妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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今回の話もいい話なんだよなー。エルザマジカッケェ。


伏魔殿(パンデモニウム)に舞う妖精女王(ティターニア)

大魔闘演舞3日目。

 

『大魔闘演武もいよいよ中盤戦、3日目に突入です』

 

『今日は一体どんな熱いバトルを見せてくれるかね』

 

『本日のゲストは、魔法評議院よりラハールさんにお越しいただいています』

 

『久ぶりだねぇ』

 

『よろしくお願いします』

 

『ラハールさんは強行検束部隊大隊長ということですが…』

 

『えぇ、大会中の不正は許しませんよ』

 

(ラハールさんか…変わってないね!?)

 

硬派なラハールの珍しい冗談に観衆が笑う中、アミクはこっそりラハールの顔を観察した。見事に7年前との差異が見つからない。貴方も凍結封印されてたりします?

 

『さすがは大隊長!どんな時でもお仕事を忘れないんですね!』

 

だが、彼が居れば少し安心かもしれない。大鴉の尻尾(レイブンテイル)もさすがに評議員の前では下手な真似はしないだろう。

 

 

『本日、3日目の競技を発表します!競技の名前は、伏魔殿(パンデモニウム)!』

 

伏魔殿(パンデモニウム)ってなんだ?」

 

「伏魔殿と言う意味ね。魔物がたくさん潜んでいる建物ということよ」

 

「ダンジョンみたいなの」

 

「まぁ、似たようなものかもな」

 

魔物がいっぱい居るということは、その魔物を倒す競技なのだろうか。

 

『参加人数は、各ギルド1名です!選手を選んで下さい!』

 

「よし、誰が出る?」

 

アミクはチームメンバーを見まわした。

 

「ガジルは…昨日出たからいいよね」

 

「おい、ちょっと待て!昨日のアレは認めねぇぞ!今度こそオレの力を見せてやる!」

 

ガジルが食って掛かってきた。まぁ、認めたくない気持ちは分かるが同じ人が連続で競技に出場するのもどうかと…よっぽ相性の合う競技だったら話は別だが。

 

「うーん…あ、Aチームからはエルザが出るみたい」

 

これは心強い。いや、チームは違うから手強いというべきか。

 

「…ラクサス、出てみたら?」

 

アミクはラクサスに視線を移すと、彼は小さく目を見開いた。

 

「そろそろ出番欲しいでしょ?ラクサスの力の見せ時だよ!」

 

アミクの言葉にミラ達も特に異論はないようだった。…約1名は未だにブツブツ言っていたが。

 

「…期待されてんなら仕方ねぇ。ちょうど暴れたかった所だしな」

 

ラクサスは不敵に笑うと、アミク達に背を向け闘技場に向かう。その背中はとても頼もしく見えた。

 

「ぶちかましちゃってー!」

 

「ラクサスなら大丈夫よ」

 

「頑張って下さい!」

 

「無様な姿見せたら承知しねぇからな」

 

それぞれの声援を受け、笑みを深めるラクサス。仲間からの期待とはこんなに心地いいものだったか。昔の欲望の混じった、そうであることを強いられたような期待とは違う。

1人の魔導士として、仲間として期待してくれているのだ。

 

 

 

 

『選手が出揃いました!剣咬の虎(セイバートゥース)からはオルガ!

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)からはジュラ!

 青い天馬(ブルーペガサス)からはヒビキ!

 大鴉の尻尾(レイブンテイル)からはオーブラ!

 人魚の踵(マーメイドヒール)からはミリアーナ!

 四つ首の仔犬(クワトロパピー)からはノバーリ!

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aからはエルザ!

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bからはラクサス!

 と、8選手が出場です!』

 

「あー!あのミリアーナって人!楽園の塔の!!」

 

そう、昔エルザの奴隷仲間だったミリアーナだ。道理で嗅いだことある気がした訳だ。ギルドに入っていたのか。

 

「知ってる人?」

 

「7年前に色々あって…そっか、元気そうで良かった」

 

あの四角の人と色黒の人はどうしたのだろうか。今でもアミク達が収録されていた魔水晶(ラクリマ)は残っているのだろうか。

機会があったら聞いてみよう。

 

 

 

ラクサスがエルザの隣に立つと、エルザが話しかけてきた。

 

「ラクサス。お前が出るのか」

 

「ああ。あいつに言われちゃ、な。期待に応えるしかねぇな」

 

そう言いながらも嬉しそうなラクサスを見て、エルザは思わず笑ってしまったのだった。昔のラクサスだったら考えられないことだ。

 

闘技場に参加者が全員集まると、空から巨大な魔法陣が現れる。そして、そこから轟音を立てながら大きな建造物が降りてきた。

禍々しい城が逆さになったような建造物だ。

 

「これは…!?」

 

エルザ達は目を見張る。

 

ある程度まで降りてきた建造物は途中で止まり、城から橋が降りて来る。それが地面に音を立てて付いた。

 

 

「うっわ…凄い…」

 

アミクも大掛かりな舞台に呆気に取られていた。この前の隠密(ヒドゥン)の時といい、大規模な魔法を使うようだ。

 

 

「邪悪なるモンスターが巣食う神殿、『伏魔殿(パンデモニウム)』」

 

マトー君が説明を始めた。

 

「モンスターが巣食うだと?」

 

「そういう設定ですのでカボ」

 

観衆達はそれを聞いて騒めき出す。モンスターが巣食う神殿?一体どんな危険な場所なのだろうか。

 

「と言っても我々が作り出した魔法具現体、皆さんを襲うようなことは無いのでご安心を」

 

召喚獣みたいなものだろうか。しかし、魔法で生き物を作るとは。土塊から悪魔を作り出したハデスじゃあるまいし。

 

「モンスターはD・C・B・A・Sの5段階の戦闘力が設定されています。

内訳はDクラスから順に50体、30体、15体、4体、1体となっています。

因みにDクラスのモンスターがどのくらいの強さを持っているかといいますと…」

 

空中に魔水晶映像(ラクリマビジョン)が現れ、伏魔殿(パンデモニウム)の中の様子が映し出された。

 

そこには1匹の凶暴そうなモンスターが居る。あれがDクラスのモンスターらしい。

モンスターは近くにあった頑丈そうな柱に突進すると、呆気なく破壊した。

 

(油断できないレベルって所だね…)

 

「こんなのやらこんなのより強いのやらが100体渦巻いているのが伏魔殿(パンデモニウム)です、カボ」

 

Dクラスでも厄介なのにあれより強いのが何十匹も居るとは。かなり過酷だ。

アミク達は予想以上の強さのモンスターに冷や汗を流した。

 

「魔法で具現化って言ってもさ、攻撃されたら怪我するんだよね?」

 

「さすがに死ぬことはないと思いたいの…」

 

「エルザやラクサスは大丈夫かしら…」

 

「あの2人なら大丈夫って思いたいけど…」

 

ハッピー達は心配そうにラクサス達を見下ろした。

 

「モンスターはクラスが上がるごとに、倍々に戦闘力が上がると思ってください。Sクラスのモンスターは聖十大魔道と言えど倒せる保証はない強さですカボ」

 

「む…」

 

ジュラがピクリと片眉を上げる。

 

「皆さんには順番に戦うモンスターの数を選択してもらいます。これを挑戦権と言います。

例えば3体選択すると、神殿内に3体のモンスターが出現します。選んだ人は1人で神殿に入ります。

3体のモンスターの撃破に成功した場合、その選手のポイントに3点が入り、次の選手は残り97体の中から挑戦権を選ぶことになります。

これを繰り返し、モンスターの数が0または皆さんの魔力が0となった時点で競技終了です」

 

なるほど、これは面白そうなルールだ。

 

「数の子ゲームみたいだね」

 

「それ、数取りゲームだと思いますよ」

 

ジュビアに冷静に正された。

 

「一巡した時の状況判断も大切になってきます。しかし、先程も申し上げた通りモンスターにはランクがあります。これは挑戦権で1体を選んでも5体を選んでもランダムで出現する仕様になっています」

 

つまり5体選んだ場合、5体ともDランクの可能性もあれば、AクラスやSクラスが混じっていることもあり得るというわけだ。運要素も絡んでくるらしい。

これは弱いモンスターに当たることを祈るしかないだろう。…ヒビキは確率論とアーカイブがあればある程度どうにかなるとか言っているが、マジで?

 

「モンスターのクラスに関係なく、撃破したモンスターの数でポイントが入ります。

一度神殿に入ると、挑戦を成功させるまで退出は出来ません」

 

「神殿内でやられちまったらどうするんだ?」

 

ラクサスが質問した。

 

「今までの自分の番で獲得した点数はそのままに、その順番での撃破数は0としてリタイアになります」

 

 

「うー…ただ数が多ければ良いってわけでもなさそうなの。魔力の回復量とかも頭に入れて選択しなきゃなの…結構頭使うの」

 

「意外と難しそうだな…」

 

マーチ達が頭を悩ましていると、メイビスが楽しそうにラクサス達を見守った。

 

「さぁ、どうするんでしょうね?ウチから出る2人は」

 

 

「それでは皆さんくじを引いてください」

 

どこからともなく、くじの入った箱がマトー君の手元に現れた。

あれで順番を決めるらしい。

 

全員引き終え、くじを確認する。

 

「む、1番」

 

エルザはトップバッターだった。一番最初だと最もたくさん順番が回ってくるのでラッキーだと言える。

 

「は、運がいいなエルザ。オレは一番最後だ」

 

ラクサスは8番だった。エルザとは対照的に運が悪い。

 

エルザは神殿を見ながら口を開く。

 

「この競技、クジ運で全ての勝敗がつくと思っていたが…」

 

「クジ運で?いや、どうでしょう~…戦う順番よりペース配分と状況判断の方が大切なゲームですよ」

 

被り物のせいで表情は見えないが、マトー君が苦笑する気配がする。

 

「いや…これは最早ゲームにならんな」

 

エルザは断言した。その表情には余裕の笑みが浮かんでいる。

 

「100体全て私が相手する。挑戦権は100だ」

 

決して冗談なんかではない。エルザの顔つきは本気のそれだった。

会場も他の選手達も驚きをその顔に表していた。

 

「さすがエルザ!なんとなくそんな気はしてたよ!」

 

ただ、アミクは可笑しそうにクスクス笑う。ナツ達もゲラゲラ大笑いしていた。

 

「オレも1番だったら同じこと言ってたぜ」

 

ラクサスも面白そうにエルザの背を見つめる。

 

「あの~…挑戦権100って、そんなの無理ですよ?1人で全滅出来るようには設定されていません!」

 

マトー君が止めようとするが、エルザは「構わん」と一蹴する。

その姿は自信に満ち溢れている。いや、彼女には必ず成し遂げれるという確信しかなかった。

 

彼女は力強い足取りで神殿への橋を歩いて行く。その背中には迷いも不安もなかった。

 

 

 

 

エルザが中に入ると、魔水晶映像(ラクリマビジョン)で中の様子が映し出された。

 

「中も逆さま!う、なんか気持ち悪くなってきた…」

 

「見てるだけで酔うなよ」

 

中は広く、十分に戦えるスペースがある。それに、この場所だけではなく他のスペースもあるので大量のモンスターが湧いても問題なさそうだった。

 

『挑戦者、妖精の尻尾(フェアリーテイル)A、エルザ・スカーレット。挑戦権100だ』

 

エルザの言葉と同時に。

 

 

大量のモンスターがエルザを囲むように現れた。主にDとCクラスが多く、Bクラスがたまに混じっている大群だ。

 

 

「めっちゃモンスターが居る!あんなのモンスターハウスじゃん…」

 

「エルザさん、大丈夫でしょうか…」

 

「なんとかなんだろ」

 

「うん!きっとエルザなら大丈夫!」

 

 

さて、エルザはどう切り抜けるのか。

 

 

 

 

戦いは一言で言えば圧巻だった。

 

 

最初、エルザは『天輪の鎧』に換装し、『繚乱の剣(ブルーメンブラット)』でDとCクラスのモンスターに全体攻撃。Dクラスは次々と倒れていくが、Cクラスは硬いようで倒れたものはない。

 

ただそれは、それぞれのクラスの性能を調べるための小手調べだ。

 

次に換装したのは『黒羽の鎧』。

 

「攻撃力を底上げする鎧なの!」

 

「ってことは、まずは力押しで数を減らすってわけね」

 

そこで、Dクラスのモンスターが炎を吐いた。ナツかよ。

しかしそれは炎に耐性を持つ『炎帝の鎧』で防ぎ、『海王の鎧』とセットの武器で炎ごとモンスターを切り捨てる。

 

「あんな使い方もできるの!?器用なの」

 

鎧と武器を別々で使用するとは。

 

Cクラスのモンスターは水系のモンスターのようで、それに対しては『海王の鎧』で耐え、水の武器で撃破。

 

素早い判断力、それを支える精神の強さ、少ない動きで攻撃を躱し、敵を撃破する身体能力。全てが優れているのだ。

 

そうして100体の内半数を突破してしまった。

 

「腕を上げたなエルザ」

 

ラクサスは感心して映像を注視する。

 

傷つきながらも順調に数を減らしていったエルザであったが、流石に消耗が激しそうだ。

 

「エルザー!!頑張れー!!」

 

息を荒げるエルザをアミクも必死に応援する。

 

するとやっとAクラスのモンスターのお出ましだ。筋骨隆々の巨体。

そのモンスターの一撃がエルザを襲うが、『金剛の鎧』でガードして逆にダメージを与えた。

 

まさに、エルザ無双。換装を駆使し、どんどん敵を倒していく。

 

 

アミクはその光景を目に焼き付けた。

 

攻撃を喰らい、傷付きながらも。

 

一見絶望的に思える状況でも。

 

 

決して諦めることはなく、鎧を変え、武器を振るう。

 

 

 

『お、恐るべし妖精女王(ティターニア)!次々と換装を繰り返し、着実にモンスターを撃破!!ダメージ、魔力の消耗共に大きいものの、残すは何と、あと4体!!』

 

残りはBクラス2体、Aクラス1体、そしてSクラス1体だ。強いのばかりが残っている。

 

エルザは残り1体のAクラスに向かって駆け出した。

 

 

「あれ…?」

 

「おい、アイツ…」

 

今、エルザの足元を小さいモンスターが横走ったのだが。さっきから何なのアレ。

 

 

あっという間にAクラスを切り捨て、襲って来たBクラスの2体も連続で撃破する。

 

 

 

いよいよ残りはSクラス。ラスボスだ。

 

 

 

なのだが…。

 

 

 

「小さいね!?」

 

さっきの小さいモンスター。それがまさかのSクラスだった。

 

「何!?はぐれメタルみたいな感じなの!?Sクラスってレア度のことじゃないよね!?」

 

そうツッコミを入れたものの、アミクには嫌な予感が浮かんでいた。もしかして…。

 

 

エルザも何かを感じ取ったのか、二刀流に換装。

 

「なんで刀を変えるんだ、エルザ姉?」

 

「紅桜から二刀流?あのちっこいの相手に」

 

「舐めちゃアカンなの。ああいう弱そうなのに限ってめっちゃヤバい奴なの」

 

「ああ、きっと何かある。表情を見てみろ。集中力と緊張感が倍増している」

 

ピン、と張り詰めた空気がエルザとそのモンスターの間に流れている。エルザは、本気だ。

 

彼女が短く、鋭く言い放った。

 

 

「来い」

 

 

モンスターが小さな目をカッと見開いた。

 

 

眩い光が全てを包む。

 

 

 

 

 

『さあ、伏魔殿(パンデモニウム)ラストの1体!しかしなんと気づけば、バトルは決戦場へと移動しており、巨大化したSクラスのモンスターが襲いかかる!!』

 

やっぱりあの姿は見せかけだったようで巨大化して禍々しい姿になったモンスターがエルザを襲っている。

しかも、あのモンスターは最後の1体になればパワーが3倍になるように設定されているらしい。

 

 

「エルザーーー!!行けるよーーーー!!フレェフレェ!!」

 

「うるせぇ…」

 

大声で応援するアミクの側でガジルが耳を押えた。

 

 

 

確かに、モンスターはすごく強力だった。あのエルザを圧倒的なパワーで押さえつけ、蹴り飛ばし、彼女にダメージを負わせるほどには。

 

 

 

しかし、エルザは挫けない。妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士は折れない。

 

 

 

────アミクは一生忘れることはないだろう。

 

 

 

傷を増やしても、闘志は衰えることを知らず、むしろ倍増している。

 

 

────羽が傷付き、地に堕ちたはずの妖精が。

 

 

負けじとモンスターに攻撃を加え、手を切り刻み、頭を砕く。

 

 

────再び大空に向かって飛び立つ瞬間を。

 

 

宙を跳び、刀を振るい、急所を斬り砕いた。

 

 

 

────伏魔殿(パンデモニウム)に舞う妖精女王(ティターニア)を。

 

 

 

モンスターは断末魔を上げることもなく倒れ、消滅した。

 

 

 

 

────凛と咲き誇る緋色の花を。

 

 

 

エルザは勝利宣言のように刀を高く掲げた。

 

 

 

────エルザ・スカーレットという女魔導士を。

 

 

 

『し、し、信じられません!!何とたった1人で、100体のモンスターを全滅させてしまった――――ッ!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)A、エルザ・スカーレット、圧勝!!文句なしの大勝利――――ッ!!これが7年前、最強のギルドと言われていた真の力なのかぁ――――ッ!!』

 

 

アミクは、絶対に忘れない。

 

 




エルザとジェラールっていつ結婚するのかな?

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