大魔闘演武、二日目。
今日も快晴。大魔闘演武日和である。
『さぁ!皆さんお待ちかねの大魔闘演武二日目が始まりましたー!』
実況は変わらずチャパティとヤジマ。そして。
『二日目のゲストは週間ソーサラーの名物記者、ジェイソンさんです!』
『COOL!!』
懐かしのジェイソンだった。
「ねぇ、あの人昨日と髪全然違くない?」
昨日は綺麗に整えた七三分けの髪型だったはずだが、今日は髪型も色も違う。ありゃカツラか。
「あの人、やっぱりハゲなのかな…」
いや、そんなことを気にしている場合ではなかった。もう競技は始まっているのだ。ただ、ちょっと現実逃避がしたかっただけなのだが…。
二日目の競技パートは『
『この競技は、連結された戦車の上から落ちないようにゴールを目指すというものです』
足元の戦車は常にクロッカスの観光名所を巡っており、ゴールは会場であるドムス・フラウ。到着した順番がそのまま順位となる。
競技の概要はこんな所だ。ただ、大きな問題があった。
『それにしてもヤジマさん、こんな展開誰が予想できたでしょうか?』
『ウ~~ム』
だって、そもそも乗り物に極端に弱い人にとっては圧倒的不利以外のなにものでもなかったから。
『なんと!! 先頭より遥か後方、
「なんで出ちゃったのナツぅ…」
アミクは頭を抱えた。
「ナツの事だから戦車とバトルできるとでも思ったんだと思うけど…っていうか」
アミクは彼の近くにいる人物達に視線を移した。
「何でガジルとセイバーの人まで!?」
そう、同じような状態になっているのは、ガジルとスティングもだったのだ。
ナツはともかくガジルが乗り物酔いに…?それに、スティングまでが…。
『乗り物に弱ェのは…
ガジルも訳が分からないようだった。昨日ラクサスを散々バカにしていた報いでも受けているのだろうか。
「どうなってる?何でガジルが」
「ナツのキャラ取らないでよね」
「アミクが居る時点でそれはもうナツだけのキャラじゃないの」
エクシード達も不思議そうだ。ってかそんなキャラいらんわ。
『これは一体どういう事でしょう、ヤジマさん?』
『3人に共通する何かがあるのかねぇ』
アミクも含めて共通する何か…だったら一つしか思い浮かばない。
「
「そうよね、やっぱり」
ミラも同意する。でも、ガジルは今まで平気だったはずだろう。何故急に…。
そうしている間に、ナツ達を大きく引き離した先頭集団では目まぐるしく状況が変わっていた。
特に目を見張ったのは、あのバッカスが一撃で戦車をボロボロにしたこと。余波で他の戦車も横転し、他の選手たちの足が止まっている間にダッシュし、クロヘビも追い抜いて1位になった事か。
「ホントに強い…」
エルザと互角とは聞いていたが、実際に目にするとその強さがよく分かった。
その後は、2位がクロヘビ。3位がリズリー。4位がユウカ。5位が一夜。
今回はナツ達があのザマなので
リズリーは重力魔法を使うらしい。
重力変化で戦車の側面を走ったり、などだ。
ユウカは『波導ブースト』で後方に魔法を打ち消す波導を放出しながらスピードを上げてたのは感心ポイントだった。
一夜にかんしては…ユウカの『波導ブースト』への対策としてあんな事をしたのは分かるが…酷い絵面でした。
「一夜さんのアレ…夢に出てきそう…」
「思い出させないでください…」
ジュビアと一緒にげっそりした顔をしながら、後方にいるナツ達に注目。
『残るは最下位争いの3人ですが…』
「うーん…キツそう…」
90代の老人のようによろよろと進むナツ達。
『バ、バカな…オレは乗り物など平気…だった、うぷっ』
ガジルが苦しそうに言うと、スティングが酷薄な笑みを浮かべてガジルの方を向く。
『じゃあ…やっとなれたんだな、本物の
スティングの言葉にアミクは考え込む。
アミクが極端な乗り物酔いになり始めたのは6年くらい前。最初からそうだったわけではないのだ。
…
どっちにしろ嫌だわぁ…。
スティングの言葉が気に障ったのか、ガジルはナツを巻き込んでスティングにタックル。
『テメェ…!!』
『おばぁっ!?』『うっ』
ただ、そのタックルは非常に弱々しかった。
『かはぁっ、力が出ねぇ…!』
「う…なんか私まで酔ってきたような気がする…!」
自分があの競技に参加していたら…と想像すると怖気がする。
観客達は彼らの様子がコントにでも見えたのか笑い声を上げた。
「うう…あれ?ということはもしかしてラクサスもだったり?」
ラクサスの方を振り返ると、彼は仏頂面で「他の奴らには黙っておけよ」と言外に肯定した。
「もうバレバレだと思うけど」とジュビアは呆れる。
まさかの弱点。道理で彼が乗り物に乗っている姿をほとんど見かけなかったわけだ。
それに、以前天狼島から帰還しようと船に乗った時、彼が妙に苦しそうだったのはそういうわけだったのか。
「うおぉぉぉぉおお!!! 前へ──進む!!」
だが。
どんなに苦しくても。どんなに辛くても。
ナツ達に諦める、という考えはなかった。
雄叫びを上げ、自分を奮い立出せて。少しずつ、ゆっくりと。
前へ、進む。
「カッコ悪ぃ…力も出せないのにマジになっちゃってさ…」
スティングは彼らの姿を嘲るように吐き捨てた。そんな惨めな格好を晒してまでして1、2点が欲しいか。
「いいよ…くれてやるよこの勝負。オレたちはこの後も勝ち続ける、たかが1点2点いらねーっての」
「その1点に泣くなよボウズ」
ガジルが獰猛な笑みを見せてくる。
「うおおおおおおおっ!!」「ぐおおおおおおおっ!!」
まるで2匹の獣が吠えているかのよう。
一見野蛮なように見える。
しかし、気高くも見えた。
「1つだけ聞かせてくんねーかな?」
つい浮かんだ思考を掻き消すかのように、スティングは目の前の2人の背に問いかけた。
「何で大会に参加したの?アンタら。昔の
評議院に目を付けられようと、問題ばかり起こすと疎まれようと、彼らはギルドの在り方を変えずに貫いてきた。
そんな姿に憧れてもいた。
でも、今になって何故。7年間も姿を消して戻ってきたと思ったら、何故。
答えは決まっている。
「仲間の為だ」
彼らの、
「7年も、ずっと、俺達を待っていた…どんなに苦しくても、悲しくても、馬鹿にされても…耐えて、耐えて…ギルドを守ってきた、仲間の為に…俺達は見せてやるんだ」
アミク達がいない7年間。
残された仲間達にとっては苦しくて悲しくて辛い7年だったはずだ。
落ちぶれたと馬鹿にされ、借金まで背負わされ、ギルドもボロボロの建物に変わってしまった。
それでも。
皆は守ってくれた。
アミク達の居場所を。
アミク達が帰ってくる『家』を。
アミク達の
7年もの人生を捧げて。
「
その想いに報いる為に。
アミクは、ナツは、皆は。
此処に居る。
此処で、闘っているのだ。
スティングは目を見開いたままなにも言わない。何も言えない。
(そう…皆が頑張ってくれたから、今の私達がある…)
アミクは観客席の
全員、涙を垂れ流して号泣している。
自分達が守ってきたギルド。そのギルドを、帰ってきたナツ達が一緒に支えると言ってくれているようで。
自分達の為にもナツ達が頑張っている事が分かって。
自分達を最高の
彼らは涙した。
(みんな、ありがとう…)
アミクは視線をナツ達に戻す。
(だから、今度は私達が皆の居場所を守る番…!!)
強い想いと執念のお陰か。
亀のような進度で、それでも着実に進んでいたナツ達は。
ようやくゴールに辿り着いた。
『ゴォ――――ル!!
「ポイント初ゲット…」
『
「ギヒッ…」
仲間の為にも、決して諦めずに喰らい付く。
そんなナツ達の姿。
そして、思い出す。
昨日のアミクもそうだった、と。彼らと同じ姿だった事を。
その姿に感動し、震えた。
最初こそ罵声を浴びせてきていた観衆。
しかし、今は
(人の強い信念と意志、想いは人の心を打つ…ナツ達の真っ直ぐな気持ちが皆に届いたんだ…)
きっと散々罵倒していた人達は、ナツ達の真っ直ぐで綺麗な心に気付き、自分達の醜さを恥じるだろう。
『なお、
そして、初日で20P獲得した
会場は予想外の結果とナツ達の健闘で更なる盛り上がりを見せたのだった。
さて、2日目の競技パートが終わった今、順位は…。
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
1位は
アミク達Bチームも5位から7位まで下がったが、それを悲観する者は1人も居なかった。
逆に、ここからだ!と皆闘志を燃やす。
そう、
●
「ナツ…大丈夫ですか?」
「何の心配もいらないよ。ただの乗り物酔いじゃないか」
「おばあちゃん!乗り物酔い舐めたらアカンで!乗り物酔いは…」
「黙りな。寝ている人も居るだろう」
「はい…」
アミクとルーシィはナツを医務室にまで連れてきていた。乗り物から降りても調子が良くなさそうなナツを心配したのだ。
ガジルはしばらくしたらケロッと元気になったので心配ない。
「ウェンディは?」
「もう大分回復してきたよ」
「それなら安心だね」
寝ているウェンディの顔色も血色が良くなっている。今日中には全快するだろう。
「…?」
アミクはルーシィの事をじっと見ているシャルルに気が付く。
「シャルル?」
「っ、何かしら?」
「いや、ルーシィをじっと見てどうしたのかなって」
それを聞くと、ルーシィもシャルルの方を向く。
「あたしに聞きたい事でもあるの?」
「そういうわけじゃないわ…」
なんか…様子がおかしい。
だが、シャルルは「本当に何でもないのよ」と誤魔化す。
「そう?それならいいけど。皆待ってるから、あたし達行くね」
「お大事にね~」
アミクとルーシィは医務室から出ていく。
その背を見つめるシャルルの表情は険しいものだった。
アミクが引き分けちゃったせいでラミアの順位が原作より落ちてる…。