妖精の尻尾の音竜   作:ハーフィ

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あの五人組の登場です。


餓狼騎士団

傷だらけになって倒れているアルカディオスを発見したアミク一行。

 

「やっぱりあの人の匂いだったんだ…」

 

最近嗅いだ匂いだと思っていたのだ。やっぱりアルカディオスだった。

 

「おーい大丈夫か?しっかりしろ!」

 

アミク達はアルカディオスの元に近付いた。

 

「…良かった。まだ息はある」

 

簡単に診察したアミクはホッと安堵の息を付く。酷い傷ではあるが、今すぐ命の危険になるわけではなかった。

しかし、放っておくと危険だろう。

 

「ウェンディ!」

 

「はい!」

 

アミクとウェンディはアルカディオスに治癒魔法を掛ける。応急処置をしておけばひとまず安心だ。

 

「何でこんな所に居るのさ」

 

「あたし達と同じように落とされた?」

 

「でも、この怪我は一体…」

 

落ちた時にあちこちぶつけてしまったのだろうか。

その怪我も、アミク達の魔法で少しずつ癒えていく。

 

そこで、アルカディオスが目を覚ました。

 

「あ、起きた!」

 

「アルカディオス様!一体何が…」

 

しかし、アルカディオスは自分の怪我など省みずに必死に告げる。

 

「わ、私に構うな…早く逃げろ…!!」

 

「に、逃げるって…」

 

直後、背後から危険な気配を感じた。

 

 

「ぱ―――ん」

 

「え?」

 

咄嗟に振り向くと、巨体の男が液体を纏った拳を振り上げているところだった。

 

 

「ジュワー」

 

「うひゃっ!!」

 

彼が拳を地面に叩きつけてきたので、アミク達は慌てて回避した。

すると、叩きつけられた地面が溶ける。それだけに留まらず、散った液体が周りの地面や岩をも溶かした。

 

「と、溶けた!?」

 

「酸だ!」

 

ということは、さっきの隙間もこの酸が溶かしてできたものなのか。

 

「タイタイターイ!」

 

今度は別の男が現れる。

頭に鉢巻きを巻いた妙にコミカルな顔つきの男性。スキンヘッドなのも特徴的だ。

 

「大漁ォ~!!タイ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

彼が旗を振り上げると、謎の力によってアミク達の体が吹っ飛ばされてしまった。

 

「何、この人達!?」

 

アミクはなんとか着地すると、自分達を襲ってきた相手を見据えた。

 

すると、近くの地面から変な形の植物が生え、巨大な花となる。更にどこからか紙吹雪が舞ってくる。

 

「何なの、次から次へと!」

 

警戒して様子を見ていると、大きな花の花弁が開き、中から女性が現れる。紙吹雪は一か所に集まって人の形を作り、紙が剥がれ落ちるとまた別の女性が出現した。

 

「アルカディオス様!これは…!?」

 

「言っただろう…!早く逃げろ…!」

 

「あの人達の事知ってるの?」

 

アミクが聞くと、アルカディオスは焦った表情で答える。

 

 

「陰から王国を支える独立部隊…王国最強の処刑人…!その名も────」

 

「『餓狼騎士団』。1500(ひとごーまるまる)、任務開始」

 

また1人、マスクを付けてフードを被った男が現れた。5人の中で真ん中に居るから彼がリーダー格っぽい。

 

「処刑人だぁ?」

 

「王国最強って…」

 

「都市伝説だと思っていました。罪人をどこまでも追い詰め、刑を執行する。言わば王国の処刑マシーン。あれが、餓狼騎士団!」

 

王国はこんなものまで抱えていたのか。処刑専門の騎士団だなんて。

 

「奈落宮から生還が不可能なのは、奴等が居るからだ」

 

万が一脱出できそうな状況になっても彼らがそれを阻むということか。

そして、確実に相手を葬る。

 

「フィオーレ独立部隊餓狼騎士団特別権限により、これより罪人の刑を執行する」

 

ここに来て厄介そうな敵がアミク達の前に立ち塞がったのだった。

 

 

 

突然。

 

「ぶはっ!ぶはははははっ!!」

 

「なーに笑ってんのナツ。とうとう気が触れた?」

 

ナツが爆笑し始めた。何がツボに嵌ったのやら。

 

「だってどう見ても『騎士団』ってナリじゃねーだろ!」

 

「ま、まぁそうだけどさ…」

 

「特にお前!」

 

「タイ?」

 

指を指された鉢巻きのスキンヘッド男がキョトンとした。

 

彼の言う通り餓狼騎士団とやらは、普通服装などが統一されている騎士団とは思えないほど、それぞれがバラバラかつ個性的な格好だ。

あの鉢巻きスキンヘッド男なんかどう見ても漁師だし。

 

「個人の自由タイ。我らは隠密行動の独立部隊。同じ恰好してたら却って目立つタイ」

 

鉢巻きスキンヘッド男がわざわざ説明してくれた。

納得ではあるが、だからと言って彼の服装は自由すぎでは…?

 

どっちにしろ目立つだろ。

 

 

「気に障ったか鉢巻き野郎。だったらさっさと掛かって来いってーの」

 

「ちょっと!」

 

ナツがわざわざ挑発した。こっちから煽らなくても、とも思うがいずれにせよ戦闘は避けられまい。

 

「そんなこと言ったら…怒っちゃうぞー?」

 

鉢巻きスキンヘッドが表情を変えずに言うが、言葉に反して怒ってるようには見えなかった。

 

「見た目に惑わされるな…!奴等の使う魔法は、人を殺すための魔法だ…!」

 

アルカディオスが息も絶え絶えに忠告してくるが、ナツはむしろ面白そうに不敵な笑みになる。

 

「へぇ、殺すための魔法ねぇ…上等!」

 

アミクも戦う意志を持って餓狼騎士団と対峙する。彼等と戦う理由がまた1つできた。

 

「鶏がブロッコリー背負ってきたよ!あの人達に出口を教えてもらえばいいじゃん!」

 

そういう意味では彼らが出て来てくれたのはこちらとしても都合がいいとも言えた。

 

「ルーシィさんとユキノさんは鍵ないんですよね?離れてて下さい」

 

戦力外のルーシィ達にはアルカディオスと共に巻き込まれないように下がってもらう。

 

「こういう時に見てるだけってのは悔しいな…」

 

「アルカディオス様、こちらへ」

 

リリーとマーチも闘志を宿して前に進み出る。

 

「ハッピー、シャルル、下がってろ。マーチ、いけるな?」

 

「もちろんなの!」

 

「オイラだって戦うぞ!」

 

「やめときなさい」

 

リリーは戦闘モードになり、マーチも人型に変身した。リリーは剣を構える。

 

「久々の戦闘だな。血が滾るぞ!ギヒッ」

 

「鈍ってないといいけどなの」

 

マーチも爪を鋭く伸ばした。戦闘準備はバッチリだ。

 

「こいつら…王国最強の処刑人とやり合うつもりなのか…」

 

アルカディオスが信じられないかのように言う。彼にとって餓狼騎士団がどれほどの脅威なのかは知らないが、こっちの実力を甘く見ないでほしい。

ユキノが心配そうに振り返ってきたので、アミクは大丈夫だという意味で笑って手を振った。

 

「皆さん…お気を付けて!」

 

「燃えてきたぞ」

 

ナツのいつもの言葉が皆の戦意を高めた。

 

 

戦闘態勢を見せるアミク達を見て、マスクを着けたリーダー格の男───カマは「ふっ」と鼻で笑った。

 

「我ら餓狼騎士団を前に臆さぬとは…無知なる罪人め。フィオーレ王国の土へと還れ」

 

「まずは私らに任せてもらおう」

 

アホ毛の生えた、おさげが特徴の少女と大きな帽子を被った少女が前に出て来た。どっちも美少女やね。

あの若さで処刑人を務めているのか。

 

「2人だけかよ!ならオレ1人でやってやらあ!」

 

「ナツ、油断しないで。相手の実力はまだ未知数なんだから」

 

啖呵は切ったが、アルカディオスが忠告するほどなのだ。侮れない強敵だと考えて挑んだ方がよさそうだ。

 

「行くよ、コスモス」

 

「私とカミカの美しい舞…ね」

 

アホ毛の少女───カミカが赤色の小さな紙切れを取り出し、息を吹きかけて飛ばす。

すると、その紙は舞いながら大量の紙となってナツに向かって行く。それはまさに赤い紙吹雪。

 

「紙吹雪『赤の舞』!!」

 

しかし、紙ではナツ相手には相性最悪だ。

 

「紙の魔法か。相手が悪かったな。んなものは燃やしてやらあ!!」

 

ナツもそれをしっかり理解していた。彼は両腕から炎を噴かせて紙を包み込む。

 

しかし。

 

「あ?なんだこりゃ」

 

「燃えてない!?」

 

紙は火に弱いはずなのに。よく見ると、紙が炎を纏っているようにも見える。

 

「赤い紙は炎の神。舞い散るがよい!」

 

燃える紙吹雪がいくつもの赤い拳を作り出し、ナツの炎を物ともせずに突っ込んで来る。

 

「そっちも炎なら食っちまうだけの話だ!っておわおっ!!?」

 

「なんで!?」

 

ナツなら火を食べれるはず。なのになんでナツが炎攻撃を喰らっている!?

 

「食べるんじゃなかったの?」

 

炎に包まれて苦しげなナツ。炎自体のダメージはないようだが、不快感が彼を苛んでいるようだ。

これは手を出すべきだ。

 

「ナツ!加勢するよ!『音竜の咆哮』!!」

 

アミクのブレスが赤い紙吹雪を吹き飛ばしてしまった。

 

「ナイスアミク!」

 

「ナツ、大丈夫?」

 

「あんなの屁でもねえ!」

 

ナツはピンピンした様子でアミクの隣に来ると仕方なそうに言った。

 

「しゃーねぇ、2対2だ」

 

「うん!私達2人なら勝てるよ!」

 

アミクも参戦して互いにタッグチームとなった。

 

「美しい…」

 

なんか寒気がしたんだが。

コスモスと呼ばれていた少女がじっとりとアミクを見ている気がする…。

 

「我々も加勢を!」

 

「はい!」「突撃なのー!」

 

勇んで混ざりにいこうとしたマーチ達だったが、ミラに止められた。

 

「待って!今はナツ達に任せて相手の出方を見ておいた方が良いわ」

 

「…分かったの」

 

相手が手の内を見せ切った後で加勢するのも良い手だろう。アミク達には悪いが、しばらく頑張ってもらう事にした。

 

「行くぞ、アミク!」

 

「オッケー!」

 

アミク達は2人一緒にカミカ達に向かって駆け出した。そして、まずはナツが攻撃を加える。

 

「『火竜の翼撃』!!」

 

炎が2人を襲うが、彼女達は上手く躱した。

 

「ほう、滅竜魔法か」

 

感心するような声を出すカミカにアミクが接近。

 

「『音竜の旋律』!!」

 

彼女に蹴りを放つも、カミカは目の前に巨大な折り紙を展開させて防いでくる。紙を集まってできたもののようだ。結構応用が利く。

 

「長いツインテール…うふふ」

 

「余所見かよ!」

 

コスモスと呼ばれた少女にナツが炎のパンチを放った。しかし、それは妙な植物に阻まれた。

 

「お前は美しくない」

 

「はぁ?」

 

そう言われて流石に気分を害したのか、ナツが青筋を立てていた。

 

「じれったーいタイ」

 

「遊んでんのかよ」

 

控えている他の餓狼騎士団は余裕そうだ。

 

その余裕、崩してやろう。アミクとナツは大きく息を吸い込んだ。

 

「『火竜の───』」「『音竜の───』」

 

「「『咆哮』!!」」

 

火と音のブレスが混ざり合いながら噴射される。

 

「ナイス連携なの!」

 

「流石『双竜』ね」

 

今のは上手く決まったはず。2人の気配も消えた。やったのか?

 

と思っていると、煙が晴れて赤い紙がびっしり貼られた大きな蕾が現れた。

 

「蕾?」

 

何なのだ、と訝しんでいると、植物の蔓が伸びてきてアミク達を襲う。

慌てて跳んで回避した。

 

そして、蕾が開き中からコスモスとカミカが出てきた。

 

「これこそ美しき連携」

 

「罪人には相応の罰を」

 

赤い紙で火への耐性を付け、蕾の中に隠れることでアミク達のブレスを耐えたらしい。

 

紙と植物の魔法。アミク達にとってはそう難しくない相手のはずなのに、攻めきれない。

 

(王国最強の処刑人って言われているだけはあるってことかな)

 

「私の名はコスモス。処刑されるまでの短い時間、憶えておいて」

 

あの帽子の少女はモスちゃんだね。わかった。

 

「…何か不本意なあだ名付けられた気がするけど」

 

「私の紙吹雪は赤だけじゃないわ」

 

カミカは今度は黄色の紙を取り出して吹き飛ばす。それはまた大量の紙となり、今度は眩く発光した。

 

「眩しい!」

 

色によって効果が違うのか!?

この眩しさの中では戦いづらい。早く処理しなければ。

 

「散れ!」

 

両腕に音を纏わせて振り払い、紙を散らす。しかし、それは敵の思惑通りの行動だった。

 

「かかった」

 

「わ、わあああ!?」

 

いつの間に伸びてきていた植物の蔓がアミクの体を拘束して持ち上げた。

 

「アミク!おわあ!!」

 

思わずアミクの方を見たナツを紙吹雪が突き飛ばす。

 

「白の紙は吹雪の神!」

 

白い紙はナツに纏わりつくと、その体を凍り付かせていく。

 

「くそっ、なんだこりゃ!体が凍ってきやがる!」

 

しかし、氷ならナツだったらどうにかできる。

 

「これくらい…!うおおおおお!!」

 

ナツは全身に炎を纏わせて氷を溶かした。

 

「どわっ!!」

 

だが、その隙を突いて蔓がナツに巻き付いてアミクと同じように持ち上げてしまった。

 

「ナツ!」

 

「美しいサポートありがとうカミカ」

 

2人共捕まってしまった。これは…ヤバい?

 

「クソッ!動けねえぞ!」

 

「痛っ!トゲあるのこれ!?」

 

ぎちぎちに締め付けてきて身動きが取れない。

 

「罪人2名を確保」

 

「あとは刑を執行するのみ」

 

アミク達の真下にはいつから生えていたのか大きな花があった。その花弁が開いて不気味な中身を見せる。

花弁には牙が生え並び、粘液が滴り落ちる触手が中から伸びてくる。

 

「やだ!なによこれ!?」

 

「食虫花…!」

 

食虫花は触手をアミク達に巻き付けると、彼らを捕食しようと徐々に下げてくる。

 

「食べられる―――!!」

 

「気色悪ぃ!!」

 

こんなのに食べられたくなんかない。アミク達は必死にもがいた。

そんな彼女達を見てマーチ達も動こうとする。

 

「アミクさん!ナツさん!」

 

「いかんな」

 

「加勢するわよ!」

 

「助けるのー!!」

 

「来るんじゃねえ!」

 

しかし、それを拒否したのはナツだ。

 

「せっかく面白くなってきたところだ!」

 

「そんな場合じゃないの!」

 

「いいからやらせろ!来たら殴る!」

 

「殴るって…」

 

助けようとした者に対してあんまりな態度では…。

 

「中々の強がりさんね」

 

「この態勢では脱出不可能」

 

コスモス達が余裕ぶってるが、果てしてそれはどうかな?

 

「アミク!上手く避けろよ!」

 

「がってんしょうち!」

 

アミクが元気よく答えると、ナツは頬を膨らませて灼熱の炎を吐き出した。

 

「おらあああああ!!」

 

噴き出された炎はアミクを拘束している蔓と触手を薙ぎ払うように振るわれる。

上手く蔓が破壊され、アミクは拘束から抜け出した。

 

アミクは落下しながらナツに巻き付いている蔓や触手に向かった。ある程度近付くと、手に音を纏わせて振るう。

 

「『音竜の斬響(スタッカート)』!!」

 

ズバッと蔓と触手が切断され、ナツも解放された。

 

「あの2人なら大丈夫そうね」

 

「やはり、相性がいいな」

 

ミラが安心したように微笑み、リリーも胸をなでおろす。ウェンディも凄い、と目を輝かせていた。

 

「よーし!ナツ、反撃タイムだよ!」

 

「ああ!一気に片付けてやる!」

 

 

アミク達の猛攻が始まった。2人が拳や足を振るうと、炎と音が交錯しコスモス達を圧倒する。

コスモスとカミカは息の合ったアミク達の猛攻に防戦一方にならざるを得なかった。

 

アミク達の攻撃の余波であちこちが爆発し、崩落する。

 

「相変わらず派手ね」

 

「凄い!息ぴったし!」

 

元々魔法が派手なものだから色々衝撃が凄いのは致し方ないだろう。

 

「あの餓狼騎士団を押している!?何という連携だ…!」

 

アルカディオスは目を見開いてアミク達の闘いを見ていた。騎士団長である彼もアミク達の強さには驚きを禁じ得ないらしい。

 

「そりゃあ、あの2人は何年もコンビとして戦ってきた仲間だもの。お互いの考えてる事も、すぐに分かっちゃうのよ」

 

あの2人の絆がとても深いものだろいうことは、ずっと彼らを見てきたルーシィにも分かる。その絆があるからこそ、アミク達は言葉を交わずとも互いの思いを読み取り、相手に合わせることができるのだ。

 

「信じ合い、助け合う。その力が妖精の尻尾(フェアリーテイル)の強さの理由なのですね」

 

ユキノは自分が居た剣咬の虎(セイバートゥース)には妖精の尻尾(フェアリーテイル)のような力が足りなかったように思えた。

だから剣咬の虎(セイバートゥース)の『双竜』は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の『双竜』に負けたのだ、と改めて納得した。

 

しかし、アルカディオスは厳しい声で言う。

 

「いや…まだだ、油断するな。餓狼騎士団の恐ろしさはこんなものではない」

 

この中で一番餓狼騎士団の実力を知っている者の言葉だからなのか、大きな説得力を感じた。

 

 

「『音竜の響拳』!!」

 

アミクの拳がカミカの目の前まで迫るが、またしても大きな紙が現れてガードしてくる。衝撃波で吹き飛ばすも、カミカ本体にはダメージはない。

 

「重なった紙は刃物でも斬れない程丈夫になる。貴方の魔法でその強度を突破できるかしら?」

 

薄く微笑むカミカの周りでは小さな紙が舞う。

攻めているのはアミク達で、相手は防戦一方。しかし、有効打を与えられないもどかしい状況が続いていた。

 

「アミク!飛べ!」

 

「了解!」

 

後ろから響いてきたナツの言葉に一寸も疑問を挟む事もなく飛び上がる。

直後にアミクの真下で炎が通り抜けた。

 

ナツのブレスだ。カミカに向かった炎のブレスは彼女に直撃したかのように見えたが。

 

「随分お熱いお日様ね」

 

「さすがコスモス」

 

コスモスが咲かせた蕾が炎を防いでしまった。蕾は焼かれてしまうがやはりダメージは通らない。

 

「やるなあいつら」

 

「こっちも連携なら負けない自信はあったけど…あっちも中々だね」

 

アミク達も彼女達の強さに舌を巻かざるを得なかった。ここまでアミク達の猛攻を耐えたのだ。その実力は本物だろう。

 

「だけど!私達に勝てるかどうかは、別!」

 

アミクが足を踏み出して突っ込んでいく。手に音を纏わせてコスモスに向かって思いっきり振るった。

 

「『音竜の響刻(レガート)』!!」

 

抉るように振るわれた手をまたしても植物で防ぐコスモス。この分厚い植物のせいでアミクの音が吸収されて威力が弱まってしまうのだ。だが、それが狙いだ。

 

「からの『音竜の奇想曲(カプリース)』!!」

 

「きゃっ…!」

 

空いている腕の方に音の振動を纏わせ、植物を殴りつけると植物が内部から四散した。コスモスもこれには驚いて一歩下がってしまう。

 

「うおおおおお!!!」

 

そのチャンスを逃さないナツではなかった。隙ができたコスモスを炎の蹴りが襲う。

 

「させないわ」

 

しかし、フォローもバッチリのカミカ。黄色い紙を飛ばして発光させ、ナツの視界を奪った。

 

「ぐっ!」

 

ナツが眩しさに目を背けた瞬間に、コスモスが飛び退く。

 

 

「助かったわ、カミカ」

 

「さっきのお礼ね」

 

 

「惜しかった…!」

 

「クソッ、悪ぃ」

 

やっぱり攻めきれない。アミクは魔法の反動でジンジンする腕を抑えてどうやって彼女達の防御を崩そうかと思案した。

 

 

その時。

 

 

 

「ネッパー、ウオスケ」

 

カマが控えていた2人に呼びかけると、ネッパー達がようやくか、と前を見据えた。

状況が中々好転しないのを見て業を煮やしたのか、戦力を追加するようだ。

 

「おーら、そろそろオレらもお仕事すっか」

 

「タイタイターイ」

 

動きを見せた敵陣営にミラ達も動いた。

 

「2人出た!こっちも行くわよ!」

 

「やっと出番なの!」

 

「任せろ!」

 

「サポートします!」

 

2人だけの時ならまだしも、相手が援軍を送ろうと言うのならこちらも出るべきだろう。

そう判断して駆けるマーチ達だったが。

 

「大漁~!ターイ!!」

 

ウオスケが謎の力でアミク達もろとも纏めて吹き飛ばしてしまった。

 

「ジュワー!」

 

「にゃっ!?」

 

宙に浮いたマーチを狙ってネッパーが酸を纏った拳を振りかぶってくる。マーチは咄嗟に長い爪でその拳を弾いた。

直後、弾かれた酸が真下の地面に飛び散り、ドロッと溶かしてしまう。

 

「ちょっと!!2対2で戦ってんじゃなかったの!?」

 

「そんな約束した憶えないし」

 

「目的はあくまで罪人の処刑」

 

「ちょっと遊んでみただけだぞ!」

 

まぁ、そりゃあそうだ。彼らにとっては何対何で戦おうが関係のない話なのだ。

 

「くう…」

 

「なんて危ないヤツなの…」

 

「凄まじい威力だ…」

 

「迂闊に近寄れないわ」

 

下手に突撃したら彼等の強力な魔法で消し炭にされかねない。

 

「ヒヒヒッ、来いよ!跡形なく溶かしてやる」

 

ネッパーは邪悪に笑った。

 

一方、未だにプカプカ浮いているアミクとナツ。あのウオスケとか言う変な顔の男の魔法だろうか。

 

「バランス取れ、アミク!」

 

「う、うん!」

 

気を抜けば体勢が崩れそうになり、維持するだけでも一苦労だ。

 

「一瞬とはいえ、私とカミカの美しい連携が乱されたなんて…その罪の重さ、身を持って知ってもらうわ」

 

コスモスはナツを指差した。

 

「特に美しくない貴方」

 

「うるせえ!」

 

美しい美しい、ってやたら美しさに拘る人だな。

 

「どわあっ!?」

 

喚くナツが気に入らなかったのか植物が伸びてナツを地面に叩きつけてしまった。

 

「ナツ!!」

 

そして、アミクのフワフワ浮いている状態も唐突に解かれる。

 

「うきゃ!」

 

そのまま地面にお尻を打ち付けてしまった。そろそろお尻が猿のように真っ赤になりそう。

 

「いたたた…」

 

「人の心配をしている場合じゃないよ」

 

 

カミカが再び紙を舞わせてアミクに向けて放った。警戒して身構えていると、紙はアミクの周囲を取り囲む。

そして、アミクを周りを全て紙で覆ってしまった。どこを見渡しても紙ばかり。

 

良く見ると、その紙には鏡のようにアミクの姿が映し出されていた。何だ?なぜこのような事を、意図が見えない。

 

「…何がしたいのか良く分からないけど、全部吹き飛ばしちゃえば!」

 

アミクは息を吸って音のブレスを吐きだした。

 

「『音竜の咆哮』!!」

 

目論見通り紙は吹き飛ばされて舞い散るが…。

 

「うふふ、美しいわ…」

 

コスモスが不気味な笑みを浮かべて立っていた。

 

ボコッ

 

(…!?下に───)

 

その音に気付いた時には、既に蕾が開いていたところだった。

アミクの真下に大きな花が花弁を広げている。

 

あの紙の覆いは囮。この花をアミクの下に咲かせるためのものだったのだ。

 

「くっ…!」

 

咄嗟に飛び退こうとするが、伸びてきた触手がアミクの腕と足を絡め捕る。

 

「いやっ!!」

 

振り解く時間も与えられずに花弁が閉じてしまった。花に丸呑みにされたのだ。

 

「美しく踊る人形…それは血の咲く骸の花」

 

「アミク――――!!」

 

ナツの悲痛な叫びが響いた。

 

 

「うぷっ、何この粘液みたいなの…」

 

花の中に囚われたアミクはドロドロと自分の体に降り注ぐ粘液と鼻を刺す異臭に不快感を露わにした。

 

「気持ち悪いな…早く脱出しないと」

 

ピリピリ、と痛みを感じるからこの粘液は消化液か何かだろうか。何にしろこの粘液に浸かりたくない。

こんなものさっさと出てやる。

 

「う…く…」

 

しかし魔法を使って花を破壊しようとするも、何故か力が抜けて思うように魔力が練れなかった。身動きもとれない。

 

(そういえば、前にも似たような事があった気がするなぁ…)

 

こんな状況なのに過去の事を思い出して感慨に浸ってしまった。

何かに丸呑みされて消化されそうになったことがあるような。

楽園の塔での事だっけ。

 

あー…こうしていると暖かくてこのままでも良い気がしてきた。何か気持ちいいかも…。

 

 

 

 

なんて、アミクがちょっと危ない快感を感じている間にもナツがアミクを救出しようと駆けだす。

 

「待ってろアミク!今出してやっからな!!」

 

だが、ナツの足に蔓が絡みついて彼は転んでしまった。

 

「うふふふっ、貴方無様ね!」

 

コスモスがそんな彼の姿を嘲笑う。

 

「もう手遅れよ。あの娘は消化されて、処刑完了となるの」

 

コスモスの隣ではアミクを呑み込んだ食虫花───こう言う場合は食人花と言うべきだろうか───が咀嚼するように膨らんだり縮んだりしている。

あのままではアミクが死んでしまう。

 

 

「そんな…!!」

 

ウェンディが口を手で抑えた。

 

「ふざけるななの!アミクを離せなの!!」

 

激昂したマーチが飛び掛かろうとするが、ウオスケが「ターイ!」とマーチを浮かせてしまった。

マーチは「なの!?」と声を上げながらも綺麗に着地する。

 

「お前、ネコなのか人間なのか紛らわしいタイ!」

 

「それを言うなら、お前も騎士なのか漁師なのかはっきりしろなの!」

 

変な言い争いをするマーチ達だったが、コスモスの言葉で意識をそっちに戻した。

 

「でも安心して?消化されたその身は美しき花として、生まれ変わるのだから」

 

「なんだって…!?」

 

ハッピーはアミクの顔をした大量の花が咲いているのを想像したが、シャルルに「やめなさーい!」と掻き消されてしまった。

 

「パーン?どうした、仲間がピンチみたいだぜ?」

 

ウェンディ達も早くアミクを助けなければ、と焦る。

 

「アミクさん!助けないと…!」

 

「私とマーチが行く。リリーとウェンディはアイツをやって」

 

「任された」「了解なの!」「はい!」

 

リリー達がネッパーを抑えている間にミラ達がアミクを救出する手筈だった。だが。

 

「ん…?」

 

コスモスはやけにアミクを呑み込んだ花がモゾモゾ動いている事に気が付く。

消化してるにしては不自然なほどの激しい動き…。

 

と、訝しんでいる間に蕾の表面がボコボコと膨らんだ。

 

「!」

 

ある予感がしてコスモスはその場から離れた。

 

直後、蕾が大きく膨らみ───

 

 

パアアン!!

 

 

破裂した。

 

 

「ぶはぁっ!!」

 

 

中から粘液まみれのアミクが現れる。

 

「アミクさん!」「良かった!」

 

「自力で脱出した…!?」

 

ウェンディとミラが安堵して、コスモスは戦慄する。自分で食人花から脱出するなど初めてだ。

 

アミクは顔を顰めながら立ち上がった。

 

「うへぇ、ベトベト…後でお風呂入らなきゃ」

 

「平気か?」

 

ナツが近くに来て安否を心配してくれる。

 

「存外気持ち良くて危なかったけど、何とか振り切ってきた」

 

「何じゃそりゃ」

 

ナツは知らなくてもいいことだ。

 

「とにかく!もう皆で総攻撃だよ!」

 

「人数的にはこっちの方が有利なの!」

 

「このまま一気に押していくわよ!」

 

ミラがサタンソウルを発動させて悪魔の姿になった。彼女も参戦してくれると心強い。

 

その時、アミクの耳にボコッという不吉な音が聴こえた。

 

思わず振り向くと、ルーシィ達の居る地面から植物が生えているのが視界に映る。

 

「ルーシィ!ユキノ!」

 

「きゃあっ!?」

 

植物がルーシィ達目掛けて伸びてくる。

 

「あーしに任せてなの!『電光クレイドル』!!」

 

すかさずマーチが駆けよって、その長い爪で植物を全部切り裂いてしまった。

 

「あ、ありがとう、マーチ」

 

「助かりました…」

 

「ルーシィ達が狙われることも考慮すべきだったの」

 

マーチは身構えたまま、周りに目を光らせた。ルーシィ達の護衛をするつもりらしい。

 

「よしっ、こっちだって!」

 

アミクは両手に音を纏わせると、1人だけ高みの見物を決め込んでいるカマに向かって行く。

 

「1人だけ楽させないよ!」

 

「…フン、罪人如きが」

 

カマは背中に背負っていた2本の鎌を抜いて構えた。

 

「『音竜の交声曲(カンタータ)』!!」

 

両手に宿った音を叩き付けると、カマは1本の鎌を振るう。

なんと、その一振りで音が切り裂かれてしまった。

 

「おおっ!?音が切られた!?」

 

「罪人にしては中々の力量のようだが、この鎌の前では無力だ。己の罪を悔いて息絶えるが良い」

 

「『お前の罪を数えろ!』ってヤツ?もしかして、ライダーファン?仮面も付けてるし」

 

「…やはり、罪人の言葉は理解できんな」

 

カマはアミクの言葉を理解する事を諦め、もう片方の鎌でアミクを薙ぎ払うように振るった。

 

「うわい!?」

 

慌てて飛び退くアミク。

 

 

そこで、カミカが紫色の紙を取り出した。

 

 

「紙吹雪『紫の舞』!」

 

紫の紙が大量に舞い、アミク達の体に張り付く。

その途端、アミク達は身動きが取れなくなった。

 

「な、何だ!?」

 

「体が、動かない!?」

 

「また紙!?もう、ホント多彩だね!」

 

「状態異常の魔法ですね…!」

 

「ぐぬぬぬ!なの!」

 

攻撃から状態異常まで、選り取り見取りの魔法である。

 

「紫の紙は縛りの神」

 

「これぞ美しき連携──グロウ・フロウ!」

 

コスモスがまたしても大きな花を咲かせる。だが、今までのとは少し違う。何と言っても大きさが段違いなのだ。

その花弁が、獣が顎を開くように開かれる。何とも不気味な花だ。

 

「デカッ!!」

 

「植物というかこれは…」

 

「召喚系の魔法!?」

 

その召喚系の魔法を使うルーシィは自分と似たものを感じたらしい。すぐにそう推測するも、真偽の程は分からない。

 

「食せ、美しく、罪人の命を」

 

その巨大花は中心に開いた穴で思いっきり吸い込み始めた。

物凄い吸引力に引っ張られ、アミク達は宙に浮く。

 

「きゃ、きゃああ!?」

 

「吸い込まれる!?」

 

「ピンクの悪魔みたいなのー!!」

 

ここの植物、とにかく人を食べようとしやがる。

アミクは焦って下の方を見た。そこには岩に掴まって何とか吸い込まれずに済んでいるウェンディが居る。そうだ、彼女だったら…。

 

「ウェ、ウェンディ!お願い!」

 

「はい!体の不自由を解除!!状態異常回復魔法『レーゼ』!!」

 

すぐに察したウェンディが魔法を掛けると、アミク達の身体が光り出した。そして、貼り付いていた紫の紙が消える。

 

「よし!もう動ける!」

 

アミクの『状態異常無効歌(キャロル)』と同じく状態異常を回復する魔法だ。アミクがやると時間が掛かるのでウェンディに頼んで良かった。

 

「でも、あれどうするの!?」

 

体は動けても、植物に吸い込まれているのは変わらない。けど、体が動くのならどうにでもできる!

 

「やることは1つだ!壊す!!」

 

「りょーかい!」

 

「「OK!!」」

 

「なの!」

 

アミク達は吸い込まれながらも魔力を込めた。

そのまま、花がマジかに迫った途端。

 

「『火竜の煌炎』!!」

 

「『音竜の輪舞曲(ロンド)』!!」

 

アミク達が全力で魔法をぶっ放した。リリーとマーチも剣と爪を振るい、植物に押し当てにいく。

 

そして。

 

 

「な、なんか嫌な予感がするんですけど!?」

 

 

ルーシィの悲鳴を最後に、その場が大爆発に包まれた。

 

 




ちょっと遅くなりましたけど、主人公はこの中の誰かと戦います。誰になるかな?

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