妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回、アミクの配属先のチームが決まります…と言ってもすでに分かるよね?


選出メンバーと花咲く都・クロッカス

長かったようで短かった3ヶ月。一部にとっては本当に短くなってしまった者もいるが…。

修行を終えた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーはギルドに戻って来ていた。

 

アミク達も、無事に帰還…。

 

 

「うえ〜…」

 

 

ギルドの前で精魂尽き果てたように倒れこんでいるその姿は無事とは言えないかもしれないが、ともかく帰還。

 

 

「つ、着いたよ〜…」

 

『お疲れ様』

 

 

ウルの労いを聴きながら、ぐでーっと仰向けに倒れているアミクが弱々しくギルドを見上げた。あんまり久しぶりな感じがしない。

それもそうか。アミクの体感時間では、ギルドを出発してから約1週間にしかならないのだから。

 

「疲れたの〜」

 

「もう動きたくねえ…」

 

エルザ以外の他のメンバーもぐったりしている。第二魔法源(セカンドオリジン)の解放がめっちゃくちゃキツかったのだ。

…っていうか、なんで第二魔法源(セカンドオリジン)の解放に挑んでないジェットやドロイ達まで疲れてるのだろうか。

…エルザはもうちょっと疲れた様子を見せてもいいと思う。

 

(ジェラール達もアレだよね…せめて一声掛けてから行っても良かったのに…まぁ、あの状態で声掛けられても答える余裕はなかったか)

 

ジェラール達魔女の罪(クリムソルシエール)はアミク達が苦しんでいる間に「ギルドの性質上、一箇所に長居はできない」と去ってしまったのだ。あっさりと別れてしまい、寂しくなったがまた会えるだろう。

 

「お前ら、何グダーとしてやがる」

 

そんな声が聞こえてきたので、声の主の方を向く。

 

そこにはミラやリサーナ、エルフマン達という先に帰ってきていたメンバー達の姿があった。

 

「ああ、もう皆帰ってきてたんだ…」

 

「シャキッとしろ!それでこそ漢!」

 

相変わらず暑苦しいエルフマンは何だか以前よりも更に筋肉ダルマになったような…。

 

「エルフマン…随分筋肉付けたね…」

 

「私とミラ姉と一緒に山籠りして鍛えたのよ」

 

リサーナの説明に、エルフマンは誇らしげに腕を上げた。

 

「筋肉こそ漢のロマン!」

 

他の面子はどうだったのだろうか。

 

聞いてみるとまともに腕を上げたのはビスカ夫婦やマックスぐらいなもので、他は「苦手だった納豆を食べれるようになった」とかくだらないものだった。やる気あんのか。

 

「今ならアミク達にも勝てる!」

 

「へー、それは気になるね」

 

マックスが自信ありそうなので、後でちょっと一戦交えてみようか?

 

「皆ご苦労!」

 

そこに、1人の背の低い老人がやって来た。マスターであるマカロフだ。

 

「おじいちゃん!」

 

「それぞれ大魔闘演武に向けて頑張ったようじゃな」

 

(そ、そうでもない、かな…?)

 

思いっきり時間を無駄にしてしまったので、ちょっと気まずい。

 

「とりあえず、ギルドに集まってくれ」

 

 

 

 

「では、大魔闘演武に出場する代表メンバー5人を発表する」

 

ギルド内にマカロフの厳かな声が響いた。全員、固唾を飲んで彼の言葉を待つ。

 

一体誰が選ばれるのか。自分は選ばれるだろうか。メンバー中に少しの緊張が走る。

 

やがて、しばらく目を閉じていたマカロフが目を開き、口を開いた。

 

「ナツ!」

 

「よっしゃあ!!」

 

まずはギルドでも際立つ問題児。ナツ・ドラグニル。

 

「グレイ!」

 

「当然」

 

『流石!』

 

そんなナツとは犬猿の仲のグレイ・フルバスター。

 

「エルザ!」

 

「お任せを」

 

S級魔導士で妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士、エルザ・スカーレット。

 

「ま、順当なところね」

 

「残りの2枠の内1人はアミクだとして…最後の1人は誰になるんだろ」

 

「そこで選ばれてこそ漢!」

 

みんなが納得の人選。アミクもその中に選ばれるのは確実だと思っているようだった。

 

 

「後2人は…」

 

誰かがゴクリと唾を飲んだ気がした。

 

 

「ルーシィとウェンディじゃ!」

 

『ええええええ!!!?』

 

これにはギルドのほぼ全員が驚いた。てっきり、アミクが選ばれるのかと思ったのに、彼女ではなくルーシィとウェンディが選ばれたのが意外すぎたのだ。

 

「アミクは入れねえのか!?」

 

「マジかよ…」

 

「ぐうう…無念!」

 

「そう来たか…」

 

メンバー達の反応は残念そうだったり不思議そうだったりしている。

 

ナツ達も意外そうな表情だ。彼らもアミクは選ばれるものだと思っていたようだ。

 

誰よりも、選ばれた本人達であるルーシィとウェンディが一番驚いていた。ウェンディは慌ててマカロフに抗議する。

 

「無理ですよ!私よりもアミクさんの方が適任です!それにラクサスさんやガジルさんも居るでしょ!?」

 

「だって、まだ帰ってこないんだもん」

 

ウェンディはアミクよりも実力が劣っていると自覚している。そんな自分が彼女を差し置いて大魔闘演武の出場メンバーに選ばれるなんて…。

 

アミクは困り顔のウェンディの肩に手を置いた。

 

「大丈夫!ウェンディだって十分強いよ!ウェンディなら皆を支えられる心強い存在になるはず。私が保証するよ」

 

「アミクさん…」

 

選ばれなかった本人は特に落ち込むでもなく、真っ直ぐにウェンディの出場を祝福してくれている。その心持ちが眩しい。

ウェンディは未だに納得がいかないのか曇った表情のままだったが、アミクがもう一度「ウェンディならできる!」と背中を押した。

 

「ウェンディもせっかくだから思いっきり暴れちゃって!」

 

「…はい!」

 

やっとウェンディは笑みを見せてくれた。

 

「マスターは個々の力より、チーム力で判断したんだ。アミクが居ないのは残念だが、選ばれたからにはこの5人で全力でやろう」

 

エルザがルーシィに意気込みを伝えると、ルーシィは「うん、そうだね!」と同意した。

 

「はい!頑張らなきゃ」

 

ウェンディも拳を握って大魔闘演武へのやる気を見せる。

 

 

「出場メンバーに選ばれなかったのは残念だけど、私も応援するから!応援なら誰にも負けない!」

 

MVPで応援賞があったりしないのだろうか。どこにも負けない自信があるのに。

 

「ま、今回はオレ達の戦いぶりを見てろよ」

 

「ぜってーに勝ってやるからな!」

 

ナツ達はアミクに向かって不敵に笑って見せた。

 

 

「ガチで挑むならギルダーツとラクサスが欲しかったなぁ…と思ったり」

 

「口に出てるよ、おじいちゃん!?」

 

本音が漏れてますぜ。まぁ、実際彼らがいれば一万人力だったはずだ。ギルダーツはこんな時に限って旅に出ちゃったし、ラクサスはまだ帰って来てない。

 

仕方ないか。

 

 

エルザがメンバー達の方を振り向いて声を張り上げた。

 

 

「皆!この大魔闘演武は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名誉を挽回する絶好のチャンスだ。

 フィオーレ最強とされている剣咬の虎(セイバートゥース)を倒し、我ら妖精の尻尾(フェアリーテイル)がフィオーレ一のギルドになるぞ!」

 

『おおお―――――――!!!』

 

大きな目標を掲げ、アミク達妖精の尻尾(フェアリーテイル)は心を一つにした。アミク達のボルテージもぐんぐん上がっていく。

 

 

「燃えてきたあ!!」

 

 

ナツの決め台詞が、皆の火の点いた心に強く響くのだった。

 

 

 

 

 

 

「アミク、話がある」

 

解散して大魔闘演武の会場であるクロッカスへ行く準備を始めようとした時、マカロフがこっそりアミクに声を掛けてきた。

 

何事だろう。

 

準備のためにメンバーがギルドを出て行く中、アミクはマーチと共にギルドに残った。

 

他に残っているのは、呼び止めた本人であるマカロフ。そしてミラだった。

 

「…それで、話って?マーチが居ても大丈夫?」

 

「…ま、構わんじゃろ。ただこの話はナツ達には内緒じゃ。ジュビアにも後で告げるが、お主には先に伝えておく」

 

「ジュビア?」

 

首をかしげるアミクにマカロフは悪戯っぽい笑みを浮かべて、彼女に告げた。

 

 

「お主にも大魔闘演武に参加してもらう」

 

「…ん?」

 

アミクは軽く混乱した。もうすでに選出メンバーは決まったはずでは?

 

それとも、補欠的な枠があるのだろうか。

 

アミクの困惑を悟ったのか、ミラが朗らかに説明してくれる。

 

「実はね、今回の大魔闘演武から1つのギルドにつき2つのチームを出場させることができるみたいなの」

 

ルール改正によってそんなことが可能になったらしい。多くの魔導士が参加できるようにという思惑だろうか。

 

「じゃあ、アミクはそのもう1つのチームに組み込まれるってことなの?」

 

「そうじゃ。メンバーとしてはお主とジュビア、ミラジェーンとガジル、そしてラクサスを考えておる」

 

なるほど、ラクサスやガジルはそっちのチームか。これはこれで中々強力そうなチームだ。

 

「ナツ達のチームをAチーム。お主達のチームをBチームとする」

 

「…そっか。私、参加できるんだ」

 

「まぁ、ラクサス達がまだ帰ってきてないから正式に決まったわけじゃないがの」

 

自分の名前が呼ばれなかった時。内心では凄く落ち込んでいたが、マカロフに何か考えがあるのだろう、とそれを表に出さずにいた。

 

だが、こんな形でも大魔闘演武に出場できて凄く嬉しい。アミクが感激に身を震わせていると、マカロフは気まずそうに話し出した。

 

「お主とウェンディは似た系統の魔法を使う。だから、両チームのバランスを取るため本来はAチームにアミクを、Bチームにウェンディを入れるつもりだったのじゃが…Bチームはあのメンツじゃろ?」

 

「ああ…なるほどね」

 

ウェンディはミラやジュビアはともかく、ガジル…もいいとしてラクサスとは知り合って間もない。あのチームに居るとウェンディの肩身が狭いかもしれない、と危惧したわけだ。

 

「それに対してアミクはラクサスとも長い付き合いじゃろ。お主ならあのチームに居ても問題ないと判断した」

 

「ウェンディも馴染みの人達と居た方が良いしね」

 

ミラもマカロフの意見に賛成のようだ。まぁ、そういうことならなんの問題ない。

 

「でもそれだけじゃないのよね」

 

生暖かい視線でニコニコするミラにマカロフが「これ!余計なこと言うでない!」と一喝する。

 

が、ミラは構わずに話した。

 

「ラクサスがね「もしチームを組むことがあったら自分とアミクを一緒にしろ」って頼んできたのよ」

 

「あやつのことは関係ないわい!」

 

ムスッとなってそっぽを向くマカロフだが、その顔はどこか照れ臭そうだ。久しぶりに孫に頼み事されて嬉しかったのだろうか。

 

「ラクサスが?なの」

 

「きっと私の魔法が有能だからだろうね。ラクサスがわざわざ私を指名する理由がそれぐらいしかないもん」

 

そう言い切るアミクをミラ達が微妙そうな表情で見つめた。全員、心の中で「ラクサス、大変そうだな…」と思っていたとか。

 

「そう言うことならオッケー!やってみるよ!」

 

「よろしくね、アミク」

 

ミラもブランクがあるとは言え、S級魔導士。心強い戦力になるであろう。ラクサスは言うまでもなく、ガジルだってそうだ。ジュビアも第二魔法源(セカンドオリジン)を解放したので十分強力のはずだ。

 

「良かったなの、アミク」

 

「うん!燃えてきたよ!」

 

アミクの中に灯った炎は燃料を得たかのようにさらに燃え上がった。

 

やる気も気力も抜群。自分も大魔闘演武で暴れてやる。

 

「…でも、秘密にする必要ってあるの?」

 

「驚かせたいからな、ガッハッハッハ!!」

 

「人が悪いなぁ…」

 

マカロフは愉快そうに笑った。

 

こんな茶目っ気のあるマスターも大魔闘演武を楽しみにしてるようだった。

 

 

 

そんなこんなで、アミクはナツ達Aチームと一緒にクロッカスに向かった。

なぜ、表向き不参加であるアミクがナツ達について行ったのかというと、よく一緒にいるアミクがナツ達と一緒じゃないのは少し不自然なのでは?とマカロフが思ったからだ。

そこまで徹底するとは、よほどBチームの存在を秘匿したいらしい。アミク自身彼らとは行動を共にしたかったので願ったり叶ったりではあるが。

 

本当は同じチームになるはずのラクサスやガジルとも顔合わせをしておきたかったのだが、結局帰ってこなかったのでしょうがない。まぁ、大魔闘演武開催までには間に合うらしいが…。

 

 

 

で、クロッカスになんとか着いたわけだが…。

 

「オ…オイ…まだ調子悪ィぞ…」

 

「あの第二魔法源(セカンドオリジン)を目覚めさせるとかいう魔法…本当に大丈夫だったのか?」

 

「でも魔力は上がってる気がする。まだ体の節々が痛むけど…」

 

「うぇ、しんどすぎて動きたくない…」

 

「バタンキューなの…」

 

未だにウルティアの魔法の副作用が響いてるのと、アミクやナツの場合は酔いもあってエルザ以外がグロッキー状態だ。

 

「まったく情けないぞ、お前達」

 

「疲れた素振りすら見せないエルザは何なんですかね!?」

 

「きっと元から第二魔法源(セカンドオリジン)があったんだよ」

 

「あり得そうで怖い…」

 

ほんと規格外だな、この人。

 

「それにしても、こんなデケー街初めて来たな」

 

「あい」

 

ナツが街を見回す。マグノリアに比べて人通りが多く、活気もある。更に建物や店も豊富だ。さすがフィオーレ王国の首都だ。

 

「私もです」

 

「私は一度だけ来た事あるけど…全然慣れないや」

 

「なの。やっぱり賑やかなの」

 

仕事で一度だけ此処に出向いた経験はあるが、やっぱり圧倒される。

 

 

それにしても此処まで来るのに随分時間がかかってしまった。アミク達の状態が悪かったので進行速度も遅めになってしまったのだ。

 

「やっと来たか、お前達」

 

だから、後から出発したはずのマカロフ達が先に到着してるのもおかしくはなかった。

 

「おじいちゃん」

 

「参加手続きは済ませてきたぞ。かはははっ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力、見せてくれるわい」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々を引き連れ、肩にアスカを乗せたマカロフは豪快に笑った。

 

すると、彼の言葉に周りの人達が「おい!妖精の尻尾(フェアリーテイル)だって」と反応する。

 

「あいつらが?」

 

「万年最下位の弱小ギルド」

 

「ぷくく」

 

ただ、好意的なものではなかった。それは7年間で落ちぶれてしまったかつての『最強』への嘲笑。

 

当然、ナツが激高する。

 

「誰だ、今笑ったの!!」

 

「ナツ、落ち着いて」

 

ナツを宥めるアミクだが、そんな彼女の表情もムッとしている。自分達のギルドを笑われて気分を害さないはずがない。

 

「どーせ今年も最下位だろ?」

 

「優勝は剣咬の虎(セイバートゥース)で決まりさー」

 

「「「あははははっ!」」」

 

「…それはどうかな?」

 

ナツが「ぬうう…!!」と怒りを堪えている側で、アミクは不敵に笑って見せた。周りの人々はその余裕そうな表情に言葉を詰まらせる。

 

「今年の妖精の尻尾(フェアリーテイル)は一味違うからね!」

 

アミクが断言すると、バカにして来た人達は面白くなさそうに去っていった。

 

「…よく言った。まぁ、笑いたい奴には笑わせておけ」

 

マカロフは特に気にも留めてないようだった。その懐の深さは人生の経験を積んできた証が窺える。

 

「じゃ、遠慮なく。ぷくく」

 

「あーっはっはっはっは!無様なの」

 

「「俺らを見て笑うなよ!!」」

 

なぜか仲間が仲間を笑っていた。

 

マカロフは拳を握って力強く言い放つ。

 

 

「よいか?3000万ジュ…コホン──フィオーレ一のギルドを目指す為、全力を出すんじゃ。このままではワシらの命を救ってくれた初代に顔向けできん!!」

 

「本音本音」

 

金の亡者め。

 

だが、彼がの言葉はこれから出場するアミク達への発破になった。

 

「当然だよ、おじいちゃん!」

 

アミクもやる気満々の笑顔で応えて見せたのだった。

 

 

 

 

 

 

「何でアミクが言うんだ?」

 

「き、気分だよ気分」

 

 




クロッカスに入ったばかりですが、とりあえず今日はここまで。次回はいつになるかわかりません。

Bチームの入る理由、これで納得できるかなぁ?次回こそスティングとローグに会います。

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