妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

129 / 202
遅くなってしまい申し訳ありません!

今回も長い…。今回はOVAも混ぜた話になります。


妖精の合宿

空を見上げると、真っ青な色の中に眩しいものが輝いていた。

 

それはアミクの剥き出しの肌をじりじりと照りつける。

 

 

「…うーみー!!」

 

目の前に広がるのも青。だが、それは瑞々しさを含んだ青だった。

 

 

「あー、アカネビーチなんて久々だね〜」

 

「そうなの。楽園の塔の一件以来なの」

 

アミクはビキニっぽいブラとフリルの付いたスカートという水着を着て浜辺で眩しそうに目を細めていた。

 

「それにしてもマーチも思い切ったことしたねー」

 

アミクはマーチに目を向ける。彼女は人型に変身したままスクール水着を着ているのだ。

 

はっきり言ってまだ12、13ぐらいの、ネコミミと猫尻尾を生やし、けしからんお胸をした金髪美少女がスクール水着なのは、妙な背徳感があるというか…。

 

実際周りの男性達もマーチを見ては「おおっ!?」と歓声のような声を上げている。

 

 

そこ、前屈みになるな。

 

 

 

「わーい!!」

 

水着姿のルーシィ達が砂浜を駆けてくる。いやー、よく跳ねる胸ですこと。

 

 

「アミク、マーチ。もう来ていたのか」

 

「張り切りすぎて先に来ちゃったよ」

 

ビキニ姿のエルザが声を掛けてきたのでアミクは浮き輪を持ち上げてワクワクしていることを伝えた。

 

「海で合宿ができるなんて、粋な計らいなの」

 

「そうだね。楽しみながら修行ができるよ」

 

 

 

アミク達がなぜこんな所に来ているのかというと。

 

 

一言で言えば修行の為である。

 

 

大魔闘演武まで後3ヶ月。

 

 

その間にアミク達は大福なレベルアップの為の修行をすることにしたのだ。

 

特に、天狼組にとっては7年のブランクを埋めるためのものでもある。

 

そして、それぞれ分かれて合宿をすることになったのだが。

 

アミク達は海ですることになったのだ。メンバーはアミクを始めとしたお馴染みの最強チーム(ウルも居ます)とウェンディとシャルル。シャドウギア、ついでにジュビア。

 

ちょっと珍しい面子になったが、結構な大所帯である。

 

 

「アンタ達!遊びに来たんじゃないのよ!」

 

「そうだぞ!」

 

「説得力皆無なの」

 

キリッとキメ顔して注意するシャルルとハッピー。

 

だが、浮き輪やゴーグル、水着を装備済み。遊ぶ気満々である。

 

 

「もちろん分かっている。こういうのはメリハリが大切だ。よく遊び、よく食べ、よく寝る」

 

「肝心の修行が抜けてるぞ!?」

 

珍しく、エルザも満喫するつもりらしい。

 

「お前らなァ、合宿が終わるまでには」

 

「せめて、オレらくれーには勝てるようになってもらうぜ」

 

偉そうに言うジェットとドロイ。彼らは7年間居残り組だったからと自分達の方が優位に立っていると思っているのだ。

 

だが。

 

「よっしゃあああああ!!!」

 

「海だーーーーー!!!」

 

「「ぎゃああああああ!!!」」

 

大はしゃぎのナツとグレイの突進によって撥ね飛ばされてしまった。

 

『海かー…アレから7年経つけど、海に溶けた私はどうなってるのかな?』

 

ウルがグレイの胸で揺らされながら呟く。

 

 

「おーおー。はしゃぐねー」

 

「アミク、そっち行ったよ!」

 

「オッケー!!スパイクー!!」

 

一方、アミク達はビーチボールで遊んでいた。

 

 

「はいはい、トース!」

 

「ヘディングなの!!」

 

「それ別の競技!?いや、アリだけど!」

 

人型のマーチも参加してウェンディ達と楽しくボールを突いていた。

 

「オーライオーライ!…きゃあ!?」

 

「おっとー!レビィ選手、転んでしまったー!」

 

「アミク、変な実況やめて!?」

 

談笑していると、ルーシィが疑問を口に出す。

 

 

「あれ?そう言えば合宿に来た天狼組ってこれだけ?」

 

「他の人達は別の場所でやってるみたいだよー」

 

ストラウス兄妹+カナは山に。

 

ラクサス含む雷神衆もどこかに。

 

それぞれ強化合宿に出かけて行った。

 

 

「あとは…誰か居たっけ」

 

「ガジルとリリー」

 

浮き輪でプカプカ浮いていたハッピーがアミクの記憶を補ってくれた。

 

「そうそう!その2人も一緒に修行頑張ってるみたいだよ」

 

「秘密の特訓だって。私も付いて行こうとしたら、断られたんだ」

 

残念そうに言うレビィ。そんな彼女に、アミクは意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ありゃ〜?レビィ、もしかしてガジルに付いて行きたかったの〜?」

 

うざったらしく聞くアミクにウェンディとルーシィも便乗する。

 

「付いて行こうと?」

 

「あれ〜レビィちゃ〜ん。アレアレェ?」

 

うぜえ。

 

 

「ち、違う!そーゆーのじゃないのっ!!もー!!」

 

 

真っ赤になって否定するレビィ。そんな彼女を見てアミク達は笑い声をあげたのだった。

 

 

 

 

 

と、楽しんでいたら。

 

 

「冷たーーーーーー!!!」

 

急に海が凍り付いた。

 

「な、何々!?」

 

「急に氷河期が来たの!?」

 

海に浸かっていたせいで、下半身が凍り付き、身動きができなくなるアミク達。

 

何事かと周りを見渡すと、犯人らしき全裸男が満足そうに氷の上で佇んでいた。

 

 

っていうかグレイだった。

 

「ちょっと!なにやってんのよ!!」

 

「他のお客さんにも迷惑かけてるじゃん…そしてマッパ!!」

 

「むしろ潔いの」

 

犯罪を体現する男がさらに罪を重ねている。見てられないよぉ…二重の意味で。

 

「もー!!こんなの…んぐぐぐぐぐ!!」

 

アミクは両手に音を纏い、魔力をさらに込めた。

 

「『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

そして、氷に向かって叩きつける。衝撃波がアミクの周囲の氷を破壊し、アミクは反動で飛び上がった。

 

「きゃあああああ!!?」

 

「あ、ごめん」

 

ついでに、ルーシィ達を覆っていた氷も砕いて彼女達もあまりの威力に吹っ飛んでしまっていたが、大丈夫だろう。

 

向こうを見ると、ナツも炎で氷を砕いている所だった。

 

 

「って、氷の欠片が!!」

 

砕かれたとしても、凄く大きい氷の欠片。バラバラに吹っ飛んだそれらがビーチに向かって落下するが、そこには沢山の人が居る。

 

彼らに直撃してしまうかもしれない。

 

 

そう心配したが、無用だったようだ。

 

 

「『循環の剣(サークルソード)』!!」

 

エルザやジュビアが魔法を使って氷の欠片を砕き、ビーチを守っていた。

 

見れば、ナツ達も対抗心を燃やしたのかどんどん氷を壊していってる。

 

「よーし、私も!『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!」

 

両腕を振るって周囲で浮いている氷を一掃。

 

 

さらに、氷を蹴って氷から氷へと移り、大きな氷は衝撃波で壊していく。

 

最後に、氷を蹴って地面に着地。

 

 

 

そして。

 

 

「『音竜の遁走曲(フーガ)』!!」

 

そう叫んだと同時に大量の氷の塊が粉砕した。

 

全部、アミクが蹴ってきた氷だ。

 

アミクはパラパラと細かい氷の破片が降る中、アミクは満足げに息を吐いた。

 

「私も行きます!『天竜の咆哮』!!」

 

ウェンディもブレスを放って氷を吹き飛ばす。

 

「やった!!」

 

「負けてられないの!」

 

マーチも翼を生やして空を飛び、長い爪を構えた。

 

「『イエローサイクロン』!!」

 

竜巻のように大回転しながら氷を切り刻むマーチ。巨大な氷の塊を斬り捨てると、マーチは「なの♪」と可愛くポーズを取った。

 

「ウェンディとマーチまで…」

 

ルーシィ達は呆然とその様子を見ていたが、レビィが少し微笑んで言った。

 

「でも、皆休んでる時より生き生きしてる」

 

「うん!」

 

空に一際大きい氷が現れる。

 

アレが最後の氷だ。

 

「トドメと行きますか!!」

 

アミクは拳に音を纏うと大きく跳び上がった。

 

 

と、丁度ナツも跳んでいるのが見える。

 

 

「お、アミク!」

 

「ナツ!悪いけどラストアタックは私がもらうよ!!」

 

「なにおう!!?オレのもんだーーー!!」

 

2人で競うように氷に向かって突き進んで行く。そして、同時に到達した。

 

「同着!?もう、こうなったらナツ、久しぶりにアレやろうよ」

 

「ああ?…しょうがねえな」

 

アミクが右拳を、ナツが左拳を振り絞った。

 

 

氷に近付いてぶつかる直前に、同時に解き放つ。

 

 

「「『火炎音響滅竜拳』!!」」

 

 

炎と音が融合した一撃が、氷を打ち砕いた。

 

氷は粒子のようになって飛び散り、キラキラと幻想的な光景を見せた。

 

「やったね!」

 

「ああ!いい訓練になったぜ!」

 

アミク達は笑い合ってハイタッチした。合体魔法(ユニゾンレイド)が決まるとやっぱり気持ち良い。

 

 

アミク達は一旦集まった。

 

 

「うーん!体動かすって気持ちいいねー!」

 

「いやぁ~暴れた暴れた」

 

「何だか楽しくなってきちゃいました!」

 

「初日のウォーミングアップとしちゃこんなもんだろ」

 

「っていうかグレイ、まだフルチン!!」

 

グレイがまだマッパなんですが。

 

「え…?アミクさん?」

 

「見ちゃダメだよー。ウェンディの目が汚れちゃうから」

 

ついグレイの方を振り向いてしまったウェンディの目を咄嗟に手で覆い隠すことに成功。

 

「羞恥心っていうものはないわけ?」

 

「グレイは裸族だから仕方ないの」

 

『裸族ってわけじゃないんだけどな…』

 

「グレイ様ったら、男らしい…!」

 

まぁ、グレイよりヤバそうなこの(ジュビア)を見てると、グレイの全裸など大したことない――――いや、やっぱりどっちも大概だわ。

 

 

「…っていうか」

 

 

ルーシィとレビィは目の前に広がる惨状を見て頭が痛くなった。

 

なんせ、休憩小屋などのいくつかの建物が氷によって押し潰され、倒壊していたからだ。

 

「これって、ギルドに損害賠償いくよねー…?」

 

「いく…ね。ま…いつものパターンだけど」

 

彼女達は頭を抱えるマカロフを幻視した気がして乾いた笑みを浮かべた。

 

 

「…?」

 

その時、アミクは何かを察知したかのようにキョロキョロする。

 

「どうしたアミク?」

 

「ううーん…なんか聞こえたような…」

 

何だか儚げな少女の声が聞こえたような気がしたのだが…。さっき、ビーチに出発しようとギルドを出た時も変な感じがしたのだ。

 

「…聞き覚えのある声だったような…ま、いっか!!」

 

切り替えの早いアミク。アミクは静かになったビーチを見て両手を高く掲げた。

 

「よーし、特訓しちゃうぞー!」

 

「オレもやるぞ!遊んでる暇なんてねえんだ!」

 

「3カ月後に最強になってるのはオレだ!!」

 

ナツ達もやる気満々のようだ。

 

「結局遊んでるよりも特訓してる方がいいみたいね…」

 

「まぁ、良い傾向じゃない?やる気があるのはいいことだよ」

 

アミク達はそれぞれ自分のやり方で特訓を始めた。

 

 

 

海の底は暗く、ひんやりとしていた。

 

海藻がユラユラと揺れ、貝や珊瑚も海底の数少ない装飾となっている。

 

 

 

 

 

アミクはそんな海の底で目を閉じて魔力を高めていた。

 

口から小さな泡がブクブクと漏れ、水面に上がっていく。

 

突然、目を見開き、口から音のブレスを水面に向かって放出した。

 

ブレスは海の中を猛烈と突き進み、水面を突き破るように飛び出した。

 

 

「おおー流石なの。水中は音を速く伝えるからより強力に感じるの」

 

マーチは人型のまま水面に浮いて、目の前で柱のようにそびえるアミクのブレスを観察していた。

 

「ぷはっ!」

 

ブレスが収まった後、アミクが水面に上がってきた。

 

「…うん。やっぱり音は水中じゃ相性がいいね」

 

水中では、音は空中よりも速い。となると、アミクの攻撃速度も早く、威力も上がるので、実はアミクは水中戦が得意だったりもするのだ。

 

「でも得意な環境でやっても修行って言えるかな…ナツの真似してみただけだけど」

 

ナツは水圧が強い中でも『火竜の咆哮』を放てる訓練をしていたので、アミクもやってみたが、元から水とは相性がいいので効率は良くなさそうだ。

 

「よし、他の特訓をしよう!」

 

アミクは聴覚に全神経を集中させた。もっと広くまで、どんな小さい音も拾おうと努める。

 

「…ん。これはナツかな…?…と、ウェンディとレビィ…エルザ…」

 

『お母さんが言ってた。全ての魔法は愛から始まるって』

 

「おっと、ルーシィが良いこと言ってる」

 

最近では結構遠くまで聞き取れるようになった。このまま聴力が届く範囲を広げていけば、様々な場面で役に立つことだろう。

 

「よし、次!」

 

アミクは陸に上がると、目隠しをした。

 

「マーチ!私に攻撃!」

 

「あいさーなの!」

 

見えずとも聴覚と気配で攻撃を躱す訓練。

 

マーチはヤシの実を投げたり、自分で軽く爪を振るったりして攻撃を仕掛け、アミクはそれを音と気配のみで判断し適切に避ける。

 

「次!」

 

今度の修行は『音竜壁』の耐久度上げだ。

 

『音竜壁』を張って、そこにもマーチに攻撃を仕掛けて貰った。

 

「『マーチスラッシュ』!!」

 

「んぐぐ…!」

 

アミクの魔法の中では付加術(エンチャント)を除けば唯一の防御技だ。どんな攻撃にも耐えられるようにすれば、戦闘でも大いに助かることだろう。

 

「次、次!!」

 

木に生えてるヤシの実などを的として『音竜弾』を当てていく。コントロール力を鍛えるのだ。

 

「まだまだ次ぃ!!」

 

「ちょっとハイペース過ぎじゃないの!?」

 

次から次へと修行をしていくアミクにマーチが目を剥いた。

 

「これも訓練しなくちゃねー…実戦でも使えるようにしなくちゃ」

 

アミクはそう言うとぐっと体に力を込めた。

 

すると。

 

「モード天音竜!!」

 

「なの!?いきなり!?」

 

アミクは大きくを息を吸い込むと、海に向かって吐き出した。

 

「『天音竜の咆哮』!!」

 

轟音を立てながら、ブレスは海を割るように突き進み、水平線に消えていった。

 

「…ふにゃあ…」

 

「やっぱり、魔力の消費が大きすぎるのはどうしようもないの」

 

すぐにモード天音竜が切れて倒れこむアミク。しかし、そこも織り込み済みである。

 

「ア、アラーム魔水晶(ラクリマ)、起動…」

 

事前に近くに置いておいた多くの魔水晶(ラクリマ)。それからけたたましい音が鳴り始めた。

 

「うるさっ!!?まさか、魔力回復の手段にするつもりだったの!?」

 

「いただきます…モグモグ」

 

音を食べて魔力を回復していくアミク。

 

「…よし!だいぶ回復した!もう一度────」

 

「ちょっと待つの!?いくらなんでも無茶しすぎじゃないの!?」

 

自分を追い詰めるように修行をしていくアミクに危機感を覚えたのか、マーチは慌てて止めた。

 

「大丈夫!ちゃんと休憩も入れてるから!」

 

「そういう問題じゃないの!」

 

アミクはマーチの言葉にちょっと黙ると、マーチの頭を撫でた。

 

「心配してくれてありがとう。でも、全然大丈夫だよ。せっかくの修行だから、できることをとことんやろうって決めたの」

 

アミクは頼もしい笑みを浮かべて拳を握る。

 

「絶対に強くなって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を1位にしてやるんだから!」

 

「…無茶しすぎて体壊さないようになの」

 

マーチは仕方なさそうに呆れた笑みを見せた。

 

 

「頑張るぞー!次はモード音神!!…ありゃ、不発」

 

 

こうして、アミク達は修行に明け暮れた。

 

底辺だった妖精の尻尾(フェアリーテイル)を輝かせる為、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力を全世界に示す為。

 

アミク達は必死の修行を続けたのだった。

 

 

 

夜も本格的に始まった頃。

 

アミク達はアカネビーチにある安い民宿に泊まっていた。

 

「しっかし、ボロい民宿だなー」

 

ナツ達男衆はあちこちカビが生えていたり、罅が入っていたりする廊下を歩いていた。

 

「そういや、前にアカネビーチに来た時って、すっげーホテルに泊まったよな」

 

以前の楽園の塔の件の時だ。地下にカジノもあり、大分豪華なホテルだったと記憶している。

 

「忘れたのか? あれはロキがチケットくれたから泊まれたんだろーが」

 

『そんなこともあったな…懐かしいな』

 

「まあ、今のうちのギルドじゃ予算的に此処でも一杯一杯だよ」

 

借りれる宿があっただけありがたいと思うべきだろう。

 

「んな事よりハラ減ったぞー」

 

「おーし、食いまくるぜ!!」

 

 

ナツ達はどんな食事が出るのかとワクワクしながら、食事を摂る部屋の襖を開けた。

 

 

 

直後。

 

 

彼らは口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 

 

そりゃあもう、雷攻撃が効かないゴム人間を見た雷男のように。

 

 

 

彼らの視線には転がった酒瓶、ほとんど食い尽された食事、そして…。

 

「だ、誰だ…」

 

グレイが声を絞る出すように叫んだ。

 

「女達に酒飲ましたのは――――!!?」

 

 

 

 

 

「足りん!酒が足りんぞ!!」

 

「ふにゃ~目が回る~」

 

「ウェンディ~しっかり~」

 

「ねーねージュビア~あそぼーよ~」

 

「あははははっ!!たーのしー!!」

 

「…ヒック。最近消費税10%になったけど…これ以上上がるのは勘弁なの」

 

「…」

 

 

 

見事に酔っぱらった女性陣。

 

エルザが怒り、ウェンディが目を回し、ジュビアが泣き、ルーシィが甘え、レビィが喜び、人型のマーチが語る。

 

そしてアミクは、ナツ達に背を向けてボケーッ外を見ていた。

 

 

「りょ、料理が…」

 

「全部食ったのか…!!」

 

空になった皿を見て戦慄するドロイ達。自分達の分まで食べるとは、女性の胃袋、恐るべし。

 

 

『…と、なると、この中で素面の女性は私だけか?…だとしても意味ないか…』

 

ウルがどうしようもない、とため息を付く。

 

 

「信じらんねえ…何でお前ら酒飲んでんだよ…」

 

「女将――!!なんで此処に酒がぐはあっ!!」

 

グレイが怒鳴っていたが、飛んできたお猪口がグレイの頭に直撃。

 

 

投げた犯人であるエルザが怒りの炎を背負って凄んだ。

 

「うるさいぞグレイ…お前もこっち来て飲め。そして酒を注げ──ってか酒を注げェ!!」

 

酔っぱらったら凄く手の付けられない人間になってしまったエルザ。彼女は怒り上戸のようだ。

 

グレイは「うへぇ…」と嫌そうな顔をした。

 

 

「超絶めんどくせえ…あがっ!!」

 

今度は酒瓶が直撃。

 

 

怒り狂うエルザをジュビアが泣きながら止める。

 

 

「ダーメーでーすー!!グレイ様はジュビアのモノ!!ジュビアのモノなんですよー!!」

 

「ええい、離せっ」

 

 

そんな会話をする彼女達を余所にグレイはピクピクしていた。

 

『うわー…これは酷い』

 

ウルが引いた様子で言った。

 

「コラー!!ちゃんと走りなさい!アンタは馬なのよー!!」

 

「オイラ猫だよー…」

 

「いっけーハッピー!!お前に全財産を賭けたの!これに勝てなきゃあーし達はお終いなの!!勝ったらディスコ行くの!!」

 

「馬は馬でも競馬!?」

 

顔を赤くしたシャルルがハッピーに乗って飛んでおり、それをマーチが応援する。

 

「おいおい、シャルルとマーチまで…」

 

いつも冷静なシャルルと、なんやかんや頼りになるマーチまでもがあんな状態。

 

 

ナツが唖然としていると、どこからか視線を感じてそっちを向く。

 

 

そこにはじ―――っとナツを見るルーシィが。

 

四つん這いになっているため、浴衣の胸元がはだけ、その豊満な胸が零れ落ちそうだ。

 

 

「ルーシィ!?」

 

ジッと見てくるルーシィにうろたえながらナツが「な、なんだよ…?」と問うと。

 

「あーん、ナツが2人居るー♡うわ――い♡」

 

嬉しそうにデレデレするルーシィ。そんな彼女に酒瓶を持ったレビィが絡んだ。

 

 

「ルーちゃ~ん!ヒック、ナツが2人も居るわけないじゃーん!あはははははっ!!」

 

彼女は彼女で楽しそうである。

 

「…そうだ、アミクは!?」

 

呆然と見ていたナツはさっきから黙ったままのアミクに目を向けた。

 

もしかしたら、彼女はまともなのかもしれない、と淡い希望を抱いて…。

 

「おい、アミク!皆が酔っぱらっておかしくなっちまった!」

 

アミクの肩に手を置いてこっちを向かせる。

 

 

「…ふぇ?」

 

「お前もか――――!!」

 

頬を赤く染め、トロンとした目付きでナツをぼんやりと見る。どう見ても酔っている。

 

「お前まで飲んでたら世話ねえだろ…!!誰が収拾付けるんだよこの状況!!」

 

ナツはそこまで言ってアミクの姿に注目した。

浴衣が所々崩れており、柔らかそうな巨乳と、スラリとして艶やかな生足が色っぽく露出する。

 

普段はデリカシーのないナツも、流石に「うっ」と目を逸らした。これは男子には目に毒だ。

 

「…ナツー?」

 

「お、おう…?」

 

アミクが呼んだのでつい生返事をすると…。

 

「────声が小さぁい!!」

 

「あいいいいい!!!?」

 

急に怒鳴られ、ビクゥッとナツの肩が震えた。

 

 

「男ならもっと魂から叫ばんかああい!!!」

 

いきなり大激怒したアミク監督。まるでだらしない野球部員を叱るように大声を上げる。

 

ナツは引き攣った表情で怒鳴られるがままになっていたが、気を取り直して怒鳴り返した。

 

 

「だ――――!!うるせえよ!!静かにしろー!!」

 

「…グスッ」

 

 

その途端、急にシュンとなるアミク。彼女の瞳に涙がどんどん溜まっていき、メソメソと泣き出した。

 

 

「…ごめんねぇ、ナツ…グスッ…私、こんな役立たずで…こんなコンビ、ナツも嫌だよね…?」

 

「い、いや…嫌ではねえよ…」

 

ナツは戸惑ってオロオロとアミクを慰めるが、アミクはネガティブな言葉を吐き続けている。

 

「どうせ私なんて…クズでブスで…人に迷惑しか掛けて無い、生きてる価値もない人間だよ…グスッ…」

 

「め、めんどくせーな!!」

 

ナツが情けない顔していると…それを見たアミクが「ぷっ」と噴き出した。

 

「ぶははははははは!!!ナツおもしろーい!!あはははははは!!!面白すぎて、お腹がフルコンボしちゃう!!ひはははははは!!!」

 

今度は大爆笑し始めた。

 

なんなんだコイツ。

 

「こえー、アミクこえー」

 

コロコロキャラが変わりまくるアミクにドン引きのナツ。

 

「テンションMAX――――!!いっけぇ―――――!!」

 

楽しそうに酒瓶を銃のように構えて騒いでいたアミクだったが、唐突にドロイに突っかかっていった。

 

「おらぁ!!デブ!!不健康そうな体してんじゃねえよ!!病気になったらどうする!!?」

 

「ひぃいい!!怒ってるけど内容は優しい!!」

 

と、思ったら今度はジェットに泣きついた。

 

「ジェットぉ~最近レビィとガジルが良い感じだから辛いよね…ぐすん、可哀想…」

 

「余計なお世話だ!?本当に泣きたくなるわ!!」

 

ちょっと泣いて、次は当然のようにグレイに絡みにいく。

 

「グ~レ~イ~!!楽しんでるぅ!!?楽しんでるかぁい!?いやっほう!!あはははははは!!」

 

「うぜえテンションだな!?」

 

「プチョヘンザッ!!イエーイ!!」

 

「アーミークー!ダメなのー!グレイ様にべたべたしちゃいやぁ~!」

 

「ええい、アミク邪魔をするな!今マカオに説教をしてる所だ!」

 

「オレグレイだけど…」

 

ジュビアやエルザも混じり、軽く修羅場である。

 

そんな中、アミクは酒瓶をマイクに見立てると急に歌いだした。

 

「ドラグナイ!!ドラグナイ!!…おらあ!!お前らも歌えよゴラア!!」

 

もうこの女やりたい放題である。まさかのこの中でアミクが一番ヤバかったという事実。

 

 

「自己紹介しまーす!アミク・ミュージオンです。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士でーす。趣味は読書です。オールジャンルではいけませーん」

 

「は、はぁ?そんなの知ってる…」

 

「それは違う!…と思うよ」

 

「いや、何がしたいんだよ!!」

 

訳の分からぬ事を喋り始めるアミク。

 

「困ったらこのアミクおねーさんに相談するんだぞっ?」

 

「困らせてる原因がお前なんだけどなぁ…」

 

「北京ダック!!」

 

「唐突に!?」

 

もはやだれにも止められない。もう何が何やら。

 

この酔っ払い女子共に滅茶苦茶に振り回されるこの状況は。

 

 

「まさに、混沌(カオス)…」

 

珍しく、ナツがげっそりしてそう口に出した。

 

『私はもう知らん』

 

ウルは匙を投げてしまい、色々諦めてしまった。

 

 

 

それからも続く惨劇。

 

グレイはジュビアに泣きつかれ、ドロイとジェットも理不尽にエルザに怒られる。

 

「最近日本初で受賞されたユーチューバーが居るの~」

 

マーチは相変わらず意味分からない事言ってる。

 

 

「ねぇ~」

 

そして、惨状を見て呆然としているナツにルーシィが近付いてきた。

 

「卵。はい、あーん♡」

 

彼女は箸で卵を持ってきてナツに食わせようとする。

 

ナツは普段の彼女の言動との余りの差に愕然となった。

 

「お前はそんなキャラじゃね――――!!」

 

ナツがそう怒鳴ると、ルーシィはしょんぼりして座り込む。

 

「怒られちゃった…」

 

「へ!?」

 

「ナツに怒られちゃった…卵、食べてほしかったなぁ…卵…」

 

ルーシィの様子にオロオロするナツ。そこにアミクがやって来て、卵を掻っ攫った。

 

「おらああああ!!卵じゃねえかぁ!!うめえだろうがゴラア!!」

 

もはや何で怒ってるのかも分からない。

 

一気に口に放り込み、むしゃむしゃと食べ尽くすアミク。

 

「あーあ…アミクが食べちゃった…ナツに食べてほしかったのに…」

 

「うぇ~ん、ごめんねルーシィ…こんな出来そこないが食意地張っちゃって…私ってば最低だ…」

 

2人してしょんぼりしてメソメソする。なんなんだこの集団。

 

「卵は食べられるし…ナツには怒られるし…」

 

「な、い、いや…怒っちゃいねえだろ」

 

ナツが慌てて言うと、ルーシィがナツの方を向いた。

 

「じゃあ、ごろごろ~ってして」

 

「ごろ、ごろ…?」

 

ナツは引き攣った顔のまま固まった。ごろごろ…とはまさか。

 

「うーん、ごろごろ~って♪」

 

ルーシィは甘えた表情で自分の首を指差した。

 

 

つまり…ネコとかにやるようにごろごろとしろってことだ。

 

ナツは冷や汗を垂らして眉をピクピクと痙攣させた。

 

 

仕方なくナツはルーシィの首筋を指でごろごろ~っとすると。

 

「にゃ~~~♪」

 

ルーシィがネコになった。金髪の巨乳のネコ人なら、そこにも居るんだが(マーチの事です)。

 

「うあああああああ!!!?」

 

これはヤバい。こんなのルーシィじゃない。ルーシィは自分達に振り回されて頭を抱えているような人物なのに、こんな自分に甘えてくるなんて…。

 

「あー!ルーシィずーるーいー!!」

 

アミクはルーシィをナツから引き離すと、ナツを押し倒した。

 

「おおお!!?」

 

「私も~!私も~何かやって~!」

 

今度はアミクも甘えモードになったらしい。危ない色気を振りまきながらアミクはナツの顔に自分の顔を近づけた。

 

「な、何かって何だよ…」

 

ナツが恐る恐る聞くと、アミクは唇を軽く突き出す。

 

 

「チューして♡」

 

「は!?」

 

「チューだよ、チュー♪ココはカッコよくキスって言った方がいいかにゃ~、チューなのににゃーっておもしろーい!!あはははははっ!!!」

 

違う。絶対に違う。アミクはこんなアホっぽい奴じゃない(そういう節はあるが)。チューして、とか言わない。自分で自分のボケに笑いだす奴じゃない!!

 

「しっかりしろアミク、ルーシィ――!!お前らがそんなんで誰がツッコミ役やるんだよ―――!!」

 

「ええい、やかましいわい!!」

 

ツインテールを逆立たせて怒りだすアミク。無茶苦茶情緒不安定である。

 

「だーめ!アミク~、ナツを独り占めしちゃいや!」

 

ルーシィがアミクを引っ張ってナツから引き離そうとする。

 

「は~な~せ~!私からナツを奪おうたって、そうはいかにゃいんだから~!」

 

「は~な~れ~て~!」

 

ルーシィがアミクを引っ張り、アミクはナツにしがみついて耐える。

 

そしてナツは床を必死に掴んで引きずられまい、と踏ん張っていた。ナツには彼女達が、地獄に引き入れようとする悪鬼にすら見える。

 

「ひいいい!!アミク離せー!!」

 

「いーや!ナツは私が目を離すと、すぐに変な事するから、私が見張ってないとダメにゃの!」

 

「見張りが必要なのはお前らの方だ―――!!」

 

ナツが頑張ったお陰かついに、アミクの手がナツの服からすっぽ抜ける。ルーシィとアミクは反動で絡まりながら転がった。

 

そして、ルーシィがアミクを押し倒しているような格好になってしまった。

 

「にゃー、もうルーシィでいいや。ルーシィ、ちゅーしてー♡」

 

「いいよーちゅー」

 

ルーシィがアミクに顔をゆっくりと近付かせる。アミクとルーシィの唇が1センチ、1ミリとだんだん接近して…。

 

「おわああ!?何やってんだお前ら――――!?」

 

自分は何を見せられているのだろうか。自分を取り合っていたと思ったら、唐突にこんな百合百合しい展開なるなど、誰が想像できただろうか。

 

とうとう、二人の唇の間の距離がなくなる直前。彼女達の口から熱い吐息が同時に漏れた。

 

そして、唇同士が触れ合って――――――。

 

 

「アミク、ルーちゃん!何楽しそうな事してんの!私も混ぜてよー!!あはははははー!!」

 

触れるか触れないかの瞬間にレビィに弾き飛ばされる2人。

 

「うわーい」「あら~」

 

妙に楽しそうに転がる2人。その拍子に2人は離れ離れに。

 

 

ナツはとてつもない危機感を感じた。

 

「だ―――――!!!これは妖精の尻尾(フェアリーテイル)存亡の危機だ――!!男共集まれ、作戦会議だ――――!!」

 

まとも(?)であるアミク達が変人になってしまった今、この状況を打破できるのは自分達しかいない。

 

そう思って、男衆に呼びかけたのだが…。

 

「ちょっとマーチ、離しなさいよ!私のロバなのよ!」

 

「ハッピーはあーしが連れて一狩り行ってくるの。リオレウスには空飛ぶアイルーが有効なの」

 

「…こんな取り合い、望んでなかったんだけどなぁ…」

 

シクシク泣くハッピーを取り合うマーチとシャルル。

 

 

「グレイ様ぁ~好き~♡」

 

「やめろぉ!!オレまで溶けるぅ!!」

 

グレイはジュビアという水に溺れかけ。

 

 

「どこに行ったぁ!!出て来い!!」

 

「足元で…」

 

「死んでいますが…」

 

ジェットとドロイはエルザにノックアウト。

 

 

無事な男子はナツしか居なかった。

 

 

「…ぜん…めつ…?」

 

 

壊滅の危機である。

 

 

ナツが呆然としていると、ルーシィの魔の手がナツの背中から肩に回され、抱きついてくる。

 

「おんぶしておんぶ~♡」

 

ナツは幽霊に掴まれたかのようにビクッと震える。彼にとってはルーシィの腕が幽鬼の腕にも感じられた。

 

「い・や・だ」

 

きっぱりと断るが…。

 

「ナツー!だったら私は抱っこして~私コアラになる~」

 

「ギャー――――!!嫌だって言ってんだろ――!!」

 

アミクまでもが参戦。アミクはナツの正面から抱きついてきた。

 

前からも後ろからももみゅ♡と柔らかい何かが押し潰される感触がするが、それを楽しむ余裕はなかった。

 

「おトイレ行きたい~」

 

「連れてってよナツ~漏れちゃうよ~」

 

「知るか――――!!」

 

絶叫するナツ。そんなナツをレビィが「ナツー!急げー!がんばれー!あはははは!!」と囃したてた。

 

こいつらのトイレ事情など知ったこっちゃないが、本当に漏らされるのは困る。

 

「だ――――っ!!クソぉ、めんどくせぇ――――!!」

 

ナツは背中にルーシィを背負い、胸にアミクをしがみ付かせてドタドタとトイレに向かって走っていく。

 

「つーかお前ら重ぇよ!!?」

 

「だれがカビゴンよりも重いじゃゴラア!!」

 

「誰だよ!?カビゴンって!?」

 

ユサユサと背中で揺られながら、ルーシィは心地良さ気に呟いた。

 

「ナツの背中…あったかい…」

 

それにアミクも同意する。

 

「ホントにねェ…人間暖房みたい…」

 

「あぁ…それはオレの怒りの炎だぁ…」

 

青筋をビキビキと立てたナツの唸り声には2人とも気付くことはなかった。

 

 

 

『…だれか、収拾付けてくれ…』

 

唯一無事であるウルの嘆かわしそうな声が、広間に響くのだった。

 

 

 

 

 

 

ちなみに、ウェンディはずっと目を回していましたとさ。

 

 

 

 

「はぁ~やっと目が覚めてきました」

 

「うーむ…全然記憶がないのだが、なぜ男共はあんなに怯えていたのだ?」

 

 

しばらく酔っ払いと化していたアミク達はしばらくしたらなんとか正気を取り戻していた。

 

現在、温泉でゆっくりと身体を休め、酒も大分抜けてきたところである。

 

 

「うう…あんまり記憶にないけど…とんでもない事を仕出かした気がする…」

 

「なの。あーしも色々言っちゃまずい事いっぱい言った気がするの」

 

アミクはお湯の中で体躯座りして恥ずかしそうに顔を埋めていた。

 

 

本人は余り記憶にないが、実際凄かったのだ。

 

 

エルザと一緒に怒って。

 

 

ジュビアと一緒に泣いて。

 

 

レビィと一緒に笑って。

 

 

ルーシィと一緒に甘えて。

 

 

 

酔っ払いのオールラウンダーである。

 

 

(…特に、ナツの顔が見れない…凄く恥ずかしい…)

 

彼にも恥ずかしい姿を見せて迷惑かけた気がする。

 

いやはや、水と間違えて酒を飲んでしまったのが今回のアミクのドジだ。

 

酒に身を委ね、我を忘れて痴態を晒すなど…。

 

「…どうしたのレビィ」

 

「い、いや何でも…」

 

レビィがアミクとルーシィをチラチラと見て赤くなってるのだが。どうしたのだろうか。

 

その時、ルーシィが何かに気付く。

 

「ん?ジュビア!早くー!」

 

なぜかジュビアが岩陰に隠れて「ジュビア、恥ずかしい…」と人前に出るのを渋っていた。

 

「なんで?裸見せるのが恥ずかしいの?ミス・フェアリーテイルの時は水着姿を披露してたのに」

 

「あ、あれはグレイ様が見ていたから…裸じゃないし…」

 

しかし…こうして見ると、ジュビアの胸も相当デカイ。

 

というか、ここの女性陣、巨乳率が高い。人型のマーチも含めると7人中(シャルル除く)5人が巨乳である。

 

…レビィとウェンディが泣き出すかもしれないので何も言うまい。

 

「はぁ~…気持ちいい~♪」

 

「そうだねー…体を動かした後の温泉はいいねぇ~」

 

アミク達は気持ちよさそうに寛いだ。

 

 

「疲れがとれますね」

 

「ここの湯は美肌効果があるんだって」

 

「そうなの?だったら人型で入っていて良かったの」

 

いつもはルーシィやアミクとお風呂に入るのだが、たまにはこうして皆で温泉に浸かるのも悪くない。

 

その時、

 

「…ねえ、アミクもルーちゃんも随分ナツに甘えちゃってたね」

 

「え!?」「な、何の話!?」

 

アミク達は急な話にビックリした。

 

「あれ?憶えてないの?2人共良い感じだったんだけどな~」

 

「ま、まさか!?」「へぇ!?ナツと!?」

 

「何今更赤くなってんの」

 

いたずらっぽい表情で言われてつい反応してしまった。

 

「い、今更って…」

 

「だって、ルーちゃんとアミクって…」

 

「ナツさんのこと、好きですよね?」

 

ジュビアも会話に参加してきた。

 

「はいいいい!!?」「た、たこ焼き!?」

 

「間違えるならせめてすき焼きなの」

 

動揺する二人。お仲がよろしいようで。

 

そんな2人を見て、ジュビアはニヤッと黒い笑顔になる。

 

(うふふ…このままルーシィとアミクをナツさんに押し付けておけば、グレイ様を巡る恋敵が2人も消えるわ…)

 

本当の目的はそこにあった。

 

まぁ、巡るもなにも2人ともグレイに好意を持ってるわけではないのだが。

 

「ほう、そうなのか?それは知らなかったな」

 

「確かに、アミクさんもルーシィさんもいつもナツさんと一緒にいますよね」

 

「特にアミクはコンビとして組んで何年も前から共にいるからな。不思議な事ではあるまい。ナツを探すならアミクの家を訪ねた方が早いからな」

 

「待て待て待てーい!」

 

勝手な事を抜かすエルザ達を黙らせる。

 

「黙って聞いてれば!すぐそんな恋愛思考に持っていこうとするんだから!もう!」

 

「そ、そうよ!アミクは知らないけど、私はナツの事なんか好きじゃないしいつも勝手に家に上がられてホンット迷惑!」

 

「ちょっと」

 

ちゃっかりアミクを省くな。

 

ルーシィは興奮してそう捲し立て、怒ったように続けた。

 

「だからこの前注意してやろうと思ってナツ達の家に突撃したくらいだし!」

 

「ああー、そんなことあったねぇ…」

 

アミクが懐かしそうに言う。

 

「ほほーう、意趣返しというわけか」

 

「聞きたいなー、その話」

 

「私も聞きたいです!」

 

ウェンディ達はこの話が気になるようだ。

 

ルーシィはちょっとためらったようだったが。

 

 

「…じゃあ、話してあげる」

 

「あ、話すんだ」

 

あの話はアミクも関わってるので一緒に話してあげることにした。

 

 

 

 

「そういえば私、ナツ達がどこに住んでるのか知らないわね」

 

「どうしたの、ルーシィ?」

 

ある日の仕事終わり。いい仕事だった為満足気に帰っていくナツ達を見てルーシィが言う。

 

「ねえ、アミクってナツの家がどこにあるか知ってるの?」

 

「知ってるよー?何回か行ったことあるよ」

 

「なの。一軒家に住んでるの」

 

「で、それがどうしたの?」

 

 

なぜ急にナツの家の居場所なんか聞いてきたのだろう。

 

ルーシィは何かを企んでいるような悪い顔になる。

 

「うふふ…アミクも覚えてるでしょ…?そう、忘れたくても忘れられない、今までの数々の辱め…リベンジの時よ!」

 

「…まさか」

 

アミクは察した。

 

自分もナツ達にされた事と同じことをするつもりだ。

 

 

 

「まぁ、その話を聞けばリベンジしたくなるのも分かる。奴らには今一つその辺の常識が欠如してるからな」

 

「レディの部屋に勝手に入り込むなんて、常識どころの問題じゃないわよ」

 

「そう言われたらそうなんだけど…」

 

「でしょ!だから次の日…」

 

 

 

「本当に入るの〜?」

 

「やめておいた方がいいの」

 

「此処まで来て止めれますか!今日こそは仕返しをしてやるのよ!」

 

アミク達の案内でナツの家にまでやって来た。

 

 

ナツ達が不在なのは確認済み。ルーシィがドアノブに手を掛けると、あっさり開いた。

 

 

「開いてるし♪」

 

「前にも鍵閉めろって言ったはずだったんだけどなぁ…無用心だよ、全く」

 

「だからお金も盗まれるの」

 

そのままゆっくりドアを開けると…。

 

「「汚なっ!!」」

 

「汚物部屋なの!!」

 

整理整頓は宇宙の彼方に置いてきたのか如く散らかっており、掃除もロクにしてないのかシミや埃があちこちに存在している。

 

 

「前来た時よりも酷くなってる…」

 

「どんだけよ!」

 

以前アミクが行った時も汚かったが、これほどではなかった。ってかアミクが掃除したり片付けたりしたはずなのに、もう汚しちゃったのか。

 

「酷いね、これは…」

 

「あいつら、こんな所で暮らしてるの…?うええ…信じられない…!」

 

ルーシィはドン引きしながら恐る恐る部屋に足を踏み入れる。

 

「ゴミ溜めみたいな部屋なの」

 

「アレから7年も経ってたし仕方ないかもしれないけど…もしかして頻繁に家に来るのってこれが原因じゃあ…」

 

「ゴミ屋敷で暮らしたくなかったら掃除しろなの!!」

 

アミク達がそう会話していると、ルーシィが壁のボードに貼ってある紙に気が付く。

 

「ん?今までに行った仕事の依頼書かな…」

 

どんなものだろう、と覗いたアミクは見覚えのある依頼書に目を付けた。

 

あの悪徳領主…エバルーが載ってる依頼書だ。懐かしい。

 

 

そして、その依頼書の上にさらにメモ用紙がピンで留められていた。

 

そのメモ用紙には。

 

『初めてルーシィと一緒に行った仕事!』

 

 

と書いてあった。

 

 

「あ、それね。ナツってばわざわざ依頼書を集めたり、お土産を持ち帰ったりしてるんだよね」

 

アミクは懐かしそうに『久しぶりにリサーナと仕事!』と書かれているメモ用紙に触れた。

 

それから色々見回し、他のよりも比較的古い依頼書に触れる。

 

「…これもまだ残ってたんだ…」

 

『アミクとマーチと初めて行った仕事!オレ以外の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)ってどんなもんだって思ってたけど、凄かった!』

 

ナツとの初めての仕事。未だに大事に思い出として残してくれていたのだ。

 

 

依頼書だけではなく、『偽火竜(サラマンダー)のサイン』とかいう物や、ガルナ島のネックレス、果てはアミクとルーシィのメイド服まで。

 

それらを見てルーシィは微笑んだ。

 

「あいつら、意外と思い出的な物を大切にしているのね」

 

「うん。家族との思い出は、ナツにとっては宝物だから…ナツのマフラーみたいに」

 

彼のマフラーはイグニールから貰った、大切な家族の証であり絆でもある。

 

これらも、似たようなものなのだ。

 

「…よし!あいつら帰って来る前に掃除でもしてあげよっかな!」

 

どういう風の吹き回しか、箒とちりとりを持ってやる気のルーシィ。

 

「私も手伝うよ。久しぶりに腕が鳴るね!」

 

「…これ、あーしも手伝わなきゃならないヤツなの?めんどくさいの…」

 

マーチもブツクサ言いながらも雑巾を持って来ていた。

 

そうして、彼女達はせっせと掃除をするのだった。

 

 

 

 

数時間後。

 

 

 

「…ってか、まだ!?」

 

見違えるほど綺麗になった部屋で正座して待つルーシィ。彼女は唐突にジタバタし始めた。

 

 

「せっかく驚かそうと思ったのにー!何なのよー、あいつらぁ!!」

 

「まぁまぁ。ルーシィもこっち来て蒸しブロッコリー食べなよ」

 

「お、ハッピーの秘蔵の写真はっけーんなの」

 

「アンタ達、寛ぎすぎよ!」

 

いつまで経っても帰ってこないナツとハッピーに痺れを切らしたのか、ルーシィががっくりと膝を付いた。

 

 

「虚しい…人の帰りを待つのって、こんなに寂しいものなの…?」

 

「仕事で中々帰らない夫を待つ妻の心理、的な」

 

「何でそうなるのよ!!」

 

 

ルーシィは溜息をつくと、色々気を削がれたのか、アミク達に呼びかける。

 

「アミク、マーチ。帰ろ」

 

「そうだね。お腹空いたし」

 

「なの。今日は刺身が食べたいの」

 

 

アミク達はトボトボと帰路に着いた。

 

 

 

家の扉に手を掛けた時、ルーシィはある予感に囚われる。

 

 

「…まさか、ね…」

 

「うーん、フラグだね」

 

「ビンビン立ってるの」

 

アミク達もそう言って、一種の覚悟をしながら中に入ると…。

 

 

「やっぱりあたし達の家に居たー!!」

 

「お約束だね、もはや」

 

「なの」

 

リビングのソファーでぐっすり寝ているナツとハッピー。彼らはむにゃむにゃと寝言を言う。

 

「アミク達、遅ぇーな…」

 

「あい…」

 

何となく寂しそうな声。

 

「…ナツ達も、ずっと私達の帰りを待ってたんだね」

 

アミクがナツの頭を撫でながら言うと、ルーシィはナツ達をハッとした表情で見た。

 

それから仕方なさそうに笑った。

 

 

 

 

「でも、そんなのもたまにはいいかな、って思ったのよね。いつまで経ってもあいつらのペースなんだ、って思ったら妙に安心した、と言うか、まぁそれもアリかって許せちゃった」

 

「何だか良い話」

 

「でも結局惚気聞かせただけじゃない?」

 

「なっ…だからちがーう!!」

 

 

 

結局は良い感じで締められた話。アミクはふやけた顔をしながら、騒ぐルーシィ達を見ていた。

 

その時。

 

『あいつら…さっきは散々ナメた真似してくれたよな』

 

『見せてもらうぜ、スッポンポン』

 

『ま、温泉来たらお約束ってヤツだよな』

 

『グレイはフルチンだったけどね』

 

『そんな事よりハラ減った…』

 

隣の男湯からそんな会話がアミクには丸聞こえ。定番の覗きイベントである。

 

(修学旅行の男子かっ!さてと…どうしてやろうか)

 

アミクは意識を男湯の方に向ける。男湯と女湯の間には壁があり、壁のすぐ向こうにナツ達が張り付いているようだ。

 

(だったら、背後に…)

 

「とにかく!明日からは特訓頑張るのみ!」

 

「そうですね。ジュビアも頑張ります」

 

「私も!」

 

「私も、もっと強くなります!」

 

(…今!)

 

アミクは大きく息を吸うと、魔法を使った。

 

 

変声と『声送(レチタティーヴォ)』を。

 

『なにしとんじゃワレェーーーー!!!』

 

『うおおおおお!!?』

 

向こうから謎の怒声と男達のびっくりする声が聞こえ、直後にゴチーン、と痛そうな音が聞こえた。

 

「どうしたの!?」

 

「いやー、向こうからけしからん会話が聞こえてきてねーちょっとお灸を据えてやったのよ」

 

「まさか、あいつらが覗きに…!?」「最低です!」「グレイ様はそんなことしません!」「性欲に盛った獣達なの」

 

レビィ達が憤慨するが、エルザは何でもないように言った。

 

「ナツ達が?ならば構わんな。呼んでこよう」

 

「ダメーーーー!!?」「グレイも大概だけど、エルザももうちょっと羞恥心持とうか!!?」

 

アミク達で呼んでこようとするエルザを必死に止めたのだった。

 

 

 

ちなみに、後で男達を見てみると、ナツ、グレイ、ジェットの3人は後頭部にタンコブが出来て、ドロイはケツが赤く腫れていた。

 

 

 

ちょっとした騒動の後、アミク達は廊下から夜空を眺めていた。

 

「見て!星が綺麗!」

 

見事なまでの満天の星空。綺麗な星々がアミクの瞳に焼き付く。

 

「今頃他の皆も修行頑張ってるのかな」

 

「私達と同じように星を見てるかもしれませんね」

 

「…うん、きっとそうだよ」

 

ウェンディの言葉に同意する。

 

皆とは離れ離れだが、この星空は繋がっている。だから、皆同じ景色を見ているなら、皆と繋がっている気がするのだ。

 

 

「…私も絶対に強くならなきゃ。うん!頑張ろう」

 

 

アミクは改めて決意したのだった。

 

 

 

 

 

誰も居なくなった温泉にて。

 

 

1人の少女が鼻歌交じりに浸かっていた。

 

 

「うふふふ。3代目の妖精の尻尾(フェアリーテイル)は本当、賑やかで幸せ…!」

 

 

その少女の名はメイビス・ヴァーミリオン。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の初代マスターである。

 

 

彼女はずっとアミク達の合宿について来ていたのだ。そして、騒ぐアミク達をずっと見ていた。

 

そんな彼女達の様子は本当に楽しそうで、自分も交ざりたい程だった。昔の自分達のようで、何だか懐かしくて嬉しい気持ち。

 

 

メイビスがプカプカと浮かんでいると、1つの気配が温泉に入って来るのを感じた。

 

 

「…また会ったねメイビス。こんなに早く会えるとは思わなかったけど」

 

 

スタイルの良い体をした黒いショートヘアの女性。

 

 

グレイの師匠であるウルである。

 

 

「ウル!久しぶりですね!思念体ですか」

 

「ああ、アンタと7年間も居たから魔力もちょっと増えたし、思念体のコツも分かってね。アイツらと一緒に私も修行中さ。一々ちょっと魔法使っただけで意識を失うのは情けないからね」

 

思念体を長く維持できるようにして、意識も失わないようにするのが今の目標だ。

 

「遊びに来たのか?というか意外と自由に動けるんだな」

 

「天狼島に居ても物足りないんですよ。あんなに楽しそうなギルドを見てしまったら、どうしてもまた見たくなって」

 

「まぁ、気持ちは分かる」

 

メイビスとウルは温泉に浸かりながら談笑した。

 

「…それにしても、ウルも羨ましいから出てきてますよね…思念体ですけど」

 

「そうか?」

 

「ここの女性の方々は胸が大きい人達が多すぎます!」

 

「私に言われてもなぁ…」

 

温泉でもメイビスはこっそり覗いていた。ホント、アミクを筆頭にけしからん胸が並んでいるのを見て圧倒されてしまった。その中でレビィやウェンディを見て安心したものだ。

 

「ふー、大魔闘演武か…どうなることやら」

 

ウルは溜息をついて独り言ちる。

 

「ま、アイツらなら大丈夫だと思うけど」

 

その時、メイビスがザバァと立ち上がった。

 

「…そうだ!良いこと思いついた!」

 

「どうした急に」

 

「大魔闘演武、私も応援に行きましょう!」

 

「…本気で言ってるのか?」

 

「勿論です!さぁ、そうと決まれば準備準備♪」

 

メイビスは本当に楽しそうだ。しかし、まさか故人とされている初代が大魔闘演武に応援しに来るとは。

 

「中々シュールな光景だ」

 

「うふふふ、せっかくの私達のギルドの晴れ舞台ですから」

 

呆れたように言うウルに笑みを返すメイビス。

 

「楽しみですね♪ウル」

 

「…そうね。楽しみだ」

 

温泉で、互いに肉体を持たない者同士で笑い合うのだった。

 

 

 

大魔闘演武まで、後3ヶ月。

 

 




途中でアミクが変なこと言ってたのは声優ネタです。

一応、アミクのCVは花澤香菜ってことになってるのですが、誰が何のキャラでしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。