妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

138 / 202
いよいよアミクの出番です。

はっきりいって無理ゲーじゃない?


岩鉄VS音竜(うたひめ)の競争曲

「お帰りなさい。ルーシィの様子はどう?」

 

「多分大丈夫だと思う。今はシャワー浴びてるよ」

 

アミクは妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームの観戦席に戻ってきた。

 

「ったく、そんな心配する事でもねえだろ」

 

「もう!ガジルってば冷たいんだから!」

 

素っ気なく言うガジルだったが、ミラがニコニコとしてアミクに耳打ちする。

 

「あんな態度取ってるけど、アレでも心配してたのよ?」

 

「うるせえ!!余計な事言うんじゃねえ!!」

 

「ツンデレだなぁ…」

 

「あぁん!?磔にすんぞ!!」

 

ガジルが喚いているのを適当にいなし、軽く見まわした。

 

「まだジュビアは帰って来てないの?」

 

「ええ…まだ落ち込んでるみたい」

 

「そっか…」

 

グレイも姿が見えないし、やっぱり隠密(ヒドゥン)の事を気にしてるのだろう。

 

 

「とりあえず、今は観戦でもしてましょう?もうすぐ第二試合が始まるわ」

 

「そうだね。どんな組み合わせになるんだろ」

 

気持ちを切り替えて試合に集中する事にする。

 

 

さて、第二試合。青い天馬(ブルーペガサス)のレン・アカツキVS人魚の踵(マーメイドヒール)のアラーニャ・ウェブ。

 

この試合は一進一退の良い試合だった。結果、勝者はレン。

 

それより、衝撃的な事実を知ったのだが…。

 

 

「シェリーとレンと婚約してるの!!?マジですか!?」

 

目をかっと見開いて口を押えるアミク。その顔は赤い。

 

 

「何照れてるんだよ」

 

「だ、だ、だって!!婚約だよ!?結婚するんだよ!?あのシェリーが!!」

 

試合中、恥ずかしそうに顔を赤くして応援するシェリーの姿も見ている。いや、ギルド違うだろアンタら。別に良いけどさ。

 

というか試合中レンがキザなセリフを吐くもんだからシェリーがいちいち照れて見ているこっちはごちそうさまです。

 

「婚約~こんやく~…」

 

プシューと顔から煙を出すアミク。「照れすぎだろ」とラクサスが呆れた。

 

 

 

第三試合。

 

剣咬の虎(セイバートゥース)、オルガ・ナナギアVS四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)、ウォークライ。

 

 

「…止まるんじゃねえぞ…」

 

「よく分からんが黙った方がいいと思うぞ」

 

アホな事を口に出すアミク。つい言いたくなったんですよ、オルガと聞いて。

 

ただ、この試合はアミクにとってかなり印象的だった。試合自体はオルガの一撃で終了したが、問題はその魔法だ。

 

 

(黒い…雷?)

 

 

あの魔力。シェリーの従妹であるシェリアに対しても似たようなものを感じたが、彼の魔力からも既視感を感じる。

 

いや、『黒い』雷の時点で大体察しはついた。

 

 

(へぇ…ちょっと話してみたいかも、あの人)

 

 

後、アミクが好感を持った部分は彼が音楽が好きらしい所だ。試合が終わった後、場を盛り上げようとわざわざマイクを持って来させて(お世辞にも上手いとは言えない)自作の歌を披露していた。

 

そういう点はなんかガジルに通じる所がある。実際ガジルもオルガの歌を聞いて自分もやりたそうにウズウズしていた。

 

 

 

『さぁ、いよいよ1日目最後の試合となりますが』

 

『残っているのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bと蛇姫の鱗(ラミアスケイル)だねぇ』

 

「私達の誰かが…」

 

最後の試合で来るとは。なんというか、プレッシャーが高そうだ。

 

『昔はこの2つのギルド、実力が均衡していて。だから面白い試合になりそうね~』

 

そうなると良いが。いや、そうさせる。

 

『では、発表しましょう!1日目最後の対戦カード!!』

 

「来るぞ来るぞ来るぞ…誰と誰になる…?」

 

ドキドキしながら、チャパティが読み上げるのを待つ。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)B!アミク・ミュージオン!!VS!!蛇姫の鱗(ラミアスケイル)!ジュラ・ネェキス!!』

 

「ヒャック」

 

 

しゃっくり出た。

 

 

 

 

 

 

 

観客席では。

 

 

「アミクなの!!アミクの出番なの―――!!」

 

「マ、マーチ、もうちょっと落ち着いて…これは役得って言えるのかなぁ」

 

人型のマーチがハッピーをギューッと抱きしめ、豊満な胸に埋めていた。

 

「アミクか。これは楽しみだな」

 

リリーが口の端を上げた。

 

「アミク―――!!かっとばしてやれ―――!!」

 

「アミク姉、頑張れ―――!!」「頑張れ―――!!」

 

 

マカロフ達もここぞとばかりに応援する。

 

 

Aチームは。

 

「アミクかー!おい、負けんじゃねぇぞ!!」

 

(いきなりアミクか。彼女は強い…しかし、相手はあのジュラ。苦戦は免れないぞ)

 

ナツが声を上げる隣で、エルザは冷静に分析していた。今のアミクの力でジュラに通用できるだろうか。

 

 

と、そこにルーシィが慌てたように走ってきた。

 

「まだ始まってない!?よかった!」

 

「ルーシィ、もう大丈夫なのか?」

 

「うん!アミクが出るって聞いて居ても立ってもいられなくて」

 

さっきまで落ち込んでいたが、親友が出ると聞いては見ないわけにはいかない。

 

(アミク、頑張って!)

 

 

 

「アミクさんが戦うのか!」

 

スティングが身を乗り出すと、ルーファスがクスリと笑って問いかける。

 

「君が言っていた『彼女』かい?スティング」

 

「へぇ、そうなのか」

 

オルガも興味深げに闘技場を見下ろす。まだ両選手とも出てきてはいないが、スティングが一目置く存在。少し興味が湧く。

 

「まぁな。でも久しぶりにアミクさんが戦う所見れるんだな。あの時は凄かったんだよなー」

 

スティングがワクワクしていると、レクターが「今のスティング君なら余裕でアミクさんに勝てますよ、ハイ」と持ち上げる。

 

「分かってるよ。でも、一度実力を見ておくのも悪くないだろ?」

 

「フローもそーもう」

 

 

 

 

 

 

「ふむ、相変わらずいい香り(パルファム)だ」

 

「ルーシィの成長も著しかったけど、彼女もどれくらい強くなっているか、見物だね」

 

青い天馬(ブルーペガサス)もアミクに注目していた。

 

 

 

「…」

 

そして大鴉の尻尾(レイブンテイル)は、ただ不気味な笑みを浮かべながらアミクを見下ろしているだけだった。

 

 

他の観客達はジュラが出ると聞いて大騒ぎ。ジュラほどの魔導士となると人気も剣咬の虎(セイバートゥース)に引けを取らない。

 

だからほとんどがジュラコールだった。ジュラを見るために大魔闘演武を見に来たと言う人もいる。

しかし、その中にもアミクの名を呼ぶものもあった。

 

「女神様―――!!オレは7年前にアンタに救われて人生変わったんだ!悪魔の心臓(グリモアハート)を抜けて真っ当に働いてるぞー!」

 

「オレも盗賊辞めたんだ!」「昔の恩は忘れてねぇぞ!!」

 

現在でもアミクの事を憶えてくれている人たちもいるらしい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)が罵倒を受けるのが多い中、そんな人達がいるのも、アミクの人望ゆえだろう。

 

(やっぱりアミクって…とんでもない子ね)

 

これもアミクの優しい心による行動の結果だと思うとルーシィは嬉しくなった。

 

 

『かつて持ち前の美貌とその性格から「彼女にしたいランキング」1位を何度も取得していたアミク!』

 

「あ、聞いたことあるかも!」「お父さんの部屋にあった昔の雑誌に載ってた!」

 

チャパティの言葉で観客もざわざわしだした。

 

『さらに強力かつ有能な魔法を駆使し、仕事に臨むその姿は、何十、何百人もの人々を魅了してきた!ギルド内でも皆から愛され、フィオーレ中に様々な異名を残した少女!!』

 

なんでこんなに紹介に力入ってんの?

 

『ふむ、ワスもかつて世話になったことがあるよ。彼女の治癒魔法は効き目が良くてねぇ』

 

『へぇ、確かに可愛いわね。良いお嫁さんになれそうな顔してる』

 

(どんな顔!?)

 

『でも治癒魔法を使えるだなんて、可愛いだけじゃないってことね!』

 

『後、彼女はブロッコリーが大好きでのう…』

 

「もうやめましょ!?関係なくなってるから!!」

 

ヤジマがアミクについて語るだけになりそうだったんだが。

 

 

 

 

 

ジュラがいかにも強者の立ち振る舞いで、何の気負いもなく闘技場の入口へと向かって行った。

 

「頑張れー、ジュラさん!」

 

「この勝負、貰ったな」

 

「まだ始まってねーよ!」

 

「分かってるからキレるなよ」

 

その背を見送るラミアのメンバー達。

 

そこで、シェリアはリオンに問う。

 

「あの人がリオンの昔の恋人?」

 

「そうだ。素敵な人物であることは変わらんがな」

 

「ふーん」

 

シェリアは面白くなさそうに入口で薄ら見えているアミクの姿を見つめた。

 

 

ジュラが出ていくとそこら中から大歓声。彼が登場しただけで盛り上がりが半端じゃない。

 

流石は聖十大魔道。実力の伴った人気っぷりだ。

 

 

 

 

 

「キンチョーする―――!!」

 

 

そしてアミクご本人は壁に手を付いてブルブルと震えていた。

 

 

「こんな大勢の前に1人で出て行くなんて…怖いよー!」

 

「今更怖気づいてどうすんだよ」

 

ガジルが呆れていると、ラクサスが口を開く。

 

「こいつはツイてねぇな」

 

「あのジュラとぶつかっちゃうなんて」

 

そんなやる気を削ぐようなことは言わないでほしい。

 

「そんなに強ぇのか?あのボウズ」

 

「舐めんなよ!?ガジルはジュラさんの力を実際に見てないからそんなことが言えるんだよ!」

 

アミクがクワっとカジルに詰め寄る。

 

「あの人は聖十大魔道の序列5位…だっけ。幽鬼(ファントム)のマスターだったあのジョブリンよりも強いって事になるんだからね!?」

 

「ジョゼな。…そんなにか」

 

ガジルは薄らと冷や汗を流した。

 

 

「ああ――――!!大丈夫かなー大丈夫かなー!!」

 

「いつまでウジウジしてんだ」

 

ラクサスがコツンと小突いてきた。

 

「お前はお前らしく戦って来いよ。最強の妖精の尻尾(フェアリーテイル)はそういうもんだろ?」

 

ニヤッと不敵に笑ってきた。

 

…ホント、ラクサスには何度も助けられている。

 

 

「よしっ!任せて!」

 

 

パンパン!と太ももを叩き、前を見据えた。

 

ふと、これまでの事を振り返る。

 

 

ウェンディ…グレイ…ジュビア…ルーシィ…。

 

 

皆、悪意によって傷つき、晒され、涙した。

 

 

彼らの無念も。彼らの悔しさも。

 

 

アミクは全部背負うつもりだ。背負って彼らの分まで暴れる。

 

 

そう決意した。

 

 

「行ってきます!!」

 

 

アミクは歓声が響く闘技場へ一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

ブーイングは起こらなかったが、居心地の悪い視線を浴びながらアミクはジュラの前に向かう。だが…。

 

 

(…手と足が一緒に出てる…)

 

 

その場の全員の心が一致した。緊張が解けてないのか、動きの硬いアミクがカチコチと歩いてきたのだ。

 

そして。

 

 

ステーン!!

 

 

「ふぎゃっ」

 

 

コケた。

 

 

『おーっと!!アミク、緊張のあまり転んでしまった―――!!これはジュラも苦笑を禁じ得ない――!!』

 

だからいちいち実況すんなし。

 

 

「だ、大丈夫かアミク殿…?」

 

「心配、ご無用でしゅ」

 

噛んだ。

 

「おいおい、あんなんで本当に大丈夫か?」

 

「あらあら」

 

「…」

 

ガジル達は苦虫をかみつぶしたような表情をする。

 

 

「だーはっはっはっは!!だっせーぞアミク!!」

 

「ちょっと!笑わないであげて────ぷふっ」

 

「ルーシィも笑ってるじゃねぇか」

 

ナツ達からは笑われた。特にナツ、後で覚えてろよ。

 

 

観客の方からも笑い声が聞こえる。嘲笑だったり微笑ましげなものだったり…。

 

(は、恥ずかしい…!)

 

アミクは顔を真っ赤にして「いたたた…」と立ち上がった。切り替え切り替え。

 

 

アミクとジュラの視線がかち合う。ジュラは7年前よりも気迫からして段違いだった。

 

ジュラは旧交を温め合うかのように話しかけてきた。

 

「まさかアミク殿とこうして拳を交えることになるとは、連合軍を結成した時には考えたこともなかったぞ」

 

「そうですね。ジュラさんみたいな聖十大魔道と手合わせできるなんて、中々ない経験ですよ」

 

と言ってから聖十大魔道と戦った経験が二度ほどあった事を思い出した。うん、『ジュラ』とは初めてだからね。

 

「個人的には、妖精の尻尾(フェアリーテイル)には頑張ってほしいが、うちのオババがうるさくてのう」

 

「あーそうなんですね…」

 

何か色々うるさそうなお婆さんか。何にせよ、ジュラはギルドの為にも勝たなければなるまい。

 

「すまぬが手加減はせぬぞ」

 

「の、望むところです!全力でお願いします!」

 

(良い目だ)

 

ジュラは覚悟と闘志で燃える青い瞳を見た。決して折れない不屈の心を表すかのよう。それを見てジュラも負けてられない、と身も心も引き締めアミクを真っ直ぐに見据えた。

 

2人の間に風が通り抜けた。丁度いい温度の空気の流れが肌を触っていく。アミクの額で髪に隠れた汗がひんやりとする。

 

(…こうして対峙してるだけでも、物凄い魔力を感じる)

 

ジュラは腕を組んで傲然と立っているだけだ。それだけでも、彼からの威圧感が凄まじい。7年前のアミクだったなら尻もちを付いていたかもしれない。

それにただ立っているだけのように見えて、全然隙がない。こんなとんでもない大物に勝つなど不可能な事のように思ってしまう…。

 

(でも…負けられない!)

 

昔の自分とは違う。以前よりも成長したアミクならば、絶対通用する。頑張ってきた自分を信じるのみ。

 

 

 

「…アミクは音声の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なのですよね?」

 

「そうですが…何か?」

 

マカロフはメイビスの確認に首を捻った。一応出場するメンバーについては簡単に教えてあるのだが、何か問題があるのだろうか。

 

「…これは、いい勝負ができるかもしれませんね♪」

 

 

メイビスは楽しげに足をブラブラさせた。

 

「この試合は『私達』によっても左右されることになるでしょう」

 

「はて…ワシらによって、とは…?」

 

「うふふ、皆さんはいつも通りにしてればいいのですよ」

 

メイビスはいたずらっぽく微笑んだ。訳の分からないマカロフは疑問符の数を増やすことになったのだった。

 

 

 

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)!ジュラ・ネェキスVS妖精の尻尾(フェアリーテイル)B!アミク・ミュージオン!!

 本日の最終試合、開始ぃ!!』

 

 

 

始まった。アミクの最初の出番が。アミクの大魔闘演武が。

 

 

 

 

早速行動に移したのはアミク。

 

「〜♪『攻撃力強歌(アリア)』!『防御力強歌(アンサンブル)』!『速度上昇歌(スケルツォ)』!『持続回復歌(ヒム)』!!」

 

出し惜しみはしない。付与術(エンチャント)のオンパレード。できる限りの付与術(エンチャント)を掛けていく。

 

「あんなにたくさんの付与術(エンチャント)を一度に!?」

 

ルーシィは驚いて口を大きく開けた。

 

「魔力が上がったお陰だな」

 

エルザは第二魔法源(セカンドオリジン)を解放した甲斐があった、と口の端を上げる。

 

「『音竜の響拳』!!」

 

地面を蹴ってジュラに突撃する。そして、いつものように音を纏った拳を振るった。

だが、ジュラが指を振るうと、地面から固くなった地面の円柱が飛び出してきてアミクの拳を防ぐ。アミクのパンチが円柱に当たると同時に衝撃波を放って破壊した。

ジュラはそれでは止まらなかった。どんどん地面から円柱を迫り出してアミクを追い詰めていく。

 

「おっと!」

 

自分の真下の地面から出てきた円柱を蹴って飛び上がった。それを追いかけるように地面から次々に出てきた円柱がアミクの方に伸びていく。

アミクはそれを軽い身のこなしで躱すと円柱に乗って円柱を伝うように駆けていった。

 

『こ、これは速い!!アミク、もの凄い速さでジュラに接近する―――!!』

 

「『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!」

 

「『岩鉄壁』!!」

 

アミクが攻撃を仕掛けるも、またもや硬くなった地面に防がれた。

 

「うう…防御にも攻撃にもなれるその魔法、強いよ…」

 

あまりに強力な魔法に弱気になりそうになるが、泣き言なんか言ってられない。

 

ジュラからも苛烈な攻撃が繰り広げられる。

 

「『崖錘』!!」

 

いくつもの岩の柱が上からアミクに向かってきた。

アミクは「とう!」とジャンプしてそれらを避け、柱の側面に足を付ける。

 

(もう一度近付く!!)

 

今度は柱を蹴って、蠢く柱から柱へと移動するように飛び跳ねていった。

 

『なんという軽い身のこなし!!それに硬いものを粉砕するほどのパワー!!あの細腕のどこにそのような力があるのでしょうか!!?』

 

『これも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の恩恵かね』

 

『わ、私はあんな真似できないよ~!』

 

アミクはジュラの正面にある柱を蹴ると、一気にジュラの元に突っ込んでいく。

 

「ぬっ!?」

 

「『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

アミクの渾身の体当たりがジュラのお腹に衝突する。ダメージが入ったのかジュラは「ぐぅっ」と呻いた。

 

しかし、流石はジュラ。黙ってやられはせずにアミクを太い手で掴む。アミクが突進してきた勢いを利用して体を反転。受け身を取るようにアミクを反対側に投げ飛ばした。

 

「『な、なんとー!やりました!!アミクがジュラに一撃を入れた―――!!』」

 

実況者も観客も一気に興奮した。あの聖十大魔道に対して渡り合えているのだ。

 

この時、観客達の妖精の尻尾(フェアリーテイル)への認識が少し改められた。

 

(…いや、ダメージは微々たるもの)

 

アミクは地面に着地すると、油断なくジュラを見据えた。確かに、攻撃は入ったが、大した痛手になったわけではあるまい。

 

平然としているジュラの様子を見てそれを確信する。

 

「ふむ、ワシに攻撃を当てるとは、すまぬ。無意識に侮っていたようだ」

 

「…やっぱり、ちょっと手を抜いてましたよね?」

 

ジュラの実力はこんなものじゃない、と本能が訴えていた。今までのは様子見。

 

「少し、本気を出そう」

 

「…ぅっ!!」

 

ジュラの魔力が膨れ上がった。相手をねじ伏せるような圧倒的な魔力。これが、聖十大魔道序列5位の魔力。

 

 

(凄いな…)

 

 

この称号を得たのは、本人の才能もあるだろうが、ジュラの弛まぬ努力があってのこそだろう。想像以上の苦労もしてきたはずだ。

 

だから、頭も可哀想な事に…。

 

「…今失礼な事考えなかったか?」

 

「いやいやいやいや、そんなことありませんことよ、おほほほほ」

 

 

うん、ハゲについて触れるのはやめよう。

 

ともかく、アミクとジュラじゃ重みが違う。経験も実力もジュラの方が勝っているだろう。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

負ける気はない。自分は皆の想いを背負っている。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を付けてこの場に居るという事は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)としてギルドの皆の分まで戦い抜く義務があるという事。

 

アミク一人だけの戦いじゃないのだ。

 

 

全力を出し尽くして、目の前の敵を打ち破る。

 

 

聖十大魔道だからなんだ。自分は何度も何度も強大な敵に立ち向かったではないか。

 

 

自分なら、妖精の尻尾(フェアリーテイル)なら。

 

 

 

勝てる。

 

 

 

相手が計り知れない力を持つ者だろうが、自分たちなら勝てる!

 

 

 

 

「…燃えてきたよ!!」

 

 

 

そのセリフが聞こえたナツは思わず笑みを浮かべたのだった。

 

 




長くなりそうだったので前半と後半に分けます。


皆さん!今年から始めたこの小説を読んでくださり、ありがとうございます!!来年もよろしくお願いします!!

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