妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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想像以上に長くなった。

あと、最近お気に入りしてくれる人も増えて凄くうれしいです(泣)


透明アミクの恐怖!?

「────人々はさながら、世界の裂け目を覗き見たかの如く、慄き怯え、魂を震わせたのであった。「ハーハッハッハッハ!!」』────うん、いいんじゃない?」

 

「読み上げないでー!!」

 

ルーシィの部屋には頭にタンコブをこさえたナツとハッピー。ルーシィとアミクとマーチの5人が居た。

 

アミクが読み上げたのはルーシィの部屋にあった紙の束…ルーシィの書いている小説だ。

 

だが、見られるのが恥ずかしいのかルーシィはアミクの手から小説を奪い去っていった。

 

「えー、結構面白いのに」

 

「あーしは群衆が泣き喚く無様感が気に入ったの」

 

「まだ見せられる段階じゃないから!」

 

「マーチ、変な所気に入ってるんだね…」

 

ルーシィはそそくさと小説を隠すと、痛そうに頭を擦っているナツ達に問う。

 

「アンタ達、なにしに来たのよ?用がないなら出て行って!」

 

「そうだよ。いつも言ってるでしょ?私の部屋はともかく、ルーシィの部屋には勝手に入るなって」

 

「だからってあんなに強く殴んなくたっていいだろ」

 

「いや、アミクの部屋もダメだから!!」

 

ついさっき、ルーシィの部屋に行くとナツ達がルーシィの小説を読んでいたので、彼らに拳骨を喰らわしたのだ。

 

小説はその後読ませてもらった。

 

「仕事の誘いに来たんだよ。稼がねえと一文無しになっちまうからな」

 

「あー、お金盗まれたんだっけ。大変だねー。私はいっぱいあるから問題ないけど」

 

「これがお金を持つ者の余裕ってヤツなの」

 

ルーシィの父親であるジュードのお陰で家賃を支払わずに済んだアミクには貯金が有り余っているのだ。

 

「他人事だと思いやがって!とにかく、オレ達は仕事しなきゃなんねぇんだよ」

 

「今は忙しいの!」

 

「悪いけど、私も今日は気分じゃないんだ」

 

「毛づくろいが捗らないからパスなの」

 

アミク達がそれぞれの理由で断るとナツ達は渋い顔をした。

 

「大体、仕事なら2人で行けばいいじゃない」

 

「そーはいかねーだろ。オレ達はチームなんだから」

 

「あい!」

 

ナツはアミク達をまっすぐに見て言った。

 

「チームで仕事をする時は、お前らも一緒だろ」

 

「ナツ…」

 

アミクとルーシィはそれを聞いてハッとし、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「後、腹減った!!」

 

「なんか食べさせてくれなーい!?」

 

「ガクッ」

 

そっちが主な理由ではなかろうか。食費を浮かせようとしているのかもしれない。

 

「はぁ、しょうがないなぁ。簡単な料理作るからちょっと待ってて」

 

「お!流石アミク、話が分かるー!!」

 

「あい!お魚料理にして!」

 

アミクが料理をしようと厨房に行こうとすると。

 

「甘やかさないの!」

 

ルーシィがそう言ってナツとハッピーの襟首を掴む。そして、玄関まで引きずって行き。

 

「此処はレストランじゃなーい!!」

 

2人を追い出してしまった。

 

「何もそこまでしなくても…ナツ達だってお金なくて大変なんだし」

 

「そうやって甘やかしてるから、ナツ達も図に乗るのよ!」

 

「でも…」

 

「でも、じゃない!」

 

 

コンコンと説教するルーシィ。アミクは弱ったようにツインテールを弄り始めた。

 

「優しくするのはいいけど、限度があるってこと!度が過ぎるとその人の為にもならないんだから!」

 

「はい…気をつけるよ」

 

「よろしい」

 

マーチはその光景を見ながら「母親と娘みたいな図になってるの…」と呟いた。

 

 

「あーあ、集中力が切れちゃった。気分転換にギルドにでも行こうかな」

 

「いいね。ギルドに居た方がインスピレーションが湧きそうだしね」

 

「ネタの塊みたいな所だからなの」

 

アミク達が早速ギルドに向かおうとすると、アミクが床に落ちている瓶に気が付く。

 

「ん…魔法の薬?」

 

その瓶を拾って中を覗き込んでみた。ハート型の蓋で閉められていてピンク色の液体が入った、こ洒落た瓶だ。

 

「何これ?」

 

「そうだ。それ前に自分で調合したんだっけ。それを使うと肌が透き通るみたいに綺麗になるのよね」

 

「ルーシィ作の入浴剤なの?」

 

「へー、凄いじゃん!」

 

アミクはピンク色の液体をマジマジと見た。

 

「そういえばアミクにはまだ言ってなかったっけ。後で使ってみたら?」

 

「…気になるから今使ってみてもいいかな?」

 

せっかく出かけるのだから、お風呂に入ってから出かけてみたい。

 

「いいわよ。あたし達は先に行ってるからゆっくりして来なよ」

 

「あれ、ルーシィは入んないの?」

 

「後で入るわ。じゃ、ごゆっくり〜」

 

「また後でなの」

 

ルーシィ達は手を振って家を出て行った。

 

「どれ。どれくらいの効果か見てみましょうか」

 

 

 

 

「1人で使うには広いなぁ、このお風呂」

 

お湯に浸かりながら大きなため息を吐く。お風呂に入るとリラックスした気持ちになるのはいつもと同じだ。

 

 

「さて、お楽しみのお薬ターイム♪」

 

アミクは瓶の蓋を取るとドバーッとピンクの液体を入れていく。

 

「うわっ!?入れ過ぎた!?」

 

どれくらいが適量なのかわからないが、お風呂全体がピンク色になるくらいで止めた。瓶には液体が3分の1くらい残る。

 

「大丈夫かな…?お、良い匂い!」

 

アミクはスーッと息を吸って力を抜いた。

 

 

「いいにゃ〜ふにゃ〜」

 

抜け過ぎて頭のネジまで緩んでいた。

 

 

「そういえば、ルーシィの小説に透明人間ってあったな…透明人間ってどんな感じかな…そういう魔法ありそうだけどなぁ…むにゃ…」

 

なんだか眠くなったアミクはズルズルと体がお湯の中に入って行き、とうとうドボン、と頭まで浸かってしまった。

 

「ブホッ!危な!!お風呂で眠って溺死するところだった!」

 

慌ててお湯から顔を出したアミク。もう十分か、とお風呂から上がる。

 

「あー、気持ち良かった!どうなってるのかなー」

 

バスタオルを体に巻き付けて洗面台の上にある鏡を覗き込んだ。

 

 

そして、硬直。

 

 

「…ルーシィ。肌が透き通るみたいになるって言ってたけど…」

 

 

次の瞬間。

 

 

「透き通りすぎーーーーーー!!!」

 

 

アミクの絶叫が家中に響いた。

 

 

 

アミクが覗いている鏡の中。

 

 

そこには、巻き付けているバスタオル以外何も見えていなかった。

 

 

そう、アミク自身(・・・・・)が映っていなかったのだ。

 

 

「本当に透明人間になっちゃったよー!!フラグ回収早過ぎー!!」

 

どうしよー!と頭をかかえるアミク。

 

「と、とにかく!ルーシィに会わなきゃ!これはルーシィが作ったんだから何か分かるはず!」

 

急いで服を着て玄関に向かうも…自分の状態に気付いて立ち止まった。服を着ても肌を見せている部分は透明になっているため、一見服が宙に浮いているように見えてしまったいるのだ。

 

「これじゃ、騒ぎになっちゃうよ…どうしよう」

 

何かいい方法はないものか…と周りを見回していたあばの目に、甲冑鎧が映った。

 

「あ…前にエルザからいらないって貰ったやつ…そうだ!!」

 

 

アミクの頭上で電球がピキーンと輝いた。

 

 

 

 

たまたまアミク達の家を通り掛かった大家さん。

 

 

彼女は、その時家から出て来た人物を見て目を丸くした。

 

 

その人物はガシャガシャと音を響かせながら歩いていく。

 

「え…!?」

 

ズレた眼鏡を直してその人物をガン見する大家さん。

 

その人物は大家さんの横を素通りしていった。

 

 

「…なんで甲冑鎧が?」

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…これで一応透明であることは隠せている…万が一薬の効果が切れたとしても問題ない!私って頭いい!」

 

アミクはほぼ全身が鎧である甲冑鎧を着たのだ。これなら、透明になった肌も隠せるし丁度いい。

 

 

「ただ…これはこれで目立つんだよねぇ…」

 

 

ジロジロと道行く人達が甲冑鎧姿のアミクを見てくるのだ。客観的にみたら凄く怪しいので仕方がない。

 

「エルザだって鎧姿じゃん。なんでこんなに扱いの差があるの?」

 

そりゃあ、アミクは全身鎧だからだが。

 

「それに、これ結構重い…」

 

重量もあるので、移動するのにも結構労力が掛かる。

 

「このままギルドの入ったら皆驚くだろうなぁ。ちょっと楽しみかも」

 

そう呟きながらギルドへの道を歩いていると、子供達が寄って来た。

 

「わー!変な鎧の人が居るー!」

 

「悪者だー!変態だー!」

 

「やっつけろー!」

 

そして口々に喚いてアミクの鎧を叩き始めたのだ。

 

「ちょ、ちょっと!やめて!危ない、危ないから!痛い痛いなっちゃうよ!」

 

鎧には尖っている部分や切れ味が鋭い所になっている部分もあるので注意しないと怪我してしまうかもしれない。

 

「ここは逃走だー!」

 

 

「あー!」「あくとうが逃げたぞー!」「待てー!」

 

 

 

 

「好奇心旺盛な子供って怖いよ…」

 

がっくり項垂れ、疲れたように息を吐く甲冑鎧。人々はそれを不思議そうに見ていったが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)で色々慣れたのか素通りしていく。

 

「一刻も早くギルドに行かないと、『昼間に徘徊する甲冑鎧』なんて都市伝説ができちゃうよ…」

 

「キャ―――――!!」

 

 

アミクが足を踏み出したと同時に、悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「なに!?事件!?」

 

慌てて悲鳴がした方を向くと、そこには口に手を当てて真っ青な表情をしている女性が居た。

 

「誰か!!うちの子を助けて!!」

 

何事かと見てみると、川で誰かが溺れているようだ。

 

溺れているのはまだ10歳にも満たないであろう少年。力なく水を掻いて必死に浮かんでいるようだ。

 

「大変!」

 

アミクの判断は早かった。

 

 

何の躊躇もなく川にドボン、と飛び込む。水が鎧の中にも流れ込んできてちょっと冷たい。

 

周りから「甲冑鎧が飛び込んだぞ!?」「甲冑が!?」と叫び声が上がっていたが、当然気にしない。

 

このまま泳いで少年の元に向かおうとする。

 

だが。

 

 

(あれ?めっちゃ沈んでない?)

 

進むどころか、ドンドン川の中に沈んでいっているような気がするのだが。

 

(って、そうか!鎧着てるから重いよね!?)

 

思わず口から「ゴボォ!?」と泡を吐き出しながら納得してしまった。空気がもったいない。

 

このままでは少年を助けるどころか、こっちが溺れてしまう。

 

(でも、これ脱いだら…ええい、人命優先!!)

 

鎧を脱いでしまえば、身を隠す物がなくなる。

 

 

だが、躊躇したのも一瞬。

 

 

あっという間に甲冑鎧を脱ぐと、一気に水面まで上がった。

 

「ぷはっ!…居た!」

 

すぐ近くに今にも沈みそうな少年が居たので急いでその手を掴んだ。

 

 

「え!?」

 

「安心して!もう大丈夫だから!」

 

 

驚く少年を余所に、アミクは少年を伴いながら岸の方へと近づいて行った。傍から見たら、少年が勝手に岸に進んでいるように見えた事だろう。

 

実際、人々はちょっと不自然に感じたが、少年が岸に近づいているので安心して見ていた。それより人々が不安になっていたのはさっき飛び込んだ甲冑鎧だ。

 

飛び込んでから一度も水面に上がってきたところを見てないので「ヤバくね?」と思っていた。

 

 

そんなことは頭にないアミクは少年をなんとか岸の上に押し出すと、周りの人々が少年を引き上げてくれた。

 

 

「あぁ!良かった!!」

 

「ママー!」

 

 

無事、親子も会えたようだ。周りの人々もそれを微笑ましそうに見ている。

 

これで一件落着である。

 

 

(…これ、私も上がったらびしょ濡れの服が丸見えだよね)

 

アミクは水の中に浸かったままどうしようか悩んでいた。そこで、ある方法を思いつく。

 

 

(…しょうがない…よね?どうせ見えてないんだし…)

 

 

凄く恥ずかしかったが、背に腹は代えられない。

 

アミクは鎧の中に着ていた下着を全部脱いでしまった。そのまま川の中に放置。

 

 

(ごめんなさい!)

 

環境的にも良いとは言えないが、こうするしかない。

 

 

とにかく、これでアミクは完全なる透明人間である。

 

 

アミクは川から上がると群衆が集まるその場からゆっくり離れた。ビチャ、ビチャ、と濡れた足のせいで水跡が付くが、幸い誰も気にしていないようだった。

 

「おい、大丈夫かー!」「さっき飛び込んだ奴ー!」という声も上がっていたが気にしない事にした。どーせ自分の事なので。

 

 

 

 

 

 

「ふぁ、ふぁ、ファーックション!!」

 

 

「今の誰だ?」「何もない所から聞こえなかったか?」

 

 

恥ずかしさを押し殺してマッパのままギルドに進んでいたアミク。ところが、さっき水に入ってしまったので体が冷える。

 

 

(やっと熱引いたところなのにー!ぶり返さないと良いけど…)

 

 

水に浸かって裸なのはどう見ても風邪引く要素しかないが。

 

 

「本当透明な状態で良かったよ…いや、そもそも透明じゃなかったらこんなことにもなってないか」

 

 

裸なのに誰にも注目されない、というのは何だか妙な解放感がある。いや、決してグレイみたいなわけではないが。

 

あっちは凄いオープンだし。

 

「…お?」

 

その時、近くで生温かいような感触がして足元を見ると、1匹の犬がクンクンと匂いを嗅いでいるところだった。首に繋がっているリードがとあるおじいさんの手に握れられていたので、お散歩中だったらしい。

 

「わー、立派なお犬さん…ってごめんね?今は貴方のお相手をしている余裕はないの…」

 

アミクがこっそりその犬の頭を撫でる。すると喜んだ犬は…。

 

「ひゃう!?な、舐めないでぇ…!」

 

ペロッとアミクの足を舐めてきたのだ。

 

「い、今のは誰の声だ!?」

 

 

(ヤバ、退散!!)

 

 

吠えてくる犬を尻目にアミクはスタコラサッサと逃げ出した。

 

 

 

 

 

「や、やっとギルドに着いた…」

 

 

ほとほと疲れ果てたアミクはギルドを見上げて脱力した。

 

 

透明と言えども、犬のように鼻の良いものとかは普通に勘づいてくるし、他の人には見えないからぶつかりそうになるし、寒いしで大変だった。

 

 

「私、透明だし裸だし…皆びっくりするだろうな~」

 

さあ、入ろう、と扉に手を掛けたその時。

 

 

「だらしねぇな、ナツ!」

 

「ふーん、ルーシィ姉に叩きだされたのか」

 

「ああ、せっかく一緒に仕事に行こうと思ってたのによ」

 

「だってナツってばあたし達の家のことレストランか何かと勘違いしてるんじゃない?」

 

「そりゃあ、アミクの料理は美味いけど、なの」

 

どうやらナツ達が話をしているようだ。なんとなくアミクは、扉をちょっと開けて聞き耳を立てた。

 

「怒られて当然よ。アンタ達、時々勝手にお風呂も使ってるそうじゃない。マナー違反も甚だしいわ」

 

「私も同感だ。同じチームでもケジメは付けるべきだ」

 

シャルルとエルザがナツを非難する。だが、エルザ。アンタも前科あるからな?

 

「そうよそうよ!いくらアミクがある程度受け入れてるからって、そこに甘えちゃだめじゃない!」

 

「別に甘えてるわけじゃねえけどよー」

 

皆から色々言われて不機嫌そうなナツ。

 

「お金がない時は、此処に来れば食事くらい出してあげるから」

 

キナナが言うと、グレイが口を開く。

 

「ま、お前らみたいな無神経な奴らには通じないだろうがな」

 

『無神経と言えば無神経ではあるけど』

 

犬猿の仲のグレイに言われてますます不機嫌そうな顔になるナツ。

 

 

「でも、もう少し優しくしてくれても良いと思う!そんなだから、いつまで経っても彼氏が出来ないんだよ、ルーシィ」

 

 

 

「余計なお世話よ!!」

 

「そいつは言えてるな!」

 

「笑うなー!!」

 

「滲み出る凶暴さが男を近寄らせない、ということなの」

 

「マーチ、喧しい!!」

 

ハッピーの言葉に笑いに包まれるギルドに憤慨するルーシィ。

 

 

ハッピーは続けて喋り出す。

 

 

「彼氏ができないって言えば、アミクも全然できたことないよね」

 

「モテるのにねー。前にだって蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンに告白されてたし」

 

「不思議だよな。恋愛に興味なさそうなわけでもなさそうだしな」

 

 

今度はアミクの話題になった。ますます気になったアミクはこっそり中に入って様子を窺う。ちなみに、その時の扉を開く音はアミクが『食べた』為に完全に無音だった。

 

「彼女としては理想の女になりそうだよね!」

 

「料理もできる、運動神経も抜群、人の事も気遣えるし、仕事もできる。魔法も有能。これ以上ない優良物件だな」

 

レビィやワカバがそんな風に褒めてくれた。だが、マックスの言葉に雲行きが怪しくなる。

 

「そうなんだけど…そんなに出来過ぎると彼氏の方はプライドを保てなさそうだな」

 

「ああ見えて、中身は逞しいところもあるしな」

 

「うむ、真の荒々しさを持つ漢でなければ、太刀打ち出来まい」

 

(う~ん?)

 

何かもやっとするアミク。

 

「それに、アミクはブロッコリー信者だもんな!彼氏がブロッコリー食べまくるアミクを見たらびっくりして逃げちまうんじゃねえか?」

 

「デートの時もブロッコリー畑に行って彼氏を呆れさせるぜ、絶対!」

 

(うう~ん?)

 

ピクピクッ

 

「何言ってるのよ!きっとアミクの彼氏になった人は毎日毎日美味しい料理を食べれて、いつも献身的に尽くされて、おはようからおやすみまで世話してもらえるわよ!お金も全部アミクが稼いでくれるし、ずっと養ってもらえる…あれ?」

 

「それ、彼氏が凄くダメ男になってるの」

 

「アミクがダメにしてるわ。まさに…ヒモね」

 

ルーシィも自分で言っといておかしいと感じたらしい。

 

「アミクだって、我らがシャドウギアのレビィを見習うべき点があるはずだぜ!」

 

「そうだな。レビィに比べたらまだまだお淑やかさが足りない気がするな!」

 

「私も、そんなにお淑やかなタイプじゃないと思うけど…」

 

ドロイ達が言うと、声を上げて笑い合うギルドメンバー達。

 

 

 

アミクの眉がヒクつく。

 

 

「私が居ないと思って、好き勝手言っちゃって~…ってか、どんだけ理想高いんだよっ」

 

アミクが寛容な少女だとしても限度があるし、怒らないわけではない。

 

「ちょっとお灸を据えてあげなきゃね~」

 

 

プンプン怒り状態のアミク。彼女のツインテールがユラユラ揺れた。

 

 

まず、アミクはワカバとマカオ達が座っているテーブルに近づく。

 

 

そして、『声送(レチタティーヴォ)』でマカオにだけ聞こえるように口を開く。

 

『マカオ、ハゲちまえ!そしたらオレが立派なカツラを作ってやるよ!』

 

ワカバの声がマカオの耳に入ってきた。アミクが声を変えたのだ。

 

「ああ!?テメェ、んだとコラァ!?」

 

 

カチン、ときたマカオはワカバの胸ぐらを掴む。

 

「何の事だよ!?」

 

当然訳の分からないワカバが聞き返す。

 

「とぼけんな!!オレにハゲろって言ったじゃねえか!!」

 

「妙な言いがかり付けんな!!」

 

「確かにお前の声だったぞ!お前じゃなきゃ誰がやったんだ!!」

 

「知るか!!」

 

 

あっという間に一触即発の空気に。

 

 

今度はドロイとジェットの方に近付くアミク。ドロイにだけ聞こえるように声を上げる。

 

 

『ダイエットしろよデブ!!そんなんじゃレビィに見向きもされねえぞ!!』

 

ジェットの声だ。

 

それを聞いたドロイはカンカンになってジェットの顔を殴った。

 

「デブって言うな!デブって!!」

 

「ああ!?言ってねえよ!!」

 

ジェットもドロイを殴り返し、互いに胸ぐらを掴んだ。

 

「なんだなんだー!?喧嘩かー!」

 

『何でおまえはちょっと嬉しそうなんだ…』

 

グレイは服をバサッと脱いで参戦する気満々だ。

 

 

 

「どうしたの、急に?」

 

「なんか、ハゲろって言われたとか、デブって言われたとか何とか」

 

 

その様子をミラ達は不思議そうに見守っていた。

 

騒乱の拡大はそれで終わりではなかった。リーダスが描いていた絵にマカオ達が突っ込んでしまい、キャンバスに大きな穴が空いて、リーダスが激怒。

 

彼が「せっかく筆が乗ってたところだったのにー!!」と投げた椅子がアミクに一直線。

 

「わぁ!?危ない!!」

 

思わず手で弾き返してしまった。

 

弾き返された椅子は食事をしていたナツの方に向かい…。

 

 

「あーん、ぐえ!?」

 

直撃。

 

 

「何しやがるっ!!」

 

怒ったナツがグレイに向かって椅子を投擲。

 

「いでえっ!!」

 

『おお!?』

 

首の後ろに当たり、そこを押えるグレイ。

 

直後に首を回してナツの方を見た。

 

「テメェやる気か!?」

 

「メシの邪魔すんな!」

 

『あーあ。恒例の』

 

互いにガン付け合っていつも通り喧嘩に発展。

 

 

2人はそのままクエストボードで依頼を見ていたナブも巻き込んでいった。

 

「どけぇ!ケンカの邪魔だァ!!」

 

「7年経ってもまだ仕事が見つからねえのかよ!!」

 

「オレは!オレにしかできねえ仕事を探してるんだ!!」

 

 

いつの間にか、いろんな人達が入り乱れ乱闘騒ぎになってしまった。

 

その光景を呆然と見るウェンディ達。

 

「一体どうしちゃったの!?」

 

「皆落ち着いて!何があったの?」

 

ウェンディやミラが心配そうに言うが、ルーシィやエルザ達はあっけからんとしている。

 

「どーせ、些細な事でしょ。あいつら、ちょっとしたことでもケンカするじゃん。それより、アミク来ないわねー」

 

「ルーシィの言う通りだな。放っておけ」

 

「それもそうなの」

 

「でも、このままじゃ建物が壊れちゃう」

 

この建物は以前のあの立派な建物よりも耐久度が低い。以前のものも何度か壊れかけたほどだ。こんな建物なんかあっという間にボロボロだろう。

 

「後で修理させればいい。いちいち動じないのが大人というものだ。まったく、成長しない奴らだ」

 

「あ、あの…エルザ?さっきから凄い当たってるんだけど…」

 

さっきからエルザ目がけて椅子とかテーブルとかが飛んで来るのだが…。ほら、エルザも口端がピクピクしてる。

 

「むしろ7年経って、ますます騒がしく────」

 

エルザが皆の方を向いた直後に、どでかいテーブルがエルザの顔面に直撃した。

 

「あ」

 

「噴火3秒前なの」

 

赤くなった顔を歪ませ、プルプル震えるエルザ。

 

「お前らぁ…」

 

プッツンしたエルザが喧騒の中に飛び込んで行った。

 

 

「大概にしろぉ!!」

 

 

(わぁー!!エルザまで参加しちゃったー!!)

 

そろそろ収拾付かなくなってきた気がする。

 

 

「もう、エルザまで…」

 

「ハァ…成長してないのはエルザも同じみたいね」

 

ルーシィやシャルルが呆れてため息をつくと、マーチも「相変わらずなの」と同意した。

 

 

「お、大騒ぎになっちゃったよぉ…」

 

そして、この喧騒を引き起こした元凶であるアミクはドン引きしていた。

 

元々、隙あらば喧嘩する妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

言うなれば着火剤。

 

アミクがちょっと小さな火を投げ入れただけでここまで燃え広がるとは。

 

「これは相談どころじゃなさそう…落ち着くまで待ってよ…」

 

隅っこで様子を見ようと移動していると。

 

 

「おわぁ!?」「きゃあっ!!」

 

 

ぶっ飛ばされたナツに直撃。そのまま壁に押し潰されてしまった。

 

「アミク…?の声…。それに匂いも…」

 

(や、やっばー!!)

 

 

そして、アミクの悲鳴に気付いたナツ。

 

 

ナツはアミクの顔に自分の顔を近づけ、スンスン匂いを嗅いだ。

 

(ち…近い…!)

 

ナツの顔がこんなに至近距離に。何故だかドキドキしてしまう。

 

「アミクか!?」

 

嬉しそうにナツが手をこっちに押し付けてきた…って。

 

 

思いっきり胸揉んでる―――!!

 

 

「やめて―――!!どこ触ってんの―――!!」

 

「ごあぁっ!!?」

 

反射的に衝撃波でぶっとばしてしまった。

 

しまった。大きな声で叫んだからギルドの皆にも聞こえて…。

 

 

「アミクだと?」

 

「アミク、居るの?」

 

「遅いなぁとは思ってたけど…どこに居るの?」

 

「声は聞こえるのに…」

 

「姿が見えん」

 

「アミク、どこなの?」

 

 

ケンカをしていた者達も、そうでない者達も、ナツの周りに集まってくる。

 

 

(う、うわぁ…バレちゃったよぉ…)

 

 

これ以上は隠せなさそうだった。

 

 

 

 

 

ミラから服を貸してもらい、それを着て椅子に座る透明アミク。

 

ギルドの皆が珍妙なものを見るかのようにじーっと見つめてくる。

 

 

「なるほど、こういうことか…」

 

「あ、あたしの作った薬のせいで…!?」

 

「見れば見るほど妙な光景だな…」

 

「ちょっと見ない間に随分変わっちゃって…なの」

 

『たかが魔法薬でそんな効果が出てしまうとはな』

 

「そ、そんなに見ないで…」

 

ずっと見つめられると恥ずかしい。

 

 

『不気味だ!!』

 

「失礼だなっ」

 

 

いや、確かに表情も何もわからない透明人間がしゃべっているのはちょっと怖いかもしれない。

 

「困ったことになったわね。とりあえず服を着せてみたは良いんだけど」

 

「元に戻れないんですか?」

 

「そうみたい…作った張本人に聞けば何か分かるかなって此処に来たんだけど…ルーシィは何か知らないの?」

 

ルーシィに視線を向けると、ルーシィはしばらく考え込んだ。それから何か思いついたように手を叩く。

 

「あ!その薬、7年前に調合したのやつだから、この7年の間で効果も変わっちゃったのかも!」

 

「なるほどね…で、元に戻る方法は?」

 

「…それは分かんない」

 

まぁ、こうなること自体、ルーシィにも予想外だったようだし、仕方ないか。

 

ナツが近付いて来て言った。

 

「なーに、別に気にすることねぇんじゃねぇか?面白いからそのまま一緒に仕事行こうぜ!!」

 

「他人事だと思って!!」

 

そんなニヤケ顔しやがって。

 

 

「だ、誰か知らないかな!?こういうの解除する方法!?」

 

アミクが皆に問いかける。それに対して皆は難しそうな顔をしていた。

 

「そう言われてもなぁ…」

 

「んー…よーし、良い考えがある!」

 

そこで、ナツが何か閃いたようだ。

 

「お、本当!?普段は当てにならないけど、変なところで冴えるナツ!ぜひその意見を聞かせて下さい!」

 

「教えてもらう立場のセリフじゃねえ」

 

 

ナツの言ういい考えとは…。

 

 

「火で炙ってみれば何とかなるんじゃねぇか?」

 

「はい、当てにならない方来たー!!」

 

何の根拠があって言うのだろうか。

 

「そんな火で炙ったら文字が浮かんでくる、とか忍者みたいな方法でなると思う!?」

 

「忍者!良いな!」

 

「そこに反応しない!君ねぇ、何でも燃やしたら解決すると思ってんの?」

 

アミクがプンプン怒るが、他の人達もナツの案に乗り気のようだ。

 

「でも他に思いつかないなら…しょうがないんじゃないか?」

 

「うむ…漢なら、あれこれ迷わずにやるべし!」

 

「女の子ですよ!?」

 

そろそろエルフマンの『漢』の定義が聞きたい。

 

「よーし、行くぞアミク!」

 

「俺も手伝うよ、ナツ兄!」

 

なぜかロメオまで加担して2人とも手に炎を灯した。

 

「ちょ、ちょっと待って…」

 

「「せーのっ!」」

 

2人の炎がアミクに向かってくる。それは、アミクに当たると包み込むように燃え上がった。

 

「あっちゃーーーーーー!!!?」

 

燃えながら熱さに悶えるアミク。お気に入りのツインテールがメラメラと燃え上がる。

 

 

「焼きブロッコリーができちゃう!!」

 

「うーん…効き目なしか」

 

「当たり前でしょ!」

 

ルーシィがツッコンでくれた。そりゃあそうだ。

 

 

ブスブスと煙をあげるアミクはざめざめと泣き出した。

 

「うえ〜〜ん」

 

「よーしよし、大丈夫だから!」

 

「げ、元気出してアミク!きっと何か方法が…」

 

 

ルーシィがアミクの頭を抱いて慰めてくれ、レビィも苦笑いをしてそう言ってくれる。

 

「ウィ、こういう時こそ俺の出番かな?」

 

リーダスが筆を持って得意げになる。何をするつもりだろうか。

 

「な、何か方法が?」

 

「任せておいて、俺がアミクの顔を描けばいいんだ!」

 

 

「な、なるほど…?」

 

納得できるような、できないような…?いや、そもそも根本的解決にはなってない気が…。

 

ともかく、リーダスが腕によりを掛けて描いてくれた結果。

 

「に、似てるような似てねぇような…」

 

「ホントのアミクより美人だね!」

 

そう言われて恐る恐る目を開けると、ハッピーにびっくりされた。手鏡で自分の姿を見てみる。

 

「うわっ、怖っ!!」

 

目の部分だけが透明になっていた。まぶたの上に目を書いたから、目を開けたことによって瞼が消えた為だ。

 

見た感じリーダスの腕前は確かなようだが…。なんか、妙に彫刻っぽい。

 

 

「だったら、これなら!」

 

「いや、ピカソかい!?」

 

すっごく変な顔になったんですけど!?

 

「オイラの方が上手に描けるよ!」

 

「あ、コラ!」

 

ハッピーがリーダスから筆を奪うと、アミクの顔を滅茶苦茶に描き始めた。

 

「はい!そっくり!」

 

「な、わけないでしょー!!」

 

ハッピーの顔になってしまった。そもそも肌の色が青ってアバターかっての。

 

「そうだぞー。アミクの顔はもっとこうで、こうでこんな感じだ」

 

「いや、ここはこうだろ」

 

『お、おい…』

 

「ちょ、ちょっと〜…」

 

もう原型もクソもない。

 

「もう!アンタ達は引っ込んでて!ここはいつもアミクの顔を見てるあたしの出番よ!」

 

「流石ルーシィ!!」

 

今度はルーシィが筆を持った。

 

「えーと、鼻がこうで、ほっぺたが可愛い感じで、眉毛も気品がある!」

 

「おぉ…?ってゴルゴみたいになっとるやんけ!!」

 

すごく男らしい顔つきになってしまっていた。それを見たエルフマンが「漢だ!」と喜んでいた。

 

「以前、マガジンで連載してた漫画でもあったね、こんな展開!顔にメイクするヤツ!!」

 

「ぶ、ぶはははは!!その顔で叫ばないで!!」

 

描いた張本人が大笑いしてらっしゃる。晩ご飯カリフラワーだけにしてやろうかな…。

 

「皆ダメダメなの。ここは昔からの付き合いであるあーしに任せるの」

 

やっとマーチのターンだ。

 

「頼むよ、マーチ…」

 

「ふふふ、アミク。あーしを何だと思ってるの。あーしはかつて、「ある意味予想を裏切ってくる画家」として有名だったの」

 

「ダメな予感しかしない」

 

そんな話聞いたこともないし、絶対ロクでもない由来だろう。

 

マーチは筆を構えた。

 

「アタタタタタタタアタァ!!!」

 

もの凄い気迫だ。筆を目にも止まらぬ速さで振るう。

 

 

そうして完成された絵は…。

 

 

 

よく、子供が描く丸と点だけの顔が描かれていた。

 

「派手な演出の割には内容薄いね!!?本当に予想を裏切ってきたよ!!」

 

「秘法『詐欺ペイント』なの」

 

「詐欺って言ってるじゃない…」

 

ルーシィが呆れたようにツッコむ。

 

 

それからもメンバー達によるお絵かき大会が続いた。

 

皆好き勝手描いて滅茶苦茶な顔にされてしまっていた。

 

女性陣も「女の子なんだから、もっと可愛く、瞳もキラキラさせないと!」「いっそのこと黒髪にしてみたら?意外と似合うかもしれないわよ?」「だったら、違う髪型も見てみたいです!」なんてノリノリだし。

 

エルフマンの様な顔にもされた。いや、何気に上手いなエルフマン。

 

「いい加減…」

 

だから、夢中になっていた彼らは気付かなかった。

 

 

読めない表情でプルプル震えるアミクに。

 

 

「いい加減に、私の顔で遊ぶのはやめんかぁぁぁぁぁ!!!」

 

全身から轟音を放出しながら立ち上がるアミク。

 

「うぎゃーーー!!!」

 

「7年ぶりの『狂演者(バーサーク)』だーーー!!」

 

奇声を上げながら暴れるアミク。ギルドの皆はそんなアミクから逃げるように散らばった。

 

「き、気を付けろ!ああなったら手が付けられないぞ!」

 

エルザが皆にそう言った直後。

 

 

「…ふーっ」

 

アミクがあっという間に落ち着いて椅子に再び座った。

 

 

『ほっ…』

 

皆一安心。今回は非常に短時間のものだったようだ。

 

「顔を描いてくれるのはありがたいけど、もうちょっと真面目にやって欲しいな」

 

『はい…』

 

ちょっと悪ノリした部分も無きにしろ非らずだったので、みんな気まずげに目を逸らした。

 

「でもどうしよう…」

 

「面倒だ。俺に任せろ!」

 

グレイがそう言って魔法を使う。

 

 

アミクの顔が氷漬けになってしまった。氷がアミクの顔に形作られていて、本物の顔のようだ。

 

「流石そっくり!」

 

「精妙なの」

 

「これで文句ないだろ!」

 

 

(文句しかない…)

 

顔が冷たくてやってられんわ。

 

というか、顔の熱で氷が溶けて悲惨なことになってるのだが。

 

『怖ーーーーっ!!?』

 

「やかましいでございますわよ!!?」

 

なんか変な口調になった。

 

 

 

 

 

「はぁ…もうこれでいいや」

 

週間ソーサラーに載っているアミクの写真を切り抜き、それを顔に貼り付けることで手を打った。見た目は凄く間抜けだが、ないよりマシである。

 

「つーかよ、思ったんだが…」

 

グレイが思い出したように口を開く。

 

 

「お前の魔法で解除できねえのか?」

 

 

「…その手があった!!」

 

そういえば自分の魔法は試してなかった。

 

 

 

「〜♪『状態異常無効歌(キャロル)』!!」

 

 

アミクの身体を魔力が包む────が。

 

 

「…ダメっぽい」

 

元には戻らず。

 

「状態異常ってわけじゃないのかな」

 

「イケると思ったんだけどな」

 

 

確かにグレイの着眼点は悪くなかった。

 

「ただいまー!」

 

「急いで戻って来たの」

 

ルーシィとマーチの2人がギルドに入ってきた。どこかに出かけていたらしい。

 

 

「2人ともどこに行ってたんだ?」

 

「家よ。薬の瓶を持ってきたの」

 

「これを解析すれば、何か分かるかもしれないの」

 

なるほど、それはいい考えだ。調合の材料とかが詳しく分かれば、それを使って解除方法が見えてくるかもしれない。

 

「でも、家に行く途中変な話を聞いたのよね。川で子供が溺れていたらしいんだけど、甲冑鎧が飛び込んだら、子供が勝手に助かったって」

 

「へー、そりゃあ変な話だな」

 

アミクはギクッとして視線を逸らした。他の人には見えてはいないが。

 

 

「アミクがこうなっちゃったのはあたしの作った薬のせいだし、絶対に元に戻してみせるんだから!」

 

「ルーシィが責任感じる必要はないよ」

 

ルーシィが意気込むが、それが空回りしないといいのだけど。

 

「ルーシィ、ジェミニを出して?」

 

「ジェミニ?どうして?」

 

「アミクに変身してもらうんだ。いいからやってみてよ」

 

ハッピーの提案にルーシィは頷くと金の鍵を取り出した。

 

「開け!双子宮の扉!『ジェミニ』!!」

 

「久しぶりにジェミニ登場だよ〜♪」

 

光と共にその場に現れたのはアミクだ。

 

もちろん、ジェミニが変身した姿である。

 

「おお、アミクだ…!」

 

「アミクそっくりだ…!」

 

「流石はジェミニ!」

 

マカオとワカバはジェミニを初めて見たのか、目を見開いて驚いている。

 

「…で?私に変身させてどうするの?まさか、ジェミニは口パクして私が喋るとかそんな感じ?」

 

アミクが言うと、ハッピーは「ビンゴー!」と楽しそうに声を上げた。

 

つまり、ジェミニを操り人形として表に現し、実際はアミクの意思で動かす、みたいな構図だろう。

 

「いや…だから根本的な解決にはなってないって!!」

 

これからの生き方ではなく、透明化を解く方法を考えて欲しかった。

 

グレイがジェミニを見て感嘆するように言う。

 

「しかし、見れば見るほどそっくりだな」

 

『本人だって言われても信じてしまそうだ』

 

「うん。僕は変身した相手の姿、記憶、能力までコピーできるんだ」

 

それがジェミニの売りである。敵だった時には散々苦しめられたものだ。

 

「だったら、もうこっちが本物って事でよくないか?」

 

「だな。見かけも能力も一緒だし」

 

「こっちはこっちで新鮮さがあって良いって言うか…」

 

「酷い…」

 

「コラー!!」

 

アミクがしょんぼりしてルーシィが怒ると、ドロイ達は「冗談冗談」と苦笑いした。

 

 

 

ミラはテーブルで何やら作業をしているレビィとフリードに近付く。

 

「フリードとレビィは何してるの?」

 

「調合レシピを解析しているの」

 

「魔法の仕組みが分かれば、術式で解除することも可能だ」

 

「なるほど!術式!!」

 

術式は強力だ。

 

術式に設定されたルールを絶対的に課すことができる魔法なので、それを利用すれば透明化も解除できるかもしれない。

 

「解析終了。フリード、これが薬の成分よ」

 

レビィは色々書かれた紙をフリードに手渡した。

 

「後は任せろ」

 

「おー!頼もしいねぇ」

 

これはかなり期待してもいいのではなかろうか。

 

 

アミクの周りを文字が取り囲む。

 

 

「この術式の中に居る者は、魔法薬の効果を解除される!」

 

 

フリードが剣をスパッと振ると、当たりに眩い光が満ちた。

 

 

 

 

 

「…お、おい。何か見えるか?」

 

「い、いや…」

 

全然変化がないようだが。

 

 

「…失敗?」

 

「いや、効果はある。ただし、7年間置きっぱなしになっていた薬だから…」

 

「解除するにも7年掛かるの」

 

「んなアホな――――!!」

 

ガビーン、とショックを受けるアミク。

 

 

「うう…7年間もこのままってキツイよ…」

 

アミクが膝を突いてがっくりしていると…唐突にアミクの着ていた服と、顔に貼っている写真が透け始めたのだ。

 

 

「う、嘘でしょ!?なんで服まで透明に!?」

 

「存在が消えかけてるのよ!」

 

 

レビィが焦ったように言った。

 

 

「どういうことだレビィ!」

 

「体が透明になるだけじゃなく、アミクの存在そのものが消えかけてるのよ!」

 

「そんな…!」

 

ルーシィが口に手を当てた。

 

「見えなくなるだけではなく、最初からこの世に居なかった事になるようだ」

 

「あ、あたしの…あたしのせいで…!」

 

責任感を感じたルーシィが頭を抱えて震える。

 

「アミクさんの存在がなかった事になるって事は…」

 

「アミクの持ち物も消えることになるわ!そうなると…アミク達の家にはアミクの居た痕跡が無くなっているはずよ!」

 

「いやいやいやいや!!たかが魔法薬でそんな世界に影響するような効果になるわけないでしょ!!」

 

アミクがそう言った直後。

 

 

ギルドにアミクが持ち込んでいた植木鉢が音もなく消えた。

 

「マジですかい!?」

 

『アレはアミクの所有物だから、か…!?』

 

まさか、本当に存在が…。

 

「アミク…!そんなの嫌なの!!アミクが居なくなるなんて嫌なの!!」

 

「私だって嫌だよ!居なかった事にされるなんてやだ!!『私』は此処にちゃんと存在してるんだよぉ!!」

 

涙目になりながらアミクが叫ぶと同時に。

 

 

 

 

アミクの姿が完全に消えた。

 

 

気配も。匂いも。その存在感も。

 

 

 

何もかもが消えた。

 

 

 

「…今私、何の話してたんだっけ?」

 

キョトンとしたレビィが疑問符を浮かべた。

 

 

「さぁ、仕事の話なんじゃないか?」

 

他のメンバー達も妙な違和感を感じて首を傾げる。

 

 

誰かが居て、その誰かの為に何かをしたような…。

 

 

「あれ…あたし、なんで泣いてるんだろ?」

 

ルーシィは目から流れる涙を不思議そうに拭った。

 

 

「…何か…何か…とても、大事なことだったような…忘れちゃいけない…ことだったような…気がするの…」

 

マーチも頭を抑えてもどかしそうに唸る。

 

 

「何かが足りないような…おかしな気分だ」

 

「オレもだ。気のせいか?」

 

『…ううん?何だか忘れたら恩知らずな気がしてきたな?』

 

エルザやグレイ、ウルも首を捻る。

 

 

「ナツもそんな気する?」

 

「うーん…分かんね!」

 

全員が全員、記憶から抹消されてしまっているのだ。

 

 

アミク・ミュージオンという少女の存在を。

 

 

 

 

そして、存在を消された少女、アミクはそんな彼らを呆然と見ていた。

 

 

 

「ほんとに…ホントに忘れちゃったの…!?私は…私は此処に居るよ!!?見えないの!?」

 

アミクがどれだけ必死に叫んでも、彼らには聞こえない。

 

彼らに声を届かせるのが得意だったはずのアミクの声が、全く届かない。

 

 

「ナツ!ルーシィ!マーチ!ハッピー!」

 

名前を読んでも無反応。誰もアミクになど見向きもしない。

 

「ま、いっか。仕事しようぜ」

 

皆、胸にしこりを残しつつもとりあえず、いつも通りにしていることにした。

 

 

いつも通り、彼らの日常を過ごすのだ。

 

 

アミクの居ない日常を。

 

 

「グレイ!ウル!エルザ!ウェンディ!シャルル!」

 

いくらアミクが触れても、彼らに触れられている感触はない。

 

「うーん、そう言えばこの瓶、私が前に調合したヤツだっけ」

 

「へー。ルーシィ調合なんかもするんだ、なの」

 

「これは肌が透き通るみたいに綺麗になるのよねー!…前もこの話しなかったっけ?」

 

 

誰も彼女が居ることにも気付けぬまま、彼女の事を思い出せぬまま。

 

 

「誰か私に気付いて!!」

 

 

誰一人、少女の慟哭に気付けぬまま。

 

「皆、私の事、忘れちゃったんだ…最初っから存在しなかったみたいに…」

 

 

誰一人、アミクの「ア」の字も話題に出さない。

 

 

「このまま私、幽霊みたいになって過ごすの…?」

 

 

誰一人、アミクと過ごした思い出を記憶してる人なんていない。

 

 

「そんなの、そんなの…嫌だぁ――――――!!!」

 

 

アミクはポロポロ涙を零しながら絶叫したのだった。

 

 

 

 

もぐもぐ、と食事をしていたナツ。最後の一切れを口に放り込み、ゴクンと飲み込むと元気よく腕を広げた。

 

「よーっし!そんじゃ仕事に行くかー!!」

 

「仕事かー、せっかくだからあたしも付いて行っていい?」

 

「勿論だ!元々そのつもりだったしな!マーチもハッピーも行くぞ!」

 

「はいはいなの」

 

「あいさー!」

 

「アミク!一緒に仕事に行こうぜ!!」

 

 

『…!』

 

 

 

ハッとして「アミク…?」と呟くナツ。ルーシィも「アミク…?」と固まり、マーチもハッピーも「アミク…?」と何かが琴線に触れたような表情になる。

 

 

 

そして。

 

 

 

『そうだ!!アミク!!』

 

「オレ達の仲間の!!」「同じチームの!!」

 

ナツ達が興奮したようにガタっと立ち上がる。

 

 

「そうよ!アミクよ!!あたしの同居人で親友!!」

 

「あーしの相棒なの!!」

 

「アミクが居た!!」「思い出した!!」

 

「アミクさん!!」

 

それがきっかけなのか、次々と連鎖するように思いだしていくギルドの皆。

 

アミクがどういった人物だったのか、どのように過ごしてきたか。

 

彼女との思い出がどんどん頭に溢れてくる。

 

 

 

 

ナツは嗅ぎ慣れた匂いに気付いてハッとして横を向く。

 

 

 

そこには、涙を浮かべたアミクが満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

 

認識できる。

 

 

 

透明ではなく、ちゃんと彼女の事が見える。

 

 

彼女の存在が分かる。

 

 

「ナツ…ルーシィ…皆…!!」

 

アミクが駆け寄ると、ルーシィも駆け寄ってきて互いに抱き合った。

 

「アミク!!良かった!!本当に良かった!!魔法が解けたのね!!」

 

自分の事のように喜んでくれるルーシィ。

 

ウェンディも嬉しそうに推測を話す。

 

「もしかして、ナツさん達が思い出してくれたから、薬の効果が無効になったのかも!」

 

「ああ、そうかもしれねぇ」

 

「魔法ってのは、心有りきだっつーからな」

 

「ギルドの絆は、ちょっとやそっとの魔法じゃビクともしねえさ!」

 

マックス、マカオ、ワカバも同意するが、シャルルが「もっともらしくまとめてるけど、アンタ達3人、全然役に立ってないわよね」と冷たい視線を向けた。

 

「ナツも皆もありがとー!」

 

「やっぱチームで仕事に行く時は、アミクが一緒じゃねえとな!」

 

「アミクが居ないとあたし達だって物足りないし!」

 

「あい!」

 

「あーしはアミクの相棒だから思い出すのは当然なの」

 

 

 

「…うん!」

 

 

透明になる、というのは少しだけ面白かった。

 

 

だが、友達からも家族からも気付いてもらえない寂しさは辛いものだ。

 

 

今回は、アミクの存在自体が危ぶまれた事態だったが、流石はアミクの大好きな妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

仲間との思い出が記憶から消えていても、心ではしっかり憶えていたのだ。

 

 

そんなギルドの絆が再確認できて本当に良かった。

 

 

「さてと、危険物は処分しなきゃね。いやー恐ろし恐ろし」

 

ルーシィがちょっと調合した入浴剤が、世界に介入するほどの効果を持つとは末恐ろしい。

 

やっぱり魔法は何が起こるか分からない。

 

アミクはカウンターに置いてあった瓶を手に取ると、どう処分しようか考え始めた。

 

 

 

 

その時。

 

 

「良がったね”ーアミグ―――!!」

 

「怖かったの”―――!!」

 

涙と鼻水でぐしゃぐしゃなハッピーとマーチが飛び込んで来た。

 

 

「あ、ちょ、危な…」

 

 

その拍子に、瓶がアミクの手からすっぽ抜けて空中に飛んでいく。

 

 

「あ”――――――!!」

 

 

そして、何の因果か蓋が外れて中身が全部飛び出てしまった。

 

 

その場にいたメンバー達に降りかかる液体。

 

 

掛かったメンバーは次々と消えていく。

 

 

ナツやルーシィ、グレイにエルザまで。

 

「ナツー!うわー!」

 

「こ、これは透明化フェスティバル…にゃ――――!!」

 

 

アミクから離れたハッピーやマーチ達にまで掛かり、消えてしまった。

 

 

 

結果。アミクを除いた全員がインビジブル状態に!!

 

 

「な、なんだこりゃあ!?「オレの顔どこいったー!?」「キャ―――!!どこ触ってんのよー!!」

 

「お前誰だ!?」「お前こそ誰だ!!」「イテ―――!!足踏んだなー!?」

 

 

 

あっという間に騒がしくなるギルド。ただし、姿は見えません。声と音だけがあちこちから響いてきて世にも奇妙な光景です。

 

 

 

「…なんでやね―――――ん!!」

 

 

とりあえず、色々な想いを込めて、特大のツッコミをかますのだった。

 

 

 

こんなところも含めて、私は妖精の尻尾(フェアリーテイル)が大好きです…。

 

 

 




いよいよ次回から大魔闘演武編が始まりますよー!

アンケートもそろそろ締め切ります。まだしてない人は急いで!

アニメオリジナルである星空の鍵編はやりませんが、余裕があったら本編とは別に特別編として書くことも考えています。

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