妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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やりたかったシーンです。結局レイブンテイルってこれっきりなんだよな…。
がっつり行きますよー。


ラクサス VS アレクセイ

「お帰り、ラクサス」

 

「ラクサス!お疲れ!!もうなんか凄すぎて…言葉にならないよ」

 

アミク達が観戦場所に戻ってきたラクサスに声を掛けると、ラクサスは「アレぐらい何ともねぇ」と鼻を鳴らした。

…マジで?

 

「…でも、本当にカッコよかったよ!」

 

アミクが瞳をキラキラさせてラクサスを見つめると、彼は「んぐっ」と仰け反ってそっぽを向いてしまった。

なんだ、自分の顔変だったか。

 

「ま、オレ達を苦戦させたんだ。あの程度当たり前だろ」

 

ガジルが憎まれ口を叩くが、「ガジル君は素直じゃないんですよ」とジュビアに言われて不機嫌そうな顔になった。面倒くさい人。

 

 

 

 

 

『それではここで大魔闘演武3日目の途中経過を発表します。

 1位は変わらず、大鴉の尻尾(レイブンテイル)

 2位はなんと剣咬の虎(セイバートゥース)を抜き、2ランクアップで一気に追い上げてきた妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム!』

 

ここで大きな歓声が上がった。

 

「2位!ここまで来たね!」

 

「1位まで後一歩ね」

 

アミク達は自然と笑みを浮かべた。

 

「なのー!アミク達が2位なの!」

 

「そのままのし上がれ―――!!」

 

「いいぞ――――!!」

 

マーチ達も大喜びだ。

 

『3位はワンランクダウン、剣咬の虎(セイバートゥース)

 4位は人魚の踵(マーメイドヒール)

 そして同じく4位には2ランクアップの妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチーム!』

 

「くうぅ、アミク達のチームより下か―――!!」

 

「まだまだランクアップしていくわよ―――!」

 

「ああ、負けてらんねぇぜ!」

 

『まだここからだ』

 

ナツが悔しがるが、前回よりも2つも順位が上がっている。良い傾向だ。

 

『6位は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)

 以下はご覧の通りです』

 

7位の青い天馬(ブルーペガサス)とビリの四つ首の仔犬(クワトロパピー)は名前さえ呼ばれなかった。

まぁ…四つ首の仔犬(クワトロパピー)は呼ばれない方がいいかもしれないが。

 

 

 

 

3日目のバトルパートに突入。

 

 

第1試合は人魚の踵(マーメイドヒール)のミリアーナ VS 四つ首の仔犬(クワトロパピー)のセムス。

あのセムスって人、凄い恰好だな。

 

ミリアーナは最初、セムスの回転攻撃に苦戦を強いられていたようだったが、魔法を無力化するチューブを上手くセムスに巻き付け、勝利を収めることができた。

 

「ワ、ワイルド…」

 

「元気最強?」

 

チューブで縛ったセムスの上に座り、得意げな表情で笑うミリアーナ。

 

 

「よかったぁ…一時はどうなることかと」

 

「敵を応援してどうすんだよ」

 

「でも、一応知り合いだし…」

 

 

第2試合。

 

剣咬の虎(セイバートゥース)のルーファス VS 青い天馬(ブルーペガサス)のイブ。

 

『1日目の競技パートでぶつかった2人が、3日目のバトルで激突―――!!』

 

言われてみればそうだ。しかし、このカードは正直イブにはキツイ気もするが…。

試合が始まると、思った通りルーファスの有利で進んだ。だが、イブもただやられるだけでなく、雪魔法を駆使してルーファス相手に健闘する。

 

『イヴ君は元々評議員だったんだよな』

 

『そうです。我々と同じ強行検束部隊ルーンナイトの一員でしてね。いやぁ…当時からものすごい逸材だったのですが、ギルドに入ってその魔力にはさらに磨きがかかっていますね』

 

「へー!評議員だったんだ!」

 

初耳だ。それが今ではギルドの魔導士。彼もいい感じに戦っていたが…。

 

「メモリーメイク『燃ユル大地ノ業』!」

 

「うあああああああ!!!」

 

ルーファスの灼熱の炎での攻撃でイブは大火傷を負ってしまった。地面に倒れて呻くイブは見ているだけで痛々しい。

 

「あっつ!空気が熱い!」

 

ルーファスの魔法で周りの空気の温度が高くなっている。この魔法使うだけで地球温暖化が捗りそうだ。

 

 

 

記憶の造形魔法…記憶したものを形にする魔法。

 

「…記憶にあるブロッコリーも作れるのかな」

 

「何を考えているかはわかるが、そんなの食えんのか?」

 

使い方によってはなんでもできそうな気がした。

 

 

『イブ、あのルーファス相手に大健闘でしたが届かない!勝者、剣咬の虎(セイバートゥース)ルーファス!』

 

同じ造形魔法の使い手であるグレイよりも自由度の高い魔法。記憶にさえあれば属性をいくらでも変えられるルーファスの魔法は非常に強力だ。

 

(グレイ…あれが貴方が倒すべき相手だよ)

 

アミクはギュッと拳を握るグレイを見た。彼も闘志を燃やしているようだった。

 

「…アミク?なんでグレイ様の方を?まさか!グレイ様に色目使おうと…!」

 

「めんどくさいな、この人!?」

 

 

 

 

3試合目。

 

なんと、ラクサスと大鴉の尻尾(レイブンテイル)のアレクセイとかいう奴との闘いだ。

 

「ラクサス…連戦になっちゃったね」

 

闘技場に向かう廊下で、ラクサスを見送りに来たアミクが苦笑した。

 

「魔力はまだ残ってるから問題ねぇ」

 

ラクサスは特に気負いはないようだった。緊張しすぎてないのならいいのだが…。

相手はあの大鴉の尻尾(レイブンテイル)。何をしでかしてくるか分からない。参加者以外のメンバー達が協力してイワンや大鴉の尻尾(レイブンテイル)のメンバー達を見張ってくれているが、不安なものは不安なのだ。

 

「…気を付けてね。絶対に無事で帰ってきてよ」

 

ラクサスには不要かもしれないが、それでも誓わせるように言うと、ラクサスは「相変わらず心配性だな」と仕方なさそうな笑みを浮かべた。

 

「なんだ、オレが負けると思ってるのか?」

 

「そう言うわけじゃないけど…グレイやルーシィ達の件もあるし…」

 

どんな卑怯な手でラクサスを傷つけようとしてくるかを思うと心が冷えてくる。だから、つい心配になってしまうのだ。

 

「心配することなんかねえよ。ま、軽く行ってくる」

 

ラクサスはアミクに背を向けるとヒラヒラと手を振った。

 

「うん…行ってらっしゃい」

 

アミクはそれを見送ると彼の試合を観戦するために観戦場所に戻るのだった。

 

 

 

 

会場の遥か高所からはビスカが銃を構えてイワンの動向を監視しているし、リサーナや雷神衆も大鴉の尻尾(レイブンテイル)のメンバーを見張っている。

彼らに変な手出しをさせないため。仲間を守るため。

参加メンバーではない彼らも戦っているのだ。

 

「イワン…もう二度と卑怯なマネはさせんぞ」

 

マカロフが険しい表情をしていると「クス」とメイビスが微笑んだ。

 

 

「どうされましたかな、初代」

 

 

「いいえ、何でもありません」

 

彼女はそう答えるも、笑顔を崩さなかった。

 

「仲間を守る為ならいかなる事もやる。そして…その状況を少しだけ楽しんでしまっている」

 

マカロフは図星を突かれたように頬を赤く染めるが、メイビスは「素敵です」と優しく微笑んだ。

 

「私が目指した究極の形が、今目の前にあるのです」

 

たとえ誰が相手であろうと自分達ができる限り全力で仲間を守ろうとするギルド。メイビスはそのような暖かいギルドを望んでいた。

 

「この形を忘れないでくださいね3代目…えと…6代目でしたっけ」

 

「ぐもぉ~、ありがたきお言葉…そして7代目です」

 

「6代目で合ってるの。ボケたの?」

 

 

 

 

 

「続いて第3試合を始めますカボ」

 

そうして始まるラクサスとアレクセイの試合。

 

 

だが、ラクサスの強さを知っている者は目を疑った。

 

試合が始まってから信じられない光景が繰り広げられたからだ。

 

「ぐあああああ!!!」

 

あのラクサスが一方的にやられている。

 

ラクサスほどの強さを持つ者がそんな赤子の手を捻るようにやられているはずがない。マカロフ達も大鴉の尻尾(レイブンテイル)が何かしたのか、と彼らを睨むが彼らが動いた様子はない。

つまり、これはアレクセイがラクサス以上の実力を持つということか?いや、見た感じそんな大した立ち回りをしているようには見えないが…。

 

 

 

 

そう、その通り。

 

この光景は実際のものではなかった。これは幻覚だったのだ。本当のラクサスとアレクセイは一歩も動いていない。

 

だが、周囲にはラクサスがさも一方的にやられているように見えているのだ。

 

「…こいつぁ何のマネだ」

 

「幻影魔法の一種だよ。辺りに居る者には今こうして話している我々の実体は視えてない。視えているのは戦っている幻の方」

 

ラクサスはアレクセイに圧倒されている自分の幻影を見下ろす。無様なやられ方だ。

自分はこうして立っているのに、幻影の方の自分は倒れている。それを自分が見ているのは妙な気分だ。

 

「よくできているだろ? 誰1人として気づいていない。観客はあのラクサスが手も足もでない映像を視ている」

 

自慢げなアレクセイの声。きっとその仮面の下でも誇らしげな表情をしていることだろう。

 

「お前はギルドでも慕われているようだな。仲間が今これを見てどんな気持ちになっているかな」

 

当然、仲間達は呆然とした表情をしたり、焦った声を出したりしている。彼らにとってラクサスがこうも簡単にやられている状況は受け入れ難いものだった。

しかし、彼らの姿を見てもラクサスは動揺しない。むしろ呆れまで見せている。

 

「オイオイ、全然意味が分かんねえぞ。お前らが幻とやらで勝って何になるってんだ」

 

「その通り、我々の目的は『勝利』ではない。この幻影は周囲への目くらまし」

 

ラクサスは意味が分からず「ア?」と声を上げた。『勝利』ではない?ではなぜ大魔闘演武に参加しているのか。

 

「幻影は幻影、結果はいかようにも変更できる」

 

「結果、だと?」

 

すると、幻影の方のラクサスが反撃を始めた。その様子を見たナツ達が喜び、勢い付く。

 

「やっぱ大丈夫だな」

 

「そうですね…」

 

「それにしてもアミク、遅いわね」

 

ただ、ジュビアは不安そうにラクサス達の試合を見ていた。

 

しかし、しばらく反撃していたラクサスがまたアレクセイにやられ始めた。安心していたマカロフ達の表情が強張る。

 

 

 

 

「今のがその結果、とやらか」

 

「我々との交渉次第ではお前を勝たせてやる事もできる」

 

この状況は相手のカードというわけだ。自分の返答次第で幻影の結末を変えてやる、と。しかし、これでは交渉にはならない。

 

「話にならねえな。幻なんか関係ねえんだよ、今ここで現実のテメェを片づけて終わりだ」

 

これがアレクセイの作り出した幻ならば彼を倒せば片が付くはず。

ラクサスはコートを脱ぎ捨て、バチバチと雷を纏って臨戦態勢になった。 

 

「それは無理」

 

「現実はキビシイでサー」

 

アレクセイの後ろに現れた人影。なんと観戦場所に居たはずの大鴉の尻尾(レイブンテイル)のメンバー達だった。全員ニヤニヤとラクサスを見て口角を上げている。

 

「いかにお前といえど、大鴉の尻尾(レイブンテイル)の精鋭を同時には倒せんよ」

 

アレクセイは1人ではなかった。卑怯にも、幻影に隠れてフルメンバーで相対してきたのだ。

 

「そしてもう1つ────オレの強さは知ってんだろォ、バカ息子ォ」

 

おもむろにアレクセイは仮面を外した。その下から顕わになったその顔は…マカロフの息子であり、ラクサスの父親。妖精の尻尾(フェアリーテイル)から破門されたはずの人物。

そして、大鴉の尻尾(レイブンテイル)のギルドマスター、イワン・ドレアーであった。

 

「そんな事だろうと思ったぜ──クソ親父」

 

ラクサスは動じない。ここまでずっと心を平常に保ち、冷めた目つきで父親を見ていた。

なんとなくそんな気はしていた。アレクセイから漂ってくる臭いと魔力がイワンにそっくりなものだったから。

 

「マカロフは死んでも口を割らん。だが、おまえは違う。教えてもらおうか──ルーメン・イストワールの在り処を」

 

大鴉の尻尾(レイブンテイル)の真の目的、とうとうそれが明かされた。

ルーメン・イストワール。イワンが探し求めているもの。

 

「何の話だ」

 

「とぼけなくていい…マカロフはお前に教えているハズだ」

 

「本当に知らねぇんだけどな」

 

「いいや、お前は知っているハズ」

 

しつこい。知らないものは知らないのだ。

 

「まあ…たとえ知っててもアンタには教えねーよ」

 

「オイオイ…この絶望的な状況下で『勝ち』を譲るって言ってんだぜ?条件がのめねえってんならオメェ…幻で負けるだけじゃ済まねえぞ」

 

「いちいちめんどくせえ事しやがって…ジジィが見切りをつけたのもよく分かる」

 

こんな姑息な手段で問題を起こしてきたのなら、マカロフも危険分子だと判断するはずだ。このようなものは妖精の尻尾(フェアリーテイル)には相応しくないし、仲間を危険に晒す可能性もある。

 

「まとめてかかって来いよ。マスターの敵はオレの敵だからョ」

 

ラクサスは手招きした。この人数差的に不利である状況にも関わらず威勢の良いラクサスに、イワン達は余裕の笑みを浮かべた。馬鹿な奴だ、と。

 

「ククク…そんな態度で良いのか?元々、我々は直接手を下さなくともお前を従わせる手段を持っているのだ。保険のつもりだったがな」

 

「はぁ?そんな手段あるならさっさと使えばいいだろ」

 

ラクサスは馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑った。例えどんなものであっても力でねじ伏せればいいと思っていた。

 

イワンはフレアに視線を向ける。するとフレアはビクッとなった。

ラクサスは気付いた。フレアの髪がイワンの後ろまで伸びていることに。

 

「フレア」

 

「…はい」

 

フレアが恐る恐る伸びた髪を操作して、イワンの後ろからラクサスに見えるように移動される。

 

それは。

 

フレアの髪に縛られているものは。

 

 

「アミク…!」

 

 

フレアの髪に四肢と首を巻き付かれ、拘束されているアミクだった。

 

 

少し前。観戦場所に戻ろうとしていたアミクは物音が聞こえた気がしてキョロキョロと周りを見回した。

 

「…誰か居るのかな?」

 

アミクが首を傾げた直後。

 

目の前に小さな生物が飛びついてきた。

 

「うわっ!」

 

思わず反撃しようと音を拳に纏うと。

 

 

「きゃっ」

 

どこからか髪が伸びてきてアミクの四肢を縛ったのだ。

 

「これって…!」

 

大鴉の尻尾(レイブンテイル)

 

そう気付いた時にはすでに遅く小さな生物がアミクの胸元に着地してしまった。その瞬間。

 

(ふ、ぁ…)

 

一気に力が抜け、目の前が暗くなる。頭がガンガンと痛みを発し、息が苦しい。

これは…魔力欠乏症か。ウェンディ達がやられたあの…。

 

アミクは力なく倒れ、青ざめた顔に虚ろな瞳を宿した。

もっと警戒するべきだった。観戦場所に大鴉の尻尾(レイブンテイル)が居たからこっちに何か仕掛けるならすぐに分かるはずだと安心してしまっていた。

 

(しま…った…)

 

アミクの意識が遠のいていった。

 

 

 

「ほ、本当にやるの?」

 

「マスターの命令でサー。その小娘を攫ってこいと」

 

「呑気に1人で居て助かったよ。楽な仕事だった」

 

フレアは地面に倒れたアミクを前にオロオロしている。ナルプディングが苛立ったように声を掛けた。

 

「何をしているんでサー?まさか、躊躇してるんですかい?」

 

「い、いや…ただ、ここまでやらなくてもいいんじゃないかって…」

 

フレアがオドオドしながらも意見すると、ナルプディングは青筋を立てて目を見開く。

 

「馬鹿なこと言ってるんじゃないでサー。これはラクサスを揺さぶるための、脅しの材料でもあるでサー。コイツが居れば確実に成功するでサー」

 

「そうだよ。ククッ、今更怖気ついたのかい?君だってコイツのことは嫌ってたんじゃないの?好きに甚振れる良い機会だよ」

 

「そ、それは…」

 

不気味な笑みを浮かべたクロヘビもナルプディングに加担した。形勢不利を悟ったフレアは目を逸らす。

イワンは「あの小娘はラクサスとデキてる奴だ。最終的にはアイツを使って脅せばラクサスも言う事を聞くだろう。ついでに、あの容姿かつ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なら高く売れる」とアミクに複数の利用価値を見出し、彼女を攫うようにフレア達に命令してきたのだ。

オーブラの力を使い、アミクを無力化する。あっさり成功して笑いたくなるほどだった。そのオーブラは今も無言で突っ立ってるだけだが。

 

だが、フレアの心はアミクを傷つける事を拒否していた。

 

思い出されるのは、自分が人知れず涙を流していた時に癒してくれた光。彼女はフレアが仕出かした事を知らないわけでもないだろうに、フレアの傷を治してくれた。

大鴉の尻尾(レイブンテイル)に入ってからそんな風に誰かに気遣われたことなんてなかった。誰かに優しくされたことなんてなかった。

 

だが。

自分はずっと日陰で誰かを傷つけ、自分も傷つくしかないのだと絶望していたフレアの手を、アミクは引っ張ってくれた。

 

 

そんな清らかな心を持つ少女に恩を仇で返したくなかった。

 

「甘えたこと言ってると、マスターに言いつけるでサー」

 

「ううっ…」

 

でも、マスターは怖い。自分をぶってくる。痛いのは嫌だ。

だからと言ってアミクに酷いことはしたくない。

 

葛藤するフレアの前でナルプディングがアミクを担ごうとしていた。それを慌てて止める。

 

「ま、待って…!私が運ぶから…」

 

「しっかりしなさいな。まったく」

 

ナルプディングはフレアの態度が癇に障るようだ。彼がブツブツ不平を零すのを聞きながらフレアはアミクを髪で拘束した。なるべく、痛くないように優しく。

 

「ククッ、ラクサスの目の前でこのアミクって娘を壊したらどんな顔するんだろうなぁ…」

 

人の大切なものを壊すのが趣味のクロヘビ。大切なものを目の前で破壊され、絶望に歪む表情がたまらなくゾクゾクする。

口を歪めるクロヘビを見て、フレアは軽く嫌悪感が湧いたが、結局自分も同じ穴の狢だと落ち込んだ。

 

「…」

 

そしてオーブラは相変わらず黙ったままだった。ただ、彼の肩で小さな生物が嘲笑うように「キキッ」と声を出していた。

 

 

彼女はぐったりして目を閉じている。気絶しているらしい。彼女を拘束しているフレアは引き攣った笑みを浮かべて…なんだか無理やり作っているような笑みを浮かべていた。

 

ラクサスが初めて動揺した。目を見開き、焦りが一瞬表情に表れる。

それを見たイワンは思惑通りとニヤリと笑った。

 

「この小娘はお前の大切な奴なんだろ。ククク、笑えるなぁ、あのラクサスがマセちまうなんてよぉ。父親としては微笑ましいよ…おっと動くなよ。下手な真似をしたらこの小娘の肌に痛々しい焼き跡が付いちまうかもなぁ。あるいはうっかり絞め殺して…」

 

「テメェ…!!」

 

道理でさっきからアミクの姿が見えないと思った。まだ戻ってなかったのかと思ったがまさかコイツらに攫われていたとは。

ラクサスが溢れて飛び出しそうな怒りをイワン達に向けた。ものすごい気迫を受けたフレア達は怖気ついたように身体を震わせる。

 

しかしイワンは冷や汗を流しながらも余裕の表情だ。

 

「オレだって息子に対して手荒な真似はしたくねぇんだよ。だからこうして穏便に済まそうとしているんだろ」

 

ぬけぬけとふざけた事を…。ラクサスは怨念がこもっているような目つきでイワンを睨んだ。

 

「…さぁ、ラクサス、言え。お前が話せばコイツは解放するし、試合にも勝たせてやる。だがそうでなければ…分かるな?」

 

嘘だ。試合には勝たせてくれるかもしれないが、彼らはアミクを手放すつもりはないだろう。貴重な資金源なのだから。

 

「賢明な判断をした方がいいでサー」

 

ナルプディングが鋭い棘がいくつも付いた腕をアミクの首筋に近付けた。少しだけアミクの首に棘が刺さり、血が一筋流れる。

ラクサスの眉が吊り上がった。お前、誰の許可得てそいつに触ってんだと怒鳴りたくなる。

 

グツグツとした殺意が湧き上がってきた。今すぐ雷で消し炭にしたい。だが、その気持ちを抑え、瞳に殺意を溜めておく。すでに漏れ出そうなそれを抑えもしない。

 

 

「クソ親父…ホント腐ってやがんな」

 

「本当なら人質なぞ使わずとも良かったのだがな。対妖精の尻尾(フェアリーテイル)特化型ギルド、大鴉の尻尾(レイブンテイル)の力に敵うわけねぇだろ」

 

 

 

 

「これは、ラクサスなのか?」

 

一方、ラクサスがやられている幻影を見ているマーチ達。

 

「お前から聞いていた印象と随分違うな、ハッピー」

 

「相手のギルドマスターとの関係もあるし、迷いがあるのかしらね…」

 

迷い、か。確かに、一応はマスターが父親ではあるし、あり得なくはないが…。

 

「らしくないよ!ラクサスーーー!!」

 

「ラクサス!!貴方の力はそんなもんじゃないはずなの!!」

 

しかし、どうもラクサスにしては様子がおかしい気がする。そう感じながらも確固たる確証が得られなくて歯痒い思いをするのだった。

 

 

 

 

 

 

「対妖精の尻尾(フェアリーテイル)特化型ギルドだぁ?」

 

ラクサスがアミクから目を逸らさずに反芻した。

 

「その通り」

 

「我々は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーそれぞれの苦手とする魔法の使い手のみで構成されている」

 

「ボクたちはその中の精鋭4人だ」

 

グレイがあんなに何度もやられていたのも、そのせいなのか?

 

「そのオレ達と戦争するつもりか? お前達の弱点は知り尽くしている。コイツもその1つだ」

 

イワンがアミクの顔を頰を鷲掴みにした。アミクが苦しげな声を上げる。

一瞬殺意が膨れ上がり、イワンを突き刺そうとしたがなんとか抑える。

 

 

 

「それでも抗おうってなら、我がギルドの7年間ためた力を解放しちゃうぜ?」

 

相手を甚振るような手段を使い、圧倒的優位に立つ。卑怯で卑劣な男だ。こんなのが自分の父親だと思うと反吐が出る。

だから、せめてもの意趣返しに言ってやった。

 

「ジジィはあんたの事なんぞとっくに調査済みだ。構成人数、ギルドの場所、活動資金、この7年間の動向…全て掴んでいる」

 

「なにっ!?」

 

今度はイワンが動揺する番だった。

 

「ガジルだ!アイツが謀ったんだ!」

 

「ぬ…いけすかねぇ奴でしたが、印象通りだったってわけでサー」

 

ここでやっとガジルの正体に、イワンは気付く。

 

「二重スパイだったのか」

 

「そういう細かい事苦手そうだけど、裏目に出ちゃったね」

 

この時、ガジルがくしゃみした。

 

「でもおかしいんじゃないの?」

 

「筒抜けの割には特にリアクションもなかったでサー」

 

そうだ。情報を掴んでいながら大鴉の尻尾(レイブンテイル)に何も仕掛けてこなかった。襲撃することもできたというのに、何もなかったのだ。

 

「ジジィはそこまでつかんでいながら動かなかった」

 

 

ラクサスも不思議に思っていたのだ。マカロフに問いただしてみると、どうもイワンは周りに漏らすと危険な『情報』を握っているらしい。

この7年間、その情報を漏らした形跡もなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドを襲うようなこともなかった。

 

情報については『知らずともよい。どんなギルドにも、触れてはならぬ部分がある』と教えてくれなかったが、イワン達が特に何もしてなかったので、マカロフも動かなかったのだ。

 

「たぶんジジィは心のどこかで、アンタの事を信じてたんだろうな──親子だから」

 

やっぱり、自分の祖父は甘い。厳しい態度を取りながらも、心では甘い部分がある。それがマカロフだ。

まぁそれでこそ、ラクサスの『ジジィ』だ。

 

顔を俯かせて肩を震わせるイワン。苦悩のような、怒りのような。彼は歪んだ表情をしていた。

 

そして、歯を食いしばる。

 

 

「黙れぇ!!」

 

イワンは大量の紙人形をラクサスに放った。それを腕で防ぐ。

 

「オレはこの日の為に日陰で暮らしてきたんだよォ!! 全てはルーメン・イストワールを手に入れる為!!」

 

慟哭するような、心の内を吐露するような、イワンの叫び。闇ギルドだと後ろ指を差されながらもずっと耐えてきた。コツコツと準備し、目的のためならなんでもした。

 

「7年間も危害を加えなかっただぁ? 当たり前だろ!!残ったカスどもがルーメン・イストワールの情報を持ってるハズねえからな!!ギルドの中も!! マグノリアの街も天狼島も!! ギルドゆかりの場所は全部探した!! それでも見つからねえ!!」

 

自分が必死に追い求めてきたものがすぐ近くにあるだろうに、それが見つからない。ふざけるな。

そう思いながらもずっと待ち続け、7年も経った頃にようやくマカロフ達が帰還したと情報が入った。その時は歓喜したものだ。彼らの無事を喜ぶものではない。探し物の在り処の手掛かりを手に入れることができる。それしか頭になかった。

 

「ルーメン・イストワールはどこだ!!?どこにある!!言えぇぇっ!!ラクサスゥゥ!!!オレの息子だろォがァァァァ!!!」

 

ラクサスは自分の息子。なのになぜ親である自分に刃向かう。親がやりたいことは子供も手伝うのが筋ではないのか。親の望むことを叶えてくれるのが子ではないのか。

イワンは正気じゃない目つきのまま、振り返ってアミクを睨む。

 

「フレアァァァァァ!!!そいつを殺せええええ!!!」

 

「え!!?」

 

予想もしなかった言葉にフレアは目を見張った。

 

「あのバカ息子に分からせてやるんだ!!オレ達に逆らえばどうなるかをな!!オレは本気だ!!」

 

頭に血が上って冷静な判断ができてないのか、目を血走らせたイワンの顔が悪魔に見えてきた。

 

「で、でも…それはさすがに…」

 

「オレの言うことが聞けねぇのかァァァァァァァ!!!」

 

「ヒィッ!」

 

躊躇したフレアを怒鳴りつけると、彼女はビクッと肩を揺らした。

 

 

「おい、そいつに傷一つ付けてみろ…この世とは思えねえ地獄を見せてやる…!!」

 

ラクサスはもう我慢できない、とばかりに殺気を滾らせてイワンを睨んだ。

 

「やれえええええええええ!!!」

 

構わず叫ぶイワン。

 

そしてフレアは────。

 

「い、嫌…です…!」

 

初めて、イワンに逆らった。イワンは意味がわからず間抜けな表情になる。まさか、あのフレアが────痛め付けて恐怖で従わせていたフレアが、反抗した?

 

「アア!!?」

 

理解した途端、憤怒が込み上げてきた。

 

「テメェ、誰が逆らって良いって言ったァ!!」

 

「も、もう嫌です…!だれかを傷つけるのは…!!」

 

涙を堪えて首を振るフレアの姿は、この淀んだ空気を持つ大鴉の尻尾(レイブンテイル)の中で輝いて見えた。

 

「もういい!!オレがやる!!」

 

もう資金源にするとかは頭から抜けているらしい。イワンがアミクに向かって大量の紙人形を飛ばした。あの勢いだと、アミクの細い体など貫いてしまいそうだ。

 

「ふざけんなクソ野郎!!」

 

ラクサスがいよいよ飛び出そうとした。

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

「────ありがとう」

 

「え?」

 

アミクがカッと目を見開いた。そして、周囲に衝撃波を放って髪の拘束から脱出する。

 

直後、紙の束がアミクの居た場所を通過した。

 

「なっ…!?バカな、魔力は消したはずだ!!」

 

オーブラによって魔力を0にされたはずなのに、なぜ動ける?

 

「ず――――っと少しずつ音を食べて魔力回復してたんだよ!バーカバーカ!」

 

ラクサスの隣に着地するアミク。ラクサスは少しホッとしたような表情をした。

 

「心配させやがって…」

 

と言ってから失言だと思って慌てて口を噤むラクサスであった。ツンデレめ。

 

「くそ!!オーブラもう一度魔力を消せ!!」

 

イワンがオーブラに命令するが、そのオーブラの背後にアミクが現れた。

 

「同じ轍は踏まないよ!!これはウェンディとシャルルの分!!」

 

音を纏った踵落としをオーブラの脳天に決めてやった。オーブラは断末魔もなく倒れた。

 

「次はそこの変なアゴのプリン!!」

 

アミクは突然のことに戸惑うナルプディングに近付くと、両手を構えた。

 

「ニ、『ニードルブラスト』!!」

 

「よくもグレイを!!『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

「ぎにゃあああああ!!!」

 

反応して攻撃して来ようとしたが遅い。思いっきり吹っ飛ばす。

 

アミクは今度はオロオロしているフレアに接近した。

 

「さっきはありがとう!でもごめんね!ルーシィのケジメは付けさせてもらうから!」

 

「あ…!」

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

彼女にはちょっと威力弱めのブレスを放ってあげた。

 

「きゃああああ!!」

 

吹っ飛んだフレアは地面に落下して「いたた…」と呻き声を上げる。

 

「『砂の模造(サンドフェイク)』」

 

アミクの背後の砂から現れたクロヘビ。アミクはちら、と後ろを見ると「えーっと」と悩ましげな顔つきなる。

 

「貴方は…一応犬ギレちゃんの分!!」

 

彼には頭突きをかましてやった。避けようとしたクロヘビだが、アミクががっしりと彼の服を掴んで引き寄せたため回避不可能。

クロヘビの鼻面にアミクの額が直撃。

 

「ぐふっ!!」

 

彼の体が反れて地面に倒れ込んだ。

 

 

「わ…我が精鋭部隊が…!!」

 

1人の小娘に蹂躙される彼らを見て、イワンは驚愕した。

 

だが。

 

 

「い、痛いでサー…」

 

「…効いたよ」

 

オーブラ以外の面子はヨロヨロとしながらも立ち上がった。やはり、なけなしの魔力で復活したばかりのアミクの攻撃では大きなダメージにはならなかったようだ。

魔力欠乏症にもなっていたので攻撃力も下がっていたのもあるだろう。

 

オーブラには全力で攻撃したので倒し切れたようだが。

 

「い、一発入れた…」

 

アミクも無理していたのか片膝を付く。

 

 

「な、舐めた真似しやがって、この小娘がぁ!!」

 

激昂したイワンがアミクに攻撃を仕掛けようとすると。

 

バチィッ!と雷が駆け抜け、アミクを掻っ攫っていった。少し離れた場所に、アミクを抱えたラクサスが現れる。

 

「なにあっさり捕まってんだよ」

 

「ごめんなさい…不意を突かれちゃって…」

 

アミクがしょんぼりすると、ラクサスは彼女の頭を優しく撫でた。

 

「無事だったならいい。後は任せておけ」

 

ラクサスはアミクを地面にゆっくりと下ろすと、イワン達を見据えた。彼らがビクッと肩を震わせる。

ラクサスが一歩前に出る。地面から見上げる彼の背中が頼もしく見えた。

 

「アミクからすでに一発貰っただろうが…サービスでオレからもお見舞いしてやるぜ」

 

あっという間だった。雷を纏ったラクサスが一瞬でフレア達の前に移動し、殴り飛ばして昏倒させたのだ。

元々手負いの状態だったため、反応できなかったのだ。

 

「バカなっ…!?」

 

イワンは口を大きく開けて動揺した。少女に良いように弄ばれただけに留まらず、ラクサスがあっさりと自分以外の全員を倒してしまったのだ。

自分のギルドの精鋭が。いとも簡単に。

 

「クソ親父!」

 

残ったのはマスターであるイワンのみ。ラクサスがドン、と足を踏み鳴らすとイワンは「ヒィッ!」と怯えた。

彼は悟ってしまったのだ。イワンとラクサスの間にある実力差に。自分では彼に敵わない。本能で悟ってしまった。

 

「アンタの目的が何だか知らねえが、やられた仲間のケジメはとらせてもらうぜ」

 

目を据わらせたラクサスの言葉に、イワンは自分の息子に心底恐怖を抱いた。

その時、ラクサスの隣に立つ者がいた。

アミクだ。

 

「私も貴方にはまだ『お返し』してなかったね…」

 

「万全じゃねぇんだろ。引っ込んでろよ」

 

「ううん…私にもやらせて」

 

 

ラクサスはアミクの瞳から静かな怒りを感じてこれ以上言い募るのを止めた。

彼女も今まで仲間が傷つけられて鬱憤が溜まっていたのだ。ここで晴らさせてやるべきだろう。

 

「ま…待て!!オレはおまえの父親だぞっ!!家族だ!!父を殴るというのかっ!!」

 

情けなくも、家族の情に訴えようとするイワン。アミクは悲しげに彼を見つめて言い放った。

 

「…自分の息子を道具としか見ていない貴方に、父親だって名乗る資格はあるの?」

 

父親だから、と何でも許されるわけではない。

何より、ラクサスを脅して利用しようとしたイワンに息子への愛情があるとは思えなかった。

 

「ラクサスは、貴方の都合の良い道具なんかじゃないんだよ!!」

 

イワンの心に訴えるように語るアミクを、イワンは忌々しげに睨んだ。

 

「父親であるオレが息子をどう扱おうと勝手だろうがぁっ!!」

 

あのマカロフの息子とは思えない、家族を蔑にするような発言。

同じ血が通っているはずなのに、どうしてこんなにも違うのだろうとアミクは悲しくなった。

 

家族だったはずなのに…どうして大きな溝ができてしまったのだろう…。

 

アミクの心情を悟ったのか。

 

 

ラクサスはチラッとアミクに視線を向けると、軽く微笑んだ。

彼はイワンに向き直ると断言する。

 

「オレの家族は妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ」

 

破門されてからも見守ってくれると言ってくれたマカロフ。ギルドは家族だと豪語するアミク達。

かつては妖精の尻尾(フェアリーテイル)を傷つけたラクサス。でも、そんな自分をマカロフも他の仲間達も温かく迎えてくれた。

家族だと認めてくれた。彼らはラクサスを、彼自身を認めてくれていた。

 

以前の自分はなんて愚かだったのだろう。最高の仲間達が────家族が、こんな近くにいたのに。

強さに拘るあまり妖精の尻尾(フェアリーテイル)の本質を見失っていた。

 

 

まさに、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は血の繋がりよりも深い絆を持つ本当の家族。

 

 

 

「この親不孝者の、クソ外道がぁ!!」

 

イワンにはもう後がない。焦りあまり逆上したイワンは紙の束をラクサス達に放った。

しかし、ラクサスの雷があっさり紙の束を払ってしまう。この程度の攻撃が通用するラクサスではないのだ。

 

「外道はどっちだよっ」

 

「家族の敵はオレ達が潰す!!」

 

アミクは横目でラクサスを見た。ラクサスも何かを察したのか薄く笑う。

 

「ラクサス、久しぶりにやっちゃおう」

 

「勘は鈍ってねえだろうな」

 

「多分、大丈夫!」

 

アミクとラクサスは示し合せたように、固まっているイワンに手を向けた。

 

 

アミクの手から音の塊が射出され、ラクサスの手からも雷が放たれた。その2つが互いに触れ合う。

すると、雷は音の塊に吸収され、その中で激しく放電する。

 

昔、何度かやった事のあるアミクとラクサスの合体魔法(ユニゾンレイド)

 

「「『付和雷響(ふわらいきょう)』!!」」

 

雷を内包した音の塊がイワンに一直線に向かった。

 

 

それは顔を引き攣らせるイワンの胸元に直撃。

瞬間、衝撃波と共に雷が放出された。

 

 

「ぐほおおおおおおおっ!!!」

 

思いっきり吹っ飛ばされたイワンは闘技場の壁に激突。壁はひび割れ、彼はぐったりと動かなくなった。

 

彼がやられたのと同時に幻覚が解けた。

偽りの光景が消え失せ、そこには真実だけが残った。

 

 

「すっきりしたー…ごめん、もう無理」

 

「あ?」

 

同時に、アミクも力尽きた。彼女はもう立っているのもやっとだったのだ。

魔力もなくなり、体力も限界になったアミクが倒れようとすると、ラクサスが咄嗟にアミクを抱えてくれた。

 

「また無茶しやがって」

 

「お手数掛けます…」

 

 

 

『こ…これは一体…!!?』

 

その光景を見て、当然困惑する実況者達。

 

 

「ラクサス!? 双子だったのか!? つーか何でアミクが居るんだ!?」

 

「違えだろアホ、ラクサスが消えて別のラクサスとアミクが…」

 

『これは、幻覚か…!!?』

 

ナツ達もギョッとした。いきなり別の光景が現れたら驚きもするだろう。

 

「他の奴らまで…!」

 

「アミクも居るの!! 一体何が…!!」

 

「…まさか…!」

 

リリーは観戦場所に居る大鴉の尻尾(レイブンテイル)のメンバーを見た。

彼らが音もなく消えていく。

 

「思念体!」

 

「やられたわね…」

 

ミラ達もアミクが闘技場に居るのを見て驚いている。

 

「さっきから居ないって思ってたけど…そこに居たなんて…」

 

「何やってんだアイツ」

 

「もしかして…大鴉の尻尾(レイブンテイル)に?」

 

 

 

 

 

『しかし…これは…何が起きたのか!!?』

 

「ギルドマスターカボ!! アレクセイの正体はマスターイワンカボ!!」

 

イワンの顔を確認したマトー君が大声で伝えた。当然、観衆達も驚きを禁じ得ない。

 

 

「あと、何で此処にアミクが居るカボ!?」

 

「あの人達に攫われました」

 

アミクはラクサスに抱えられたまま、力なくイワンを指差した。攫われた証拠はないが、状況的に見てアミクの言い分が信憑性が高いことは明らかだろう。

マトー君達もアミクの言葉を信じたようだった。

 

『先ほどまで戦っていたラクサスとアレクセイは幻だったのか!!? 立っているのはラクサス!! 試合終了!!!』

 

『そスて我々の見えぬ所で全員がかりの攻撃…さらにマスターの大会参戦…それに加え、他の参加の誘拐の疑い…これはどう見ても反則じゃの』

 

大鴉の尻尾(レイブンテイル)に厳しい視線を向けるヤジマ。とうとうやらかしてくれたか、とでも言いたげだった。

 

 

「あいつら2人だけで大鴉の尻尾(レイブンテイル)のメンバー全滅させたのかよ!?」

 

「さっきのエルザといい、あのラクサスやアミクといい」

 

「バケモンだらけじゃねーか、妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

観衆達はラクサス達の圧倒的な強さに感服したようだった。

 

そこで、マトー君が告げる。

 

「2人での参加になってしまったようですが今回は特例としましょう。勝者…妖精の尻尾(フェアリーテイル)B、ラクサス・ドレアー!!」

 

よかった。アミクのせいで今の試合自体が無効になるかもなんて心配は杞憂だったようだ。

 

「何だかアイツらに敵を討ってもらった形になっちまったな」

 

「だ―――っ!! 全員倒しただと!!? あいつらばかり目立ちやがって!!」

 

そんなこと言われても望んでそうなったわけではないのだが。アミクに至っては巻き込まれただけだし。

 

「アミクは大丈夫なの!?」

 

「あの様子だとウェンディ達のようになっているみたいだが…意外と元気そうだ」

 

「ほっ…良かったです…」

 

まぁ、無事とは言い切れないが。

 

「おめでとうラクサス…やったね」

 

アミクが柔らかい笑みを浮かべてラクサスを称えるが、彼は厳しい表情で叱るように言った。

 

「お前がもっと注意してればもっと楽に終わったんだよ。警戒心が足りねぇな、ったく」

 

彼の言葉は責めるようだったが、そこからとても心配していたことも伝わってきた。

申し訳なくなって俯いてしまう。

 

「う…ごめんね、何でも言う事聞くから許して…」

 

それを聞いた途端。

 

ラクサスが満面の笑みになった。滅多に見ないラクサスの表情。

 

「その言葉、忘れんなよ」

 

その笑顔に黒いものが混じっているのを感じて、アミクは「早まったか」と冷や汗を流したのだった。

 

「帰るぞ」

 

「わっ」

 

ラクサスは上機嫌なままアミクを抱き上げた。要するにお姫様抱っこだ。なんかデジャブを感じる。

周りの観衆から黄色い声と囃したてるような声が響いてきた。

 

「は、恥ずかしいよ…おんぶでいいよおんぶで」

 

「うるせぇ。あっさり捕まった罰だ」

 

「そんなぁ、それはさっきのやつで済んだんじゃないのぉ~?…」

 

 

楽しそうに話しながら出口へと向かっていたアミク達だったが。

 

「ラクサス…ついでに小娘」

 

ちょうど出口の近くに居たボロボロのイワンが彼らを呼びとめた。

イワンは卑屈な笑みを浮かべる。彼の歪んだ心を表すような笑みがアミクを不安にさせた。

 

「今回はオレの負けだ。だが…これだけは覚えておけ。ルーメン・イストワールは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の闇──いずれ知る時が来る…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の正体を…」

 

ルーメン・イストワール…。さっきも気絶したフリしながら聞いていたが、それはいったい何なのだ。

イワンが喉から手が出るほど欲しいモノ。全貌が掴めない。

 

だが、これだけは言えた。

 

 

「闇だか何だか知らないけど…例え、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が何を抱えていたって、私達が妖精の尻尾(フェアリーテイル)を大好きなのは変わらないから!」

 

イワンはアミクの力強い瞳に気圧されたように言葉を失くす。

その様子にすっきりしてアミクは連行されていくイワンから視線を外した。

ラクサスを見ると彼も良く言った、と言うように優しげな目をしている。何かむず痒い。

 

 

『えー協議の結果、大鴉の尻尾(レイブンテイル)は失格となりました。大鴉の尻尾(レイブンテイル)の大会出場権を3年間剥奪します』

 

『当然じゃ』

 

他のメンバー達も連行されている中、アミクは1匹の小さな生物がオーブラから飛びだし逃げていくのを目撃した。

 

「あ…!」

 

(あの小さいの…!!)

 

そいつは小さい体を俊敏に動かしてどこかに去ってしまった。

衛兵に伝えようかとも思ったが、もう捕まえられないだろう。仕方ない。

 

 

ただ、声だけは密かに聞こえた。

 

『また会おう、キキッ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)…キキキッ!!』

 

ただ何とも言えない不気味な不安感がアミクの中に残ったのだった。

 

 

 




敵キャラがやたらと主人公を殺そうとしてくる件。
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