妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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いよいよ試合開始です。
いや、前書きで言うことかな。

ちょっとオリジナル回想も入りますよ。


バトル・オブ・ドラゴンスレイヤー/音竜と白竜の出会い

『興奮冷めやらぬ会場ですが、次のバトルも目が離せないぞ――――!!』

 

闘技場に4人の人物が入ってきた。

 

『観客の皆さんも、この一戦を心待ちにしていたことでしょう』

 

静まり返る会場。ゆっくりと入ってきた彼らに、誰もが目を離せない。

 

『7年前、最強と言われていたギルドと…現最強ギルドの因縁の対決!』

 

両チームは互いに瞳を合わせた。

目の前にいる2人が自分達の相手…敵だということを再認識する。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ナツ&アミク VS 剣咬の虎(セイバートゥース)スティング&ローグ!』

 

アミク達を見守る妖精の尻尾(フェアリーテイル)はただ、彼らの勝利を信じてこの試合を見届ける。

 

『しかもこの4人は全員が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!全員が竜迎撃用の魔法を持っている!

 それに、どちらも『双竜』と呼ばれるコンビだー!!』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』と剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』。

2つの『双竜』がぶつかり合おうとしていた。

 

「待っていたぜ、この瞬間を…!」

 

スティングが溢れ出る嬉しさと高揚感を滲み出した。

 

 

(ガジルは出ないのか…)

 

 

ローグは観客席にいるガジルに目を向ける。

ガジルが戦いたそうにウズウズしているのが見て取れた。

 

ローグも残念に思うが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』とはいつか雌雄を決したいとは思っていたのでこれはこれで良いと思うことにした。

 

 

のどかな草原が広がり、優しい音色が響く空気が充満している。

 

神殿のような建造物の近くで、美しい声を持つ(ドラゴン)が首を上げた。

 

 

「…白竜バイスロギア、影竜スキアドラム」

 

懐かしそうに、その名を呟く。

 

「貴方達が育てた子供達…。貴方達のした行為は果たして彼等の為になったのでしょうか…?」

 

哀しそうな声。責めるような声。彼女は、語りかけるように言葉を紡ぐ。

 

「…見せてもらいますわ。あの子達の力を」

 

竜を殺す力。彼等はそれを使い熟せるのか、否か。

 

「竜王祭も近い。私達が行動に移す時がすぐそこまで来ましてよ」

 

愛する『娘』を思い浮かべながら機が熟すのを待つのだ。

 

音程が1つ、上がった。

 

 

 

 

『夢の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)対決!────いえ、まさに双竜対決!!遂に実現です!!』

 

大魔闘演武が始まる前から噂されていた。

 

虎の『双竜』と妖精の『双竜』。どちらの方が上なのか。

 

多くの人々が気になってしょうがなかった。

 

そして今、とうとうその対決を目にできる。

 

 

「ガツンとかましてこい」

 

「オレ達の分までな」

 

「勝利を信じているぞ!」

 

『自分の力を信じろ!』

 

 

他のチームメンバーが応援していくれている。

 

 

 

 

「そろそろ始まる頃ですね!」

 

「ナツとアミクなら大丈夫。きっと勝てる!」

 

ルーシィ達もアミク達を信じて待った。

 

 

 

 

(この時をずっと待ってたんだよ、ナツさん…アミクさん!)

 

スティングが熱い視線をナツとアミクに向けた。

 

7年間も…いや、それ以上前から待ち望んでいた。

自分の力を、彼等に示す時を。

 

 

「楽しみにしていたのは私も同じカボ!制限時間は30分!試合開始ぃ!!」

 

 

始まる。

 

 

 

『双竜』同士の闘いが。

 

 

 

想いと想いのぶつかり合いが。

 

 

「行くぜ!」

 

「ああ」

 

 

スティングとローグが動く。

 

 

 

───それでは遅い。

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

一瞬でスティング達の前にアミク達が拳を構えていた。

 

 

「はぁっ!」

 

そのまま渾身のストレート。

 

アミクの拳がローグの右頬を捉えた。ローグは後方に殴り飛ばされる。

 

 

ファーストダメージを与えたのはアミク達だ。

 

アミクは追撃のためにローグに接近する。

 

「それぇ!!」

 

ローグの額に頭突きをかましてやった。

 

痛みで顔を歪ませながらも受け身を取るローグ。

 

 

同じようにナツに蹴り飛ばされたスティングが口を開けた。そこに白い光が溜まる。

 

「『白竜の咆哮』!!」

 

「レーザー!?」

 

アミク達のブレスとは少し違って白いレーザーのようなブレスだ。それをナツが身を捻って避ける。

 

「ヤッハァ!!」

 

スティングは白いブレスを放出したまま薙ぎ払うように横に振り回す。

白いブレスは横に居たアミクの方に向かって行った。

 

「おっと!」

 

ジャンプして回避。

着地するとローグが手に黒い魔力を纏って飛びかかってきた。

 

あれが影か。

 

「『影竜の斬撃』!!」

 

斬撃ならば、こちらも斬撃で迎え撃とう。

 

「『音竜の斬響(スタッカート)』!!」

 

アミクは音の刃をローグの手にぶつけて止めた。

ローグが目を見開く。

 

「ぶっ飛べ!」

 

「ぐああああ!!」

 

その隙を突いてローグを遠くに蹴り飛ばした。

 

「ローグ!!」

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

ローグに視線を移したスティングにブレス。隙だらけだ。

 

「うぐっ!!」

 

スティングは両腕を交差して防ぐが、耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

そのスティングにローグの頭を鷲掴みにしたナツが突っ込んでいく。

そのままローグの頭をスティングの顔面に押し付け、ローグを掴んでいる手から炎を噴き出させた。

 

「『火竜の翼撃』ィ!!」

 

2人まとめてぶっ飛ばす。

 

 

『こ…これはどういう事でしょうか!? あのスティングとローグが!? フィオーレ最強ギルドの双竜が押されているー!!』

 

スティング達を圧倒するアミク達に歓声を上げる妖精の尻尾(フェアリーテイル)

唖然とする観客達。

 

一方的な展開に誰もが試合に集中せざるを得なかった。

 

「やっぱ強ェなァ。こうじゃなきゃ…」

 

「ナツ、アミク…」

 

しかし、流石と言うべきか。スティング達も多少ダメージを受けているようだが、まだまだ動けそうだった。

 

「お前ら、その程度の力で本当にドラゴンを倒したのか?」

 

こんな簡単にアミク達に翻弄されているようではドラゴンを倒したなど怪しい話だ。

スティングは不敵な笑みを浮かべて訂正した。

 

「倒したんじゃない。殺したのさ、この手で」

 

「…自分の親でしょ?なんで…」

 

「アンタらには関係ねえ事だ。今から、その竜殺しの力を見せてやるよ」

 

まあ、あの程度で本気なわけがないだろう。

アミク達は黙ってスティング達の行動を見守った。

 

「ホワイトドライブ」

 

「シャドウドライブ」

 

2人の魔力の質が変わるのを感じる。スティングとローグの身体にそれぞれ白い光と影が纏った。

 

「わお。ドラゴンフォースとはまた違うみたいだけど…」

 

さっきよりも魔力が増幅されているようだ。

 

「スティング」

 

「ああ」

 

これは、油断しているとやられるかもしれない。

 

「ナツ。気を付けて」

 

「分かってらぁ」

 

ナツと言葉を交わした直後。

 

スティングが動いた。

 

 

先ほどよりも俊敏に動いて接近してくると、アミクに向かって白い輝きを伴った拳を放ってきた。

 

「うわっ!?」

 

咄嗟に躱そうとするも、アミクの大きな胸を掠めて拳が通り過ぎる。

 

「エッチ!」

 

「わ、悪ぃ!」

 

謝りながらもスティングの攻撃は止まらなかった。

 

「聖なる白き裁きを!喰らいなぁ!!」

 

再び白く輝く拳をアミクの腹に打ち込み、アミクに「カハッ」と空気を吐かせる。

それを見て一瞬、スティングの顔が少し苦しげに歪んだ。

 

そしてラッシュ。次々と拳がアミクに当たる。

 

 

「アミク!!」

 

 

そしてナツには纏った影を揺らめかせるローグが接近。

咄嗟にナツが殴りつけるも、手応えがない。拳がローグをすり抜けるように空を切る。

 

「くっ!」

 

気配を感じてそこに攻撃するも、まるで捉えられない。

まるで影のように攻撃が空ぶっていく。

ローグは不気味な速さでナツを翻弄した。

 

「影はとらえる事が出来ない」

 

「クソォ!ちょこまかと!!」

 

影となって迫るローグの気配を感じ取り、腕を振るうも当たらず。逆にローグの攻撃がナツを打った。

 

「っ…!」「うおっ!?」

 

互いに背中合わせでぶつかるナツとアミク。

 

「大丈夫ナツ!?」「そっちこそ平気かよ!」

 

無事を確かめ合うと、上空からスティング達の笑い声が聞こえた。

 

「おいおい、自分より相方の心配かよ!随分余裕あるじゃん!」

 

2人は上空から急襲してきた。

 

 

 

「急にパワーアップしやがった!」

 

「あんなのアミク達は使ったことないの!」

 

「ナツー!アミクー!頑張れー!!」

 

ハッピー達の応援を聴きながらアミクは口に付いた砂を拭う。

 

 

「さっきとは動きが段違いだね。軽めのドラゴンフォースってところかな」

 

「オラオラ!!ガード甘いんじゃねえのアミクさん!!」

 

「きゃあ!!」

 

スティングの怒涛のラッシュがアミクを苦しめる。

 

 

「くっ!」

 

ナツの方もローグの鋭い攻撃で髪の毛が何本か落ちた。

 

 

「まだまだ続くぜ!!」

 

スティングが白く輝く拳を振り上げた。

 

「ナツ!!」

 

「おう!!」

 

アミクはナツに声を掛けると、目の前に音の壁を張った。

 

「『音竜壁』!!」

 

「チッ」

 

スティングのパンチは壁に阻まれる。それを確認したと同時に壁を解除。

 

「『火竜の鉄拳』!!」

 

直後にナツが炎を纏った拳をスティングに放った。攻撃直後の硬直でスティングは為す術なく喰らってしまう…と思われたが。

 

「『影竜の斬撃』」

 

「ぐあっ!」

 

スティングを助けるようにローグがナツを切り裂く。

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のコンビネーションも中々のモノだけど…スティングとローグのそれには敵わないようだね」

 

「あいつらは何年もコンビをしてきたからな。男と女のカップル如きに負けるかよ」

 

ルーファスとオルガがアミク達を観察して思った事を言う。誰がカップルだ。

 

 

「オレはずっとアンタらに憧れてたんだ!そしてアンタらを超えることを目標にしてきた…今がその時!!」

 

「かぁっ!」

 

アミクを攻め続けていたスティングが彼女の腹に白い光を押しつけた。

 

「うひゃあ!?服が破け───あれ!?」

 

自分の剥き出しになったお腹を見てアミクは目を見張る。

彼女の肌に白い魔法陣のような模様が刻まれていたのだ。

 

しかも。

 

 

「う、動けない…!」

 

身動き一つ取れない。この紋章のせいか。

 

「白き竜の爪は聖なる一撃!聖痕を刻まれた体は自由を奪われる!!」

 

相手にの動きを封じる聖痕。厄介な代物だ。

 

「これでオレは…アンタを超える!!」

 

(そして…アンタに認めてもらう!!)

 

スティングはなんとか動こうとしているアミクを見ながら、彼女と初めて会った時の事を思い出していた。

 

彼の、原点とも言える出来事を。

 

 

 

 

 

スティングが打倒妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』を掲げているのには2つの理由があった。

 

1つはレクターとの約束のため。

 

もう1つがそもそものアミク達を目指すことになったきっかけである。

 

 

そのもう1つの話。

 

 

7年と少し前。

 

 

まだ幼いスティングはレクターと共にとある町に来ていた。

 

「スティング君!本当ですか!?此処に一角獣(ユニコーン)が居ると言うのは!」

 

「間違いねぇって。この町の近くにある森で見たって噂がいっぱいあるんだ」

 

彼らは幻獣である一角獣(ユニコーン)が現れると噂を聞きつけ、好奇心を抑えきれずにここまでやって来たのだ。

 

「実際にユニコーンを見ることができれば皆に自慢できますよ、ハイ!あ、でも信じてくれないかも…」

 

「なーに、そういう時はユニコーンに頼み込んで証拠としてツノでもなんでも譲って貰えばいいんだよ」

 

「さすがスティング君!」

 

例えユニコーンが居て会えたとしてもそんな上手くいくはずないだろうが。

しかし彼らはまだ幼いが故、穴だらけな考えに疑問を持つことはなかった。

 

 

 

 

町で聞き込みしてユニコーンが現れる正確な場所と時間帯を知った彼らは早速行動に移した。

 

「最近じゃこのルートをよく通りらしいんだよな。だからこの近くで張り込みだ!」

 

「ワクワクしますね!」

 

まだ明るいうちに森の中に入ったスティング達。

ご丁寧に明かりと食料まで持ち込んでいる辺り徹底している。

 

「ふふふ、此処で待っててユニコーンが現れたら刺激しないように近づくんだ」

 

「ハイ!腕がなりますね!」

 

そこまでスキルが必要なことか、それは?

 

 

 

そして、夜。

 

獣の吠え声や梟の鳴き声が聞こえ、スティング達は身を震わせた。

 

「へ、へへ…雰囲気出て来たじゃねえか…」

 

「い、いよいよって感じですね、ハイ」

 

まだ彼らにとっては暗い森など恐怖の対象である。

好奇心できたは良いものの、少しだけ後悔し始めてきた。

 

第一、存在するかもわからないユニコーンを見るためだけにこんな所で震えているのも阿呆らしい気がしてきた。

 

「いや!ドラゴンが居たんだ!ユニコーンだってきっと居るはずだ!」

 

スティングは自分に言い聞かせるように言うと、じっと変化が起きるのを待った。

 

 

そして…。

 

 

「来た!」

 

ガサガサ、と足音を立てながら動物の気配が姿を現した。

暗くて分かりづらいが馬のような姿に、額から角の生えた格好。

 

 

間違いない。一角獣(ユニコーン)だ。

 

 

(よし、レクター!こっそり近づくぞ!)

 

(はい!)

 

スティングはレクターにこっそり伝えると音をたてないようにユニコーンに忍び寄った。

 

さぁ、いよいよ聖なる獣とも呼ばれるユニコーンをこの目で見る時────。

 

 

「ぶるるるん!!!」

 

 

突如、ユニコーンらしき生物が荒々しく頭を振り、足を踏みならした。

 

(気付かれた!?)

 

スティング達は思わず硬直するが、その生物はスティング達の方を見ていない。

何だか様子がおかしい。

気性の荒い馬のように激しい動きをして、ドン!ドン!と近くの木に頭をぶつけている。

 

「な、なんだ…?」

 

「不機嫌なのでしょうか…?」

 

少し気味悪くなって黙って観察していると、気配を察したのかユニコーンらしき生物がスティング達を方を振り向いた。

 

彼らは息を飲んだ。自分たちが想像していたような綺麗で神々しそうなユニコーンではない。

 

 

不気味な色合いをした体躯。その体から禍々しいオーラを漂わせ、真っ赤に輝く目をスティング達に向ける。

額から生えている角も、見る者に不快感を与えるようなものだった。

 

「ヒッ…!」

 

「これが…あのユニコーンなのかよ」

 

幻想を打ち砕かれた気分だった。

これでは聖なる獣ではなく『魔物』────モンスターだ。

 

「ひひひっ、ひーん!!」

 

その生物────モンスターは鼻息を荒げると、スティング達に向かって突進してきた。

 

 

「うわー!!攻撃してきました!!」

 

スティングがレクターを抱えて咄嗟に横に跳んだ。ユニコーンもどきはそのまま突っ込んで木に頭をぶつけた。

しかし、なんともないかのようにスティング達に振り返る。

 

この生物は危険だ。

 

 

「下がってろレクター!喰らえ聖なる輝きを!!」

 

スティングの白く輝く拳がモンスターの胴体を捉える。

モンスターは軽く吹っ飛んで倒れ込んだ。

 

「どんなもんよ!」

 

「スティング君、強いです!」

 

これでも滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)としての力も経験も積んでいるのだ。

当然実力にも自信がある。しかし…。

 

モンスターはよろよろと起き上がった。

 

「チッ、一発じゃ沈まねえか」

 

スティングが再び攻撃を加えようとしたその時。

 

 

「困りますん、そいつをいじめちゃ。一応、わっちの大事な研究成果なのでねん」

 

 

木の陰から1人の男が現れた。ダボダボとした白衣に不健康そうな顔つき。

スティングは警戒して彼を睨みつけた。

 

「誰だよお前!」

 

「誰かって言われて素直に教えると思いますん?その魔物を造った天才魔法生物学者、その名もネロロですん」

 

「教えてるじゃないですか…」

 

レクターがフワフワ飛びながら呆れた。しかし、それより気になる言葉がある。

 

 

「造った?」

 

「そうですん。この魔物はわっちが研究と改造の末、作りあげたユニコーンもどきですん。

 まぁ、あくまでもどきなのでほぼ失敗作なんですけどん。一種の魔法生物ですん」

 

それを聞いてスティング達は驚愕に目を見開いた。

生物を造る?そんなことができるのか。

 

それに、『もどきだから失敗作』?まるで本物が成功作だと言ってるような…。

スティングはハッと気付いた。

 

 

「まさか、お前…ユニコーンを造ろうとしたのか!?」

 

「ぎゅっぎゅっぎゅっ…素晴らしいでしょん?」

 

ネロロは誇らしげに腕を広げた。

 

天馬(ペガサス)蛇姫(ラミア)人魚(マーメイド)…そして(ドラゴン)

 世の中には沢山の伝説の生物が居るんですん」

 

「ドラゴンは本当に居るぞ!」

 

スティングがムッとしたように声を上げた。

 

 

「まぁ、ともかくそのような生物は空想の産物だとされていますん…わっちは、それを本物にしたいのですよん」

 

ネロロの目に狂気の光が宿った。

 

「昔から夢見ていたのですん。空想上の生物達をこの目にして、実際に触れあうことをん。そして…

 それらを従えて、この世の全てを支配する事をん!!」

 

スティングは背中に冷や汗が流れるのを感じた。

この男はヤバい。正常な思考をしているとは思えない。

 

「だから、わっちは思ったのですん。居ないのなら造ってしまえばいいとん。だから何年も研究に人生を費やしてきたのですん!

 色んな動物を捕まえ、数え切れないほどの改造と実験を繰り返したん。そうしてできたのがコイツのような魔物なのですん!」

 

ユニコーンもどきはネロロの言葉に応えるように「ぶるるるん!』と鼻を鳴らした。

 

「わっちの造った幻想の生物達が人々を蹂躙し、恐怖を与えていくん!そしてそいつらの頂点に立ち、そいつらを操っているのが、この天才魔法生物学者であるネロロなのだん!!」

 

その光景を思い浮かべているのか、ネロロは恍惚とした表情になった。

 

 

「世界中の人類はわっちを崇め奉るん!!全ての伝説を従えし王としてん!!神としてん!!」

 

「な、なんて頭のおかしい奴なんですか…」

 

とんでもない妄執と野望を抱く男にレクターは怖気で体を震わせた。

 

 

「…で?そんな大層な話をオレ達に聞かせてくれて、どうしようってんだ?」

 

普通ならば「アホらしい」と一蹴するような話でも、目の前にユニコーンもどきという証拠…『人の害になり得るもの』がある。

彼の話に僅かなりとも信憑性が出てくることになる。

つまり、「魔法生物を使って人に危害を加える」というのも現実味を帯びるわけで。それをわざわざ聞かされたスティング達は…。

 

「まぁ、冥土の土産ってことですん。これを見られてしまったからには生かして帰すわけにはいかないですん。

 若い命を摘むのは心苦しくもありますけど、仕方ないって事でお願いますよん」

 

あの魔物を見てしまった時点で口封じする気だったのだ。当然ながら、彼の研究は違法なものであり、罪のない動物を実験体として酷使する非道なものである。

この目撃証言から自分達の存在が明らかにされるのは避けたい。

 

 

「はぁ…コイツらの動きを観察しようと外に出したのは早計だったようですん。最近結構噂にもなってるようですし、場所を変える必要がありますかねん」

 

彼の研究所はこの森の奥深くにあった。誰も近寄らない所だったので好条件だと思い勝手に研究所にしていた。

噂程度なら問題ない、と楽観視していたのだがここまでがっつり見られてしまった以上、消すしかない。

 

自分の計画は知られてはいけないのだ。

 

 

「…おっさん、オレをその辺のガキと一緒にされちゃエライ目に遭うぜ」

 

スティングは拳を構えた。あの程度の魔物ならば今の自分でも十分倒せる。

 

「みたいですねん。しかし…

 誰が1匹だと言いましたかん?」

 

その言葉を合図にしたかのようにあちこちから沢山の気配が現れた。

 

「うわっ!!?」

 

「な、なんですかこれは!!」

 

しかもどれもこれも普通の生物のようには見えない。顔が3つある犬や腕が4本あるゴリラ、尻尾が蛇になっている巨大な鶏など。

所謂、モンスターの大群だった。

 

「本物のユニコーンなどを造るのは最終目標ですん。その過程でできたコイツらも立派な研究成果であり、観察対象。そして戦力ですん。有効活用していきますよん」

 

よくこんなに居てユニコーンだけが噂になったものだ。それだけ巧妙に隠されてきたのか。

 

スティングは冷や汗を流す。この数は流石に太刀打ちできない。このままでは自分もレクターもやられてしまう。

 

「レクター!オレが気を引いている間に逃げろ!」

 

「嫌です!スティングを置いて逃げるなんてできませんよ!」

 

首を振るレクターにスティングは唇を噛む。大方予想していたが、レクターならそう言うだろう。

 

「ん…?」

 

その時、初めて気づいた、といった風にネロロがレクターに目を向けた。

 

「おやん?おやおやおやん!!これはこれは初めて見る生物ですねん!空を飛んで喋べるネコとはん!!」

 

興奮したように上気し、怪しげに舌舐めずりする。

 

「改造しがいがありますねぇん…」

 

「ヒェッ!!」

 

「テメェ!!」

 

まさかレクターを化け物の仲間にするつもりか。

 

「レクターに手を出したら許さねぇぞ!」

 

「ぎゅっぎゅっぎゅっ…威勢がいいですなん。しかし、この数相手にまともに抵抗できますかなん?」

 

ネロロは嘲るように言うと、手を振り下ろして指示を出した。

 

「やっちゃいなさいん。あのネコはなるべく無傷で捕らえてくださいよん」

 

すると、猛獣達は不気味な唸り声を上げながらスティング達に向かって飛びかかってきた。

 

「くっ…『白竜の咆哮』!!」

 

突っ込んできたゴリラみたいな魔物をブレスで追い払うも、すぐ横から襲ってきた蛇のような魔物の攻撃を避けきれずに地面を転がってしまう。

 

「ぐああああ!!」

 

「スティング君!!」

 

レクターが慌てて駆け寄った。

 

「スティング君!!しっかりして下さい!!」

 

「へへっ、大丈夫だよレクター。こんな奴ら、オレがすぐに倒してやるからな…」

 

スティングはヨロヨロと立ち上がると、拳を構えた。

こんな絶望的な状況でも、自分を奮い立たせるように笑みを浮かべている。

 

「レクターは連れて行かせねえ…!」

 

「スティング君…」

 

レクターは涙を溜めて潤ませた。

自分を守るように立つスティングの背中が格好良く映った。

 

「ぎゅっぎゅっぎゅっ、さぁモンスターの餌になりなさいん!!」

 

「レクターはオレが守る!!」

 

巨大な熊が鋭い爪を振り上げ、スティングの発達途中の身体を切り裂こうとした。

 

 

 

 

 

「とぉ────!!!」

 

そんな気の抜けるような声がしたと同時に、熊が吹っ飛んだ。

 

「子供をいじめる悪い大人はだーれだ!!」

 

吹っ飛ばした犯人は驚くほどに長い緑色のツインテールの少女。

青空のように青く輝く瞳。いつまでも聞いていたい澄んだ声。

すらりとした美脚で飛び蹴りをかます彼女は、美しくも逞しい。

 

スティングは彼女から目が離せなかった。

 

「へ…?」

 

「なっ!?だ、誰ですん!?」

 

ネロロは驚いて後ずさった。他のモンスター達も警戒するように少女を睨む。

少女は相変わらず気の抜けた声で言い放った。

 

「どーもー、妖精の尻尾(フェアリーテイル)でーす。貴方が依頼にあった怪しい男さんかな?」

 

「い、依頼ん!?」

 

ネロロはますます驚愕する。

 

「なんか森の中に変な生き物と怪しい人物がうろついてるから調べて欲しいって町長さんからの依頼ですよ」

 

「そんなバカなん!?」

 

住民の噂程度では済んでなかった。既に町の偉い人が目撃し、きな臭いものを感じて秘密裏に手を打っていたのだ。

 

「さっきの会話も全部私の耳には聞こえてたよ。想像以上に壮大な話でびっくりしちゃったけど、子供をいじめる貴方をタダでは置けないね」

 

少女はスティングの側に近づくと声を掛けた。

 

 

「大丈夫?遅くなってごめんね。よく耐えてくれたね」

 

少女は優しい表情でスティングを励ますと、その綺麗な声で歌を歌い始めた。

 

「…!傷が…」

 

先ほどの攻撃でできたかすり傷や切り傷が塞がっていく。

 

「治癒魔法…!?」

 

スティングも目にするのは初めてだ。

なんて優しい魔法なのだろう。この光を受けているだけで安心できる気がする。

 

「わっ、マーチみたいなネコさんも居るんだね。お友達?」

 

レクターに視線を向けた少女が微笑んだ。

 

「あ、ああ!大事な友達だ!」

 

「そっか!うん、友達を守ろうとしたの、カッコよかったよ!」

 

彼女の言葉にスティングは心が温かくなるのを感じた。

 

「…もしやん、貴方『音竜(うたひめ)』ですかん!!?」

 

ネロロの言葉にスティングは「『音竜(うたひめ)』…?」と首を傾げた。聞き覚えがある。

 

「あ、あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『音竜(うたひめ)』ですか!?妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』の片割れと言われる!!」

 

そう、噂だけは聞いたことがある。妖精の尻尾(フェアリーテイル)というギルドに『音竜(うたひめ)』という凄腕の魔導士が居ると。

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だというのでいつか会ってみたいと思っていたのだ。

 

「まさか貴方のような大物が出向いてくるとは思ってませんでしたがん…逆にチャンスなのですよん」

 

ネロロは卑屈な笑みを浮かべて拳を握った。

 

「ドラゴンの性質を持つとされる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である貴方を捕らえれば、わっちの研究も捗るというものですん。

 そういえばまだ人間で改造&実験はしたことなかったですねん。ちょうど良い機会ですん」

 

彼は周りのモンスター達を見回した。少し手傷を負っているのもいるが、これだけの数がいれば十分だろう。

 

「このモンスターの群れに貴方のような小娘が敵いますかなん?」

 

「あーまたこーゆー…」

 

少女はうんざりしたようにため息を吐く。こんな状況で随分余裕がある。

 

「あ、アンタ!大丈夫なのかよ!?」

 

心配になってそう声を掛けると、「ヘーきへーき、必ず君達をお家に帰してあげるから」と軽くストレッチする。

…子供扱いされているようで少々気に食わないが、彼女を信じよう。

 

見た目はか弱そうだが、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だという彼女を。

 

「やれぇん!!」

 

「ひぇえ、流石に怖い!『音竜の咆哮』!!」

 

一斉に襲いかかってきた猛獣達をブレスで薙ぎ払う少女。

 

「ガオオオ!!」

 

「攻撃する前に声を上げちゃバレバレでしょ!」

 

横から突っ込んできたモンスターを蹴り飛ばし。

 

「コカァッ!!」

 

「口臭い!!」

 

空から襲ってきたものは衝撃波で弾き。

 

「ごふ!?」

 

「残念!地中の音も聞こえるんだな、これが」

 

地面から攻撃しようとしてきたモンスターに拳を振り下ろして撃沈した。

 

まさに無双。

 

 

「すげぇ…」

 

「や、やりますね…!」

 

スティング達は素直に感服した。あの凶暴そうなモンスター達を虫を潰すかのごとく蹴散らすとは。

 

「『音竜の響拳』!!」

 

その大きいとは言えない拳が少女よりも遥かに大きい魔物を空高くぶっ飛ばした。

 

(────強え)

 

野蛮にも見える行為。しかし、思い切りの良い彼女を見るのは気分が良く、熱い力を感じられた。

 

(綺麗だ)

 

無意識にそう思っていた。

 

「打ち上げ花火ならぬ打ち上げモンスター、ってね…今のなし、つまらんかった」

 

少女は恥ずかしそうに頰を染めて頭を掻いた。

直後に、モンスターがズドンと落下する。

 

これで全部のモンスターをやっつけた。

 

「あ、ああああ、ありえないん!!」

 

ネロロは尻餅をついて震えていた。完全に彼の想定を超えている。

何もかもが彼の思惑を裏切っていた。

 

「こんなはずじゃなかったん!いや、タイミングを間違えたのだん!お前と出会ってたのが、わっちが『伝説』を造った後だったらお前なんて────」

 

「はいはーい、黙って下さーい。後悔先立たずですよー」

 

「あふぅん」

 

デコピンして小さな衝撃波を発生させ、ネロロを気絶させた。

 

「ドラゴンを造る、か…ちょっと興味深かったけど人や動物を傷つけるのはダメだよ」

 

聞き分けのない子供に言い聞かせるように気絶しているネロロに声を掛ける少女。

彼女はすっきりした笑顔でスティング達を振りかえった。

 

「もう大丈夫!こわーいおじさんと怪獣達はお姉ちゃんがやっつけちゃったからねー!」

 

「か、かっけええええ!!」

 

「おおう」

 

少女は目をキラキラさせるスティングに苦笑いした。

真っ直ぐな憧憬を向けてくれるのは嬉しいが少し気恥ずかしい。

 

「も、もう怪我は平気?」

 

「そんなのとっくに治ってるよ!アンタマジですげぇな!」

 

「アンタ、じゃないよ!私はアミク。アミク・ミュージオン」

 

「アミク、か…」とスティングはやっと知れた彼女の名前を脳裏に刻み込んだ。

 

「じゃあアミクさんだな!どうやったらそんなに強くなれるんだ!?」

 

キラキラした瞳で身を乗り出すスティング。

 

「えー…聞いてもあんまり参考にならないと思うけど。強いて言えるのは一般論ぐらいだよ?」

 

アミクは自分の境遇を思い出して難しい顔をする。

旅をして戦いを経験し、無茶苦茶なギルドで揉まれながら自然と戦い方を身に付けていったのがアミクなのでどこまで参考になるか。

 

「うーん、それに君はすぐにもっと強くなれると思うよ?」

 

「…オレなんてまだまだだよ。結局アミクさんが居なきゃ、オレやられてたし」

 

アミクの根拠のなさそうな言葉にスティングは俯いた。

 

「アミクさんみたいに敵を簡単に倒せる力がなきゃ、ダメだよな…それじゃあレクターを守れない」

 

「スティング君…」

 

好奇心でやってきて自惚れた実力に頼り、レクターを危険にさらした。その挙句、無様にやられそうになり助けられてしまう始末だ。

 

情けない。

 

「むむむ…」

 

アミクは口をへの字に結ぶと視線を上に上げて考え込む。

かと思ったらスティングに目線を合わせるようにしゃがみ込み彼の肩を掴んだ。

 

「少年!」

 

「うおっ!?」

 

彼女は確信を持った力強い声でスティングに語りかける。

 

「君は絶対に強くなる!友達を見捨てないで守ろうとした君ならその素質はあるよ!」

 

「そ、それと強さは関係ないだろ」

 

気持ちだけがあっても力が身につけるわけではないはずだ。

 

「私はそうは思わないな。なんでも気持ちからだよ!病は気からとも言うじゃん?」

 

アミクは真っ直ぐにスティングを見つめる。

 

「想いは力になる。強さっていうのは誰かを倒す力だけじゃない。守りたいって心も、また強さだよ。

 君はその強さを持っている」

 

アミクはスティングに胸を指差した。

 

「誰かを守ろうとしたその心、大事にしてよ。それさえあれば、う―――っんと強くなれるから」

 

アミクも同じようなものだ。ナツ達の役に立とうと、彼らを守るために。

アミクも様々な魔法を憶え、強くなってきた。

 

「だから、焦らなくても大丈夫。

 君は、優しくて強い」

 

ニコッと安心させるように笑いかけられ、スティングは心臓が勝手に跳ねたような気がした。

顔に熱が上がり、胸が苦しくなる。ドキドキと胸から音が聞こてくるようだ。

 

「なんか…ドキドキ聞こえない?」

 

めっちゃ聞こえてるやん。

耳の良いアミクには微かにスティングの心拍音が聞こえるようだった。

 

 

「き、気のせいじゃね?」

 

なんだこれは。こんな感覚、初めてだ。

 

「スティング君?」

 

レクターが様子のおかしいスティングにキョトンとする。

 

「どうしたの…!?」

 

後ろで殺気。

 

振り返るとさっき倒したと思ってた巨大熊が鋭い爪を振り上げていた。

 

「「うわああああ!!!」」

 

スティング達が悲鳴を上げる。

 

「ダメッ」

 

アミクは咄嗟にスティング達を抱き締めた。

 

「アミクさん!」

 

あわや、凶爪がアミクの体を貫く、かと思われたその時。

 

「うおおおおりゃああああああ!!!」

 

燃え盛る炎がその熊を丸焦げにしながらぶっ飛ばした。

 

「ナツ!」

 

アミクが喜色を浮かべる。なんと、炎に包まれていたのは1人の少年だった。

ナツと呼ばれた少年は未だに燃えながら興奮したように辺り見回した。

 

「敵はどこだーーーー!!」

 

「今君がぶっ飛ばしたよ!?」

 

アミクが木にぶっ刺さっている熊を指差す。

 

「っていうか遅いよ!もうちょっとで危なかったよ!」

 

「こっちは匂いだけで来たんだ!お前みてえに音を頼りにできねえんだよ!」

 

「…ま、ありがとね。来るって分かってたから全然怖くなかった」

 

「ったく、油断すんなよ」

 

「ごめんごめん」

 

言い争いしていたかと思えば、談笑し始める2人。

そこに、確かな信頼関係があるのを感じてスティングはあの少年がもう1人の『双竜』だと察する。

 

「ス、スティング君!あの人が噂の…!」

 

「ああ…『火竜(サラマンダー)』…」

 

彼も強い。すぐに分かった。アミクと同じくらいかそれ以上に強い。

 

その2人が並び立つところを見ていると、心が沸き立つ。

こんなに強い人達が『双竜』なんだ、と憧憬を抱いた。

 

同時に、笑い合う2人を見ていると胸がモヤモヤした。

 

2人の間に自分が割り込めない、確固たる絆があるのが見て取れる。

 

それが、気に食わなかった。

 

「ん、誰だ?ハッピーみてえな奴も居るし」

 

「襲われてて助けたんだよ。そういえばそのハッピーとマーチは?」

 

「途中で評議員と衛兵呼んで来るって戻って行ったぞ」

 

「そっか、それなら安心だね」

 

そして、自分の不甲斐なさを実感した。

自分が強ければ、今のだって彼女を守れたのに。

 

でも、アミクの背中を預けるに値しているのはナツなのだ。

 

(オレは弱い…今はまだ(・・・・)

 

 

スティングは決意を固めた。

 

アミクとナツ────妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』を超えるぐらい強くなる、と。

 

アミクも言っていたではないか。自分は必ず強くなれると。

それなら、それを信じてやるしかない。

 

「でもこんなモンスター達を造っちゃうなんて、ある意味凄いよね。どんな魔法使ったんだろ」

 

「うわっ、なんだこれ!気持ち悪ぃな!」

 

彼らがスティング達のことなんか忘れたかのように話していると、また声が聞こえてきた。

 

「あのーネロロさん?どこに居るんですかー?そんないっぱい連れて歩かなくてもいいって何回言えば分かるんですか…って、え?」

 

「あ」「お」

 

1人の若い男性だ。白衣を着て研究員みたいだ。いや、ネロロの事を知ってるようだしまさか…?

 

彼はキョトンと倒れているネロロとモンスター達を見て、アミク達に視線を移した。

状況を理解した彼は顔を青ざめる。

 

「…お仲間さん、みたいだね?」

 

「な、な、なんのことですかー?」

 

「いやいやバレバレだから」

 

ナツが悪党もびっくりの悪い笑みを浮かべた。

 

「ちょうどいいじゃねぇか。おい、お前らのアジトはどこだ?」

 

「拠点もこの森にあると思うけど…。この際、それも見つけ出しちゃおうか」

 

こんなに多くのモンスターを管理するには研究所のような拠点が必要だ。それが、この森の中にあると推察されるのは当然だろう。

ネロロの仲間らしい人物と出会えたのは都合がよかった。

 

「というわけで、案内しろよ。じゃねえと、お前の髪の毛全部燃やすぜ?」

 

「うわっ、地味に効くやつ…」

 

「ひ、ひえええええ!!あっちです!!」

 

男性は尻餅をつくと、森の奥深くの方を指差した。

 

 

「あっちか!!うおおおおおお、待ってろよおおおお!!!」

 

「ま、待ってナツ!!暴れすぎないでよ!?いや、マジで!絶対重要施設だからそれ!!証拠とかもあるだろうから絶対に壊さないでよ!!

 え?魔力込めすぎじゃない?タンマタンマ、本当にヤバイって!!あ、ああああああ!!!」

 

 

 

 

森の中に巨大な紅蓮の花が咲いたのだった。

 

 

 

その後、評議員が来てネロロと研究員達は捕縛。

 

モンスター達も一旦は評議院が保護することになった。そのモンスター達がこれからどうなるのかは分からないが、自分達の関与すべきところではないだろう。

 

結局あの後、アミク達と話せる機会はなかった。

 

ナツが崩壊させてしまった研究所や半焼した森の件で評議員にこってり絞られていたせいだ。

アミクがひたすら頭を下げて謝り倒していたのをよく覚えている。

 

評議員に連れられ、森から去っていくスティングを振り返り軽く手を振ってきたのが、アミクを見た最後の記憶だった。

 

 

 

 

その出来事が、今のスティングを作り上げた基盤だ。

 

 

 

(あれからずっとアンタを想って強くなってきた。アンタの隣に立つのにふさわしい男になろうとしてきたんだ)

 

アミク達よりも強くなって、アミクを守れる存在になろうと努力してきたのだ。

 

だから、アクノロギアによって消されたと聞いたときには絶望した。

夢でもあり目標でもあり希望でもあった彼女が死んだなんて…認めたくなかったのだ。

 

失意の日々を送りながらも、レクターの存在もあってなんとか立ち直し、紆曲曲折あって剣咬の虎(セイバートゥース)に入った。

ローグとも出会い、自分が憧れた異名、『双竜』とも呼ばれるようになった。

それでも、心に空いた穴は塞がらなかった。

 

 

 

 

でも、今。

 

自分の目標と約束を果たせるまたとないチャンスが目の前にある。

 

もう会えないと思っていた、自分の憧れてやまなかった少女をこの手で倒す時だ。

 

(絶対に認めさせるんだ!!)

 

スティングは7年以上も詰まった想いを拳に乗せて、身動き取れないアミクに突っ込んで行った。

 

 

 




ここまで設定詰めるつもりじゃなかったのに、なんかとんでもない事になった…。
もっと単純にするつもりだったんです…何でこんなことになった…。

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