妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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やっとできた…何でこんなに長くなるんだ…。

アンケートは締め切ります。いよいよ大魔闘演武編が始まりますよー。

多分長くなると思うので長い目で見守ってください…。


大魔闘演武の幻想曲
そして私たちは頂上を目指す


涼やかな風が吹く丘の上。

 

静寂が心地良さそうなそこで、2人の青年が髪を揺らしていた。

 

 

「帰って来たんだって」

 

「何の話だ」

 

「7年前に失踪した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主要メンバー」

 

「興味ないな」

 

「ウソをつくなよローグ、あれほど憧れたナツさんとアミクさんだぜ」

 

「昔の話だ」

 

●

 

 

「セイバートゥース?」

 

「剣咬の虎、セイバートゥースさ」

 

アミク達が帰還してしばらくの時間が経った。

 

アミク達、通称『天狼組』の帰還はあっという間に大陸全土に響き渡り、そこかしこで噂されるようになった。

 

そんなある日。

 

 

アミク達は剣咬の虎(セイバートゥース)の話を聞いたのだ。

 

 

「それが天馬やラミアを差し置いて、現在フィオーレ最強の魔導士ギルドさ」

 

「聞いた事もねえな」

 

『新しいギルドか?』

 

今まで色んなギルドと出会ってきたが、そのようなギルドは記憶にない。

 

 

「7年前はそんなに目立ってなかったんだ」

 

 

「ってことは、この7年間で急成長したんだね。凄いなぁ」

 

アミクは素直に感心する。

 

認知度の低かったギルドがフィオーレ最強まで上り詰めるとは。中々の成り上がりである。

 

 

「ギルドのマスターが変わったのと、もの凄い魔導士が5人加入したのが、強くなったきっかけだね」

 

「たった5人でそんなに変わるものなの?」

 

「ギルダーツみたいなのが5人入ったとかなの」

 

「軽く悪夢じゃねえか」

 

ギルダーツとまでは行かずとも、強力な魔導士であることは間違いないだろう。

 

 

「ほーう、いい度胸じゃねえか」

 

「別にケンカ売ってきたわけじゃないでしょ」

 

なぜか既に喧嘩腰のナツ。そもそも面識すらないでしょうが。

 

「因みに私達のギルドは何番目くらいなんですか?」

 

ウェンディが無邪気な表情で聞いた。

 

「それ聞いちゃうの?」

 

「なんて残酷な子なの」

 

「ウェンディ、聞くまでもないでしょ」

 

マーチ達がふわふわと浮いてウェンディを窘めると、ウェンディは「えー?」と納得のいかなそうな顔をした。

 

「最下位さ」

 

「超弱小ギルド」

 

「フィオーレ1弱いギルド」

 

真実は残酷だった。

 

それもそうだ。アミク達が居なくなってから妖精の尻尾(フェアリーテイル)は衰退の一途を辿っていたのだから。

 

「ああああ…ごめんなさい…」

 

落ち込んで謝るウェンディ。

 

「あはは…実際最下位って聞くと凹むね…」

 

最強に拘っている訳ではないが、ビリッケツはちょっとショックである。

 

だが、むしろポジティブに考えている者も居るらしい。

 

「かーはっはっはっ!!そいつはいいっ!!面白ぇ!!」

 

「どーしたの、ナツ?ショック過ぎて、ただでさえ足りない頭のネジが吹っ飛んだの?」

 

「お前、たまに凄く毒舌だよな…」

 

グレイが恐ろしいものを見る目でこちらを見た。冗談のつもりだったのだが。

 

「だってそうだろう!?上に登る楽しみがあと何回味わえるんだよォ!!燃えてきたァー!!」

 

この男、非常に前向きである。

 

だが、ナツの言う通りかもしれない。

 

「ビリだったら、これ以上下がることもないしね」

 

「やれやれ」

 

「敵わねーな、ナツ兄には」

 

「そうですよね!うん!」

 

ナツの言葉にグレイ達も笑みを浮かべる。

 

やっぱりナツの前向きな言葉は力になる。こういうのもカリスマかもしれない。

 

そこへ、カナがやって来て問う。

 

「ねぇ、あんたらギルダーツ見なかった?」

 

「なんだよ、いつもパパが近くに居ねーと寂しーのか?」

 

「ちょっと、グレイ!」

 

 

グレイが茶化すと、アミクが小声で注意した。

 

ルーシィの父親が死んだばかりで、父親の話題はデリケートなのだ。

 

グレイは「しまった」という顔になり「悪い…」と謝る。

 

「ううん、いいよ気にしなくて」

 

ルーシィが笑みを見せる。完全にではないようだが、立ち直れたようだ。

 

(ってか、ジュビアがすっごい睨んでる…怖〜…)

 

いつの間にかジュビアがクエストボードの後ろからこっちを覗いていた。只ならぬ目付きだ。

 

どーせ「グレイ様に気を使われてる!?」とか思ってるのではなかろうか。

 

 

「ギルダーツならマスターと旧妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ行ったぞ」

 

エルザがそう答えると、カナは「よぉーし!」と拳を振り上げた。

 

「じゃ、今の内に仕事行っちまうか!」

 

カナは意気揚々とギルドを出て行ってしまった。

 

「ギルダーツのカナへのデレっぷりったら凄いもんね」

 

「きっと辟易していたの」

 

「あれでこのギルド最強って言うんだから…変わったギルドよね」

 

「このギルドが変わってるのは今更なの」

 

マーチが「やれやれ」と言いたげな笑みを浮かべた。

 

 

 

「…それにしても、おじいちゃんもギルダーツもあそこに何しに行ったんだろ?」

 

アミクはエルザの言葉を思い出して首をかしげるのだった。

 

●

 

 

男は、2人の青年を目にしてカタカタと震えていた。

 

 

「こ…こいつらだったのか…あの…剣咬の虎(セイバートゥース)の双竜…白竜のスティングと影竜のローグ──2人組の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!!」

 

1人は金色の髪で右こめかみの傷と、左耳のピアスが特徴の青年。

 

もう1人は右目が隠れた黒髪の青年。

 

 

この2人が、現在フィオーレ最強と呼ばれている剣咬の虎(セイバートゥース)に所属している2人組みの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるスティング・ユークリフとローグ・チェーニだ。

 

「うあああああああああ!!!」

 

恐れをなした男は一目散に逃げ出して行った。

 

「オイオイ、仲間おいてくの? 腐ってるよアンタ」

 

「闇ギルドなど、所詮そんなものだ」

 

そういう彼らの背後────丘の下には、大量の闇ギルド兵が死屍累々と倒れていた。

 

「またハデにやりましたね、スティング君」

 

「ケロ」

 

「どこ行ってたんだレクター、フロッシュ」

 

「いえいえ、ちょっと偵察的な~」

 

その場に現れたのは小さい影────2匹のネコ────ではなくエクシード。

 

レクターは赤茶色の毛をしたエクシード。

 

フロッシュは桃色のカエルの着ぐるみを着用している緑色の体色のエクシード。

 

それぞれ、スティングとローグに付き従っている。

 

 

「いや~!これなら火竜や音竜…鉄竜や天竜にだって負けませんねー。いやー、実に頼もしいですよー、ハイ」

 

「フローもそーおもう」

 

レクターは軽いノリのように言うと、フロッシュがのんびりと同意した。

 

 

「だろ?」

 

「スティング君こそ、最強の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ですよ、ハイ!!」

 

軽くハイタッチするスティングとレクター。

 

それから4人は転がったままの闇ギルド員を放置して帰路に就いた。

 

「今のオレなら絶対にナツさんやアミクさんに勝てると思うんだ」

 

スティングは今までの努力を思い出し、自信と共にそう言い切った。

 

「ええ、もちろんですよハイ」

 

「今度勝負しに行かね、ローグ?もう、誰にも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』の真似事だなんて言わせねえよ」

 

彼らが『剣咬の虎(セイバートゥース)の双竜』と呼ばれ始めたのも、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜』にちなんでのものだった。

 

彼ら自身も『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜』を意識していたし、世間もアミク達が消えた後は、「『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の双竜』の代わりになるのか!?」と注目を浴びていたものだ。

 

「興味ないな」

 

「フローも」

 

「そうか?お前もガジルさんに会えるかもしれないぞ?」

 

スティングの言葉にローグは何も言わず、「相変わらずあの『双竜』に執着してるみたいだな」と皮肉を言う。

 

「いや、特にご執心なのはアミク・ミュージオンの方か?昔からそうだったよな」

 

「おいおい、恥ずかしいこと言うんじゃねえよ」

 

ローグの言葉にスティングは苦笑いをする。

 

「そりゃあ、否定はしねえけどよ…オレは強くなった自分ををあの人に認めさせるんだ」

 

そして、彼はどこか遠くを見るように目を細めた。在りし日を思い出すかのように。

 

「スティング君なら音竜をギャフン、ともあふん、とも言わせられますよ、ハイ!」

 

「フローもそーもう」

 

4人は談笑しながら歩いて行く。

 

 

 

ふと、スティングは空を見上げた。

 

その瞳に映すのは快晴の青。記憶にある彼女の瞳と同じ色だった。

 

 

 

 

彼らとの邂逅の日も近い。

 

 

●

 

 

 

「あぁ~…いい天気だな~…」

 

ギルドの外の草原に寝転がって日向ぼっこをするアミク。

 

 

「天気がいい日って眠くなるよね…日光は気持ちいいからね…人間は日光を身体に吸収し、パワーを蓄える…そう、光合成をするブロッコリーのように…すぴー」

 

「ほんと、この子の思考回路ってブロッコリーに直結してるのかしら…」

 

ルーシィがうとうとするアミクの顔をチョンチョンと突っつく。

 

「アミクさん、眠いんですか?」

 

「こんな所で寝てると、服が汚れるわよ」

 

近くに居たウェンディとシャルルもアミクに寄って来た。

 

 

 

「ううん…最近平和だからね…平和ボケしてるだけだよ…」

 

「自分で平和ボケしてるって言ってる人、初めて見たの」

 

人型状態のマーチが呆れたよう腰に手を当てた。

 

「わっ、マーチ。まだ慣れないわね、その姿…」

 

「アンタ、最近その姿で居ることが多いわね」

 

「これも訓練なの。常にこの状態を維持することで、魔力を鍛えるの。その内人間の姿でも普段通りにできるようにするの」

 

「今も十分その域に達してると思うけど…」

 

マーチは普段の言動とは裏腹に努力派でよく特訓したり、勉強したりする。アミクや仲間の役に立とうと、強くなる為に自分にできる事をコツコツする。

 

そう言う所がマーチの美点なのだ。

 

 

「さて…この平和がいつまで続くかね…」

 

「なんで達観してるの、この子」

 

アミクが変な事を言うのは今に始まった事ではないが、今は寝ぼけてるだけなのかもしれない。

 

「でも、確かに平和が長く続かないのがこのギルドだけどね」

 

 

 

 

 

「やれやれ、7年経ってもまーったく変わんないな、ナツ」

 

「んだとマックス!」

 

 

「ほらね」

 

 

ナツとマックスの会話が聞こえて、アミクは目をしょぼしょぼさせながら起き上がった。

 

 

「ふにゃあ、何事ダスか?」

 

「いつも思うけど、アンタキャラブレブレよ」

 

 

アミク達がナツ達の方を向くと、2人が揉めているのが見える。

 

 

「お前は変わったって言うのかよ」

 

「ま、気持ちなら相変わらずヤングのままだけど」

 

 

黙って2人のやりとりを見守っていると、いつの間にかやって来ていたグレイが笑う。

 

「気持ちの若ぇ奴がヤングとか言うか?」

 

『それを言うなら私も心は若いつもりだよ?』

 

『実際おいくつなの、ウル…』

 

「腕なら相当上がってるぜ?」

 

マックスは不敵に笑った。それに対抗心を燃やしたのか、ナツがこんな事を言う。

 

「ほほーう、面白ぇじゃねえか。勝負すっか!」

 

「ああ、いいぜ」

 

「ちょっと!なぜそうなる!?」

 

「やれやれー!昼メシ後の暇潰しに丁度いいぜ」

 

『たまにはこういうのもいいか』

 

「出たよ脳筋思考…とはいえ」

 

アミクはよっと立ち上がるとナツの方に近付いた。

 

彼の肩に手を置いて口を開く。

 

「その話、乗った!」

 

「え!?」

 

アミクの言葉にルーシィやウェンディ達がびっくりした。普段、ケンカにはあまり積極的ではないアミクがそんな事を言うとは思わなかったからだ。

 

「何だ、アミクがオレと勝負したいってことか?」

 

「そーそー。最近弛んじゃってるような気がしてね。そろそろ体動かそうかなーって思ってたところだったんだよ。眠気覚ましには丁度いいし」

 

「おい、横取りすんなよ!オレが先に勝負するって言ったんだ!」

 

当然、ナツが文句を言うが、アミクは手を合わせて「お願い!譲って!」と頼み込んだ。

 

「たまにはいいでしょー。お願いだよ、ナツー」

 

「…しょーがねーな!!オレはカンヨーだから譲ってやるよ!」

 

アミクに弱い所のあるナツ。珍しいアミクのおねだりに仕方なさそうにナツが身を引いてくれた。ナツはちょっと離れた草原に胡坐をかいて座り込んだ。そこで見学するつもりらしい。

 

アミクは早速マックスと対面する。

 

 

「意外ね。アミクが勝負に前向きだなんて」

 

「きっと暇だったからなの。それに、元から体を動かすことは好きなの」

 

「あ、確かにそんな節はあったかも!」

 

シャルル達がそう会話している間に、アミクとマックスが身構えた。

 

「悪いけど手加減はしないぜ?」

 

「上等上等!私も思いっきり行っちゃうよ!」

 

そうして油断なく見つめ合うこと数秒。先に動いたのはアミクだった。

 

 

「行っくよー」

 

緩い掛け声と共に、アミクがレースカーのように飛び出した。

 

「それぇ!」

 

音を纏った拳をマックスに叩きつけようとするが。

 

 

マックスは軽く避けると、お返しに砂を纏った拳でアミクの腕を叩き落とし、アミクの腹に蹴りを入れた。

 

アミクは「うっ!?」と声を漏らしながら吹っ飛んで行く。

 

うまく着地したアミクだったが、アミクは「マジ…!?」と驚愕の表情をしてマックスを見ていた。

 

 

正直、心のどこかでマックスを侮っていた部分もあった。彼は砂を操る魔法を使う。だがマックスは元々妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも強いというわけではなかった。

 

少なくとも、アミクよりは弱かったはずだ。

 

なのに、アミクを手玉に取るようにあしらい、かつ反撃まで当ててくるとは。

 

「俺らだって7年間何もしてなかった訳じゃねぇ。それなりに鍛えてたんだ」

 

「それもそうだよね…7年も歳月があったんだし」

 

力量だって7年前と同じではないはずだ。

 

「アミクさんが…」

 

「マックスに勝てないの?」

 

ルーシィ達が信じられないかのように口に出した。

 

アミクは頬をパァン、と叩くとマックスを見据えた。今度こそ驕りは無しだ。

 

 

「もう一度!『音竜の響拳』!!」

 

またもやマックスに突っ込んで行くアミク。幾度も素早い攻撃を打ち込んでいくが、それらをマックスは軽快に躱していく。

 

更に、防戦一方ではなく反撃も。マックスは砂を巻き起こした。

 

「『砂の反乱(サンドリベリオン)』!!」

 

大量の砂に攻められ、アミクは咄嗟に両腕を交差してガードした。

 

「まだまだぁ!!『音竜の咆哮』!!」

 

その砂を振り払ってブレスを放った。今度の攻撃はマックスに直撃した────だが。

 

「うわ!?」

 

そのマックスが砂になってサラサラと崩れる。

 

「ダミー!?」

 

「本物はこっちだよ」

 

いつの間にか背後に回られていた。マックスは回し蹴りでアミクの首筋を狙う。

 

「くっ」

 

体を捻って直撃することは避けたが、マックスの足が頭を掠めていった。

 

「アミクー!!頑張れーなのー!!」

 

「負けんじゃねえぞ!!」

 

マーチとナツが応援してくれている。

 

アミクは右足を後ろに下げると、大きく振りかぶった。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

それに対し、マックスは砂を自分の目の前に巻き起こして壁を作った。

 

「『砂の壁(サンドウォール)』!!」

 

アミクの蹴りと砂の壁がぶつかり合い、せめぎ合った。

 

「ぐぐぐ…!」

 

「7年前とは違うぜ…!」

 

砂の圧が予想以上に大きくて、攻撃が通らない。

 

「信じられねぇ!あのマックスが…」

 

「アミクを押してんのか!?」

 

「ひょっとしてオレ達もアミクに…」

 

見学していたウォーレン達も、今のアミクに勝てるのではないかと希望を持ち始めた。

 

 

「うう…上から目線で申し訳ないけど…強くなったねマックス…!」

 

「当たり前だ!」

 

「けど…」

 

アミクは両手に音を纏うと、砂の壁に叩きつけた。

 

「まだ詰めが甘いよ!『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

強烈な衝撃波が砂の壁に穴を開ける。

 

「なっ…!?」

 

「『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

その穴に飛びこむように突っ込み、体当たりをかました。

 

「ぐ!!」

 

マックスは咄嗟に砂でガードするも、攻撃が少し漏れ、うめき声を上げる。

 

「ありゃ、防がれちゃった」

 

バック宙して距離を取るアミク。彼女は意外そうにマックスを見る。

 

「今の攻撃は良かったと思ったのに…」

 

「ははっ…相変わらず戦闘のセンスはあるよな…」

 

マックスは砂を身に纏わせ「だけど…」とアミクを見据えた。

 

「今日、オレは初めてアミクに勝つ!!」

 

そう言い放って突進してきた。

 

 

「『音竜壁』!!」

 

それを音の壁を張って防ぐアミク。砂と音がガリガリと音を立てて鬩ぎ合った。

 

「んぐぐぐぐ…!!」

 

アミクは必死に足に力を入れて踏ん張る。気を抜いたら押し負けそうだ。

 

(もっと…もっと力を…!!)

 

マックスに勝つためには、更なる力が必要だ。心から力を望む。

 

「う、ああああああ…!!」

 

雄叫びのような声がアミクの口から漏れる。全身から力が湧き、自分の中の魔力の質が変わるのを感じる。

 

「ああああああ!!!」

 

アミクの体から『黒い音』が漂い始めた。

 

「うあああああ!!!モード音神!!!」

 

「え!?」

 

「まさかっ!!?」

 

ルーシィ達はアミクの身に起きた現象に目を丸くした。

 

「マジかっ!!」

 

ナツも驚いたように口を開けてポカーンとする。

 

「ちょ…!!なんだよそれ…!!?」

 

マックスは急なアミクの変化に顔を引きつらせた。さっきと魔力の感じが違う。こんなのいつの間に…。

 

 

アミクは大きく息を吸い込んだ。

 

「『音神のぉ…』」

 

からの、放出。

 

 

「『怒号』ォォ!!!」

 

黒い音の奔流がマックスのすぐ横を、轟音を立てながら通過して行った。

 

 

ブレスは草原を抉りながら突き進み、木も何本か薙ぎ倒した。

 

ウォーレン達は口をあんぐり。

 

直撃しそうになったマックスも苦笑したままフリーズ。掠った髪の毛がハラハラと地に堕ちる。

 

そんな中、アミクが納得行かなそうな声を上げた。

 

「うーん、やっぱり1発ぐらいが限界かな…」

 

あっけからんと言う少女に、ルーシィが衝撃を受けたように問う。

 

「いつの間に自分のモノにしたの!?」

 

「今、何かやってみたらできた。でも、発動が安定しないみたいだし、まだ実戦じゃ使い難そう」

 

あっという間に黒い音は引っ込み、いつも通りになったアミクが何ともないように言った。

 

 

「でも、凄いです…!」

 

「っていうか、今更だけどそれ、何なの?」

 

ルーシィの質問にアミクは「多分」と前置きして答えた。

 

「滅神魔法」

 

「滅神…魔法…!?」

 

ルーシィやグレイはザンクロウと面識がないので滅神魔法を知らないかもしれない。アミクやウェンディが滅神魔法について簡単に説明する。

 

 

「へー、悪魔の心臓(グリモアハート)にそんな奴が居たのね…でも、何でその魔法をアミクが使えるのよ」

 

「知らない」

 

「知らないって…」

 

だって本当に何か使えたのだ。魂に刻み込まれているかのように使い方も分かっているし。

 

「まぁ、何でもいいじゃん。私の秘めたる力が目覚めたぐらいの認識でいいよ」

 

「何かふわっとした感じね…」

 

実際何も分からないし、気にしてもしょうがないって事で、アミクは折り合いつけている。

 

 

「でも、使いこなすにはまだまだだね。こっちの方はそれなりに使えるんだけど」

 

 

そう言うと、アミクは全身に力を込めた。

 

 

アミクの体から音と風が放出される。

 

 

「モード天音竜!!」

 

 

「うえええ!!?」

 

「まだ何かあんのかよ!!?」

 

マックス、もう涙目。

 

 

「『天音竜の────』」

 

風と音を同時に吸い込むように息を吸った。頬に風と音が溜まる。

 

「『咆哮』!!!」

 

 

口から物凄いブレスが放たれた。

 

今度はマックスと反対側を掠めて木や草原を削っていく。

 

その削り具合はさっきよりも若干大きかった。

 

 

「…だけど、あの時よりはパワーも落ちてるし、魔力消費もハンパないんですよ…」

 

 

ぐったりして説明するアミク。

 

 

マックスは青ざめた顔で両手を上げた。

 

「ま、参った…降参だ…あんなの食らったら死ぬって…」

 

「ごめんね。ここまでする必要はなかったと思うけど…気分が乗っちゃって」

 

 

アミクは「魔力の消費が激しいよ~」と愚痴りながら座り込む。

 

「ひぃ…やっぱアミク強え…」

 

「エルザを除いたら最強の女魔導士だって言われるだけあるぜ…」

 

ビジターやウォーレン達が恐ろしげな表情でアミクを見た。

 

そんな化け物を見るような目で見ないでほしい。

 

と、突然、ナツが立ち上がった。

 

 

「だ――――っ!!!そんなのオレにだってできるぞー!!アミクにできてオレにできねぇ訳がねぇ!!」

 

どうやら対抗心を燃やしてしまったようだ。

 

 

彼は「うおおおおおお!!!」と雄叫びを上げる。

 

 

すると。

 

 

「うおおおおおおおお!!!モード雷炎竜!!!」

 

「マジでできちゃったよ…」

 

炎と雷がナツに纏わりついた。

 

 

「おいおい、マジかよ…」

 

「『雷炎竜の』…」

 

「あ、やっちゃう?」

 

「『咆哮』ォォ!!!」

 

ナツから放たれた炎と雷のブレスはマックスの頭部を掠めて通過していった。

 

 

「うああああ!!?」

 

マックスは尻もちを突いて半泣きである。

 

「凄ーい!!ナツももう、自分のモノにしたんだね!!」

 

「見たかー!!かーかっかっかっかっかっ!!」

 

ナツは愉快そうに高笑いをした。

 

 

「ヒィ―――!!!」

 

「2人共バケモンだァ!!」

 

「え、傷つくんだけど」

 

 

本当にバケモノ扱いされてた。そういうのはギルダーツとかラクサスとかに使って欲しいです。

 

 

「かーっかっか…あ」

 

 

ただ、ナツは突然ぶっ倒れた。アミクはそんなナツに近寄ると、脇腹をツンツンとする。

 

 

「やっぱり、魔力を失いすぎたんだねー」

 

「ナツー、それ実戦じゃ使わない方がいいよー。アミクもだけど」

 

 

ハッピーがそう言いながら歩いてくる。

 

「確かになの。戦ってる最中にぶっ倒れたらシャレになんないの」

 

マーチもハッピーの言葉に同意する。魔力が上がるまでは『モード天音竜』や『モード雷炎竜』はおいそれと使うのはよしといた方がよさそうだ。

 

「でもマックスさんも凄いです」

 

ウェンディがマックスを称える。あそこまでアミクと渡り合えたのは上出来だろう。マックスは照れたように頭を掻いた。

 

 

「世辞なんかいらねえよ、ウェンディ。結局最後は情けねえ姿見せちまったし」

 

そこで、シャルルは疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「だけど、そのくらいの力があったら鬼(オーガ)に好き勝手やられることもなかったんじゃない?」

 

「それもそうなの。あいつら、大した事なさそうだったの」

 

その疑問に対して、ウォーレン達が気まずげに答えた。

 

 

「そうかもしれねぇが…」

 

「金が絡んでたからなぁ」

 

「力で解決する訳にもいかんでしょ」

 

「思いっきりおじいちゃん達が実力行使してたけど」

 

「…だな」

 

アミク達は後で知ったことだったが、マカロフがエルザとミラを連れて黄昏の鬼(トワイライトオーガ)のギルドに直談判に行ったらしい。

 

が、今まで妖精の尻尾(フェアリーテイル)が受けてきた仕打ちにブチギレてエルザとミラと一緒にボコボコにしたそうだ。

 

うちのマスターは野蛮です。

 

 

「しかし、こいつァ思ったより深刻な問題だぞ」

 

「何でそんなとこ居るの?」

 

グレイがちょっとした崖の上からアミク達を見下ろして話しだす。高みの見物気取りかな?

 

「どういうこと?」

 

「元々バケモンみてーなギルダーツやラクサスはともかく、オレ達の力はこの時代についていけてねぇ…」

 

『それはあるな』

 

グレイの言う通りだ。

 

 

「確かに…アミクでさえ、あのマックスに苦戦するんだもんね」

 

「あのマックスさんに」

 

「さっきのは本当に世辞だったのか…?」

 

マックスがしょんぼりして涙目になった。

 

「なんか一気に魔力を上げられる方法ないかなぁ…」

 

ハッピーの言葉をアミクは首を振って否定しようとする。

 

「そんな都合の良い方法があるわけ…あ!!」

 

ただ、そこまで言ってから、1つ思い付いた。

 

「…どうしたの?もしかして、本当にあったりする?」

 

ハッピーが聞いてくるので、「それは分からないけど」と答えてから続ける。

 

 

「その方法を知ってそうな人に心当たりがあるんだ」

 

 

 

●

 

 

 

「久しぶりー!!おばあちゃん!!」

 

「…」

 

アミクの案内で向かった所は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顧問薬剤師であるポーリュシカの家だ。

 

彼女は7年前とほとんど変わらない姿で、相変わらずの気難しそうな表情でアミク達を睨んでいる。

 

「そんな怒んないでよ。帰って来たのに挨拶が遅くなったことは謝るから」

 

「それで怒ってるんじゃないと思うの…」

 

マーチが小声でツッコンだ。

 

まぁ、彼女が不機嫌そうな顔なのはいつもの事だ。そこも7年前と変わっていない。

 

アミク達がじーっと見つめていると。

 

「帰れ!!」

 

バタン、とドアを閉めてしまった。

 

 

「あー…おばあちゃーん?」

 

「なんか良い薬とかないですか?」

 

「一気に力が100倍になるのとかー!」

 

「流石に都合よすぎかぁ…」

 

『それにしても気難しそうなお婆さんだね』

 

アミクの考えでは、薬剤師であるポーリュシカなら魔力を上げられる薬とかあるかもしれない、というものだったが…。

 

そもそも本人に話し合う気持ちがなさそうだ。

 

「…?どうしたのウェンディ?」

 

アミクはウェンディの表情が浮かない事に気付き、声を掛ける。

 

「いいえ…何でもないんです」

 

「ふーん?」

 

そう答えるウェンディを訝しげに見ていると。

 

「お!?」

 

ポーリュシカが箒を持って出てきた。

 

 

「おばあちゃん!お土産も持ってきたから機嫌直してよ」

 

笑顔でブロッコリーを差しだすアミク。

 

「結局それかよ!」

 

グレイのツッコミが炸裂した直後。

 

ポーリュシカがブロッコリーをひったくった。

 

 

「え?」

 

 

アミクが呆然としていると、箒がアミクの鼻を掠めて振るわれる。

 

 

「わあ!?」

 

「人間は嫌いなんだよ!!帰れっ!!帰れーっ!!しーっしーっ!!」

 

「それ、犬とかにやるヤツだよ、おばあちゃん!!」

 

「やかましい!!馴れ馴れしく呼ぶんじゃないよ!!」

 

 

あまりの剣幕にビビってナツ達は「わー!!」と逃走する。

 

「あ、待ってー!!」

 

仕方なくアミクも追いかけた。

 

「失礼しましたー!!」

 

「なんだよ、あの婆ちゃん!!」

 

「じーさんの昔の恋人────」

 

「違うわボケッ!!」

 

ポーリュシカの怒声を背中で聞きながら、アミクは笑みを浮かべた。

 

「ああいう所も変わってなくて、何だか嬉しいな♪」

 

「変わって欲しかったわよ!!」

 

「あと、おばあちゃんは昔、好きな人が…」

 

「余計な事言うんじゃないよ!!」

 

そう言い合いながら走っていると、ウェンディが急に立ち止まり、後ろを向く。

 

 

「…」

 

しばらく見つめ合うウェンディとポーリュシカ。そして、ウェンディはアミク達を追いかけて去って行った。

 

 

●

 

 

「もぉー誰よ、ポーリュシカさんのとこ行こうって言い出したの~…」

 

私ですね、はい。

 

 

「とんでもねぇ、ばーさんだな」

 

「人間嫌いとは聞いていたけど…あそこまでとはね」

 

「昔から偏屈なばーさんなの」

 

アミク達はしばらく逃げ続けていたが、疲れ果てて休憩していた。

 

「オイラ猫なんだけどなぁ…」

 

「おばあちゃんは照れ屋さんなんだよ。口ではあんなこと言ってるけど、なんだかんだ私達の世話してくれてるし」

 

「そう言えるアンタの肝の太さも大概ね…」

 

実際お土産も受け取ってくれたし。

 

アミクがポーリュシカの弁護をしようとしたその時、ウェンディが涙を溜めて肩を震わせている事に気付いた。

 

「ウェ、ウェンディ!?どうしたの!?おばあちゃんの顔が怖かったの!?」

 

「あんのばっちゃん!ウェンディを泣かしたなぁ!!」

 

ナツが怒って立ち上がろうとしたが、ウェンディが首を振って「違うんです…」と言った。

 

「懐かしくて…」

 

「懐かしい?」

 

ウェンディが目を覆い、アミクが首を傾げた。

 

「会ったことあるの?」

 

「ううん…さっき、初めて会ったはずなのに…懐かしいの」

 

それは…アミクもアクノロギアを見た時に似たような感覚に陥ったが…同じようなものなのか。

 

「あの人、声が…匂いが、天竜(グランディーネ)と同じなんです…」

 

 

(同じ…!?)

 

 

って事はまさか。

 

 

「おばあちゃんが…グランディーネ!?」

 

「ウェンディの探してるドラゴンと同じ声?」

 

ポーリュシカがドラゴンだという事になってしまうのだが。

 

「それってどういう事?」

 

「ドラゴンが人間に化けてるとか、なの?」

 

「知らないわよ」

 

マーチ達も訳が分からない、と頭を悩ます。

 

「ウェンディ、本当か?」

 

ナツの問いにウェンディはグスッと鼻を啜りあげると「分かりません…」と答えた。

 

「でも、あの匂い…あの声…私のお母さん、天竜グランディーネと同じなんです」

 

声も匂いも同じ…それはもう同一人物と見ても間違いない気もするが…。

 

 

「こいつはちょっと確かめに戻る必要があるな」

 

ナツはポーリュシカの家の方に足を進めるが、グレイが「待てよ」と止めた。

 

「もし本当にグランディーネか化けてるとしても、少しおかしくねぇか?」

 

彼の言葉にルーシィも同意する。

 

 

「そうよ。ナツやアミク、ウェンディ…ついでにガジルも…アンタ達のドラゴンが姿を消したのって7年前…正確には14年前、777年」

 

アレから7年経ったので計算はあってる。

 

「ポーリュシカさんってそれよりずっと前からマスターと知り合いなのよ?つまり、ドラゴンが居た時代とポーリュシカさんの居た時代が被るじゃない。

これじゃ辻褄が合わないわ。同一人物のはずが無い」

 

ルーシィの説明をウェンディは俯いたまま聞いていた。

 

「生まれ変わりとか化けてるって線は薄そうだな」

 

「生まれ変わりねぇ…そもそも本当にあるの?」

 

前世とか、そういう話はルーシィが好きそうなのだが。

 

「さぁな。どっちにしろ存在してた時期が被ってるなら同一人物ってことはないだろ」

 

「確かに、落ち着いて考えてみればそうなんです。おかしいんです。声や匂いが同じでも口調や雰囲気が全然違う…」

 

グランディーネがどんなドラゴンだったかは知らないが、ウェンディが言うにグランディーネは人間が好きで、優しい性格だったらしい。

 

ちなみに、人間が好き、と聞いてハッピーやマーチが「どうしよう…ネコは嫌いだったら…」「きっとネコは美味しいご飯にされちゃうの…」と不安がっていたが、そういうのは気にしても仕方ないと思う。いや、どんな不安だよ。

 

 

「グランディーネは優しいドラゴンなんです…」

 

「優しいドラゴンってのも想像出来ねーな」

 

「アクノロギアを見ちゃったからね…」

 

「イグニールも優しいぞ」

 

「オーディオンだって」

 

 

全てのドラゴンがアクノロギアみたいだとは思わないでほしい。

 

 

「大体、おばあちゃんだって優しくないわけじゃないよ、多分。ちょっと人よりツン要素が大きいって言うか…」

 

「勝手な事抜かすんじゃないよ」

 

「痛っ!」

 

いつの間にアミクの背後に居た人物が、アミクの後頭部を引っ叩いた。その人物とは。

 

「お、おばあちゃん!?」

 

「ポーリュシカさん!?」

 

「びっくりしたぁ…」

 

ウェンディはポーリュシカに近付き、ポーリュシカもウェンディを見つめる。

 

しばらく黙ったままのポーリュシカだったが、おもむろに話し始めた。

 

「…隠しておくこともないしね、あんたらだけに話しておくよ」

 

何か、グランディーネについて知っているのだろうか。アミク達は黙って耳を傾けた。

 

 

「私はあんたの探してるグランディーネじゃない。正真正銘人間だよ」

 

「でも人間嫌いって」

 

「人間が人間嫌いで文句あるのかい!!?」

 

「いえ…」

 

流石のナツもポーリュシカの癇癪には弱いようだ。一喝した彼女は話を続けた。

 

 

「悪いけど、ドラゴンの居場所は知らない。私とドラゴンとは直接には何の関係もないんだ」

 

「直接には…?」

 

まるで間接的には関係があるかのような言い方。

 

 

「こことは違うもうひとつの世界、エドラスのことは知ってるね?アンタらもエドラスでの自分に会ったと聞いてるよ」

 

「エドラス…ってことはまさか!?」

 

急にエドラスの話を始めたから何の話だと思ったが…。

 

 

エドラスにはアミク達にそっくりだがちょっと違う同一人物が存在している。つまり、ポーリュシカは…。

 

「え、何?」

 

ナツだけは理解できてないようだが、ポーリュシカは構わずに言い放った。

 

 

「この世界(アースランド)の人間から見た言い方をすれば、私はエドラスのグランディーネという事になる。何十年も前にこっちの世界に迷い込んだ」

 

「うえええええ!!!?」

 

アミクはビックリして口をあんぐりと開けた。ポーリュシカとは何年もの付き合いだが、そんな事実は初めて知ったのだ。

 

「エド・グランディーネ…?」

 

「向こうでは人間なんだ…」

 

「一夜みたいに種族が違うって事なの…」

 

『そんなこともあるものなんだな…』

 

その衝撃の事実を聞いてウェンディは呆然とした表情をしていた。

 

 

「ひょんなことからマカロフに助けられてね。私もすっかりアースランドが気に入っちゃったもんだから、エドラスに帰れる機会は何度かあったんだけど私はここに残ることにした」

 

『エドラスの人間がアースランドに住み着いたのか…リサーナとは逆ってことね』

 

ポーリュシカの過去にはそんな背景があったのか。

 

ナツが次々に質問する。

 

「もしかしてイグニールやオーディオンも向こうじゃ人間なのか!!?つーかこっちに居るのか!!?」

 

「ちょっと会ってみたいかも!」

 

 

「知らないよ、会ったこともない…けど、天竜とは話したことがある」

 

「え!?」

 

その言葉で、ウェンディが反応した。

 

「会ったわけじゃない、魔法かなんかで私の心に語りかけてきたんだよ」

 

「グランディーネがおばあちゃんに…別の世界の同一人物としてのコネクトラインみたいなのでもあったのかな?」

 

「知らないよ、そんなの…あんたら、強くなりたいって言ってたね。そのウェンディって子だけなら何とかなるかもしれないよ」

 

そう言ってポーリュシカは懐から紙の束を取り出し、ウェンディに差し出した。

 

「天竜に言われた通りに書きあげた魔法書だ。2つの天空魔法『ミルキーウェイ』、『照破・天空穿(しょうは てんくうせん)』。アンタに教えそびれた滅竜奥義だそうだ」

 

「グランディーネが、私に…」

 

「会いに来たら渡してほしいとさ」

 

分厚い紙の束を受け取ったウェンディはじっとそれを見つめた。

 

自分を置いてどこかに消えてしまったグランディーネ。でも、こうして自分のために残してくれたものがある。

 

居なくなった後でも、ウェンディを想ってくれている事を示すかのようだ。

 

 

実際、この魔法書からも愛情を感じられる気がしていた。

 

「その魔法はかなりの高難度だ。無理して体を壊すんじゃないよ」

 

アミクは驚いた。ポーリュシカの口から直接相手を労わるような言葉が出るとは。

 

いつもは「出てけ!」「人間は嫌いなんだ!」「また怪我なんてして!!」とかばっかりなのに。

 

ポーリュシカはウェンディ達に背を向けると去って行く。

 

ウェンディはその背に向かって大きくお辞儀をした。

 

 

「ありがとうございます!ポーリュシカさん!…グランディーネ!!」

 

それには応えず去って行くポーリュシカ。背を向けているため表情は分からない。

 

だが、アミクにはその顔が笑っているような気がしていた。

 

 

『…素直じゃないね、あのご老人も』

 

 

●

 

 

「絶対出るんだー!!出る出る出る出る!!」

 

「出ねぇ出ねぇ出ねぇ出ねぇ!!絶対、認めねぇ!!あれにはもう二度と参加しねぇ!!」

 

ギルドで言い争うロメオとマカオ。

 

 

そこに。

 

 

「ただいまー!外まで聞こえてたけど何を揉めてるの―――!?」

 

「うわお!?」「おおう!?」

 

バタン!と大きく扉を開け放って入って来たのはアミク。彼女に続くようにナツ達も入って来た。

 

そして、扉の音でビクッとなるロメオとマカオ。

 

「お!帰ったのか。良い薬は貰えたのか?」

 

「ウェンディだけね」

 

「えへへ…」

 

魔法書を抱えて嬉しそうにはにかむウェンディ。

 

その時、ビスカの腕に抱かれていた子供――――ビスカとアルザックの一人娘であるアスカがアミクに向けて手を伸ばしてきた。

 

「あー!アミクおねーちゃんだー!」

 

「わー!アスカちゃん、いらっしゃーい」

 

ビスカがアスカを下ろしてあげると、アスカはトテトテとアミクの方に走っていき、足に抱きついてきた。アミクは笑顔を向けてアスカを抱き上げる。

 

「すっかりアミクに懐いちゃったわねー」

 

「ホント、子供から好かれやすいよな、アミクは」

 

それを微笑ましげに見るメンバー達。アスカとアミクは既に面識済みだが、一目見てすぐに懐かれたのだ。アミクも子供に好かれて悪い気はしない。

 

マカオ達もその様子を見ていたのだが、再び言い争いに戻った。

 

「父ちゃんにはもう決める権限ねーだろ!マスターじゃねぇんだから!!」

 

「俺はギルドの一員として言ってんの!!」

 

「マスターじゃない?どういうこと?」

 

ロメオの言葉が気になってマックスに聞くと、「5代目のマスターにギルダーツを指名したんだよ、3代目マスターがな」と返ってきた。

 

「へー!ギルダーツがマスターになったんだ。納得の人選だね」

 

「と、思ったらすぐにマスターを辞めていつものマスターを6代目のマスターとして就任させたんだ」

 

「なんでやねん!?つまり以前に戻ったって事じゃん!」

 

7年前と同様にマカロフがギルドマスターを継続、と。

 

いや、異論は全くないのだが、何か納得がいかない。こんな短時間でマスター引退した人居ます?

 

 

「で、そのギルダーツは?」

 

「旅に出るってよ」

 

「ホント自由だな、あの人!!」

 

せめて別れの言葉くらい言わせてくれても良かったのに…いや、それよりカナは納得してるのだろうか。

 

と、思ったが本人はそこまで気にしてなさそう。

 

 

「…お!ラクサスじゃん!!何で居るの!?」

 

何かさらっとメンバーの中に混じってるラクサスを発見。

 

 

「何だ。おめぇがたまには顔出せって言ったんだろうが」

 

「いや、言ったけど…」

 

本当に来たのか。マカロフに怒鳴られるのが嫌であんまり来ないと思ってたのだが。

 

そこに、ミラがやって来て「実は、ラクサスの事で良い話があるのよ」とアミクに朗報を伝えてきた。

 

「マスターだった時のギルダーツがラクサスを妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員として認めてくれたわ」

 

「マジで!!?いやったああああああああああ!!!」

 

アミクはパアアアア、と顔一面に喜色を塗って、ツインテールと共にピョンピョン跳ね回り、喜びを全身で表した。

 

抱かれていたアスカも、意味が分かってるのかは定かではないが、一緒になって「やった――――!!」と喜んでくれている。

 

 

「やったああああ!!!ラクサスが戻って来たあああああ!!!バンザーイ!!バンザーイ!!良かったねラクサス――――!!!」

 

一旦アスカを下ろしたアミクはそのままの勢いでラクサスに抱きついた。そして彼と一緒に喜びを分かち合おうとする。

 

「…暑苦しい」

 

硬直したラクサスが仏頂面でそう言うも、歓喜乱舞中のアミクの耳には入らない。

 

アミクはラクサスから離れるとテンション爆上げのまま叫んだ。

 

 

「胴上げだ―――!!胴上げ―――!!ラクサス胴上げしよ――――!!」

 

「雷神衆よりも喜んでね?」

 

「すげーテンションだな…」

 

他のメンバーが呆れたように見る中、フリード達がラクサスに近付き言った。

 

「ほら、やっぱり喜んでくれたじゃない」

 

「おーおー、自分の事のように喜んじゃって」

 

「喜んじゃってー」「喜んじゃってー」

 

「ああ…だが、ラクサスが帰って来た事を喜ぶ気持ちはオレも負けてはいないぞ!…ラクサス?なぜ固まってる?」

 

しばらく喜んでいたアミクだったが、落ち着いてきたのか息を吐く。

 

「ふぅ…それはそれとして、何の騒ぎ?」

 

アミクが疑問を口に出すが、マカオ達には聞こえて無かったようだ。そのまま言い争いを続ける。

 

 

「出たくない人!はーい!!」

 

『はーい!!』

 

「あれだけはもう勘弁してくれ…」

 

「生き恥晒すようなものよ~…」

 

天狼組以外の者達がほとんど全員挙手していた。アスカも手を挙げてるのが可愛い。

 

 

「だけど今回は天狼組が居る!!ナツ兄やアミク姉が居るんだぜ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)が負けるもんか!!」

 

「けど天狼組には7年のブランクがなぁ…」

 

だから、一体何の話だろうか。

 

「…っ」

 

「レビィはそのままでいいんだよ!」

 

浮かない表情をするレビィを慰めるドロイ達。それを尻目に、ナツがやっと質問する。

 

「さっきから出るとか出ねぇとか何の話だよ?アミクのうんこの話か?」

 

「お下品!!」「そんな話皆でするか!!」

 

ナツはアミクとルーシィの両方に叩かれた。

 

「ナツ兄達の居ない間にフィオーレ1を決める祭りができたんだ」

 

「おー!」「そりゃ面白そうだな!」

 

確かに、お祭りとは楽しそうなワードだ。

 

「お祭りかー…フィオーレ一って何の?」

 

「魔導士ギルドだよ。フィオーレ中のギルドが集まって魔力を競い合うんだ。その名も…大魔闘演武!」

 

ロメオが人差し指を掲げて告げる。

 

大魔闘演武。

 

文字通り、『魔』で『闘』う『演武』なのだろう。

 

「おおー!」

 

「大魔闘演武!」

 

「楽しそうですね!」

 

「まさに、祭りってわけか!」

 

『それは心躍るな』

 

「なるほど。現在フィオーレ一と言われているギルドは、剣咬の虎(セイバートゥース)だったな」

 

エルザの言葉にロメオは大きく頷いて核心に迫る。

 

 

「そう!剣咬の虎(セイバートゥース)を倒して優勝すれば、フィオーレ一のギルドになれるんだ!!」

 

「なるほどなの。それでフィオーレ最強に返り咲くってわけなの」

 

マーチは納得したように頷いた。

 

だが、マカロフは渋い顔だ。

 

「しかし…今のお前らの実力でそんなことが可能かのぉ…」

 

「そうだよ!そうなんだよ!!」

 

マカオは我が意を得たり、と便乗した。しかし、続くロメオの言葉でマカロフの顔つきが変わる。

 

 

「優勝したら、ギルドに賞金3000万J入るんだぜ!」

 

「出るっ!!」

 

「マスター!!」

 

 

即答だった。いつの時代も金の力は偉大だ。

 

「無理だよ!天馬やラミア…」

 

「敵は剣咬の虎(セイバートゥース)だけじゃないんだ!!」

 

 

しかし、天狼組以外の者はあくまで否定的だ。

 

 

「因みに、過去の祭りじゃ俺達ずっと最下位だぜ」

 

「いばる事じゃないと思う…」

 

「そんなの、全部蹴散らしてくれるわい!!」

 

マカロフが張り切って架空の敵を殴りつけた。

 

マカロフが言うと冗談に聞こえないのが、彼らしい。

 

「剣咬の虎(セイバートゥース)か!燃えてきたぞー!」

 

「やかましい!」

 

ナツがテーブルに足を乗っけて拳に火を灯した。

 

「ほら、ナツ。テーブルに足上げない。汚いでしょ」

 

「あ、はい」

 

アミクがしっしっとナツの足をどかして雑巾で拭いた。常に清潔にしなきゃね。

 

 

「その大会いつやるんだよ?」

 

「3ヶ月後だよ」

 

それを聞いたナツは自分の手の平に炎を纏った拳をぶつけた。

 

「十分だ!それまでに鍛え直して…妖精の尻尾(フェアリーテイル)をもう1度フィオーレ一のギルドにしてやる!!」

 

目標は脱、最下位…ではなく、フィオーレ1だとは。大きく出たものだ。

 

「1位なんてそう簡単になれるわけないでしょ」

 

アミクが雑巾を絞りながら否定的な事を言うと、マカオ達が「天狼組から味方か!?」と目を輝かせた。

 

だが、アミクは不敵な笑みを浮かべて雑巾を握りしめる。

 

 

「でも、だからこそ目指しがいがあるよね。私もいつまでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)を底辺に燻らせているのは嫌なの。

だから、再びこのギルドを自他共に認める最高のギルドにしようよ!!」

 

アミクの乗り気な発言に、グレイやルーシィ達もやる気を見せた。

 

「いいねえ」

 

「うん!皆の力を1つにすれば!」

 

「できないことはない!」

 

「グランディーネから貰った魔法、それまでに覚えないと!」

 

ウェンディの様な少女もやる気満々だ。

 

「お祭りだよー、マーチ、シャルルー!」

 

「血に溢れるお祭り、つまり血祭りにしてやるの!」

 

「物騒ねアンタ…大体このギルドは年中お祭りみたいなものでしょ」

 

エクシード達もワクワクしてるようだ。

 

 

エルフマンも、グレイみたいにいつの間にか服を脱いで「祭りと言えば漢だ―――!!」と雄叫びを上げてるし、カナも「ギルダーツの願い、案外すぐに達成できそうじゃない?」と乗り気である。

 

「マジかよ…」

 

「本気で出るのか…?」

 

「いーじゃん!出てみれば?」

 

シャドウギアもレビィだけが賛成のようだ。

 

基本的に天狼組が賛成派でそれ以外が反対派のように見える。

 

 

 

「や、やめといた方が……」

 

「ナツが考えてるようなバトル祭とはちょっと違うのよ」

 

「え!?違うの!?」

 

ナツが情けなさそうな顔になった。まぁ、ナツはバトルの方が向いてるからね。

 

「地獄さ」

 

端的なウォーレンの言葉。それが意味するのはまだ分からないが、とにかく大変なものらしい。

 

 

「出ると決めたからにはとやかく言っても仕方あるまい!目指せ3000…コホン、目指せフィオーレ一!チームフェアリーテイル!大魔闘演武に参戦じゃああ!!」

 

『お―――――!!!』

 

絶対にお金に釣られた事が丸分かりのマカロフの発言。

 

 

だが、そんなマカロフの掛け声に、アミク達は拳を振り上げて大きな声で応えたのだった。

 

 

 

 

 

こうして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は再び最強への道を歩み始めた。

 

 

 




自分でもなんでアミクがあんなに喜んだのか分からん。
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