妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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なんだかんだ150話近くまで来てしまった…。


止まらない妖精

「やったああああ!!!すごぉいエルザぁああああ!!!」

 

刀を掲げるエルザを見てアミクは大歓喜した。

いや、アミクだけではない。観衆全員が空の彼方にまで届くほどの歓声を轟かせていた。

 

伏魔殿(パンデモニウム)が役目を終えたとばかりに魔法陣に吸い込まれ、エルザが闘技場の真ん中に現れた。

彼女の凜とした姿を見た観客たちの騒めきは大きくなった。中にはエルザのことを覚えている者も居るようで「私、覚えてる!妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士、エルザ・スカーレット!」「妖精女王(ティターニア)の…エルザ!」と声を上げている。

 

「ふぁあああああああああ!!!エルザああああああ!!!」

 

「だからうるせぇよ!!」

 

アミクの鼓膜が破れそうなほどの大声量に周囲の観客たちも含めて皆耳を押えていた。

 

『未だに鳴りやまないこの大歓声!!』

 

『こりゃ参ったね』

 

『言葉もありませんよ』

 

感動したのか、ヤジマに至っては少し涙声だ。

 

 

エルザの元にナツ達Aチームが「エルザ――――ッ!!」と駆け寄って行く。

 

「私も行きたい!』

 

アミクが駆け出そうとするが、ガジルに襟首を掴まれて止められた。

 

「バカ、同じチームでもねぇ奴が行ってどうすんだよ」

 

「いいじゃん別にー!私も喜びを分かち合いた〜い!」

 

アミクが暴れるのをよそに、ナツ達はエルザを囲んで彼女を讃えていた。

 

「やっぱすげーよ」

 

「あとでオレと勝負しろー!」 

 

「あたし感動しちゃった」

 

「私…もう胸がいっぱいで」

 

「オイオイ、まだ優勝した訳じゃないぞ」

 

エルザが苦笑すると、向こうからアミクの「エルザ、マジパネェ!!凄かったよー!!」と必死に声を送る姿が。

エルザはそれを見て苦笑を深めた。

 

「フッ、先を越されちまったな」

 

ラクサスも口ではそんなことを言うが、エルザを称えるように口角を上げた。

 

 

そして、会場全体で沸き起こるエルザコール。

 

 

「エルザ!!エルザ!!エルザ!!エルザ!!」

 

「その口、釘で打ち付けてやろうか!?」

 

アミクも一緒になってエルザコールするとガジルに凄まれた。…そんなに大きかったかな、声。

 

「さすがエルザ――――!!」

 

「ブラボ――――なの―――!!」

 

「しゅ、しゅきじゃあ!」

 

マーチ達も歓声を上げて喜んだ。

 

『1日目ブーイングから始まった妖精の尻尾(フェアリーテイル)。それが嘘のようなこの大歓声!』

 

『あの姿を見れば誰でもねぇ』

 

『私も正直、胸を打たれましたよ』

 

最初は罵倒と嘲笑ばかりが向けられていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)だった。でも、今はこんなにも大勢の人々に認められている。

彼らの懸命な姿を見て、誰もが応援したくなる。それが妖精の尻尾(フェアリーテイル)なのだ。

 

伏魔殿(パンデモニウム)完全制圧!妖精の尻尾(フェアリーテイル)A10P獲得!!』

 

拳を掲げるエルザ。その顔は満足そうだった。

 

 

 

とりあえず、医務室行ってね。

 

 

 

「えー、協議の結果、残りの7チームにも順位をつけないとならないという事になりましたので、いささか味気無いのですが簡単なゲームを用意しました」

 

マトー君の近くに水晶が乗った装置が現れた。

 

「なんだこれ?」

 

魔力測定器(マジックパワーファインダー)、名付けて『MPF』」

 

魔力測定器…。その名の通り魔力を測る装置なのだろう。

 

「この装置に魔力をぶつける事で、魔力が数値として表示されます。その数値が高い順に順位をつけようと思います」

 

「純粋な力比べか…これはちょっと分が悪いかな」

 

確かに、ヒビキはどちらかと言うと知力タイプなのでこういうのは苦手そうだ。

 

 

 

「ラクサスが出てて良かったよ。ラクサスなら高い数値叩きだしてくれるだろうし」

 

「そうね…一番の鬼門はジュラかしら」

 

「あのオルガっていう人も侮れないですよ」

 

まぁ、彼らを除けばラクサスに関しては心配しなくてもいい。

ただ、不安なのが大鴉の尻尾(レイブンテイル)だ。評議員の見ている前なので下手な事はしないと思いたいが…。

あのオーブラという人物、ウェンディ達を襲った奴らしいので注意が必要だと思う。魔力を消されるかもしれないので。

 

 

 

「それでは始めましょう!挑戦する順番は先程の通りでカポ!」

 

「じゃあ私からだね、行っくよ―――!!」

 

「何で脱ぐの!?」

 

ミリアーナがマントを脱ぎ捨てて露出の高い服が露わになってしまった。グレイじゃあるまいし。

 

 

「『キトゥンブラスト』!」

 

ミリアーナの魔力が装置に当たると、装置の上の空中に数字が表示された。

 

『数値は365!とは言ったものの、比べる基準が無いとこの数値が高いか低いかも分かりませんね…』

 

…1年(365日)じゃん。と思ったアミクは悪くないはず。

 

『MPFは我々ルーンナイトの訓練にも導入されています。この数値は高いですよ、部隊長を任せられるレベルです』

 

『おお!凄いということですね?』

 

「元気サイキョー!!」

 

凄いのか。ミリアーナには悪いがそこまで強力な魔法には見えなかったが…。アカネビーチで会った時は魔力を封じる鞭で縛って無力化してたので彼女の本領ではないのかもしれない。

 

『続いて四つ首の仔犬(クワトロパピー)ノバーリ!数値は124、ちょっと低いか!』

 

「ウォ~…」

 

ちょっと可哀想だが、これは低い。しょうがない、実力不足という事で。 

 

「僕の番だね」

 

ヒビキの番になると観客から黄色い歓声が。モテるなぁ…。

 

青い天馬(ブルーペガサス)ヒビキ!魔力は95!』

 

「な、なんてことだ…」

 

低っ。まぁ、彼の本当の実力はその頭脳にあるので…。ドンマイ。

 

『続いては大鴉の尻尾(レイブンテイル)オーブラ!』

 

相変わらず無口で不気味な人物だ。その仮面の下にはどんな表情が浮かんでいるのだろうか。

っていうかもっとマシな仮面はなかったんですかね。

 

「あいつは…!」

 

「シャルル達を襲った…」

 

「ええ…」

 

「変な仮面なの」

 

一体どんな魔法を使うのだろうか。あの魔力を消すのは魔法か?分からない事多すぎる。

 

彼が腕を広げると、服の中から小さい生物が現れMPFに体当たり。数値は…。

 

『数値は4!』

 

「…本当の実力は見せないってことかな…」

 

やっぱり、大っぴらには見せられないのかもしれない。

 

「これはちょっと残念ですが…やり直しはできませんカボ。さて、現在トップは人魚の踵(マーメイドヒール)、ミリアーナの365カボ」

 

「やった!私が一番だ―――!」

 

「そいつはどうかな」

 

オルガが装置の前に立った。

 

『ここで剣咬の虎(セイバートゥース)オルガ登場―――っ!凄い歓声です!!』

 

黒い雷の使い手だ。相手を瞬殺する実力を持つオルガの魔力は果たして…?

 

「『120mm黒雷砲』!!」

 

オルガは両手を合わせ、黒い雷をレーザーのように撃った。装置に直撃し、黒雷が弾ける。

 

出てきた数値は────。

 

『さ、3000超え…!?』

 

「みゃあ!?私の10倍!?」

 

「ヤバッ!」

 

いきなり4桁。これは凄い。ミリアーナと10倍以上の差を付けてしまった。

 

とはいえ。

 

アミクもナツ達も頑張ればあれぐらいは行けると思うのだが…モード雷炎竜とかモード天音竜とか使えば、多分。

 

 

同じ雷使いのラクサスが薄く笑みを浮かべた。何を考えているのだろうか…。

 

 

さて、次も注目の的である人物だ。一番の強敵かもしれない。

 

『さあ、それに対する聖十のジュラはこの数値を超すことが出来るのか注目されます!』

 

彼と直接戦ったアミクには、彼は確実にオルガを超えていると確信があった。

 

「本気でやっても良いのかな?」

 

「勿論ですカポ」

 

ジュラは手を合わせて集中した。獣の鳴き声のような地鳴りが轟く。

物凄い威圧感。全てをひれ伏せさせるような圧倒的な魔力。

 

この魔法は…まさか。

 

 

「『鳴動富嶽』!!」

 

地面が爆発し、大きな光の柱がMPFを包み込んだ。

 

 

それが収まり、表示された数値はなんと────。

 

『は、8544!!これは凄すぎる―――っ!!』

 

「うっそぉん!!?」

 

桁外れな数値。なんて規格外な魔力だ。

アミクは、よく引き分けたな、と冷や汗を流す。あの魔法が自分に直撃していたらどうなっていたことやら。

 

『こ…これはMPF最高記録更新!!やはり聖十の称号は伊達じゃなーい!!』

 

「…本当、アミクよく引き分けることができましたよね…」

 

「ジュラさん、マジパネェ…」

 

ギルダーツならジュラといい勝負できるかもしれない。いや、ラクサスだって超強い。彼もジュラと渡り合えると信じる。

 

そう思いながらも、アミクは不安げに眉を下げた。

 

 

 

「むむぅ、次はラクサスか…これはちと厳しいかもしれんのう…」

 

マカロフは腕を組んで唸った。ラクサスが強いのは知っているが、果たして聖十に届く実力だろうか。

 

「クスッ、あの者は貴方の血を引く男ですよ?同じ聖十の称号を持ち、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の3代目マスターである貴方の血を、ね」

 

相変わらず楽しげなメイビス。見た目は少女なのに、一言一言に重みがあるように感じるのは、やはり初代だからだろうか。

 

 

『最後の挑戦者は妖精の尻尾(フェアリーテイル)B、ラクサス・ドレアー!彼は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター、マカロフの孫であり、ギルド最強候補としても名が上がっている魔導士です!』

 

『これは期待できるねぇ』

 

『しかし、現在のトップはあのジュラが叩き出した8544!果たしてこの数値を超えることはできるのか――――!?』

 

ラクサスは黙って装置の前に立った。

 

「ラクサス…」

 

アミクは不安そうにラクサスを見つめる。

ラクサスはそんなアミクの視線に気づいて彼女の方を振り返った。そして、ニヤッと笑みを見せる。

 

 

(…不安になる必要はなかったか)

 

それを見て安心してしまった。ラクサスなら大丈夫だ。ただ、彼の事を見守っていればいい。

 

「ラクサス…大丈夫かな」

 

「あの男のことはよく知らないが、雷の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だとは聞いている…雷…」

 

雷が苦手なリリーが恐ろしそうに体を震わせる。

 

「S級魔導士なんでしょ?かなり良いとこは行くと思うけど」

 

「でも、あのジュラに勝てるかどうかは疑問なの。強いのは確かだけどなの」

 

「4桁中盤、2位狙いといったところか」

 

オルガを超えることができれば上々だろう。

 

 

ラクサスはジッと装置を見つめた。ジュラの数値を超えるには自分の魔法では少々心許ない。だが、彼には一つだけジュラを超える自信がある魔法があった。

 

ラクサスは胸の前で両手を近づけた。その手と手の間に光が生成される。それはラクサスを中心に輝きだした。

 

マカロフが「なぁっ、まさか…!」と唖然とした声を上げる。

 

「嘘でしょ…アレを使うの!?」

 

アミクは目を見開いてその輝きを見つめた。

尋常じゃないほどの魔力が詰まった光。仲間にとっては暖かく、敵にとっては無慈悲な光。

 

(この装置は…敵だ…敵だ…!)

 

ラクサスはMPFをとりあえずハデスの顔に見立てた。

 

 

(こいつは…オレの、オレ達の…敵だ!!)

 

 

 

輝きが一層強くなる。実況も観客達も他の選手たちもその光に魅了されたかのようにラクサスを注視する。

 

 

 

 

そして────。

 

 

 

「『妖精の法律(フェアリーロウ)』!!」

 

『敵』を浄化する眩い閃光が、全てを包み込んだ。

 

 

 

(妖精三大魔法の1つをラクサスが…ガジルからは聞いていたが、マカロフの血を引いているだけの事はある)

 

大鴉の尻尾(レイブンテイル)のマスター、イワンはその輝きを見て薄笑いを浮かべた。

 

光が収まり、皆でラクサスの方に注目すると…。

 

 

 

『な、なんということでしょう…MPFが半壊、カンストしています…』

 

MPFは見るも無残な姿になっており、もう二度と使用することは不可能だろう。ただ、最後の役目は果たしたようで、空中に『9999』の数値だけが表示されていた。

 

つまり…ラクサスの圧勝!

 

「やはり、『妖精の法律(フェアリーロウ)』を使いこなしますか。あの装置だけを敵と見なし、魔力をあの装置にだけ集中させていました」

 

メイビスにはラクサスの使った『妖精の法律(フェアリーロウ)』がどのように作用したのかも分かっていた。

 

「才能もあるでしょうが、一番の力の源はギルドを愛するその心。それも、祖父からしっかりと引き継がれているみたいですね」

 

全てを分かっているかのようなメイビスの微笑み。それは見てマカロフも自然と笑顔になった。

 

 

アミクはピョンピョン跳ねて喜んだ。

 

「やったあああああああ!!!ラクサスゥゥ!!!」

 

「…」

 

もう怒鳴ることも疲れたらしいガジルが黙って耳を押えた。

 

「あれがマスタージョゼを一撃で倒したという…なんて威力…」

 

「ええ、まさかここで使ってくるなんて思わなかったけれど」

 

ジュビアもミラも嬉しそうに顔を輝かせた。

 

 

「オ~イオイオイオイオイ!!流石ラクサス!!改めてラクサスの素晴らしさを実感した!」

 

「フリード!!オメェいつの間に居たのかよ!?」

 

「ラクサスが出るって聞いて居ても立ってもいられなくてな。来て良かった!感動した!」

 

フリードは感動のあまり泣き始める始末。他の皆も喜びを体全体で表していた。

 

湧きあがる歓声。上気して顔が赤くなる観客達。唖然とする他のギルドの者達。

 

『な、なんなんだこのギルドは!競技パート1・2フィニッシュ!もう誰も妖精の尻尾(フェアリーテイル)を止められないのか!!』

 

ラクサスは大半が消滅したMPFに背を向けると、アミク達がいる方向を向く。

 

 

そして大きくない声で、しかしよく響く声で言い放った。

 

 

 

「止められるもんなら止めてみろよ。オレ達妖精の尻尾(フェアリーテイル)をな」

 

 

妖精の快進撃はまだまだ終わらないかのように。妖精の成り上がりはまだまだこれからだと言うかのように。

 

 

 

ラクサスの力強い言葉が会場中に響き渡り、より大きな歓声が湧き起こったのだった。

 

 

 




装置が完全に消滅しなかったのはフェアリーグリッターよりは威力が落ちるからです。
カンストには変わりないけど。

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