妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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正月太りしないようにご注意ください。


1日目終了

地面に倒れ込み気絶してしまったアミク。完全に目を回している。

 

 

『あ―――っと!!アミク、試合が終わった後にダウン――――!!』

 

『疲れたんだろうね。休ませてあげなよ』

 

ヤジマが気遣いを口にした。

 

『それにしても予想を超える激闘でしたね!』

 

『終始アミクちゃんはジュラと互角以上に渡り合ってたのう』

 

『私よりも若いのにすごーい!!』

 

実況達はアミク達を褒め称えた。観客達も「凄かったぞー!」「かっこよかったー!」と気絶しているアミクに称賛を送っていた。

 

 

「ジュラさんと相討ちとは…」

 

「相討ちじゃなくて引き分けだよ!」

 

「だからキレんなって。オレ何回言わなきゃならねェんだこのセリフ」

 

「凄い…」

 

「流石アミクだな」

 

 

 

ラミアのギルドは勿論、他のギルドの者も多くがアミク達の戦いを称えるものだった。

…ジュラが勝てなかった事がショックだったのか、オーバはしばらく回っていたが。

 

 

「へぇ、やるねぇ」

 

「ほぉ…」

 

「今回も驚かせてくれたな、アミクさんは」

 

最強のギルドと呼ばれる剣咬の虎(セイバートゥース)もアミクに一目置いた。

 

 

 

 

 

「こ、これは…衛生兵を呼んだ方がいいのか…?」

 

ジュラは倒れているアミクを見てオロオロした。と、そこに1人の男がやってくる。

 

「…こんなトコで寝てんじゃねーよ」

 

ラクサスだ。気絶したアミクを迎えに来たのだ。

 

「迎えか…かたじけない」

 

「いや、気にするな。こっちこそ困らせて悪かったな」

 

ラクサスはアミクの軽い身体を抱き上げる。相変わらず驚くほどの軽さ。

 

腕の中の彼女を見下ろす。白い肌に傷をいっぱい付けている。

こんなになるまで戦ったのだ。ギルドの為に。

 

『これで、大魔闘演武一日目終了!総合順位はこのようになりました!!』

 

 

宙に各ギルドの順位が表示された。

 

 

1位が当然剣咬の虎(セイバートゥース)、20P。

2位が腹立たしい事に大鴉の尻尾(レイブンテイル)、18P。

3位は青い天馬(ブルーペガサス)。ポイントは14。

4位。蛇姫の鱗(ラミアスケイル)で11P。

そして、5位がアミク達のチーム、妖精の尻尾(フェアリーテイル)B。そのポイントは6。

6位、人魚の踵(マーメイドヒール)。3P。

7位、四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)、2P。

8位、つまり最下位。妖精の尻尾(フェアリーテイル)…0P。

 

 

「Aチーム0点、Bチーム6点…かぁ…」

 

「Bチームはともかく、Aチームは散々だね…」

 

「でもBチームも1位とは結構差があるぞ…」

 

レビィ達はそれを見て難しい顔をした。両チームを責めるわけではないが、出だしがこれでは優勝は難しいのではないだろうか。

 

 

「AチームもBチームも頑張ったの!!」

 

「それは分かっておる…じゃが…」

 

マカロフもちょっとショックな様子だ。ただ、やはりBチームが5位なのがせめてもの救いなのか、ショックは少ない。

 

 

『いかがですか、ヤジマさん!1位はやはり剣咬の虎(セイバートゥース)。片や2チーム送りこんだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)が5位と8位という結果になりましたが…』

 

『まだ1日目だねぇ。Bチームはまだ上に行けそうだ、Aチームも明日以降、逆転劇があるといいねぇ』

 

青い天馬(ウチ)もまだ優勝が狙えるし、ホント2日目が楽しみね』

 

もう1日目は終了だ。3人は締めくくりに入った。

 

『ヤジマさん、ジェニーさん!本日はどうもありがとうございました!』

 

『どうもねぇ』

 

『皆~またね~♪』

 

 

 

 

アミクを抱えて出口へと向かうラクサス。…お姫様抱っこで。自分の腕の中で気持ちよさそうに眠るアミクを見ていると、妙な気持ちになってくる。

だが、ラクサスはそれを表情には出さずに────とはいえ、表情が緩んでいるのは丸分かりだが────歩いて行く。

 

 

その様子を見下ろすナツ達。

 

「あたし達はアレだったけど…アミク凄かったよね!後でうん、と労ってあげなくちゃ!!」

 

「そうだな。ブロッコリーとゆで卵を大量に用意してあげよう」

 

「うむ、漢だ!!」

 

「絶対関係ない…」

 

そこでルーシィはナツが微妙な表情でアミク達の方を見ている事に気付く。

 

「どうしたのナツ?」

 

「…なーんか面白くねぇんだよなぁ…」

 

「ふーん?ナツもジュラとケンカしたかったの?」

 

ルーシィはその様子を「ジュラと闘えたアミクが羨ましいから」だと解釈したらしい。

 

「それもそうだけどよ、そうじゃなくてなぁ」

 

ナツは「うーん」と腕を組んでラクサスとアミクを見つめたのだった。

 

 

 

 

 

廊下に戻ると、ミラがニコニコ、ガジルがニヤニヤと笑いながら待っていた。

 

「お疲れ様」

 

「おーおー、カッコイイねぇ。お姫サマを迎えに行く騎士(ナイト)ってヤツか?」

 

「フン」

 

ラクサスは怒るでもなく鼻で笑って一蹴すると、そのまま医務室に向かっていった。

 

 

 

 

 

目の前にブロッコリーと卵がたくさん…。なぜか手と足が生えて自由に動き回っているけど、些細なことだよね?

 

「アミクちゃーん!」

 

「こっち来て一緒に遊ぼー!」

 

卵とブロッコリーが手招きしてる。ああ、ここは極楽だ。天国だ。こんなに好きなものに囲まれる日が来るなんて。

 

 

「分かったー!今行くよー!」

 

彼らに向かって走り出す。彼らに触れるため、その艶やかなでツルツルな肌に吸いつくため。

 

走る。

 

なのに、全然進まない。走っているはずなのに進まない。

 

 

それどころかどんどん遠くなっていく。彼らの姿が小さくなっていく。

 

 

「あ!待って!!私のエッグブロッコリーちゃん!!」

 

 

 

 

「誰がエッグなんとかだって?」

 

「…ふぇ?」

 

手を伸ばした先に居るのはポーリュシカの気難しい顔。

 

 

「タマゴおばあちゃんだぁ」

 

「いつまで寝ぼけてんだい」

 

「…此処は」

 

身を起して周りを見回してみると、此処は医務室のようだ。アミクは医務室のベッドで寝ていて、隣のベッドではウェンディが眠っている。

 

「あ、シャルル起きたんだ!」

 

「ええ…」

 

シャルルは元気になったらしい。

 

「良かったー!…ウェンディが心配?」

 

しかし、シャルルの表情が浮かないのでそう聞いてみると、シャルルはビクッとした後「まぁね…」と答えた。やっぱり元気がないように見えるのだが…。

 

「それより、自分の心配したら?あんなに怪我だらけになって…」

 

「もう大丈夫みたい!」

 

包帯を巻かれていたりなど、手当はされたみたいで、さっきより断然よくなった。ポーリュシカが施してくれたのだろう。

 

「ありがとう、おばあちゃん!」

 

アミクがお礼を言うと、ポーリュシカはカッと目を見開き。

 

「元気になったならさっさと出ていきな!」

 

「そんな殺生なっ!?」

 

「すぐに無茶する小娘の面倒なんか見切れないよ!」

 

シッシッ、と手を振るポーリュシカにしょんぼりしながらアミクはベッドから降りた。

 

「早くあいつらの所に行ってやりな。宿の近くの酒場にいるだとさ」

 

だが、続くポーリュシカの言葉に思わず笑顔になった。彼女はアミクを妖精の尻尾(フェアリーテイル)の元に送ろうとしていたのだ。

 

アミクがニマニマしていると、ポーリュシカは眦を釣り上げた。

 

「気持ち悪い笑みを浮かべるんじゃないよ!さぁ、出てった出てった!」

 

「はいはい、分かった分かった…その前に」

 

アミクはぐっすり眠っているウェンディに近付き、そっと囁いた。

 

「私達、明日も頑張るから。早く元気になってね」

 

それから、シャルルとポーリュシカに「ウェンディのこと、お願いね!」と託し、医務室を出ていった。

 

さて、皆が待つ酒場に向かったのだった。

 

 

 

 

 

大分寝ていたらしく、外はもう暗くなり始めていた。会場を出てしばらく歩くと、ナツ達が泊っている宿が見える。そして、その近くに酒場があった。

 

「あそこだね。うん、皆居るみたい」

 

匂いと音で確認したアミクは早速中に入ることにした。

 

「どうも~」

 

アミクが入ると、皆の視線が一斉に彼女に向けられる。ちょっと怖かった。

 

 

「あ、ご、ごめん…?」

 

何か反射的に謝ってしまったが、冷静に考えれば悪い事をしたわけではない。

 

次の瞬間。

 

 

「今日のMVPが来たぞ!!」

 

「あのジュラが相手だってのに一歩も引かなかったな!!」

 

「久しぶりに熱くなったよ!!」

 

「あれは惜しかったな」

 

「やっぱりあーしのアミクは自慢の相棒なの!」

 

 

皆から投げかけられるのは称賛の嵐。

 

「え、えへへ…」

 

アミクは恥ずかしそうに照れた。このように真っ直ぐ褒められると照れくさい。そこにナツがやってくる。

 

「なに突っ立ってんだよ。ほら、今日は騒ごうぜ!明日への気合も兼ねてだ!」

 

「騒がしいのはいつもでしょ」

 

アミクは苦笑しながらもナツが差し出してくれたジュースを手に取る。

 

それを見届けたマカロフはジョッキを高く掲げて言い放った。

 

「惨敗記念とアミクの奮闘を祝ってパァ―――ッとやるかぁ!」

 

「惨敗記念は余計じゃん」

 

だが、それがルーシィ達の惨めな敗北を笑い飛ばしてくれているようだった。マカロフの気遣いが滲み出ていて嬉しくなる。

 

「ギヒッ、どうせなら勝って来いよ」

 

「ちょっとガジル」

 

ガジルは相変わらず意地悪だ。アミクは笑って誤魔化すと豪快に酒を飲んでいるカナに近付く。

 

「カナは今日見なかったけど何してたの?」

 

「コイツ、酒場巡りしてて応援にも来なかったんだぜ」

 

カナの代わりにエルフマンが答えると、カナは「見てたよ!」と反論する。

 

 

「どこの酒場にも魔水晶映像(ラクリマヴィジョン)が置いてあるんだ」

 

酔っぱらうカナは不満げに説明する。でも、酒場巡りしてたのは本当なんだよね?

 

 

「しかし、とんだ1日だったな」

 

「そうね。お互い明日から頑張らないと」

 

エルザとミラが言うと、ナツが「明日はオレが出る!」と宣言した。

 

 

「絶対に巻き返してやるんだ!」「頑張ってねナツ!」

 

「ほぉう、火竜(サラマンダー)が出るってなら、オレも出ようか」

 

「そろそろ修行の成果を見せてやるといい」

 

ナツに対抗しようとしたのかガジルまでそう言いだした。

 

「あのう…私も出たいけど…」

 

「譲れ」

 

「はぁ、分かったよ…」

 

「アミクは今日頑張ったから明日は休んでいいと思うの」

 

 

アミクの意見は取り下げられた。まぁ、マーチの言う事も一理あるか。

 

 

「あれ?ルーちゃんとグレイは?」

 

レビィが2人が居ない事に気付く。そういえば見かけない。

 

 

(やっぱり…顔が出しづらいのかな…)

 

あんな負け方をしたのだ。皆に合わせる顔がないとでも思っているのかもしれない。

それを言うならジュビアも酷い結果ではあったが、彼女はこの場には居る。立ち直ったらしい。

 

「オレは2人ともカッコよく見えたぜ。なぁ、アミク姉」

 

「うん。私もそう思うけど…」

 

ロメオがそう言ってくれるのは救いだが、本人達がどう思っているかが問題だと思う。特にルーシィは抱え込んでしまいそうで心配だ。

 

さて、ここで妄想女のジュビア。

 

「グレイ様とルーシィが…!!」

 

彼女がブツブツと口に出していた妄想を聞くと、落ち込んでいるルーシィがグレイに「1人にしないで…」とかと迫り。

 

「あたし、本当はグレイのことが…」「よせ!オレにはジュビアが…!」「好きなの、グレイ!」なんてことになり、その後2人でチョメチョメ…。

 

「アホすぎる…」

 

こんなに想像力逞しいのなら、小説家になれるのでは?小説家は小説家でも官能小説家。

 

「ほら、変な妄想しない!ジュビアも飲んで!今日はお疲れ!」

 

「アミク…はぁ」

 

やっぱり、ジュビアも今日の事はまだ気にしてるみたいだ。今日はたくさん騒いで気持ちを切り替えてくれたらいいのだが。

 

 

「あ!ルーシィ!グレイも!」

 

ちょうどルーシィとグレイの2人がやってくる。

 

『グレイはもう大丈夫だ』

 

ウルがそう言ってくる。ずっと一緒に居たから彼女の言葉は間違いないだろう。

 

「ルーシィ、もう大丈夫?」

 

「全然平気!逆にやる気出てきちゃった!」

 

笑みを見せるルーシィを見ると、もう心配はないようだ。それならいいが…。グレイがアミクに質問する。

 

「ウェンディとシャルルは?」

 

「まだ医務室。シャルルはもう起きてたけど、ウェンディはまだ調子悪いみたい。でもおばあちゃんが診てくれているから大丈夫だよ」

 

彼女達も元気だったら酒場で過ごすことができたのに…。

 

「アミク、今日は本当に凄かったわよ!必死に戦ってるアミクを見てたらあたしも頑張らなきゃって気持ちになったの!」

 

「そうなの?それならいいけど…無茶はしないでね?」

 

「アンタが言う?」

 

ルーシィと笑い合っているとグレイ達も会話に混ざってきた。

 

「ホント、大したもんだよ。オレも負けてらんないぜ」

 

『私も驚いたぞ。ジュラほどの魔導士に負けなかったとはね』

 

ウルが言うのだ。あまり実感が湧かなかったが、ジュラと引き分けになったのは相当凄いことだったのだろう。

 

「ありがと…でも、まだ1日目。これからだからね!」

 

「その通りじゃ」

 

アミクの言葉に同意して、マカロフがテーブルの上に上がった。

 

「よし!皆揃ったな」

 

(ああ、汚い…後で拭かなきゃ…)

 

マカロフ、土足である。

 

 

「聞けェガキどもォ!!」

 

マカロフの声は、酒場によく響いた。

 

「今日の敗戦や引き分けは明日の勝利への糧!!のぼってやろうじゃねえか!!ワシらに諦めるという言葉はない!!目指せフィオーレ一!!!」

 

そう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)はこの程度の事でへこたれるギルドではない。皆が諦めない限り、ずっと頑張り続ける。

 

最下位がなんだ、そこか這い上ってやれ。それが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。

 

 

『オオオオオオオオ!!!』

 

マカロフがジョッキを掲げると、アミク達も大声で応えた。皆の心が、団結する。

 

優勝を目指して。

 

 

 

なお、店員や他の客が煩わしそうにしているのを見てアミクが「騒がしくしてすみません…」と謝った。

彼らは今日惨敗したギルドがこんなにも元気なのが不思議だっただけのようで「気にしなくてもいい」と言ってくれた。良い人達やわぁ…。

 

 

 

 

「次は誰だ――っ!!景気づけにかかってこーい!!」

 

ナツの乗っているテーブルの下にはピクピクしているマックスの姿。

 

「ちょっとちょっと。なーにケンカしてんの」

 

アミクはマックスを引きずって退避させると治癒魔法を使って治療した。ケンカ以外で騒ぎ方を知らないのか、全く。

 

「あと、テーブルに足乗っけないでっていつも言ってるでしょ。食事する所が汚れるってば」

 

「なんだよー、いちいちうるせーなー」

 

ナツがブー垂れてテーブルから降りた。そのテーブルをお絞りで拭く。

 

「特にここのテーブルこの酒場の物。他のお客さんも使うテーブルなんだから。もうちょっと綺麗に扱ってよね」

 

「相変わらず細けーなアミクは。小言ばっかりでお母さんかよ」

 

「真面目なんだよ。これで変な所で抜けてるんだから面白いぜ」

 

マカオとワカバがからかうように言ってくる。自分は至極真っ当な事を言ったつもりだったのだが。

 

 

「それにしても、3ヶ月でここまで強くなってるなんて…」

 

「オレらの立場が…」

 

3ヶ月前まではマックスにさえ苦戦したナツだったのに、今だと完封。ウォーレン達はナツの成長の速さに戦慄した。

そこで、ガジルが面白そうな笑みを浮かべる。

 

「おもしれぇ、オレが相手してやるよ」

 

「よせよ…お前とナツじゃ遊びじゃなくなる」

 

ラクサスがガジルを制止した。珍しいこともあるものだ。だが、ガジルはニヤリ、と笑うと。

 

「オウオウ、ずいぶん丸くなったものだねラクサスゥ」

 

「やめなよガジル!」

 

レビィが抱きついて止めるのも構わず、ラクサスの頭をバシバシ叩き始めた。

 

めっちゃ調子乗ってるなこの人。もしかしてラクサスにボコボコにされたのまだ根に持っているのか?

 

 

…こんな舐めたような扱いをされても怒らないラクサスには、確かに「丸くなった」と驚きを禁じ得ないが。

いや、ラクサスが大人になっただけか。器が大きくなったということだ。

 

ってことはガジルはまだ子供?

 

 

「…ぷふっ」

 

「おい、テメェ!今オレ見て笑ったろ!」

 

「ソンナコトナイデスヨー」

 

やべ、今度はこっちに絡んできた。

 

「ケンカ売ってんのか音竜(うたひめ)!テメェが相手するか!?」

 

「わー私の負けー、ハイ終わり」

 

「ふざけんな!」

 

適当にガジルをあしらっていると、ラクサスではなく顔を真っ赤にしたフリードが怒ってきた。

 

「き…貴様っ!ラクサスになんて事を!今我らの誇りが踏み躙られている!」

 

「誇りって…」

 

「ラクサス親衛隊・雷神衆―――!! 集合ォ―――!!」

 

フリードが横を向いて呼びかけるが。

 

「もうダメぇ…」

 

「なっさけないねー」

 

ビックスローもエバーグリーンもカナに酔い潰されとる。

 

 

「あんなに酒飲んで…二日酔いとか大丈夫なのかな…」

 

まぁ、アミクの魔法もあるので大丈夫か。

 

なんて思ってると、カナに1人の男が近付いた。

 

「姉ちゃん、強いじゃねーか」

 

その男は酒の入ったコップをダン、とテーブルに叩きつける。

 

「オレと比べてみねェか」

 

そしてカナに勝負を挑んだのだ。

 

アミクは驚きと共にその男を観察した。束ねた髪を後頭部に纏め、目元のしみが特徴の男。

 

アミクの本能が只者じゃない、と告げる。

 

 

「ほぉう?どちら様か知らないけど、酒で私と勝負?」

 

カナはギルドでも随一の酒豪で彼女の飲み比べても酔い潰されるのがオチだ。だからマカオとワカバは男に「やめておけ」と忠告するが、構わずに飲み比べを始めてしまった。

 

 

 

 

結果。

 

 

 

 

ぶっ倒れたのはカナ。男の勝利だ。

 

 

「わぁ、凄い…あのカナに酒の飲み比べで勝つなんて」

 

「カナ以上の化け物なの」

 

酒で酔い潰れて目を回すカナなんて初めて見た。

 

 

「コイツァ戦利品に貰っとくよぉん」

 

「あー!」

 

なんと、男はカナのブラジャーを取ってお持ち帰ろうとしているではないか。

 

もちろん黙っているマカオ達ではなく、愉快そうに笑う男を後ろから殴りかかろうとしたが…。

 

酔っ払いの動きでその拳を避け、逆にマカオ達を床に叩きつけてしまったのだ。

 

 

「うっわ!凄い動きしたよ!マカオ、ワカバ、大丈夫!?」

 

アミクは慌てて2人に駆け寄った。その時、叩きつけた状態だった男がアミクを見てバッと立ち上がる。

 

「あぁん?おお、今日の試合に出てた嬢ちゃんじゃねぇか。生で見るとますます良い女だねぇ。ヒック」

 

「酒臭…」

 

思わず鼻を摘んで仰け反ってしまう。酔っ払い特有の匂いが漂ってきた。

 

「あんな熱い闘いを見せてくれるたぁ…魂が震えたぜ」

 

「ありがとうございます…?」

 

褒めてくれたのだろう。反応に困ったアミクはとりあえず親指を立てた。

 

すると男は「わははははは!!」と豪快に笑い出した。

 

「おもしれぇなぁ、アンタ」

 

彼のアミクを見る視線が興味津々なものになる。「うわーまためんどくさい人に絡まれたなー」と思っていると。

 

「バッカス?」

 

救世主、いやエルザがやって来た。バッカスと呼ばれた男はエルザの方を向く。

 

「よぉう、エルザ。相変わらず良い女だねぇ」

 

「久しぶりだな」

 

「あー、知り合いな感じ?」

 

2人は互いに知っているようだった。

 

「7年も姿くらませてたんだって?」

 

「そうだな。お前は大魔闘演武に参加していないようだが」

 

エルザの言葉に、バッカスはまたもや「わはははは!!」と笑い飛ばした。

 

「今回は若ェ連中に任せておこうと思ったんだけどよ、ウォークライのザマを見ちゃ黙ってられねぇのが男の魂ってモンよ」

 

ウォークライ?

 

ウォークライ…ウォークライ…。

 

「そんな人、居たっけ?」

 

「オイオイオイ!試合見てねぇのかぁ!?第二試合でやられちゃったヤツのことだよぉ!」

 

バッカスが呆れたように言った言葉にようやく思い出した。

 

「…止まるんじゃねぇぞ…」の人の黒い雷に一瞬でカタがついた犬の被り物の人だ。涙魔法というのを使っていたはず。全貌を知ることはなかったが。

 

「リザーブ枠を使ってオレが入る事になった。魂が震えてくらァ」

 

つまり、大魔闘演武に参加するということか。エルザがゴクリと唾を飲む。

 

「明日以降ぶつかる事があったら、いつかの決着をつけてぇな。魂はいつでも…ワイルドォォォォ?」

 

「…フォー…」

 

エルザが小さく応えた。

 

「ノリ悪ィよエルザァ、わはははははっ!!」

 

高笑いしながら出て行こうとするバッカス。その彼の前にアミクが立ち塞がった。

 

「あぁ?なんだ嬢ちゃん」

 

「アミクです。それより…」

 

アミクは手を差し出した。

 

「カナとの飲み比べで飲んだ分のお金は払って行って下さい。それが嫌ならソレ(・・)、返して下さい」

 

アミクの視線はバッカスの手にあるブラジャーに向けられる。そして、どちらかをせねばここはどかん、という強固な姿勢を見せた。

 

「…はははっ、やっぱおもしれぇわ」

 

バッカスは口の端を大きく吊り上げると、カナのブラジャーをポイ、と投げ渡してきた。

 

「おっと」

 

慌ててキャッチ。その横を、バッカスが通って行く。

 

「じゃあな、また熱い勝負見せてくれよ?魂はいつでも、ワイルドォォォ?」

 

「フォォォーーー!…あ」

 

みんなの視線が注目する中、ついノッてしまったアミクが「やっちゃった」って顔をしていると、バッカスは愉快そうに笑った。

 

「お前はノリ良いなぁ、アミク!!わははははっ!!!」

 

今度こそ上機嫌なバッカスは酒場から出て行った。

 

そして、彼が去った後、酒場の片隅で「恥ずかしい恥ずかしい…」と頭を抱えるアミクの姿があるのであった。

 

「ノリが良いところも、アミクの美点だと思うわよ?」

 

「ミラさん、今は慰めはいらないですぅ…」

 

少し羞恥に悶えていたアミクだったが、落ち着いてくるとエルザに質問する。

 

「あの人、誰なの?」

 

四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)のS級にあたる男。奴とは仕事先でぶつかる事が多くてな…その強さはよく知っている」

 

エルザが真剣な表情で説明した。その顔に冷や汗も浮かんでいることに、アミクは気付く。

 

「酔いの鷹…酔・劈掛掌のバッカス。何度か戦った事があるが、決着は付かなかった」

 

「エルザと…互角!?」

 

只者ではないと思っていたが、あのエルザと互角になるほどの実力を持っているのか。

 

「なぁに、昔の話だろ?今のエルザが負けるわけねぇ!」

 

「エルザが闘う前提なのかっ!?」

 

「オレがやってもいいけどっ!?」

 

『お前達、喧嘩しながら話すなよ…』

 

喧嘩するほど仲がいいナツとグレイは放っておいて。

 

バッカスか…。エルザと互角の男。さっきの動きを思い返すと、それも納得できる。

 

厄介な実力者が参戦してきたものだ。

 

 

アミクは明日からの大魔闘演武を思い、気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

ちなみに。

 

 

酔い潰れた雷神衆の介抱と、無意識に放電してバッカスを睨んでいたラクサスを宥めるのに必死だったフリードであった…。

 

 




見慣れちゃったから違和感感じないけど、よく考えたらカナの格好ってヤバイよね。
カナがグレイに服のこと注意する場面もあったけど、人のこと言えないよね。
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