妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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早くクロッカスに入りた〜い。


星々の歌

一夜明けて合宿2日目。

 

「うーん!充実してるなァー!!」

 

「オレたちが本気で体を鍛えりゃ────」

 

「2日間といえど、かなりの魔力が上がりましたね!」

 

『中々の成長だな』

 

アミク達は修行の効果が出ている事を2日目にして実感していた。

 

「いやー!やっぱり強くなってるって実感があると、修行も捗るってものだよ!」

 

「なのなの。あーしも最強エクシードとして名を馳せる日も遠くないの」

 

元々ポテンシャルの高いアミク達は、鍛えればどんどん強くなる成長型のようだ。努力がすぐ身に付くタイプと言うか。

お陰で現時点でも昨日の自分よりも強くなった自覚がある。

 

「この調子で修行頑張っていこ―――!!」

 

アミクが元気に拳を振り上げると、他の皆はそれを微笑ましげに見る。

 

「この調子で3ヶ月鍛えれば、この時代に追いつくのも夢ではなさそうだ」

 

「うん」

 

1日でこれなら、3ヶ月経てばどれほどのパワーアップになってるのか非常に楽しみである。やる気も出てくるものだ。

 

「かーっかっかっかっ!見てろよ!他のギルドの奴ら!妖精の3ヶ月、炎のトレーニングの成果をなぁー!!」

 

「燃えてるね〜」

 

重りを引き摺って走り回るナツ。

 

彼の脳裏には自分達が他のギルドをバッタバッタ薙ぎ倒している光景が浮かんでいるのかもしれない。

 

 

「最初はたった3ヶ月?って思ってたけど、効率的に修行すれば『まだ』3ヶ月もあるの?って感じね」

 

「あい」

 

ルーシィは当初こそたった3ヶ月で7年のブランクを埋めることができるのか、という不安も少しあった。

 

しかし、これくらいの成長スピードなら心配なさそうだ。

 

 

その時のことだった。

 

「姫!大変です」

 

ルーシィのすぐ下の地面からピンク髪の星霊、バルゴが出現。そのままルーシィを頭で持ち上げた。

 

「キャ―――!!どこから出てきてんのよーっ!!」

 

「お仕置きですね?」

 

「バルゴ!」「メイドの星霊」「ドМの星霊なの」

 

マーチ、その呼び方はいかがなものかと…。

 

 

何だか久しぶりに見た気がするバルゴ。7年経っても通常運転のようだ。

 

 

バルゴを見てグレイが今更ながらも言う。

 

「…そういや、ルーシィが7年間妖精の球(フェアリースフィア)の中に居たって事は…契約してる星霊もずっと星霊界とやらに居たって事になるのか」

 

言われてみればそうだ。

 

「今まで何気に呼んでたけど、そういえばその前に7年も経ってたんだったー!!」

 

ルーシィが涙目になってバルゴの肩に触れる。7年も放置して申し訳なくなったらしい。

 

「可哀想!ルーシィのせいで…ルーシィのせいで…」

 

なぜかルーシィのせいにするジュビア。アレは不可抗力だったと思うのだが。

 

「いえ、それは大した問題ではないのですが…」

 

「大した問題だと思います!?」

 

それとも何か、エクシードみたいに時の感覚には結構疎い感じ?

 

 

それはともかく、バルゴが浮かない顔をしている。何か問題でもあったのだろうか。

 

「何かあったの?」

 

レビィが聞くと、バルゴは更に表情を暗くした。

 

 

そして、アミク達に向かって頭を下げる。

 

「星霊界が滅亡の危機なのです。皆さん、どうか助けて下さい」

 

 

無表情かつ抑揚のない声で頼んでくるバルゴ。

 

 

「は…!?」

 

「なんだと?」

 

「そりゃあ、一体…」

 

「星霊界にて王がお待ちです。みなさんを連れて来てほしいと」

 

星霊王が直々に対応するのか。状況は急を要するようだ。

 

「おーし!任せとけ!友達の頼みとあっちゃあ…」

 

「うん!いつもお世話になってるし、今度は私達が助ける番!」

 

ナツとアミクは早速乗り気だ。

 

ルーシィは慌ててバルゴに尋ねる。

 

「待って!星霊界に人間は入れないはずじゃあ…」

 

「星霊の服を着用すれば、星霊界にて活動できます」

 

「そんな仕様あったんだ」「仕様言うな、なの」

 

「行きます」

 

「あ、ちょ、まだ心の準備が―――――」

 

アミク達が身構える間もなく、足元に巨大な輝く魔法陣が展開され、全てを照らさんばかりの光に満ちた。

 

「わ、わああああああ!!?」

 

思わず目を瞑って叫んでしまう。

 

次に感じたのは浮遊感だった。

 

「へ?わーーーーい!!?」

 

突然の落下。光の柱の中を落ちるように降りていくアミク達。

 

「うげっ」

 

そのまま積み重なるように床に落ちた。

 

 

「び、びっくりしたー…」

 

アミクはすぐに立ち上がって「あれ?」と自分の服装を見直した。いつの間に、以前着たことのある星霊の服、洋服と和服が合わさったような服に着替えていた。

 

そして、改めて周りを見回してそこの光景に思わず声を上げた。

 

「うわー…!!此処が星霊界!?」

 

そこはまるで宇宙空間。キラキラと星屑のようなものが辺り一面で輝き、現実味を薄れさせている。向こうには独創的な惑星が漂っているのも見えた。

床を見ると、虹色のレンガのようなもので作られていて、まるで虹の上に立っているような気分にさせた。不思議な色合いの泡が宙に浮かんで、幻想的な雰囲気を強調させている。

 

お伽話の世界に入り込んだようだった。まさに別世界。

 

 

「わあ…綺麗…!!」

 

ウェンディ達も惚けたようにその景色を見て、感嘆した。

 

『なんというか…確かに星霊界、って感じの場所だな』

 

ウルも物珍しそうな声をあげている。

 

 

「よく来タな、古き友よ」

 

 

現れたのは立派な髭を蓄えた星霊を統べる者。その名も…

 

「おヒゲマスター!!」

 

「その呼び名も懐かしいな」

 

「相変わらず失礼な呼び名なの…」

 

おヒゲマスター…こと星霊王はアミクを見て苦笑した。

 

「デカっ!!」

 

「ヒゲー!!」

 

ナツ達も星霊王の巨体を見上げて驚いている。そんな中、エルザは一歩前に進んで口を開いた。

 

「お前が此処の王か」

 

(お前って言ったー!)

 

一応、相手は星霊界の最高権力者なのだが。いや、アミクが「おヒゲマスター」なんて呼んでる時点で手遅れか。

 

 

「いかにも…」

 

「星霊界が滅亡の危機って…?」

 

ルーシィが本題に入った。星霊王が出向くほどの事態なのだ。きっと内容も深刻なもののはず。

 

ルーシィはごくりと唾を飲んで、どんな事だろうと力になるという決意と共に言葉を待った。

 

 

「…ニカッ」

 

 

唐突に、星霊王が深い笑みを浮かべた。

 

 

「へ?」

 

 

ルーシィが様子の変わった星霊王に戸惑って首を傾げると。

 

 

「ルーシィとその友の!時の呪縛からの帰還を祝して!宴じゃあ!」

 

予想だにしなかった言葉。その言葉と同時にルーシィのほぼ全ての星霊達が出てきた。

 

 

 

「え、ええ…?」

 

 

ポカーンとするアミク達。

 

 

「め、滅亡の危機って…!?」

 

ルーシィが戸惑いながらバルゴに尋ねると、バルゴは「てへ⭐︎」と微笑んだ。

 

 

「なにーーーー!?」

 

「つ、つまり嘘だったって事!?」

 

アミク達を星霊界に呼ぶための嘘だったわけか。

 

「ガハハハハハッ!!MO騙してスマネッス。騙されてポカーンとしてるルーシィさんやアミクさん、しかも星霊界コス最高!」

 

「驚かせようと思ったエビ。今からでも宴用にカットが必要であればお任せエビ」

 

「ルーシィ様達の帰還を祝して、(メエ)達なりに考えたのです」

 

「みーんなでお祝いしたかったけど、いっぺんには人間界に顕現できないでしょ」

 

「だからみなさんの方を星霊界に呼んだんです。スミマセン」

 

「今回だけだからな。ウィ」

 

「そう!特別よ」

  

「「ピーリピーリ」」

 

星霊達が次々に言ってくる。星霊皆でアミク達の帰還を祝おうとこのような事をしてくれた訳だ。

 

「なーんだそーゆー事かーーーっ!!」

 

「そうなんであるからしてーもしもし!!」

 

「びっくりさせやがってー!!」

 

ナツとグレイは仲良さげにサジタリウスと肩を組んだ。随分フレンドリーだな。

 

「さあ!僕の胸に飛び込んでもいいよ、ルーシィ!」

 

「…もう」

 

ロキも変わらずに元気なようだ。ルーシィは嬉しそうにはにかんだ。

 

「もう、心配したじゃん…でも、良かった、大変なことにはなってないみたいで」

 

なんにせよ、星霊達が無事だったのは喜ばしい事だ。

 

「さぁ!今宵は大いに飲め!歌え!騒げや騒げ!古き友との宴じゃ!」

 

星霊王がどこからか扇子を取り出してはっちゃける。前会った時は威厳に満ち溢れていたのに、こういうお茶目な部分もあったらしい。

 

『おおおーーーー!!!』

 

そして、彼の言葉に星霊も人間も盛り上がるのだった。

 

 

 

「…前も思ったけど、あの人の声ってナレーションとかやってそうだよね」

 

「中の人の話なの、それ」

 

 

 

 

星霊も人間も分け隔てなく、互いに宴を楽しむ。

 

「あ、クロロホルム!!…ってそれは気絶させる薬品か」

 

アミクは時計座の星霊であるホロロギウムを見つけて近寄った。

 

「おやおや、これは」

 

「あの時はありがと!マジで死ぬかと思ったんだよ」

 

天狼島でハデスに睨まれた時、一瞬で死を覚悟したものだが、彼の機転によりアミクの命は助かった。ホロロギウムはアミクの命の恩人なのだ。

 

「いえいえ、礼には及びません」

 

「本当にホロロちゃんって有能だよね。いざって時に助けてくれるし」

 

今までもアミクやルーシィ達を救ってきたことが何度あるか。

 

「私は私にできる事をしたまでですので」

 

「でも、服脱げちゃうのはな〜」

 

「いや…あれは…その…」

 

ホロロギウムが口籠もったが、いつの間にか彼の後ろにいたルーシィに「『失礼しました』と申しております」と代弁されていた。

 

 

「久しぶりだね、アミク」

 

「ロキ!天狼島以来だね!」

 

「試験は残念だったね」

 

「しょうがないよ、あれは」

 

ロキは天狼島での一件でも活躍したらしい。悪魔の心臓(グリモアハート)の七眷属の1人だったカプリコーンを呪縛から解き放って味方に引き込んだとか。

 

この星霊もかなり有能だ。

 

 

 

「おやおや、ルーシィの同居人じゃないか」

 

「ヒェ、アクエリアスさん…」

 

目の前に居る人魚を見て、思わず息を飲む。アクエリアスはルーシィの星霊の中でも最も乱暴で態度の悪い人だ。彼氏であるスコーピオンの前では猫を被ってるが、普段は毒を吐く、鞭で叩く、攻撃すれば味方も巻き込む、なんて問題児なのだ。

ルーシィの近くにいる為か、アミクも幾度か彼女の被害に遭ってきた。なのでちょっと彼女が怖いのである。

 

「お前も早く彼氏作りなよ。じゃなきゃルーシィみたいになっちゃうよ…もう手遅れか」

 

「どーゆー事よ」「失礼な人!」

 

 

 

 

「ねえ!私も1冊本貰っていい!?」

 

「ホマ、お土産にどうぞ…ぐー」

 

「寝たー!」

 

南十字座の星霊であるクルックス、通称クル爺には星霊界の本を譲って貰った。

 

見たことも無い本なので内容が気になる所だ。

 

 

 

 

「アミクさーん!!MO相変わらずナイスバディで…」

 

「出たエロ星霊…」

 

目をハートにしたタウロスに詰め寄られてアミクは少し引き気味だ。

 

「ちょっと飛び跳ねてくれませんか? ピョンピョンって」

 

「え?なんで?」

 

「あの星霊イヤ…」

 

「私もです」

 

レビィとウェンディ(貧乳組)のタウロスに対する株が下がった。

 

 

 

「うんめー!なんだこの食いモン!!」

 

「ほんとだー!おいしー!」

 

ナツがムシャムシャと美味しそうに料理を食べていたので、アミクも食べてみるとまぁ、ほっぺた落ちそうである。どんな料理なのだろう。

 

「カニのペスカトーレ、星屑バター添え」とキャンサー。

 

「そっちはハマルソースの子羊ステーキです」とアリエス…。

 

「へー…って、えええ…!?えええ…!?」

 

「ごめ”んなさい”!!」

 

なんで自分の同族(?)を料理として差し出しているのか。ニコニコ笑う2人が空恐ろしくなってきた。

 

 

 

 

「あ、どーも。執事さん」

 

「これは、ルーシィ様の同居人でいらっしゃるアミク様。ルーシィ様がお世話になっております」

 

「いえいえ、こちらこそ。天狼島では協力してくれてありがとう!」

 

「ルーシィ様の星霊としてなすべき事をしただけです。これからも何なりとご用事をお申し付けください」

 

「凄い、ザ・執事って感じ…」

 

カプリコーンに対するアミクの評価は「デキる執事」だった。

 

 

 

 

 

「私のこと覚えてるー?劇で一緒にナレーションしたこともあるよね!」

 

「歌が上手い星霊さん!…リル?リク?リラ?」

 

「それ!最後の!覚えてよ!」

 

「ごめんごめん」

 

テンション高めな琴座の星霊、リラ。彼女はアミクを見つけると真っ先に駆け寄ってきたのだ。

 

「また一緒に歌いたいな♪貴方とならもっと良い歌が歌える気がする!」

 

「本当!?私もリラと歌いたいって思ってたんだ!」

 

互いに音楽に通じる者同士で仲良くなった。

 

 

 

「プンプーン」

 

「プルーなの」

 

「そういやこれも星霊だったわね」

 

小犬座の星霊プルー。プルーはその容姿から、基本愛玩用として召喚されることが多いのだ。

 

「プーンプーン」「プンプン」「ププーン」

 

ただ…そのプルーっぽいのが滅茶苦茶沢山居た。

 

「プ、プルー地獄なのー!!」

 

そのプルーっぽい奴らが一気にマーチ達に群がって来た。ギュウギュウされてちょっと苦しい。

 

「「ニコラはたくさん居るものだよー」」

 

ジェミニがそう説明する。

 

「な、なるほどなの…『ニコラ』が総称ってこういうことなの」

 

「同じ星霊が複数居ることもあるのね」

 

「「黄道十二門は別だけどねー」」

 

 

 

アミク達も何匹ものニコラに纏わり付かれた。

 

「可愛いーーー!!此処は天国か!?」

 

いろんな個体のニコラが可愛い鳴き声を上げながらアミクにしがみ付いたり、膝に寝転んだりしている。とても愛らしくて蕩けそうだ。

 

『こんなにも星霊が…まだまだ私達の知らない星霊も居るかもね』

 

ニコラ達を始め、千差万別の星霊がいるのを見てそう呟くウル。

 

「それにしても…不思議な所だよね、此処」

 

「あたしも星霊界がこんなふうになってるなんて知らなかった…あたしのプルーどれだろ…」

 

ルーシィもアミクと同じくたくさんのプルーに集られていた。

 

 

星霊王はルーシィの言葉に小さく頷く。

 

「それは当然。いくら古き友といえど、此処に招いたのはそなた達が初めて」

 

「へー!今まで一度もなかったんだー!じゃあ私達は人類史上初めての星霊界入りだね!」

 

星霊王はルーシィ達の帰還を祝うために、本来なら星霊魔導士にとって重大な契約違反である「人間が星霊界に入り込む」事を許可したという事。

きっと、星霊王もそれをするくらい、ルーシィに好意を持っているのだ。光栄な事だ。

 

「それだけ、ルーシィが星霊達に愛されてる証拠だね!」

 

星霊魔導士にとって契約者と星霊の間の信頼は非常に重要だとルーシィは考えている。彼らとの信頼関係がなければ、それはただ、契約者が星霊を道具として利用しているに過ぎない。

星霊魔法はそういうものであってはならないのだ。もし、ずっとそのような考えで星霊魔法を使っていたら、いつかその星霊は応えてくれなくなる。かつてのエンジェルのように。

 

星霊も生きている。だから、何よりも彼らのことを気遣い、良き友人として接する。そして、必要な時にその友人の力を借りる。

 

星霊魔法とはそうあるべきだ、と思っている。ルーシィの母親もそうだったし、ルーシィ自身もそうしてきた。

 

その結果が…この光景なのだとしたら。

 

 

ルーシィの胸に、アミクのその言葉が暖かく染み込んだ。ルーシィは自分も母親も間違ってなかったのだ、と嬉しそうな笑みを見せたのだった。

 

 

 

リラが宴をさらに盛り上げようとしたのか、ハープを弾きながら歌い始めた。アミクもリラの隣で一緒に歌う。

 

リラとアミクの綺麗な歌声のハーモニーが響く中、ナツや星霊達は踊ったり、談笑したり、思い思いの時を過ごしていた。

 

 

 

ルーシィも歌を聴きながら、その光景を見る。

 

 

 

唐突に、過去の記憶が泡のように脳裏に浮かび上がってきた。

 

 

レイラとジュードと共に過ごした穏やかで、大切な家族の時間。

 

 

レイラの死去で涙が止まらなかったこと。その時からジュードが冷たくなった事。

 

 

成長し、家を出て妖精の尻尾(フェアリーテイル)でアミク達と出会った事。

 

 

幽鬼(ファントム)の件の後、家に戻ってジュードに決別を言い渡した事。

 

 

落ちぶれたジュードと再会し、彼の身勝手さに失望した事。

 

 

アカリファで心を入れ替えたジュードの想いを聞いた事。

 

 

天狼島から帰還し、ジュードを訪ねたら過労死していた事。

 

 

あれから毎年ルーシィの誕生日にプレゼントを贈ってきていた事。

 

 

そして、娘であるルーシィの事を愛している、と言ってくれた事。

 

 

ほとんどが、家族との思い出だった。それらが次から次へと思い出される。

 

 

 

自然と涙が流れた。

 

 

 

もう、自分には肉親は居ない。

 

 

 

でも、ルーシィには大切な友達が居る。

 

 

どんな時でも、自分を支えてくれた星霊。ルーシィを愛してくれる彼らが居るから、ルーシィも救われる。

 

 

今までも、きっとこれからも。

 

 

「ありがとう…」

 

 

だから、ルーシィは最大の感謝と。

 

 

「皆…大好き…!」

 

 

愛情を伝えた。

 

 

頰を伝う彼女の涙は、星霊界の輝きを反射して益々、綺麗に見えた。

 

 

「ニカッ」

 

 

愛嬌のある笑み。星霊王は何を言うでもなく、表情だけで応えた。

 

 

 

 

散々騒いで、全員満足した頃。ようやく宴もお開きになった。

アミク達も人間界に帰らねばならない。なので、アミク達は最初此処に来た場所に居た。

星霊王もルーシィの星霊達も総出で出迎えてくれる。

 

「ウム…存分に楽しんでしまった」

 

「こんな美味ェもん食った事ねーよ」

 

『こういう時、メイビスみたいに食べれたら、って思うよ…』

 

「食ったのか!?食ったのかお前ーーー!?」

 

エルザとグレイは満足げにしている。…ナツにはトラウマも植え付けてしまったようだが。

 

 

「本当にコレ、もらっていいの?」

 

「私、この服欲しいです!」

 

レビィは本を貰ってホクホク顔。ウェンディも着ている服が気に入ったらしい。

 

一方、ハッピーには1匹のニコラが名残惜しげに張り付いていた。

 

「変なプルーが離れないよォ~~」

 

「おっさんプルーなの」 

 

「あっちも妙に気が合っちゃって」

 

シャルルの視線の方向には、「苦労してんだね、アンタ」「アクエリアスさんこそ」と手を取り合い、意気投合しているアクエリアスとジュビアの姿が。

同じ「水」使い同士で気が合うらしい。

 

『エドラスとはまた違った世界を楽しめて良かったね』

 

『それもそうだね』

 

アミクはウルの言葉に、久しぶりにエドラスを思い出した。アレも別の世界だ。皆元気にしてるかな。

 

星霊王はルーシィを見下ろすと、厳かだが優しげな声で語りかけた。

 

「古き友よ、そなたには我々がついてイル」

 

「…うん!」

 

ルーシィは微笑んで頷いた。

 

「これからもよろしく頼むぜ」

 

「いつでも(メエ)達を呼んで下さい」

 

「またギルドに顔を出すよ」

 

「みなさん、ルーシィさんをこれからもよろしくお願いします!」

 

星霊達も、次々に言葉を投げかけてくれた。

 

「もちろん!ルーシィは大切な仲間だからね!」

 

アミクが代表するように答えると、ルーシィは嬉しそうにアミクの頭を撫でた。

 

なぜ撫でる。

 

 

「では、古き友に星の導きがあらん事を!!」

 

心強い言葉を残して、星霊王とバルゴを除く星霊達はその場から去っていった。

 

いつか、星霊王にもまた会える事を願う。

 

 

「本当にルーシィと星霊の絆って深いねー!」

 

これもルーシィの人柄あってのものだろう。アミクも、ルーシィの優しく、思いやりのある心が好きだ。星霊達も彼女に接していく内にその部分に触れ、ルーシィをどんどん好きになっていったのだ。

 

「皆最高の仲間だよ」

 

こんなにも星霊達に想われている事を改めて見せられ、ルーシィは心の中が温かくなった。

 

 

「さーて!!だいぶ遊んじまったし、帰ったらたっぷり修行しねーとな」

 

なんだかんだ、丸1日は星霊界にいた気がする。そこまで時間が経っていたようには感じなかったが、楽しい時というのはあっという間に過ぎるものだ。

 

「この3ヶ月で、もっと強くならないとね!他のギルドに負けないくらい!」

 

アミクは瞳の奥で闘志を燃やした。

 

剣咬の虎(セイバートゥース)を消し去るの!」「消しちゃうの!?」

 

マーチの過激な発言にびっくりするハッピー。

 

皆、気持ちを切り替えて早速修行のことで頭がいっぱいのようだ。

 

「そういえば1つ、言い忘れてた事が」

 

そんな彼らの気持ちに水を差すように、残っていたバルゴが口を開く。

 

「星霊界は人間界とは時間の流れが違うのです」

 

「そうなんだ!」

 

時間の流れも違うとは、人間界とは相違点が多い。

 

「まさかそれって…こっちでの1年が人間界での1日…みてーな?」

 

「夢のような修行ゾーンなのかっ!?」

 

ナツとグレイが「ボーナスステージ、見つけた!」という風に興奮する。

 

 

「いいえ」

 

 

無表情に。

 

 

ただただ無表情に。

 

 

バルゴは否定した。

 

 

「『逆』です」

 

「…逆?」

 

 

終わり良ければ全て良し、という言葉がある。

 

 

「星霊界で1日過ごすと」

 

 

そして、それは『逆』も存在する。

 

 

「人間界では────」

 

 

この場合、星霊達は良かれと思ってアミク達を星霊界に招待し、祝ってくれた。実際、アミク達は大いに楽しんだ。

 

 

だが…その後にアミク達に待ち受けていたのはそれらが萎えてしまうような『絶望』だった。

 

 

 

 

 

 

「『3ヶ月』経ってます」

 

 

「…ふぇ?」

 

 

 

 

 

 

アミク達は一列に並んで、人1人居ない浜辺で海を眺めていた。

 

 

いや、その瞳は何も写していない。ひたすら空虚、虚無だった。

 

 

 

「皆~!待ちくたびれたぜ!」

 

「大魔闘演武はもう5日後だぜ!! すげー修行してきたんだろーなァ!!」

 

未だに水着姿のジェットとドロイがやって来た。

 

期待に満ちた眩しい笑顔で。

 

 

 

…彼らにとっては3ヶ月ぶりの再会か。

 

 

 

 

アミク達の気持ちは一致していた。

 

 

これ以上ないほど。

 

 

 

『終わった』

 

 

 

誰がそう呟いたか。あるいは皆か。

 

 

アミク、ナツ、エルザ、グレイの4人は滑らかに倒れ、砂浜に突っ伏した。

 

 

熱くも冷たくもない砂の感触が、顔一面に広がる。

 

 

このままナマコになってしまいたい。

 

 

今度はウェンディが跪き、声を上げて泣き始めた。

 

 

 

 

そして、星霊に愛されすぎてしまった少女、ルーシィは。

 

 

 

「ヒゲーーーーー!!!時間返せーーーーー!!!」

 

 

 

もうちょっとタイミングを考えて欲しかった、と思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

前回、アミク達が酔っ払っていた頃。

 

 

「…どうしたのラクサス?そんなあらぬ方向を向いて」

 

「なんかスゲエ殺気込もってねえか!?」

 

「おい、ラクサスなんでそんなに放電している!?落ち着け!皆、ラクサスを止めろ!ラクサスがご乱心だ!!」

 

雷神衆は荒ぶるラクサスを宥めるのに苦労したと言う…。

 




今回は短めです。次回、魔女の罪。

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