なんだかんだバトルシーンって書いてる方も熱が入るんだよね。
大魔闘演武4日目。
競技パートでは『
簡単に説明すると、闘技場の真ん中に水中競技場と呼ばれる巨大な水球が浮いており、各チームから1名ずつ選出して水球の中に入る。
その中で戦い、水球の外に出てしまったら負けだ。
最後まで残っていた人が1位というわけだ。
もちろん、魔法によって水中でも呼吸ができるので溺れる心配はない。
ただ、一つだけ特殊ルールが存在する。
『5分間ルール』
最後の2人になってからの5分間、水球の外に出てしまったら最下位になってしまうのだ。
『言わば水中相撲っていったトコかね』
『楽しみですね。ありがとうございます』
『本日のゲストはシェラザート劇団座長、ラビアンさんです』
懐かしっ!人使いの荒い天邪鬼の人!
『各チーム、着水していきます。
「昨日引き分けちゃった分、頑張るぞー!」
昨日のウェンディとの試合では圧倒的な力を見せたが、空気のない水中ではどうなのだろうか。考慮すべき点だ。
『
「今度こそ負けないんだからっ!」
ミラとの試合ではワンパンされたのでこの競技で挽回したいだろう。
『
「人魚をなめちゃいけないよ」
彼女の魔法は『重力変化』。水中での動きが気になる所だ。
『現在1位の
「よーし!久しぶりに出番だよ!…ってか昨日もプール入ったのにまた水か…」
この競技にはアミクが参加することになった。ちなみに水着は昨日着たのと同じだ。
水中と音は相性が良い。水中ではアミクの魔法も強化されるのでアミクの力を普段以上に発揮できるはずだ。
実はジュビアも出たがっていたようで少し揉めたが「競技パート1回出たじゃん」と渋々納得させた。
まぁ、「水着でグレイ様を悩殺しないで下さいね!」と釘を刺されたが。悩殺て。
ドボン、と音を立ててまた1人着水してきた。
「ふふ、
他と比べて露出の控えめな水着を着用したミネルバだ。彼女が登場した途端、会場に歓声が鳴り響いた。
『出ました、ミネルバ!この大歓声!』
『
『ありがとうございます!』
『さあ、ミネルバの参戦によって
「あの人…」
先日、
アミクが見ている事に気が付いたのかミネルバもこっちに目を向けた。
「この前は世話になったな」
「…どうも」
「今は互いに祭りを楽しもうぞ」
その顔に浮かべる妖しげな笑みは自信の表れか。アミクは彼女に対しては油断できないと気を引き締めた。
『そして、
「あたしも負けられない。1日目の失態、挽回しなきゃ」
勇ましい顔つきのルーシィもやる気十分のようだ。
「ルーシィ!親友だからって手加減は無しでいくよ!」
「もちろん!あたしも全力でやるわよ!」
アミクとルーシィは互いに笑い合った。今だけは敵同士、ライバルだ。
(何気にルーシィと戦うのは初めてな気もするなぁ…)
良い機会だ。ここでルーシィと白黒付けてやろう。
『これはまた華やかな絵になった!各チーム女性陣が水着で登場!』
『ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!』
「あの…オレも居るんすけど。ワイルドに」
そりゃあ周りが水着の女ばかりだとねぇ。
『チッ、男かよ』
「って舌打ちかよ!」
不憫である。
『ルールは簡単!水中から出たら負け!間もなく
「ルーシィ!頑張れよ!」
「水中ならアクエリアスが使えるしな」
「行けるぞ、この勝負」
「はい!…でも、アミクさんも手強そうです…」
「アミクは水中だと無類の強さを誇るからな。私も以前、水中で敗北した」
「エルザさんが!?」
『それは凄いな』
それほど、水中ではアミクは凄く強くなるのだ。
「アミクっ。全員ぶっ飛ばすの!」
「さすがにこの試合はアミクの勝ちで鉄板かな」
「分かんねぇぜ。ルーシィにはアクエリアス以外にも使える星霊が大勢いる」
「
「ルーちゃん!頑張れー!」
「アミクー!全員血祭りに上げるのー!」
「マーチ怖ぇよ!」
それぞれが戦力を測る中、とうとう競技が始まった。
『それでは、
「早速だけど、みんなごめんね!」
一番最初に動いたのはルーシィだ。ルーシィは金の鍵を構えると、星霊を召喚した。
「開け!宝瓶宮の扉!アクエリアス!」
「やっぱりそう来たか!」
ルーシィの最強の星霊の1人。水中ではほぼ敵なしと言っても良い。
「うおおおお!!水中は私の庭よぉーーーー!!」
アクエリアスは瓶が大量の水を放出した。
それに巻き込まれてほとんどの選手たちは吹き飛ばされるが。
「何の!『音竜の咆哮』!!」
アミクも負けじと音のブレスを放った。もの凄い速さでアクエリアスの水流と激突する。
「アミクとアクエリアスの力が正面から激突している!」
「音と水の衝突…」
「凄い!どっちの力が上なんだろ!」
同じ
Bチームもアミク達の戦いから目を離さなかった。
「頑張ってーアミク!ルーシィもその次くらいに頑張って!後、ジェニーもちょっとだけ頑張っていいわよ!」
「なんかややこしい応援の仕方してんな」
ジュビアは後ろに居るラクサスに声を掛けた。
「ラクサスさんはどちらが勝つと思いますか?私としては恋敵が共倒れしてくれたら嬉しいのですが」
「一応同じチームだぞ…そんなの決まってんだろ。アミクを水中に入れたら、止められるのはオレくらいしか居ねぇよ」
薄笑いを浮かべ鼻を鳴らすラクサス。その言葉には、アミクに対しての信頼が窺えた。
「アクエリアス!色々世話になってきたけど、今は貴方をぶっ飛ばしちゃうんだから!」
「ほほーう、小娘が一丁前に私に刃向かおうってのか?随分偉くなったものだな!」
実はちょっと今までの恨みも篭ってたりもするのだが…。言わなくてもいいか。
「アクエリアスってやっぱすげぇな!アミクの力に負けてねぇんだから!」
「それを言うなら、アクエリアスさんに負けてないアミクさんが凄いって気もします!」
見ている者からもアミク達の力は拮抗しているように見える。
しかし…。
「互角…!?」
「ううん…私の方が、上!」
アミクのブレスが、徐々にアクエリアスの水流を押し始めた。
「なっ…!?」
「嘘っ!?アクエリアスが押されてる!?」
「水中じゃ私の魔法も格段に強くなる!地形ボーナス的なやつかな!」
アミクはそのままブレスを押し込んで、アクエリアスの水中を掻き消した。
「きゃああ!!?」「くっ!」
アクエリアスはルーシィを引き寄せて突き進んできたブレスを避けた。
「一旦距離をとって…」
「残念!私の方が速い!」
あっという間にルーシィ達の近くまで泳いできたアミク。アクエリアス達は驚愕を隠しきれなかった。
「速すぎでしょ!?」
「音は水中だと空気中よりも4倍以上も速くなるの!その速さから逃げられるかな?」
アミクがいつもよりも好戦的だ。得意な環境で思う存分戦えるからテンションが上がってるらしい。
「『音竜の翼撃』!!」
目で捉えられない攻撃がアクエリアス達を襲った。
強烈な衝撃波が2人を吹っ飛ばす。
「ぐぅっ!」
「アクエリアス!」
アミクの攻撃は止まらない。吹っ飛ぶ彼女達にすぐさま追いつき、追撃。
「『音竜の旋律』!」
「何度もやられてたまるか!おらあああああ!!!」
今度はアクエリアスも反撃した。瓶から放出された水流がアミクに向かう。
「おっそーい!」
アミクは軽々とそれを躱した。
ただでさえ身軽なアミクが更に軽快かつ素早い動きになっている。水中で動きに自由度が増したと言ってもいい。
「まず1人!」
「ワイルドォォォ!!?」
『
ルーシィとドンパチやっている間にロッカーが脱落したようだった。
『しかし!残念がっているのは
『ありがとうございます!(略』
酷くない!?流石に同情してきた…。
「あの女、どこまでも姑息なんだな」
「うふふ、とってもジェニーらしい戦い方ね」
「それ、褒めてるんですか…?」
ミラなりの皮肉なのだろうか…。
「『音竜の
音の刃が水中で凄い速度で向かってきた。アクエリアスはギリギリ躱しきれずに腕を掠めてしまう。
(攻撃が速すぎる…)
ルーシィはアクエリアスの後ろで冷や汗を流した。水中にいるだけであそこまでパワーアップするとは。これはかなりキツイ。
「『音竜の────』」
ルーシィが思考している隙を突いたのか、両手を構えたアミクが一瞬でアクエリアスの目の前にいた。
「しまった!」
「『
両手がアクエリアスの腹に叩きつけられ、彼女に途轍もない衝撃が走った。
「アクエリアス!!」
「く、くそ…!」
ダメージ過多で星霊界に帰ってしまうアクエリアス。
「そんな…!アクエリアスがやられた…!?」
『おっとー!アミク選手がアクエリアスを完封ー!!』
『水の中では最強とも言える星霊を圧倒するなんて、やっぱり大スた強さだねぇ』
『チッ、つまらん』
水中で一番頼りになるアクエリアスが居なくなってしまった。一気に不利になってしまう。
ルーシィが愕然とすると、アミクが不敵な笑みで彼女を見る。
「さぁ…覚悟はいいかな?」
ルーシィの顔が引きつった。
「ヤバい…!」
「『音竜の咆哮』!!」
アミクから放たれたブレスを避けようと必死に上に泳ぐルーシィ。彼女は咄嗟に鍵を2本取り出した。
「バルゴ、アリエス!!」
ルーシィが叫んだ直後、何かがルーシィを掻っ攫いモコモコの綿の様なものがアミクのブレスを防いだ。
「モコモコですみませ〜ん!」
「セクシーガードです、姫」
白羊宮の星霊アリエスと処女宮の星霊バルゴだ。
これまた美しい女性達(しかも水着)の登場に男性客が湧いた。
ラビアンも「ありがとうございます!」と手を擦り合わせる。俗物め。
「はぁ…危な…」
ルーシィは一息ついた。だが、安心するにはまだ早い。
「無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!」
アミクが大量の『音竜弾』を放ってきた。
「何あのキャラ!?…バルゴ、アリエス!頑張って!」
「水中より、地中で活動する方が得意なのですが」
「頑張ります〜!」
アミク達が争っている側ではシェリア達も白熱したバトルを繰り広げていた。
「シェリア!」
そのシェリアを見つめていたウェンディだが…。
『
『昨日引き分けてるからねぇ』
『今度こそはこの手で、シェリアたんを倒したいと言わんばかり!』
「そんなこと思ってません!」
ウェンディは真っ赤になって否定した。
『ウェンディたんの闘いを私も見たかった。前にアミクさんと一緒にうちの劇団を助けてもらった節はありがとうございます』
ラビアンが懐かしそうに語った。いや、助けてもらったっていうか…扱き使われたっていうか…。
『
「うるさいっ!」
ロリコンは黙ってろ。
「焦れったいな。全員まとめてやっちゃうよー!」
アミクは手に魔力を込めると、その場で大回転し始めた。
「回れ回れ回れぇ!『音竜の
水中でのスピードも加味されて凄い勢いで回転するアミク。彼女を中心に巨大な音の竜巻が形成された。
離れていてもその威力をひしひしと感じる事ができる。
「いっけえええええええ!!!」
アミクは自分を包んでいた音の竜巻を思いっきり射出した。
その竜巻は水中闘技場内を凄い勢いで駆け抜け、全員を巻き込んでいく。
「きゃああああ!!!」「いやああああああ!!!」
シェリア、ジェニー、リズリーの3人はなすすべなく音の竜巻に吹っ飛ばされ、水中の外に飛び出してしまった。
「フッ」
「モコモコガード全開です…!」「姫、しっかり」
しかし、ミネルバは手から妙なものを放ちながら音の竜巻を防ぎ、ルーシィもアリエスとバルゴのお陰で耐えきった。
『なんと!アミクがまとめて3人も倒してしまった!!水中戦では無敵の強さだ、アミク――――!!』
「ふぉおおお!!アミク、惚れ直したの―――!!」
「え?」
ハッピーがショックを受けたように目を見開いてマーチを凝視した。
何真に受けてんだ。
「ルーシィも耐えるねー。そうこなっくちゃね!」
「くっ、圧倒的すぎる…」
スピードもパワーもいつもより数段違う。なんとか凌ぐのがやっとだ。
モチベーション最高で絶好調な今のアミクを止められる人はいない。
はずだった。
次の瞬間、アミクは水中闘技場の外に居た。
「はい?」
「アミク!?」
目をパチクリ。そして落下。
「ぷぎゃ」
うつ伏せになって潰れてしまった。
『大活躍でしたが残念!場外!しかしそれでも3位!6P確定です!』
「あちゃーなの!」
「惜しかったねー」
「で、でも今何が起こったんだ?」
マーチ達は残念そうにしながらも今起こった現象に首を捻っていた。
「あのバカ」
「外に出ましたね」
「何で?よそ見でもしてたの?」
ガジル達も腑に落ちないような表情をしている。
「な、なんで…!?」
何をされたのか分からなかった。いや、犯人は分かっている。ミネルバだ。
彼女が何かしたのは間違いないはず。
そもそもアミクは調子に乗ってはいたが、ミネルバにも注意を払っていた。
彼女がどんな魔法を使うのか未知数だったので十分警戒していたはずだった。
なのに、ミネルバが手を掲げたかと思えばいつの間に外に居た。
(…そういえば、あの時も何もない所からハッピーとマーチを出してた)
そう考えると、彼女の魔法は空間系のものかもしれない。
『残るはミネルバとルーシィ!』
ルーシィとミネルバが対面した。
ルーシィは星霊達を一旦戻している。体力と魔力を温存するためだ。
『さぁ、勝つのは
会場が更なる盛り上がりを見せたと同時に、5分間のカウントダウンが開始された。
『ここで5分間ルールの適用です。今から5分の間に場外となった方は最下位となってしまいます』
『何の為のルールかね?』
『最後まで緊張感を持って見る為ですよ。ありがとうございます!』
「ルーシィ!頑張れー!」
もう脱落してしまったからにはルーシィを応援するしかない。
「妾の魔法なら、一瞬で場外にすることも出来るが…それでは興が削がれるというもの。
耐えてみよ、
ミネルバが手を掲げるとそこから光が漏れる。
そして、ルーシィの近くで光の塊が出現した。
「何、これ…」
「…!ルーシィ!避けて!」
アミクが叫ぶも遅く、光が爆ぜた。
「きゃあああああああ!!!」
水が沸騰するように泡が大量に出てきた。熱を感じる。
「水の中で熱!?」
「ああああああ!!!」
「ルーシィ!!」
苦しげに悲鳴をあげるルーシィ。アミクは咄嗟に手が出そうになるのを堪えた。
今は大会中。手出しは反則だ。
「うあああああああ!!!」
破裂する光を受けたルーシィは血が流れる頭を押える。
「くっ…今度は重い…鉛のような…やっぱり、星霊を出さないと…!」
魔力の温存を気にかける状況ではない。ルーシィは鍵を取り出そうと腰に手を伸ばすが…。
「あ、あれ…?あたしの鍵が…!?」
いつの間にか鍵が付いているホルダーがベルトごとなくなっていた。
どこかに落としたか?
金属が触れ合うような音がしてハッとミネルバの方を向くと、彼女の手にはルーシィの鍵があった。
「いつの間に!?」
完全に丸腰だった。
ミネルバの手に光が灯る。
「うああああああ!!!」
ルーシィは再び光の爆発を喰らってしまった。彼女の体が吹っ飛ばされ、場外へと近付く。
『ルーシィ!このまま場外に出ると最下位だー!!』
ルーシィは必死にもがき、背中が水中闘技場からはみ出したところで踏み止まった。
「あ、危なかった…」
アミクはふぅ、と安堵の息を吐く。
「ほう」
ミネルバは面白そうに唇を歪めると。
「うわあ!!!」
ルーシィの後ろで魔法を炸裂させた。
「ルーシィ!」
「鍵を取られちゃったら魔法が使えないの!狼から牙を取ったようなものなの!」
状況を打破できる手段がない。ミネルバの攻撃に耐えるしかないのか…。
でも、そんな状況でもルーシィには全く諦めの意思はなかった。
「あたしは…どんな攻撃も耐えてみせる!」
「ルーシィ…」
すでに彼女の体はいくつもの傷が付いているのに。それでも心は折れていなかった。
「そろそろ場外に出してやろうか」
ミネルバが薄い笑みを絶やさずに言うと、ルーシィがふらつきながらも声を絞り出した。
「こんな所で負けたら…」
「うん?」
「ここまで繋いでくれた皆に合わせる顔がない…!」
モンづターを100体全て倒して圧倒的な力を見せつけてくれたエルザ。
ずっと耐え続け、漢らしく勝利を掴んだエルフマン。
小さい体で最後まで諦めずに全力で戦ったウェンディ。
彼女達の頑張りを無駄にはできない。
「あたしは皆の気持ちを裏切れない!だから絶対あきらめないんだ!」
ここまで繋いできた気持ちをルーシィも受け取ったのだ。
だから、負けるわけにはいかない。
ミネルバが小さく目を見張る。
「ルーシィ…」
アミクは固唾を呑んでルーシィを見守った。
「…?」
アミクはミネルバの様子がおかしい事に気付く。さっきからずっと動いていない。
時間が過ぎるのを待つかのようにじっとしている。
(どうしたの…?)
時は一刻一刻と過ぎているのに、まるで動く気配がなかった。
『ど…どうしたのでしょう? ミネルバの攻撃が止まった』
時間がどんどんなくなるにつれ、アミクの不安が膨れ上がる。
このまま時間切れになるのは嬉しいことのはずなのに、警鐘が鳴り止まなかった。
『そしてそのまま、5分経過!後は順位を付けるだけとなったー!!』
「よしっ!」
ナツはガッツポーズをするが、アミクの不安は最高潮に達した。
直後。
眩い光がルーシィを包んだ。
「ああああああああああ!!!」
先程とはまるで違う、より強大な光の爆破。
「ルーシィィィィ!!!」
アミクが悲痛な叫びをあげた。
「頭が高いぞ
執拗にルーシィに攻撃を加えるミネルバ。その表情はいつもの余裕を崩し、なぜか怒りに満ちているように見えた。
「きゃあああああああ!!!」
ルーシィは悲鳴をあげながら外へと向かう。
『これはさすがに場外────消えた!?』
外に飛び出す直前に、ルーシィの姿が消えた。
と思ったらミネルバのすぐ前に出現する。
ミネルバは即座にルーシィに強烈な蹴りを入れた。
『場外へふっとばされたルーシィ!!なぜかミネルバの前に!?』
「痛めつける気ですか!?」
「もう勝負はついてんだろ!」
今度は魔法を使わずに素手でルーシィを痛めつけた。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
ルーシィの体に傷が増え、意識が朦朧としてきてもミネルバは止まらなかった。
『水中なのでダウンがありません!ただただやられ続けるだけ!』
ルーシィはされるがまま。殴られる度、体が揺れる。
「もうやめてえええええええええ!!!」
アミクは絶叫した。
「
衝動的に手に音を纏い、ミネルバを止めようとその場から飛び上がろうとした時。
「ダメッ!」
シェリアがアミクの腕を掴んで引き止めた。
「離して!」
「ダメだよッ、ここで手を出しちゃ!最悪失格になるよ」
確かに、一応まだ試合中だ。アミクが割って入ってしまったらルール違反になるだろう。
「でも…!」
あんなに甚振られているルーシィを放っておくなんてできない…!
ちょうどその時。
『こ…ここでレフリーストップ!競技終了ー!!』
流石に見過ごせなかったのか競技が強制終了された。
ルーシィの首を掴み、水中闘技場の外に突き出すミネルバ。ルーシィは首吊りのようになってしまう。
『ルーシィ!!』
「ルーシィ!」
Aチームとアミクが同時に飛び出した。
『勝者ミネルバ!!
ルーシィ…さっき程から動いていませんが、大丈夫でしょうか!?』
ルーシィは死んだようにグッタリとしたまま動かない。
誇らしげな、あるいは嘲るような笑みでルーシィを見るミネルバ。
彼女はゆっくりと、ルーシィから手を離した。ルーシィが真っ直ぐに落下する。
「うわああああああ!!!」
一番近く居たアミクが落ちて来るルーシィを受け止めようと手を伸ばし、地面に滑り込む。
ただ、目測を誤ってルーシィはアミクの腕ではなく背中に落ちて来た。
「ぷぎゅ!」
押しつぶされるアミク。まぁ、結果的に地面に落ちることは免れた。
アミクはルーシィを優しく地面に横たえる。
すぐにナツ達も駆け寄って来た。
「大丈夫か!?しっかりしろ!」
『この状態は危険だ!早く治療しなさい!』
「何て事するんだコノヤロウ!!」
「ルーシィ!ルーシィ…!ルーシィ…!」
アミク達は水の中に残っているミネルバを見上げた。
自分達を見下すような冷たい笑み。
「くっ…〜♪
ミネルバよりまずはルーシィだ。アミクは急いで治癒魔法を掛けた。
「お願い!しっかりして…!」
泣きながらルーシィを癒していると、エルザもやって来てミネルバを鋭い目つきで睨んだ。
そのミネルバはゆっくりと水球から滑り落ちてエルザ達の前に着地する。
「その目は何か?」
余裕の冷笑を絶えずにミネルバもエルザを見返した。
そこにウェンディとシェリアも走ってくる。
「ルーシィさん!」
「私も手伝うよ!酷い傷だけど、3人でやれば…!」
3人で治癒魔法を注ぐ。少し、苦しげな表情が和らいだ気がした。
「その目は何かと聞いておるのだ。 妾はルールにのっとり競技を行ったまでよ」
「ルールだと?すでに勝敗のついた相手を甚振ることがか?」
「おかげで盛り上がったではないか」
何を…何を言ってるんだこの女は。
「むしろ感謝してほしいのもだ。2位にしてやったのだ。そんな使えぬクズの娘を」
もう我慢できなかった。自分の中の何かがプツリと切れたのを感じた。
「…ごめん、後は頼むよ」
「アミクさん…?」
これだけやれば応急措置としては十分だろう。
ルーシィの治療は2人に任せてアミクは立ち上がった。
「…取り消してよ、今の言葉っ!!」
怒りで肩を震わせながらミネルバの前まで近づき睨みつける。
ナツ達も歯を食いしばってエルザとアミクの横に並ぶ。
そんなアミク達の前に、ミネルバを守るように
「っ…!」
空気が一瞬で張り詰めた。ピリピリとした緊張感が会場全体に漂い、睨み合うアミク達の間でギリギリの均衡が保たれる。
『おーっとこれは…両チーム一触即発かー!?』
会場もここで
『んー…ここは冷静に行かんと』
『でも盛り上がっております!ありがとうございます!』
他人事のように盛り上がる外野。
マーチ達も表情を険しくして臨戦態勢だ。
「これは正式な試合ではない。いざとなれば、我々も行くぞ!」
「あいさー!」
「全員ぶった切るの!」
「ちょっと!落ち着きなさいよ!」
マーチなんか爪を伸ばして今にも襲いかかりそうだった。
まさに、一触即発。
どちらかが均衡を崩せば、すぐに戦闘に入りそうな雰囲気だった。
そんな中、ナツが我慢しきれずに飛び出そうとする。
それをエルザが制止した。
「最強だかフィオーレ一だか知らんが、1つだけ言っておく──」
相手を睨むエルザの目は完全に『敵』を見る目だった。
「──お前たちは1番怒らせてはいけないギルドを敵に回した」
仲間をここまで傷つけられ、馬鹿にされて穏やかでいられるギルドではない。
仲間がやられたら、その仲間が受けた苦しみの分まで必ず返す。
それが、
そのエルザの隣で、アミクは静かに魔力を昂ぶらせた。
彼女は全身から無意識に黒い音を漂わせ、オーラで彼女のツインテールがユラユラと蠢く。
憤怒の炎に満ちた涙目で射殺さんばかりにスティング達を睨んでいた。
「…!」
「…ほう」
余りの気迫にスティング達は息を呑み、ミネルバは面白そうな声で感嘆した。
(異質な魔力だな。この前とも違う…オルガに似た魔力か。なるほど…)
そのオルガはオルガで興味深そうな笑みを浮かべていた。
(確かに滅神魔法の魔力に違いねぇ。しかし、常に滅神魔法を使えるわけじゃねえようだが、これもコイツの力の1つだ。面白れえ)
もし戦うのだとしたら彼女と戦ってみたい。オルガの笑みが挑戦的になった。
「なんでこんなひどい事が出来るの…?」
ギルドの為に頑張ったルーシィを執拗にボロボロに壊すように痛めつけてまでして…。
「
「それが強さだ。その小娘は弱かった。それだけの事よ」
ツインテールがブワッと逆立った。
「────貴方達は最強のギルドなんかじゃない」
ピクリ、とミネルバの眉が動いた。
「強さの意味を履き違えている貴方達は、強くなんかない!!」
「────よく吠える妖精よ。負犬ギルドめ」
ミネルバの瞳に僅かに怒りが宿るのが見えた。
「大会で受けた借りは、大会で返すよ」
アミクの昂ぶっていた魔力が収まった。
黒い音もなくなり、アミクの青い瞳には凪のような静けさが戻った。
そう、全てをぶつけるのは今ではない。
大魔闘演武で彼らと相見えた、その時だ。
アミクは手を差し出した。
「なんだ?まさか仲直りの握手というわけでもあるまい」
「ホントまさかだよ…ルーシィの鍵、返して。ルーシィの大切なものだから」
「…フン」
ミネルバは乱暴にルーシィの鍵と鞭を投げ渡してきた。
それを丁寧に受け取り、大事そうに抱き締める。
アミクの心で静かに真っ赤な闘志が灯っていた。
ダメだ、アミクのセリフがエースに被って笑っちゃったよ。