妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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遅くなりました。
OVA回でーす。でもよく大会中に遊ぶ余裕なんてあるな。疲れないのかな?


リュウゼツランド

酒場にて。

 

「エルザとラクサスとウェンディの健闘を祝ってカンパーイ!!」

 

『カンパーイ!!』

 

アミクの音頭でギルドのみんなが飲み物を掲げた。

 

「今日は最高だったなー!!」「あい!!」

 

「コラコラ、あんまりもの壊さないでよ。ギルドじゃないんだから」

 

「きっと言っても無駄なの」

 

3日目は上々な出来で終える事が出来た。

みんなの表情も晴れやかだ。

 

 

「グレイ様!今日も素敵でした!」

 

「オレ…何もしてねーけど」

 

『存在自体が素敵だと言いたいんだろ、きっと』

 

アミク達はイチャイチャ(?)しているグレイ達を脇目に酒場を見渡した。

 

…よりによってマカロフやラクサスがいない。今日の試合でイワンから聞いたラーメン何とかについて聞きたかったのだが…。※ルーメン・イストワール

 

「せっかくエルザさんが快勝したのに…私勝てなかったなあ」

 

「何言ってんの、よくやったわよ」 

 

「皆、驚いていたぞ」

 

「そうそう!私なんか感動しちゃった!!ウェンディがこんなに大きくなるなんて…う、また涙が…」

 

「お姉ちゃんみたいだねアミク…」

 

アミクが腕で涙を拭うと、ウェンディが照れくさそうに頬を染めた。

 

「わ、私だけの力じゃないです!アミクさん達が私を強くしてくれました。だから、これは皆さんの力でもありますっ」

 

「ええ子や…」

 

「ふぇっ!?」

 

アミクがウェンディの頭を撫で撫でした。やっぱりウェンディの頭は触り心地が良い。

 

ウェンディマジ天使。

 

 

「それにしても、すごい回復力ねエルザ」

 

ルーシィが感心半分呆れ半分で言う。エルザには何度も驚かされてきたが、今でも相変わらず自分達の想像を超えていくらしい。

 

「アミクにウェンディ、ポーリュシカさんもいるからな」

 

「だとしてもそこまでピンピンしてるのはパないよ」

 

包帯を巻かれてはいるが、元気そうなエルザ。本当にどういう体してるんだろう…。

 

「その3人のパワーでも回復しないエルフマンって…」

 

「情けないわね~」

 

貴方の姉と妹が辛口ですよ、エルフマン。

あれはエルザの方が凄いだけだと思うのだが。

 

 

「アミクも災難だったわよね~。レイブンに人質にされるなんて」

 

「魔力も全部吸われて魔力欠乏症になったんでしょ?もう大丈夫なの?」

 

「実を言うと、まだ少しだるいんだよね…」

 

魔力も回復し少し休んだとはいえ、まだ少し後遺症が残っている。まぁ、明日になれば完治するだろう。

 

「結果的にあの人達も追い出せたし、これくらいなんともないよ」

 

「…何にしろ、無事でよかった」

 

安心した様子のルーシィを見て、ラクサスの試合が終わった後の出来事を思い出す。

アミクはあの後で話を聞いたルーシィ達から、それはもう心配されたものだ。

 

「ごめんね。私ももっと警戒すべきだった…」

 

「不意打ちでやられたらしいわね。ブロッコリーに釣られて攫われたのかと思ってた」

 

「そこまで単純じゃないよ!?」

 

ちょっとルーシィはアミクの事をバカな子だと思ってるのでは?

 

「前にそれで罠に引っ掛かった事あったんでしょ?」

 

「そうでした…」

 

バカな子だった…。

 

「酒樽サーフィンだ――――!!」「あいさ―――!」

 

ナツが倒して並べた樽の上で板に乗ってふざけてる。その板メニュー板じゃない?それで遊んじゃダメでしょ。

というか、それ乗り物判定されるんじゃ…。

 

あ、ガジル達とぶつかった。

 

「何すんだテメェ!!」

 

「うぷっ、お前もやるか?」

 

「酔ってまでやるか!!」

 

やっぱり酔った…。

しかし、それが興味を引いたのかグレイやまさかのエルザまでやりだした。

 

あのエルザがノリノリだなんて珍しい。

 

「ぐはっ」「どーなってんだお前の服!」『よくある事だから気にするな』

 

恒例の如くグレイの服、転んだ拍子に脱げてるし。これ女子の方だったらラッキーものだよね…。

 

「もう、危ないなー…怪我したらどうすんの」

 

「とは言いつつも、お前もやりたそうだが」

 

「うずうずしてるの」

 

図星を差されたアミクはギクッとなった。

 

「で、でも…私スカートだし」

 

「スカートなのに思いっきり転んでる人もいるの」

 

マーチの視線の先を見ると、エルザが豪快に転んでパンツ丸見えになっている姿があった。

 

「ちょっとちょっと、エルザったら…」

 

女の子として有るまじき痴態では…。

 

「ほらほらー!!アミクもやれーーー!!」

 

「わあっ!?」

 

突然ナツが樽サーフィンを押して突っ込んできた。それにぶつかりうっかり板の上に乗ってしまったアミク。

 

「あ、やば」

 

「よっしゃ行くぞーーーー!!」

 

「ちょ、ちょっとま…うえっ」

 

早速酔った。せめて酔い止めくらい掛けさせて欲しかった。

 

そのままゴロゴロ転がる樽の上で樽サーフィンを満喫(?)していると。

 

「きゃふん!?」

 

壁に激突。アミクは弾き飛ばされ、転がしていたナツも「おわああ!?」と引っくり返った。

 

「んにゃっ!?」「うげっ!!」

 

その後、アミクのお尻がナツの顔面にプレス!ある意味役得か?

 

「わー!ごめんナツ!」

 

「お、重てぇ…」

 

「なにおう!?」

 

…まぁ、目を回すナツには感触を楽しむ余裕は無さそうだったが。

 

「はぁ、遊ぶなら酒場じゃなくてもうちょっとふさわしい所あるでしょ。これじゃ他のお客さんの迷惑だよ」

 

ところが、よく周りを見回してみると妖精の尻尾(フェアリーテイル)以外の客が見当たらない。

これは…自分たちが騒がしすぎてとうとう客が寄り付かなくなってしまったか…?

 

「もうこの酒場は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の貸切みたいな状態なの」

 

「いいのかなそれで…」

 

どっちにしろ酒場の人達の迷惑になる気がするが。

アミクがやれやれ、と溜め息をつくとレビィが何かを思い出したように「そう言えば」と声を上げた。

 

「遊ぶのにふさわしい場所と言ったらクロッカスにプールがあったと思う」

 

「プールだと?」

 

エルザが反応して会話に加わってきた。

 

「わぁ!」

 

「近くにあるの?」

 

「フィオーレ有数のサマーレジャースポット『リュウゼツランド』ってところがね」

 

さすがクロッカス。娯楽設備も欠かせない。

 

「面白そう!!ちょうどいいじゃん!みんなで行こうよ!」

 

そこでならたくさん騒いでも問題ないだろうし、ナツ達には打って付けだ。

好きなだけ遊ばせてエネルギーを発散させておけば、夜には落ち着いて騒ぎを起こすこともないだろう。

 

…考え方が子持ちの母親っぽくなってる。

 

「行くしかねーだろー!」

 

「あちぃもんな!」

 

「あいさー!」

 

『そんなのがあるのか』

 

やっぱりナツ達もノリノリだ。

 

「でも、マスターに断らなくて大丈夫かな?」

 

「マスターならラクサスに連れ出されて行ったぞ」

 

「そうだったんだ。だから居ないのか…」

 

多分、あの話をしに行ったのだろう。アミクは大分後から酒場に来たので運悪く居合わせなかったのか。

ウェンディを迎えに行ってたら色々遅くなってしまって…。

 

ともかく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー全員でリュウゼツランドに行くことにした。

 

 

 

 

ただ、アミクは甘く見ていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のこの面子でなんの問題が起こらないはずがなかったのだ。

 

 

 

 

「着いたー!」

 

「広いですね!」

 

「んー、気持ちいいな」

 

「プールに入ってもないのに?」

 

国内でも有数のサマーレジャースポットと言われているだけあって、中はかなり広く設備も充実していた。

ウォータースライダーや水族館などもあって色々楽しめそうだ。

 

「本当にすごいね!ここまで大規模なプールは初めてかも!」

 

アミクも興奮してあちこち見回した。今日は珍しくビキニスタイルの水着を着た彼女にも男性客の視線が集まる。

 

「夜なのにたくさん来てるのね」

 

「フィオーレでも有名らしいな」

 

「7年の間にこんな所ができてたんですね」

 

確かに、以前アミクがクロッカスに来た時にはこのような施設があるとは聞いた事がなかった。

ただ、クロッカスに何か大規模な娯楽施設を建設予定だとは聞いた事があるような。

 

「とにかく、せっかく来たんだからとことん楽しもう!わーい!!」

 

「アミク!走ったら危ないわよ」

 

最近、海には行ったが、プールに入るのは久しぶりな感じだ。

プールがあったギルドは差し押さえられていて、プールも使えなかったからだろう。

だからアミクもテンションが上がっていた。

 

 

 

 

一方、グレイの胸にぶら下がっているウル。

彼女は「思念体でプール入ろうかなー」と思考しながら周りを見まわしていた。

 

そして、奇怪なオブジェの陰にジュビアが隠れている事に気付く。

 

『お、あの娘、グレイに水着を見てもらいたいみたいね』

 

もじもじしながらグレイに気付いてほしそうなジュビア。

 

『仕方ないな、ちょっと手を貸すか』

 

最近ではジュビアの事を応援したくなったウル。彼女はちょっとだけ冷気を操り、グレイの背中を冷やす。

 

「?なんだ?」

 

違和感に気付いたグレイが後ろを振り向き、ジュビアの姿が目に入った。

 

ジュビアが緊張で固まる。

ジュビアの水着は紫をベースに白い水玉模様が付いたデザインで中々可愛らしいものだ。

さて、グレイの感想は…?

 

 

「ジュビア…この水着…」

 

「は、はい…」

 

 

 

「値札付いてんぞ」

 

「はっ!?」

 

『恥ずかしい奴だこれ…』

 

ジュビアはがっくり膝を付いて落ち込んでしまった。ドンマイ。

それを放置してどこかに去るグレイ。だが…。

 

『グレイ…フルチンだぞ』

 

近くの女性客に悲鳴を上げられていた。捕まっちまえ。

 

 

 

 

「あ!向こうに水族館あるよ!行こう行こう!」

 

「仕方ないわね」

 

「ここのキウイジュース美味いな」

 

「後であーしにもちょうだいなの…なんかハッピーの目がおかしいの」

 

ハッピー達と行動を共にしていたマーチ。現在は猫形態で行動しているが、いつでも人型になれるので関係ない。

 

「私達も行かない?」

 

「あ?冗談じゃねえ。んな所に行ってられっかよ」

 

ガジルとレビィも一緒だ。

 

「…だよね」

 

レビィがムスッとすると、ガジルは珍しく弱ったように顔を引き攣らせた。

 

「あーあ、ガジルったら女心が分かってないの。そんなんじゃ一生独身なの」

 

「うるせえ、黙ってろ黄猫!!」

 

「女心って…そういうのじゃないよっ」

 

結局ガジル達も一緒に水族館へ。

 

 

「見て見て!どう、似合う?」

 

「中々のモンだろ?」

 

「何の魚だこりゃ」

 

「あははは!シーマンみたいなの!」

 

水族館の顔ハメ看板をガジル達がやっているのを笑ったり。

 

 

「中々見事なモンだな」

 

「なんでえ、タダ魚がウヨウヨしているだけじゃねえか」

 

「水族館でそこツッコむ?」

 

「根性が捻くれてるの。まったく、器の小さい男なの」

 

「テメェ魚のエサにすんぞコラァ!!」

 

様々な海洋生物を見て楽しんだり。

 

一般的な水族館と比べたら小さいものだが、それでも十分楽しめる。こんなものがプールの中にあるのは贅沢だと思う。

 

しかし、ヤケにハッピーが無口だ。普通なら魚を見れば「魚―――!!」と騒ぎそうなものだが。

 

「随分静かなの、ハッピー」

 

水槽をじっと見つめたまま動かないハッピーに視線を移すと。

 

「ジュル…おいしそうだな~どれもこれも…ふふふふ…」

 

「食欲で全てが満たされてるの!?」

 

正気じゃない目をしたハッピーの口から涎がドバドバ。ラリッてやがる。

 

「あの目はどう見ても食事の事しか考えてないわね」

 

「色気より食い気とはこういう事か」

 

「花より団子とも言うの」

 

マーチとシャルルという水着姿の美猫(?)が居るのに魚の方に夢中だとは。内心複雑だ。

 

 

「見つかったか?」

 

「無理だよそんなの」

 

何やら焦っているような声が聞こえる。声の方を向くと男女のスタッフが何か困っているようだった。

 

「どうしたの?」

 

ハッピーが聞いてみると彼らは弱ったように答えた。

 

「これから魚にエサをやるショーがあるんだけど、担当が急用で来れなくなっちゃって」

 

「代わりにできる人がいないから、今夜のショーは中止かな」

 

「せっかく来てくれたのに、ごめんね」

 

ショーまであるのか。確かに、それが見れないのはもったいない。

 

「はい!」

 

そこでハッピーが元気よく手を挙げた。

 

「安心して!その役目、オイラがやってあげるよ!」

 

「「はい?」」

 

ハッピーのグルグルと欲望に滾らせた目を見て、マーチは彼の思惑を察した。

 

「そーゆーの得意なんだ!ネコだし、魚のエキスパートだし!」

 

「「エキスパートか…」」

 

「エキスパートっていうか…大好物なだけなの」

 

あのネコ…エサやりに託けて魚を食べる気だ!

 

「ちょっとちょっと…」

 

「ついに食いに出る気だぞ」

 

レビィ達も呆れた表情だ。

 

「アンタねぇ」

 

「オレには分かる。アレは捕食者の、ハンターの目だ」

 

「一狩り行こうぜっ!みたいな勢いなの」

 

目を光らせるハッピーを放っておくと、何を仕出かすか分からない。

結局、マーチ達も付き合う事になったのだった。

 

 

 

 

「ウェンディー!」

 

なんとなくウェンディと一緒にいたアミク。そこに赤毛の少女、シェリアが手を振ってやってきた。

 

「あ、シェリーの従妹」

 

「シェリア達も来てたの?」

 

「うん!」

 

「あ、リオンもいる」

 

ちょうどシェリアの後ろではリオンに引き摺られるジュビアに、彼女に引き摺られるグレイがいた。ややこしい。

 

…『お~い、アミク助けて~』というウルの助けを求める声が聞こえた気がしたが知らない。

 

 

「どーも、昨日ぶりだね」

 

「あ!リオンの昔の恋人!」

 

「ぶっ!?」「ふぇ!?」

 

ちょっとその呼び方はいかがなものかと。

 

 

「オホン!シェリア…だったよね?貴女が滅神魔導士だったなんて、驚いちゃったよ」

 

「それを言うなら私も初日に驚いたよ。まさか滅竜魔法の他に滅神魔法も使えるなんて!」

 

「だから昨日聞いてきたのか…」

 

それは自分でも不思議なのだ。いつ滅神魔法を憶えたのかも不明だし。

 

「ま、それはともかく、今日はいい試合だったよ!」

 

「うん!本当に良い戦いだったね。ウェンディは怪我大丈夫?」

 

「はい!おかげさまで!」

 

「また敬語になってる」

 

「あ…癖で、つい…」

 

普段彼女は敬語なので仕方ないだろう。慣れていくしかない。

 

「向こうで遊ぼう?」

 

「うん!アミクさんもどうですか?」

 

「あーせっかくだから新しい友達と遊んで来なよ。私は別のとこ行くから」

 

アミクは手を握って仲良くプールに向かう2人を見送った。気を利かせてあげたのだ。

うむ、可愛い美少女達が水に濡れて遊んでいるのは目の保養である。天使かよ。

 

それに比べて…。

 

「男はいつでも、ワイルドォ…」

 

『フォォォォォ―――!!!』

 

「むさ苦しい…」

 

四つ首の仔犬(クワトロパピー)も来ていたのか。男所帯だけで華がないのが何とも残念だ。

 

 

「さて、ルーシィ達はどこかな~」

 

彼らの事は放っておいてルーシィ達を探すことにした。

 

 

 

 

「お、いたいた」

 

ルーシィとエルザを発見。ついでに人魚の踵(マーメイドヒール)のリズリーと青い天馬(プルーペガサス)のジェニーも居る事を確認。

ばったり会ったらしい。

 

「こんにちはー」

 

「アミクか。ウェンディはどうした?」

 

「友達と遊んでるー。で、そちらの方々は…」

 

アミクが目を向けると、リズリー達は気さくな笑みを浮かべた。

 

「やぁ、初日に熱い試合をしてくれた妖精さんじゃないかい」

 

「やるじゃない。私もドキドキしちゃったわ」

 

「どうもどうも…グリズリーさんとヌード掲載の人…ですよね?」

 

グリズリーと聞いてルーシィ達は熊を思い浮かべてしまった。

 

「あっはっは!惜しいね、リズリーだよ」

 

「その覚え方は酷くない!?ジェニーよジェニー!」

 

リズリーはともかくジェニーは憤慨したようだ。ごめんちゃい。

 

ジェニーがアミクに指を差して挑戦的に言い放つ。

 

「彼女にしたいランキング、私を抜いて1位になったからって油断しない事ね!」

 

「それ、7年前の話じゃ…」

 

実はジェニーはアミクの事をちょっとライバル視していたらしい。それは光栄に思うべきか…。

 

「そういえば2人は確か、別々のギルドだったと記憶しているが…」

 

エルザがルーファスみたいな口調になっているが、リズリーとジェニーが一緒に行動していたのを疑問に思ったのだろう。

 

「そこでばったり会ったのよ。今は試合中じゃないし、じゃ、楽しんじゃおうって事!」

 

「そっか!」

 

ウェンディとシェリアも一緒に遊んでたし、ギルドの垣根を越えて仲良くするのは良い事だとアミクは思う。

 

「もし対戦することになっても、私を舐めちゃいけないよ!」

 

「こっちも全力で相手しますよ!」

 

リズリーの大らかで気前の良い性格は好感が持てる。

 

「じゃ、今夜は…」

 

「そ!楽しんじゃうタイーム!」

 

「水着舐めちゃいけないよ!」

 

思うんですけど、重力変化で体型まで変わるもんですかね…?

 

リズリー達は騒がしくも去って行った。

 

「闘技場の外で会うと皆いい人なのよね。なんか不思議」

 

「ジェニーさんの言う通り試合中じゃないしね。無闇に敵対する事もないでしょ」

 

「まぁ、良いではないか。オフだしな」

 

オフって…。

 

「ていうか…」

 

ルーシィは近くのプールで満喫しているアクエリアスとバルゴに視線を移した。いつの間に出て来たのか。

 

「はぁ、極楽極楽」

 

「楽しいですね」

 

「ちょっとアンタ達、何勝手に出て来てんのよ」

 

強い星霊ほど、自分で出てこれるのかな?ロキもできるし。あとは…ホロロギウム?

 

アクエリアスがクワッと凄んでくる。

 

「ほぉ?随分偉そうな口を聞くようになったじゃないか小娘、ああん?」

 

「す、すみません…」

 

「なんて星霊だ…」

 

主人を凄む星霊とか…いいのかそれ。

 

「とても楽しそうだったのでアクエリアスさんをお誘いして来てみました。お仕置きですね、姫」

 

「どこ見て言ってんの!?」

 

「カメラ目線…」

 

つまりは星霊も遊びたかったのだろう。バルゴなんかバッチリ水着まで決めちゃって。

 

「よっしゃ!スリル満点のスライダープールを作ってやろうじゃねえか!」

 

アクエリアスが瓶を構えた。直後、大量の水が放出され、ルーシィとアミクを押し流す。

 

「おらああああああ!!!」

 

「うわあああああ〜!!」

 

「なんで私まで〜!!うぷっ」

 

酔った。水の勢いが強すぎて吹っ飛ぶアミク達。そのまま近くのプールにジャッパーン。

 

「素晴らしい吹っ飛び分です、姫とアミクさん」

 

「まぁ、良いではないか。オフだし」

 

「だからオフってなんやねん…」

 

プカプカと水に浮きながら、アミクは遠い目をした。

 

 

 

『さぁ、それでは皆さんお待ちかね!お魚達のお食事タイム!』

 

エサやりショーに参加することになったマーチ達。

餌の入っているボンベを持って水中を泳いでいく。

 

魔法のお陰で水中でも息が吸えるので問題ない。

 

「こんなにギャラリーがいるとはな」

 

「なんで私まで…」

 

「あの正気じゃないハッピーをそのままにしては置けないの」

 

「それはそうね…」

 

あれは魚しか見えていない。グルグルと薬をキメた目をしているハッピーは危険だ。

 

「イカれてるぜ。オレは何やってんだこんな所で」

 

「いーじゃん!結構楽しくないこれ?」

 

結構珍しい餌やりの仕方だ。ボンベからポンプのように餌を放出して、煙のような餌を魚が食べる。

中々革新的だ。

 

「便利なものだな」

 

「これも効率化の影響かもしれないの」

 

「そういうものかしら…ねぇハッピー、アンタ…ってちょっと!」

 

「ふふふふ…さぁ餌はこっちだよ。おいでおいで〜…」

 

めっちゃ餌を撒きまくってる。

 

『はーいたくさんのお魚が集まってきましたねー!』

 

「チャレンジャーね、あのネコ…」

 

大量の魚がハッピーに密集してきた。

 

「やりすぎなの!」

 

「あの野郎、あれ全部食うつもりか?」

 

「お客さんの目の前で!?」

 

「ダメよそんなの!」

 

水族館の魚食べてしまったら弁償される。

 

「もう!止めてくるの!」

 

「マーチ!」

 

マーチは人型に変身するとハッピーに群がる魚の群れに突っ込んで行く。観客達が急に人間になったマーチにどよめいた気がするが、気にしない。

 

「うわーこれが本当の楽園って言うんだね…それじゃいただきま────」

 

「ハッピーのバカ!なの」

 

「痛―――っ!!マーチ!?」

 

恍惚とした表情を浮かべていたハッピーにゲンコツをかましてやった。

 

「水族館の魚食べちゃダメなの!」

 

「だ、だって〜、お魚がおいらを呼んでるんだもん」

 

山が自分を呼んでいるみたいに言うな。

 

「もし食べたらハッピーは借金生活なの。ナツにも迷惑かかっちゃうの」

 

「そ、それは…」

 

葛藤するハッピー。魚は食べたい。でもナツと一緒に借金地獄は嫌だ。どうすれば、どうすればーーー!

 

その時、周囲の魚の群れが散った。なんだ、ハッピーの良からぬ思考を察して逃げたのか?

違う、そうではなかった。

 

マーチ達に迫ってくる巨大な影。

マーチ達よりも遥かに大きい魚がマーチ達を食べようとしてきたのだ。

 

「デカ――――!!」

 

「逃げろ!青猫、黄猫!」

 

「なのー!?あーしを食べても美味しくないのー!!」

 

「あいやぁ――――!!」

 

「私達は餌じゃないからー!!」

 

「戦略的撤退だ!」

 

大口を開けて迫り来る巨大魚達から逃げ惑うエクシード達。

 

 

『お、おっとー…』

 

『さあ!デッドヒートが続いています!生き残るのは魚か猫か!?』

 

この状況を利用してスタッフ達が妙なショーを始め出した。

 

「こんなの残酷ショーなのー!!」

 

「どうしよー!!」

 

「お前は下がってろ!『鉄竜棍』!!」

 

レビィを押し退け、ガジルが巨大魚に向かって鉄の腕を伸ばした。魚達はあえなく撃墜。

 

「なのー!食われてたまるかなの!ガノトトスのように討伐してやるの!」

 

マーチも伸ばした爪を旋回させて魚を斬り付けた。

 

「ちょっと!」「やり過ぎだってば!」

 

「オイラのご飯をいじめないで!」

 

「やかましい!」

 

「こっちがご飯になりそうなの!」

 

自分達がお魚に食べられるなんてミイラ取りがミイラになるようなものだ。それは嫌だ。

 

『白熱な餌バトル!優勢はネコ組か!?』

 

『い、いかん!このままでは奴が来る…!』

 

男性のスタッフの声に危機感が混じった。

 

奴?

 

『リュウゼツ水族館の裏番長、魚達の危機が訪れると姿を現すと言う…』

 

マーチ達のすべて覆うように巨大な影が立ちはだかった。

そう、それは水族館にしては想像を超える大きさの海洋生物。

 

『ザ・ボス!!』

 

『デカ―――――ッ!!!』

 

小さい鯨ほどの大きさの魚がマーチ達の前に現れた。

そいつは口を大きく開けるとマーチ達を吸い込む。

 

「あいやー!」「大したものだー!」「もう嫌ー!」

 

「ダイソン並みの吸引力なのー!!」

 

「ガジルー!」「ふざけんなー!!」

 

それぞれ断末魔のように叫びながら巨大魚に飲み込まれてしまった。

 

パクン。

 

魚が口を閉じる。

 

『はい、終了ー!!』

 

いや、盛り上がってないで助けてください。

 

 

 

 

「ところで、アミク、ルーシィ…」

 

「なに、エルザ?」

 

「お腹空いたの?」

 

「そうではなくてだな…」

 

アミク達はちょっと休憩しようとプールの近くにあるビーチチェアで寝ていた。

 

だが。

 

「こいつら邪魔なんだが」

 

「あたし達に言われても…」

 

「気にしない気にしない…」

 

そんなアミク達を取り囲むように一夜とトライメンズがいた。

 

「何やら美しい香り(パルファム)がすると思えば…クンクンクン」

 

「今日は一段と可愛いよ、アミクちゃん」

 

「お前、ふざけんな。なんだよそのスタイルの良さ」

 

「僕でよかったら、君のペットになるよ」

 

鬱陶しいわ。心臓に悪いし。

 

「はい、一夜が!」

 

「「「一夜が!」」」

 

香り(パルファム)!」

 

「「「香り(パルファム)!」」」

 

「ワッショイ香り(パルファム)!」

 

「「「香り(パルファム)ワッショイ!」」」

 

「ワッショイ香り(パルファム)!!」

 

「「「香り(パルファム)ワッショイ!!」」」

 

パルパルうるせえ。

 

「ワッショ────」

 

「うるさいよっ」

 

声を全部食べて黙らせた。

 

その間にエルザが立ち上がって一夜達を睨む。何か物言いたげだ。

 

これは、エルザの説教スイッチが入ったな。

 

ヒビキには「今日のMPFの数値はなんだ!気合いが足りん!」と一喝し、レンにはちょっと恥ずかしそうに「お前にはシェリーが居るだろう!」と窘め、今日のルーファスとの試合で大怪我を負ったイブには「そんな大怪我で遊びに来るな!」と叱った。

 

そして、どこか期待の眼差しで見つめてくる一夜には…。

 

「行こう、アミク、ルーシィ」

 

「メェーン!?」

 

無視した。説教するのも億劫のようだ。

 

「私も、詰ってくださぁい!」

 

一夜がエルザの水着を引っ張った。紛う事なき変態である。

 

「コラ、引っ張るな!これは伝説の水着なんだぞ!」

 

溜まらずエルザは一夜を蹴飛ばした。

 

「伝説って…」

 

「こんなこともあろうかと、いつも持ち歩いているのだ。見た目良し、光沢良し、いざバトルになってもそのまま使える強度も併せ持つ優れものだ」

 

「エルザの場合普通に換装すればいいだけじゃない?」

 

いや、それだと濡れたままだから気持ち悪いか。そう考えるとその水着は便利かもしれない。

ただ…。

 

(その伝説の水着がほつれてるけどね…)

 

微妙に糸が飛び出しているのだが、伝説としてはいいのだろうか。

 

「あ、伝説!」

 

「「「伝説!」」」

 

香り(パルファム)!」

 

「「「香り(パルファム)!」」」

 

「伝説香り(パルファム)、きらめきぃ!!」

 

「帰れ!!」

 

エルザの強烈な蹴りで一夜とトライメンズはぶっ飛ばされた。

 

「相変わらず変な人たちだね」

 

「そろそろ慣れたけどね…」

 

アミク達が苦笑していると後ろから笑い声が聞こえてくる。そちらを見ると、アスカ家族が楽しそうに過ごしているのが見えた。

 

「ねえねえ!早く泳ごうよ!」

 

「ちゃんと準備運動してからだぞ」

 

「いきなり水に入るのは危ないのよ?」

 

「はーい!」

 

穏やかな家族のひと時。幸せの形を表しているようで微笑ましい気持ちになった。

 

 

「やっぱり水の中は気持ち良いよねー」

 

「アミク泳ぐの速いわよね」

 

「音は水の中だと早く伝わるからな」

 

あちこち見学しながら歩いてみて実感したが、このプールは本当に広い。

いくつものプールに休憩所、食事場などもあるから長らく楽しめそうだ。

 

「あれ?」

 

ちょうど近くにプールの底に何か人影あることに気付く。潜水ごっこでもしているのか?

と思ったら。

 

「メ、メイちゃーん!?」

 

なんと初代マスターであるメイビスが沈んでいたのだ。

 

「わーい!楽しいですねプール!」

 

水から飛び出すメイビス。その小柄な姿も相まってプールを楽しむ子供にしか見えない。

そして、彼女を見守るようにプールサイドにはマカロフとラクサスの姿もあった。こんな所に居たのか。

 

「2人で出かけたって言ってたのに、何してるの?」

 

「何って…」

 

「見ての通り」

 

「あやしておる」

 

「はぁ…?」

 

どういうこっちゃ。

 

「…」

 

またラクサスがアミクの水着見て固まってる。

 

「…なに?この水着似合わない?」

 

不安に思ってそう聞くと「…別に良いんじゃねえのか」と目を逸らされながら曖昧な返事が返ってきた。

 

「素直じゃないわね…ラクサスらしいけど」

 

ルーシィが呆れたように首を振る。

 

「なるほど、そういうことですか♪」

 

何かを察したのかそんなラクサスの様子をニコニコしながら見守るメイビス。ラクサスはますます仏頂面になった。

 

「あ!いけない!大事なことを忘れてました!」

 

メイビスはプールサイドに上がると、体を曲げ始めた。

 

「泳ぐ前には準備運動ですよね。さぁ、みなさんご一緒に!」

 

マカロフは大人しく一緒に準備運動をしたが、ラクサスはムスッとして不服そうだ。

 

「なんでオレが…」

 

まぁ、準備運動しているラクサスというのもあまり想像できないが…。

 

「黙ってやれラクサス、初代の命令じゃぞ」

 

「なっ!」

 

仕方なくラクサスも準備運動を始めると、そこにエバーグリーン以外の雷神衆――――――フリードとビックスローがやってくる。

 

「よお!ラクサスも泳ぐのか?」

 

「ならば雷神衆も…!」

 

「なんでそうなんだよ」

 

彼らは基本ラクサスに合わせて行動してるからね。

 

「ってかエバさんは?」

 

雷神衆といえばエバーグリーンも欠かせないだろうに。

 

「エバ?エバはなぁ…」

 

「まぁ、色々お楽しみ中のようだ。邪魔するのは野暮というものだろう」

 

フリード達は何故だかニヤニヤした。なんだその顔は。

 

「む、その構えは準備運動!さすがラクサス!」

 

「オレらもやるぜえ!」

 

たかが準備運動のどこに感心ポイントがあったのだろうか…。

 

「さあ、それではいきますよー!」

 

メイビス達はそのまま「1、2、3、4…」と準備運動を始めてしまった。

 

「まぁ…準備運動は大事だからね」

 

ただ、何かシュールだ。

 

「お前もそこで何をしている…」

 

呆れたようなエルザの声に、後ろを振り返ると。

 

「すまん。魔力を追っていたら、ここに」

 

「ぶっ」

 

ジェラールが居た。居たんだけど…水着姿で、顔を隠すための帽子とマスクを付けたままって…。

 

「怪しすぎるよっ」

 

「ああ…目立つから止めた方が良いぞ…」

 

ジェラールが天然だからなのか…あるいはただのアホか。

 

「ぶっちゃけ、呑気に遊びに来てるみたいだよそれ…」

 

「そういうつもりではないんだが…」

 

ジェラールにとってはこれでも真面目なつもりなんだろう。

 

いや、サマーレジャースポットに来る犯罪者って…。

 

 

 

遊ぶウェンディ達の元にやってきたマーチ達。

 

「あれ?どうしたのシャルル?」

 

「女子としてあるまじき辱めにあったのよ!」

 

「あーし達の尊厳は穢されちゃったの…」

 

「ごめんね、マーチ、シャルル…オイラのお腹の虫のせいで…」

 

「一旦黙れなの」

 

「いや、オレが修行不足だった!あんな魚如きに、何たる屈辱!」

 

「ぬおおおおお――――!!」と男泣きするリリー。

 

「何だろ、あれ」「愛だねー」

 

呑気なウェンディとシェリアの会話が空しく響いたのだった…。

 

 

 

 

 

「おっ、ナツと一夜さんじゃん」

 

「やぁアミクさん。さっきぶりだね」

 

「おめえも来たのか!もぐもぐ」

 

 

小腹が空いたので何か食べ物と飲み物を買おうと売店までやってきたアミク。そこでは一夜とナツが食事を取っていた。

珍しい組み合わせだ。

 

アミクはナツの隣に腰を下ろして適当に料理を注文する。

 

「2人ともお腹空いてたの?」

 

「ああ、私の空腹の香り(パルファム)が鳴ったのでな…」

 

「それを言うなら音じゃない?」

 

お腹が鳴った、と言いたいなら。

 

「だから、プールサイドできらめきながらのグルメと洒落込もうとナツ君を誘ったのだよ」

 

「そーなんだよ、きらめきながら…」

 

ナツ達はチラチラ、と水着姿の女性達を覗き見した。

 

「…へー、ふーん」

 

ジトーッとした目をナツに向けると、ナツは狼狽えたように「なんだよ…」と声を漏らす。

なんだか腹が立ってナツの頰を抓ってやった。ナツは堪らず悲鳴を上げる。

 

「いででで!な”にすんだアミ"グ!」

 

じゃれ合う(?)2人をジッと見ていた一夜は突如、口を開いた。

 

「ところで、ナツ君とアミクさんは日頃どう思っているのだね」

 

「?何をですか?」

 

急に真面目な顔になったと思ったら何を言うのだろうか。

 

「その若さで数多くの修羅場を潜り抜けた君達が、フィオーレの…いや、この魔法の国の進むべき道。過去と未来、我ら魔導士の向かう先…」

 

自分達の向かう先、か…。

 

「分かんねえし、考えたこともねえよ」

 

ナツはムシャムシャと口に料理を放り込みながら答えた。

 

「そう、ですね。私も、そこまで深く考えたことはないです」

 

自分達の未来など、考えても仕方がないというか。

確かに、ちょっとした不安はないわけではない。

しかし…そんなのは些細な事だった。

 

「そうかな」

 

「燃えてきたら戦う!燃えてきたらぶっ飛ばす!それ以外に何があんだよ?」

 

それを聞いてアミクは苦笑した。

 

「相変わらずナツらしい単純な考え方だね」

 

まぁ、ナツはそれど良いと思う。細かいことは考えずに、ただ仲間のために目の前の事に全力でぶつかっていく。

そんな彼の姿がアミクは好きだ。

 

「私だってそんなめんどくさい事考えるより、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなと過ごしている方が楽しいですよ。

 大事なのは、今ですから」

 

未来を不安に思って立ち止まるなんて愚かだ。自分達は今を精一杯生きて前に進むべきだと思うのだ。

 

「…2人とも、素晴らしいものだな。この一夜、久しぶりに感動の────」

 

ブッ

 

「パル、ファム!?」

 

ナツのお尻からはしたない音が聞こえた。

 

「もう!下品!」

 

「悪りぃ悪りぃ!」

 

せっかくの良い雰囲気が台無しだ。

 

「あ、ルーシィ達を待たせてたんだった!バイバイ!」

 

アミクはルーシィ達の分の飲み物を受け取ると、ナツのおならから逃げるようにその場から去った。

 

 

 

「おーい!ルーシィ、飲み物持ってきたよ…って」

 

ルーシィの所に戻ってきたアミクだったが、そこで目にしたのはルーシィに近づく赤い髪の女性。

エルザではない。大鴉の尻尾(レイブンテイル)のフレアだ!

 

「ルーシィ!?ちょっと!」

 

アミクはルーシィとフレアの間に割り込んだ。

 

「アミク!」

 

「緑髪ぅ…」

 

「ルーシィに何するつもり!?ってか、貴方捕まってたんじゃないの!?」

 

大会のルール違反で王国軍に連れていかれたはずだ。なんでこんな所に。

 

「ルールを破った。けど法律を破ったわけじゃない。事情聴取だけ」

 

「で、でもなんでここに…」

 

ルーシィを庇うように腕を広げるアミク。ルーシィはアミクの背中に隠れてフレアを見た。

 

「仕返し…」

 

やっぱり報復か。いざとなればアミクがルーシィを守って戦うしかない。

 

「ふ、復讐は何も生まないよ!?」

 

とりあえず、説得する形で思い留まらせようとするが…。

 

「…嘘」

 

「ガクッ」

 

嘘かい。

 

「じゃあ、何のために?まさか、普通に遊びに来ただけ?」

 

アミクが問うと、フレアはしばらく言いにくそうに口を噤んでいたが…ポツリと呟いた。

 

「…ごめんね」

 

アミク達はハッと顔を見合わせた。彼女が、謝った?

 

(…やっぱり、そんなに悪い子じゃなかったんだね)

 

アミクを拐おうとした時。実はあの時はアミクは途中から目が覚めて話を聞いていて状況が大体分かっていたが、その時も迷いを見せていたフレア。

イワンにハッキリとアミクを傷つけたくないと伝えた勇気を持つ彼女。

大鴉の尻尾(レイブンテイル)に所属して人を嘲笑うような事はしたが、根は優しかったようだ。

 

「それだけ言いたかった」

 

照れ臭そうに背を向けて去っていくフレア。

その背にアミクは声をかけた。

 

「フレア!」

 

「え…?」

 

ビクッと振り向いた彼女に飲み物を投げ渡してやった。フレアはそれを慌てて受け取る。

その飲み物はエルザの為に買ったものだが、見当たらないので彼女に渡しても問題ないだろう。

 

「あの時はありがとね!」

 

手を振りながら伝えると、フレアは顔を真っ赤にして去っていった。

 

 

「…ルーシィはもう許せるの?」

 

「気にしてない、って言えば嘘になるかもしれないけど…もう大丈夫。あの子、悪い人じゃないみたいだし」

 

「ルーシィってやっぱり人が良いよねー」

 

「特大ブーメランだってこと気付いてる?」

 

 

「ラブラブスライダーに乗りましょうグレイ様!」

 

「こんな男は放っておいてオレと乗ろうジュビア!」

 

「ジュビアと!」「オレと!」

 

「あ”ー…めんどくせぇ…」

 

『災難だな』

 

何やかんやラブラブスライダーなるものに乗ろうと誘ってくるジュビアと、そのジュビアを誘うリオンに挟まれてグッタリなグレイ。

 

『しかし、グレイも中々靡かないものだな。ジュビアだって可愛い部類に入るだろうに…ん?』

 

「どけええええええええ!!?」

 

そこになぜかナツがぶっ飛んでくる!それがグレイとリオンに命中!

 

「ぐはっ!?」

 

『な、何事ー!?』

 

「き、貴様!」「や、やめ…」

 

彼らはそのままウォータースライダーにイン!

 

「「何ーーー!!?」」

 

2人で抱き合って滑っていってしまった。

 

『こ、これは…腐女子とやらが好きな『びーえる』というヤツか!?』

 

噂で聞いたことはある。何やら男同士の恋事情をそんな風に呼ぶのだとか。

いや、もちろん今のグレイ達にそんな気持ちはないだろうが、見る人が見たら勘違いしそうだ。

 

「え、何あれ」

 

「うわっ、また面倒ごとの予感…」

 

アミク達は遠くからグレイ達の悲鳴が聞こえてきたのでそちらの方を向く。

ウォータースライダーか?確か、ラブラブスライダーとか恥ずかしい名前だった気がする。

 

「あんな所にジュビアがいる」

 

「どうせグレイと乗ろうとしたんでしょ」

 

「グレイと乗ってるのリオンだけどね」

 

何で男2人で乗ってるのか。まぁ、とりあえずジュビアの方に向かおう。

 

 

急いでジュビアの元に着くと、彼女はまた妙な妄想をしている所だった。

 

「こ、これは…噂に聞くボーイズラブ!?」

 

「何やってんのジュビア」

 

「あ、いやその…ちょっと続きが見たくて…なんて」

 

なんて話していると。

 

ナツがグレイ達にぶつかった後、さらに直撃してしまったウォータースライダーの入り口になっているハート型のアーチ。

それが嫌な音を軋ませながら動く。

 

「あ、ナツ…なんか嫌な予感が…」

 

「うおおおあああああああ!!!」

 

予感は的中してしまった。ハート型のアーチがナツを乗せたままウォータースライダーを滑り始めたのだ。

 

「ナツさんが!」

 

「また壊しちゃった!」

 

「何でこうなるのー!?」

 

 

「何だか騒がしいね」

 

「これじゃギルドの中と変わんないわね」

 

「まぁ、むしろ落ち着くの」

 

「同感だな」

 

休憩中のマーチ達。

まさか水族館で魚に食われるとは思ってなかったが、これも妖精の尻尾(フェアリーテイル)ならではの経験だろう。

 

…二度としたくはないが。

 

「ん?ナツの悲鳴が聞こえたような…気のせいかな」

 

ハッピーがキョロキョロしながらマーチ達から離れた直後。

 

「なの!?」「きゃあ!?」

 

ナツが乗ってるハート型のアーチがマーチやレビィ達を巻き込んでぶっ飛ばしてしまった。

 

「ところでさっきの水族館、オイラやっぱり────」

 

と、後ろを向いたハッピー。しかし…。

 

「って誰もいないし!何でー!?」

 

慌てて周りを見回すと、ウォータースライダーにマーチ達がいた。だが、ハッピーは彼らの姿に大ショックを受ける。

 

「ちょっとー!!」「どうなっているんだこれはー!!?」「ちょっとリリーどこ触ってるの!!」

 

「す、すまん!!」

 

リリーがシャルルとマーチに挟まれるようにしてウォータースライダーを滑っているのだ!

 

「何それぇぇーーーー!!!」

 

何でそんな両手に花みたいな状態になっているのか。羨ましい。羨ましい!

それにレビィとガジルもペアになって滑ってるし。

 

ぼっちのハッピーは虚しくなった。

 

 

 

「ひええええ!!いつの間にかあたし達も巻き込まれてるしー!!」

 

「ひゃあああああ!!」

 

「恋敵ぃ…!」

 

アミク達もウォータースライダーで滑ってしまっていた。ナツの乗っているハート型のアーチが次々と人をぶっ飛ばしてはスライダーに乗っけてるようだ。

ルーシィとアミクが抱き合っている形になり、ジュビアが2人のすぐ後ろで睨んでいる感じになっている。

 

「ジュビア、怖っ!」

 

「しっかりして〜!」

 

ジュビアがめっちゃ睨んでくるので怖い。

 

「お、漢ー!!」「叫ぶなって!!」

 

「ん…アレってエルフマンとエバさん?」

 

向こうのスライダーでは2人が抱き合って滑っていた。あの2人も遊びに来ていたのか。

 

「アミク達に見られた!!」

 

「ど、どうすんだよ!?」

 

見られちゃまずいのか。

エバーグリーンは咄嗟に眼鏡を外してエルフマンの目を見つめる。

 

「こうすんのよ!」「お、おい!!」

 

エルフマンは立派な石像に大変身。

 

 

「これは石よ石!石とデートするわけないでしょ?アンタ達は何も目撃してなーい!!オーホッホッホッホッホ!!」

 

「無理があるって…」

 

高笑いしながら滑り落ちていく2人。なんだかんだ楽しそうである。

 

「可哀想なエルフマン…」

 

ルーシィは抱きしめているアミクの顔を見つめた。彼女は真面目な顔つきで自分の顔をじっと見ている。

 

「ア、アミク…?」

 

なんかドキマギして困惑する。そんな綺麗な顔が至近距離にあると同性でもドキドキする気が…。

 

「ルーシィ…」

 

「は、はい?」

 

名前を呼ばれてつい緊張してしまう。そして、彼女が口を開き…。

 

「吐きそう…」

 

「乗り物酔いーーー!!?」

 

めっちゃピンチだった。

 

「このままいなくなればいいのに、恋敵ぃ…!」

 

ジュビアはジュビアで亡き者にせんとばかりに睨んでくるし。

 

「で、出ちゃう…!」

 

「恋敵ぃ…!」

 

「あたしも可哀想!」

 

四面楚歌な状況にルーシィは悲鳴を上げた。

 

その時、スライダーがカーブに差し掛かる。

 

「うっ!?」

 

乗り物酔いで力が抜けたアミクはそのまま勢い余ってルーシィの手からすっぽ抜けて飛ばされてしまった。

 

「アミクーーーー!!?」

 

「やああああん!!?」

 

その代わり、アミクのいた場所にジュビアが収まった。

 

「1人は消えた…ついでにもう1人…!」

 

「いやああああああ!!」

 

 

 

「うるせぇな…何かイベントでもあるのか?」

 

ラクサスは騒がしくなったプール内で周りを見回した。

 

「イベントですか!良いですね、参加してみたいです!」

 

メイビスが目をキラキラさせる。ラクサスは「余計な事を言った」と舌打ちしそうになった。

何でこんな所で初代のお守りをやらなくてはならないのか。

どうせ来たのならアミクをからかって遊んでいた方が良かったものを…。

 

「きゃあああああ!!」

 

「ん?」

 

そのアミクの声が後ろから聞こえてきて振り向いた直後。

 

ゴチーン!

 

アミクの頭がラクサスの顔面の直撃した。

 

「いったーーー!!」

 

「ぐふぅっ」

 

そのまま絡み合って水の中にダイブ。

 

「ほわああっ!?」

 

「何事じゃあ!?」

 

メイビスもマカロフもビックリ仰天だ。

 

「いたた…ごめんラクサス!」

 

慌てて起き上がったアミクは鼻を押えるラクサスに近寄った。

 

「大丈夫!?思いっきりごゴッチンしたけど!?」

 

「…これくらい何ともねえよ」

 

確かに、真っ直ぐ立ったラクサスはピンピンしていた。大したダメージにはならなかったらしい。良かった。

 

「うおおおおおおお…!!」

 

「え?」

 

ナツの声が聞こえて何事かと思ったときは遅かった。

 

「きゃあ!!またぁ!?」「うおっ」「ラクサス!?」

 

ラクサス諸共ぶっ飛ばされ、再びスライダーに乗り上げてしまった。

ラクサスがアミクを抱くような形で一緒に流される。

 

「ラ、ラクサスー!!」

 

酔いが怖くなったアミクは思わずギュッとラクサスを抱きしめた。

 

「…あれ、平気だ」

 

意外と大丈夫だったので冷静になって自分たちの様子を見てみると、納得がいった。

アミクがラクサスの巨体に乗るようにしてスライダーを滑っているので乗り物判定されなかったのだろう。

ラクサスが大きくて良かった。

 

「ってラクサスー!?」

 

「うぷ」

 

ただ、乗られているラクサスは無事ではなさそうだった。

そういえばラクサスも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だった。乗り物酔いするのも当然。

 

ていうか鼻血も出てるし。

 

「鼻血が!?さっきぶつかっちゃたから!?」

 

「…いや、これは…大丈夫だ」

 

大丈夫じゃないでしょ絶対。酔いもあって辛そうなんだが。

あれ、これここで吐かれたら自分にも被害が…。

 

「ごめんねラクサス!緊急脱出!」

 

「おま、1人だけ逃げやがっ────うっ」

 

ラクサスから飛び上がって脱出。

ラクサスを見捨てた。汚物まみれになるのは嫌なので。

あ、平衡感覚養成歌(バルカローラ)掛けときゃ良かった。

 

「またナツの仕業?どこでも問題起こすんだから…」

 

それがある意味妖精の尻尾(フェアリーテイル)の性質でもあるが…。

 

「助けてぇ…!!」

 

「え、ちょっ…きゃあん!!」

 

脱出したは良いものの運悪く突撃してきたハート形のアーチに直撃してしまったアミク。

ナツと一緒にアーチにぶら下がりながらスライダーを滑る羽目になってしまった。

 

「う、うえ…ナツ止めてぇ…!ナツがやったんでしょこれ…!」

 

「無茶言うなぁ…あとオレのせいじゃねえ…!」

 

「ナツ、アミク…一応助けに来たよ…」

 

そこに力なくハッピーが飛んで来た。

 

「い、一応って…」

 

なんかすごく無気力だ。

 

「こ、ここから離れるだけで良いから、お願いハッピー…」

 

「あい…」

 

ハッピーがフラフラとアミク達に近付いた時。

 

「きゃああ!いつまで流れてるのよこれ!」

 

「もう開き直って楽しんじゃうの」

 

「何でよ!」

 

「心配するな。いずれ終わる、はずだ」

 

「うわあああああああ!!」

 

リリーに抱き付いているマーチとシャルルの姿が!

 

「オイラの、ハーレムがぁ…」

 

大ダメージを受けたハッピーはフラフラと墜落していった。

 

「ちょっとー!?」

 

「しっかりしてくれぇ!」

 

頼みの綱が落ちてしまった…。

 

乗り物酔いで気持ち悪くなりながらも周りを見回してみると、エルザとジェラールが抱き合って滑っていた。

あれ、エルザの水着、ほつれが酷くなってない?

あ、ジェラール鼻血噴いた。大丈夫かしら。

 

「と、止めぇ…」

 

人の心配してる場合ではなかった。アミク達もそろそろ辛い。

 

「だ、誰か助けてぇ…!」

 

誰かこの暴走しているアトラクションを止めてくれ。

 

「凍れ!」「テメェが凍れ!」『喧嘩している場合か!』

 

グレイ達が何か言い合いをしている。

 

「やる気か!」「やってやらぁ!」『おい、ちょっと待て───』

 

彼らの魔力が高まった。

水が凍りついていく。それはどんどん広がっていき…。

リュウゼツランド全体が凍り付いてしまった。

 

「わわわわわっ!!?」「だああああああ!!?」

 

水が凍ったお陰で氷にアーチがぶつかってアミク達は吹っ飛んだ。

 

「た、助かった…今までの絶叫系で一番怖かった…」

 

アミク達は上手く氷の上に着地…。

 

「グレイか!何しやがんだっうわっ!?」

 

「滑る!!」

 

と思ったらつるりんと滑って尻餅をついてしまった。

 

「痛っ…うわ!全部凍ってるじゃん!もう、どうするのこれ…」

 

とんでもない状況に頭を抱えていると、ナツが怒った表情で立ち上がる。

 

「バ、バカヤロウ!プールを凍らせるやつが、あるかァァァァ!!」

 

「ま、待ってナツ!!何する気!!?」

 

ナツは飛び上がって拳に炎を纏わせると、思いっきり凍り付いたプールに叩きつけた。

 

「やめてナツーーーーー!!!」

 

アミクが制止するもすでに遅し。

 

 

 

その日、クロッカスのリュウゼツランドで大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

災害の後のように崩壊した物が溢れ、死屍累々と倒れている人々が並ぶ凄惨な現場。

 

その中で1人の男が高笑いをしていた。

 

「なーはっはっはっは!!!見たか!!オレの勝ちだーーー!!」

 

その男の名はナツ。こんな惨状を作り出した原因の1人である。

 

「…こんの…」

 

彼の後ろでゆらりと立ち上がる人影。その名はアミク。

 

「バカーーーーー!!!」

 

「ぎゃーーーー!!!」

 

涙目で彼の頭をぶっ叩く。

 

「もう滅茶苦茶だよぉーーーー!!!」

 

タンコブを生やして倒れるナツの側で「うわーん」と大泣きするアミクであった。

 

 

「やっちゃったね、派手に」

 

「…さすが妖精の尻尾(フェアリーテイル)。止まる事を知らないの…色んな意味で」

 

ハッピーとギリギリ脱出できたマーチが上から見下ろしながら呟いた。

 

 

 

「初代、ジジィ。逃げねえようにひっ捕らえといた」

 

「「ごめ”んなさい”」」

 

「何で私まで…」

 

鼻にティッシュを詰めたラクサスがボコボコにされたナツとグレイを持ってきた。その隣ではタンコブを生やしたアミクが正座している。

マカロフとメイビスは修繕費を妖精の尻尾(フェアリーテイル)が支払うことになって大泣きしていた。

 

「結局こうなるのね…」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が絡むと大体タダでは終わらない事を改めて実感したルーシィであった。

 

 

 

こうして3日目の夜は大騒乱を巻き起こして更けていくのだった。

 

 




次回は海戦ですよ!

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