妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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なんやかんや長くなった。

ほんと観客はムカつきます。


ルーシィVSフレア

さて、気を取り直して次はバトルパートだ。

 

『続いてバトルパートに入ります。名前を呼ばれた方は速やかに前へ…』

 

『組み合わせは主催者側が決めるんだったわね』

 

『おもスろそうな組み合わせになるといいね』

 

『さっそく私の元に対戦表が届いてますよ』

 

確か、ファン投票などで組み合わせを決める、と言っていたか。ファン投票と言っても…今や人気はガタ落ちの妖精の尻尾(フェアリーテイル)や無名だった大鴉の尻尾(レイブンテイル)はどうなるのだろうか。

 

『1日目第1試合!妖精の尻尾(フェアリーテイル)A!ルーシィ・ハートフィリア!!』

 

「あたし!?」

 

「ルーシィだ!頑張れー!!」

 

『VS大鴉の尻尾(レイブンテイル)!フレア・コロナ!!』

 

「金髪ぅ」

 

「出た!さっきの怖い女の人!」

 

いきなりルーシィか。しかも相手は大鴉の尻尾(レイブンテイル)。もしかしたら人気がない同士で組まされたのかもしれない。

 

「ルーシィ…!お願い、ひどい怪我だけはしないで…!」

 

アミクは祈るように手を組み合わせた。相手が大鴉の尻尾(レイブンテイル)だと何をしてくるか分からない。細心の注意を払おう。

 

「…大丈夫、任せて!」

 

ルーシィはアミクの方を向いて軽く微笑むと、フレアの方をに視線を移す。勇ましい顔付きだ。

 

 

「良い面構えだ」

 

「凄い気合い入ってるね、ルーシィ」

 

「いつもはポンコツだけどなの。あのルーシィは相当やるの」

 

「それ、ルーシィが居る時には言わない方がいいよ…」

 

マーチ達はルーシィのやる気を察して神妙な顔になった。隣のマカロフが「相手がイワンのバカギルドだからな」と忌々しそうだ。

 

「ギッタギタにしてやれい!」

 

なんかマカロフ自身が殴り込みに行きそうな勢いなんですけど。その時、ロメオがさっきまで騒いでいたメイビスがやけに静かなことに気付く。

 

「どうしたの?初代」

 

大鴉の尻尾(レイブンテイル)と言うギルドの目的は何なのでしょう?」

 

何となく聞こえていたアミクも「確かに」と頷いた。ここまで執拗に妖精の尻尾(フェアリーテイル)を虐める目的とは、何なのだろう?

 

「そりゃあきっと、ワシらに恥を搔かせることじゃ!癇に障る奴らよ」

 

まぁ、それもありそうだ。ただの嫌らがらせ目的でも十分あり得る。

 

「…そんな小さなことなら良いのですが」

 

メイビスの懸念。アミクも彼女の懸念が少し分かる気がした。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に対抗するようにギルドを立ち上げ、大魔闘演武に出場してまでしてやることが嫌がらせ?ちょっとしっくり来ない。

 

(本当に、何が目的なの?)

 

 

 

『この2つのギルドはマスター同士が親子の関係だそうですね、ヤジマさん!』

 

『ま、違うギルドの紋章を背負ったなら、親も子も関係ないけどな』

 

『ドラマチックねぇ〜、シビレちゃう!』

 

ジェニーには悪いが、そんなドラマチックになるほどの良い話は全くないのだ、マカロフとイワンの間には。

 

 

マトー君がゆっくりと歩いて来てルーシィとフレアに呼びかけた。

 

「両者、前へ」

 

2人は近付き、互いに対面した。

 

「ここからは闘技場全てがバトルフィールドとなる為、他の皆さんは全員場外へ移動してもらいます」

 

「思いっきりやっちゃって、ルーシィ!」

 

アミクはそれだけ伝えると、ラクサス達と共に専用の観戦席へと向かった。

 

「制限時間は30分。その間に相手を戦闘不能状態にできたら勝ちです」

 

「それでは第1試合…開始!!」

 

銅鑼が鳴った直後、ルーシィが速攻で仕掛けた。

 

 

タウロスを召喚し、攻撃させたのだ。しかもそれでは終わらない。なんと、タウロスを戻さないままスコーピオンも召喚したのだ。

 

「2体同時開門!?凄い!!」

 

アミクは思わず声を上げた。星霊魔導士にとって2体同時開門はかなり高度な技なのだ。

 

スコーピオンも攻撃するが、それはフレアの伸びた髪によって防がれる。

 

「髪が動いた!?」

 

「お前の髪も同じようなもんだろ」

 

それにただ伸びるだけでなく燃えてるような…?

 

しかし、ルーシィの攻撃はこんなものではなかった。もっと凄いことになる。

 

「『砂塵斧アルデバラン』!!」

 

スコーピオンの放出した砂を、タウロスの斧が吸収し、それを振り下ろして複数の砂嵐を発生させたのだ。

タウロスとスコーピオンの合体技である。

 

「す、砂が目に入ったー!ハ、ハ、ハーックショイ!!」

 

「うるせえよ!」

 

ガジルに文句を言われてしまった。酷い。

 

 

だが、このような凄技を実況席も興奮したように解説していた。

 

『これは凄い!2体同時開門というのも大変な見ものですが、合体技とは!』

 

『むぅ…あの娘、7年前とは比べ物にならんくらい上達スたのう』

 

だが、やられてばかりいるフレアではなかった。合体技によって吹っ飛ばされていたフレアは髪を自由自在に操って攻撃してきたのだ。

 

ルーシィはすかさずキャンサーを召喚、フレアの髪を切り落とした。

 

 

「おのれぇ!」と怒ったフレアが地面に髪を潜り込ませ、ルーシィの足元から出現。ルーシィのブーツに絡み付く。対してルーシィもエリダヌス座の星の大河(エトワールフルーグ)という鞭を振るってフレアの腕に絡ませた。

 

互いに一進後退。しかし、突如ルーシィのブーツに絡みついていたフレアの髪が燃え上がった。

 

「めっちゃ燃えてるけど!?大丈夫なの!?」

 

ようやくルーシィもフレアも解放された時には、ルーシィのブーツは焼け焦げて溶け落ちてしまい、使い物にならなくなっていた。彼女は苦しそうな表情を浮かべる。

 

 

「ルーシィ!」

 

「落ち着けよ。アイツはお前が心配するほどヤワじゃねえだろ」

 

思わず身を乗り出したが、ラクサスが諌めたことによって渋々姿勢を正した。

 

 

そして、ラクサスの言う通り心配するほどでもなかった。

 

 

「もう、結構気に入ってたのに」

 

ボロボロとなったブーツを捨て、残念そうなルーシィ。彼女自身に大したダメージがあるわけではなさそうだ。

 

(ホッ…良かった)

 

アミクはそっと安堵の息を吐いた。

 

その事実に愕然とするフレア。彼女は唐突に半狂乱になると、再び髪を伸ばして地面に潜り込ませた。

 

「また地面から攻撃するつもりなの?」

 

「今度は素足だ。ノーダメージというわけにはいかんぞ」

 

「気を付けて!ルーシィ!」

 

マーチ達はルーシィの戦いから目を逸らさない。

 

 

 

(…攻撃してこない?)

 

だが、いつまで経ってもフレアは髪を地面に潜らせたまま。隙を窺っているのだろうか。

 

 

それより、ルーシィの様子がおかしい。なぜ観客席の方なんか向いている…?

 

そこにはやかましく応援しているマカロフと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー達が居るだけだが…。

 

 

「アスカちゃんっ!!」

 

 

 

──────!!

 

 

 

直後、ルーシィはフレアの髪で口元に巻きつかれ、投げ飛ばされてしまった。

 

 

 

アミクは何かを考えるよりも早く飛び出す。

 

 

 

「おい!どこに行く!!」

 

「どうしたの!?」

 

ガジルとミラの声が聞こえるが、構ってられない。アミクは必死に観客席へと走って行った。

 

 

(聞こえた…!!ちゃんと聞こえたよ…!!)

 

 

なんて卑怯なヤツだ。まさか、観客席にいた仲間を、それも子供を狙うなんて。

 

 

「アスカちゃんって!!」

 

フレアはアスカを人質にとり、ルーシィの自由を封じようとしているのだ。しかも、誰にも気付かれずに。

 

耳の良いアミクだからこそ気付けた。

 

 

走る。走る。

 

 

こうしている間にも、ルーシィはきっとここぞとばかりに責め苦を受けている。人質を取られているせいでルーシィは下手に攻撃もできない。

 

 

 

早くなんとかしなければ。

 

 

薄暗い廊下を走り、細長い通路を駆け抜け通行人に変な顔をされる。階段を駆け上り、やっと観客席に出た。

 

大勢の人々が急に走り出てきたアミクを驚いたように見てくるが、無視無視。

 

ルーシィの様子を見てみると。

 

 

「ルーシィ!!」

 

 

フレアの髪を四肢と首に巻かれて拘束されているところだった。

 

 

「お前の体に大鴉の尻尾(レイブンテイル)の焼印を入れてやるわ…一生消えない焼印をね…!」

 

 

ルーシィが動けないのを良い事にフレアは残酷な行為に出る。自分の燃える髪を大鴉の尻尾(レイブンテイル)の紋章に形作り、ルーシィに近付けたのだ。

 

 

(急がなきゃ!!)

 

 

アミクは妖精の尻尾(フェアリーテイル)が応援している場所を目指して走りだす。

フレアは猫がネズミをいたぶるような残虐な笑みを浮かべてルーシィの体を舐めまわした。

 

「どこに入れてほしい?」

 

髪を体のあちこちに近付けるフレア。そして続くフレアの言葉によってアミクの怒りが更に湧き上がった。

 

「そうか!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章の上にしてほしいのね!」

 

「お、お願い!!それだけはやめて!!」

 

「しゃべるなっつったろぉ!!」

 

「いやあ!!それだけはやめてぇ!!」

 

腸が煮えくりかえりそうだ。

 

アミクは憶えている。ルーシィが初めてギルドに来た日。彼女が《フェアリーテイル》の紋章を付けてもらって嬉しそうに見せてきた姿を。

 

 

その、彼女にとって大切な紋章に。彼女の大切なものを踏み躙るように。

 

そんな非道な、罪深い事をするなんて。

 

 

 

 

ふざけるな。ふざけるな!!

 

ルーシィの悲痛な悲鳴がアミクの激情を湧き立てた。

 

 

 

 

すこしずつ、焼印がルーシィの右手に近付いて行く。

 

 

させない!!そんなことさせるものか!!

 

 

 

ルーシィの体にも、心にも消えない傷跡を残してたまるか!!

 

 

 

アミクは妖精の尻尾(フェアリーテイル)がいる観客席に足を踏み出した。アスカはすぐそこだ。

 

あった。アスカのすぐ足もとの床。そこに空いた穴から赤い髪がユラユラと覗いている。あれが、ルーシィを苦しめていた原因。

 

 

 

(…ナツ!?)

 

 

なぜか目の前にナツが居る。

 

いや、きっと彼もルーシィの声に気付いたのだ。

 

 

だから、ルーシィを助けようとここまで…。

 

 

「アミク!!」

 

「ナツ!!」

 

アミクとナツはアイコンタクトだけで察すると、すぐに行動に移した。

 

 

まずはアミクが手刀で作った音の刃を振るって赤い髪を切り裂いた。

次にナツが短くなった髪を鷲掴みして燃やしてしまう。ミッションコンプリート。

 

 

「ナツ!アミク!」

 

「なんでこんなところに!?」

 

「あーしが恋しくなったの?」

 

マーチ達は急に現れたアミク達に驚いているが、それらをスルーしてルーシィの方を見た。

 

 

フレアが燃えてしまった自分の髪を見て驚いている姿が見える。チャンスだ。もう何もルーシィを縛るものはない。物理的に縛られてはいるが。

 

 

「ルーシィ!!今だァ!!!」

 

「もう大丈夫!!ぶちかましちゃえ!!!」

 

アミク達の声が合図。

 

ルーシィは頼もしい仲間達に思わず泣きそうになった。

 

 

「ありがとう…!ナツ、アミク!!」

 

ルーシィは強い意志を秘めた瞳をフレアに向けた。反撃開始だ。

ルーシィはなんとかして懐から鍵を取り出すと、叫ぶ。

 

「ジェミニ!!」

 

双子宮の星霊。2人で1組の彼らは召喚されると、1人はフレアに頭突き。もう1人はルーシィの髪の拘束を解く。

 

 

「アレ、やるわよ!」

 

「まだ練習不足だよ」「できるか分からないよ」

 

ルーシィがジェミニに何かを言っている。「アレ」とは?

 

「とにかくあたしに変身!」

 

「了解!」「ピーリピーリ」

 

ジェミニはルーシィ変身…したのだが。

 

バスタオル姿だった。

 

 

アミクは真っ赤な顔になって両手で隠す。

 

「わ――――!!ルーシィのあられもない姿が観客達に晒された―――!!」

 

ルーシィ、あんなに真っ赤になって恥ずかしがって…。もうお嫁に行けないのでは!?そうなったらアミクが責任を持って生涯世話していかねばなるまい(?)。

 

バスタオル姿の美少女が現れたことで観客達(男)が大興奮!

 

「何よその格好!?」

 

「しょうがないよ。コピーした時の服装なんだから」

 

「そっか…昨日のお風呂上がりに…」

 

なんちゅータイミングでコピーしたんや。

 

『これは、これは…ナイスハプニング!!♡』

 

『ん!』

 

『へぇ、結構出るとこ出てるわね』

 

おい、実況席の男2人。口元ニヤついてるぞ。

 

後、初代が自分の胸押えて「出るとこ…」って落ち込んじゃったよ。

 

「にしても、自分を2人にして何するつもり気だ?」

 

『バ、バスタオル…!!』

 

「いちいち念話でやめろっての…」

 

「こ、興奮の舞い!!」

 

妖精の尻尾(ウチ)にも大打撃のようです!!

 

『ルーシィ・ハートフィリアが2人になった!!しかも1人はバスタオル姿!!』

 

「そこ実況しなくてよろしい!!?」

 

この実況者大丈夫か?いや、男なら健全な反応ではあるけど…。

 

『アレは双子宮のジェミニ。黄道十二門だねぇ』

 

(でも…本当になにするつもりなんだろ)

 

ダブルーシィで何ができる?服装が違うから見分けも簡単に付くし…。

 

 

と、思うとルーシィ達は互いに目を瞑り手を合わせた。

 

「「天を測り、天を開き、あまねく全ての星々。その輝きをもって我に姿を示せ!」」

 

「アレは…マジで!?」

 

その呪文、聞き覚えがある。六魔将軍(オラシオンセイス)のエンジェルを打ち破った、あの大魔法だ。

 

 

(そっか!!自分を2人にして魔力を高めたんだ…)

 

やっとジェミニを召喚した理由が分かった。でも、あの時はヒビキによって引き出されたものだったが…今は自分の意思で使う事ができるとは、流石ルーシィ!!

 

 

「「テトラビブロスよ…我は星々の支配者…アスペクトは完全なり」」

 

「な、なによこれぇ…!」

 

ルーシィの足元から光り輝く魔法陣が出現し、フレアは彼女の様子に恐れ慄いた。

 

 

「「荒ぶる門を開放せよ!!」」

 

周りの様子が様変わりした。まるで宇宙空間にいるよう。惑星があちこちで浮いており、星空のように眩く輝く。

 

「「光る!!」」

 

これが、ルーシィの力。ルーシィの、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の誇りを掛けた一撃。

 

「「ウラノ・メトリア!!!」」

 

惑星が流星の如く降り注ぐ。人を魅了する輝きを放つ光の軌跡を描きながら、フレアを覆い尽くさんとした。

 

観客達は唖然としながらそれを見守り、フレアは絶望的な表情で巨大な一撃が向かってくるのを見ていた。

 

「凄ーい!!ルーシィ凄ーい!!凄い凄い!!」

 

「へっ!」

 

綺麗な光景を眺めながら、アミクはツインテールと共にピョンピョン飛び跳ね、ナツは誇らしげに笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

強烈な光が、全てを包み込み。

 

 

 

そして、収まった。

 

 

(…勝った?)

 

 

そう思えるほどの大技だったのだが…。

 

 

土煙が晴れると、そこにいたのはあの魔法を喰らったにしてはピンピンしているフレアと、呆然としているルーシィ。

 

ジェミニの姿もない。

 

 

何だか雲行きが怪しい。

 

 

(何…ルーシィの魔法が…不発!?)

 

 

いや、そんなはずはない。完璧に決まっていた。なのに、なぜ…。

 

フレアが何かしたようにも見えない。

 

 

(いや、分かりきってるじゃん…そんなの…大鴉の尻尾(レイブンテイル)!!)

 

アミクは大鴉の尻尾(レイブンテイル)の観戦席を睨んだ。十中八九外部からの援助だろう。

 

 

「あ…!」

 

ルーシィが力尽きたように倒れてしまった。

 

 

魔力切れか。

 

 

そこで。

 

 

『おーっと!!ルーシィがダウン―――!!試合終了――――!!勝者!!大鴉の尻尾(レイブンテイル)、フレア・コロナ―――!!』

 

 

試合終了。ルーシィの、負け。

 

 

(こんなの…!!)

 

アミクは手が痛くなるほど握りしめた。

 

「こんなの!!酷過ぎるよ!!」

 

血を吐くように叫んだアミクの声だったが、それは観客達の歓声に掻き消されてしまった。

 

 

「どう見ても反則なの!!あーし、主催者に抗議しに行くの!!」

 

「やめておけ、証拠不十分で突き返されるのがオチだ」

 

「で、でも…こんなのおかしいよ!!」

 

 

マーチ達も悔しげに歯噛みする。

 

「外野からの支援ですね」

 

「やっぱりそうだよね!?メイちゃん!!」

 

「はい。きっと、ウェンディ達を襲ったのと同じ犯人でしょう」

 

メイビスは犯人まで分かったようだ。流石初代。いや、だからと言って何になる。証拠不十分なのは変わりない。

 

「イワン!!場外乱闘を望むのかよ!!あぁん!!?」

 

マカロフも憤慨して向こうにいるイワンを睨みつけた。

 

 

会場では、フレアがルーシィの事を罵る声が聞こえる。「負け犬」だとか「無様」だとか。

 

 

フレアだけではない。何も知らない無知で無責任な観客達が醜い顔を晒して罵声を浴びせた。

 

 

傷ついた少女に更なる傷跡を残すかのように。

 

 

アミクは冷めた表情で、しかし悲しみも混じった表情でそんな観客達を見た。

 

 

なぜ人はここまで醜くなれるのだろう。グレイもジュビアもルーシィも、一生懸命ギルドの為に頑張ったのに。

労いの言葉を掛けるどころか、貶めるばかり。

 

(私達が貴方達に何をしたの?親でも殺された?大切なものを奪われた?)

 

そうじゃないだろう。

 

 

ただ、底辺だから。負けたから。彼らはそんな底辺に入る存在を更に貶すことで、自分達が優越感を感じているにすぎないのだ。

 

 

(なんて…愚か。なんて…悲しい)

 

悲しくなった。

 

だが、それが人間だ。自分もその1人。

 

 

そう、愚かなのは皆一緒。

 

 

(でも、その愚かさも人それぞれ…)

 

だったら、自分はとことん仲間を助け、信じ、守る事に愚かになろう。

 

 

アミクは、黙ってルーシィを見下ろすナツを見る。彼は悲しげでもあり、怒りに燃えているようでもあった。

 

 

だが、先を見据えて闘志を燃やしているようにも見える。

 

 

アミクはそんなナツの背をパァン、と叩いた。

 

 

「痛ぇ!!」

 

「なにやってんの!行ってあげなよ。同じチームでしょ?」

 

だから、愚かなナツに託した。今のアミクはBチーム。ここはAチームであるナツが迎えに行ってやることが道理だろう。

 

「・・・ああ!」

 

ナツは二カッと笑うとアミクの頭を撫でてルーシィの元に向かっていった。

 

 

ルーシィが泣いている。彼女の傷ついた心が悲鳴を上げている。誇りもプライドもズタズタにされ、残されたのは悔しさだけだ。

 

 

本当はアミクも今すぐ駆け寄って慰めたい。そのボロボロの体を抱きしめてあげたい。

 

 

 

でも、それは自分の役目ではない。

 

 

 

ナツが闘技場に現れ、ルーシィに近付いた。

 

「泣くな、ルーシィ」

 

「だって…悔しいよぉ…!」

 

悲しげに涙を流す少女の背中は酷く小さく見えた。だから、ナツは言う。

 

「涙は、優勝した時の為に取っておこうぜ」

 

同じ涙でも、その方がずっといい。

 

 

「凄かったぞ。お陰でオレ達は、この世界で戦えるって分かった」

 

ナツが手を差し出し、ルーシィがそれを掴む。

 

「0点?おもしれーじゃねーか。ここから逆転するんだ」

 

無得点だからなんだ。そんなのクソ喰らえ。仲間が必死に頑張ってきた事が無駄になるわけではない。

 

 

これからだ。彼らの頑張りが、仲間達の闘志に火を点けた。彼らは全く諦めてなんかいない。最後まで、諦めるつもりなんかない。

 

 

むしろ、その方が燃えてくるだろう?

 

 

「うん…燃えてきた…!!」

 

 

金髪の少女は、涙を流しながらも、強い意志を持った瞳でナツの目を見返したのだった。

 

 

(…ルーシィ。ううん、ルーシィだけじゃない。グレイもジュビアも、貴方達の想いは受け取ったからね)

 

 

アミクがの心が決意と覚悟で満たされた。

 

 

 

 

 

と、そこで。ルーシィとアミクの視線が交わった。

 

 

 

アミクは黙って親指を立てる。

 

 

────ナイスファイト。

 

 

 

ルーシィはまた泣き出してしまった。

 

 

 




まぁ、後の試合は特筆することもないでしょう。サクッとラミアとBチームの対戦まで行きたいと思います。

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