妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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ユウカの波動ってルカリオのやつとは関係ないのかな?


封印されし悪魔と月の雫

「おいこのクソ炎。さっきから暑くて仕方なかったんだがてめぇが原因じゃねぇのか?

年中馬鹿みたいに燃えてっからよ」

 

「なぁ、前に風邪が流行ったのってお前のせいだろ?氷バンバン出してるからな。病原菌みたいだな!」

 

「なんでこんなときでもケンカしてんの・・・」

 

「あい、それがナツとグレイだからです!」

 

「むしろ仲良くしてる二人は人間じゃない、の」

 

「人間性まで否定することなくない!?」

 

「ちょっとアンタ達、何が出てくるか分からないから大声出さないでくれる?・・・と申しております」

 

門番に月を壊すための調査と偽り、森の中に入ったのだ。

 

「ていうかホロロギウムだっけ?そんな使い方でいいの?」

 

「だ、だって相手は呪いよ?実体がないものって怖いじゃない・・・と申しております」

 

「呪いなんか燃やせばいいだろ!」

 

「凍らせちまってもいいな」

 

「バカの集まり・・・と申しております」

 

「私は違うからね!?」

 

「ねぇ、オイラ達中入ってみてもいい?」

 

「なの」

 

 

アミクはハッピーとマーチがホロロギウムの中に入っているのを見ながらとりあえず推測を立ててみることにする。

 

(島の中でだけ見える紫の月。あの人達が言ってる呪い。この二つが関係があるのは間違いないと思うんだけど・・・)

 

 

「・・・?」

 

そこでアミクはガサガサ、と音が『聴こえ』た。

 

 

「ねぇなんかいるみた・・・・」

 

と振り返ったところで

 

「ん、どうかし・・・」

 

グレイ達も振り返ってそれを見た。

 

「チュー」

 

服を着た、巨大なネズミを。

 

「デカ―――ッ!」

 

「服着てる――――!?」

 

「な、なんでこんなのがいるんだ!?」

 

「アンタ達、早くやっつけなさい!・・・と申しております」

 

「こんなの、猫だって負けちゃうよ~・・・と申しております」

 

「誰かの飼いネズミ、なの?・・・と申しております」

 

 

そのネズミは問答無用で襲いかかってきた。

 

ネズミは大きく息を吸い込む。

 

「なんか吐く気!?」

 

「そんなもんおれの『(シールド)』で・・・」

 

と、グレイが両手を構えたところでネズミが何か吐きだした。

モクモクとした煙みたいだったが・・・。

 

「くっさい!!?」

 

「くせぇぇぇえ!!」

 

「なんちゅう臭さだ!」

 

「ちょ、ちょっとアンタ達!?どうしグホア!?・・・ガクッ」

 

めっちゃ臭い息だった。ホロロギウムでさえあまりの臭さに気絶してしまうほどだ。

ルーシィ達も外に出されて「くっさぁ!?」と喚いている。

 

ナツとアミクはダウンしていた。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「おいナツ、アミク!情けねぇぞ・・・ってそうかお前ら鼻いいもんな!?」

 

 

臭すぎて戦いにならないので一旦逃げることに。

 

「ううう・・・まだ残ってる気がする・・・」

 

「・・・だったら!」

 

グレイが再び両手を構えた。

 

 

「アイスメイク・・・『(フロア)』!」

 

地面、一面が凍らされた。ネズミはそこを踏むとツルり、と滑り転倒する。

 

「みんな!今のうちに―――」

 

逃げるわよ、と続けようとしたルーシィだったが。

 

 

「今のうちボコれー!」

 

「えーい!」

 

「おらおらおら!!」

 

ネズミはアミク達にボコボコにされた。

 

 

「・・・あれ?何かあるわよ?」

 

ルーシィが指差した方を見ると、確かに古い遺跡があった。

近づいてみると、壁画があったので見てみる。

 

「月の紋章・・・?」

 

「そういえばここって月の島って呼ばれてたって言ってたね」

 

「月の島に月の呪い、月の紋章・・・怪しいわね」

 

「あからさまなほどに怪しいよね・・・まさか罠?」

 

 

怪しすぎて逆にそれが怪しくなってくる、なんてややこしいことになりそうだが調べてみないことには何もならない。

 

「とりあえず中には入れるみたい・・・うわ、ボロボロ」

 

アミクは一歩遺跡の中に入ってみたが色々崩れそうになっているので辟易する。

 

「ほんとだな全くよぉ、オラ!」

 

何を思ったか急に足を踏み鳴らすナツ。

 

「ほら、見ろ!床までボロボロ・・・あ」

 

床に亀裂が走り、砕けた。

 

「「きゃああああああ!!?」」

 

「おいハッピー、マーチ!!助けろー!」

 

「四人は無理ー!」

 

「なのー!」

 

 

 

ナツ達はそのまま下に落っこちて行った。

 

 

 

 

「・・・いてて、皆大丈夫か!」

 

「うーん、無事だよ。なんか重いけど」

 

「ってナツ!アミクに乗ってるわよ!」

 

「お、悪ぃ」

 

「今思ったけどオイラ達だけでも飛んでればよかったね」

 

「穴があったら落ちるべし、なの」

 

 

 

瓦礫をどかしながら立ちあがるアミク達。

 

「ったく、なんでおまえは考えなしに行動するんだ」

 

グレイが不満を言いながら周りを見回す。岩と岩との間に水晶のような綺麗な石があったりして神秘的な光が満ちている。

 

「へー結構綺麗なところだねー」

 

「秘密の洞窟か!」

 

「あい!何か財宝があるかもしれないね!」

 

「財宝!?」

 

「ルーシィ、目がお金になってる、の」

 

「・・・」

 

「グレイ?」

 

急にグレイが黙った。切羽詰まった顔になり汗がいくつも出てくる。そして震える声で言った。

 

「な、んで、なんでこんなところにアイツが!」

 

グレイの尋常ではない様子に思わず口を噤むアミク達。おそるおそるグレイが見ている方向を見た。

 

そこには―――

 

「で、でけぇ怪物が凍ってる!!」

 

「何よこれ!?」

 

「一体誰が・・・?」

 

アミク達は驚愕した。まるで悪魔その物のような風貌。それが氷漬けにされている。

 

「ありえねぇ!ここに、いるはずがないんだ!!

 

「グレイ・・・何か知ってるの?」

 

アミクが静かに聞くとグレイはゆっくり話しだした。

 

「こいつは、デリオラ・・・。『厄災の悪魔』デリオラだ!」

 

「デリオラ・・・?」

 

ナツは怪物―――デリオラを見上げた。そしてそのまま近づいていく。

 

「こんなデッケェ奴が――――」

 

突然、グレイがナツを殴り飛ばした。

 

「ぐヘア!!何すんだグレイ!」

 

「火の魔導士が近づくんじゃねぇ!これは氷だ、溶けたらどうする!?」

 

明らかに過剰反応だがグレイの顔があまりにも必死なので何も言えないアミクとルーシィ達。

 

「俺が近づいただけで溶けるほどこの氷はヤワなのかよ」

 

ナツが聞くとグレイは幾分か冷静になった様でかぶりを振る。

 

「いや・・・」

 

「君がそんなに動揺するってことは、深い因縁があるってことだよね?」

 

アミクの問いにグレイはゆっくり頷く。

 

「・・・あぁ、デリオラは――――」

 

「――――!待って誰か来た!」

 

アミクが耳をピクリ、と動かして告げる。

 

「やばっ、隠れないと!」

 

ナツ達はひとまずそこにあった岩の陰に身を潜めることにした。

 

しばらくすると二人の人物が現れる。一人は眉毛が特徴的な男。もう一人は犬みたいな顔をした男だった。

 

「人の声がしたのはこの辺りか」

 

 

「おおーん」

 

二人は歩いてくるとキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

「・・・誰もいねぇみたいだな」

 

 

「誰もいねーのかよ!」

 

 

「キレんなよ。それよりトビー、その耳は『月の雫(ムーンドリップ)』の影響か?」

 

「飾りだよ!」

 

「だからキレんなって」

 

(あれ、飾りだったんだ・・・)

 

それより気になる用語が聴こえた。

 

月の雫(ムーンドリップ)』。

 

また月だ。とことん月と関係するものばかりらしい。

 

「・・・ユウカさん。トビーさん。悲しいことですわ」

 

そこに今度はケバイ少女が現れた。赤紫色の髪をツインテールにしている。

 

 

「・・・シェリーか」

 

「おおーん」

 

「アンジェリカが何者かによっていたぶられてしまいました・・・」

 

「ネズミだよっ!」

 

「ネズミではありません。アンジェリカです。アンジェリカは闇の中をかける狩人、そして愛!」

 

「強烈にイタイ奴が出てきたわね・・・」

 

「あのネズミ、アンジェリカって名前だったんだ・・・」

 

何気に失礼なことを言うルーシィ。

 

「あいつら、この島の奴じゃねえぇ、臭いが違う」

 

「・・・確かに」

 

アミクも鼻をクンクンさせて嗅いでみるとこの島とは別な臭いがした。

 

 

「おい、アンジェリカはともかく侵入者がいるみたいだぞ」

 

アミク達がギクッとなる。

 

 

「まぁ!ではアンジェリカもその侵入者とやらにやられたのですね!可愛そうなアンジェリカ・・・」

 

「侵入者かよ!」

 

「キレんなよ、ったく。邪魔されても厄介だ。見つけたら無力化しとけよ」

 

「おおーん」

 

「・・・わかりました」

 

シェリーだけは納得してなさそうだったが頷いた。

 

「さて、そろそろ零帝様のところに戻るか」

 

「はい。呼ばれたらすぐに駆け付ける、これが愛!」

 

「愛なのかよ!」

 

「毎回思うがお前のキレるポイントってなんだ?」

 

 

 

 

「・・・あの犬の人と眉毛の人のコント面白い」

 

「なんでアンタはたまにずれたこと言うのよ・・・」

 

ルーシィがアミクに呆れた。

 

 

「とにかく、夜になったらまたやるぞ。そろそろ溶ける(・・・)頃だと思うんだが・・・」

 

「おおーん」

 

「トビーさん。話し方がパターン化してますわよ」

 

「そういうメタ気味なことはナシの方向で」

 

 

 

 

三人はアミク達を見つけることもなく出て行った。

 

「・・・なんだよ、あいつらのこととっ捕まえて色々聞きだせばよかったじゃねぇか」

 

「今はまだ様子見よ。何が起きているのかは確認しなきゃ」

 

追いかけようとするナツを引き止めるルーシィが言った。

 

グレイは氷漬けにされたデリオラを見上げ口を開く。

 

 

「あいつらデリオラを何の為に・・・つーか、どうやって封印場所を見つけたんだ」

 

 

「封印・・・?」

 

 

「こいつは・・・俺に魔法を教えてくれた師匠、ウルが命をかけて封じた悪魔だ」

 

 

 

その言葉にグレイ以外の者達は驚愕する。

 

 

「氷の造形魔法の禁術・・・絶対氷結(アイスドシェル)。それはいかなる炎系の魔法でも溶けることのない氷だ。けどなんでこいつがここに・・・」

 

「確か、溶かすって言ってたわよね。もしかしてあいつら知らないのかも。それで何とかして氷を溶かそうと・・・」

 

 

「何の為だよっ!」

 

 

「わ、わからないわよ・・・」

 

 

「ちょっと、グレイ!ルーシィに八つ当たりするのはダメでしょ!」

 

グレイの剣幕に驚いて涙目のルーシィを庇うように立つアミク。

 

 

「・・・っ悪い・・・」

 

「う、ううん」

 

 

「・・・ちっ・・・くそ、調子がでねぇ。誰が何の為にデリオラを・・・」

 

 

「だからよぉ、さっきの奴らぶっ飛ばして聞きだせばいいじゃねぇか」

 

「・・・いや、あの人達と対面するにはまだ情報が足りないよ。

さっきあの人たち夜になったらまたやる、みたいなこと言ってたでしょ?

それに『月の雫(ムーンドリップ)』っていう言葉。

やっぱりあの月が関係してるはずだよ」

 

 

「アタシもそう思う。だから夜まで待とう、と思うの」

 

 

それを聞くとナツはげんなりした顔を浮かべた。

 

「ええぇぇ~、ヒマ死する!」

 

「ナツ、人間はヒマなぐらいじゃ死なない生き物、なの」

 

「たまにマーチが人類を超越してる気がする・・・」

 

 

 

 

数分後。

 

「ぐごおおおおお・・・」

 

「こいつ本能のまま生きてるのね・・・」

 

「ことが始まるのは夜だから今のうちに眠っておくのも正解だよ」

 

 

大の字で寝るナツを見ながらアミクとルーシィは会話する。グレイは端で考え事をしていた。

 

 

「でもさすがに暇だね」

 

「そうね・・・そうだ!こういう時に!」

 

ルーシィは銀の鍵を取り出すと星霊を召喚する。すると・・・

 

ハープを持った少女が現れた。

 

「きゃ~!ルーシィ、久しぶり~!全然呼んでくれないんだから~!」

 

「だってアンタ呼べる日が月に三回しかないんだもん」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

少女―――琴座の星霊、リラはテンション高く騒ぎだす。

 

「なんかまたキャラ濃いの出たね・・・」

 

アミクが軽く引いてるとルーシィがリラに言う。

 

「ねぇ、なんか歌ってよ!」

 

「歌うの!?」

 

歌う、という言葉に反応するアミク。

 

「えぇ、リラは歌う星霊なのよ。声も綺麗だし一回聴いてみたら?」

 

「ふっふっふ。音楽のエキスパートである私にそのようなことを言うとは。

どれ聴いてあげよう」

 

「なんか偉そう・・・」

 

アミクがふんぞり返ってリラに指を突きつける。

 

「オイラ、魚の歌がいい!」

 

「ええ!なんでも歌うわよ!」

 

「リラは歌が上手いのよ。アミクといい勝負するんじゃない?」

 

「へぇー!」

 

「ミラも上手いよ、魚の歌歌ってくれるし」

 

「おまえの基準全部魚か?なの」

 

マーチが思わずツッコんだ。

 

「〜♪」

 

なかなかいい歌だった。心に染み渡るような麗しい声だ。

 

「そして美味い!」

 

「・・・って食べてる!?」

 

アミクがリラの歌声をパクパクと食べている。

 

「うん、この美味しさは歌が上手だって証拠だね!」

 

「美味しさ基準なんだ・・・」

 

リラの歌の内容はざっくり言うと「昔は弱かったけど今はこんなに強くなったんだぞ」的な歌詞だった。

 

「・・・グレイ、泣いてるの?」

 

ふ、とグレイを見ると肩を震わせていた。今の歌の何かが琴線に触れたのか。

 

「な、泣いてねぇ!」

 

「リラは人の心情を読む歌を歌うって言うけど・・・もうちょっと楽しい歌にしてくれる?」

 

「もう!最初っからそう言ってよ!」

 

「つか、うるさくしてたらバレるだろ」

 

「あ、ちょっと待って。せっかくだから反響マップ作るよ」

 

アミクが急に立ち上がり言った。

 

「反響マップ?」

 

「超音波を発生させてその反響で周囲の状況を知るエコーなんとかで地形を調べるんだよ!」

 

「エコーロケーション、なの」

 

ルーシィの疑問にハッピーとマーチが答えた。

 

「ーーーーーー!」

 

アミクが何か叫ぶような動作をする。超音波を出しているのだ。

 

超音波の反響により洞窟、そして遺跡の中の構造がなんとなく分かった。

これをするには高い集中力が必要なので他のことに気を向ける暇がなく、余裕がある時ぐらいにしかやれないのだ。

 

「・・・よし、分かった!あの出口以外にも所々穴がある。多分あれは遺跡に繋がってるんだね」

 

「へー、そんなことまで分かるのね。万能すぎやしないかしら?」

 

「でも、これすごい疲れるし魔力消費もそこそこあるんだよね。なのでちょっと休みまーす」

 

そう言うとアミクはナツを枕にして寝転んだ。

 

「・・・あの子も大概自由ね」

 

「いつもは色々頑張ってるんだけどな。俺たちのケンカ止めたりとか」

 

「・・・自覚してるならもうちょっと控えなさいよ」

 

 

 

 

「ん・・・?」

 

アミクは誰かが話しかけてきたように感じて目を開ける。

 

「誰・・・?」

 

呼びかけて見るが誰も答えない。ルーシィ達も寝てしまったのか。いや

 

「どうした?俺たち以外は誰もいないぞ?」

 

グレイは起きていた。

 

「・・・誰か喋ったような・・・」

 

アミクが首をかしげると。

 

『ーーーー』

 

「・・・!また!」

 

誰かが話している。一体誰が、どこで。

 

いや、場所は分かっている。あの氷(・・・)からだ。あそこから『声』が聞こえてくる。

 

(まさかデリオラ・・・?)

 

いや、違う。氷のようにひんやりしていて、なのに温かさを感じる声だ。

 

「・・・まさか・・・」

 

アミクはゆっくりと氷に近付く。

 

「お、おい!危ねぇぞ!」

 

グレイが注意するが、無視して氷に触れ、耳を当てる。冷たい。

けれど、鼓動が聞こえる。

 

人間のような鼓動が。

 

 

「あなたは・・・?」

 

内容は不鮮明だが確かに誰か語っている。

 

「アミク・・・」

 

グレイは呆然と立っていた。

 

「・・・この氷は、生きてるの?」

 

アミクはポツリと呟いた。

 

 

 

「・・・分かるのか。その通りだ」

 

まさかグレイから返答があるとは思わず、振り返る。

 

「え・・・?」

 

「その氷はウル、だ」

 

「ーーーーー!」

 

アミクは驚愕した。グレイが自分の命を賭けて封印したと言っていたがまさかーーーー。

 

「『絶対氷結(アイスドシェル)』は自分の肉体を氷に変えて、対象と共に永久に封じ込める「意思の魔法」。

つまり、その氷はウルの肉体が変化したものなんだ」

 

「ーーーーじゃあそれを溶かすってことは・・・」

 

「ーーー」

 

何も言わなかったがそう言うことなのだろう。

 

「だから、俺は絶対奴らを止める。ウルの名を汚した奴らを許しはしねぇし、ウルも溶かさせねぇ!」

 

グレイは決意するように言った。

 

「・・・うん。だったらますます止めなきゃね。私も手伝うよ、それ」

 

「・・・サンキュ。でもまさか氷になったウルの声まで『聴こえ』るなんてな」

 

「多分・・・強い思念が残ってるんだと思う」

 

「・・・思念」

 

「何言ってるかよく分からなかったけど・・・でも温かい心の持ち主なんだってことは分かるよ」

 

アミクが微笑みながら言うと、グレイは頭を掻きながら言った。

 

「へっ、ま、自慢の師匠だ」

 

「・・・ってことはその脱ぎ癖も師匠譲り?」

 

「い、いや確かに雪山で服脱がせて修行させたのはウルだが・・・癖付いちまって」

 

「真性の露出狂じゃん!」

 

「違ぇよ!いつの間に脱いでるだけだ!」

 

「客観的に見て変わらんわ!!」

 

そうやって騒ぐアミク達の声で目を覚ましたのかナツ達が起き上がる。

 

「かーっ!よく寝たー!お、もう夜じゃねぇか!」

 

「うーんおはよう・・・て時間でもないわね」

 

時間的にはちょうどよかったようだ。

 

「アミク、さっきの話は内緒で頼む」

 

「もちろん」

 

グレイとアミクは頷き合った。

 

 

 

しばらくすると、氷漬けのデリオラの頭上にある天井が崩れた。

 

「嘘!?何!?」

 

「あ!光が入ってきた!」

 

ハッピーの言う通り天井に開いた穴から紫色の光が降りてきて氷に当たった。

あの光はおそらく月の明かりだ。

 

「・・・まさか、あれで溶かすの!?」

 

「くっ、上か!急ぐぞ!」

 

グレイが先頭を切って駆け出す。後にルーシィ達も続くが、アミクだけはふと立ち止まって氷ーーーーウルを振り返った。

 

 

ーーーー弟子を、頼むーーーーー

 

 

今度ははっきりと『聴こえ』た。

 

 

「・・・任されました」

 

アミクはそう応えるとグレイ達の後を追った。

 

 

 

 

「アミクがここの地図持ってるようなものだからアミクに案内させた方がいいって早めに気づいてよかったぜ・・・」

 

「ほんとだよ・・・あ、なんかめっちゃ人いっぱいいる」

 

アミクを先頭にして遺跡の頂上に出たアミク達。そこには怪しげなローブを着た人々が謎の呪文を唱えながら儀式をしていた。

 

その中心に月の光が集まっている。

 

「あれが原因か・・・!」

 

「うわ、全く意味が理解できない、どこの言語?」

 

「あれはべリア語の呪文よ」

 

「うわ、リラまだ居たの!?」

 

なぜかリラが居たが知っているならばと教えてもらうことにした。

 

「あれが『月の雫(ムーンドリップ)』よ。アレで氷を溶かすつもりなのね」

 

「そんなバカな!あの氷は溶けない氷なんだぞ!」

 

「月の魔力を一つに収束することで、いかなる魔法をも解除する力を発揮するの」

 

グレイの叫びに答えるリラ。

 

「そうなんだ・・・」

 

「でも、強大な月の魔力は人体をも汚染する。おそらく、この島の呪いも『月の雫(ムーンドリップ)』が原因ね」

 

「やっぱり・・・」

 

「あいつら・・・!」

 

ナツが立ち上がろうとするのを慌ててルーシィが引き止めた。

 

「待ってナツ!誰か来る!」

 

とにかく隠れていると昼間に見た三人に加え、仮面を被った男性と謎の老人が出て来る。ついでにアンジェリカ(ネズミ)も。

 

 

「くそ・・・昼起きたせいで眠い」

 

「おおーん」

 

「侵入者も見つからなかったな」

 

「本当にいたのかよ侵入者!」

 

「キレんなって」

 

二人が夫婦漫才をしている間も仮面の男は黙ったままだ。

 

「悲しい事ですわ零帝様。昼に侵入者がいたようですが取り逃がしてしまいました・・・こんな私では愛を語れませんね」

 

シェリーが言うと、零帝と呼ばれた男はやっと口を開く。

 

「氷が溶けきるのはいつだ?」

 

「今日か明日になると思われます・・・」

 

「どっちだよ!」

 

「キレすぎると禿げるぞ」

 

「禿げんのかよ!」

 

 

 

「今の声・・・!」

 

グレイが零帝の声を聞き、愕然とする。

 

 

「ミョホホホホ、とうとうこの時がきましたな」

 

老人が不気味な笑いを響かせながら言った。

 

「ザルティ・・・ここまで来たからには絶対に成功させるぞ」

 

「もちろんですとも。私は協力を惜しみませぬ」

 

(・・・この匂い、どこかで・・・)

 

さっきからあの老人から嗅ぎ覚えのある匂いが漂っていた。

しかし、あんな老人見たこともないし声に『聴き』憶えもない。

 

誰かの血縁か、と考えて見ても『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に似た匂いの者はいない。

 

(どこかですれ違ってたのかな?)

 

そう考えてそれ以降はあまり深く考えないことにした。

 

 

しかし、もしアミクが老人ーーーザルティからする『女の香水』の匂いについてもっとよく考えていれば正体に気づいたかもしれない。

 

確かに、アミクはザルティと会っていたのだ。

 

 

「だからこそ邪魔が入っては駄目だ。この島にいる人と言えばあの村の住人しかいない。

 

お前達、あの村を消してこい」

 

 

 

「・・・そんな・・・!」

 

「はい」

 

「おおーん」

 

「了解」

 

零帝が無慈悲に命令するのを聴きアミクが息を呑む、三人は返事をして村の方に向かおうとした。

 

「血は好まんのだがな」

 

そして、彼がそう言った直後。

 

 

「もうコソコソするのはやめだ!」

 

ナツが飛び出て吠えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




トビーとユウカのやり取りが面白くてノリノリで書いてしまった・・・。
実際テンポ良いんだよねあの会話。

あと、ザルティの笑い声ってあれでよかったっけ?

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