれを見て泣き喚いた。

 

「くっ────!!」

 

避けきれない。

 

そう判断したアミクは咄嗟に少女を抱いて雪崩に背を向けた。

 

 

すぐに、背中に衝撃が走り、冷たい感触が駆け抜けていく。

 

 

「ああああ────!!!」

 

腕の中の少女だけは守らなければ。

 

少女を包み込むように丸まり、アミクは雪崩の中を揉みくちゃにされながら流されていった。

 

 

 

 

 

 

ようやく雪崩が収まった。

 

 

バラバラに積もった雪原に静寂が漂う。生きている者の気配がしない。

 

 

しかし、次の瞬間、雪原からズボッと腕が出てきた。

 

 

 

「プハッ!!冷たいなぁ、もう!!」

 

アミクは周りの雪を掻き分けると一気に埋まっていた雪から抜け出した。

 

当然、腕には少女を抱いたままだ。

 

「あー!雪が背中に入った!冷たいん〜…大丈夫だった?」

 

騒がしくも少女に安否を問う。しかし、様子がおかしい。

 

少女を見ると、ガチガチと寒そうに震えていた。

 

 

「さ、寒い…!!寒いよぉ…!」

 

「え…うわ、雪がたっぷり!」

 

なんと少女の服の中に雪がめちゃくちゃ入り込んでいたのだ。中の下着もぐっしょり濡れ、この冷え込んだ空気によって冷やされてしまう。

 

さらに悪いことに雪が激しくなり、もう吹雪と言っても差し支えなかった。

 

「ごめんね、守りきれなくて…」

 

こんな小さい子にはこの寒さは毒だ。

 

 

アミクは覚悟を決めると、自分のコート、マフラー、耳当て、手袋を脱ぎ、少女に着せる。濡れてしまった服はしょうがないので脱がせて、代わりにアミクのを着せた形だ。

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「ほ、ほら、あったかかかか、くなった?」

 

「お姉ちゃんは全然寒そうだよ!!?」

 

そりゃあそうだ。

 

コートの下は普通の服だし、手袋とかマフラーも取ってしまったので極寒がダイレクトに伝わってきているのだ。

 

「めちゃ寒い!!」

 

ブルブルブルと携帯電話のように震えながら少女を抱きしめる。

 

「だだだだ、だいじょぶ!!こここ、これれくら、ららい」

 

全く大丈夫じゃなかった。

 

このままでは移動もままならない。というか、ここがどこだかも分からない。

 

(あ…なんか、眠くなってきた…)

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!しっかりして!!」

 

気温は零度以下。そんな中に無防備な装備で留まっていたため、体温が著しく低下。

 

さらに、こんな雪の中で動き回って体力もだいぶ奪われた。そのせいで眠気まで催してくる。

 

「ん…ぁ…むにゃ…」

 

「寝ちゃダメだよ!!寒い時に寝たら天国行くってパパが言ってたのー!!」

 

少女が涙目になってこくりこくりと舟を漕ぐアミクの顔をペチペチと叩いてきた。

 

効果はない。

 

アミクが自分の体を抱き、震えがひどくなる。

 

アミクの白かった顔はますます青白くなり、唇も青紫色に変色していく。ツインテールがパキパキと凍りついていき、瞳の色が薄れていく。

 

(もう…限界、かも…)

 

アミクはゆっくりと雪に埋もれるように倒れた。不思議と冷たさは感じず、むしろ暖かい、と錯覚までするようになってきた。

 

「お姉ちゃん!!イヤだ!!イヤだーーーー!!」

 

少女が必死にアミクの体を揺するが、アミクの意識はどんどん薄らいでいく。そんな時、向こうで揺らめく影があった。

 

(だ…れ…?グレイ…?)

 

微かな希望を持って顔を見上げる。

 

 

 

 

「グオオオオアアアア!!!」

 

 

その希望は最悪な吠え声によって裏切られてしまった。

 

先ほどの冬将軍クマだったのだ。

 

クマは獲物が弱っているのを見ると、勝ち誇るように二足歩行になり、再び吠えた。

 

(これは…まずい…こんな…)

 

せめて少女だけでも逃がそうと思うも、体は冷えて口さえ動かない。女の子も恐怖で体が固まっているのか動けない。

 

 

冬将軍クマは恐怖を与えるようにゆっくり近づいてくると、その凶悪な爪を振り上げた。

 

 

その爪は、弱々しい2人の少女の命を刈り取る────

 

 

 

 

「アイスメイク『牢獄(プリズン)』!!」

 

「グオ!!?」

 

氷で作られた牢がクマを閉じ込めた。

 

クマが腕を振るってそれを壊そうする。氷の牢にヒビが入った。

 

「アイスメイク…」

 

しかし、その間にグレイは身構えていた。

 

 

 

そして。

 

 

「グオオオオ!!!」

 

冬将軍クマが威勢良く氷の牢を壊したと同時に、グレイの方も動いた。

 

 

「『大鎌(デスサイズ)』!!」

 

氷の鎌が作り出され、それをグレイが思いっきり振るう。

 

それは冬将軍クマの腹部を横一文に切り裂いた。

 

 

「グギャアアアアアア!!!」

 

 

血飛沫をあげて倒れるクマ。そして、そのままピクリとも動かなくなった。

 

 

「────アミク!!」

 

「お兄ちゃん!!お姉ちゃんがぁ」

 

『おい、しっかりしろ!!』

 

 

グレイ達の必死な声を聞きながら…アミクの意識は暗転した。

 

 

 

 

「ハ、ハ…ハーックション!!」

 

アミクの盛大なくしゃみが辺りに響く。それに対して、グレイは迷惑そうな顔をした。

 

「おい、オレにまで唾飛ばすなよ」

 

「ごめ”ん”…グレイ、服は?」

 

「あれー!!?」

 

あの後、グレイがアミクを背負い、女の子と共に無事に村まで着いたらしい。

 

アミクが起きた時には家族総出て土下座祭りだったので目を白黒させたものだ。

 

『貴方方は俺と娘の命の恩人です!!』

 

『お姉ちゃん、妹とお父さんを助けてくれてありがとー!!』

 

『ありがとーお姉ちゃん!!』

 

アミクは体が冷え切っていて少し危ない状態だったらしい。しかも体のあちこちに凍傷ができていた。

 

一応、治癒魔法を掛けたが、今も大事をとってグレイに背負われて帰っている始末だ。

 

「お前はよく死にかけるから1人にしたくなかったんだよ。寒くもねえのに心臓が凍りつきそうだぜ」

 

『ガルナ島でも天狼島でもどこでも無茶するよね、アンタは』

 

「ごめんごめん。でも、やっぱりグレイと来て良かったよ」

 

アミクはグレイの背中から首に腕を回してぎゅーっと密着した。

 

柔らかい胸の感触が背中にダイレクトに伝わり、グレイの顔が真っ赤になる。

 

「お、おい…」

 

「────あの家族。また会えて良かった」

 

アミクの心からの言葉に、グレイは押し黙った。

 

なんとなく、アミクが何を考えて居るのか分かったのだ。

 

だから、グレイなりに言葉を絞り出した。

 

 

「お前も会えるよ、きっと」

 

 

彼女と長い年月を過ごしてきたので、彼女がオーディオンにどれほど焦がれているのかも知っている。そして、どれぐらい必死に探してきたのかも。

 

だから、こんなに頑張っている彼女が報われないとは思えなかった。

 

「だから、それまではオレ達も────」

 

「…くかー」

 

「寝んのかい!!」

 

『疲れちゃったみたいだね』

 

グレイは頭をガシガシと掻きながら「恥っずいな、クソ!」と毒づいた。

 

だが、その顔には仕方なさそうな笑みが浮かんでいた。

 

 

ゴロゴロゴロ

 

 

「な、なんだ…?急に雷が降りそうだな…早く帰るか…」

 

 

グレイはアミクを背負ってえっちらおっちらとギルドに向かうのだった。

 

 

「…ありがと、グレイ」

 

 

その背中では少女が小さく呟いていた。

 

 

 

後日談。

 

アミク達がギルドに帰った時、運悪くジュビアに見つかり、詰め寄られた。

 

背負われているアミクを見て「こんの恋敵ぃ…!!」と幽鬼のような顔で睨んでいたと言う。寝ていたのは幸いだったのやら。

 

しばらくはジュビアの怨念の視線に耐えなければならないようだ。

 

 

一方、アミクは40℃に近い高熱を出ししばらく寝込んでしまった。

 

やっぱり、あの極寒が効いたらしい。滅多に病気などしないアミクだったのでルーシィもマーチも半泣きで看病してくれた。

 

ナツやウェンディ、エルザ達がお見舞いに来てくれたのもいい思い出だ。(勝手に入って来ていた)

 

 

グレイはグレイでお見舞いに来てくれたが、妙に疲れていた。

 

 

彼は最近、近くの物が急に放電するという怪現象や、ジュビアの熱い視線に悩まされているらしい。

 

まぁ、頑張れ。

 

 

こうしてアミクとグレイの仕事は両者にダメージを与えて終わったのだった。

 




アンケート、もう少しで締め切りますよー。やってない人は急いでね!

次回の次回から大魔闘演武編が始まると思います。
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