妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

136 / 202
競技が始まるよー!意外と長くなった。コンパクトに済ませたと思ったのになぁ…。


隠密(ヒドゥン)

最初の競技は隠密(ヒドゥン)。その名の通り『隠れる』ことが重要となるであろう。

 

「さて、記念すべき最初の競技…誰が出る?」

 

「そりゃあ、隠密行動が得意な奴だろ」

 

「…一応私は得意な方だと自負するけど…」

 

音を食べるアミクは自分の足音や物音を食べることで隠密行動を可能にしているのだが…。

 

「まぁ、まずは様子を見てみましょう」

 

ミラの提案に従って他のギルドがどう出るか見てみることにする。

 

四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)からはイェーガーという男。

人魚の踵(マーメイドヒール)からはベスというそばかすの少女。

問題の大鴉の尻尾(レイブンテイル)からはナル…ナル…ナルプリン?とかいうケツアゴのデカイ男。

青い天馬(ブルーペガサス)はイブ。剣咬の虎(セイバートゥース)は気取った言い方で詩的な表現を述べる、目元を仮面で隠したルーファス・ロア。

 

ただ、流石人気のギルドだけあってルーファスの名が呼ばれると観客から黄色い歓声が轟く。

 

「うわあ…もぐもぐ…こんなに人気なんだね…ごくん」

 

「テメェ、魔力補給してんじゃねーよ」

 

ガジルが文句を言っていると、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の人選も決まったようだ。なんと、「初めから飛ばしていく」とリオンが名乗り出たのだ。

 

「ほう、だったらオレが出よう。この大会、どんなモンか見させてもらうぜ」

 

『お前の力、見せてやれ』

 

対抗心からか妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチームからはグレイが出てきた。あれ、そうなると…。

 

「あーん♡グレイ様が出るならジュビアも~!!」

 

「やっぱり…」

 

ジュビアが反論を許す間もなくウキウキと出て行ってしまった。まぁ、最初の競技は様子見も兼ねてジュビアに任せよう。

 

「おい!わざと負けたらただじゃ置かねえぞ!」

 

「さすがにジュビアもそんなことはしない…よね?」

 

「オレに聞くなよ。オレはアイツの事はよく知らねぇんだ…グレイ信者なのは分かるがな」

 

ラクサスとジュビアはあまり接点ないしね。

 

…不安だ。目をハートにしてグレイを見つめるジュビアを見てると不安しか感じない。

 

『以上!8チームより参加者が決定しました!そしてオープニングゲーム『隠密(ヒドゥン)』。そのルールとは…!』

 

選手が出揃うと、あの予選でお世話になったカボチャの奴がいつ間にか出現。

 

「各チーム、隠密(ヒドゥン)の参加者は前へ」

 

彼が選手達にそう伝えると、グレイは薄っすらと笑みを浮かべた。自分の力を発揮する時だ、とワクワクしている自分が居る。

 

「行って来るぜ」

 

「頑張ってー!」

 

「絶対負けんなよ!!特にアミクのチーム!!それと剣咬の虎(セイバートゥース)大鴉の尻尾(レイブンテイル)!!…それと」

 

「漢なら勝ってこいグレイ!!」

 

仲間達の激励を背に、前へと出て行くグレイ。

 

「ジュビア!頑張ってね!」

 

「任せて下さい!ジュビアにも負けられない理由があるんです!」

 

アミクの声援に、ジュビアは軽く手を挙げて応えた。

 

…負けられない理由?

 

 

『いよいよ始まりますね。果たして隠密(ヒドゥン)とはどんな競技なのか。ヤジマさん、注目の選手は居ますか?』

 

『んー…本命はルーファス君だろうけど、ワスはグレイ君に注目したいね』

 

『本日のゲスト!青い天馬(ブルーペガサス)のジェニーさんは?』

 

『もちろんウチのイヴ君よ。強いんだから』

 

 

実況席の会話が響く中、8人の選手達がカボチャの前に集まった。

 

「グレイ様、申し訳ありませんが負ける気はないですよ」

 

「当たり前だ、全力で来い」

 

珍しくジュビアがグレイに対して強気だ。やっぱり、負けられない理由とやらに関係してるのだろうか。

 

「悪いが、オレも全力でやらせてもらう──ジュビアの為に!!」

 

リオンはほっとけ。おいジュビアよ。なんで赤くなる。

 

「つーか、予選の時から気になってたんだが…お前なに?」

 

グレイがカボチャを見下ろして質問した。

 

それはアミクも気になっていた。マスコットか何かなのだろうか。この場に居るということは主催者側ではあるだろうが。

 

「み、み、見ての通り~、カボチャですぅ~」

 

「何でちょっと動揺してるの…?」

 

何かとんでもない秘密でもあるのか?

 

 

「あれ?質問したオレが悪いのか?」

 

「ジュビアもカボチャに見えますよ」

 

「いや、だから見た目はカボチャなんだが、中身は…」

 

グレイが尚もカボチャを見つめていると、イブが弁護するように口を開く。

 

「毎年の事だからね、あまり気にしてなかったけど」

 

「たぶん主催者側の役員だと思うのー」

 

人魚の踵(マーメイドヒール)のベスも援護に回った。そして、2人はキリッとした顔つきになると。

 

「「キャラ作り、ご苦労さまです」」

 

謎の敬意を払った。良い人達だな。

 

「ノンノン、楽しんでやってるからいいんだカボー」

 

「キャラが濃くなった…」

 

どういう設定なのか…ちなみに、あのカボチャの名前はマトーくんと言うらしい。大魔闘(・・)演武から取ったのだろうか。

 

そこで、水を差すように前に出て来た人物が居た。大鴉の尻尾(レイブンテイル)の…ナルなんとかだ。(ナルプディングです)

 

「ちょっと待って下さいや。これから始まる競技…どんなモンか知りやしませんがね、いいや…今後全ての競技に関してですがね、ど―――う考えても2人居る妖精さんが有利じゃありませんかねぇ」

 

早速か。

 

いちゃもんを付けてきたナルなんとかをグレイとジュビアは睨みつける。だが、彼の言っていることはあながち的外れでもない。

ルールとはいえ、同じギルドのチームが居るのは強力なアドバンテージなのだ。

 

「仕方ありませんよ、決勝に同じギルドが2チーム残るなんて凄い事なんですから。カ…カボ」

 

ただ、やはりルールはルール。マトーくんは取り合わなかった。更に

 

「いいのではないかな。私の記憶が(うた)っているのだ。必ずしも2人居る事が有利ともいえない…と」

 

剣咬の虎(セイバートゥース)のルーファスが擁護…?してくれたのだ。

彼に続いて他のギルドも「構わない」と言ってくれたので、ナルなんとかは舌打ちして渋々引き下がった。

 

 

「さすがだねー、それが王者の余裕ってヤツかい」

 

(はわわ…そんな嫌味っぽく言わなくても…)

 

せっかく擁護してくれた人に向かって何て言い草だ。アミクがハラハラしながら見守っていると。

 

「仲間は君にとっても弱点になりうる。人質・脅迫・情報漏洩、他にもいくつかの不利的状況を構築できるのだよ。記憶しておきたまえ」

 

冷静に返すルーファスにグレイも「忘れてなかったらな」と笑みを浮かべた。

 

 

…ルーファスもちょっと腹立つ言い方だが、余裕を崩さない姿勢を保ちながらも冷静な所は、さすが最強のギルドだと思わされる。

 

(でも、仲間の事をそんな風に思っているみたいなのは頂けないな)

 

彼の言う事も事実ではあるのだが、仲間は仲間だ。弱点なんて言い方はしないでほしい。

 

「フィールドオープン!!」

 

マトーくんが叫ぶと、突然会場のあちこちから建物が出現。

 

それらはどんどん構築され、会場に町を作るように並んでいく。

 

(凄い…!)

 

魔法で町を作りだすなんて、半端ではない魔力と魔法技術。

 

「わあ…!競技場の中に町ができてく!」

 

「こんなの初めて見るの!」

 

「こりゃあたまげたわい」

 

マーチ達観客も驚いているようだった。

 

 

(街並みを具現だと…一体どれほどの魔力…)

 

そして…マカロフの手引きによりこっそり観客に紛れ込んでいたジェラールも目を見張っていた。彼は数日前にマカロフに接触し、事情を伝えた。すると、マカロフは快く協力してくれ、会場に侵入することができたのだ。

 

(やはり、謎の魔力が関係しているのか…注視する必要がありそうだ)

 

 

 

街並みばかりに注目していて選手の方を忘れていた。慌ててグレイ達の方を見ると、彼らの姿は既に街並みに隠れて見えなくなってしまっていた。

 

 

「この中でかくれんぼするのかな?…ううん、中の様子が見えないよ」

 

アミクがピョンピョンと跳んで中の様子を見ようとしていると、目の前に大きな映像が現れた。

 

『会場の皆さんは、街の中の様子を魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)にてお楽しみ下さい』

 

「お!気が利くぅ」

 

町を囲むようにいくつもの映像が現れ、観客に見せてくれている。映像を見てみると、グレイやジュビアが周りを見回している様子が見えた。

 

『参加している8名は、互いの様子を知る事ができません』

 

どうやら、彼らは近くには居ないらしい。互いに離れた場所に飛ばされたようだ。

 

 

隠密(ヒドゥン)のルールは簡単。互いが鬼であり追われる側なのです。この街の中で互いを見つけ、どんな魔法でもかまいません、一撃与える。ダメージの有無を問わず、攻撃を与えた側が1P獲得です』

 

「…これ、私が出た方が有利じゃなかったかな」

 

音で相手の居場所を察知できる分、アミクの方が向いてそうだ。アミクが思わず口に出すと、ラクサス達全員が頷いた。

 

その時、町中のあちこちに光が溢れる。

 

そして。

 

 

「うわ、同じ人がいっぱい出てきた!」

 

競技に参加している8人の選手達と全く同じ姿をしたコピーが大量に現れたのだ。

 

 

「な、なるほどね…こうなったら耳が良くても特定は難しそう…」

 

「呑気に耳澄ましていたら狙われるだろうしな」

 

物音を聞きつけた所で本物を見分けられなかったら意味がない。

 

『これは皆さんのコピーです。間違えてコピーへ攻撃をしてしまった場合、1Pの減点となります』

 

「攻撃する際もリスクがあるのね。考えられてるわね」

 

ミラが感心したように言った。

 

『さあ!!消えよ静寂の中に!!闇夜に潜む黒猫が如く!!隠密(ヒドゥン)──開始ィ!!!』

 

「黒猫ねぇ…」

 

ジャ――――ンと銅鑼が叩かれる。

 

いよいよ競技開始だ。

 

「ジュビア~、グレイ~頑張って~!」

 

さて、彼らはどう動くのか、と映像を見ていると。早速ジュビアが動いた。

 

『グ、グレイ様がいっぱぁい♡これだけ居るんだから1人くらいジュビアが貰っても…グレイ様~ん♡』

 

「うわー…こんな時でもグレイラブ姿勢は崩さないんだね…」

 

ジュビアがグレイのコピーを抱きしめたのだ。ある意味尊敬するわ。

 

その時、ブッブー!と音が鳴り響き、ジュビアの身体が光り出した。

 

「きゃあ!」

 

直後、彼女の姿は消え、別の場所に転移される。

 

 

『おーっと!ジュビアがコピーへの攻撃で減点1です』

 

「今の攻撃判定にされちゃうんだ!?」

 

『この場合、10秒後に別のエリアからリスタートとなります。また他の魔導士にやられてしまった場合も1P減点され、10秒後に別エリアにてリスタートです』

 

ジュビアの得点は-1になってしまった。

 

「早速やらかしたね…」

 

「あのバカ」

 

「これはちょっとジュビアには不利かもね」

 

「こうと分かってりゃ、オレかアミクが出たのに」

 

今更後悔しても遅い。ジュビアを信じるしかあるまい。

 

『制限時間内であればリスタートは何度でも可能です。制限時間は30分、1番得点を稼いだチームが1位です』

 

ジュビアは他の人より出遅れる形になってしまったが、ここからどうする?

 

アミクは競技をワクワクしながら見守った。

 

 

 

しかし、そのワクワクは長くは続かない。

グレイがナル…なんとかの罠に嵌り、減点されてしまったのだ。

 

「コピーを利用して…悔しいけどやるね」

 

自分のコピーを自分の前に出すことで、グレイに攻撃させて減点させたのだ。

 

 

別の場所に転移されたグレイだが、またナルなんとかに見つかり不意打ちされグレイの得点は-2。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を狙ってるよ!」

 

「あの野郎…」

 

ガジルが腹立たしそうに釘を噛んだ。それ美味しいの?

 

『クソ!ねちっこい奴だ…』

 

ウルの忌々しそうな声がアミクの耳に届く。

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だと匂いを嗅げるし、有利に立てるとは思うけど…」

 

相手の魔力を探るという手もあるが、それでも特定は難しい。

 

「…そこまでしてウチを潰したいみたいだね」

 

アミクは大鴉の尻尾(レイブンテイル)の他の選手たちが控えている場所を見上げた。

すると、長い赤髪を三つ編みにしている少女と目が合う。

 

「…今度は緑髪が見てくる」

 

ねっとりと正気ではなさそうな目つきでこっちを見据えてくる少女────フレア。

 

(怖っ!)

 

アレ、付き合ったらヤンデレになるヤツだ。

 

「緑髪ぅ」

 

怖い怖い、そんな目で見ないで!

 

「よせと言っただろう、フレア」

 

尚も見詰めてくるフレアをアレクセイが諌めた。

 

(ウェンディの事といい、徹底的に妖精の尻尾(フェアリーテイル)を目の敵にしている…私も気を付けないと)

「グレイー!そんな奴に負けるなのー!」

 

マーチもハッピーと共に応援する。

 

 

そうしている内にも競技は動いていく。

 

ベスがグレイを狙うがそれは回避され、逆にイェーガーに攻撃される。と思ったらイェーガーもリオンにやられてしまった。

 

そこにジュビアがパンチラしながらリオンにドロップキック。リオンは「眼福…」と呟いて転移していった。アホ。

 

『パンチラ攻撃など、やるじゃないかジュビア』

 

(意図したものではないと思うよ…)

 

ウルの感心ポイントはそこかい。

 

ここでようやくジュビアとグレイが対峙。

 

「オイオイ、手助けは無用だぜ」

 

グレイが言うと、ジュビアがグレイに啖呵を切った。

 

「分かってます。ジュビアはあなたに勝ちます。マスターと約束したから」

 

「じいさんと約束だぁ?」

 

「はい」

 

 

なんと、彼女…というかアミクを除くBチームはマカロフから「勝ったチームがもう一方のチームを1日好きにできる」と言われたらしい。

つまり、負けた方は罰ゲーム…って。

 

 

「…私聞いてないよ、そんなの!!?」

 

「そういや、言うの忘れてたな」

 

チーム内の情報共有はちゃんとしましょうよ!?

 

『ほう、それは面白そうだな』

 

他人事だと思って面白がるウル。

 

『ふざけんなぁっ!!?オイ!!じーさん!!聞いてねえぞ!!そのローカルルール、オレ達のチームにも適用されんだろうな!!』

 

映像いっぱいにグレイの怒り顔がドアップで映し出された。

 

「もちろん、私にもだよね!!?」

 

「も…もちろん」

 

マカロフは冷や汗を流して頷いた。

 

 

 

 

…ちなみに、この話が出た時ラクサスは内心「やっぱアミクをAチームにするべきだったか」と後悔したとか。

 

 

その後、今度はジュビアとグレイをまとめて狙ってきたナルプディングによって2人は引き離された。

 

 

と、思うとイブの魔法により町中に雪が降る。

 

 

「寒そー。あれで本物を見分けるんだね」

 

息を吐けば白くなり、寒ければ体が震える。有効な手段だ。

 

だが、そこに寒さに耐性のある魔導士が居れば話は別だ。

 

ポイントを連続で取っていたイブが、氷の造形魔導士のリオンに襲われた。

 

「悪いがオレに寒さは効かんよ」

 

「だよね」

 

試合は動く動く。しかし、ナルプディングは妖精の尻尾(フェアリーテイル)を…特にグレイをずっと集中狙いしていた。

 

『見いつけたっ』

 

『チクショウ!!このアゴ!!オレばかり狙いやがって!!』

 

『しつこいぞ!!』

 

 

「あのナルプリンとか言う人、汚ない!」

 

「ホント…酷いわね」

 

特にあのアゴがムカつく。

 

『それにしても剣咬の虎(セイバートゥース)のルーファスがまったく動きませんね。未だに誰も倒さず、倒されてもいません』

 

「そういえば…どこに居るんだろ?」

 

さっきからコピーではなく本物のルーファスの姿が見えない。

 

『この競技はジミすぎる』

 

その声で映像に注目したアミク達は…ド肝を抜かれることになった。

 

 

『こ…これは!?』

 

 

街中で一番高い建物。その頂上で悠然と立つ男、ルーファス。

 

 

「嘘っ!?あんな目立つ所にいたらすぐに見つかっちゃうよ!」

 

「アイツ…余裕ぶっこいてやがる」

 

いくらなんでも舐めプすぎなのでは。

 

『私は憶えているのだ、1人1人の鼓動・足音・魔力の質』

 

いや…絶対に何か仕掛けてくる。

 

「グレイ、ジュビア!気を付けて!!」

 

届いてるかは分からないが、2人に注意する。

 

『憶えている、憶えているのだ』

 

瞬間、彼から膨大な魔力を感じた。ルーファスが頭に指を当てると、彼の後ろに魔法陣が展開される。

 

記憶造形(メモリーメイク)…』

 

「メイク…造形魔法!?」

 

造形魔法は「○○メイク」と唱えるのが主流なので、すぐに分かった。でもメモリーって…

 

「記憶の造形魔法…?」

 

「なんだそりゃ」

 

ガジルはピンと来ないようだ。アミクもどのようなものかは想像が付きにくい。

 

 

突如、空が暗くなった。

 

 

すると、選手達全員────コピーではない本物の身体が輝き出す。

 

 

アミクはそれを見て思わず叫んだ。

 

「あれじゃ本物が丸分かりだよ!」

 

これも記憶の造形魔法の範疇か?一体どんな仕組みだ。

 

動揺している選手達を嘲るように、ルーファスは両腕を広げた。

 

「『星降ル夜ニ』!」

 

彼が纏っていた光が解き放たれ、流星のように全ての選手達に降り注いだ。

 

 

グレイ達はなすすべもなくそれを喰らってしまう。

 

 

だが…。

 

 

「避けたっ!?」

 

唯一、ナルプディングだけはヒラリと躱してルーファスに反撃を仕掛けに行ったのだ。一人狙いをするなど卑怯で姑息なヤツだとは思っていたが、意外と実力も伴っていたようだ。

 

だが、彼の反撃は失敗し結局ルーファスに攻撃されてしまった。

 

暗かった空が元に戻る。

 

 

『ぜ…全滅!!一瞬で首位に立った!!これがルーファス!!これが剣咬の虎(セイバートゥース)!!!』

 

 

チャパティも観客も大盛り上がり。あっという間に状況をひっくり返してしまった。

 

 

(これは…強い…)

 

魔法もさることながら、判断力や策の施し方も目を見張るものがある。

 

(グレイ…ジュビア…)

 

もう時間もない。どうにかして少しでもポイントを稼がねば…。

 

『グレイ…あのルーファスとか言う魔導士、とんでもないな』

 

ウルもルーファスの力量を推し量り、険しい声を出した。

 

「造形魔法だぁ?ふざけやがって隠密ってルールを守りやがれ!!」

 

激情に駆られたグレイが飛び上がってルーファスに向かう…だが、それをナルプディングが蹴り落とした。

 

「姿を晒している人よりもグレイを!?なんて執念…」

 

アミクは人知れず拳を握りしめた。

 

 

 

 

そこで、時間切れ。

 

『ここで終了―――!!』

 

映像が消え、町も空中に溶けるように消えていく。

 

『順位はこのようになりました!!』

 

1位は当然剣咬の虎(セイバートゥース)

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は…Aチームが8位。つまり最下位だ。Bチーム1個上の7位。芳しくない。

 

 

「…2人共、ナイスガッツだったよ!!」

 

気休めになるか分からないが、そう声を掛けた。

 

 

『これは第一競技ですので順位がそのまま暫定総合順位となります。やはり予想通り1位は剣咬の虎(セイバートゥース)でしたね~!』

 

『見事だったねぇ』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は2チームとも善戦したのですが、残念な出だしです』

 

『次に期待スような』

 

トボトボと浮かない表情で歩いてくるジュビアとグレイ。

 

信じられない事に、そんな彼らに追い打ちを掛けるように観客から罵声が飛んできたのだ。

 

「やっぱ弱ェじゃん妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

「万年最下位――――っ!!」

 

「もうお前らの時代は終わってるよ―――っ!!」

 

 

アミクは奥歯をギリッと噛みしめた。

 

 

「うるさい…」

 

強く拳を握り、観客席を振り返る。

 

 

口汚く妖精の尻尾(フェアリーテイル)を罵倒する観客達は酷く醜かった。

 

 

「うるさいっ!!」

 

 

アミクの怒鳴り声に観客達は少し怖じ気付いたようだったが、すぐに嫌らしい笑みに変わった。

 

「うーわっ、キレたぜ!」

 

「綺麗な顔でも怒ると怖いね~!」

 

(凄く、耳障り…!!)

 

アミクは大きく息を吸い込んだ。掃除機のように。観客の嘲笑を全て飲み込むように。グレイ達の耳に彼らを傷つける言葉が入らないように。

 

『…!…!?』

 

『────!!』

 

観客達の声も、実況の声も何もかも聞こえなくなった。

 

 

だが、怒るアミクの頭をラクサスがチョップした。思わず頭を抑えて『音』を食べるのを止めてしまう。

 

「ひゃん!?」

 

「もういい。笑いてぇ奴らには笑わせてやればいい」

 

そういうラクサスも瞳にも、僅かに怒気が覗いていた。

 

「すぐに笑えなくしてやるからよ」

 

「…」

 

アミクは暗い顔をして歩いてくるジュビアを見た。

 

「ジュビア…お疲れ…」

 

「気にしなくてもいいのよ?まだ初日だから」

 

アミクとミラが慰めるも、ジュビアは「…はい…」と小声で答えて、暗い廊下の中に入って行った。

 

彼女の沈んだ後ろ姿を見ていると、アミクまで悲しくなってきた。

 

「…グレイは?」

 

Aチームの方を見ると、すでにグレイの姿はなく、代わりに廊下の方から「ドゴォン!」と何かを殴りつける音が響いてきた。

 

 

 

 

「この借りは、必ず返す…!」

 

拳を壁に打ち付けて歯を食いしばるグレイ。彼の心の中は悔しさと惨めさでいっぱいの筈だ。

 

ウルはどこか悲しげにそれを見ていた。

 

 

(グレイ…それがお前の力の糧となるはずだ…立ち直れよ)

 

 

グレイの胸のネックレス、その中央にある氷が慰めるように光ったのだった。

 

 

 

 




次回はルーシィとフレア回です。
唐突だけどリュウゼツランドは絶対やります。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。