妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

139 / 202
あけましておめでとうございます!!新年初日から投稿していきますよー。


天を舞う音竜

今度はジュラが動いた。

 

さっきよりも多くの柱が地面から突き出し、曲がりくねりながらアミクを襲う。

 

それを一旦バックステップで躱すと目の前の地面に柱が突き刺さった。

 

(殺意高め!)

 

背筋に冷たいものが流れるが、次の柱が迫ってきたため回避を余儀なくされた。

 

 

 

「わわわっ!!と…『音竜の咆哮』!!」

 

柱の猛攻の隙間を縫い、ブレスを放つ。それは攻撃に集中していたジュラの隙を突き、命中した───かと思われた。

 

 

 

ブレスによって巻き起こった土煙を突きぬけ、巨大な岩の拳が飛び出してきたのだ。

 

「ひゃっ!?『音竜壁』!!?」

 

慌てて反射的に音の壁を張った。音の壁に岩の拳が轟音を立てて衝突する。音の壁が激しく震えた。

 

「~~~ていっ!!」

 

音竜壁を地面に押し込むように叩きつけると、岩の拳も地面に埋まった。

 

「押し込んだ!!」

 

「すげぇ!!」

 

「『音竜壁』の強度も増してる!!」

 

ナツ達は歓声をあげた。

 

 

その隙にその場を離れようと空中に跳ぶ。だが…。

 

唐突に埋まっていた岩の拳が曲がり、アミクに突き進んできた。

 

「また曲げたぞ!!」

 

エルフマンが叫んだ。

 

「な!?きゃあああっ!!!」

 

「アミク!!」

 

アミクは反応できずにもろに喰らってしまう。ルーシィの悲鳴の直後、ぶっとばされ、地面に背中から落ちてしまった。

 

「うぐっ」

 

『強い!!やはり聖十の称号は伊達じゃなーい!!』

 

 

実況者も観客も盛り上がった。

 

 

「いたた…」とふらつきながら立ち上がるアミク。

 

 

(当たり前だけど…7年前とは比べ物にならない…だけど)

 

 

ジュラを強く見据えるその瞳に諦めの色はなかった。

 

 

(まだまだ、ここから!)

 

 

ジュラは凛として立つ少女を見て小さく笑みを浮かべた。そう来なくては面白くない。

 

 

「『崖錘』!!」

 

再び隆起してきた柱の群れを駆けながら避ける。そして、合間にアミクも攻撃。

 

 

「『音竜弾』!!」

 

絶え間なく続く柱の突進の間を走り抜けながら連射。

 

柱が出てきたりぶつかったりして地響きが鳴るのを感じながら闘技場の壁に到達。

 

 

「追いつめられちゃった!!」

 

「いや、心配ないの」

 

ハッピーにマーチが言った直後、アミクは勢いを付けて壁に向かってジャンプ。そして壁に足を付けて走り始めたのだ。

 

「か、壁走れるんだ…」

 

ハッピーが呆然とした。

 

 

「えええい!!」

 

壁を走りながらも音竜弾を撃つ。気配を感じて横を見ると、そこから柱が迫って来ているのに気付き、バッと跳び上がった。壁に柱が突きさり、振動が起きる。

真上にいた観客達が悲鳴を上げていた。

 

空中からジュラを見下ろし、両手を構える。そこに音が収束されていく。

 

ジュラも魔力の高まりに気付いたのかじっと油断なく見つめてきた。

 

 

「…『音竜の追複曲(カノン)』!!」

 

アミクの両手から大きな音の塊が射出された。それは真っ直ぐにジュラへと飛んでいく。

 

「『岩鉄壁』!!」

 

対してジュラは防御を選択。ジュラの前方に地面から大きな壁が出てきた。その壁に直進する音弾が直撃し…貫いた。

 

 

 

ジュラは目を見開き驚く。だが、彼は慌てない。貫通された壁を後ろに曲げ、再び音弾を防ごうと試みる。また貫通する。曲げる。貫通。曲げる。

それの繰り返し。

 

そしてとうとう、ジュラの目と鼻の先にまで音弾が接近、それを最後の抵抗の如く曲がってきた壁が立ち塞がる。

 

 

音弾がそれにぶつかると…衝撃波となって壁を砕いた。

 

「ぬうぅっ」

 

衝撃波が漏れたのか、ジュラは軽く浮き、地面を滑って後退した。顔に少し傷が付き、服にも多少の損傷ができる。それだけ。

 

「…今のは見事だったぞ」

 

ジュラは顔の汚れを指で払いながら、地面に着地したアミクを称賛した。

 

「どーも、こっちも7年前とは同じつもりではないので!」

 

強気に言ったものの、内心では少し焦っていた。全然ダメージを与えられなかったからだ。

 

 

(まさかほぼ防ぎきるなんて…!)

 

生半可な攻撃では通用しなさそうだったので、強力な魔法を放ったが、想像以上の硬さと優れた判断力だ。

 

こうなったらとっておいた手段を使うしかないのだろうか…。いや、もう少し粘ってみよう。

 

(このまま畳みかける!!)

 

アミクはさらに強力な魔法を使おうと、魔力を練った。

 

「ふっ!」

 

そうはさせじとジュラが崩れた岩を飛ばしてくる。それらを柔らかい体を活かして、限界まで反らしながら躱す。

だが、対処しきれなかった岩が周りから襲ってきた。そんな時は。

 

「『音竜の響威(フォルツァンド)』!」

 

周囲に衝撃波を放ってふっとばした。

 

 

その間にも、アミクの右手に魔力が込められていく。『音』が鋭利になっていく。

 

(今!!)

 

アミクは右腕を振り上げた。

 

「滅竜奥義!!」

 

アミクが高らかに言い放つと、ジュラもアミクが放とうとしている魔法は自分にとっても脅威になると感じ、身構えた。

 

アミクは、今度は思いっきり右腕を振り下ろす。

 

 

 

 

「『超音刃奏鳴曲(ちょうおんぱソナタ)』!!」

 

 

溜めこんだ『音』が、大きく鋭く、あらゆるものを切り裂く斬撃となって射出された。

 

 

「ぬぅっ!!」

 

危険度を感じ取り、ジュラは自分の前に何枚もの『岩鉄壁』を作りだした。そのすぐ後の事だ。

 

 

巨大な音の斬撃が『岩鉄壁』に触れた。

 

 

 

 

スパァン!

 

 

 

あっさり切り裂かれる。壁を曲げるのも間に合わない。音の斬撃は次々と壁を切り裂いていき、唖然とするジュラの元に到達。

 

 

そして、血飛沫が上がった。

 

 

「ジュラさん!!」

 

「バカな…」

 

「なんだよ、あの魔法!!」

 

「キレるなよ…」

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の面々は信じられないような表情で闘技場を見下ろす。

 

 

 

そこには、斬られて血の滴る片腕を抑えるジュラの姿があった。

 

うおおおおおおおお!!!と観客席から悲鳴と歓声が上がる。

 

 

明らかなダメージ。あのジュラに手痛い一撃を喰らわせたのだ。普通なら考えられない事である。

 

「おおっ!!すげぇ!!」

 

「やりやがったぞアイツ!!」

 

「アミク!!その調子よ!!」

 

ナツ達は興奮してアミクを応援する。エルザも傷を負わせた事に驚いたのか微かに目を見開いていた。

 

 

しかし、ジュラを見るアミクの表情は険しかった。

 

 

(滅竜奥義を使ったのに傷を負ったのは片腕だけ…ジュラさんが直前で避けた)

 

斬撃が当たる直前、ジュラが咄嗟に横に跳んだのだ。お陰で攻撃を喰らったのは片腕だけで済んでしまった。

しかも、複数の壁によって威力も減衰されてしまった。あの程度じゃ、彼にとっては大きな痛手とはならない。

さっきのもそうだったのだが、流石の判断力。こういうのも聖十大魔道であるからこそのものだろう。

 

とにかく、この一撃で決めれなかったのはかなり痛い。というか普通にヤバい。大技を連発してしまったので魔力が乏しくなってきてしまったのだ。

 

「…ここまでの痛みを感じるのは久しぶりだ」

 

ジュラは腕を抑えながらも愉快そうに笑みを浮かべた。見た目か弱そうな少女にこのような傷を付けられるとは。見事。

ならばこちらもそれなりのお見舞いをせねばなるまい。

 

(女とはいえ容赦はせぬぞ)

 

突如、彼の魔力が吹き荒れる。

 

「うわっ…」

 

闘技場のあちこちにある岩が浮かび上がった。それらはアミクの周りを囲むように浮遊する。非常に嫌な予感。

 

 

アミクは咄嗟に跳びあがって避けようとするも…魔力を急激に消費したせいで体が鈍り、反応が遅れてしまった。

 

岩がアミクの元に集結するように飛来して、彼女を閉じ込める。

 

それを見届けると、ジュラは合掌した。

 

「『覇王岩砕』!!」

 

「ああああっ!!!」

 

密集した岩が爆砕し、中から傷だらけで服がボロボロになったアミクが出てきた。彼女は地面に倒れ、ぐったりとし動かなくなる。

 

「「アミク――――!!」」

 

マーチとルーシィの悲鳴が響いた。

 

 

「『おおお――――っと!!ジュラの重い一撃がアミクを襲う―――!!これは決まったか――――!!?』」

 

「アミク!!しっかりしろ!!こんな所で終わるんじゃねえぞ!!」

 

ナツが身を乗り出して叫んだ。

 

 

「これは決まったな」

 

「おおーん、勝ったのかよ!」

 

「だからキレんなって」

 

 

ユウカとトビーが漫才していると、シェリアが「待って!」とアミクに注目する。

 

 

「なんか、様子がおかしくない…?」

 

 

 

ジュラは確かに手ごたえを感じていた。だが、まだ終わってない、と察知し油断なく倒れているアミクを見据える。

そう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)ならやってくれる、という直感の元にだ。

 

その直感は正しかった。

 

 

「…すぅぅぅぅ」

 

 

歓声が轟く中、何かがアミクの口に吸い込まれていく。

 

 

「…この場所は私にとって非常に都合が良い」

 

 

倒れている彼女が語る。

 

 

「此処は沢山の人が居て、私達の試合を見てるから」

 

 

ゴクンと何かを飲み下す音がする。

 

 

「歓声、罵倒、応援…皆、常に騒がしい」

 

 

萎んでいた魔力が膨れ上がった。

 

 

「『声』が飛び交う此処は、私の絶好の食事場となる!」

 

 

アミクの腕が動く。地面に手を付き、勢いを付けて起き上がった。

 

 

「つまり、皆の応援や歓声が文字通り私の力になる!」

 

 

 

ボロボロの格好で、それでも彼女の力強い瞳に射抜かれる。アミクは口元を拭うと拳を自分の手の平に打ち付けた。

 

 

「さぁ、第二ラウンドといきましょうか!」

 

 

 

(なるほど、初代がおっしゃっていたのはこういうことだったか…)

 

マカロフは隣でニコニコと笑みを浮かべるメイビスにちらりと視線を向けた。

 

アミクは音や声を食べて魔力と体力を回復する事ができる。だから、自分達が応援すれば、それがそのままアミクの力になることを察していたのだ。

 

(考えればすぐに分かることじゃったがな)

 

マカロフは再び視線をアミクの試合に向けた。

 

 

 

 

アミクはまずは自分の傷を回復することにした。回復系の付与術(エンチャント)も付けてあったが、即効性が欲しかったので。

 

「~♪『治癒歌(コラール)』!」

 

見る見る内に傷を治すアミクを見て、ジュラは目を細めた。

 

(シェリアのように自己回復できるのだったな…)

 

自己回復の有能性を知っているジュラはアミクの手強さを改めて認識する。

 

 

そして笑みさえ浮かべて啖呵を切ったアミクだったが、正直今のままではジュラに勝てる見込みが少ない。

 

なので。

 

 

「…これはとっておきたかったんだけどな…出し惜しみしてる場合じゃないか…奥の手その1!」

 

アミクは小さく呟くと────自分の中のスイッチを入れた。

 

 

「…モード天音竜」

 

ジュラは目を見張る。アミクの様子が先程とは明らかに変わった。身体から風が音を立てながら放出している。

 

変化したのは姿だけではない。彼女から感じる圧が段違いになった。

 

「これは…驚いたぞ。こんな力を隠し持っていたとは」

 

「本当は使わないでおきたかったんですけど…そうも言ってられないみたいで」

 

アミクは苦笑した。

 

 

『な、なんだー!?アミクの雰囲気が変わったぞー!?』

 

「おおー!!モード天音竜だー!!」

 

「アミクのパワーアップ形態なの!!」

 

実況も観客も何事かと騒めき、ナツ達は歓声を上げた。

 

 

 

 

「何だアレ!?もしかして二属性使ってるのか!?」

 

スティングが驚愕して思わず身を乗り出した。

 

 

「二属性…?滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は基本一つしか属性を持たないだろう?」

 

ローグも怪訝気にアミクを見る。

 

「初めて見るぜあんなの…やっぱすげぇな、アミクさん…」

 

素直に称賛するスティングの瞳には、少年のような無邪気な尊敬の念があった。

 

 

 

 

 

ジュラは底知れない実力を見せるアミクを見て、年甲斐もなく心が滾るのを感じた。今まで、自分が本気を出して戦える相手などロクにいなかった。

でも、目の前の少女は自分を倒せる可能性を秘めている。自分の全力で戦える。

ああ、戦いがこんなにも楽しく感じるなんていつぶりだろう。

 

 

アミクは体勢を低くしてジュラを見据えると────スタートダッシュするように飛び出した。

 

「ハァッ!!」

 

「くっ…」

 

その勢いで拳を振るってジュラに攻撃すると、ジュラは超反応して手の平でガードする。そこに逆の手でパンチを放つとそれも手で防いできた。

 

そうしてアミクがラッシュをして、ジュラがそれを受け止める図がしばらく続く。

 

「『アミクの動きがさっきとは全然違うぞー!!?目にも留まらない攻防が繰り広げられている―――!!』」

 

アミク達の激しい攻防に、全員がこれ以上なく盛り上がった。

 

 

だが、見る人が見れば、どちらが劣勢なのかは分かる。

 

 

「嘘!?ジュラさんが押されてる!?」

 

「こんな光景初めてだ…」

 

 

あのジュラが防戦一方なのだ。ジュラの強さをよく知っているラミアの面々、シェリーやリオン達は唖然としてアミク達の攻防を見ていた。

 

「ジュラ!なにやってんだい!そんな小娘に負けるんじゃない!回すよ!!」

 

「もう回ってます~!!」

 

マスターであるオーバが指を回しながら叫ぶ…その隣で男性が回っていた。

 

 

アミクの素早い拳がいくつかジュラのガードを抜け、撃ちこまれているのだ。急所こそ避けているものの、アミクの素早さに対応しきれてない。

いや、ここまで反応できてることが流石と言うべきか。

 

「くっ…『崖錘』!」

 

これではたまらん、とジュラはアミクの真下の地面から柱を突き上げるが、アミクは咄嗟に側転して躱す。だが今度はジュラの番だ。

 

ジュラはアミクに急接近すると、その頭に向かって手刀を落とした。それだけでも、かなりの威力を誇っている事が分かる。もろに喰らえば意識を一瞬で刈り取られる事だろう。

 

だが、アミクは風を纏い、風の推進力を得て一瞬で横に跳ぶ。ジュラの手刀は空を切り、地面に直撃。地面は陥没した。どんだけだよ。

 

戦慄しながらも、拳を構えて音と風を重点的に纏わせた。更なる轟音がアミクの拳から鳴る。

 

 

「『天音竜の吹響(すいきょう)』!!」 

 

 

ストレートのように撃ちこまれる拳。ジュラは瞬時の判断で両腕を交差して防御。とてつもない衝撃がジュラを襲った。

 

ゴキ、と嫌な音が腕から響く。ジュラの巨体が浮き、遥か後方へとぶっ飛ばされた。

 

 

ずざざざざー、と地面に足を付けて滑りながらも、耐えるジュラ。倒れないところもあっぱれである。

 

ジュラは「ぐぅ…」とボロボロの両腕を痛そうに振った。今度こそマトモなダメージを与えられたようだ。それでも両腕で済んでいるのが怖いのだが。

 

 

もちろんここで終わるつもりはない。もっと畳みかけねば。

 

すうぅぅう、と息を吸う。口に風と音が溜まった。

 

 

「『天音竜の咆哮』ォォ!!」

 

 

「…!!!!」

 

ジュラは合掌する。すると、ジュラを覆うように巨大な仏像のような形をした岩が現れた。風と音のブレスは仏像に直撃すると、ガリガリガリ!!と音を立てた。

 

仏像もブレスを受け止めるかのように耐える。

 

 

物凄い衝撃と突風が周囲にまで轟いた。

 

「おわあああああ!!?」

 

観客達も、実況者も、ナツ達もそれらの風圧によって髪を荒らされた。それほどの威力なのだ。

あれ?チャパティの髪浮いてない?ハゲだったの?

 

 

 

ようやく、嵐の如き衝撃が収まった。

 

皆がジュラの方に注目する。仏像は大半が崩れていた。ジュラ自身も多少傷ついている。

 

しかし、無事だった。

 

 

『おおおおおおっ!!!』

 

 

会場が湧き上がった。あの強攻撃を耐えたのだ。やはりジュラは凄い、と再認識していると。

 

 

「滅竜奥義・改!!」

 

 

既にアミクの方は身構えていた。アミクも、ジュラがこれで終わるはずがない、と直感的に思って準備していたのだ。

 

ジュラは絶大な威力の大技の気配を感じ取り、険しい目つきで、だが笑みを浮かべて待ち構えた。

 

 

そして、音と風が吹き荒れる。

 

 

「『天災神楽組曲(てんさいかぐらスイート)』!!」

 

アミクの奥義が炸裂すると同時に。

 

 

「『巌山(がんざん)』っ!!』」

 

ジュラも先程よりも大きくて頑丈そうな仏像を生み出す。

 

 

アミクの拳が仏像に一発当たった。硬い。足の裏で蹴り付ける。硬い。裏拳。硬い。回し蹴り。硬い。反転してひざ蹴り。硬い。

後ろに回って踵落とし。硬い。腕を引き絞って大振りパンチ。罅が入った。頭突き。頭割れそう、だが仏像が少し欠けた。

 

 

アミクの縦横無尽かつ四方八方からの攻撃が、仏像を砕いていく。

 

 

ドガガガガガガガガ!!と工事現場のような音を響かせながら、ジュラはアミクの猛攻に耐え続けた。

 

「『見えない―――!!アミクの姿が見えない―――!!』」

 

チャパティの言う通り、速すぎてアミクの姿が残像のようになっていた。

 

 

そうして、何秒経ったか。十数秒か、数十秒か、数分か。

 

 

「うああああああ!!!」

 

アミクの最後の一撃。限界まで振り絞った正面突き。

 

 

それが、既にボロボロだった仏像を木端微塵、そのままジュラのガラ空きのお腹にクリティカルヒット。

 

 

周囲の空気を振るわせるほどの衝撃が轟いた。ジュラがぶっ飛ばされる。

 

 

 

 

「決まった――――!!!」

 

「よっしゃあああああ!!!」

 

「マジでパないの!!」

 

ナツ達は大盛り上がり。ほとんどの者がこれで終わりだと思っていた。

 

 

 

 

だが。

 

 

ドン!!

 

 

 

ぶっ飛ばされたジュラが音を立てて着地した。

 

 

 

彼は大きくを息を吐いた。流石にさっきの攻撃は効いたはずだ。多くの汗が浮かび、お腹を抑えて息を荒げているのが良い証拠だろう。

 

しかし現実は非情だった。ジュラは自分の足でしっかりと立っている。その目からも闘志は失われていない。むしろ、蘭々としてきている気がする。

 

 

ここまでタフだなんて。これも、聖十大魔道ゆえだからだろうか…。

 

 

「嘘だろ…」

 

「あれを喰らっても倒れねぇのかよ…」

 

あまりのジュラの頑丈さに言葉を失う妖精の尻尾(フェアリーテイル)。不穏な空気が満ち始めた。

 

 

「…ワシがここまで追い詰められるとは」

 

ジュラはケホッ、と軽く咳をすると指を二本立てた。

 

「礼を言う。久しぶりに楽しい戦いになれた」

 

地面からいくつもの柱が隆起した。

 

 

「だから、ワシの全力を持ってお主にぶつける」

 

 

観客や妖精の尻尾(フェアリーテイル)が慌ててアミクの方を見ると、彼女は膝をついて荒い息を吐いていた。もう、モード天音竜は切れてしまっている。

 

 

「さ、さすがにもう動けないんじゃ…」

 

「魔力回復したと思ったらまたすぐに大量に消費したからな…体が持たんのではないか?」

 

「アミク…」

 

マーチ達が心配そうに見下ろす。

 

「やべぇって!!避けろ―――!!」

 

「アミク、立ってぇ!!」

 

ナツ達も必死に叫んだ。

 

 

 

「おいおい、ありゃ大丈夫なのかよ」

 

「まずいわね…」

 

「…」

 

Bチームも不安げに見守る中、ラクサスはただじっとアミクを見つめていた。

 

 

 

伸びた柱がアミクに向かって殺到する。

 

 

「…うっ…」

 

アミクは悔しげにそれを見つめているだけだった。そして。

 

 

ドドドドドド!!

 

 

アミクの居た場所に柱が次々と突き刺さった。

 

振動が連続して鳴り、地面が震える。容赦のない現場を見て、悲鳴を上げる観客もいた。

 

 

『うわっ、ちょっとやりすぎじゃない!?』

 

『これは、それほどジュラがアミクを危険視しているということでしょうか?』

 

『試合が始まってから、あの娘は何度もピンチに追い込んできたからねぇ』

 

『しかし、さすがに今のは耐えられないのではないでしょうか!』

 

 

重なり合った柱を見ながら、チャパティ達実況者は語り合う。

 

 

そこで。

 

 

 

誰かが気付いた。

 

 

 

「おい、何だアレ…?」

 

 

 

アミクを押し潰したはずの複数の柱の下から、何かが漏れている。よく見れば、柱は地面から少し浮いていた。それを意味する所はつまり…。

 

「これは…」

 

ジュラが目を見開いた直後。

 

 

 

ドガアアアアン!!!と柱が黒いものによって吹き飛ばされた。

 

 

「奥の手、その2!!」

 

 

豪快に両腕を振り上げて叫んだのは緑髪の少女。

 

 

「よかった、無事なの!!」

 

「うおおお!!行け―――!!アミク!!」

 

 

黒い音を響かせながら立つアミクだった。

 

 

(まさか、初日に奥の手を2つも使わせられるなんて思わなかったけど…これで、最後…!!)

 

 

「モード音神…!!」

 

 

 

 

その場にいた全員が目を剥いた。特にアミクから噴き出す魔力に反応したのは2人の人物。

 

 

「嘘!?あの魔力って…」

 

 

「まさか…滅神魔法か!!?」

 

 

シェリアとオルガである。

 

 

「どういうことだい?彼女は滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だと記憶しているが」

 

「それは間違いないぜ」

 

ルーファスの疑問に、スティングが肯定する。

 

 

「気になってしょうがねぇ。なぜスレイヤー系の魔法を二つも使える?」

 

 

オルガもこんなのは初めてだ。軽く混乱しそうになったが、「とにかくアミクさんって昔よりもすげぇんだな」と感心するスティングに呆れた。

 

「随分入れ込んでるよなぁ」

 

「仕方ないさ。ギルドでも彼女の話をしょっちゅう聞かされるからね」

 

ルーファスも同意するように呆れると、スティングに「黙って見ろよ」と注意された。解せぬ。

 

 

 

 

「あの人…同じ属性の滅神魔法まで…?一体何者なの…?」

 

「どういうことだよ!!」

 

「知らねえよ、キレんなよ」

 

シェリアも探るような視線をアミクに向ける。彼女は滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)でもあるのか?

 

元々、自分と似た系統の魔法を使うアミクに関しては(リオンの件もあったが)少し気になっていた。だが、滅神魔法まで使えるとなると、彼女についてますます興味が湧く。

と、同時にほんのちょっと不気味さも感じていた。彼女の滅神魔法が、普通のに比べて少し異質なモノのように感じたからだ。

 

 

 

 

さて、目の前に居るジュラははっきりとアミクの変化を身で感じていた。

 

 

(魔力の質が、変わった…?)

 

 

元々の魔力が、シェリアのそれに近いものになったような感じがする。

 

 

ジュラは思わずふふ、と声に出して笑ってしまった。

 

 

(どこまでも楽しませてくれるギルドよ…)

 

 

別ギルドではあるが、ますます妖精の尻尾(フェアリーテイル)を好きになってしまいそうだった。

 

 

 

アミクも、ジュラに対して尊敬と畏怖を憶えていた。

 

あんなに大技を喰らわせたのに、未だに気力が満ち溢れている。間違いなくダメージは追っているはずだが、大分元気なのだ。

 

悪魔の心臓(グリモアハート)のマスター、ハデス程とは言わないが、ゼロぐらいなら普通に倒せそうである。

 

 

 

全力で、奥の手まで使ってやっとまともなダメージ。聖十の称号に値する実力の持ち主。

 

 

そんな人物と戦っているなんて、誠に光栄なことである。

 

(もう、これが最後の攻撃になるかも…!)

 

音を食べて回復できるとはいえ、そろそろ体が限界だ。

 

しかも、このモード音神、結構不安定である。

 

 

「モード天音竜」がスイッチを入れるようなものだとすると、「モード音神」は眠っているものを起こす感じ。

 

不発の時もあるし、発動できても非常に短時間だ。今だと一発の魔法で限界だろう。

 

 

覚悟を決めて、やるしかない。これが、本当に最後だ。

 

 

 

アミクは右手に自分にある限りの魔力を注ぎ込んだ。彼女の右手に黒い音を纏い、激しく音を立て、膨れ上がる。

 

ジュラもアミクの意図を察知し、魔力を高めた。彼女がそのつもりなら、自分も全身全霊で応えるのみ。

 

観客達も実況も空気を察したのか、会場はしぃん、と静まり返った。

 

マーチとルーシィは不安げに、ナツは楽しげに、ラクサスは冷静に見る。

 

 

一瞬、風を感じた。

 

 

「────『音神の故響(クラシック)』!!」

 

 

アミクは音を纏わせた拳を地面に叩き付けた。

 

するとどうだ。叩き付けた地面から黒い衝撃波が大きく飛び出すように発生したではないか。それだけではない。

巨大な黒い衝撃波は地面に沿うように前方に向かって突き進んでいく。つまり、ジュラの元に。

 

轟音を放ち、地面を抉りながら襲い来る黒い衝撃波。

 

 

ジュラは焦るでもなく、ただ冷静に合掌した。

 

 

彼も最大の魔法を放つ。

 

 

「『鳴動富嶽(めいどうふがく)』!」

 

 

地面から巨大な爆発が起こった。

 

 

衝撃波と爆発。2つがぶつかり合い、とてつもない衝撃を会場内全てに轟かせた。きっと、この会場のどこに居ようとも振動を感じることだろう。

 

土煙がボフゥ!と立ち込め、闘技場内の様子が見えなくなった。

 

「きゃああああ!!!」

 

「うわあああああ!!!」

 

 

その衝撃にモロに晒された人達は悲鳴を上げる。

 

 

「くっ…どうなった!?」

 

エルザは歯を食いしばって、土煙が立ち込める闘技場を見下ろした。

 

『す、凄い威力でしたね!両者、とんでもない魔法をぶつけ合いました!さて、立っているのはどちらでしょう…?』

 

全員、固唾を呑んで土煙が晴れるのを待った。一体どっちだ。どっちが勝者になるのか。

 

 

誰かがゴクリ、と唾を飲む。

 

 

 

ようやく、土煙が晴れた。

 

 

 

 

 

そして見えた光景に息を飲んだ。

 

 

 

 

傷だらけで膝をついてへたり込むアミクと、同じく傷だらけ、そして合掌したまま立ち尽くすジュラ。

 

 

 

『立っているのはジュラだーーーーー!!あの数々の苛烈な攻撃を耐えきり、そして最後までその姿勢を崩さなかったのは聖十のジュラだーーーー!!』

 

おおおおおおおおおお!!!と大歓声があがった。

 

 

決着は付いた、とみんな思った。

 

 

「アミク…」

 

「アミクはよく頑張った」

 

「うん、凄かったの!」

 

 

 

「ナイスガッツよ、アミク!」

 

「ああ、漢だ!」

 

残念そうながらも、だがアミクの健闘を称えるマカロフやエルフマン達。あのジュラを相手して追い詰めただけで上出来だ。

 

 

 

(…あと一歩、足りなかったなぁ…)

 

アミクはあの爆発を喰らい、魔力もほぼ空で体がロクに動けない。幸いなのは、爆発がアミクの衝撃波で相殺され、若干威力が弱まっていたことか。

 

だが、膝を付いている自分に対してジュラは両足で立って、しっかりと自分を見据えている。意識がしっかりしてる証拠だ。これは勝者はどちらなのか明らかだろう。

 

悔しい。

 

全力を出したのに、負けてしまったのが悔しい。自分の力が僅かに及ばなかったのが悔しい。ウェンディやルーシィ達の分の想いも背負って戦ったのに…。

 

アミクの目に涙が浮かんだ。

 

 

「さあ、ジュラ!その小娘にトドメを刺すんだよ!」

 

調子に乗ったオーバがそんなことを言うが…。

 

 

 

ジュラは動かなかった。勝利を確信しているからか。

 

いや、違う。動けなかったのだ。

 

 

「…大した若者だ」

 

 

ジュラは鈍い音を立てて膝を地面に付けた。

 

 

 

この試合で一度も膝を付かなかった男が、だ。

 

 

『…!!?』

 

全員何が起こったのか分からず、呆然としていた。

 

 

「しばらくは動けそうにないな」

 

 

ジュラは膝を付いたままそう口にする。

 

 

彼も、威力を減衰された衝撃波をモロに喰らってたのだ。そして、蓄積されたダメージにより、とうとうジュラも限界になったというわけだ。

 

 

アミクもジュラも、互いを見つめ合ったまま動けない。

 

 

 

 

その時。

 

 

『な、なんとーーー!!ここで30分が経ちましたーーー!!タイムアップーーー!!両者、撃破ならず!!よって、この試合は引き分けでーーーす!!!』

 

 

まさかの結果に観客達は唖然となり、騒めき出した。

 

 

「引き分け?」「決着が付かなかったってこと?」「なんか不完全燃焼〜!」「でも、あのジュラ相手に引き分けに持ち込めたのは相当だぞ…」「あの女の子とんでもないな…」

 

 

納得のいかないような声も出ていたが、ジュラが相手で引き分けなのも凄いことだ、と人々は認識する。やがて、疎らに拍手が鳴り始めた。

 

 

 

最後まで戦い抜いた2人への賛辞。彼らなりの誠意を込めたのだ。

 

 

「…凄い試合だったね」

 

「よくやったアミク!」

 

「最高なのーーー!!」

 

マーチ達が観客席から労った。

 

 

「アミクーーーー!!お疲れーーーー!!」

 

「いいぞーーー!!」

 

ナツやルーシィ達も、戦いで疲労した少女に笑みを送った。

 

 

 

(引き分け…か)

 

負けでも勝ちでもない、中途半端な結果。喜ぶべきか、悔やむべきか。まぁ、ある意味自分に相応しい結果なのかもしれない。

 

でも、これで5ポイントは獲得できた。自分達にとって本日一番の高得点だ。

 

 

「大事ないか」

 

アミクが顔を上げると、いつの間にかジュラが手を差し伸べていた。

 

「もう回復したんですか!?」

 

「歩ける程度にはな」

 

やっぱバケモンだよ、この人。

 

 

 

「…楽しかったぞ、アミク殿」

 

「私、も…で、すぅ…」

 

 

ただ、そこでアミクの意識は暗くなっていく。限界が来たのだろう。

 

 

ボヤける視界で、慌てるジュラが見える。

 

 

 

そして、暗転した。

 




なんかワンパターンだったような気がしないでもないけど、結果はこんん感じにしました。
今年もよろしく!良いお年を!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。