「ナツ。やったね」
「ああ。オレ達2人で最強コンビだ!」
アミクとナツはパァン!と思いっきり手を打ち合わせた。お互いに対して健闘を称え合ったのである。
「ナツ!」「アミク!」
ハッピーとマーチが飛んでやってくる。アミク達が来るのを待ち切れなかったらしい。
「やったね、ナツ!」
「アミクもお疲れ様なの」
ハッピーはナツとハイタッチを交わし、マーチはアミクの胸に収まった。アミクは彼女を優しく抱きしめる。
「早くルーシィに教えてやんねえとな!」
「そうだね。ルーシィも吉報を待ってるだろうし」
アミク達が廊下で話していると、グレイとエルザもやってきた。
「やったじゃねえか。ナツ、アミク」
「へへ、まーな」
「お、珍しくグレイがナツを褒めた!」
珍しいこともあるものだ、と目を輝かせていると。
「途中無様に寝転がってたけどな!」
「アレはアミクのせいで酔っただけだ!アレさえなければオレ1人でも勝ってたしー!」
「どうだかな」
「今ここで証明したっていいんだぞ、コラァ!」
いつも通りの言い合いが始まってしまった。やれやれ。
『流石だったよ、アミク』
『ウル。ありがと』
『まさか1人であそこまで圧倒するなんてね。貴方の成長が嬉しいよ…』
『なんで保護者面してんの…』
ウルもこっそり祝ってくれた。
「今日は素直に褒めるぞ2人とも。お前達は大したものだ」
エルザも誇らしげな表情だ。いや、エルザは割と素直に称賛してくれてると思うのだが…。
「そうか?」
「どーも、ありがと」
「照れるな」
エルザがナツの頭を引きよせて自分の鎧に打ち付けていた。ナツが「カハ―――ッ!」と悲鳴を上げる。
何か久しぶりに見たなこの光景。
そこに、重みのある足音が聞こえてきた。
「ラクサス!」
「よぉ」
ラクサスがわざわざ来てくれたのか。珍しい。
「どうしたラクサス。何か用か?」
「用がなきゃ来ちゃいけねえのかよ」
エルザの言葉を鼻で笑うラクサス。
「オレだって同じチームだ。仲間の勝利を称えに来ることがそんなにおかしいか?」
アミク達は目が点となった。
まさか…ラクサスの口からそんなセリフが飛びだすとは。
「ほんと、お前…丸くなったよなぁ…」
グレイがしみじみと言うと、ラクサスは不機嫌そうに眉をひそめた。
気を取り直したアミクは嬉しそうに顔を輝かせる。
「私、どうだった?頑張ったでしょ!」
得意げに胸を張ると、ラクサスは呆れたように「ふう」とため息を吐いてアミクの頭を撫でた。
「はいはい、良くやったよ、お前は」
「む、なんかテキトー」
確かにぞんざいな態度だが、ラクサスの表情が柔らかくなっているのをエルザとウルは見逃さなかった。
「最終日のサバイバル戦に備え、明日はゆっくり休んでおけよ」
「最終戦か…次こそきっちり決めてやるぜ!」
『その意気だ』
「まずは優勝!そんで、アミクともグレイともエルザとも、そしてラクサスとも勝負だ!」
「もう、気が早いんだから」
もう優勝した気になっている。どんだけ戦いたいんだ。
「ふふ、良いだろう」
「相変わらずだな」
「…ふん」
いつも通りのナツにエルザ達も顔を緩めたのだった。
「ま、いいや!早くルーシィに知らせに行こう!」
●
「ただいま戻りましたー!」
アミク達が医務室に入ると、そこにはウェンディとシャルル、エルフマンとエバーグリーン、ポーリュシカ、そして。
「お疲れ様」
ルーシィが居た。
「結果聞かねえのか?」
ナツが聞くと、ルーシィは花が咲くような笑みを浮かべた。
「言ったじゃない。ギルドに入った時から信じてるって」
アミク達は照れたように頰を染めた。
「でも、まだ終わりじゃないよ。優勝まであと一歩!」
アミクは天井に向かって拳を突き上げた。
ゼロから始まったアミク達の大魔闘演武。
罵倒され、傷つきもした。
でも、みんなの頑張りがここまで繋いでくれた。
後はこのまま突っ走るのみ。
「ナツ、言ってたもんね。0点から逆転するんだって。涙は優勝したときのためにとっておこうって」
「そうだ。登ってやろうじゃねえか!オレ達に諦めるという言葉はねえ!」
ナツもトップを見据えているかの如く、上を見上げた。
「目指せ!3000万J!」
「俗っぽいよ!?」
いつの間にか居たマカロフも意気込む。アンタ戦わんやろ。人任せで金手に入れようとしてやがる。
「目指せ!!フィオーレ1!!」
『おおおお!!!』
ナツに続いてアミク達も声を上げ、ボルテージを上げたのだった。
●
その後。
アミクは一旦みんなと別れてある場所に行っていた。
「…闘技場の下にこんな場所があったなんてね」
薄暗い中を目を凝らし、不安定な床に注意しながら進む。
冷たい岩肌が目立つ壁。天井から伸びるつららのような細長い岩。
まるで洞窟だ。いや、洞窟そのものかもしれない。
なぜアミクがそんな所に来ているのか。
先ほどの妙な声の出所を調べる為だ。
人間ではない、力のある声。言葉の内容までは聞き取れなかったが、あの感覚は…ドラゴンのようなものだった。
オーディオンの声をずっと聞いていたからこそ、似たようなものを感じたのだ。
さて、闘技場に来たアミクは闘技場全体をエコーロケーションで超音波を反射させ、地形を調べた。
勿論、地下奥深くまでだ。
簡単に脳内マップを作ると、ちょうど地下へと続く入り口を見つけたので誰にも見つからないように侵入。
洞窟のような場所を進み、さらに下まで潜っていっているところだった。
(一体ここは…なに?)
大魔闘演武の会場であるドムス・フラウは山かとも思える巨大な岩の上にある。
アミク達は途中でスティングの開けた大穴に落ちて戦ったが、その時は岩の中で戦ったと言えるだろうか。
そしてこの場所はそのさらに下、つまりクロッカスの地下なのか…?
(別に地下があること自体は珍しくはないと思うけど…あの『声』が気になる)
もう今は聞こえないが、確かにあの時下の方から聞こえていた。聞き間違えなどではない。
だとすると、この辺りに声の正体がありそうなものだが…。
「う〜…やっぱ1人で来るんじゃなかったかな…ちょっと怖いよ…」
余計な心配をかけまいと1人で来たが、少し無謀だったか。暗い場所で1人でいるのは自然と恐怖心が湧く。
「幽霊でそうだなぁ…あ、メイちゃんみたいな幽霊なら大歓迎だけど」
気を紛らわすために独り言を呟きながら進んでいたアミクは、その光景を目にして思考が止まり、声も失った。
「…なに…これ…」
アミクの瞳に映る物。
それは骨だった。
骨は骨でも人間のものではない。
動物…と言うには少々そぐわない気がする。
まず、とても大きい。牛なんか子猫にも等しいほどのサイズだ。
頭部から伸びている尖ったものは…角?
口からは鋭い牙が生えており、固い物を容易く噛み千切れそうだ。
強大で大きな存在感を放つ生物。
かつて、アミクを育ててくれたその生物の名は。
「ドラゴン…?」
この形はドラゴンで間違いない。
ドラゴンの遺骨が、見える範囲でも沢山存在していた。
信じられない。なぜ、会場の地下にこのようなものが…。
アミクは青ざめながらドラゴンの骨に近付いて軽く触ってみる。
変色した骨は手触りが悪く、土だらけで手が汚れてしまった。骨もボロボロと少し欠けてしまう。
「大分古い物みたいだね…」
万が一にも考えていた、この中にオーディオンが居る、ということはなさそうだ。
でも、こんなに沢山のドラゴンの死体が会場の地下にあるとは。
「…竜の墓場…」
そう称してもいい場所だ。
その時。
『無念だ…ああ、恨めしい…』
「!!?」
アミクはツインテールを逆立たせてビクゥ、と飛び上がった。
「誰!!?」
慌てて身構えて周囲を見渡すもあるのは骨ばかりで、誰もいない。
確かに、誰かの声が聞こえたのだが…。
「あ、あのー…誰か居るんですかー…?」
恐る恐る聞いてみるも、返事は返ってこなかった。
「…」
ゴク、と唾を飲む。
『…ワシは…人間に…おのれ人間め…』
また聞こえた。地に響くような、頭の中に響く様なこの声は…。
「ドラゴンの声…?」
やっぱり、オーディオンの声と雰囲気が似ている。
でも、その声の主が見当たらない。一体どこからこの声が。声自体はそう遠くない所から聞こえるのに。
『ワシは…翡翠の竜…』
『竜と化したあの男が…』
『竜の王が生まれた戦争…』
独り言のようにバラバラの内容を述べる声。
誰かに聞かせるためではなく、ただ深いことは考えず、思い付いたことだけを口に出しているだけのように思えた。
何か色々気になるワードも聞こえるが、さっぱり意味が分からん。
アミクは思案してある事を思いつく。
(…此処には竜の死体がある…もしかして、竜の魂とか残留思念とかが残っているのかもしれない…)
ドラゴンの幽霊のようなものか。
ウルやメイビスのような存在も居るのだ。その可能性が限りなく高い。
『人間の女子が喰いたい…』
「ひっ、変質者!?」
このドラゴン、怖っ。悪いが亡くなっていて良かったかもしれない。
生きてたらアミク、食われかねなかったし。
「…ひとまず、ナツ達も連れて来よう」
ドラゴンに育てられた者同士、見せておいた方がいいだろう。アミク1人ではこの情報は抱えきれない。
●
「おい、今までどこ行ってたんだよ。それに帰ってきたと思ったら急に付いて来いだなんて」
「一体何があるんですか?アミクさん」
「さっさと説明しやがれ」
ナツ達が騒いでいた酒場に帰ってきたアミクは「見せたいものがある」とラクサスを除く
「見れば分かるよ…」
先導するアミクは多くを語らずに歩いていく。説明するより見せた方が早いと判断したためだ。
「何でオレ達だけ」
「
「だろうな」
ついでにちゃっかり付いてきているエクシード達。
「って言っても、野次馬も居るけどね」
「ミーハーなの」
シャルルとマーチが後方に視線を向けると、ルーシィとグレイが歩いている姿が見えた。
彼らも付いてきてしまったのだ。
「馬ってヤツがあるか」
「だって気になるじゃない」
『闘技場に下にこんなものがあったなんてな…』
ウルも御在宅です。
でも、ルーシィも動けるぐらいに元気になってよかった。アミク達が全力で治癒魔法を掛けたので治りも早かったようだ。
「…ここ、だよ」
記憶を頼りにやっと辿り着いた。
竜の遺体が横たわる場所。便宜上『竜の墓場』と称する。
その光景を見たナツ達は息を飲んだ。
「これは…!?」
「何だコリャ…」
「動物の…骨」
「コイツは、まさか…」
「
ガジルとナツはすぐに気付いたらしかった。ネーミングまで被るとは。
ナツ達はドラゴンの骨を見上げながら衝撃を押し隠せずにいた。
「これ…全部ドラゴンの骨!?」
「凄い数」
「ドラゴンの存在を確定づける場所か」
「世間が知ったら大スクープ間違いなしなの」
確かに、この場所はドラゴンが存在したという証拠になる。しかし、今までにこのような場所があるとは聞いた事がないが…。
よほど、うまく隠されてきたのか、誰にも気付かれなかったのか。
「何なんだここ」
「さぁ…分かるのは、ここで沢山のドラゴンが死んだって事だけ…」
「ここで何かあったのかしら」
「もしかしてこの中にイグニールやオーディオンが…」
「ハッピー!」
ハッピーの言葉をシャルルが鋭く咎めた。ここでその発言は縁起でもない。
「あ!ごめん…」
「ううん、大丈夫。この中にはいないよ」
アミクは埃と土まみれでざらざらとした感触のする遺骨を撫でる。
「見た感じ、ここの遺骨はずっと昔のものだよ」
「オレ達のドラゴンが姿を消したのは14年前だからな。時期が合わねえ」
ガジルもアミクに賛同する。骨の老朽具合からはとても14年以内のものとは思えないのだ。
「あ、『ミルキーウェイ』…」
「ウェンディ?」
ウェンディが何かを思い出したように口から言葉が漏れた。
「『ミルキーウェイ』です。ポーリュシカさんから教えてもらった滅竜奥義の1つ」
「あ、そういえば2つあったんだよね」
1つはシェリアとの闘いでも見せた『照破・天空穿』。もう1つが習得できなかったという『ミルキーウェイ』。
「天の川へと続くドラゴンの魂の声を聴け────私…てっきり攻撃系の魔法かと思ってたんですが、もしかしたらこの事なのかも」
ドラゴンの魂の声を聴く…。さっきアミクがやってたことでは…?
「『ミルキーウェイ』───魂となったドラゴンの声を聴く魔法かもしれません」
「あのー私、めっちゃ聴こえてたんですけど…」
アミクが恐る恐る申告すると、「え?」とアミクに視線が集まった。
「そのドラゴンの魂の声がさっきから聴こえてて…」
「聴こえちゃってるの!?」
「おいおい、何でもありかよその耳…」
「ギヒッ、イカれてるぜ」
『まぁ、私の声が聞こえるくらいだ。聴こえても不思議ではないな』
ある意味ウルも幽霊みたいなものだしね。
「聴こえるんだったら早く言えよな!そうなら話が早ぇじゃねえか」
「そのドラゴンから話を聞くこともできるんですか?」
「それが、お相手さんの言ってる事は纏まりがないし、よく分かんなかった。しかもこっちの声は届いてないみたい。私じゃ会話は不可能だよ」
「一方通行ってことなの」
「魂は残ってるけどはっきりとした意識があるわけじゃないんじゃないかな。思念だけが残ってる感じ」
このドラゴンも自我のようなものは薄く、生前で印象的だった事柄を口に出しているだけなのだろう。
「私は聴くだけだけど、ウェンディの魔法は会話もできるかもしれない。試してみてよ」
「はい!」
過去に何が起こったか分かれば大量のドラゴンの死体についても知ることができるはず。
「ドラゴンの魂から話を聞ければ、もしかしたら居なくなった私達のドラゴンの事も何か分かるかもしれません」
ウェンディはその辺から長い棒きれを持ってくると、地面にお絵描きを始めた。
「お絵描きタイムなの?」
「ち、違います!魔法陣を描いてるんです!」
マーチが呆れると、ウェンディが赤くなって否定した。確かに、ウェンディが描いているのは複雑な模様だ。
『ミルキーウェイ』を発動させるのに必要なものらしい。
『ほう、確かに高度な魔法陣だな』
「ちなみに、今も何か聞こえるのか?」
ウェンディが描くのを見ていたグレイがアミクに目を向けると、アミクは軽く耳を澄ませた。
「…『ボンキュッボンの娘の方がまいうー』だって」
「何よソレ!?」
「よっぽど未練だったのかな…」
「何か俗っぽいドラゴンだな…」
そのドラゴンの性格を何となく察してげんなりしていると、ウェンディが魔法陣を描き終えた。
「これでよし!やっぱり、攻撃用の魔法だと思ってたからここの文字が違ってたんだ…」
何にせよ、ウェンディはもう1つの滅竜奥義も習得したことになる。
「皆さん、少し下がってください」
ウェンディの言葉に従ってアミク達は少し魔法陣から離れた。
一方、ウェンディは魔法陣の真ん中で膝を付くと、呪文を唱え始めた。
「さまよえるドラゴンの魂よ、そなたの声を私が受け止めよう────『ミルキーウェイ』」
魔法陣から眩く輝く緑色の光が溢れた。光は光の柱となって上へと上がっていき、周りを照らす。
すると、骨がカタカタと震え始めた。軽くホラーである。
その内「ヨホホホホ~!!」とか笑いながら動き出しそうだ。
「ガ、ガイコツが…!」
「大丈夫なのか、ウェンディ!」
「ドラゴンの魂を探しています。この場にさまよう残留思念はとても古くて…小さくて…」
「…それなら、『声』はあっちの方から聴こえてくるけど」
アミクが声が聞こえる方に指を指した。
「…はい!見つけました!」
ビンゴ。上手く探知に引っかかったようだ。
緑の輝きが一層強くなる。
魔法陣の上に光が収束して漂い始めた。
「あれが魂なのか!?」
「こ、声が!声が強くなってきてる!」
魂が形になってきている証拠なのか。光が強くなるのに比例して、声も段々とはっきりしたものになってきた。
『…誰だ…ワシを起こす輩は…』
「ウェンディ!大丈夫なの!?」
アミクが声を掛けても、聞こえてないかのようにウェンディは答えない。目を閉じてじっと集中しているみたいだった。
「集中してるみたいなの」
集まった光は益々強く輝き、そして────
手が現れた。
「わああっ!!?」
思わず悲鳴を上げてしまう。
「これは…」
『まさか…』
手だけではない。光が形を変え、一部一部を構成していく。
そうして、光は巨大な生物へと変貌した。
広がった大きな翼。鋭い牙が並ぶ口。引き締まった体躯。
その姿はどう見ても…。
(ドラゴン!!!)
ドラゴンが雄叫びを上げた。
『あああああああああ!!!』
流石に肝を抜かれてアミク達は飛び上がった。
「あーっはっはっはっ!!人間の驚いた顔はいつ見ても滑稽じゃのう」
ドラゴンの豪快な笑い声が竜の墓場に響き渡った。
その声は、間違いなくさっきまでアミクに聴こえていた声であった。
ジルコニスさん登場です。