妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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多分、今回で決着。



(ドラゴン)四重奏(カルテット)

スティングのドラゴンフォースの力は予想以上だった。

アミク達の攻撃が通用しない。簡単に対処され、反撃を喰らってしまう。

 

「はあ!!」

 

アミクが拳を振るうも、スティングの拳が相殺する。むしろ…

 

「飛べよ」

 

白い爆発がアミクを吹き飛ばしてしまう。

耐久力に難があるアミクとはいえ、あんな軽々と吹っ飛ばしてしまうのは衝撃だった。

 

ナツと2人掛りでも軽くあしらわれて、今やスティングの独壇場だ。

 

「敵に使われるとこんなにも厄介なんだね、ドラゴンフォース!!」

 

アミクが手に音を纏わせて手刀を放つが、スティングはそれを真剣白刃取りした。

 

「これが7年間と世代の差だよ、アミクさん!」

 

スティングはそのままアミクを引き寄せ、肌が剥き出しのお腹に蹴りを入れた。

 

「がふっ」

 

胃からせり上がりそうなものを耐え、空気を吐き出す。アミクは地面を転がって服を土だらけにしてしまった。

 

「おらあ!!」

 

ナツの炎のパンチをも弾いて薙ぎ払い、ナツを突き飛ばした。

 

「ぐあっ」

 

ここまで軽快な動き。ナツ達を圧倒する立ち回り。

これが、スティングの実力だ。

 

「くっ…」

 

ナツとアミクが一旦合流したところで。

 

ヒュン!

 

スティングの口から反応できないほどの速さで光線が放たれ、アミク達の足元で爆発した。

 

 

 

 

 

医務室のベッドで眠れずにいたルーシィは観客の盛り上がりが聞こえてきて思わず上を仰いだ。

 

「すごい盛況ですね…」

 

「いったいどういう状況なのかしら」

 

ウェンディとシャルルもそわそわしている。

 

「どっちかが優勢みたいだね」

 

ポーリュシカが観客達の盛り上がりようから予想した。

 

「アミクさん達は大丈夫でしょうか?」

 

やっぱり、ウェンディは少し不安そうだ。彼女もアミク達の実力は知っているが、スティング達の実力は未知数。

ただ、他の剣咬の虎(セイバートゥース)の面子を見ると、絶対に強者ではあると確信していた。

 

だからこそ、果たしてアミク達が彼らを倒すことができるのか、と不安も少なからずあった。

もちろんルーシィにもその不安はある。

 

「…アミクとナツならば、きっと大丈夫。あの2人だもん」

 

しかし、それを押し隠し、ルーシィは心から言い切った。

 

彼らならばどんなに不利な状況だろうと思いも寄らぬ方法で勝利するに違いない。

 

そう信じているから。

 

(…だよね。ナツ、アミク…)

 

 

 

 

闘技場に空いた大穴から光が差し込み、地下を照らす。

 

その光に向かってスティングは拳を掲げた。

勝利を宣言するかのように。

 

 

(見ているか、レクター)

 

 

スティングの前には地面に倒れ伏し、ピクリとも動かないアミクとナツの姿。

 

終始スティングに翻弄された2人の結末がこれだ。

 

その場面はどう見てもスティングがアミク達を破り、勝利を収めた瞬間だった。

 

スティングは傷だらけで弱々しく横たわっているアミクに目を向けた。

その姿に心がズキリ、と痛むがそのようにしたのは自分である。

 

それに、これは必要なことだった。

 

彼女に自分の力を証明するためには。

 

(アミクさん、これがオレの力だ。ナツさんなんかよりも、オレの方がアンタの隣に相応しい)

 

この戦いは自分の力を示すものでもあったが、同時に自信を付けるためのものでもあったのだ。

 

スティングにアミク達を超える力があるという自信を。

 

それはつまり。

 

(アンタを守れるのはオレだけだ)

 

スティングはそのことを伝えたかった。

 

「時代は移りゆく。7年の月日がオレ達を真の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)へと成長させた。旧世代の時代は終わったんだ」

 

いつの間にか来ていたのか、ローグがアミク達を見下ろす高所に現れた。

 

「ああ」

 

スティングが振り向かずにローグの言葉に同意する。

 

『ああーっと!!流石にピクリともしない!凄まじい一進一退の攻防の果て、力尽きたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)かーーー!!?』

 

「ナツ…」

 

「アミク!諦めたらそこで試合終了なのー!!」

 

「どうした、立て!お前はそんなもんじゃないだろ!」

 

魔水晶映像(ラクリマビジョン)に映されているアミク達の倒れた姿。マーチ達妖精の尻尾(フェアリーテイル)は悲痛な雰囲気だった。

立ち上がらないアミク達を見て、もどかしくも悔しい気持ちになる。

 

彼らでも剣咬の虎(セイバートゥース)に勝てないのか、と絶望する。

 

「テメェら、情けねえザマ見せんじゃねえよ…!」

 

ガジルが歯嚙みする。ナツ達『双竜』を倒すのは自分だ。その前にあの小童に倒されるなど許さない。

 

『両者ダウンかー!?』

 

「立てよ!ナツ、アミク!」

 

「私達の声が届いているだろ!ギルドの想いは一つ!お前達と共にある!」

 

エルザ達も必死に声を上げた。

 

「…」

 

やはり、ラクサスは何も言わずにジッと見ているだけだ。だが、何らかの感情がその瞳に宿っているようだった。

 

 

スティングがふ、と力を抜くと彼の顔に浮かんでいた白い模様が消えた。

 

「でも、やっぱり強かったよ…ナツさん、アミクさん…」

 

そこにローグが降りて来てスティングに歩み寄る。

 

「スティング」

 

「ああ、悪ぃな。2人共やっちまって」

 

「…構わん。奴らはガジルではない」

 

「でもよ、果たせたよ。約束を」

 

やり遂げた表情で振り返ったスティング。

彼の目標でもあり夢であったことを成し遂げて満足そうだった。

 

 

「ちょーっと待てって」

 

 

そのスティングの表情が凍りつく。

 

ローグと共に慌ててアミク達の方を向く。

そこには信じたくない光景があった。

 

 

ナツとアミク。倒したと思っていた2人ががまっすぐに立っている姿が。

 

「復活なのー!」

 

「ナツー!」

 

マーチ達が飛び上がって喜び、観客達も更に盛り上がった。

 

「いってぇ~…」

 

「あたた、いっ!?腰が、腰がポキッて言った…」

 

『なんか意外とピンピンしてる―――!?』

 

2人共傷だらけでダメージもあるようだが、それでもボコボコにされたにしては元気すぎる。

スティング達は冷や汗が止まらずにはいられなかった。

 

「けど、お前の癖は全部見えた」

 

ナツが獰猛な笑みでスティングを見た。スティングは目を見開く。

 

「何!?」

 

「攻撃のタイミング、防御の時の体勢、呼吸のリズムもな」

 

まさか、今までのは自分の力量を計るための『様子見』でしかなかったとでも言うつもりか。

 

「バカな!こっちはドラゴンフォースを使ってんだぞ!!」

 

「うんうん凄かったよー。お陰でお腹がジンジンするし。一応女の子にとって大事な所なんだよ?」

 

お腹を擦りながら言うアミクの言葉は、まるで子供に対して注意するようなものだった。

 

「揺れるな、スティング。ハッタリだ」

 

ローグは動揺するスティングを窘めた。あのスティングの猛攻で少なくないダメージを負ったはずだ。まともに戦える力が残ってるはずもない。

 

「ハッタリ?ナツにそんなことできる頭脳があるのかなぁ…?」

 

「うるせぇっての!」

 

何気に辛口なアミク。

 

「例えば攻撃の時、軸足が11時の方を向く」

 

「え?10時じゃないの?」

 

「11時だよ」

 

「えー…じゃあ間とって10時半」

 

「11時だ!23時でもいい!!」

 

「一回転しとる!?」

 

「11時って言ったら11時だ!!」

 

「分かった分かった、そういう事にしておくよ」

 

「なんだそのオレが間違ってるみたいな言い方!!やんのかコラぁ!!」

 

「はいはい、ごめんなさーい私が間違ってましたー」

 

「ムキー!!久しぶりにケンカするかー!!?」

 

目の前にいるスティング達の事も忘れたかのようにケンカを始めるアミク達(どちらかというとナツが一方的に突っかかってアミクがあしらっている)。

今、まだ試合中だということは分かっているのだろうか。

 

スティング達も予想外の彼女達の行動で反応に困って見ている事しかできなかった。

 

 

当然、それを見ている妖精の尻尾(フェアリーテイル)も苦笑して呆れてしまった。

こんな時にケンカとは、随分元気が有り余っているように見える。だからこそいつも通りな彼女達に安心した。

 

「恥ずかしいぜ、ったく」

 

「ふん、なにバカやってんだか」

 

ガジルとラクサスも鼻を鳴らして悪態を吐くのだった。

 

 

「もう!うるさいなぁ、ちょっと静かにしてよ!」

 

「おわっ」

 

とりあえずヒートアップするナツを止めようと反射的に突き飛ばしてしまったのだが…。

ナツはちょうど後ろにあったトロッコに入ってしまった。

 

「あ」

 

その拍子でなのか、トロッコを止めているレバーが動いてしまい。

 

「お、おおお!?助けてぇぇぇ…うっぷ」

 

出発進行。トロッコはゆっくりと動き出してしまった。

乗り物なのでナツの乗り物酔いが発動し、トロッコの中でダウン。

 

「大変!」

 

トロッコの向かう先は薄暗い洞窟のような入り口。流石に見過ごせず、アミクは『音竜弾』を放ってトロッコを転倒させ、救出した。

少し荒っぽいが仕方ない。

 

「おおう!!?」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

トロッコから投げ出され、ぐったりするナツ。乗り物酔いのせいで力が抜け、すぐには動けなさそうだ。これでは戦えそうにない。

…スティングの攻撃より乗り物酔いの方がダメージ大きいとは、これいかに。

 

『これはどういうことだ―――!?ナツがいきなり目を回して戦闘不能になっている―――!?』

 

「な、何のマネだ…!?」

 

「いや、やらかしただけです…」

 

スティングが呆然とした表情で見てくるが、そんな目で見るなよ。わざとじゃないんですぅ。

 

 

まぁ、ナツがああなってしまったのはアミクにも責任がある。

なので。

 

 

「しょうがないね…よしっ、じゃあナツが復活するまで私が1人で相手してあげようかな。2人まとめてどうぞ」

 

スティング達を何度目かの驚愕が襲う。今度は開いた口が塞がらなかった。1人で、自分達を相手にする?

 

アミクが?あの虫も殺さないような少女が?

 

「さっきはスティングが1人で相手してくれたからね。それお礼!」

 

アミクは手招きして不敵な笑みを浮かべる。

 

『おーっと!!今度は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のアミク・ミュージオンが1対2のバトルを宣言だ―――!!』

 

「…轟いてきたでしょ?」

 

ナツの言う「燃えてきた」をアレンジしてみたが…ちょっと言ってから恥ずかしくなった。

 

「1人で、十分だと…?ふざけやがって…!!」

 

スティングが怒りからなのか、拳を握って震え始めた。

侮辱している、とでも思われたのかもしれない。

 

確かに、一見アミクの行動は無謀。さっきまでスティング1人に良いようにやられていたのに、今度はスティングとローグを2人を相手するなど舐めてるとしか思えないだろう。

 

────しかし、先程スティングがそれで圧倒してみせた実例がある。

だからありえない話ではないはずなのだ。

 

だが、スティング達にはまだアミクを甘く見ている部分があったようで、信じられないと顔に書いてある。

 

「…舐めるのも良い加減にしたらどうだ。1人でオレ達に渡り合えるはずもない」

 

ローグが忌々しそうに吐き捨てた。

だが、アミクは笑みを絶やさぬまま。

 

「だったら試してみる?────貴方達が私1人に勝てるかどうか」

 

そう言った途端、スティング達の纏う雰囲気が変わった。

彼らは再びドラゴンフォースを発動させる。

 

「ドラゴンフォースは竜と同じ力!!この世に、これ以上の力なんてあるはずねぇんだ!!」

 

拳に眩い白い光を溜めて飛びかかってくるスティング。彼の激情が、アミクにぶつけられた。

しかし、アミクの腕がスティングの拳を妨げた。

 

「本当にそうかな?…それとも、それが完全じゃないとか」

 

「くっ…」

 

バチバチ、と白い光と音がぶつかって妙な音が響くが、アミクは平気な顔だ。

 

「オレの力は完全だ!!オレはこの力で白竜(バイスロギア)を殺したんだ!!」

 

全ての人に伝えるように、訴えるように。スティングが叫ぶ。

アミクはそれに対して悲しげに唇をキュッと結ぶだけだった。

 

「…そう。なら私はこの力で────」

 

アミクの纏う『音』が更に激しく轟く。

 

「笑われて傷付いた仲間の為に、ここまで繋いでくれた仲間の為に、戦うよ」

 

そう、医務室でアミク達の闘いに想いを馳せているであろう少女────ルーシィの為に。

 

「親友のために私達(・・)は!勝ってみせる!」

 

アミクの音を纏った拳が、白い光を貫き、スティングの頰にめり込んだ。

 

「ぐおおおあ!!!」

 

殴り飛ばされるスティング。しかし、残っていたローグがアミクの背後に回り込んでいた。

 

「危ねえアミク!」

 

「後ろだ!」

 

観客席でジェット達が叫ぶ声がした。

 

もちろん言われるまでもなく気付いている。

 

「『影竜の咆哮』!!」

 

ローグが口から影のブレスを放ち。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

アミクも振り向きざまにブレスを噴射。

 

アミクのブレスがローグのそれをあっさり打ち破ってローグに直撃した。

 

「くっ…まだまだぁ!!」

 

スティングが傷だらけの体を鞭打ってアミクに突撃する。彼はその最中、手に白い光を集めた。

 

「『ホーリーレイ』!!」

 

そして無数の光の矢を放つ。まるでいくつもの流れ星がアミクに向かっているようだった。

 

「『音竜壁』!」

 

それらすべてをアミクの強固な音の壁が防ぐ。

光がアミクの張った壁を中心に広がり、アミクの姿が見えづらくなった。

 

「『音竜の譚詩曲(バラード)』!!」

 

「ぐはっ!!」

 

その光の矢が止んだ瞬間、光を突き破ってアミクが突進。強烈な体当たりがスティングを弾き飛ばす。

 

「『影竜の斬撃』!!」

 

影となって地面を潜ってアミクに接近し、アミクの背後から切りつけようとしたローグだが。

 

「ふん!!」

 

「ぐっ!!」

 

咄嗟にアミクが背後に居るローグの顔面に後頭部をぶつけた。そうした後、音を纏った足で回し蹴りを喰らわせ、遠くにぶっ飛ばす。

ぶっ飛ばされた彼は地面に落下するとそのまま地面を転がって行った。

 

「くそ…!!なぜだ!!」

 

なぜ自分達はあの少女相手に圧倒されている?なぜ2人分のドラゴンフォースの力が、ドラゴンフォースを使っていない1人の少女に押されている?

理解不能だった。旧型の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるはず彼女になぜこのような力が。

 

 

ローグは心に浮かんだ畏怖のような感情を取り払う。彼は土煙が立ち込める中、荒い息を吐きながらもアミクを睨んだ。

 

「フロッシュ…オレは…まだやれる!!」

 

アミクは腰に手を当てて余裕の表情を見せた。

 

「さあ、かかってきなさい!」

 

アミクの挑発に、雄叫びを上げながら飛びかかってくるスティングとローグ。

 

まず、スティングが拳を振るってくるがそれを叩き落として対処。アミクはそのまま拳を上に振り上げ、スティングの顎を打ち上げた。

次に、仰け反ったスティングを飛び越え、ローグが影を纏った蹴りを放ってきたので、その足を掴み、振り回して地面に叩き付けた。

そして、ローグを遠くに蹴り飛ばす。

 

「あんなに楽しそうなアミクは珍しいな」

 

『確かに、そんな気がするな』

 

グレイが明るい笑顔で闘っているアミクを見て呟くと、エルザも同意した。

 

「ああ、アミクは普段、積極的にケンカする性格ではないのだがな」

 

エルザは果敢にもアミクに飛びかかるスティング達を見た。

 

「きっと、あの2人の強い想いを感じ取って、それに応えようと心のままに力を振るっているのだろう」

 

なんかんだ、アミクも戦闘を楽しんでしまうこともある。もはやこれは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の習性とも言えるだろう。

 

「…」

 

相変わらず何も言わないラクサスだが…笑っているアミクの様子を見てラクサスも笑みを浮かべていた。

その事に本人は気付いているのか、いないのか。

 

 

「『音竜の翼撃』!!」

 

アミクを挟み撃ちにして突っ込んできたスティング達を両腕を振るって薙ぎ払った。

 

「ぐあっ!!」

 

更にアミクは宙返りしながらスティングの顎を蹴り上げ、ローグを足で踏みつぶすように地面に押し付けた。

 

「ぐ…」

 

「ふっとんじゃえ!」

 

アミクの猛攻は終わらず、『音竜の響威(フォルツァンド)』で2人纏めて弾き飛ばしてしまった。

 

「凄い…」

 

「見惚れるような攻撃の舞だな」

 

「メェーン、流石アミクさん」

 

「どんだけ強ぇんだよ、アイツ…」

 

他のギルドの者達も驚きと感心が自然と浮かび上がっていた。

それほどまでにアミクの闘いは凄まじく───そして美しかった。

 

(なんでだ…!なんでアミクさん1人に敵わない…!!)

 

スティングに焦りが生じていた。

やっと手が届くと思った彼女。その背中がどんどん遠ざかって行くような感覚がしていた。

7年の優位もドラゴンフォースも通用しない。何の強化もしていない彼女に勝てないなど────。

 

何の強化もしていない(・・・・・・・・・・)…!?)

 

スティングは気付いた。気付いてしまった。

 

アミクはこれまで、聖痕を無効化する付与術(エンチャント)以外では何の付与術(エンチャント)も掛けていない。

治癒魔法すら使っていない。

 

 

それはつまり。

 

 

強化も回復もせずにずっと自分達と渡り合って…いや、圧倒している事を示す。

 

(オレ達は…足元にも及ばねえって事なのかよ!?)

 

スティングは愕然とする。

スティングはアミクを甘く見ていた。彼女は自分が守ってやらねばならない、自分より弱い存在だと勝手に思い込んでいた。

 

それは大きな間違いだった。

アミクはスティングの庇護下に収まるような器ではなかったのだ。

 

「それっ!!」

 

アミクは音を凝縮させて音の塊を作ると、それをスティング達に放った。

それは巨大な衝撃波となって破裂し、スティング達を巻き込む。

 

しかし、それにもめげずにボロボロのスティング達は立ち向かっていく。

 

「諦めてたまるかぁっ!!」

 

たとえ、アミクがどれほど強大でもスティングは負けるわけにはいかなかった。

レクターとの約束の為にも、自分の誓いの為にも。

 

スティングが大きく息を吸い込むと、スティングの口に白い光が集まった。

 

「『白竜のホーリーブレス』!!」

 

闘技場の床を破壊した威力のブレス。まともに喰らえばアミクとて少ないダメージではいられまい。

アミクも対処しようと動き出す。

 

 

しかし。

 

 

「『火竜の咆哮』!!」

 

真っ赤に燃え盛る炎の奔流が白い光を焼き尽くした。

 

 

「くっ…!!」

 

焼き付く痛みを感じながら後ろに下がってアミクの方を見ると、彼女の隣に桜髪の少年が立っていた。

 

 

「お前だけ闘うなんてずりーぞ!!」

 

「おかえり、ナツ。ちょっと遅かったね」

 

「うるせ」

 

ナツが乗り物酔いから回復完了である。

 

『アミクと剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』による激しい戦闘が繰り広げられていましたが、ここでナツ・ドラグニルが復活――――!!』

 

再び会場が湧き立った。対照的にスティング達に表情は苦々しげなものになる。

アミク1人相手でも苦戦を強いられたのだ。ナツも加わると敗色は濃厚。

 

だが、引けない。引くわけにはいかない。

 

「2人共強いから困ってた所だったんだ」

 

「じゃあもう心配いらねえな。オレがどっちもぶっ飛ばしやるからな!」

 

自信満々なナツが随分と勇ましいことを言う。

ナツらしい。

 

「ほら、来いよ。第三世代の力とやらを見せてくれるんだろ?」

 

「そのくだりはもう過ぎたと思うけど…」

 

ナツが手招きして挑発する。

 

「「うおおおおおお!!!」」

 

引き下がれない2人はアミク達に向かって駆け出した。

たとえそれがどれほど無謀なものだったとしても、彼らは諦めない。

 

 

背中合わせになるアミクとナツ。

ナツの真正面からはスティングの拳が迫り、アミクの前では影を纏った手を振ろうとするローグがいる。

 

「『火竜の翼撃』!!」

 

アミクが頭を下げると、即座にナツが両腕を振り払い、2人を上空へと打ち上げる。

 

「『音竜弾』!!」

 

アミクは追撃に音の弾でスティング達を狙い撃った。

 

 

「がああ!!」

 

衝撃波の痛みで顔を歪めながらも、スティングとローグは態勢を整えて落下してくる。

 

「『影竜の咆哮』!!」

 

仕掛けてきたのはローグ。影のブレスをアミク達に向けて放つ。

 

「『音竜の斬響(スタッカート)』!」

 

そのブレスを切り裂いてしまうアミク。更にその後ろからナツが飛び上がって、ローグの近くまで来ると炎を纏った蹴りで壁に叩き付けた。

 

「ローグ!」

 

「『音竜波』!!」

 

スティングが思わずローグの方を向いてしまった隙を突き、彼に接近したアミクが直に衝撃波を喰らわせた。

 

呻き声を上げながら地面に落下するスティング達。

 

「くっ…まだ、まだぁ!!」

 

それでも、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)持ち前のタフさで立ち上がり、再び向かってきた。

 

スティングの蹴りをアミクの足が防ぎ、ローグの拳がナツの腕によって妨げられる。

ナツが軽く頭を傾けると、その空いた空間を縫って、アミクが振り向きざまに肘打ちをローグに決める。

代わりにナツは回し蹴りをスティングに打ち込んだ。

 

息の合ったコンビネーション。

 

「敵もさるもの…諦めん。見事な程に」

 

「どちらもたいしたものです」

 

メイビスとマカロフも素直に敵であるスティング達を称賛する。

 

「しかし、それ以上にナツとアミクの連携は流石…としか言いようがありませんね。

 互いに長い年月を共にしたパートナーとも言える存在。互いが互いを信頼し、その者の考えが分かっているからこそ為せる技です」

 

勿論スティングのコンビネーションが脆弱というわけではない。ただ、アミク達のはスティング達のそれを遥かに超えていただけの話だ。

 

「つ、強い…」

 

「そりゃあ、ナツとアミクだもの!」

 

「あの2人が居れば最強なの」

 

マーチ達も誇らしげに胸を張る。彼らこそずっと前からアミク達の力を目にしてきたのだ。誰よりもアミク達の実力を分かっているつもりである。

 

 

アミクがスティングを殴りとばすと、スティングは仰け反りながらもすぐさま白いブレスを放射。

 

「はぁっ!!」

 

薙ぎ払うようにブレスを振るうが、アミク達は軽く躱して逆にアミクのブレスがスティングを襲った。

その間に、ナツはローグに炎の塊を放ってぶっ飛ばしていた。

 

スティングとローグは互いに遠く離れていない場所に倒れ込む。が、フラフラと起き上がった。

 

 

何をやっても歯が立たない。こうなればもうアレしかない。

覚悟を決めたローグが叫んだ。

 

「スティング!!」

 

ローグが腕を思いっきり引き絞ると、拳に影の力が凝縮されたエネルギー球が生み出される。

 

「おう!!」

 

ローグの意図を察したスティングも同じようにして白い聖なる光のエネルギーを作りだした。

 

それらは同時にどんどん大きくなっていく。魔力の質が変わる。二つの魔力が融合を始めているのだ。

 

 

合体魔法(ユニゾンレイド)…)

 

本当に息の合った者達でなければ一生を掛けても習得できないとも言われる強大な魔法。

コンビである彼らだからこそできる芸当だろう。

 

 

スティング達も決死の表情で魔力を融合させている。この一撃に全てを賭けるつもりのようだ。

 

「アミク!!その魔法は危険なの!」

 

「ナツ―――!!避けて―――!!」

 

マーチ達が必死に叫んだ。合体魔法(ユニゾンレイド)の力を知っているマーチ達だからこそ心配になったのだろう。

 

一瞬、スティング達の魔力が消えたかのように見えた。

先ほどまで巨大な存在感を放っていた2人の魔力が消失したのだ。

 

いや、違う。完全に融合したのだ。

光と影。本来ならば相反するものであるはずのもの。

その二つが混じり合わさって、未知なるエネルギーが生まれる。

 

 

とてつもない、強大で破壊力満点な力だ。

 

 

 

 

 

スティングとローグが同時に拳を突き出した。

 

「「『聖影竜閃牙(せいえいりゅうせんが)』!!!」」

 

光と影が混じった膨大なエネルギーが放たれる。それは真っ直ぐにアミク達に向かってきた。

 

 

流石の威力だ。

 

見ているだけでも凄まじい破壊力を持っている事が分かる。

 

(マーチ…ルーシィ…)

 

アミクは自分達の様子を見ているであろうマーチ達に想いを馳せた。

 

 

 

 

「ナツ!」

 

「アミク…」

 

闘技場に向かう廊下でアミク達はそれぞれの相棒に呼び止められた。

 

「ハッピーとマーチ?どうかしたのか?」

 

「別に」

 

「ただの見送りなの」

 

「そっか」

 

呼び止めたのはそっちだろうに押し黙ってしまう二匹。

アミク達も特に何を言うでもなく「行ってくる」と闘技場に向けて歩き出す。

 

だが、途中でアミクが足を止めた。

 

 

「────大丈夫だよ。何も言わなくても」

 

ハッピーとマーチがハッとなる。

 

「2人の想いは最初からちゃんと受け取ってあるから」

 

言葉は交わさずとも、気持ちは通じ合える。

アミク達だから、マーチ達の声に出さない言葉も分かっている。

 

それが、『相棒』であり『家族』だから。

 

「ああ、だから心配するなよ、相棒」

 

ナツもハッピー達の方を振り向いて笑みを浮かべた。

マーチは嬉しそうに顔を綻ばせ、ハッピーは涙目になった。2人は同時に人差し指を立ててそれを掲げる。

 

「いつでも、どこに居たって見守っている」というサイン。

 

アミク達も彼らに同じサインを返し、スティング達の待つ決戦場へと歩んでいく。

 

その背を見守るマーチとハッピーの手はいつの間にか繋がれていた。

 

 

 

だからこそ、アミク達も彼らの力に応えなければ。仲間達の想いの分も込めて。

 

 

 

「ナツ。相手が合体魔法(ユニゾンレイド)でくるなら、こっちも相応のものでお返ししてあげるのが礼儀じゃないかな」

 

「そーだな」

 

アミクとナツは目線だけで頷き合い、同時に拳を引き絞った。

 

アミクの音とナツの炎が混じり合う。

燃え盛る『炎』の『音』が増幅する。

 

『な、あ、アレはまさか…!!』

 

『フム…アミクちゃん達の方も合体魔法(ユニゾンレイド)を発動しようとしているみたいだね』

 

まさかの展開に実況も観客達も驚愕で心が満たされた。

 

そう、スティング達にできて、アミク達にできないわけがない。アミク達の絆も誰にも負けない自信があるから。

 

『炎』と『音』が一つになった。

 

 

スティング達に負けられない理由があるように、アミク達にも負けられない訳がある。

 

『ナツ、アミク。信じてるよ。ギルドに入った時からずっと』

 

医務室でそう言って笑ってくれたルーシィの為にも。

 

今も人差し指を立てて見守ってくれている仲間達の為にも。

 

 

────力だけでは決して破れない壁がある。

 

それは────

 

 

 

想いの力。

 

 

 

 

膨大な魔力を放ちながら向かってくる異質な魔法を見据え、2人は同時に拳を突き出す。

 

「「『火炎音響滅竜拳』!!!」」

 

ナツとアミクの想いだけでは足りないほどの強大な魔法が放たれた。

 

 

轟音を巻き散らす業火は聖なる光と深淵なる影の混合エネルギーを砕き、驚愕のあまり言葉も出ないスティングとローグ────剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』をも呑み込んだ。

 

 

あまりの威力に地下の壁が崩壊し、向こう側まで突き抜けてしまった。

 

 

その拍子に魔水晶映像(ラクリマビジョン)が壊れてしまったらしく、観客達はしばらく様子が分からなかった。

 

そして復旧した魔水晶映像(ラクリマビジョン)に映っていたのは。

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の…『双竜』…底が、知れない…)

 

フラフラと倒れるローグ。

 

 

(レクター…強すぎるよ…ナツさん…アミクさん…)

 

膝を付き、ゆっくりと地面に伏すスティング。

 

 

剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』が倒れた。

 

 

そして────

 

『こ、これは…立っているのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』―――!!剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』、破れたり―――!!』

 

今までのを超えるかと思えるくらいの大歓声が轟いた。

 

 

『勝者、妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!ここで再び1位に躍り出た―――!!』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)、10P加算で45P。剣咬の虎(セイバートゥース)は44P。

 

1P差。

 

スティングは思い出していた。2日目の競技パート、戦車(チャリオット)で試合を投げだした時、ガジルに言われた言葉。

 

 

『その1点に泣くなよ、ボウズ』

 

 

たったの1点。されど1点。

 

このほんの少しの差が、酷く大きく感じた。

 

 

黙って地面に伏しているスティング達に近付くアミクとナツペア。

 

 

アミクは2人の前に立つと、そっとしゃがみ込み彼らの頭を撫でた。

 

「強かったよ、2人共」

 

現在はアミクよりは年上のはずなのに、子供をあやすような対応。

 

実際彼らは自分の予想より遥かに強かった。アミクもナツも、素直に舌を巻く思いだった。

 

 

敗因は、彼らの想いがアミク達の想いの力に届かなかった。それだけの事。

 

 

「…スティングも、友達を守れるくらい強くなったんだね」

 

アミクの口から飛び出したその言葉に、スティングは目を見開く。まさか…。

 

「言ったでしょ。君は絶対に強くなるって」

 

(思い出して、くれたのか…)

 

今更の話だが。

 

 

ただ、スティングの熱い想いが籠った瞳を見ていたら過去にあった出来事を思い出しただけだ。誰かを守ろうと強い意志を籠めた瞳の記憶が掘り起こされたのだ。まさか、あの時の子供が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だったとは思わなかったが。

 

 

ナツはアミクの後ろから二カッと満面の笑みで話しかけた。

 

「また戦おうな」

 

本当に楽しそうな笑み。この戦いが彼にとって最高に良かった事を表していた。

 

「つーか、もうちょっと闘いたかったぞ!アミクが1人でどっちも横取りしやがって!」

 

「いや、それはナツが酔ってたから…ごめんて」

 

ちょっと不完全燃焼なナツと言い合いしながらアミクは皆が待つ所へと向かっていったのだった。

 

 

(完敗だ…ガジルも…アミクとナツと同じくらいの戦闘力だとしたら…オレはどれだけ思い上がっていたんだろう…)

 

 

ローグはまだ戦闘すらしていないガジルを想い、無力感に打ちひしがれたのだった。

 

 

 

 

────!!

 

 

 

「!!」

 

 

アミクはピクッと耳を立てて立ち止まった。

 

 

「どうしたアミク?」

 

ナツが不思議そうな顔で聞いてくる。

 

 

「何か、聞こえない…?」

 

 

「そうか?」

 

 

いや、確かに聞こえた。どこか懐かしいような、厳かな声。

 

威厳と迫力に満ち溢れた、力強い声。

 

そう、それはまるで────

 

 

 

ドラゴンの声のような。

 

 

 

────!!

 

 

 

 

(…!!)

 

また聞こえた。

 

この声の出所は…下?

 

 

この地下よりも更に下?もっと奥深くの地下に一体何が…何者かが、居る?

 

 

アミクの脳裏に様々な思考が入り乱れる。

 

───ジェラールの言っていた謎の魔力。

 

───地下から聞こえる人とは違うような…ドラゴンのような声。

 

何か、関係している?

 

 

 

 

アミクは何か大きなものが動き出している、そんな気がしてならなかった。

 

 

 

漠然とした不安を抱かずにはいられなかった。

 

 

 

一体この会場…大魔闘演武には何が隠されているのだろうか。

 




ナツにも活躍させようと途中で復活させました。

ここまででやっとアニメ一期分終了です…(アニメオリジナルを除く)
ここまで読んでくださって皆様に感謝の言葉をお送りしたいと思います!ありがとうございます!

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