突然、大きな体躯をしたドラゴンが現れ、びっくり仰天したアミク達であったが、そのドラゴンが急に笑い始めたのを見てポカーンとなっていた。
「我が名はジルコニス、翡翠の竜とも呼ばれておった。ワシの魂を呼び起こすとは…天竜グランディーネの術じゃな?どこにおるか…」
辺りを見回したドラゴン────ジルコニスだったが、魔法陣の中心にいるウェンディを見つけると、顔を近づける。
「かーわええのう!こんなにちんまい
大きな顔がウェンディに近付くと、まるでウェンディが食べられそうになっている。
…そういえば女の子を食べるのが好きとか言ってたような。
「ちょっと!ウェンディから離れてよ!」
アミクが慌てて声を上げると、ジルコニスの視線がこちらを向く。
「ほぉーう!これはまたかわええ娘じゃのう!しかも凄く美味しそうじゃ」
「ひぇっ」
矛先がこっちを向いた。ジルコニスがアミクに顔を近づけると、今度はナツが怒鳴る。
「おいコラァ!アミクに近付くな!」
「イヤじゃ。この娘はワシが食う」
「た、食べないでぇ、美味しくないよー…」
ナツの後ろに隠れてプルプル震えるアミク。
睨み合いを続けるナツとジルコニスだったが、ジルコニスが唐突に「冗談に決まっておろうがっ!!」と笑い飛ばした。
「バカな種族よ!ホレ、幽体に何が出来ようか!?あはははっ!!」
ジルコニスの指がナツをすり抜けた。魂だから直接こちらに危害を加えることはできない、と。それなら安心だ。
「なんなの?このふざけた人……」
「人じゃねえ、ドラゴンだ」
「魂らしいがな」
『しかし、アクノロギア以外でドラゴンにお目にかかれるとはな』
随分とお茶目なドラゴンであるようだ。高貴な雰囲気があったオーディオンや蹂躙することしか考えていなかったアクノロギアとも違う、個性的なドラゴンだ。
「我が名はジルコニス。翡翠の竜とも」
「さっき聞いたわー!!」
このドラゴン、ボケてるのか?
「やはり、お主からは不思議な匂いがするのう。落ち着くというか、食欲をそそられるというか」
「食欲って…」
ジルコニスが再びアミクに顔を近付けて匂いを嗅ぐ。というか幽体でも匂いは嗅げるんですね。
匂いを嗅いでいた彼は何か思い当たったのかハッとした表情になる。
「…まさか『竜の巫女』の…」
ジルコニスは何かを言いかけ、「いや、穿ち過ぎか…」と首を振った。
…何なのやら。
「それ以前に…懐かしい感覚がするのう。その雰囲気…音竜オーディオンのものと似ておる」
出てきたオーディオンという名にアミク達はハッと顔を見合わせた。そういえば彼はグランディーネの事も知っているようだった。
もしかしたらオーディオン達について何か分かるかもしれない。
「オーディオンの事知ってるの?」
「まぁな。このワシが散々求愛したにも関わらず靡かなかった生意気なヤツよ」
「ぶっ!求愛って…」
アミクが思わず噴き、ルーシィ達も苦笑いした。流石は親と子。変な所で似通っているようだった。
そこで、ナツが堪え切れずに聞く。
「おい!イグニールとかオーディオンとかどこにいるか知ってんのか!?」
「知らん知らん。もう死んどるのではないか?」
「ふざけんなー!!」
素っ気ない返答。望むような返事が得られず、気落ちするアミク達だったが聞きたいことは他にもある。
「それじゃ、貴方は此処で何があったのか知ってるの?」
マーチが問うと、ジルコニスが顔を向ける。
「此処にはドラゴンの亡骸がいっぱいあって…」
「その真相を知るためにお前の魂を呼び起こしたのだ」
「眠ってたところ悪いけどなの」
しかし、ジルコニスから返ってきた言葉は辛辣だった。
「人間に語る言葉はない。去れ!」
「オイラ猫だよ」
「そうだな…あれは400年以上昔の事だ」
『いいのか、それで…』
「ずいぶんとアバウトな自分ルールだな」
あっさり教えてくれるところを見ると、元々誰かに話したかったのかもしれない。
今までずっと魂のまま彷徨っていて寂しかったのだろうか。
「かつて竜族はこの世界の王であった。自由に空を舞い、大地を駆け、海を渡り繁栄していった。この世の全ては竜族のものであった。人間等は、我々の食物に過ぎなかったのだよ…ぐふふ」
人間であるアミク達はあまり聞いていて気分のいいものではない。
「だが…その竜族の支配に異論を唱える、愚かなドラゴンがおった。人間と共存できる世界を作りたい、と抜かしおったのじゃ。
それに賛同するドラゴンと、反対するドラゴンとの間で戦争が始まった。ワシは、反対派として戦った」
(そんなことが…)
ドラゴン同士の戦争…。オーディオン達のようなドラゴンと人間をエサとしか思っていないドラゴンが戦ったのか。
もしかして、オーディオン達も参加したのだろうか。
「反対派って事は…」
「ワシは人間は好きではない。食物として好物であるがな」
「特に女の子?」
「ほう、よく分かったな」
そりゃあ、貴方自分で言ってましたからね。「女の子食べたい」とか。
「食い物と会話してんのかオメー、ぷぷっ」
「ほら!そーゆーのムカツクの!」
ナツが小馬鹿にしたように笑うとジルコニスが憤慨した。
まぁ、人が豚や牛に話しかけるようなものなのではないかと思う。
「それで、その戦争の結末は?」
マーチが話を戻すと、ジルコニスは咳払いをして話を続けた。
「戦況は拮抗しておった…ドラゴンとドラゴンの戦いはいくつもの大地を裂くものだった。
やがて共存派のドラゴンは、愚かな戦略を打ち立てた。人間にドラゴンを滅する魔法を与え、戦争に参加させたのだ」
ドラゴンを滅する魔法…?それって…。
「それって、
『滅竜魔法が生まれたのはその時代からだったのか…』
思わぬ所で知った自分達の魔法の始まり。しかし、アミクの感傷など置いてジルコニスの話は続く。
「
しかし、ここで1つの誤算が生じる」
誤算?
「力を付けすぎた
「そんな…!」
なぜそんなことを…。共存を望むドラゴンと敵対する必要はないのに。
「そして、その人間の中の1人に…ドラゴンの血を浴びすぎた男がおった。その名を口にするのも恐ろしい…」
ここでジルコニスの表情が変わった。冷や汗を垂らし、心底恐ろしいものを思い出すかのような口調だ。
仮にもドラゴンである彼を恐怖させる人間とは…。
「男は、数多のドラゴンを滅ぼしその血を浴び続けた。やがて男の皮膚は鱗に変わり…歯は牙に変わり…その姿はドラゴンそのものへと変化していった」
「人間が…ドラゴンに…!?」
そんな話、聞いたこともない。変身魔法の類でもなさそうだ。
「それが滅竜魔法の先にあるものだ」
滅竜魔法を使うアミク達には衝撃的な話だった。自分達もそうなる可能性があるということか?
「ここに眠るドラゴン達も、その男により滅ぼされた。男は人間でありながら、竜の王となった。竜の王が誕生した戦争…それが『竜王祭』」
元々人であった存在が、ドラゴンを蹂躙し人ならざるものへと変わり果て、ドラゴン達の頂点に立つ。
ドラゴン達にとっては歴史上、考えもしなかったことであり、悪夢でもあった。
そしてアミク達は次にジルコニスから聞いた言葉に、体に金属を叩きつけられたかのような感覚を憶えることになったのだった。
「王の名はアクノロギア────
「アクノロギア!!?」
その恐怖は今でも体に記憶として残っている。
天狼島で突然現れ、何の言葉も躊躇もなく襲ってきた黒い悪夢。天狼島をブレスの一撃で抹消しかねない破壊力を持つ。
圧倒的で全く歯が立たなかった絶望の象徴。アミクには何故か懐かしい感覚がしたドラゴン。
あのドラゴンが、400年以上前ドラゴン達を虐殺し、人間からドラゴンへと変貌した
「元々、人間だった!?」
「バカな!!」
あのアクノロギアが元は自分達と同じ人間だったなんて、にわかには信じられない。
ジルコニスの体から光の粒子が昇っていく。
「奴により、ほとんどのドラゴンは滅んでいった…それが今から400年前の話だ。
ワシは、貴様らに────」
そして、ジルコニスの体がどんどん薄くなって、最後には消えてしまった。
「消えちゃったの…!」
「おい!」
「まだ聞きたいことがあるのに!!」
「ウェンディ!」
慌ててウェンディに目を向けると、彼女は首を横に振る。
「ダメです…この場から思念が完全に消えました。東洋の言葉で言う、成仏というものでしょうか」
「ほんとだ。もう何も聞こえない」
どうやら完全なる眠りについてしまったらしい。仕方ない。
アミクは手を合わせて黙祷した。
「起こしてごめんなさい…安らかに眠って…」
どんな存在であれど、死後は平穏であってほしい。
そんな願いを込めて、ジルコニスの魂を送った。
「なんだかエライ事になってきたな」
「スケール大きすぎよ」
『貴重な話を聞けた…と言える雰囲気ではないかな…』
ジルコニスの話の大半が衝撃的で信じられないようなものばかりで、混乱せずにはいられない。
特に、一番問題なのが。
「滅竜魔法使いすぎると本物のドラゴンになっちまうのか!?」
「7つのボールを集めてきたら願いを叶えてあげなくちゃいけないのかな!?」
「それは困る!…って何の話だ!!」
「どうしよう…」
今まで何の考えなしに使っていた滅竜魔法にそんなリスクがあるとは…。
そこに、別の声が響いてきた。
「それはありえんよ」
「誰!?」
アミク達を見下ろせる高所に、銀の鎧を纏った男が現れる。ボサボサとした髪に四角で長いという特徴的な鼻を持つ男性だ。
「話は聞かせてもらった。やはり我々の研究と史実は一致していた」
聞かせてもらった、ということはさっきのジルコニスの話も聞いていたのか。盗み聞きやん。
「君達はゼレフ書の悪魔を知っているかね」
彼の唐突な質問に戸惑うが、パッと思い当たるのがガルナ島で見たデリオラだ。
『デリオラ、か…』
「…」
グレイとウルも同じ事を思っていたようだ。
「アクノロギアはそれに近い。1人の
「ゼレフが!?」
これはまたキーパーソンの名前が出た。だが、あり得ない話ではない。
「つまり、全ての元凶であるゼレフを討つ事が、アクノロギア攻略の第一歩となるのだ」
「誰だテメェ!!」
「ゼレフを倒す!?」
急に現れた不審人物に警戒していると、ルーシィが男性の隣に居る見覚えのある人物に気が付く。
「あ、アンタ、ユキノ!?」
元・
彼女は大会でカグラに敗北したためギルドから追放されてしまい、その後行方をくらませていたのだが。
なぜここにいる?
一旦彼らは高所からアミク達の所まで降りて、目の前までやってくる。
「私はフィオーレ王国軍、クロッカス駐屯部隊『桜花聖騎士団』団長アルカディオス」
「同じく臨時軍曹のユキノ・アグリアでございます」
「王国軍!それに軍曹!?」
「軍のお偉いさんがなんでこんな所に…」
団長なんて結構な大物のはずだ。
アミクとルーシィが疑問を投げかける。
「ユキノ、でもアンタ…
「辞めさせられたって言ってたけど…なんで王国軍に?
「はい、その通りです」
ユキノが肯定すると、男────アルカディオスが口を開く。
「私から説明しよう。極秘に進めていたある作戦に、星霊魔導士の力が必要だった。そこでユキノ軍曹に力を借りている、という訳だ」
「星霊魔導士…それってルーシィと関係あるの?」
アミクが警戒した目つきでアルカディオスを見る。どうもルーシィが巻き込まれそうな気がしてならない。
そこに、ナツが割り込む。
「ちょっと待て!何の話かわからねー!ややこしい話はパスだ!用件を言え!!」
アルカディオスはナツの言葉を無視すると、ナツとアミクに薄く笑いかけた。
「ナツ・ドラグニル君とアミク・ミュージオン殿だね?先ほどの戦い、素晴らしい魔闘であった」
「…それは、どうも」
この場では関係のない話に、アミクは軽く頭を下げる。世辞なのだろうか、この男の本心が読めない。
だが、ナツは目付きを険しくして一歩踏み込み、アルカディオスに顔を近づけて睨みつけた。
「んな事ァどーでもいいんだョ。こっちは星霊魔導士が必要とかどうとかってのに引っかかってんだ。言いてえ事があるならハッキリ言いやがれ」
随分と不遜な態度である。
しかし、彼の気持ちも分かる。以前、アミク、あるいはルーシィが狙われた事件もあったのだ。そのことが引っかかって過敏になっているのだろう。
「ナツ…分かってると思うけど偉い人だよそれ…」
「そうなの。それが権力を振りかざせば、何されるか分からないの」
「そう思うなら、『それ』というのはどうかと…」
後ろの仲間も大概だった。
「ナツ、落ち着いてよ」
「うおっ、何すんだ!」
アミクはナツを押しのけてアルカディオスの前に立った。
ハッピー達の言う通り、一応は国のお偉いさんでもあるのだ。変な態度をとって不利な立場になったら大変だ。
「それで、私達にはどのようなご用件があるのでしょう?」
警戒を解かないまま丁寧な言葉遣いを心がける。
しばらく黙ったままだったアルカディオスだったが、「付いてきたまえ」と歩き出した。
「オイ、テメェ!待ちやがれ!」
ユキノは真っ直ぐにルーシィを見て頼んだ。
「ルーシィ様、私からもお願いします」
「え?」
「この作戦が成功すれば────ゼレフ、そしてアクノロギアを倒せます」
ゼレフと、アクノロギアを…?
本当にそんなことができるのか?
半信半疑ながらも、アミク達はとりあえずアルカディオスの後を付いていくことにした。
●
そうして着いた先は。
「んだー!?コリャー!!」
「デッケェ…」
「華灯宮メリークリスマス、だったよね?」
「メルクリアスですよ…」
「陛下がおられる城だ」
あちこちに明かりが灯った大きな建物。
それは荘厳な雰囲気を持つお城だった。
「立派なモノだな…」
「オイラ達入っていいの?」
「何だか偉くなった気分なの」
流石は王様が住む場所だ。王様に会えたりするのかな?まさか、ね。
「まず初めに数日前、ルーシィ殿を狙い…誤ってさらおうとした事を謝罪しておきたい」
「なに…!?」
「やっぱり、
(ルーシィを狙ってたのも合ってたわね…)
シャルルはこっそりため息を吐いた。
あの事件は結果的に医務室に居たウェンディ達が攫われ、気付いたナツが追いかけてぶっとばしたおかげで事なきを得た。
「アレ、アンタの仕業だったの?」
「もちろん危害を加えるつもりはなかったが、いささか強引な策に走ってしまった。あの時は早急に星霊魔導士が必要だと思い込み判断を誤った。申し訳ない」
そう簡単に謝られても複雑な気分だ。仲間が狙われたのは違いないし、許せるかどうかも別問題である。
「大魔闘演武は魔導士達の『魔力』を大量に摂取する為のカモフラージュだった」
『そんなことしていたのか…』
「毎年開催している大魔闘演武はただの隠れ蓑だったってこと?参加者達の魔力を奪う為だけに?」
ちょっとあんまりではないか。魔道士達は全力で大魔闘演武に臨んでいるのに、裏で勝手に魔力を奪い取っているだなんて。
「汚ねえな」
「お前、人間じゃないの!」
「マーチ、それは言いすぎだと思うよ…」
「何と言ってもらっても構わんよ。全てはある計画の為にやった事」
その計画とやらにアミク達から魔力を奪い、ルーシィを攫う必要があったのか。
何とも自分勝手な話である。
「世界を変える扉『エクリプス』。これの建造の為、大量の魔力が必要だった」
アルカディオス達が足を止めた。
アミク達は目の前にある物を視界に入れて息を飲んだ。
「扉…?」
「何だこりゃ」
それは大きな扉のようだった。アミク達を待ち構える様な存在感を放ち、どこへ通じているのか分からない恐怖心を煽っている。
「太陽と月が交差する時、12の鍵を用いてその扉を開け」
アスカディオスが言ったその言葉は、何かの言い伝えだろうか。
…そういえば前にユキノがやってきた時、彼女も似たような事を言っていたような。
12の鍵全てが揃えば、世界を変える扉が開くとかなんとか。
もしかして、この扉が…?
「扉を開けば『時』の中、400年の時を渡り、不死となる前のゼレフを討つ──それこそがエクリプス計画」
時を渡ってゼレフを倒す。それを聞いてアミク達は驚愕した。
「と、時を渡る…?」
「ルーシィ様、星霊界はこの世界と時間の流れが違うと聞きます」
「そう言えばそうだったけど…」
星霊達に招待された行った星霊界。そこでは1日が人間界での3ヶ月に相当する時間の流れだったはずだ。
そのせいで、星霊達には悪気はなかったとはいえ、苦い思いをしたわけだが…。
「その星霊界独自の次元境界線を利用し、星霊魔導士の力でこの扉を開くのです」
「当初の計画では星霊魔導士は擬似的な魔力で代用できる予定であった。だが本物の星霊魔導士と12の鍵があれば、計画はより完璧となる。もはや必要不可欠と言ってよい」
なるほど、それで10個も黄道十二門の鍵を持っている星霊魔導士であるルーシィを欲しがってたのか。
「太陽と月が交差する時、すなわち3日後の7月7日。君の力を貸して欲しい、ルーシィ殿」
「え?」
「7月7日…」
その日はドラゴンに育てられたアミク達にとって忘れたくとも忘れられない日。
彼らのドラゴンが消えた日だ。
「ただの偶然か…?」
「太陽と月が交差する
『どんどん話が大きくなっていくな…』
よりによってなぜその日なのだろうか。ガジルの言う通り偶然かも知れないが、関連性を疑ってしまう。
…7月7日と聞いて思い出したのだが、ルーシィの母親が亡くなったのも7月7日だ。
これこそ関係ないかもしれないけど。
でも、アミクは「ドラゴンが消えた日」、「エクリプスが開ける日」、「ルーシィの母親が亡くなった日」全てが一致することに妙な繋がりがある気がしてならなかったのだ。
その時。
沢山の足音が後ろから響いてきた。
「な、何かいっぱい来てる!!」
アミクが警告すると、ナツ達もハッとなって構えた。
「そこまでだ!!」「動くな!!」
そこに、武装をした大量の兵士達がアミク達を取り囲んでしまった。
アルカディオスとユキノもだ。
「王国兵!?」
「どういうことなの!?やっぱり此処にあーし達が入るのはダメだったの!?」
アミク達が戸惑っていると、低い声が兵士達の間を割いてくる。
「大人しくしていただこう、アルカディオス大佐」
「国防大臣殿、これは何のマネですか!?」
「それはこちらのセリフだ。極秘計画…超国家機密を部外者に漏らすなど言語道断」
王国兵の間を縫って現れたのはT字の眉が特徴的な背の低い男性の老人。この国の大臣らしい。名をダートンと言う。
「部外者ではない!知っているでしょう、この作戦において重要な役割を持つ者達です」
「それは貴様の独断で決められるほど簡単なものではない」
アルカディオスの訴えもダートンは一蹴してしまう。
アルカディオスはついカッとなってしまった。
「あなたは単にこの計画に反対なだけでしょう!!今すぐこんなふざけたマネはやめていただきたい!!」
「反対に決まっておるわ!!歴史を変えるなど!!その危険性を少しでも想像出来んのか、小僧がァ!!」
ダートンが怒鳴り返すと、アルカディオスも反論できないのか悔しげに顔を歪めた。
「なーに揉めてやがる」
「計画の反対派が居たのね」
この組織も一枚岩ではないということか。
『しかし、歴史を変える、ねぇ…』
ダートンの言葉にも間違いがあるわけではない。
過去を変える事で、現在にどんな影響を及ぼすか分かったものではないのだ。
「下手をすれば、世界そのものが滅亡するってこともあり得るの…」
「恐ろしいが、その可能性もあるな」
ダートンはそれを恐れてこの計画に反対しているのだろう。
「アルカディオス大佐を国家反逆罪の容疑で拘束する!!並びにユキノ・アグリア、ルーシィ・ハートフィリアも拘束!!それ以外の者は追い出せ!!」
「なにっ!?」
「ちょっと!おかしいでしょ!何でルーシィまで!!」
いきなり拘束なんて極端だし、それに何もしてないルーシィまで。
そんな理不尽、許せるものか。
「てめぇら…ルーシィを巻き込むんじゃ────!」
「こんなの横暴だよ!」
ナツが手に炎を生み出す。
アミクも場合によっては加勢しようと魔力を練るが…。
「よせっ!!此処で魔法を使ってはならん!!」
アルカディオスが制止するが、遅かった。
「ぐあ…!?」
「あ、ああああああ…!!」
体からごっそりと魔力が抜けていく。自分の生命力が吸い取られるような冷たい感覚が駆け巡った。力も抜け、視界が暗くなっていく。
「なん、だ…こりゃ…」
「ふ、ああああ…魔力が…」
「ナツ!!アミク!!」
「どうしたの!?」
ナツとアミクから抜けていった魔力はエクリプスに流れていた。
つまり、エクリプスがアミク達の魔力を吸い取っているのだ。
「言ってなかったのかね? 大魔闘演武は魔導士の魔力を微量に奪い、エクリプスへ送る為のシステム。こんなにエクリプスの近くで魔法を発動すれば、全ての魔力が奪われてしまうぞ」
どうやって魔導士達から魔力を摂取しているのか疑問に思っていたが、この扉にそんな機能があったのか。
「うっ…」
魔力を全て吸い取られてしまったアミクは冷たい床に力なく倒れ込んでしまった。
少し離れた場所ではナツも倒れてしまっている。
「騒ぎは起こさんでくれ。魔法の使えん魔導士など、我が王国兵の敵ではないのだから」
そんな2人に兵士達が近寄ってきた。無力化したアミク達には抗う術もない。
「ちょっと!!離してよ!!」
「貴方達!アルカディオス様の部下ではないのですか!?」
「ルーシィ!」「ユキノさん!!」
アミクが薄れゆく意識の中で見たのは、兵士達に連れられていくルーシィとユキノ。
「ルー…シィ…」
アミクはルーシィに向かって弱々しく手を伸ばすが、パタリと床に落ちる。
今の自分は無力だ。連れ去られるルーシィを助けることもできない。
「ダートン!!」
「エクリプスは起動させぬ」
最後にそんな声を聞いてアミクの意識は暗闇に包まれたのだった。
アミクは救出組と競技参加組、どちらになるのかー!?