シャワーを浴びてすっきりしたルーシィは部屋に戻った。
毎回思うのだがあのシャンプーどこで売ってるのだろう。後でアミクに聞いてみることにする。
そう思いながら、ドアを開けると――――
「よう!遅かったじゃねぇか!」
「あい!」
「きゃあああああ!!?不法侵入!!?」
「ぐえ!?」
ルーシィはいつの間にか部屋に居たナツを蹴飛ばし、壁に叩きつけた。
その拍子に1枚の紙がひらりと落ちてきた。ルーシィがそれを拾う。
「え?なにこれ?依頼書?」
「おう!ルーシィ!S級クエスト行くぞ!」
「はいはい仕事の話ねー・・・ってえええええ!!!」
ルーシィは驚愕してまじまじと依頼書を見た。
「S級ってこれが!?行かないわよ、そんな危険な仕事!」
「なんだよ、つまんねぇな。怖じ気付いたのか?」
「当たり前でしょ!ていうかS級魔導士以外は行っちゃだめなんでしょ?命令違反じゃない!あたしは嫌よ、怒られるの!」
「ナツー。ルーシィもこう言ってるし諦めたらー?」
「しょうがねぇな」
ナツがよっこらせ、と立ち上がった。
「ちょっと!アミク誘ったんじゃないでしょうね!?」
「誘ってねーし、誘わねーよ」
「・・・え?」
てっきり誘って強引にでも連れていくかと思ったのだが。
「アイツ真面目だから反対すると思うぜ?巻き込むのもアレだしな」
「あたしは巻き込んでも良かったわけ・・・?」
「ほんとは連れて行きてぇよ。でも今はあいつ疲れてるだろうし。寝てんだろ?今」
ルーシィは素直に驚いた。まさかこの熱血馬鹿がそんな気遣いができるとは。
「確かに、昨日あんまり寝れなかったって言ってたわよね」
「あい、牢屋に居たからね!」
「でもなによーナツってばー、そんなにアミクのこと大切に思ってるんだー、このこのー」
「あたりめぇだろ。仲間だぞ?」
ルーシィがからかう様に言うがナツは憮然と言い返す。
「はいはい、そういうことにしといてあげる。とにかく、あたしは行かないからね!」
「分かったよ。俺達だけで行くか。じゃぁな」
「おやすみー」
「ちょっと!危ないわよ!」
ルーシィが慌てて止めるがナツ達は手を振って部屋から出て行った。
「・・・はぁ、これギルドに連絡したほうがいいのかしら・・・」
ふ、とルーシィは依頼書に目を落とす。そこで、報酬の欄に注目した。
「えっと、報酬はお金と・・・そういえば家賃集めなきゃ」
視線は左に流れて
「・・・黄金の鍵!?」
そこで止まった。黄金の鍵。星霊の黄道十二門のことだろう。
「・・・ふふ!」
ルーシィは怪しく笑うと
「待って!やっぱりあたしも行く!」
そう言ってナツ達を追いかけた。
依頼場所はガルナ島。ガルナ島はハルジオン港が近いらしいのでひとまずそこに行くことにする。なのでハルジオン行きの列車に乗るために駅で待ってるところだ。
「にしても本当に良かったのか?お前さっきまでビビってたろ」
「魔導士は冒険してナンボよ!それにケム・ザレオンだって魔導士として色々冒険したみたいだし。それに報酬は鍵だし!」
「最後のが一番の理由な気がするー」
「現金だねー」
「なるほど、なの」
「ま、なんだっていいや。とにかく、俺はさっさとこの依頼を成功させてラクサスや皆をぎゃふん、と言わせてやるんだ!」
「ふんふん、ぎゃふん、とね」
「そうだ、ついでにアミクへのお土産も持ってくるか!あの島の卵とか」
「それはいい考えだね!!」
「そうね、きっとアミクもよろこ・・・」
ピシリ
ナツとルーシィとハッピーがこちらを向いて固まった。
それはまるで幽霊でも見たかのように。
「で?ナツとハッピー、ルーシィは何をしているのかな」
そこにはニッコリ笑顔のアミクと無表情のマーチが居た。
「「「で、出たあああああああああ!!!」」」
「うん、私の地獄耳舐めないでほしいな。大きな音がして起きたらなんか興味深そうな話してるのが聞こえてね。マーチと一緒に追いかけて来たんですよ」
「「「あい・・・」」」
今、2人と1匹は正座させられていた。目の前には腕を組んだアミクが立っている。マーチはアミクの頭に乗っていた。
まさか自分達より年下の少女に説教されることになるとは。
ちなみに大きな音というのはルーシィがナツを蹴飛ばした時のことだろう。
「大体話は『聴いて』いたから分かるけど、ナツ達だけでS級クエストに行くとか何考えてんの?
ルーシィだって聞いてたでしょ?S級は命がいくらあっても足りないって。
ナツだって
そこでアミクの顔が悲しげになった。ナツも強張る。ハッピーも気まずげだ。
「・・・?」
よく分かってないのはルーシィだけだった。
「・・・忘れるわけがねぇ。でも俺は死なねぇよ。俺は強いしこの依頼を達成させる自信も実力もあるぞ!」
「口だけだったらなんだって言えるよね?それにS級クエストはそんなに甘くない。エルザでさえ大怪我する時だってあるんだよ?
エルザに勝てない君なんかすぐにコテンパンなんだから。過信が身を滅ぼすんだ」
さっきラクサスが言ってたのと似たようなことを言ったがラクサスにあったのは嘲り、アミクにあるのは厳しさと優しさだった。
「・・・頼む!俺を信じてくれ!」
「えっ?」
ナツは正座したまま頭を下げた。アミクは戸惑ったようにそれを見る。
ナツは顔を上げるとアミクの目を真っ直ぐに見た。
「俺は必ず、依頼を成し遂げてやる!俺の力でもできるってことを証明するんだ!だから行かせてくれよ、アミク!」
「私からもお願い!どうしても欲しいのがあるの!」
「オイラはナツ達について行くよー!」
ルーシィも頼みこみ、ハッピーは平常運転。
しばらく、沈黙が続いた。アミクとナツの視線がぶつかり合う。
そこに列車が入って来る。
「・・・はぁ、しょうがないなぁ」
先に視線を逸らしたのはアミクだった。
アミクは息を吐くとその列車に向かって歩き始めた。マーチも後を追いかける。
「・・・え?」
「お?」
「あい?」
「どうしたの?早く行くよ」
「置いて行く、なの」
「え、いや、アミクも行くの?」
ルーシィが聞く。
「ナツ達を止められなかったのは私の責任だからね。毒を喰らわば皿まで、って言うしね。付き合うよ」
「そう、なの」
「それに友達の頼みごとはね、なるべく叶えてあげたいんだよ」
その言葉にナツ達は顔を見合わせると、嬉しそうに破顔した。
数分後。
「うぷ・・・」
「わ・・・忘れてた・・・」
列車で思いっきり酔う2人。
「・・・締まらないわね・・・」
「あい!でもそれがナツ達なのです!」
「なの」
一方。
「ナツとルーシィ、ハッピー。それにまさかアミクとマーチまで・・・」
ギルドではナツ達がS級の依頼書を持っていったことが発覚していた。
「なんだかんだナツには甘いところあるからな、アミクは・・・」
「とほほ・・・わしの唯一の心の平穏が・・・グレとる・・・」
「あ、そういう認識なんだ」
そんな風に騒ぐギルド内を見下ろすラクサス。
(・・・そうか。アイツも行ったのか・・・)
ラクサスは面白くなさそうにグラスを回した。
(・・・ったく。何で俺がアイツを気にしなくちゃならねェ・・・)
彼はバチバチッと雷を放出させるとグラスを溶かす。
そして、皮肉気に笑った。ラクサスとしてはアミクがS級に行ってどうなろうと関係がないはずだった。
(俺の『
だからS級クエストをクリアできたら・・・)
港街ハルジオン。
「うわぁ〜、懐かしい!此処って私とナツ達と初めて出会った街よね!」
「へ~、此処が・・・」
「そんなに懐かしいか?」
「ルーシィが老けちゃった・・・」
「ババァ、なの」
「失礼ね!?特にマーチ!」
アミクもルーシィから聞いただけだったが、なんでも此処で
それをナツが助けたのだとか。
「運命的な出会いってヤツだね」
「運命的ね・・・確かに」
「運命を信じるなんて、ロマンチスト、なの」
「オイラとマーチの出会いは運命的だったよ~」
ハッピーが露骨なアピールをするが相手にしていない。
「それより、此処からどう行くの?船で行く?」
「船かぁ・・・うぷ」
「さっき『
「とりあえず、『ガルナ島』に行く船を探しましょ」
しかし―――――
しばらく探してみてもガルナ島にいく船は見つからなかった。
というのも、誰もガルナ島に近づかないのだ。ガルナ島は『呪われた島』と呼ばれ、時には名前すら聞きたくないという者までいる始末だ。
「仕方ねぇ、泳いでいくか!」
「自殺行為でしょ!」
「ハッピーとマーチでもあそこまで魔力が持つか分からないし・・・」
八方ふさがりだ。
途方に暮れてる3人と2匹。そこに――――
「みーっつけた」
小声が響く。
最初反応したのはやはりアミクだった。バッと声がした方を向く。
そんなアミクの様子に気付いたナツとルーシィもそちらを見た。
「グレイ!」
グレイが不敵な笑顔で居た。
「ど、どうして此処に・・・」
「じーさんに連れ戻して来いって頼まれてな」
グレイは一歩前に出るとアミクを睨んだ。
「大体こういうのはアミクが止めるべきだろ。何でお前も一緒になってS級クエスト受けようとしてるんだよ」
「ごめんなさい・・・。でも、私はナツを信じるって決めたから。
ナツがやるっていうなら私も付き合うまでだよ。それでこそ『双竜』だし」
アミクがグレイの目を真っ直ぐに見て言うとグレイがため息をついた。
「はぁ、相変わらずナツに甘ぇな・・・。今ならまだ破門も免れるかもしれないぞ」
『破門!?』
アミク達は驚いた。まさかなにかしら罰はあるだろうと覚悟していたがそこまで重いものだったとは。
「それに今は仕事で居ないが、もし、エルザに知られたら・・・」
そう、そこも懸念事項なのだ。
エルザは『
自分で望んでしたとは言え、あまりエルザを怒らせたくない。
どうやってエルザを説得しようか、というのもアミクの悩みの種だった。
「そ、そんなもの関係ねぇ!俺達は戻らねぇ!」
「ナツ!・・・アミクも同じか?もう引き返せないかもしれないぞ?」
そしてなにより『破門』の可能性。
それが一番恐ろしい。
「や、やだよ・・・破門は・・・」
ブルブルと目に涙を貯めて震える。あっという間に涙腺は崩壊し、涙がポロポロと零れた。
「ちょっと!アミクを泣かせないでよ!」
「うぇえ、そんなつもりじゃ・・・」
ルーシィがそんなアミクを抱き寄せてグレイを威嚇する。なぜか立場が逆転した。
「大丈夫だ」
その時、ナツがアミクの頭を撫でる。
「お前の居場所は無くならねェよ」
なんの根拠もない言葉。だが、その力強い『声』はアミクの心を落ち着かせるには十分だった。
「・・・ごめんね、取り乱しちゃって」
「大丈夫?なの」
マーチがアミクの足を擦る。
「うん、落ち着いた。もう大丈夫」
「と、とにかくだ。どうしても嫌だって言うなら仕方ねェ。マスターの命令だ!引きずってでも連れ戻してやる!
怪我しても泣くなよ!!」
「上等だ!!」
「ちょ、ちょっと!」
そうしてナツとグレイが向きあい、あわや一触即発といったとき、
「な、なああんたら、魔導士なのか?もしかして、島の呪いを解くために?」
するとハルジオンに船を止めていた1人の船乗りが一行に近づいて来た。
「うん、そうだよ。その呪いを解くのが仕事なんだ」
アミクが答えた。
「行かせねぇよ!」
グレイが慌ててアミクの腕を掴もうとして――――――
手が滑ったのかアミクの胸を鷲掴みにした。
「あ」
「・・・きゃ」
「なにすんのよこの変態ぃ―――――――――!!!!」
アミクが真っ赤になって叫ぶ前にルーシィがグレイの頭を蹴り抜く。
「ごはぁ!!?」
グレイはそのままズザザザーと滑っていった。
「おおー」
「凄い、の」
猫2匹が呑気に手を叩く。
「と、とにかく乗りなさい」
一部始終を見ていた男が冷や汗を流しながら言った。
「え?いいの?」
ルーシィが聞くと男は頷いた。
「おっしゃー!船ゲット!」
「やったー!」
「なのー!」
早速ナツ達は船に乗り込む。
「ま、待て・・・行かせると、思う、か・・・?」
なんとか立ち上がったグレイだが、すでにフラフラだ。その時、
「お前達!そこでなにをしている!」
エルザの声がグレイの後ろから響いた。
「げぇ!?エルザぁ!?」
グレイはバッと後ろを振り向いた。
だが、そこには誰も居ない。
「あ・・・?」
グレイがポカンとしていると
「『
眠気を誘う歌が聞こえてくる。
「・・・しまっ・・・た」
グレイはぶっ倒れてそのまま寝てしまった。
「びっくりしたー!ほんとにエルザ来たのかと思ったぜ!」
「あたしも!でもどうやったのアミク?」
寝てしまったグレイを船まで運び、連れて行くことにしたアミク達。グレイがギルドまで戻ってエルザが来てしまうのを恐れたためだ。
そして、出発してしばらくしてから質問を受けたのだ。
「あれは『
「凄い応用利くわね、それ。あの後使ったのは前に言ってた眠らせる方のララバイよね?」
「そう、なの」
「だれにでも効くってわけじゃなくて子供や、弱ってる人に効きやすいんだ。
ちょうどルーシィが蹴飛ばしてくれたからダメージ負ってたから、隙を作って眠らせたんだ」
「なにが幸いするか分からないものね・・・あ、てか胸大丈夫?」
「ううぅ、あんながっつり掴まれるなんて・・・」
アミクが赤面した。
数時間が経過すると日はすっかり落ち、更に周りには濃い霧が視界を防ぐように立ち込める。しかし一行を乗せた船は迷わずまっすぐと目的地に向かうのだった。
「それで、ナツはこう言ったの。『てめぇにやるニンジンはねぇ!』って」
「あははは!なにそれー!」
「そんなこともあったっけか」
「マーチ。ナツってどっちを正妻にすると思う?」
「あーしとしてはアミクになって欲しい、の」
すっかり寛いでいる一行。ナツとアミクは『
「はぁ・・・呑気なもんだぜ・・・。つーかおっさん。なんで船を出したんだ?こっちはいい迷惑だぜ」
復活したグレイが男に文句を言う。グレイは念のために暴れないように縛られている。
船乗りの男はこちらに向き直って語った。
「俺の名はボボ・・・かつてあの島の住人だった」
「住人、だった?」
気になる言い回しにルーシィがキョトンとする。
「・・・逃げ出したんだ、あの呪われた島を」
「呪い・・・皆怖がってたけど、その呪いって?」
アミクが質問をぶつける
「災いは君達にも降りかかる。島に行くと言うのはそう言う事だ。君達にその呪いが解けるかね?」
船乗りの男は着ているローブを取る。その男の片腕はとても禍々しく人間とは思えない形と色をしていた。
全員驚いて言葉も出ない。
「この悪魔の呪いを」
「おっさん、あんた・・・」
「の、呪いってまさかその……?」
「見えてきた、あれがガルナ島だ」
男の言葉に船の前方に目を向けるアミク達。徐々に霧がはれると遠くに1つの島が見えてきた。
「ねぇ、おじさん、ってあれ?」
ルーシィは男に話かけようと振り向くが、そこには誰もいなかった。きょろきょろと辺りを見渡す一同。
しかし、アミクには『聴こえ』ていた。振り向く直前の『バサッ』という音。
今もバサッバサッと音が聞こえる。上を向くと何かのシルエットが飛んでいくところだった。
(あれは・・・いったい・・・・)
「どうなってやがる」
皆で探しても見つからない男を心配するアミクを除いた者達。するとアミクの耳に何か音が聴こえてきた。
「なにこの音・・・」
「音・・・?」
ルーシィも耳をすますと微かに聞こえてくる。しかも徐々にその音は大きくなっていく。聞こえる方に視線を向けると巨大な津波がこちらに向かって来ていた。
『ぎゃあぁぁぁぁ!!??』
全てを呑み込まんとする大波に呆然とするアミク達。
「でかー!?」
「ハッピー、マーチ、この船持ち上げて!」
「無茶言わないでよ!」
「さすがに、重い、の」
「おぷっ・・・」
「うわ、最悪!『
「グレイ! 凍らせて!」
「縛られてるから無理に決まってんだろ!」
「だれなの!?縛ったの!」
「テメェだろアミク!」
「う、うぷ・・・」
「も、もうダメー!!」
そのままアミク達は波に攫われてしまった・・・。
感想待ってるぜ!